田村審議委員記者会見(2025年2月6日)
Full text
§1Question
二点質問させて頂きたいと思います。一点目は本日の金融経済懇談会ではどのような意見交換が行われたのか。二点目は改めまして長野県経済の現状をどのようにみていらっしゃるか、教えて頂ければと思います。
§2Naoki Tamura
まず一つ目の本日の金融経済懇談会ではどのような意見交換が行われたのか、という点についてですが、本日の懇談会では、長野県の行政や金融経済界を代表する方々から、当地の金融経済情勢や、地域経済が直面する課題等について、大変貴重なお話を伺うことができました。また、日本銀行の金融政策運営に関する率直なご意見・ご要望もお伺いし、大変有意義な意見交換ができたと考えています。ご多忙の中、本日ご出席頂いた皆さまには本席をお借りして改めて御礼を申し上げたいと思います。懇談会での話題は多岐にわたったため、本席で全てを網羅することはできませんが、席上で伺った話を私なりに整理して申し上げます。まず、足元の長野経済については、インバウンド需要の強さを指摘する声が多く、宿泊・飲食などサービスに対する需要が増加しているといった話が聞かれました。また、企業においては、人手不足が経営課題になっていると指摘する声が非常に多く、そうした中で、DXへの対応など、先々を見据えた積極的な設備投資が進められているといった声が聞かれました。企業の価格や賃金の設定行動について、すなわち、原材料価格等のコスト上昇分の価格転嫁の動きや賃金引き上げの状況については、前向きな話があった一方で、中小企業においては、なかなか厳しいといった意見も頂きました。
§3Naoki Tamura
そういう中で、ある経済団体では、価格交渉サポートチームを立ち上げ、中小企業に交渉の仕方をサポートしているというようなお話がありました。また、過去 30年間、インフレを経験していなかったので、インフレの中でどういうふうに動くのかというのが難しいというご意見もありました。これらの経営課題や人口減少などの中長期的な課題に対し、行政や経済界、金融界においては、様々なかたちでの支援策を講じておられ、生産性向上や地域活性化などの取り組みを強化しているとのお話を伺いました。日本銀行に対しては、政策金利を引き上げていくことへのご理解は示されつつも、地域経済や中小企業の状況に目配りをした金融政策運営をお願いしたいといったご意見を頂戴しました。逆に、過度な円安は、仕入れ価格などの上昇といった面で望ましくなく、そうした観点を踏まえた金融政策運営を行ってほしいという声もありました。日本銀行としては、本日頂きましたご意見等も踏まえて、中央銀行の立場から、物価安定のもとでの経済の持続的成長を実現していくとともに、金融システムの安定性を確保することを通じて、当地関係者のご努力がより大きな実りへとつながっていくようサポートしてまいりたいと考えております。二つ目のご質問、長野県経済に対する認識はどうでしょうかということですけれども、結論から申し上げると、長野県経済は持ち直しているというふうにとらえております。
§4Naoki Tamura
個人消費をみますと、物価上昇の影響を受けながらも、所得環境の改善を背景に緩やかに増加しています。海外からのインバウンド観光客の入り込みも過去最高水準で推移しており、広い意味での消費を押し上げています。また、企業部門においては、先々の成長を見据えた積極的な設備投資が行われています。先行きも、県内景気の改善が続くとみておりますが、その動きがより力強いものとなっていくためには、所得環境の改善による個人消費の増加、所得と支出の好循環がしっかりとしたものとなっていくかが重要です。この点では、今春の春闘において、高めの賃上げが実現するかが注目点だと考えております。
§5Question
長野県でも製造業・非製造業ともに、設備投資が活発ということで、この辺り利上げになると設備投資にちょっと影響が出るのかなという考えもあると思うのですけど、どのようなお考えかちょっとお伺いさせてください。
§6Naoki Tamura
本日の意見交換会の場でも、金利の引き上げはゆっくりなペースに止めてほしいという意見がある一方で、金利よりも今は円安の方が大変なので、あるいは資材コストの上昇が大変なので、それを抑えてほしいという両方の意見がありました。もちろん企業によってもどっちの方を抑えてほしいかというのは違いますし、あるいは企業だけじゃなく家計も考えると、住宅ローンを借りている家計は、金利は上がらない方がいいだろうし、一方で、住宅ローンのない、借入のない家計であれば、金利が上がった方が預金利息(注 1)が増えて消費により多く回せる、そういうふうに一律どうするのがいいというのは言えない中で、日本全体として金利をどうしていくのかというのを考えなければいけないと。そのときに地域経済がどうなのか、中小企業がどうなのかをしっかりと踏まえて、例えば今日の懇談会でお伺いしたようなご意見、実情を踏まえながら、慎重に考えていきたいというふうに考えております。
§7Question
二点お伺いしたいと思います。まずあの一点目は、政策金利の終着点についてなんですけれども、田村委員は中立金利については最低でも 1%程度ということでお話しになっていますけれども、そのターミナルレートということになると、この 1%を上回っていく可能性というのをみていらっしゃるのでしょうか、というのが一点目。二点目は銀行間の預金獲得競争について伺いたいんですけども、人口減もありまして、地方銀行でも預金の伸び率が年々縮小する一方で、ネット銀行は急速に預金残高を伸ばしています。今後、その東京圏を拠点とする銀行ですとか、ネット銀行に預金が急速にシフトしていく可能性はないでしょうか。あるいは今回の利上げを受けて各行とも普通預金金利を 0.2%に引き上げるということなんですけれども、今後の預金獲得の観点から、例えばその地銀の中で高めの預金金利を提示してくる銀行、こういったところが出てくる可能性については、田村委員はどういうふうにお考えでしょうか。
§8Naoki Tamura
まず一つ目のターミナルレートについて、ターミナルレートの定義も難しいんですけれども、現時点においては、私の見通しは来年度後半に 2%の物価安定目標を実現できるだろうと考えていて、それから更に物価が上がっていくとも考えてないですし、そこから思い切り下がっていくとも考えていない、ということは、中立金利ぐらいにいればいいということだろうと理解しております。もちろんそれはこれから先の物価や経済の情勢次第ですけれども、見通し通りであれば、中立金利に持っていくことが先決で、そこから先はそれからの物価や経済がどうなるか次第だというふうに考えております。現時点で中立金利の水準を特定することは難しいと考えています。中立金利推計のベースとなる自然利子率は、推計手法によって相当なばらつきがあり、かなりの幅を持ってみる必要があると考えています。また、長きにわたってほとんど金利がない世界が続いてきたわが国においては、経済主体が金利にどのように反応するのか、予断を持たずに、注意深くみていく必要があると考えています。従って、実際には政策金利の引き上げを進めていく中で、金利の変化に対して経済・物価がどのように反応するのかを分析しながら、中立金利の水準を探っていくということになると考えています。
§9Naoki Tamura
一方で、経済・物価が見通しに沿って推移するとすれば、2025年度後半には、短期金利は、名目の中立金利まで上昇していることが必要であり、どのようなペースでの調整が適切かということを考えるうえで、一定の水準を念頭においた方が適時、段階的な調整ができると、私としては考えています。例えば中立金利として 1%を念頭に置いた場合と 3%を念頭に置いた場合では、求められるペースが異なってまいります。ただ、私も中立金利が 1%と決め打ちしているわけではありません。2025年度後半 1%という水準を念頭に置きながら、物価安定の目標の実現の確度の高まりに応じて段階的に短期金利を引き上げ、その時々、経済・物価の反応を確認して、適切な短期金利の水準を探っていく必要があると考えています。なお、私が念頭に置く最低 1%程度という水準は、私自身が金融実務家として企業や家計と接してきた感覚や、このところの企業や金融機関の経営者の声などを踏まえて、最低でもこれぐらいではとイメージしている水準ということです。次のご質問が、預金獲得競争的なものについてでしたけれども、基本的には、各金融機関のビジネス判断次第ということだと考えています。預金を考えるときに、金利の設定だけではなくて、例えば決済性預金の利便性がどうなのかとか、あるいはアプリのUI、UX、そういったところの改善に力を入れている金融機関もあります。
§10Naoki Tamura
あるいは、実店舗があることの安心感を訴求するとか、あるいはその実店舗での各種コンサルティングサービスの充実、こういったことで競争していくということもあり得ると思っています。いずれにしても、市場金利が上がってきたことによって、各金融機関の創意工夫の余地が拡大して、お客様サービスの向上につながっていくということを私としては期待しているところです。
§11Question
物価の上振れリスクについて、ちょっとお伺いします。足元の米価格や円安による物価上振れについてですね、総裁はコストプッシュであって、今年の半ばから年末にかけて減退していくんだと、そういう見通しを示されておられますが、田村委員はどのようにお考えでしょうか。足元の物価上振れがインフレ期待とか、賃金などに反映されて、いわゆる物価の基調、これ自体を押し上げていくリスク、これについてどのようにお考えなのか、お教えください。そのうえで、上振れリスクが顕在化した場合にですね、早めに対応する必要性についてはどのようにお考えなのかということをお伺いしたいんですが、例えば極端なことを言えばですね、継続利上げとか、 4月の次の展望レポートでですね、物価が上振れたら、そこでは利上げする必要性が生じるのかとか、それについてどのようにお考えなのでしょうか。
§12Naoki Tamura
一つ目は、物価の上振れリスクについてですけれども、私自身は上振れリスクがだんだん膨らんできているというふうに感じています。その理由は、足元みられている企業の価格転嫁の状況あるいは人手不足を映じた人件費の上昇とその価格転嫁の動き、これらの背景にある企業の積極的な価格設定行動、あるいはそれら全部の背景にある実態的に需要が潜在的な供給を上回っている状況、こういったことを踏まえて私としては上振れリスクが膨らんでいるというふうに考えています。実際に上振れしていった場合には、おっしゃられたような、それが予想物価上昇率に反映されていくといったようなことも起こってくるというふうに考えているところです。次に、上振れたときに早めに対応する必要性ということですけれども、まず利上げのペースについて、例えば半年に一回というような予断を持っているわけではないです。先ほど申し上げた通り、基本的には経済や物価、金融情勢次第で、それをみながらやっていくと。
§13Naoki Tamura
そのときに私としては 1%という水準を念頭に置きながら、物価安定の目標の[実現する確度の]高まりに応じて適時かつ段階的に短期金利を引き上げながら、毎回の決定会合で、その時点で利用可能な各種のデータ、それから、最近とても重要だと思っているのがデータだけじゃなくてヒアリングなどの情報、こういったものをみながら、経済・物価の見通しやリスク、見通しが実現する確度をアップデートし、適切に政策を判断していくということだと考えています。従いまして、ペースは半年に一度と決めているわけではなく、データや情報次第では、より早くなる可能性もあれば、遅くなる可能性もあるというふうに考えているところです。
§14Question
今の利上げの時期についてなんですけど、適切に判断したいということで、現状の環境で言うといつ頃が適当だと考えているのか、ちょっとその辺りの考えを一つお聞かせください。あとそのペースについてなんですけど、25年度後半に少なくとも1%っていうところでいうと、これまでと同様に、やはり半年に一度くらいのペースになってくるのかなと思います。それが今早くなったり遅くなったりするということでしたけれども、今後ですね、次回利上げする際にはいわゆる 0.5%の壁を超えるというところで慎重な判断を求める考えもあるかと思うのですが、その辺りを踏まえてどういうふうに考えていらっしゃいますでしょうか。
§15Naoki Tamura
まず、次の利上げ、今時点で展望して、いつが適当かというのは、正直、予断は持っていませんので、いつ頃になりそうだというのも特段考えておりません。先ほど申し上げたように半年に一回と決めているわけでもないし、それより早くなることもあれば遅くなることもある、というのが今できる最善の回答です。次に、ペースに関連して 0.75%の壁関連のご質問でしたけれども、過去と比べて物価上昇率が全く異なっている状況にありますので、よく言われる0.75%、過去30年経験がない、といったことは特に意識はしておりません。
§16Question
二点ございますけど、一点目がこちら先ほどから質問が出ている 25年度後半には少なくとも 1%程度まで短期金利を引き上げるというところなんですが、24年9月の講演では、26年度[まで]の見通し期間後半にかけてという表現をされてまして、これはその田村さんの中では前倒したという理解でとらえてよろしいでしょうか。前倒したとしたら、その理由は何でしょうかというのが一点目です。二点目は物価安定目標の実現と判断できる状況ということですけれども、田村さんにとってはどういう状態が物価安定目標を実現したと判断できるものになりますでしょうか。ちょっと具体的な要素を教えて頂きたいです。
§17Naoki Tamura
昨年9月の講演では、見通し期間の後半、具体的に言うと 25年度後半から 26年度にかけてというふうに申し上げました。それを今回 25年度後半というふうに申し上げているのが、もともとこれだけの期間があったものを、こういうふうに変えていますので、前倒しというわけでもないですけれども、もう少し私の中で絞れてきたというところかなと感じております。その理由ということですけれども、基本的には見通しが実現していく確度が高まってきたと判断しているものです。わが国経済が緩やかに回復する中で、賃金面では人手不足感が高まるもと、本年の春季労使交渉において、昨年に続き、しっかりとした賃上げを行うといった声が聞こえてきます。物価面では、消費者物価の前年比が、2024年度が 2%台後半となった後、2025年度も 2%台半ばとなる見通しです。更に、足元みられている企業の価格転嫁の状況や人手不足を映じた人件費の上昇とその価格転嫁の動き、これらの背景にある企業の積極的な価格設定行動や、実態的に需要が潜在的な供給を上回っている状況などを踏まえますと、私としては上振れリスクが膨らんできたというふうに考えておりまして、そういう意味で、先ほど申し上げたように、この期間の中で絞れてきたんじゃないかというふうに考えております。
§18Naoki Tamura
次の質問の物価安定目標の実現を何で判断するのか、この指標をみればもう実現できたということを言い切るような指標は、特段考えておりません。様々な指標もそうですし、あるいは企業のヒアリングの結果などを踏まえて判断をしていきたいと思っています。ただ、一つあるなと思っているのが、2023年度、2024年度と強めの賃上げが行われて、25年春闘(注 2)、それが中小企業まで広がって日本全体の賃上げがどういうふうになっているのかというのが 2025年度の後半になると確認できるというのは、一つの大きな材料かなというふうに考えております。
§19Question
今回の講演の中で多角的レビューのことにも触れられていると思うのですが、その中で、日銀による国債の大量購入が、その財政規律の弛緩につながったとの指摘もあって、市場の信認を確保していくことが重要であると考えますって指摘されていますけれども、田村さん自身は財政の弛緩につながったっていうふうにみられているのかという点と。あともう一つ、日銀はあまり財政政策に関しては言及しない傾向にありますけれども、その言及の仕方っていうのはどうあるべきか、その辺のご所感をちょっと頂けたらと思います。
§20Naoki Tamura
日本銀行による国債の買入れは、あくまでも 2%の物価安定の目標を実現するという金融政策目的で実施しているもので、政府による財政資金の調達支援を目的としたものではありません。もとより財政については政府、国会において適切に運営されるべきものと理解しており、2013年に政府・日本銀行が公表した共同声明においても、政府は持続可能な財政構造を確立するための取り組みを着実に推進するとしています。そのうえで一般論として申し上げれば、中長期的な財政健全化について、市場の信認をしっかりと確保することは重要であると考えています。ただし、ご質問にあった通り、多角的レビューの過程で行った意見交換等では、日本銀行による国債の大量購入が、結果として財政規律の弛緩につながったとの指摘もありました。加えて、こうした金融政策と財政政策の関係を議論する際には、日本銀行による買入れなしに、国債が円滑に消化され得たのかどうか、こういった論点もあるのかと思っています。財政規律の状況について、私の立場で現状評価は控えさせて頂きたいと思いますが、現時点において、市場の信認は得られているというふうにとらえておりまして、従って今後も中長期的な財政健全化について、市場の信認をしっかりと確保することがきわめて重要であるというふうに考えているところです。
§21Naoki Tamura
もう一つの言及の仕方というのが答え方も難しいんですけれども、やっぱり日本銀行法で定められている日本銀行の目的の範囲内で、例えば市場の安定、そういったところはしっかりとみていくべきだと思っております。
§22Question
昨年9月の岡山講演の際にですね、委員の見通しと市場の予測は、政策金利引き上げペースにおいて少し乖離があるというふうにご指摘されていました。そこから少しずつ市場の織込みも進んでいるかたちになっているんですけど、現在の市場の見方との乖離についてはどのように考えているか教えてください。
§23Naoki Tamura
先ほど申し上げた通り、私も中立金利は最低 1%というふうなことを申し上げておりますけれども、それにしても 1%を決め打ちしているわけではないので、私自身もそれよりも低いかもしれないけど、もっと上かもしれないという立場です。そういう中で、市場の見方との乖離という点について、昨年9月の時点だと、私の見通しに幅があるにしても、乖離があるという状況だったのに対して、その後、かなりその差は縮まってきているというふうに理解をしています。(注1)会見では「預金金利」と発言しましたが、正しくは「預金利息」です。(注2)会見では「25年度の春闘」と発言しましたが、正しくは「25年春闘」です。以上