小枝審議委員就任記者会見(2025年3月26日)
Full text
§1Question
まず審議委員就任に対する今の率直な気持ちと抱負について。その関連で、日本銀行は 2024年3月に約 8年続いたマイナス金利政策を解除し、同年7月と今年1月に政策金利引き上げを行うなど、金融政策正常化の局面にあるかと思いますが、今後の政策判断にどのように臨むお考えでしょうか。この辺りを併せてお聞かせください。
§2Junko Koeda
本日付けで日本銀行の審議委員を拝命致しました、小枝と申します。どうぞよろしくお願い致します。私は大学と大学院で経済学を勉強した後、ワシントンDCにございます国際通貨基金、IMFで働いてから、金融ファイナンス、マクロ経済学の分野で教育研究活動に励んでまいりました。今回この審議委員のお話を頂いたときに、個人的に、まず初めに再確認しましたのが、日本銀行の使命、マンデートです。こちらは皆さまもご承知なところだと思いますけれども、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する、という文言がございます。この使命を果たすために、日本銀行は金融政策ツールを使います。ですので、金融に関する知識ですとか経験は大事であることは言うまでもありません。私は研究者として、長年金利のモデルに取り組んでまいりました、あるいは金融のデータを使って実証分析なども行ってまいりましたので、そういったノウハウを、必要に応じて適宜生かしながら任務に当たっていきたいと考えております。そして、先ほどの使命の後半のところですけれども、国民経済の健全な発展に資するというところは、やはりマクロ経済学的な均衡と密接な関係にあるのかなと考えております。金融活動だけでなく様々な経済活動があって、マクロ経済学的均衡が決まっていく。
§3Junko Koeda
中立金利ですとか、あるいは基調的なインフレですとか、そういった金融政策を行ううえで大切な変数ですけれども、直接はみえない変数は、マクロ経済学的均衡と密接な関係にあると思います。こういった概念や変数に対して、いろいろ理解が深まってきている、分析が積み上がってきていると思います。ですので、金融に加えて、マクロ経済学的視点を大切にして任務に当たっていきたいと考えております。日本銀行の使命には決済システムが円滑に行われることを通じて、金融システムの安定に貢献するという使命もございます。こちらに関しても同様に重要な使命だと考えております。様々なデータをみて、分析もみさせて頂き、分析の結果だけでなくその過程にも理解をして、そのうえで執行部の方々の説明もよく伺って、他の委員の方たちとも議論して、誠心誠意任務に努めていきたいと考えております。どうぞよろしくお願い致します。
§4Question
二点あるんですけれども、一点目は最近のインフレの背景についてどのように評価されているかを伺います。食品価格の上昇が今、一時的なコストプッシュと呼べるものなのか、あるいは賃金の上昇も伴う中で予想インフレに影響を及ぼし得る、つまり日銀が政策金利の利上げによって対応しなければならないようなインフレに発展するのか重要な岐路にあると思います。そうした政策金利の利上げをすべき局面が近づいているのかという観点から、最近のインフレについてのご評価を伺いたいというのが一点目です。あと二点目、中立金利についての考え方ですが、日銀は中立金利について様々な推計を既に出しておりますが、こちらについてご自身の知見を生かして更なる工夫の余地があるのか、あるとすればどのようなもので、また中立金利という概念について政策運営やコミュニケーション上、どのように位置付けるべきかお考えをお聞かせください。
§5Junko Koeda
一つ目のご質問ですけれども、インフレの最近の背景ということだったと思いますが、確かに賃金と物価の好循環というのはステップが確認されてきていると思います。一方で、足元をみると、基調インフレよりも高いところで、足元のインフレは推移していると思います。ですので、私、本日就任したばかりということもございますし、次回の[金融]政策決定会合、4月末5月初めに向けて、いろいろデータをみていきたいと考えております。二番目の中立金利のところですけれども、やはり自然利子率の推計には幅があると思います。最近の日銀で出されている資料をみても、統計ベースでみたものとか、サーベイベースでみたもの、あるいはモデルを使って推計したものとか様々な取り組みがされていて、こちらも先ほど申し上げたように金融政策を行う、金融政策スタンスをみるうえでも、とても大切な変数だと思うんですけれども、直接は観察できない変数ですので、この辺に関しては推計の結果だけでなく、どういうデータの特徴があるのかとかモデルの特徴あるいは仮定についても、目を向けていろいろ議論していきたいと考えております。
§6Question
今の質問にもちょっと重なってしまうんですけれども、日本銀行は先行きですね、経済・物価情勢の見通しが想定通り進んでいくのであれば、段階的に政策金利を引き上げる方針を示しております。今の段階、これからデータもみられると思うんですけれども、小枝委員もこの考え方というのは基本的には同じかどうか伺わせてください。あともう一つですね、今ほどの中立金利もそうですし、冒頭、基調的な物価というのも直接観察はできないということだったと思うんですけれども、これから金融経済懇談会等ですね、情報発信されるお立場として、国会でもいろいろ話題になっていますが、なかなか伝えることが難しい基調的な物価、今の段階でどういうふうにお伝えするか、あと分かりやすく伝えるためにどう工夫していくかということをお聞かせください。
§7Junko Koeda
まず先行きの話ですけれども、やはり現在、通商政策も含めて不確実性が高いので、しっかりそこは次の[金融]政策決定会合に向けてみていきたいと考えております。そうですね、基調的なインフレ、どう伝えていけばいいか、原点にやっぱりいつも戻ることは大切だと思っていて、先ほど申し上げた、日本銀行の使命は 2%の安定的に持続的なインフレを実現していくということですので、基調的なインフレはそこに向かっているという、様々な指標をみてもその方向性だと思いますので、そういったことは伝えていけるのかなと思っております。
§8Question
二点ありまして、一点目が国債買入れの減額計画の見直しについてです。 6月に見直しが予定されてますけれども、市場でより強い減額を見込む声がある一方で、長期金利の上昇リスクを懸念する声もありますが、委員の所見をお聞かせください。二点目が先ほど冒頭におっしゃっていたマクロ経済学的な均衡についてなんですけれども、少し具体的に、例えばコロナ禍で大きく経済構造が変化する中で、均衡点の変化があるのか、どういったデータをより重視して今の経済状況というのを判断していきたいとお考えなのかをお聞かせ頂ければと思います。
§9Junko Koeda
まず最初の国債買入れの話ですけれども、 6月に中間的な評価がされると伺っております。私自身も、この辺、データを使って研究者として分析してきたところでございますが、やはり国債の市場というのは、第三者からだと相対取引とか直接はみえないところがございますので、やはり市場関係者、あるいは執行部の報告などをしっかり聞いたうえで、分析もみさせて頂き、判断していくところなのかなと思っております。均衡の話ですけれども、先ほど推計の不確実性の大きなところは、一般論ですけれども、自然利子率のところから来ていると、自然利子率の大きなところは潜在成長率、一般論として、そういったことが学問的に言えると思いますが、様々な要因によってそういった均衡のトレンドも含めて変わっていくものですので、そういったいくつかのアプローチを使いながら、理解を深めていくという努力を引き続きしていくしかないのかなと考えております。
§10Question
ここまでの日銀の政策についての評価をお伺いしたいと思います。11年にわたった異次元緩和の転換が 24年3月にありまして、7月、今年1月と利上げを進めてきました。そのペースあるいはその判断ですね、その判断について適切だとお考えか、あるいはもっと早く動くこともあり得たのか、それとももっとゆっくりと利上げを進めるべきなのか、その辺りここまでの日銀の政策についての評価を聞かせてください。
§11Junko Koeda
ここまでは植田総裁のもとでの金融政策枠組みの変化だと思いますけれども、先ほどの使命に向けて取り組まれてきて、金利のある世界になってから、そこまで年月が経ってない中、まだまだ日本経済がどう反応していくかっていうのをしっかり見届けていく必要があるのかなと思っておりますので、なかなか金融政策の効果ってすぐ出る効果もありますけど、ラグもありますので、しっかりそこはみていって、今後判断していくことになるのかなと思っております。
§12Question
率直に一問伺わせてください。現状の日本経済のですね、立ち位置というか、いろいろ景気悪い、いいとかですね、その辺ざっくりとしたものもあるんですが、どのように日本経済をみているのか、その現況の判断をお聞かせください。
§13Junko Koeda
現状ということですけれども、やはり先ほどの少し繰り返しになるんですけれども、世界的に不確実性が高い中、通商政策も含めて、その中、国内をみると、賃金と物価の好循環というステップはみられている一方で、インフレに関しては基調インフレよりも高い位置で推移しているといういくつかのことがございまして、私としては次の[金融]政策決定会合までもっといろいろ直近のデータも含めてみさせて頂き、今の立ち位置というのを判断していくのかなと考えております。
§14Question
二点伺います。一点目が先ほどもおっしゃって頂いたかもしれないですけど、2%を超すインフレが暫く続いているんですけれども、現状の政策金利の水準に対するご認識をマクロ経済の均衡という観点も踏まえて教えて頂ければと思います。あともう一点が、少子高齢化ですとか社会構造がちょっとタイムスパン長いかもしれないですけど、社会構造が変化する中で、物価ですとか賃金に与える影響、例えば過去のインフレ局面との違いですとか、現状ご見解があるようでしたら教えて頂ければと思います。
§15Junko Koeda
ご承知の通り、実質金利はきわめて低いのが今の状況だと思います。社会構造ですよね。やはりインフレに対する期待形成というのは適合的だという性質も日本では多々みられていることだと思いますけれども、実際インフレになって期待インフレの形成がどういうふうに変わっていくのか、企業や賃金の価格形成の決定がどうなっていくのかというのは、これからもしっかりとみていかなければいけないところだと思います。社会構造の変化に応じてしっかりみていかなければいけないところだと思っておりますので、私もこれからそういったことにもよくデータやエビデンス、分析をみさせて頂き、いろいろと議論をさせて頂き、判断していきたいと考えております。
§16Question
今、実質金利はきわめて低い状況にあるというふうにご発言されましたけれども、高水準の物価上昇が続くもとでビハインド・ザ・カーブに陥るリスクというものが今どの程度ちょっと警戒しなきゃいけない状況なのか、それともまだゆっくりとですね、経済の状況をみながら政策調整を進めていけるというふうにお考えなのか、そちらについてご見解をお願いします。
§17Junko Koeda
先ほどの使命に立ち返りますと、やはり 2%のインフレを安定的・持続的にというところは、基調的なインフレというのをみていかなければいけない面も多々あると思います。一般論として。その基調のインフレは緩やかに上がっていってるという現状があると思います。もちろん一方で、足元のインフレは基調よりも高い、インフレに対する認識ですとか、マインドに関することについてもみていかなければいけないと思いますので、この辺は本当に私もしっかりこれから本日就任したばかりですのでみていって、次の[金融]政策決定会合でしっかり議論させて頂きたいと考えております。
§18Question
先ほど世界的な不確実性という言葉を何回かおっしゃっていましたけれども、今現在どんなことが日本経済に対して懸念な点があるというふうにお考えでしょうか。これが一点目です。あと二点目なんですけれども、最近長期金利の上昇がみられますが、この上昇というのをどのように評価していらっしゃるか、見解をお聞かせ頂ければと思います。
§19Junko Koeda
世界的不確実性で通商政策というのは足元で大きな不確実性の一つだと思いますけれども、リスクというふうにみたときに、どのリスクにどれだけウエイトを置いていくのかっていう判断というのは、私ももう少し広い視野を持っていろいろデータや情報をみさせて頂いて判断していきたいと考えております。長期金利に関しては、足元の水準ですとか日々の動きに関してはコメントは差し控えたいと思っております。ただ、一般論として長期金利というのは要因分解ができる、短期金利の将来の予測の平均値と、その他のリスク・プレミアムあるいはタームプレミアムと言われる要因に分けることができて、各要因もどういった要因によってどれだけ動いてるかっていう分析は可能だと思いますので、そういったところも今後関心を持ってみていきたいとは思っております。
§20Question
委員はこれまで学者、研究者として、金融政策を中心にいろいろなご見解を論文等の場で示されてきたと思います。今後、市場関係者は委員の出方を占う際に、そういった過去のそんな研究成果を元に予想される方も多いと思うんですが、一方で学者、研究者と政策当局者では直面する現実、みえる光景等には違いがあって、場合によっては研究者としての時代とは違う見解を今後表明されることがあっても一定の合理性があると思うんですが、とすると今まで委員が表明されてきたご見解は、市場参加者としてどういうものとして受け止め、どういうふうに位置付けておけばいいのか、その辺りについて何かご見解を教えて頂けますでしょうか。
§21Junko Koeda
もしよろしければ、どの見解について考えられているか。
§22Question
例えば最近だと、多角的レビューとかのコメントを寄せられてた、私も委員の過去の研究成果全てを読んでるわけではないので、そこら辺の詳細については今、何か申し述べられないなと、誠に失礼で恐縮ですけども、市場参加者によってはより詳しくいろいろ読んでおられる方もおられると思うので、過去のそういった研究成果というものを、今後の委員の出方を占う材料としてどのように位置付ければいいのかということを、ちょっと教えて頂ければと思います。
§23Junko Koeda
そうですね、多角的レビューでは私、ワークショップに参加させて頂いて、ディスカッサントとしてコメントさせて頂きました。非伝統的金融政策の効果、マクロ経済学的効果などを分析した報告に主にコメントしたわけですけれども、私も多角的レビューは論文も含めて今、よく拝読させて頂いているところで、個人的にも研究を進めてきた分野ではあって、ただ、長期的に行われた大規模な政策でしたので、非伝統的金融政策の功罪については、なかなか、今結論というわけではないのかなと考えております。あるいは過去、私が研究をした論文は、経済が金利の下限にあるときに、そこから離脱するという意味での利上げの効果について行ったものがいくつかあるんですけれども、そこのときに使ったモデルというのは必ずしもプラスの金利になって、更に金利を上げるっていったときの効果を測るモデルではなくて、残念ながら同じモデルは使えないかなと思っております。ですので、今の経済状態をよくみたうえでいろいろと判断していく必要があると考えております。
§24Question
二点お伺いしたいんですけれども、異次元の緩和政策の結果として日銀のバランスシートは 2013年のスタート時から比べると 4.5 倍で、国債の保有残高も 6.4 倍と膨張したわけなんですけれども、大きく膨張したバランスシート、あるいは日銀の国債保有がインフレに及ぼす影響について、委員はどのようにご覧になってますでしょうか。そのことを踏まえて、中間評価のお話もありますが、日銀としては国債保有残高っていうのをどの程度まで縮小していくのが望ましいとお考えでしょうか。
§25Junko Koeda
最初、二番目の質問からですけれども、どの程度縮小かっていう今後の金融政策については、やはり今日着任したばかりですので、もう少し私が今までみてなかった情報やエビデンスもみながら判断していきたいと考えております。執行部の方たちともよく議論させて頂き、委員の方たちともよく議論させて頂き、判断していきたいと考えております。バランスシートのところも同様に、もう少し次の [金融]政策決定会合まで時間もございますし、いろいろみさせて頂いてから、詳細な数字に関しては考えていきたいなと思っております。
§26Question
先ほどからのお話でこれからデータをみて分析して議論していきたいというお話をされておりますけども、特にどういったデータを重視されるか、どういったデータを特にみていきたいかというものがありましたら教えてください。
§27Junko Koeda
これから何に注目してみていきたいかということは、ちょっとあまり申し上げない方がいいかなと思うんですけれども、一般論として先ほどから出ていた大きな基調のインフレで推計の幅があるですとか、そういったモデルやデータのなんでそういう幅が出ているのかということについては、モデルの特質だとか前提だとか、そういったことをよくみる余地もあるのかと思っておりますし、私もそういうことに関心がございますので、一つみていく変数だとは思います。今まで私は研究者として、特定のトピックにフォーカスして、それをすごく深掘りするということを学問としてやってきたんですけれども、本日から日本銀行の審議委員として任務が始まりますので、今までよりも広い視野を持って、そして自分ができる分析は限られているので、周りのいろいろな方がどういった分析を出されているのかということにもしっかりと目を向けて、学んでいく姿勢が大事だと考えております。
§28Question
先ほどのご発言で、金利のある世界になってからまだ間もないので経済の反応を見届ける必要があるということをおっしゃられましたけれど、こういったことっていうのは、そんなに利上げを急いでいく、やっていくような必要性は感じていらっしゃらないということでいいのかどうか、それをまず一点。もう一点が、今の審議委員のシステムになってから初の二人目の女性の審議委員ということになります。その点について何かご所見あればお願い致します。
§29Junko Koeda
二つ目のところからまず申し上げたいと思います。初の女性二人ということで、取り上げられていることも多いかと思います。多様なバックグラウンドを持った人たちが意思決定の場に直接関わっていくということは非常に望ましいことだと、女性に限らずですね、そう思っております。私個人としても、オープンにいろいろ議論させて頂くことで貢献できる面があればいいなと思っております。金利のある世界、そうですね、金利のある世界で経済がどう反応していくかっていうことをしっかり見届けるということは、必ずしも利上げを急がないという意味でもないし、利上げを急ぐという意味でもないと申し上げたいと思います。次の決定会合までまだ時間がございますので、しっかりとそこは誠心誠意任務に励んでいきたいと思っております。以上