総裁記者会見(2025年10月3日)
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§1Question
二点、お伺いできればと思います。一点目がですね、本日の午前中の懇談会で寄せられた意見、要望、様々あったかと思うんですけれど、それに対する所感をお伺いできればと思います。併せてですね、関西経済の景気の現状と先行きに対して、どういうお考えをお持ちなのかという、この二点をお伺いできればと思います。
§2Kazuo Ueda
まず一点目ですけれども、今日は関西経済を代表する方々から、経済・金融の現状と課題、あるいは私どもの政策運営に関する、ご意見、ご要望を数多く頂き、有意義な意見交換ができたと思っております。この場をお借りして改めて御礼申し上げます。いくつか席上で伺ったお話についての印象を申し上げますと、まず経済動向ですが、全体としてみますと、企業業績や設備投資が堅調さを維持するもとで、経済は緩やかに回復しているという見方を伺うことができたと思います。特に、これまでも堅調なインバウンド需要に加えて、大阪・関西万博が活況を呈すもとで、関西圏全体として賑わいをみせているといったお話が多く聞かれました。また、先行きについても、「うめきた」をはじめとした各種の都市開発など、更なる成長に向けた力強さ、躍動感を感じたところです。アメリカの通商政策の影響ですが、日米間で一定の合意が得られたことを前向きにとらえる声が聞かれた一方で、依然として不確実性が高い状態が続いていて、今後の動向に注意していく必要があるというご指摘も多くの方から伺いました。私どもとしても、関西圏の産業構造を踏まえつつ、業種や企業規模毎に様々な影響の経路があり得ることに注意しながら、引き続き丁寧に点検していきたいと考えています。また、雇用と所得面についても、経済界の皆さまのご尽力のもと、これまで積極的な賃上げが行われてきたことを伺いました。
§3Kazuo Ueda
それと併せて、人件費の上昇や労働力不足の深刻化について懸念する声や、継続的な賃上げの必要性、それに向けた付加価値向上の重要性などを指摘する声も多く聞かれました。皆さまのお話を通じて、改めて当地においても、業種や企業規模などにより景況感のばらつきが大きいこと、人手不足の深刻化や生産性の向上などがますます喫緊の課題となっていることを感じた次第です。今後ともこうした諸課題を意識しながら、丹念にフォローしていきたいと思っております。このほかですが、企業金融周りで、安定した金融環境への期待と、中小企業に対するイノベーション創出や投資促進、スタートアップ支援の必要性、円滑な決済システム構築の重要性などについてお話を頂きました。いずれも大変重要なご指摘でありますので、日本銀行としては引き続き適切な政策・業務運営を通じて、それらに貢献していく考えを申し上げた次第です。続いて、関西経済の景気の現状と先行きについてです。若干ダブりますが、関西経済の現状については、一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかに回復していると判断しています。輸出や生産は、一部に米国の関税引き上げに伴う駆け込みとその反動の動きがみられつつも、全体としてみれば、横ばい圏内の動きとなっています。通商政策を巡る不確実[性]が引き続き高い状況にありますが、設備投資は堅調さを維持しています。
§4Kazuo Ueda
省力化投資のほか、 AI、データセンター関連など成長分野での能力増強投資や、「うめきた」をはじめとする都市再開発やインフラ整備も進んでいます。個人消費は、物価上昇の影響などから弱めの動きもみられますが、インバウンドの増加や万博の効果もあって、全体としてみれば堅調に推移しています。先行きについては、堅調なインバウンド需要や設備投資などを背景に、緩やかな回復を続けるとみています。もっとも、各国の通商政策等を巡る不確実性は引き続き高いほか、関西経済との結びつきが強い中国・アジア経済の動向も含め、注意深くみていく必要があると考えています。
§5Question
二点お願いします。一点目が不確実性のことで、4月には不確実性はきわめて高い、7月の関税日米合意後も不確実性は引き続き高いと発言されていましたが、今日はそういった発言がなかったようにも思いましたが、今も不確実性は高い状況なのでしょうか、というのが一点目です。二点目がですね、チェックポイントの一つの米国経済の動向ですが、その雇用情勢や遅れている関税の転嫁、金融政策の行方など、この 1 か月で見通せるとも思えないのですが、この引き続き注視や当面は点検というのは、どこまで時間をかけるのでしょうか。少なくとも数か月はかかる認識なのでしょうか。考え方も含めて教えてください。
§6Kazuo Ueda
不確実性、特に通商政策周りの不確実性の推移のようなものですけれども、 4月の時点ですと、関税の水準で言うと、どこまで行ってしまうか分からないというような種類の不確実性まであったように思います。それが7月あるいは8月、9月の動きの中で、日本周りであれば、例えば、概ね 15%ということで、おそらく当面は決着したということですので、そこは不確実性は低下したということだと思います。ただし、例えば 15%の関税率、他の国には、大体似たような水準あるいは少し違った水準で、関税率が大体決まっているわけですが、これがアメリカ経済、そして世界経済にどういう影響を及ぼしていくのか、その中で日本経済がどういう影響を受けるのか、この点に関する不確実性は依然としてかなり大きなものが残っているというふうに判断しています。そのうえで、こうした不確実性のもとでどれくらい情報を見極めることが、例えば、ご質問はおそらく次の政策判断に必要なのか、ということだと思うのですけれども、それは申し上げるまでもなく、全てのハードデータがどういうふうに出るかということを全て把握してからということですと、すごい先になるということは明らかですので、私どもの政策判断に必要な程度の見極めができるところまでということになるかと思います。
§7Kazuo Ueda
その判断材料としては、ハードデータもありますし、ヒアリング情報もありますし、様々な人のマクロ経済に対する見方のヒアリングもあります、ということになるかと思います。
§8Question
賃金動向についての質問です。賃金動向についても、このチェックポイントに挙げられているところですけれども、今日の講演内容をみますと、先行き、海外経済や通商政策等を巡る不透明感が高い状況が続くような場合には、物価上昇を賃金に反映させる動きは弱まる可能性があるというようなことを指摘されています。今日の話し合いも踏まえまして、現時点で今後の賃金動向どうなっていくとご覧になっているか、あるいは、この差し当たり 10月会合までにそうした判断が、来春闘含めですね、なかなか難しいのかなというふうにも思うんですけれども、どのような判断ができるのか、そういったことについて教えてください。
§9Kazuo Ueda
今年の賃金動向について、ここのところ、ここ数週間とか 1、2 か月で強いネガティブな情報が入ってきたということではありません。そのうえで来年の賃金動向についてどうかということになりますと、講演でも申し上げたように、例えばアメリカ経済が今後どういう経路を辿るか、それが日本経済、日本企業の収益にどういう影響を与えるかということにも大きく依存しますので、そこについての情報はまだ少し不足しているというふうにみております。
§10Question
今年の秋も食料品などの値上げの動きが広がっています。物価が上振れするリスクについて総裁はどのようにお考えでしょうか。それと併せて、ビハインド・ザ・カーブに陥るリスクについて、以前はそれほど大きくないとおっしゃっていましたが、その考えに今も変わりはないのか、その辺りについてお願いします。
§11Kazuo Ueda
食料品価格については、私どもの中心的な見通しとしましては、そもそもここまでの上昇が、一時的な供給要因によるものであるというふうにみていますので、既に少し下がり始めた動きが、今後も基本的には継続するというふうにみております。ただし、インフレ率が下がっていくペースについては、ある程度不確実性があるということでございます。そのうえで、こうした食料品価格のインフレが減速していくペースが、まず基調的な見通しとしては減速していって、ちょっと表現があれですが、基調的なインフレには大きな影響を与えないという見通しでございます。ただし、リスクとして減速のペースが想定よりも緩やかになるときに、何らかのメカニズムを通じて基調的インフレ率を少し押し上げるという方向に働くケースも排除できないですし、逆に、いったんは長続きするということは前提になりますが、それが消費マインドに下押し圧力を加えて、需要サイドから消費が弱含み、それが基調を少し弱めてしまうというリスクもあるかもしれません。
§12Kazuo Ueda
その中で、ビハインド・ザ・カーブになる可能性は、ということですが、これは今申し上げたケースの中では、食料品価格のディスインフレのペースが遅くて、それが何らかの理由で基調、あるいはインフレ期待、中長期のインフレ期待を押し上げるという効果を持つというケースですけれども、今のところはその可能性は高いとはみていませんが、もしそういうふうになれば注意を要する現象ですので、引き続きよくデータを見ていきたい、あるいは分析をしていきたい、というふうに思っております。
§13Question
米国の経済状況についてお尋ねしますけれども、現在米国ではですね、一部の政府機関が閉鎖されておりまして、今日予定されております、9月の雇用統計の発表も延期されるということが確実な状況になっています。こうした現在の米国の情勢がですね、日銀の利上げ時期の判断を遅らせてしまうというようなリスクについてはどのようにお考えでしょうか。
§14Kazuo Ueda
特に米国経済のデータが公表される時期が遅れてしまうということについては、なかなか深刻な問題だなというふうに思っています。私どもの対応としては、なるべく早く再開されるということを願うとともに、周辺のデータ、例えば雇用統計ですと、雇用統計そのものでなくても同種のデータがいくつかございますので、そこからある程度類推するという作業とか、あるいは今月後半にワシントンで [世銀・]IMF[年次]総会が開かれますが、そういう場所で、現地の政策担当者あるいは金融機関の方々とお会いして、生の情報を手に入れ、それも追加的な材料として判断していくというような作業を続けていきたいというふうに思っております。
§15Question
これまでのところ、9月の決定会合で2 人の審議委員が利上げを提案して、その後、野口委員(注)も利上げのタイミングについてかつてなく近づいているのではと発言されました。主な意見でも、物価の上振れリスクについての指摘が多かったんですが、今日の総裁の講演を拝読すると、やはり米経済のリスクおよび関税が日本経済にもたらすリスクと、全体的に経済の下振れリスクをより重点を置いて説明されているように感じました。ここから経済の下振れリスクと、物価が上振れるリスク、どちらが政策判断上、今大きいとご覧になってるのか、やはり経済を慎重に見極めてから利上げしないと、早過ぎる利上げのコストが大きいと、そちらをより重視されているのか、そのバランスについて教えてください。
§16Kazuo Ueda
バランスと申しますか、重要そうなリスクを様々にみたうえで、最終的には物価の見通しにそれらが影響するかどうか、そしてその見通しの周りのリスクがどういうものであるか、という判断につなげるということだと思います。経済のリスクについて、余計なことかもしれませんけれども、アメリカ経済をみますと、ここまでのデータを見る限り、労働市場以外は割と堅調に推移しているということかと思います。従って、いろんな機関の標準的な見通しをアメリカ経済が上振れて着地する、期間は難しいですけれども、というリスクもゼロではないかと思います。そういうことも含めて様々なリスクを点検していきたいと思います。
§17Question
短観についてちょっとお伺いしたいんですけれども、今回の短観の結果というのは、これまで少しずつ確度というのは高まっているという日銀の見方だったと思うんですけれど、今回の短観の結果というのはその見方を後押しする要因の一つとなったのかどうか。まずそこが一点。あと、先ほどのフォローアップなのですけれども、このアメリカの政府機関の閉鎖によってデータが出てこない、その一方でいろんな努力をされて情報を収集されるということですが、そういう意味では、データが出ないとしても政策判断というのはまだできる可能性はあるというふうに考えていらっしゃる、ということでよろしいんでしょうか。
§18Kazuo Ueda
まず短観の評価ですけれども、午前中も申し上げましたように、企業の業況判断とか設備投資計画等をみますと、一言で言えば良好ないし堅調であるということですので、足元までの経済についての企業の判断という点で言うと、われわれの見通し通り、あるいは見通しが実現する確度が高まっている、ということだとは思いますけれども、ここから先をみた場合に、先ほどのアメリカの関税政策の影響が分からないというところについて、むしろ関税政策の予想された影響は顕在化していない部分が非常に多いというところについて、今回の短観が強い何かインフォメーションを持っているかというと、必ずしもそうではないです。従って、先行きに関する重要な不透明性、不確実性は残るというふうに判断しております。それから、アメリカの政府シャットダウンについて、ご質問の趣旨は、10月の例えば決定会合までずっと閉鎖されたままだった場合に、それでも何か判断ができるかということでしょうか。それは、その状況に直面してみないと分かりませんけれども、いずれにせよ、先ほど申し上げたような様々な方法で、情報を収集したうえで判断するということにならざるを得ないと思います。
§19Question
日銀が次回利上げした場合、政策金利を0.75%にすると、政策金利としては30年ぶりの高さになりますが、総裁としては今の日本経済にとってこの 0.75[%]というのはやはり非常に大きな数字でその利上げ判断というのは、より慎重に行っていかなければならないとお考えなのでしょうか。それとも実質金利の低さから考えると、0.75[%]に利上げしても、いわゆる緩和的な金融環境は変わらないので、この辺の水準感はあまり気になさらないんでしょうか。
§20Kazuo Ueda
これまで現状はある程度の緩和環境にあるということを申し上げてきましたし、一方で、そのうえで中立金利の水準についてはかなりの不確定性があるということも申し上げてきました。もしも近い将来どこかの時点で 0.75%に金利が上がる、金利を上げるという判断をするということに至った場合には、そういうことに至る根拠となった経済・物価の見通しというものが当然あるはずで、それとともに、こうした中立金利に対する見方と、今と大差ないかもしれませんけれども、改めてご説明申し上げるということになると思います。
§21Question
本日の講演の中で次の政策判断に必要な三つの点検ポイントっていうのを挙げて頂きました。この三つのポイントの中で、現在総裁としてどこのポイントが利上げにとって、結構条件を満たしていて、どこがちょっと出遅れているのか、あとそれぞれ次の政策変更までに必要な距離感として、どれくらいの距離があるのか、かつてワンノッチという様な表現をされて距離感をおっしゃって頂いたこともあると思うんですが、ちょっとその距離感が今どれくらいなのかということをまずお聞かせください。あともう一つちょっと話はまた変わるんですが、明日、自民党の方で新しい総裁が決まります。次の総理が決まるのはまた少し先になると思うんですが、日銀と政府で経済・金融政策について連携する必要は当然あると思いますので、総理が決まるまでまだちょっと時間があり、かつその 10月末には次の決定会合が控えている中で、新しい総理が決まるまでまだ少し時間があることで政策判断に与える影響みたいなのがあれば教えてください。
§22Kazuo Ueda
私が申し上げた三つの点検ポイントのそれぞれどれくらいの、それがOKになるためには距離感でどれが重要かというようなご質問だと思いますけれども、それは何とも申し上げにくいと言いますか、それぞれ重要な点として、確認の必要がある三つのポイントですし、それぞれについて何か追加的な情報が得られた場合に、その一つのポイントについて得られた情報だけで判断するわけではなくて、他の二つについて、どういうことが起こっているかということを合わせて、総合的に私どもの経済・物価見通しの確度が上がったと言えるかどうか、ということで判断していくのだと思います。ですので、この三つのそれぞれから、見通しの確度のところの関数関係がきちっと、易しく申し上げられるかというと、そこはちょっと総合判断的なものにならざるを得ないと申し上げさせてください。それから、次の総理がもうすぐ決まるけれどもちょっと時間がかかる、という中でどうかというご質問だったかと思いますが、ここは私どもの姿勢は一貫していまして、どういう方が総理になられるにしても、日本銀行としては十分な意思疎通を図っていきたいということですし、金融政策は経済・物価見通しに基づき、持続的な2%のインフレを安定的に達成するために適正な政策を行うということでございます。
§23Question
冒頭の質問で、関西経済の見通しについて回答されていましたけれども、インバウンドや設備投資が堅調ということで、他にもこれまで万博がプラスに寄与してきた部分っていうのは大きいと思うんですけれども、万博の閉幕の影響っていうのは関西経済の見通しにどのように影響しますでしょうか。
§24Kazuo Ueda
もちろん万博それだけを目当てにという観光客の方もある程度いらっしゃったと思いますが、万博以前から関西地域はインバウンド需要がかなり高水準で増加を続けていたというトレンドは維持されるというふうにみていますし、それから、都市再開発に関連して、例えばIR事業とか、いろいろ進行中のものもありますので、万博終了で経済に大きな下押し圧力がかかるというふうには、私どもとしてはみておりません。
§25Question
10月で総裁就任されてから 2年半になります。これまでの歩みを振り返ってのご所感と、この実質金利がきわめて低い水準にある中での任期後半に向けた抱負というものを教えてください。
§26Kazuo Ueda
これまでですけれども、いろいろ至らない点もありましたけれども、一応は大規模緩和からの出口をある程度進めていくことができたかな、というふうに思っております。難しい至らなかった点としましては、やはり消費者物価総合の動きが、われわれが基調と呼ぶインフレ率を、長い期間、大きく上回り続けて、コミュニケーション上の問題をいろいろなところで発生させたということがあるかと思います。ここは引き続き努力していくしかないかな、というふうに思っています。そのうえで、任期後半の課題、目標としましては、これは申し上げるまでもないと思いますが、2%のインフレ率を持続的・安定的に達成するという状態に少しでも近づけていくことになるかなというふうに思います。(注)会見では「高田委員」と発言しましたが、実際は「野口委員」です。以上