田村審議委員記者会見(2025年10月16日)
Full text
§1Question
幹事社質問させて頂きます。まず一点目、本日の金融経済懇談会では、どのような意見交換が行われましたか。二点目です。沖縄県の金融経済情勢についてどのように認識されていますか。
§2Naoki Tamura
まず一点目ですが、懇談会での話題は多岐にわたり、全てを網羅することはできませんが、お伺いした話を私なりに整理して申し上げたいと思います。まず当地の景気については、観光需要の拡大が続くもとで改善しているといった趣旨のお話が多く聞かれました。稼働率が高まるもと、幅広い業種で人手不足が深刻化しており、事業活動の制約となっているとのご指摘も聞かれたところです。こうした中、当地でも人材の係留を企図して賃上げを行う動きが定着してきているとの声が聞かれた一方で、規模の小さい企業ではコスト上昇の価格転嫁は引き続き容易ではなく、速いペースでの賃上げが経営の重石となっている先も少なくないといったご指摘もありました。また、金融界の方からは、コスト上昇が続くもとで、取引先企業の本業支援や事業承継・M&Aなどの事業構造転換のほか、スタートアップへの投融資の積極化、更には金融経済教育の重要性が高まる中、地元の企業や団体などと連携した組織を立ち上げたといったお話も聞かれました。こうした中、当地の課題としては、人手不足の緩和にもつながり得るよう、企業の生産性を向上させていくことにあるとの声が広く聞かれました。この点に関しまして、行政や金融・経済界の様々な取り組みについても教えて頂きました。
§3Naoki Tamura
具体的には、人材育成や DX促進に向けた各種の取り組み、 OISTと地元企業、金融機関、公的機関との連携強化、当地の振興・発展を目指すための成長戦略である「GW2050 Projects」のグランドデザインの公表、こういったお話を伺い、大変心強く感じた次第です。日本銀行に対しては、地域経済や中小企業の業況にも目配りをしつつ、適切に金融政策を運営することをお願いしたいといったご意見を頂戴しました。日本銀行としては、本日頂きましたご意見なども踏まえて、中央銀行の立場から物価安定のもとでの経済の持続的成長を実現していくとともに、金融システムの安定性を確保することを通じて、当地関係者のご努力がより大きな実りへとつながっていくようサポートしてまいりたいと考えています。二点目のご質問の沖縄県の金融経済情勢に関してですが、沖縄県の景気をみますと、基幹産業である観光の拡大が続いており、その好影響が関連産業にも波及するかたちで改善が続いていると認識しています。すなわち、那覇空港を始めとする当地の各空港で、国内線・国際線ともに増便・復便が相次ぐもとで観光客数はコロナ禍前のピークを上回ってきています。観光需要は、本年夏の大型テーマパークの開業や、来年秋に予定されている首里城正殿の復元もあって、今後も拡大傾向を辿り、当地経済をけん引していくとみています。
§4Naoki Tamura
もっとも、本日の懇談会では、観光需要を取り込んでいくに当たり、人手不足などが制約となり得るとの指摘もありました。また、島しょ県である当地は、食料品価格の水準が高いという特性もあり、物価上昇が個人消費に及ぼす影響についても留意が必要です。今後の当地の経済・物価情勢については、那覇支店を通じて、引き続き注視していきたいと考えています。
§5Question
田村委員、9月の会合で利上げを提案されたと思います。午前の挨拶でも利上げを判断すべき局面というご発言がありました。10月の会合で改めて利上げを提案するお考えはあるのかどうか、今のお考えをお聞かせください。
§6Naoki Tamura
金融政策決定会合での判断は、その時点までの経済・物価情勢や決定会合の場における議論次第であるため、現時点で確たることは申し上げられません。なお、 9月の決定会合以降の私にとっての注目点を申し上げれば、短観では業況判断 DIにおいて、企業の前向きな姿勢が維持されていることが確認できたほか、設備投資計画についても、前年度に続き、高い水準の増加が計画されていることが確認できました。また、日本銀行本支店のヒアリング情報をみても、企業の前向きな経営姿勢が維持されているものととらえています。このような環境下、現時点においては、経済・物価の上振れ、下振れ双方向のリスクがあり、一気に政策金利を引き締め領域まで引き上げる必要はないものの、物価の上振れリスクが膨らむ中、将来の急激な利上げショックを避けるためにも、金融緩和度合いを調整して中立金利にもう少し近づけ、上下双方向のリスクに備えるべきだと考えています。ただし、繰り返しになりますけれども、金融政策決定会合での判断は、その時点までの経済・物価情勢や決定会合の場における議論次第でありますので、現時点で確たることは申し上げることはできません。
§7Question
二問お伺いします。一問目がアメリカと世界経済についてなんですけども、前回 9月の会合後の総裁の会見でアメリカの関税政策について、関税自体の不確実性は和らいだんだけれども、その影響が、アメリカ経済とか日本経済にどの程度出るのかということはまだ不確実性が高いのでもう少しみたいという趣旨のご発言があったと思います。今後悪影響が出てくるという見方もあります。田村委員はこの点についても不確実性が低下したと考えてらっしゃるのかってところをお願いします。もう一問が国内の政治状況と金融市場についてちょっとお伺いします。自民党の総裁選以降、株価とか金融市場が大きく乱高下しています。昨年の急落の際には、内田副総裁が不安定な状況の中で利上げをしませんという趣旨のご発言をされましたけども、現在の急変というのはこういう状況に当たるとお考えでしょうか。利上げの判断に影響するとお考えかという点をお伺いします。
§8Naoki Tamura
まず一点目、米国の関税政策の影響等についてでございますが、まず米国の関税政策の影響については、今後もデータやヒアリング情報等を注意深くみていく必要があると考えており、現時点で予断を持っているわけではありません。足元までのわが国への影響を申し上げますと、4~6月期の企業収益は米国の関税政策の影響などから製造業で減少しましたけれども、全体としてはなお、既往ピーク並みの高水準を維持しています。この間、輸出は一部に関税引き上げに伴う駆け込みとその反動の動きがみられましたが、基調としては横ばい圏内の動きが続いているとみています。設備投資についてもデジタル関連投資などに支えられて、緩やかな増加基調にあります。個人消費は物価上昇の影響などから消費者マインドに弱さがみられましたが、雇用・所得環境の改善を背景に底堅く推移しています。このように、米国の関税政策はわが国企業の収益面にマイナスの影響を及ぼしていますけれども、これまでのところ設備投資や雇用・賃金動向を含め、わが国経済全体に波及している様子は窺われず、9月短観の結果をみても、企業の前向きな経営姿勢は維持されていると判断をしております。もちろん、米国の関税政策がわが国の経済・物価に及ぼす影響に関する不確実性はなお残っていると考えられますので、今後もデータやヒアリング情報を丁寧に確認し、わが国経済への影響を点検してまいりたいと考えております。
§9Naoki Tamura
二つ目のご質問、金融資本市場が不安定な状況にあるという点に関してでございますが、市場は日々変動するものであって、水準についてのコメントは控えますけれども、ファンダメンタルズを反映して安定して推移することが望ましいと考えております。金融資本市場の動向や経済・物価に与える影響については引き続き丁寧に目を配ってまいりたいと考えております。そのうえで申し上げますと、そもそも市場は上下に変動するものであって、ときには行き過ぎることもあると思います。市場の安定だけを優先し過ぎる場合、経済・物価に応じた適切な金融政策が取れなくなる懸念があるほか、経済・物価情勢と市場との間の歪みを拡大させてしまうリスクもあります。また、やや長い目でみれば、ファンダメンタルズに沿った水準に落ち着いていくものだと考えております。とはいっても、ただし大幅な急変動というのは望ましくなく、過度にフラジャイルな状況にあるときには、冷却期間を置くなどの対応が必要なケースもあると考えており、その場その場で判断していきたいと考えています。
§10Question
二点ございます。一つ目が現下の政治情勢と絡めた物価のご認識について伺います。自民党の高市総裁は、現在のインフレはコストプッシュ型のインフレであって、ディマンドプル型への移行が望ましいという趣旨の発言をされていました。この物価の背景をどうとらえるかというところは、利上げで需要サイドにどの程度ブレーキをかけるのかという金融政策の判断にも関わってくると思いますが、この点について田村委員のご見解をお聞かせください。二つ目が為替についてです。今、ドル円は 151 円程度で推移していますが、円安基調が定着しているというところかと思います。円安は輸入物価とか期待インフレ、企業収益など、日銀の情勢判断にも大きな影響を与えると思いますが、田村委員の、円安が経済・物価そして金融政策の判断に与える現在の評価についてお聞かせください。
§11Naoki Tamura
まず一点目の現在の物価に関する認識という点についてですが、私としてはわが国で現在物価上昇が続いている背景には、コストプッシュ要因に加えて、需要が潜在的な供給力を上回り、物価に上昇圧力がかかっていることがあると考えております。日本銀行が推計する需給ギャップは足元の値はゼロ近傍にありますけれども、これを分解すると、労働投入ギャップがプラス、すなわち人手が不足になっているのに対して、設備がフルに稼働していないことを受けて、資本投入ギャップがマイナス、すなわち設備が過剰となっています。ただ、設備がフル稼働していないのは、需要が不足しているからというよりは、人手不足によって十分に設備を稼働させられないという側面も大きいと考えています。例えば、旅館・ホテル業界では人手不足で客室稼働率を抑制せざるを得ないですとか、タクシー業界ではドライバー不足で自動車があっても動かせないですとか、製造業でも人手不足で設備をフル稼働させられない、こういった声が聞こえてきます。従って、私としては、需給の逼迫度合いは、もちろん業種によって差はありますが、マクロ的な需給ギャップは既に実態的にプラスの領域にあり、供給力不足が物価に上昇圧力をかけている状況にあるのではないかと思っています。
§12Naoki Tamura
あるべき姿、望ましい姿としては物価と賃金が相互に参照しながら緩やかに上昇していくメカニズムが働くもとで、生産性の向上とその労働への分配が実現されて実質賃金が増加し、需要が引っ張るような経済が望ましいと考えています。日本銀行としては、適切な金融政策を講じて、物価安定を実現することによって、そういった環境を整備する役割を担っていると考えております。二つ目のご質問、円安についてですが、為替相場の水準や評価、あるいは動きの方向性について具体的にコメントすることは差し控えさせて頂きます。先ほど申し上げたことの繰り返しになりますが、為替相場は経済・金融のファンダメンタルズに沿って安定的に推移することが重要であると考えています。そのうえで申し上げますと、為替相場は経済・物価に大きな影響を与えるものであり、円安は物価の上振れリスクを増大させると考えています。特にこのところ、企業の賃金・価格設定行動が積極化するもとで、過去と比べると為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面があることは意識していく必要があります。私としてはそういったことを踏まえつつ、今後も各種データやヒアリング情報等を基に経済・物価の状況を丁寧に点検しながら、金融緩和度合いの調整の要否について判断してまいりたいと考えています。いずれにしても、為替相場の動向については注意深くみてまいります。
§13Question
二点お願いします。一点目は、資産価格についてお伺いしたいんですけれども、株価が急ピッチで上昇を続けてまして、都心を中心に不動産価格も上昇して金融機関も不動産融資を拡大させている状況だと思います。物価の上振れリスク以外に資産価格という観点で警戒が必要な局面にあるのか、現在の株価・不動産市況の状況をどのようにとらえているかということも含めて、田村委員のご見解をお願いしますというのが一点です。二点目なんですが、先ほど市場安定を優先し過ぎると適切な金融政策を行えなくなる懸念があるというふうに発言されました。足元で、例えば、10月会合の市場の利上げの織り込みって 10%台ぐらいまで低下してるんですけども、田村委員のお考えからすると、やはりそういった市場の織り込みとかはあまり気にせず、やっぱりやるべき局面ではやるべきだと、そういうふうに考えておられるということでよろしいんでしょうか。
§14Naoki Tamura
一点目の資産価格に関してですけれども、基本的に先ほど申し上げたのと同じように、資産価格の水準そのものに関してのコメントは差し控えさせて頂きたいと考えております。そのうえで申し上げますと、まず株価についてですけれども、株価は短期的には様々な要因で変動しますが、基本的には市場参加者の将来の経済や企業収益の見通しを反映して形成されるものであります。数か月タームでみた話をすると、わが国を含む最近の世界的な株価上昇についても、世界経済が米国の関税政策の影響を受けつつも緩やかな成長を続け、企業収益が全体として改善傾向を辿るという予想が反映されているものと認識しております。なお 7月の展望レポートでは様々な指標を踏まえて、全体としてみれば、資産市場や金融機関の与信活動には過熱感はみられていないと評価をしております。いずれにしましても、引き続き株価を含む資産価格や金融システムの動向もよくみてまいりたいと考えております。次に、市場の織り込みが不十分な場合でも利上げを行うのかどうかという点に関してですけども、これも先ほど申し上げたことの繰り返しになるんですけれども、市場がファンダメンタルズをどういうふうにみて、どういうふうに判断しているのか、それと私の見方が合ってるのかずれているのか、あるいは合っていても何らか別の要因で利上げの織り込みが低いのか。
§15Naoki Tamura
そういった場合に、そこから先、更に見方のずれが広がっていくのか、そうじゃないのか。そういったことをいろいろ踏まえて、金融政策決定会合の当日に判断していきたいと考えているところです。
§16Question
今日、ご挨拶の中で中立金利についてお話がありまして、最低でも 1%程度という表現に加えて、1%以上のどの辺りにあるのか探っていくというような表現がありました。これは目指すべき政策金利とリンクしてくるところもあると思いますけども、この辺りの考え方、中立金利がどうあるべきかという考え方についても教えて頂けますでしょうか。
§17Naoki Tamura
中立金利についてですが、まず現時点で中立金利の水準を特定することは難しく、かなりの幅を持ってみる必要があると考えています。また、長きにわたってほとんど金利がない世界が続いてきたわが国においては、経済主体が金利にどのように反応するのか、予断を持たずに、注意深くみていく必要があると考えております。従って、実際には政策金利の引き上げを進めていく中で、金利の変化に対して経済・物価がどのように反応するのかを分析しながら、最低 1%の上、 1.5%なのか、2.0%なのか、中立金利の水準を探っていくことになると考えています。なお、私が念頭に置く最低 1%程度という水準は、私自身が金融実務家として企業や家計と接してきた感覚、あるいはこのところの企業や金融機関の経営者の声などを踏まえて、最低でもこれぐらいはとイメージしている水準です。付言しますと、自然利子率というのは景気を加速も引き締めもしない、実質利子率の水準ですが、その自然利子率がマイナス、中立金利が物価より低いということは、平たく考えますと、預金者は物価上昇にいつも負けてしまい、また経営者は物価上昇ほどにはリターンが得られない案件でも投資を行うということ、そういう状況が定常状態であるということで、そういう状況が長く続くことは、ビジネスの現場の直感に反するように私としては感じています。
§18Naoki Tamura
実際、これまでの利上げの日本経済全体への影響はきわめて限定的であり、中立金利の水準まではまだまだ距離があるととらえています。
§19Question
委員、本日の講演で物価安定目標の実現時期の前倒しの可能性について触れられました。委員の考えとして、実現時期が最大どの程度まで早まる可能性があるのか。また、前倒しできるとした場合、それを判断できる時期について最短でどのくらいの時期だとお考えなのか、お聞かせください。
§20Naoki Tamura
トランプ関税の前の時点まで、私は 2025年度の後半には、そういう時期が訪れる可能性があるということを申し上げてきました。その後、今年の 4月に米国の関税政策の具体的な内容が発表されて、それが経済に与える不確実性というものがあるのは事実ですので、今、現時点で 2025年度後半という時期について、それが後倒しされていることも否定できないですけれども、引き続き 2025年度後半には実現できる可能性も否定できないと考えています。
§21Question
一問よろしくお願いします。政治情勢に絡んでなんですけれども、自民党の高市新総裁が、金融政策の手段は日銀が決めて、方向性は政府が決めるという趣旨の発言をされてましたけれども、これに対する田村委員のご見解と、今後、高市さんが総理大臣になった場合に、積極財政等を掲げていますけれども、どう日銀として向き合っていくべきか、スタンスのところ、お考えを教えてください。
§22Naoki Tamura
まず、政治情勢について私の立場からコメントすることは差し控えさせて頂きます。私の立場、日本銀行の審議委員、政策委員の一名としては、物価の安定という使命を果たすために、引き続き 2%の物価安定の目標の持続的・安定的な実現を目指して、金融政策を判断していくということに尽きると考えています。おっしゃられたような、どのような財政政策、あるいはその他の政府の政策が講じられるか、それが経済・物価にどのような影響を与えるのかということを踏まえて、適切な金融政策を判断していきたいと考えています。
§23Question
国際的な話題になってしまって恐縮なんですけれども、ガザの虐殺を巡ってイスラエルに各国の非難が相次いでまして、軍需産業への投資にも厳しい目が注がれていると思います。2024年の、日銀さんの統計ではイスラエルへの対外直接投資は日本では新規投資よりも引き揚げが上回っていて、-78 億円というふうになっていました。企業がこういうふうにイスラエルへの投資から手を引いていることの意味をどうみるかというのが一点。もう一つお聞きしたいのが、日銀が持つイスラエル国債の保有残高がいくらかというのと、今後減らしていくのかという点についても教えてください。
§24Naoki Tamura
一点目の日本企業がイスラエルから投資を引き揚げている点について申し訳ございませんが、私はそういうデータを認識しておりませんでした。この場で質問されて答えるには情報が不足しているので、回答を差し控えさせて頂ければと思います。それから、二つ目の日銀の保有しているイスラエル国債の残高についても、私は今この場では把握しておりません。仮に公表しているデータにあるんであれば、後で事務局の方から答えさせて頂きますし、種々の事情で公表してないんであればそれについてのコメントはやっぱり差し控えさせて頂ければと思います。以上