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Bank of JapanPress conferenceJan 25, 2011Masaaki Shirakawa, Governor

総裁定例記者会見(2011年1月25日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の政策決定会合の結果について、展望レポートの中間レビューも含めて、ポイントをご説明頂きたいと思います。

§2Masaaki Shirakawa

本日の決定会合では、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。こうした決定の背景となる経済・物価情勢について、展望レポートの中間評価の結果を含めてご説明します。まず、わが国の景気は、先月と同様、「緩やかに回復しつつあるものの、改善の動きに一服感がみられる」と判断しました。具体的に申し上げると、企業部門については、設備投資は、企業収益が増勢を維持するもとで持ち直しつつあります。家計部門については、雇用・所得環境が引き続き厳しい状況にあるものの、その程度は幾分和らいでいます。そうしたもとで、個人消費は、乗用車などの一部の財に駆け込み需要の反動がみられるものの、住宅投資は、借入金利の低下などもあって、持ち直しに転じつつあります。一方、輸出については、海外経済の回復テンポが一時的に鈍化したもとで、既往の円高の影響や情報関連財の在庫調整の動きも加わり、やや弱めとなっています。こうした内外需要のもとで、生産はやや減尐しています。この間、金融環境をみると、引き続き緩和の動きが強まっています。すなわち、企業の資金調達コストが低下傾向にあるほか、企業からみた金融機関の貸出態度も改善が続いています。

§3Masaaki Shirakawa

CP・社債市場をみても、社債流通利回りの対国債スプレッドが総じて縮小した状態が続いているほか、社債発行企業の裾野が拡がるなど、発行環境も一段と良好になっています。さらに、企業の資金繰りも改善を続けています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、マクロ的な需給バランスが緩和状態にあるもとで下落していますが、基調的にみると、下落幅は縮小を続けています。特に、高校授業料の実質無償化等の影響を除いてみると、最近では、前年比が 0%となっています。先行きの見通しについて申し上げると、わが国経済は、世界経済の成長率が、新興国・資源国に牽引されるかたちで再び高まっていくと考えられることなどから、景気改善テンポの鈍化した状況から徐々に脱し、緩やかな回復経路に復していくとみられます。物価面では、引き続き消費者物価の前年比下落幅は縮小していくと考えられます。次に、こうした判断を、昨年10月の前回の展望レポートで示した見通しとの比較でどう評価するかについて申し上げます。まず、成長率についてみると、2010年度については、過去の実績値の改定の影響もあって、前回に比べて上振れるものの、2011年度、2012年度の成長率は、概ね展望レポートの見通しに沿って推移すると予想されます。

§4Masaaki Shirakawa

物価面では、原油、非鉄金属などの資源価格や食料価格等の国際商品市況が、新興国・資源国の高成長などを背景に大きく上昇していますが、先行きも緩やかに上昇していくことが見込まれます。このため、国内企業物価と消費者物価は、2011年度は、前回示した見通し対比やや上振れるとみられます。その後、2012年度は、展望レポートの見通しに概ね沿って推移すると予想しています。従って、日本経済は、物価安定のもとでの持続的成長経路に向けて、引き続き着実に歩みを進めていくと考えています。なお、消費者物価指数については、本年8月に総務省で予定されている 2010年基準への改定によって、下方修正される可能性があることは十分認識しています。ただし、その幅を前もって正確に見積もることは困難です。いずれにせよ、基準改定自体によって人々の支出行動が変わるわけではありません。大切なことは、デフレ脱却に至る展望が拓けているか、すなわち、物価下落幅が縮小しプラスに転化していくかどうかですが、そうした展望は、先程申し上げたように拓けていると判断しています。次に、リスク要因についてご説明します。景気については、新興国・資源国経済と先進国経済の間で回復のペースに顕著な差がある中、上振れ・下振れ双方向のリスクが存在するという大きな構図はこれまでと変わりません。

§5Masaaki Shirakawa

すなわち、上振れ要因として、新興国・資源国経済については、旺盛な内需や海外からの資本流入を受けた高い成長が続く中、景気過熱やインフレに対する懸念が払拭されていません。一方、下振れ要因としては、米国経済に対する懸念は一頃に比べて後退しているものの、米欧経済は、バランスシート調整の重石から、上方に弾みにくく、下方に振れやすい状況が続いています。また、国際金融市場の動向を巡る不確実性があります。物価面では、新興国・資源国の高成長を背景とした国際商品市況の一段の上昇により、わが国の物価が上振れる可能性があります。一方、中長期的な予想物価上昇率の低下などにより、物価上昇率が下振れるリスクもあります。日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰するために、包括的な金融緩和政策を通じた強力な金融緩和の推進、金融市場の安定確保、成長基盤強化の支援という3 つの措置を通じて、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていく考えです。今後とも、先行きの経済・物価動向を注意深く点検した上で、適切に政策対応を行っていく方針です。

§6Question

わが国の景気改善の動きが「一服」の状態から脱する時期について、本年1~3月期の可能性を指摘する声も出ていますが、ご見解をお聞かせ下さい。

§7Masaaki Shirakawa

昨年秋以降、わが国の景気は、改善の動きに一服感がみられていますが、これには、主に2 つの要因が影響しています。第1 の要因は、海外経済の成長率が、景気回復の初期局面における急速な持ち直しの後、幾分減速するもとで、情報関連財の在庫調整や円高の影響もあって、輸出がやや弱めの動きとなっていることです。第2 の要因は、エコカー補助金の終了に伴う自動車の駆け込み需要の反動減の影響が表れていることです。もっとも、最近の景気の動きをみると、これらの要因の影響が徐々に減衰していく兆しがみられ始めています。すなわち、海外経済は、新興国・資源国が高成長を続けているほか、一時期強まった米国経済の先行きに対する悲観的な見方も後退しており、海外経済の成長率が再び高まりつつあります。情報関連財の在庫調整についても、世界的にIT関連需要が堅調に推移するもとで、着実に進捗していくことが見込まれます。従って、輸出は、先行き再び緩やかに増加していくとみています。また、自動車の駆け込み需要の反動の影響についても、自動車の販売動向、生産指数の動き、企業からのヒアリング情報などを踏まえると、徐々に薄まっていく方向にあるとみられます。以上のような内外需要の動向のもとで、生産は増加に転じていく見通しとなっています。

§8Masaaki Shirakawa

こうした点を踏まえると、わが国経済は、1~3月期と確定的に言うことは難しいわけですが、早晩、景気改善テンポの鈍化した状況から徐々に脱し、緩やかな回復基調に復していく蓋然性が高いと判断しています。

§9Question

最近の欧州の金融市場動向とソブリン問題について、ご見解をお聞かせ下さい。

§10Masaaki Shirakawa

欧州の金融市場をみると、ドイツ、フランスなどユーロエリアのコア国では、景気回復が続く中、株価と長期金利が振れを伴いつつも、昨年秋以降、上昇傾向を辿っています。一方、ソブリンリスク問題を抱えた周縁国では、景気低迷が続くもとで、国債利回りの対独スプレッドがこのところ 1年間で大幅に上昇し、足許も高止まっています。この間、欧州の政策当局は、域内のソブリンリスクに対応するために、EUレベルにおける金融面での支援の枠組みの整備を進めてきています。また、ECBも、固定金利かつ無制限の資金供給オペを継続し、市場に対して潤沢な流動性を供給する姿勢を明確にしているほか、いわゆる証券市場プログラムによる周縁国国債の購入などを通して、市場機能の回復に努めています。欧州当局によるこうした政策対応にもかかわらず、周縁国のソブリンリスクがなお払拭されない背景には、財政部門と銀行部門、そして実体経済が相乗的に悪化するリスクが金融市場で意識されているためです。足許の長期金利は、周縁国政府が財政再建計画で前提とする金利水準や経済成長率を上回っており、債務残高の圧縮を困難なものとしています。欧州経済が財政問題に伴う景気の下押し圧力を乗り越え、金融市場が安定化に向かっていくためには、過剰債務を抱え込んだ政府と民間の双方がバランスシート問題の解決にしっかり取り組んでいく必要があります。

§11Masaaki Shirakawa

「欧州統合の父」と呼ばれたフランスの政治家ジャン・モネという方は、かつて、「欧州は危機によって形成され、危機に対する解決策の積み重ねとして構築されていく」と述べました。欧州各国が結束したもとで、周縁国による財政再建策や構造改革など各種の取り組みが実を結び、欧州経済の持続的な成長につながっていくことを期待しています。

§12Question

最近、BIS(国際決済銀行)理事会の副議長に就任されました。日銀総裁としても初めてですし、歴史的にも非常に意義のあることだと思っていますが、感想と抱負をお聞かせ下さい。

§13Masaaki Shirakawa

今月の総裁会議の際に開催されたBIS理事会におきまして、副議長に選任されました。BISは 1930年の 5月に設立されましたが、80年間の歴史の中で、記者の方がおっしゃったように、日本銀行総裁として初めてBIS理事会の副議長に任命されたことは、名誉なことであると思っています。日本銀行は、第二次大戦後、1 度BISからの脱退を余儀なくされましたが、その後非公式なかたちで地道に関係の再構築に努めました。その結果、1970年にBIS再加盟を果たし、1994年に理事国に復帰しています。私が、今回理事会の副議長に選任されたのは、ひとえに長年にわたりBISの活動に尽力しつつ関係強化に努められた諸先輩方や、現在BISの様々な活動に貢献している現役職員のおかげだと認識しています。今回の金融危機を経て、中央銀行の協力の場としてのBISの重要性が改めて認識されているほか、金融システムの安定性強化に向けた幅広い取り組みにBISは積極的に参画しています。私自身が、バーゼルにあるBISに初めて訪れたのは 1990年のことですが、以来、様々な立場でBISの活動に参画してきました。この間、BISにおける率直かつ専門的な議論はきわめて有意義だと、ずっと感じ続けています。

§14Masaaki Shirakawa

今回、BIS理事会の副議長に就任し、BISの経営を担う理事会の議長であるフランス中央銀行のノワイエ総裁をしっかりとサポートしながら、私自身もBISの活動に貢献していきたいと考えています。

§15Question

2011年度の消費者物価指数が10月時点の見通しの+0.1%から+0.3%に上方修正されましたが、これはデフレ脱却に資するものではないという認識でよいのでしょうか。そうでないとすれば、その理由を教えて下さい。また、国際商品市況の上昇の要因は何であるとお考えか、ご所見をお願いします。

§16Masaaki Shirakawa

まず、最初のご質問ですが、今回 2011年度の消費者物価上昇率について若干上方修正したのは、主として国際商品市況の上昇傾向を織り込んだものです。2010年度と 2011年度を通して経済をみた場合、物価上昇率のマイナスが縮小し、徐々にプラスになり、さらにそのプラス幅が徐々に拡大していくという姿を展望しています。今回の上方修正は、さほど修正幅が大きいわけではありませんが、尐なくとも物価という意味からすると全体として上昇していくという方向です。私どもが考える「物価安定」というのは、中長期的な物価安定の理解に基づくものですが、大事なことは物価安定のもとでの持続的な成長経路に復帰していくかどうかということであり、これが私どもの基本的な判断基準です。今回の展望レポートの中間評価では、そうした方向に向かっているということです。次に、国際商品市況の上昇の背景は何かということですが、商品市況の上昇については様々な要因があります。大きく分けて、実需あるいは供給ショックの影響といった実体的な需要・供給を強調する説明と、金融的な要因を強調する説明の両方があります。前者の方ですが、新興国・資源国は、全体的にエネルギー効率が低い、あるいは消費支出の中で食料品のウエイトが高いわけですから、そうした国の経済が成長していくということは、その分商品市況が上昇しやすいということになります。

§17Masaaki Shirakawa

現在、そうした実需要因が働いていると思います。同時に、食料品などが典型ですが、供給面の制約――供給ショック――も働いているということです。しかし、そうした要因だけではなく、金融面での要因も働いており、様々な商品、コモディティが金融商品として取り扱われるという傾向が強まっています。昨年秋以降、金融緩和が強化されていく中で国際商品市況にもその影響が出ているという面もあります。今申し上げたように、実需の増加、供給面の制約、あるいは金融面の要因、それぞれが働いているわけですが、それらの要因が今後どのように影響してくるのかということを、私どもとしては注意深くみていきたいと思っています。

§18Question

確認ですが、2011年度の消費者物価指数が+0.3%に上方修正されたことは、デフレ脱却に資すると考えられるのでしょうか。

§19Masaaki Shirakawa

「デフレ脱却に資するのか」というご質問の意味ですが、仮に「物価上昇率が上がっていますか」というご趣旨であれば、もちろん物価上昇率は上がっているわけです。私どもは、全般的に物価上昇率が、私どもが定義する「物価安定の理解」に照らして、そうした状態に近づいていくことを願っていますし、また同時に、その物価上昇が経済の成長率の上昇を伴うものであることを期待しているわけです。そうしたことも踏まえ、全体をみて判断していく必要があるわけですが、私どもとしては、現在は望ましい方向に向かっていると判断しているということです。

§20Question

リスク要因について、上振れ、下振れのリスクバランスをどのように判断しているのか伺います。

§21Masaaki Shirakawa

リスク要因を昨年10月の展望レポートの時点と比較すると、米国経済については、昨年秋以降の経済指標の改善や、財政面での景気刺激策の延長などを背景に、先行きに対する懸念が後退したと評価しています。ただし、米国経済は、バランスシート調整の重石から、上方に弾みにくく、下方に振れやすいという状況が続いています。また、欧州周縁国における財政状況を巡る動きが国際金融資本市場に与える影響などの不確実性がある状況も続いています。一方、新興国・資源国経済については、旺盛な内需や海外からの資本流入もあって、再び成長テンポが高まっており、引き続き上振れ要因となっています。これらの国では、固定的な為替制度が維持されるもとで、最近の国際商品市況の上昇などもあって食料品を中心にインフレ率が高まっており、金融緩和の修正が進められてはいますが、引き続き景気過熱やインフレを巡る懸念が強く意識されています。以上、日本経済を考える上で最も大きな要因である世界経済についての上振れリスク、下振れリスクを整理しましたが、この整理は 10月の展望レポート時点から大きな変化があったわけではありません。引き続き、新興国・資源国については上振れ、先進国については下振れを意識しながら、全体としては概ねバランスしているということであり、前回の判断とは変わっていません。

§22Question

国際商品市況の上昇に関し、日本の景気に与える影響についてどのようにみているのか、お考えをお聞かせ下さい。

§23Masaaki Shirakawa

国際商品市況の上昇が経済に与える影響については、まず、商品市況が上昇している背景を考えると、新興国・資源国経済を中心に世界経済の成長率がその分高まってきていることが挙げられます。従って、この影響は、日本経済には輸出や設備投資の増加というかたちで表れてくることになり、景気にとってプラスの要因です。一方、交易条件という面からは、それだけ輸入する財・商品の値段が上がりますから、実質的な購買力は低下し、国内支出を抑制する要因として働いてくることになります。従って、この両方の側面をバランスよくみていくことが重要だと思います。

§24Question

日銀の資金供給の拡大と長期金利について、2 点お伺いします。1 点目は、長期金利が 7 か月振りの高水準に達した 12月半ばから、日銀はマネーマーケットへの資金供給を急拡大していますが、その目的と、急激な金利上昇が景気に与える悪影響をどうご覧になっているのか、先月も言及して頂いたのですが、改めてお伺いします。2 点目は、短期金融市場の資金供給オペレーションで札割れが生じる程の潤沢な供給が続けられているわけですが、市場機能への影響をどうご覧になっているのか、札割れが続いても、強力な緩和を推進するという観点から潤沢な供給を続けるというスタンスは変わりないのかお伺いします。

§25Masaaki Shirakawa

まず、前者の長期金利についてですが、現在の日本も含めて各国の長期金利の動きをみると、連動関係を全体に強めています。米国の景気について過度の悲観論から一旦長期金利が下がり、その過度の悲観論が後退し、それとともに、米国の長期金利が上昇し、連れて日本も含め各国の長期金利が上がったということだと思います。ただ、上昇幅をみると、日本の長期金利の上昇幅は相対的には小さく、これには日本銀行のいわゆる「時間軸政策」の影響もあるだろうと捉えています。経済に対してどういう影響があるかということですが、経済はもちろん長期金利の動向だけで決まってくるわけではありませんから、先程申し上げたような景気全体としてのメカニズムの中で、長期金利がどのように影響するかということと、同時に景気の実態が長期金利にどう影響を与えるかという両方をみていく必要があります。長期金利はその1 つの要因であり、それだけを捉えて議論するのはなかなか難しいと思います。いずれにせよ、長期金利を含めて注意深くみているということです。2 つ目ですが、現在の日本銀行の金融調節は、かつての量的緩和の時とは異なり、当座預金の残高をターゲットに運営をしているわけではありません。誘導目標はあくまでもオーバーナイトの金利ですし、包括緩和のもとで、さらにやや長めの金利の低下やリスクプレミアムの縮小を促すといった運営を行っています。

§26Masaaki Shirakawa

従って、札割れが生じているもとで、なんとかある一定の当座預金残高を目標にしてオペを繰り出していくわけではありません。短期金融市場の機能の低下については、従来から私どもは大きな問題意識をもちろん持っています。私どもとしては、金融緩和の効果と副作用を点検しながら行っていくということに尽きると思います。なかなか難しい点もありますが、それらを総合判断した上で、現在、この包括緩和を進めていくことが適当だと判断しています。

§27Question

日本国債のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)が、1月に入り若干上昇傾向にあるようですが、これは注意すべき動きなのか、そうとは言えないのか、総裁の見方をお教え下さい。

§28Masaaki Shirakawa

CDSのマーケット自体は非常に流動性の低い市場ですから、CDSのプレミアムの動き方から、過度にインプリケーションを引き出すことは、必ずしも適当ではないと思っています。 CDSのプレミアムが短期的にどういう動きをするかにかかわらず、財政のバランスについて持続可能性をしっかり維持していく取り組みは、非常に大事だと思っています。

§29Question

包括緩和のうち、特にリスク性資産購入の効果について改めて現在のご認識を教えて下さい。また、今回展望レポートの点検が行われていますが、時間軸の考え方については、これまでと全く変わらないのか教えて下さい。

§30Masaaki Shirakawa

包括緩和によるリスク性資産の購入に関し、社債とREITについてご説明します。社債のスプレッドは格付けの低い銘柄を中心に縮小しています。また、社債発行の裾野も随分拡大してきています。REITについては、価格の上昇は株価指数全体の上昇を上回っています。 REITの売買高も増加傾向にあります。もちろん日本銀行の包括緩和の影響だけでこうした動きが生じているわけではありませんが、包括緩和によってリスク性資産にも好影響が出ていると判断しています。時間軸については、日本銀行は「中長期的な物価安定の理解」に従って物価の安定を定義し、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで実質的なゼロ金利政策を続けます。ただし、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し問題が生じていないことを条件としています。こうした時間軸に関する考え方は全く変わっていません。

§31Question

エネルギーや商品価格が、日本だけではなく上がっています。いわゆるコアの部分と総合部分の乖離が、段々大きくなる傾向にあると思います。この先その乖離がどんどん大きくなって、コアはあまり上昇していないけれど総合が大きく上昇した場合、金融政策を判断する立場から、基本的にどうお考えになるのかをお聞かせ下さい。また、先程もお答えになったことですが、交易条件の悪化の1 つの具体的な例として、企業収益への影響、例えば鉄鋼大手何社かが先行きの利益見通しを下方修正する動きも出ていますが、そういう部分はあまり懸念する必要がないのか、それとも注意深くみていった方がいいのかお伺いします。

§32Masaaki Shirakawa

米国型の「食料とエネルギーを除くコア」を指してのご質問と理解しますが、それぞれの国は、総合的な物価指数とコアと呼ばれる物価指数を持っています。コアとして何が適切かは、その国の経済構造や家計の支出構造に依存しています。なぜコアをみるかというと、変動の大きな品目を除去することによって物価の基調的な動きが判断できるためです。米国の場合は、食料とエネルギーを除いたベースでみた方が、将来の全体の物価動向を把握しやすいということです。一方、日本の場合は、過去のデータから分析すると、米国型のコアの予測力は必ずしも高くなく、むしろ生鮮食品を除くベース、あるいは日本銀行が作成している「刈り込み平均――上下 10%ずつ変動の大きい品目を除いたベース――」がありますが、こうしたかたちでのコア物価指数の方が、全体的な物価指数をより正確に予測しているという分析結果があります。そういう意味で、どういう物価指数を考えるかは国によって違いますが、私どもとしては、物価の判断に当たっては、わが国の実態に合ったコアの物価指数をもとに先々の総合物価指数を予測していくという現在のアプローチが適切だと思っています。次に企業収益の話についてですが、商品市況が上がっていくことは交易条件が悪化することです。企業に引き直してみると、収益がそれだけ圧迫されるので、これは景気に対する下押し圧力として働きます。

§33Masaaki Shirakawa

ただし、なぜ商品市況の上昇が生じているかまで考えると、新興国・資源国の経済の拡大が生じており、その分輸出が増えていることになります。その両方をバランス良くみていく必要があり、私どもとしてはご質問の点についても注意深くみています。

§34Question

欧州の財政問題がクローズアップされる中、日本の財政健全化の重要性・必要性について、改めて総裁のお考えをお伺いします。また、国会が始まり、昨日の施政方針演説で、菅総理大臣が社会保障改革と税の抜本改革の基本方針を示すと述べました。景気の回復力が弱く、デフレからの脱却が展望できない中、新たに国民負担を求めることによって、今後の日本経済が受ける影響についてどのようにみていますか。

§35Masaaki Shirakawa

最初の質問と 2 つ目の質問は互いに関連していると思いますので、ここでは、菅総理大臣が昨日国会で述べたことに対する感想としてではなく、主として最初の質問にある財政健全化の必要性についてお答えします。財政の健全化がなぜ必要かということについて考えた場合、2 つの論点があると思います。1 つ目は、現在、欧州周縁国が経験しているように、財政、金融システム、実体経済の負の相乗作用というかたちで財政のバランスが悪化してくると、財政の持続可能性に対する疑念が生じることになると思います。現在、日本はそうした目に見える財政危機、ソブリンリスクに直面しているわけではありません。しかし、振り返ってみると、ギリシャでは、一昨年の秋に起きた「ギリシャ・ショック」の前と後で客観情勢自体が大きく変わったわけではないにもかかわらず、ある時期を境にマーケットの認識は変化したわけです。そうした意味で、先程申し上げた「負の相乗作用」が働くような経済状況になることを防ぐことは大事だと思います。2 つ目は、財政バランスが悪いことには色々な意味がありますが、日本の現状に即して申し上げると、現役世代と高齢者世代との間での負担割合の問題になってきます。どのような世代間のバランスが良いかについては、なかなか難しい問題ですが、現役世代の負担の割合が大きくなってくると、消費に悪影響が出てきます。

§36Masaaki Shirakawa

そういう意味で、持続可能性があるかたちで財政を運営していくことは、非常に大事だと思います。もちろん、財政バランスの健全化に取り組むことによって、経済に対して短期的に下押し圧力が働くこともまた事実です。従って、中長期的な財政バランスの必要性と短期的な経済の状況をみながら財政バランスの改善に取り組んでいくということだと思います。

§37Question

今週、2000年当時の金融政策決定会合の議事録が公開されますが、2000年8月はゼロ金利を初めて解除した時期でした。当時、総裁は企画室の幹部でいらっしゃったわけです。当時のゼロ金利解除は、一般的には「時期尚早で失敗だった」と言われるわけですが、今、世界の中央銀行で非伝統的政策が行われている中で、フロントランナーの立場として、総裁ご自身のご感想やその後の政策および今の政策に与えている教訓や影響についてご意見があれば伺いたいと思います。

§38Masaaki Shirakawa

2000年8月のゼロ金利解除の時、私自身は、政策決定に携わるボードメンバーではありませんでした。当時も色々なことを考えましたし、現在も考えますが、ゼロ金利解除の決定それ自体について今私が感想を述べるのは控えたいと思います。ただ、これはいつの時期にもあてはまることですが、経済の先行きは不確実性に満ちています。その時点、その時点で最大限努力をして適切な政策決定を行うことが大前提です。その上で、経済は大きく変化するわけですから、客観情勢が変わってきたと判断したら、その段階では過去に行った決定にこだわりを持つことなく、新しい環境のもとで正しいと考える政策を追求していく姿勢が大事だと思っており、私自身はそのことをいつも肝に銘じています。以上