総裁定例記者会見(2011年2月15日)要旨
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§1Question
本日の金融政策決定会合の結果について、昨日発表された 10~12月期のGDP速報も踏まえて、簡単にポイントをご説明頂きたいと思います。
§2Masaaki Shirakawa
本日の政策決定会合では、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。こうした決定の背景となる経済・物価情勢についてご説明します。まず、景気の現状について、今月は、「改善テンポの鈍化した状態から徐々に脱しつつある」と判断しました。わが国の景気は、昨年秋口以降、輸出がやや弱めの動きとなり耐久消費財の消費に駆け込み需要の反動がみられる中、生産もやや減少するなど景気改善の動きに一服感がみられていました。この点は、昨日公表された 10~12月期のGDP成長率が前期比年率-1.1%と、小幅ながら5 期振りのマイナスになったことにも表れています。もっとも、このところの景気の動きをみると、改善テンポの鈍化した状態から徐々に脱する動きが確認されつつあります。具体的に申し上げると、世界経済の成長率が、新興国・資源国に牽引される形で再び高まってきており、また、情報関連財の在庫調整の動きも進捗しているもとで、輸出は、12月の実質輸出がはっきりと増加するなど増加基調に復する動きがみられています。個人消費についても、家電はエコポイント制度の見直しに伴う駆け込み需要の反動がみられていますが、自動車は駆け込み需要の反動減の影響がこのところ小さくなってきています。
§3Masaaki Shirakawa
こうした輸出面での動きや、自動車の駆け込み需要の反動減の影響が徐々に薄まる中で、生産は 11月以降増加が続いています。この間、設備投資は、前回会合以降大きな変化はありませんが、企業収益が増勢を維持するもとで持ち直しつつあります。雇用・所得環境も、引き続き厳しい状況にあるものの、その程度は幾分和らいでいます。さらに、住宅投資は、借入金利の低下などもあって持ち直しつつあります。このように、景気は、先月の中間評価で示した見通しに沿って着実に前進していると判断しています。この間、金融環境をみると、引き続き緩和の動きが強まっています。企業の資金調達コストは低下傾向が続いています。企業からみた金融機関の貸出態度は改善が続いており、CP・社債市場では、社債の発行体の裾野が拡がるなど発行環境は一段と良好になっています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、基調的にみると下落幅は縮小を続けています。特に、高校授業料の実質無償化等の影響を除いてみると、このところ、前年比はゼロ%ないしごく小幅のプラスで推移しています。先行きの見通しについて申し上げると、わが国経済は景気改善テンポの鈍化した状況から脱し、緩やかな回復経路に復していくとみられます。物価面では、引き続き消費者物価の前年比下落幅は縮小していくと考えられます。
§4Masaaki Shirakawa
ただし、先行き8月に消費者物価の基準改定が予定されており、それに伴い数字が下方に改定されることは意識しています。次に、リスク要因についてご説明します。景気については、上振れ・下振れ双方向のリスクが概ねバランスしているという構図はこれまでと変わりありません。すなわち、新興国・資源国経済については、旺盛な内需や海外からの資本流入を受けた高い成長が続いており、引き続き上振れリスクを念頭においています。多くの国では、金融緩和策の修正を進めていますが、景気過熱やインフレに対する懸念は依然払拭されていません。一方、先進国経済をみると、米国は、このところ公表された経済指標で緩やかな回復が続いていることが確認されています。もっとも、雇用環境の改善ペースは依然として捗々しくないなど、米国経済の先行きには、バランスシート調整の帰趨を含めて引き続き不確実性があります。また、国際金融市場の動向を巡る不確実性も続いています。物価面では、新興国・資源国の高成長を背景とした国際商品市況の一段の上昇により、わが国の物価が上振れる可能性があります。一方、中長期的な予想物価上昇率の低下などにより物価上昇率が下振れるリスクもあります。
§5Masaaki Shirakawa
日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰するために、「包括的な金融緩和政策」を通じた強力な金融緩和の推進、金融市場の安定確保、成長基盤強化の支援という3 つの措置を通じて、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていく考えです。今後とも、先行きの経済・物価動向を注意深く点検した上で、適切に政策対応を行っていく方針です。
§6Question
国際商品市況の上昇が続いていますが、わが国の経済・物価への影響についてどのようにご覧になっているかお聞かせ下さい。
§7Masaaki Shirakawa
国際商品市況は 2009年初以降、上昇基調を続けています。特に昨年秋以降は、食料品等を中心に上昇テンポを速めており、一部の非鉄金属や穀物は過去のピークである 2008年夏頃の水準ないしはそれを上回る水準となっています。この背景としては、エネルギー効率が低く、かつ消費に占める食料品支出のウエイトの高い新興国経済の高成長という実需面の要因と、天候不順・自然災害等に伴う供給不安が影響しています。加えて、先進国の大規模な金融緩和の継続などを背景とする金融面の動きが国際商品市況の動きを加速している面があります。さらに、最近では中東における地政学リスクの高まりも市況を押し上げる要因として指摘されています。以上のような国際商品市況の上昇が、わが国経済に及ぼす影響については、こうした市況上昇の背景をどのように理解するかに依存しています。市況上昇の原因が、新興国あるいは資源国の高成長である場合には、新興国・資源国への輸出の増加や投資収益の増加というかたちで、プラスの影響を及ぼす面があります。一方で、供給不安が市況上昇の原因である場合には、そうしたプラス効果は働きにくくなってきます。また、交易条件の悪化による実質的な所得の減少が、マイナスの影響を及ぼす面もあります。以上が定性的な整理です。こうした定性的な整理を踏まえて経済の動きをみていくことになります。
§8Masaaki Shirakawa
わが国の場合、2008年夏頃と比べると、為替相場が円高方向となっている分、交易条件悪化の影響が一定程度相殺されている面があると思います。また、世界経済が減速局面にあった当時と異なり、現在は世界経済の成長率が高まっていくことが見込まれています。このため、現時点では、わが国経済が緩やかな回復経路に復していくという先月の中間評価時点の見通しを変更する必要はないものと判断しています。物価面への影響としては、マクロ的な需給バランスが改善していくもとで、市況の上昇が国内の物価に徐々に波及していき、物価の上振れ要因となる可能性があります。一方で、こうした物価の上昇が実質的な所得の減少を通じて、経済にマイナスの影響を強く与える場合には、やや長い目でみて物価の下振れ要因となる可能性もあります。いずれにせよ日本銀行としては、今後の国際商品市況の動向を注意深く点検し、今申し上げた景気・物価に与えるプラスとマイナスの影響をバランス良く点検していきたいと考えています。
§9Question
S&Pが日本国債の格付けを引き下げました。総裁も先週の講演で触れていましたが、改めて、財政健全化についてのご見解をお聞かせ下さい。
§10Masaaki Shirakawa
わが国の財政状況は、言うまでもありませんが、大幅な財政赤字が続き、一般政府債務残高の対名目GDP比率は約 200%と、国際的にみても極めて高い水準となっています。ただ、このグロスの数値は多少ミスリーディングな面もあり、金融資産を差し引いた純債務残高では、GDP対比約 120%に縮小しますが、いずれにせよ非常に高いことには変わりがありません。このような厳しい財政状況にある中で、財政悪化の大きな要因にもなっている現役世代による高齢者の扶養負担の増加が見込まれる場合には、消費の抑制要因となります。また、市場において将来の財政の持続可能性に対する信認が低下すれば、金融市場の動揺を通じて実体経済も下押しされ、財政、金融システム、それから実体経済の間でマイナスの相乗作用が生じることになります。こうした影響を抑制するためには、財政の持続可能性を確保することが重要であり、そうした観点から、財政バランスの改善に向けた道筋をしっかりと示していく必要があると思っています。その際に大事な点として、先週の講演でも申し上げたことの繰り返しになりますが、改めて 2 つの点を申し上げたいと思います。第1に、日本経済の成長力の引き上げが、まずもって必要であるという点です。実質ベースで経済成長率が高まり、活発な民間の経済活動が行われることにより、歳入の増加も期待できます。
§11Masaaki Shirakawa
ただし、財政バランスの改善は、インフレによる名目成長率の上昇によって達成される課題ではありません。物価が上昇すれば、税収は増加するかもしれませんが、同時に各種の歳出も増加するのが過去の経験ですし、長期金利の上昇を通じて利払い負担が増加することも念頭に置く必要があります。従って、重要なことは、実質成長率の引き上げを実現していくことです。また、そうした経済のもとでは、物価も上がっていくということです。第2 に申し上げる点は、現在の深刻な財政状況を前提にすると、今申し上げた成長力の引き上げだけで、財政バランスの改善が自動的に実現するわけではないということです。財政バランスの改善は、実質的に歳出を減らし、あるいは歳入を増やす改革なしには実現しません。それから、財政問題に対する関心が高まる中にあっては、今申し上げた財政規律の確保に向けた努力と並んで、日本銀行が物価安定のもとでの持続的経済成長を目指して金融政策を行っていることに対する市場の信認を確保することが重要であることも、付け加えておきたいと思います。
§12Question
今週末、G20 財務大臣・中央銀行総裁会議が開催されますが、国際商品市況の上昇について対策を話し合うことになると思います。この対策について、総裁ご自身はどのようにお考えなのかお教え下さい。
§13Masaaki Shirakawa
今週末にかけてのG20 に関し、議長国であるフランスの見解を現在詳細に承知しているわけではありませんので、具体的なコメントではなく、一般論として答えさせて頂きます。先程申し上げた通り、昨年秋以降の国際商品市況の上昇については実需面の要因、供給面の要因、金融面の要因といった様々な要因が指摘されています。国際商品市況の上昇それ自体をどのように理解するのかが全ての議論の出発点だと思っています。私自身はこの3 つの要因のいずれも作用していると思いますが、論者によってもこれら要因間の相対的なウエイトについてニュアンスの差があると思っています。これは、抽象論ではなく、まずG20 のレベルで、商品市場の動向についてしっかり事実を分析していく努力が必要だと思います。マクロ政策、金融政策という面では、先進国の金融緩和、あるいは新興国における金融緩和政策の修正度合い、または為替レート制度などが論点となります。さらに、先進国、新興国に共通する話ですが、自国の採っている政策措置が他に波及する影響・効果、また自らに跳ね返ってくるフィードバック、これらを意識しながら政策を行っていくことも大事だと思っています。いずれにせよ、こうしたことも含めて、今週末のG20 でしっかりと議論していきたいと思います。
§14Question
今週末のG20 での議論に関し、先程の質問にあった国際商品市況の上昇以外に、主要テーマとなり得るものは何でしょうか。前回までの議論から引き継いでインバランスの問題などがあると思うのですが、そのあたりのご見解を伺います。
§15Masaaki Shirakawa
今週末のG20 では、国際金融経済情勢のほかに、金融規制改革に関する作業の進捗状況や、昨年から開始した「強固で持続可能かつ均衡ある成長のためのG20 の枠組み」の具体化に向けた取り組みなどが議論されることにおそらくなるだろうと思います。また、フランス政府が重視しているテーマである国際通貨制度も議題に上がるだろうとみています。今回のG20 はフランスが議長国となって初めての会合であり、11月のG20 サミットに向けて、様々なテーマについてどのように議論していくのか、まず議長国から考え方が示されると思います。
§16Question
前回会合以降、長期金利の上昇傾向が続いていますが、その背景についてどのようにみていらっしゃるのか、また、その影響についてお伺いします。
§17Masaaki Shirakawa
前回、前々回の記者会見でお答えした内容と基本的にはあまり変わっていませんが、改めて申し上げます。長期金利をみると、年明け以降、例えば10年国債金利は 1.2%程度の横ばい圏内で推移していましたが、最近では 1.3%を幾分上回る水準となっています。こうした長期金利の上昇は、わが国だけではなく、米国やドイツ・英国などの欧州諸国、さらには多くの新興国においても観察されています。世界的な長期金利上昇の背景は、基本的には、米国経済の先行き見通しの改善により、米国の長期金利が一段と上昇し、グローバル化した金融市場のもとで、各国の長期金利がこれに連れて上昇したものと理解しています。ただし、日本の長期金利の上昇は、国際的にみると引き続き相対的に小幅なものにとどまっています。この点、日本銀行が、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、問題が生じていないことを条件とした上で、中長期的な物価安定の理解に基づき、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を続ける方針を明らかにしていること、いわゆる時間軸が相応の効果を発揮していると考えています。長期金利を考える時には、常に2 つの面を考える必要があると思います。すなわち、長期金利は、経済・物価情勢に関する先行きの市場の見方を反映して形成されるということが1つです。
§18Masaaki Shirakawa
もう1つの側面は、長期金利の変動それ自体が、企業や家計の資金調達コスト、あるいは国債を大量に保有している金融機関の収益状況などへの影響を通じて、経済・物価や金融情勢に影響を与えるという面です。日本銀行としては、こうした2 つの側面を踏まえて、長期金利の推移やその影響について、引き続き注意深く点検して行きたいと思っています。
§19Question
成長基盤強化支援の融資制度ですが、これまでの成果について、改めてお考えをお聞かせ下さい。また、先日、大手鉄鋼メーカーの再編方針が発表されましたが、こうした産業界のM&Aの動きについて、生産性の向上という観点からご所見があればお願いします。
§20Masaaki Shirakawa
成長基盤強化支援の資金供給の評価ですが、かねて申し上げている通り、日本銀行としては、この制度が1 つのきっかけとなり成長基盤強化に向けた取り組みが拡がっていくことを期待しています。この資金供給の実際の資金の使われ方等については、別途日本銀行が公表していますから、詳しくはそちらをご覧頂きたいと思います。私どもとして勇気づけられる、あるいは元気づけられる動きとしては、そうした目的に沿った取り組みが実際に少しずつ拡がってきていると感じる点です。もちろん、成長基盤強化支援の制度だけで拡がったわけではありませんが、1 つの触媒となってそうした動きが進んでいることを大事にしたいと考えています。私どもは、成長基盤強化支援に向けた施策を打ち出した後、私自身も、また他の政策委員会メンバーも、講演等の席で日本経済の基本的な問題は今どこにあるのか、そのためにどのような取り組みが必要なのかについて、情報発信を従来よりも多少強めて行っています。そうしたことも相俟って、成長基盤強化に向けた取り組みが日本全体として進んで行くことを強く期待しています。次に、新日鉄と住友金属の経営統合についてのご質問ですが、個別企業の案件について、私の立場から具体的にコメントすることは差し控えます。ただ、ご質問は、生産性の向上という観点で、ということでしたので、その観点でお答えしたいと思います。
§21Masaaki Shirakawa
経営統合は、グローバルな展開の中で企業が競争力を高めていくという観点からの経営判断だと私自身は受止めています。再三申し上げている通り、日本経済が抱える根源的な問題である「成長力の底上げ」のためには、生産性の向上が不可欠であり、民間企業の競争力が高まることが重要だと認識しています。生産性を引上げていくためには、企業が消費者の潜在的なニーズを掘り起こし、新たな付加価値を創造する研究開発や製造技術の高度化を進めることや、成長著しい海外市場の需要を積極的に取り込むための事業活動などに前向きに取り組んでいくことが必要です。企業の合併等に際しては、こうした点も意識しつつ、具体的にどのようにして生産性の向上を図っていくのかが重要なポイントだと考えています。
§22Question
先月の決定会合の際には、景気回復について、1~3月など確定的な時期は言えないが、早晩、緩やかな回復になるとおっしゃっており、本日そのようなことも公表文に書いてありました。実際に、先月のご発言を踏まえた上で、足許の1~3月で緩やかな回復基調が出てくるのではないかという判断について、自信を深めているのか教えて下さい。
§23Masaaki Shirakawa
先日の講演では、「踊り場から脱却する蓋然性が高まってきた」と表現したと思います。本日の詳しい議論の内容は、議事要旨をみて頂きたいのですが、その蓋然性は高まってきていると思います。ただ、今回の公表文の中では「改善テンポの鈍化した状態から徐々に脱しつつある」という進行形で表現しています。最終的に 1~3月がどうであったかはもう少し数字をみないと分かりませんので、今回の決定会合では「しつつある」という進行形が適当と判断しました。
§24Question
先程のお答えの中で、長期金利が形成される際には先行きの経済・物価の見通しが影響するとおっしゃいました。昨年の夏頃から景気が改善しているほか物価も改善していますので、ある程度の長期金利上昇は自然な動きかと思います。一方で、時間軸がそれなりの効果を発揮しているということでしたが、景気・物価の見通しが改善している中での長期金利の動きと、民間企業の資金調達コスト上昇といったことも含めた長期金利上昇のもたらす影響について、もう少し詳しく伺いたいと思います。
§25Masaaki Shirakawa
先程申し上げた内容にさほど付け加えることはありませんが、ポイントだけ申し上げると、長期金利を考えていく上では、これだけ金融市場がグローバル化している下では、日本の長期金利だけをみてその背景を考えていくというアプローチではなく、まず国際的にみて長期金利がどのような動きをしていくのか、つまり世界経済全体を踏まえてみていくことが必要だと思います。そういう意味では、各国間の長期金利はある程度は連動している――水準はもちろん違うけれども、動きという点でみると連動している――ということです。世界の金利全般が上昇している時は、先行きの経済に関する見方の好転を反映しているとみられます。一方で、長期金利が形成される背景には国内要因もあります。日本においては、日本銀行の時間軸政策が相応の効果を及ぼしているのではないかと考えています。また、経済の実態が長期金利にどう反映されるかということですが、長期金利が何らかの要因によって動いた場合、これが経済・金融に影響を与える可能性も意識する必要があります。そういうものを全て総合したのが私どもの景気・物価の現状判断、あるいは先行き見通しの判断ということになります。
§26Question
景気はだんだんと踊り場を脱していく蓋然性が高まっているということだと思いますが、一般庶民からみると、景気が上向きと言われても、なかなか実感が湧いてこないというのが正直なところだと思います。本日の公表文にも雇用や所得環境が引き続き厳しいとありますが、このあたりの実感が伴ってくるには相当時間がかかるのか、実感のないままゆっくりと景気回復していくイメージなのか、もう少し一般の方がわかり易いような表現でご説明頂ければと思います。
§27Masaaki Shirakawa
ご質問の点は、日本経済に限らず、今、先進国経済が等しく直面している問題だと思います。よく世界経済全体を指して「Two-speed Recovery」(異なる速度での景気回復)、つまり新興国は高い成長、先進国は緩やかな成長ということが言われるわけですが、同じことが一国の経済の中でも起きているとの印象をもっています。つまり、新興国に代表されるグローバル経済の成長を相対的に享受しやすい企業部門については、それなりに明るい動きが少しずつ拡がっている。しかし、それが家計部門にはなかなか十分には染み渡っていかないという意味での「Two-speed Recovery」が国内的に生じていて、それは日本だけではなく先進国で共通して起きていると思います。最終的には、世界全体でもそうですし、一国でもそうですが、経済の中で、ある程度は均霑していく力が働いてくるわけです。ただ、そうした均霑していく要素と、もう1つの中長期的な論点として日本経済全体の成長力がなかなか高まっていかないという問題の両方があると思います。今、ご質問の点は、後者の点も含めてのお話だと思います。これは、再三強調している通り、日本の高齢化に伴う一連の問題が将来に対する成長期待の低下につながっている面があると思います。
§28Masaaki Shirakawa
従って、こうした問題にしっかり取り組んでいくことがない限り、いまおっしゃった意味で、経済が力強く成長していく実感が湧きにくいということも事実だと思います。その意味で、短期と少し長めの話の両方があると感じています。
§29Question
米国経済の見方について、2 点伺います。米国の市場は、実態に対して過度に悲観に振れたり、楽観に振れたりすると、日本銀行は昨年から言っていると思いますが、現在の米国の市場は、実態に対して楽観的ないし悲観的に見過ぎているとお考えか、教えて下さい。2 つ目は、GSE(政府系住宅金融機関)の改革案について、段階的に同機関を廃止・縮小していくとの方針が先週末に公表されましたが、米国経済もしくは日本経済へのインプリケーションについて、現時点でお話し頂けることをお願いします。
§30Masaaki Shirakawa
米国の金融市場が楽観的に過ぎているのか、悲観的に過ぎているのかということについて、私がどちらと言うのは適切ではないと思います。これは、長期金利、株価、為替についてもそうですが、私が評価をここで述べることは適切ではないと思います。ただ、私どもは、日本の経験から、金融・経済をみていくときに、バランスシートの問題について十分注意していく必要があると常に申し上げているわけで、そのことを織り込んだ上で、市場において色々な評価がなされていくのだと思います。それからもう 1 つ、これも何回かこの席で申し上げましたが、バランスシート調整は、日本にとって大変重い経験でしたが、同時に、米国経済や米国社会には、日本とは違う要素があることも認識しておく必要があると思っています。それは、米国経済・社会が持つ柔軟さと、急速な高齢化あるいは人口減少が現在生じているわけではないこと、 ――少し長い目でみると、米国も同じような難しい問題に直面するのですが――現在はそこまでいっているわけではありません。私としては、バランスシート調整の厳しさと、それを相殺する要因の両方を注意深くみていく必要があると思います。また、日本銀行の判断がいつも正しいと言っているわけではなく、日本銀行も逆方向に行き過ぎることも有り得ると自戒しながら、みていきたいと考えています。
§31Masaaki Shirakawa
GSEの改革については、経済的にも政治的にも難しい課題だと思っています。具体的にどういった改革になるのか決まっていませんので、日本経済へのインプリケーションを今この段階で云々するのは、少し早いのかなという感じがします。いずれにせよ、これは非常に大事な論点だと思っています。
§32Question
先頃、企業の決算が発表され、かなり好収益が出ています。昨年と比較すれば円高がかなり進んでいたと思いますが、マーケットでは円高が進むと企業収益にダメージになるのではないか、ずっと懸念されていました。日本銀行も、円高でマインドが悪化することに対し懸念を強めていたと思います。円高にもかかわらず企業収益が結果として良かったのはなぜか、分析をされているのでしょうか。
§33Masaaki Shirakawa
ご質問の点は、私どももよく議論している点の 1 つです。昨年夏場にかけての急速な円高進行のもとで企業マインドが非常に慎重になったことは明らかな事実だと思います。振り返ってみると、円高の影響それ自体ももちろんありますが、それ以外にも日本経済を取り巻く様々な構造的問題を企業が意識していたことが企業マインド慎重化の背景にあったと思います。日本の企業は、円高が進むもとで様々な合理化の努力、収益改善の努力を従来から続けてきたわけで、今回の局面でもそうした努力をされたと思います。そうした大変な厳しい努力の結果、企業決算がこういう数字になっているわけであり、円高は難なく乗り越えられたというものでは決してないと思っています。そうした企業レベルでのご努力に加え、一方で、マクロ的に考えた場合には、先程申し上げた通り、日本の場合、為替が円高方向にある分、交易条件の悪化の影響が、他国に比べるとある程度緩和されているという面があります。これは、この間為替相場が自国通貨安方向に進んだ国との比較でみると、円高が日本にもたらした効果だと思います。いずれにせよ、円高はマイナスの面とプラスの面と両方があり、しかもその効果の表れ方は時間的にも若干異なってくるわけです。私どもとしては、そうしたことも意識しながら、その時々で適切な判断をしていく必要があると考えています。以上