野田審議委員記者会見(2011年3月3日)要旨
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§1Question
3 点お伺いします。1 つ目に、本日の懇談会でどのような意見交換がなされたかということ。2 つ目に、意見交換を踏まえて、熊本県経済に対する認識をどのように持たれたかということ。3 つ目に、3月12日に九州新幹線鹿児島ルートが全線開業致しますが、これが熊本県経済にどのような影響を及ぼすのか、どのようにお考えかご所見をお願いします。
§2Tadao Noda
まず 1 つ目の本日の懇談会の意見交換の内容ということですが、懇談会の場で伺った意見は多岐に亘り、全てを網羅的にというわけにはまいりませんので、概略を私なりに整理して申し上げたいと思います。当地の経済については、「半導体関連で好調な生産が続いている」、あるいは「物流関係の設備需要が伸びている」、またそういったことから「モノの動きがこのところ活発化しているようにみられる」といったお話を伺ったほか、個人消費関連でも、「自動車販売では、エコカー補助金制度終了後の反動は全国に比べて大きかったが、年明け以降は徐々に持ち直す動きがみられている」など、明るい兆しを示唆するお話を尐なくなく頂きました。私としては、そのようなお話を伺った上で、足許では、緩やかな回復が続いているということを確認した次第です。とはいえ一方で、卸売業あるいは小売業では、このところの原材料高の影響で、仕入価格が上昇する中、販売面ではなお価格競争が継続しており、このまま原材料価格の上昇が続けば、収益的には厳しさが増すという不安がある、あるいは、中小企業の中でも、この間の環境変化 ―― 「この間」というのは尐し長いレンジだと思いますが ── に対応できた先とそうでない先との間で、景況感が二極化しているという慎重なご意見も賜った次第です。
§3Tadao Noda
もっとも、そういう慎重なご意見の中で、そうした懸念を克服しようとする積極的な取組みもいくつかご披露頂きました。例えば、九州新幹線の鹿児島ルート全線開通を前に、 ―― 私も挨拶の中で述べた二次アクセス強化の一環から ―― レンタカー会社が県境を跨いで連携する動きがあるとか、特に福祉には限らないとは思いますが、電動バイクの実証実験を始めるといった、新しい需要の掘り起こしに前向きな取組みを積極的に進めているというお話も伺いました。さらに心強かったのは、若い経営者を中心にこれまでの単純な価格競争から脱して、品質あるいはサービス面で競争力を高め、経営体力の強化に繋げていくといった動きが広がっているというお話も伺いました。極めて心強く感じた次第です。2 つ目に、熊本県経済に対する認識ですが、私が挨拶の中で触れた点については、さほど遠からず当たっていたのかなと思っています。県経済は、新興国向け輸出の増加を背景にIT関連で高水準の生産が続いているほか、短観調査における設備投資も 4年振りに増加する計画になるなど、緩やかな回復を続けているとみています。特に近年、県内でウエイトを高めている誘致企業が輸出競争力の強い製品群を生み出していること、あるいは高成長を続けている東アジアに近いという地理的な優位性から、当地の景気が緩やかに回復していることが確認できたところです。
§4Tadao Noda
わが国全体と比べても、どちらかというと堅調に推移しているのではないかとみた次第です。もっとも、先程も尐し触れましたが、中小企業、その中でも非製造業の景況感の認識については、やや遅れ気味ということも否定できないと思います。先行きについては、今申し上げた景況感がどのように裾野を広げていくのかということと、今まさに注目を浴びている新幹線の全線開業のインパクトがどうなるのかということを注視していきたいと思います。そこで 3 番目の新幹線の全線開業の影響はということですが、昨日熊本駅の新駅を見学させてもらいましたが、開業は県経済にとって多大なチャンスであるように思いました。関西を中心とする遠方の観光客の増加を期待することはもちろん、福岡と熊本の間だけをとってみても、従来の点と点が大きな線で結ばれたわけですから、いわば「熊本―福岡メガロポリス」、ちょっと大袈裟かもしれませんが、そういった従来では考えられなかったような新しい経済圏、都市圏というものが、今後間違いなく形成されていくのではないかと思いました。ここ数日の地元新聞あるいは地元版というものを拝見して、新幹線によって県内経済の需要が県外に流出する側面があるのではないかとの指摘もあるようです。
§5Tadao Noda
その指摘が正しいかどうかは私も俄かには分かりませんが、それはいわゆるゼロサムゲームの話ですから、経済効果をゼロサムでないところで議論することが重要なことだろうと思いました。単にモノというより、人や文化が交流することは、長い目でみればゼロサムを超えた新しいプラスあるいは付加価値の創造というものに結び付くのではないかと期待しています。いずれにしても、今回私が滞在した期間では、尐し地元がイベントに傾斜していまして、これ自体はやむを得ないことですし、それはそれで結構なことなのですが、本当に大事なことは、今回の大きなエポックを熊本県経済というところに止まらず、九州経済あるいは日本経済全体の持続的発展にどのように持って行くかというような、熊本県でいえば熊本県民全体の強い意志、あるいはこれからのご努力というものを、大いに期待しているところです。
§6Question
2 点お伺いします。1 点目は国際商品市況高についてです。先程の講演の中でも消費への負の連鎖という発言もあったようですし、熊本経済のくだりでも卸売業等で価格競争もある中、収益的に厳しさを増すという指摘もありましたが、逆に日本の外需へのプラスもあると思います。そういった日本経済へのプラス・マイナスの効果をどのように捉えておられるのでしょうか。2 点目は成長基盤融資の件ですが、これも先程の講演の中で「呼び水」効果があるとのご指摘ですが、実行額が総枠の 3 分の 2 を超えている状況下、その増額の可能性についてどのように考えておられるのか、教えてください。
§7Tadao Noda
1 つ目の、国際商品市況あるいはコモディティ価格の最近の上昇の日本経済全体へのプラス・マイナスはどうかということですが、即物的に言えばそうプラスがあるということは考えにくいのですが、そこで立ち止まって、商品市況高がどういう背景で形成されてきたのかということについても考えてみると、必ずしもマイナスの面だけではないのかなと思っています。それは挨拶の中でも指摘させて頂きましたが、今回の市況高、コモディティ高の背景、その根本には、やはり新興国を中心とする需要の増加、旺盛な需要があるわけですから、このこと自体は世界の通商の活発化を通じて、その一員であるわが国にも輸出の増加を通じたプラスがありますし、これまでも享受しています。ただ、その先、これも挨拶の中でも触れていますが、いわゆる世界経済の成長トレンド、もう尐し中身をきちっとみると、特に新興国の成長トレンド ――いわゆるファンダメンタルズの動向 ―― と大きく乖離するようなかたちで商品市況が高騰し、さらにその高騰がある種の持続性を持ってくると、いくつかのルートを通じて、世界経済への影響はもちろんのこと、わが国経済へもマイナスの影響があるということです。
§8Tadao Noda
そのルートは、国内経済について大きく言えば、いわゆる物価の上昇を通じた実質所得の減尐というルートで消費のマイナスにつながるという面がありますし、物価への転嫁が行われない場合、企業収益の圧迫を通じて、雇用・所得環境への負の影響、さらにはそれを背景とした個人消費の停滞につながる抑制要因となっていくというルートが考えられます。もっと大きく、国と国との間の交易条件という観点から言えば、おそらくそういう状況になれば、足許をはるかに超える交易損失、海外への所得移転が生じてくるわけですから、そのこと自体がわが国の所得形成のメカニズムを毀損してしまう、マイナスに働くということだろうと思います。もう一つ、成長基盤の強化に対する私どもの措置の増額の可能性というご質問ですが、確かに3 兆円の枠の 70%を消化することがほぼ決まったわけで、あと 30%の枠が残っています。この段階で「100%に達した後のことをどうするのか」というご質問にお答えするのは、些か時期尚早かなと思いますが、翻って私どものこの成長基盤強化の狙いというものをもう一度反芻してみたいというのが、今日の挨拶の中でも尐し触れさせて頂いたところです。あくまで、この成長基盤強化の措置だけでもって、わが国の経済あるいは成長基盤を強化できるというような大それたことは尐しも考えていないわけで、それを「呼び水」というように申し上げているわけです。
§9Tadao Noda
その「呼び水」の量としてどの程度が相応しいのか、あるいは相応しかったのかという点については、その効果そのものもさることながら、副作用というものも何がしか私の耳にも届いていないわけではありません。そういったところをもう尐し時間をかけて比較考量、吟味したい、その「呼び水」効果に対する評価も含めてですが、時間をもう尐し頂戴したいというのが、現時点での正直な感想です。
§10Question
挨拶でも触れておられますが、今年8月に消費者物価の基準改定が予定されています。その中で「物価の実体が変わるものではないが、金融政策の運営にあたっては、こうした統計の癖をしっかりと念頭に置いておく必要がある」と言われています。ここでいう統計の癖、指数が下方修正されるということは、日銀が今年度に思っていたCPIよりも実績が下がるかなと思います。デフレ克服という最大の課題の中で、物価が基準改定により下がるので、より一層デフレ克服が難しくなるという理解なのか、ここのところをもう尐し詳しくお聞かせ下さい。
§11Tadao Noda
挨拶の中で述べたことが、若干ないし若干以上舌足らずだったかもしれませんが、基本的には、前から申し上げていますとおり、物価をみるにあたっては、物価の前年比の水準というものが一つの大きな要素であることは否定しません。しかし、それと並んで、いわゆる物価の基調的なトレンド、さらにはその背後にある物価を形成するメカニズムがどうかというところも重視しているわけです。従って、そういったものを一つの物価指標だけではなく、総合的に捉えて、わが国の物価情勢がデフレの状況からどういう方向に向かっているのか、あるいはどの程度改善しているのかというところをみていくということが、これまで私どもがご説明してきたところだと考えています。ただ、その中で基準改定が現実に 5年に 1 回あって、その統計の数字が上方バイアスを持っているという事実に鑑みれば、そこのところは私どもが今申し上げた物価をいくつかの点でみる中でも、一つの重要な、見失ってはならない、あるいは無視してはならない要素であるというしっかりした認識を持っているということです。それ以上でもなければ、それ以下でもないということです。
§12Question
今のお答えは良く分からないのですが、物価の前年比が下方修正されるとして、その幅は発表されるまでわからないのですが、下方修正されるということで実体は変わらないにしても、より真実に近い数字になるということなので、もしかしたらデフレが今よりも深刻であるということを意味するかもしれない、そういう可能性があると思うのです。そうなると、金融政策に対する意味合い、金融政策運営にあたりしっかり念頭に置く必要があると言われているので、どういう方向を念頭に置くかということでいえば、今の超金融緩和、超低金利政策をより長く続けざるを得ない、続けるべきだという方向、あるいは、デフレがもっとひどいということになれば、より金融緩和をする方向のバイアスが高まるということを意味するのでしょうか。逆に、にわかには考えにくいですが、超低金利政策を早く脱する方向にバイアスがかかるということなのでしょうか。もう一度お答え下さい。
§13Tadao Noda
今、お話になった「より真実に近くなる」ということを、率直かつ真剣に捉えているということです。ただ、それでもって、より今の緩和政策が長く続くのか、―― その「より」というのは何と比べてかということだと思いますが ――、厳密に先行きの線を描いて、物価とコンシステントにきちっと対応させて考えれば、ご指摘のような、何がしか、── 何がしかというのは改定の程度が全くわかりませんので、あるいは限りなくゼロに近いかも知れませんので、そこは何とも申し上げられませんが ──、そこは私どもとしては、幅の不確実性も含めて、この時点ではしっかりと認識しておかなければならないと申し上げているわけです。それでもって、緩和の状況が変わるかどうかということについては、全くノーだということですし、緩和から脱するということが水平線の彼方に視野に入っているのかと聞かれれば、それは全くないというようにお答えしたいと思います。
§14Question
今朝、法人企業統計季報が発表され、設備投資が前年同期比ベースで+3.8%という状況にあります。先日の金融政策決定会合での景気判断は、「踊り場から脱しつつある」という表現だと思います。最近の統計も踏まえた上で、「脱しつつある」ではなく、「脱した」と考えられる時期について、どういった条件が必要で、いつ頃になるのかという目安について、お考えがあればお伺いしたいと思います。もう一点は、先程、野田審議委員から発言がありました、成長基盤融資の増額関連です。「副作用も私の耳に届いている」というのは、これは地銀も含めた金利競争の話なのか、具体的に副作用についてお話しいただければと思います。
§15Tadao Noda
踊り場からの脱却の条件、あるいはいつ頃かというご質問ですが、条件として、これがこうなれば踊り場から脱したという判断の基準があるというわけでは決してありません。これは総合的に捉えなければならないと思っています。私どもが常々申し上げているのは、事後的にどうだというのは、別の人が判断すれば良いわけで、私どもが最も重要としているのは、先行きがどうなるのかという判断であり、これについてはある程度幅をもって見なければなりません。ただ、今間違いなく言えることは、踊り場から脱却しつつあり、それを裏付けるような経済指標・データ、あるいは様々な情報が、かなり多くみられているということは言えると思います。ただ、それがいつかと言われると、なかなかお答えするのは難しいのですが、期待を持って言えば、数カ月も脱しつつある状態が続くというのは必ずしも自然なことではないと思っています。成長基盤に関する副作用ですが、記者の方が口の端に乗せられた銀行間、特に地域金融機関の間での競争の激化、もう尐し言えば金利競争の激化ということを耳にしていることは否定致しません。ただ、それ自体が、長い目で見て副作用なのかどうかというのは、その競争の中で成長企業を切磋琢磨して発見する、見つける努力を競うという意味では、それをもって直ちに副作用と断ずるのもいかがなものか、そこまで確信をもって言えるのかどうか、ということもあります。
§16Tadao Noda
こうしたところも含めて、今後もう尐し時間をかけて、検証、議論、さらには金融機関の皆様方のご意見も詳しく聴取する機会を持ちたいというのが個人的な意見です。
§17Question
人によって数カ月という言葉の意味合いには結構な幅があって、数カ月を 2~3 カ月と言う人もいれば、6~7 カ月と言う人もいます。どれくらいのイメージなのでしょうか。
§18Tadao Noda
今は3月ですが、私どもがバックワードに見ている指標は、単月ベースでは 12月や1月の統計です。それで方向感、あるいはモメンタムの強さ等をみているわけですから、そういった意味では、今言われた数カ月という中でも、幅があるうちの長い方ではないとだけお答えしておきたいと思います。
§19Question
今日の午前中の講演の中で、日銀としては、機動的にかつ適切な政策を、万が一、デフレ脱却の不確実性や、経済、物価の安定性が損なわれた時に実行していく思いだと言われましたが、これは、最近、野田審議委員の方で、危機あるいはダウンサイドリスクが尐しずつ明確になってきたということを意味するのでしょうか。
§20Tadao Noda
全く意味しません。先程お答えしたように、今そういうリスクが水平線の彼方にもみられるかというと、尐なくとも私の視野には、金融政策と結びつける意味において、リスクが顕現化しているというようには全くみていません。
§21Question
先程水平線の彼方に全くないと言われたのは、実質ゼロ金利の解除の話と受け止めていたのですが。
§22Tadao Noda
両方です。以上