宮尾審議委員記者会見(2011年3月23日)要旨
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§1Question
午前中の金融経済懇談会で地元の政財界の方から現場の声を聞かれたと思います。日本銀行として、地域経済の現状と課題についてどのような認識を持っておられるかお伺いします。また、それを日本銀行の政策にどのように反映していくお考えでしょうか。
§2Ryuzo Miyao
本日の金融経済懇談会では、地域経済を代表される皆様方から、地域経済の現状あるいは金融政策に関するコメントなど率直なご意見を頂き、大変有意義な意見交換ができました。地域経済に関しましては、日本銀行では全国32の支店等も活用しながら現状把握に努めており、その成果は、地域経済報告(さくらレポート)を通じて公表しています。本年1月に公表したさくらレポートでは、昨年秋から年末にかけて景気改善の動きにやや一服感がみられるということを指摘しました。しかし、年明け後の日本経済については──これは震災前の情勢判断になりますが──輸出・生産が増加基調に復するなど、踊り場から脱却しつつあるとの認識を持っており、地域経済につきましても、バラツキはありますが、総じて踊り場から徐々に脱却しつつあるように窺われています。そうした中で今回の震災が発生しましたが、日本銀行では日本経済全体をみると同時に、震災が地域経済に与える影響についても、きめ細かく確認・点検していかなければならないと認識しています。本日の金融経済懇談会などで得られたミクロ情報、支店を通じたヒアリング情報、それ以外のマクロの経済指標など、関連情報を丹念に点検したうえで金融政策決定会合に臨みつつ、今後とも地域の経済情勢を十分に踏まえながら、適切な金融政策運営を行っていきたいと思います。
§3Question
本日、懇談会で地元の方と意見交換をされた中で、地域経済の現状について、改めて認識されたことはありますか。
§4Ryuzo Miyao
本日の懇談会では、やはり震災の影響が大きなテーマの 1 つでした。今般の震災がもたらす国内経済・地域経済への影響についての様々なご意見、また、将来に対する不確実性や不安の声も聞かれました。今回の震災の影響を受けて、短期的には生産活動が低下することが懸念されますが、ここ大分県でも大手の出先工場が多く立地しており、そうした先、あるいは地場下請け企業を含めて同様に生産活動が低下する可能性が高いといった声や、足許そうした動きが既にみられているといったご意見が聞かれました。あるいは、観光業で相当数のキャンセルが出ているといった話や、今後復興需要が見込まれる建設資材について、既に当地においても逼迫が若干みられるといった声が聞かれました。そうした中で、これから大分県の地域活性化を是非進めていきたい、そのためには大分県が持つ様々な潜在能力を引き出すことが必要とのご意見が聞かれ、大変心強く感じました。例えば、人材育成の強化が必要であり、より質の高い人材が当地に残るように経営者は配慮していく必要があるとのご意見や、湯布院・別府といった国際的に有名でブランド力の高い観光資源や、東アジアに近いという地理的優位性を利用し、大分県の持つ潜在力を積極的に活かしていくことが重要との声が聞かれました。
§5Question
震災の影響に関し、追加緩和の決定や短期金融市場への大量の資金供給など、日本銀行による一連の施策について、本日聞かれた評価をお伺いします。
§6Ryuzo Miyao
日本銀行の政策については、これまで行ってきた積極的な金融政策を引き続き継続して欲しいとの声が多く聞かれました。
§7Question
本日の挨拶で、委員は、震災が国内外の経済に与える影響について、短期的には決して小さくないといった見方や、当初想定していた景気・物価見通しにどのような影響を及ぼすかについて、細心の注意を持って点検していく必要があると述べられています。震災の経済的影響が今後さらにはっきりしてくれば、現在日本銀行が想定している景気・物価シナリオに変更もあり得るとのご認識でしょうか。
§8Ryuzo Miyao
今回の震災の影響をどう考えるか、経済・物価情勢の今後の見通しにどのような影響を及ぼすかについては、先程の挨拶でも 3 点申し上げました。1 点目は、短期的に生産活動や物流を中心に、経済活動にマイナスの影響が及ぶとみられること、2 点目には、先行き不透明感等から、家計や企業のマインド悪化を通じて経済活動を下押しする可能性があること、3 点目は、今後正常化に向けた取り組みが進むにつれて復興に向けた様々な需要が出てくると思われますが、そのタイミングや規模については現時点で見通しにくいことと指摘しました。今後の景気・物価見通しに定量的にどのような影響を及ぼすのかといった点については、現時点で把握するのは困難と考えていますが、今後入手可能なデータについて丹念にかつ細心の注意を持って点検していきたいと考えています。その中には、私どもが先週決定した追加金融緩和政策の効果や、あるいはこれから起こり得る政府による様々な措置の効果等を含めて慎重に見極めながら、景気・物価見通しに対しどのような影響を及ぼすのか、慎重かつ細心の注意をもって点検していきたいと考えています。
§9Question
2 点お伺いします。1 点目は、今回の震災の影響で物流インフラがかなり打撃を受けたほか、東京電力の原子力発電所も今後使えなくなるのではないかとの懸念もあります。電力供給が経済活動のボトルネックになり、当面経済の下押しが危惧されることや、物資が逼迫することで、場合によっては企業・家計のインフレ期待が高まる可能性があるかどうか、ご所見をお伺いします。もう1 点は、将来の復興財源に関して、日本銀行による国債引受けを巡る議論もありますが、これに対するご意見をお伺いします。
§10Ryuzo Miyao
電力供給に関する懸念に関しましては、現在、関係各位が最善の努力を続けて復旧に当たっておられるところです。もちろん、被災地域を含め、広範囲で電力供給に対する懸念はあるわけですが、それが経済活動に悪い影響をもたらさないように最善の措置が鋭意検討され、対応が進めていかれると認識しています。物資の逼迫については、先程の金融経済懇談会の中で、大分県においても既に建設資材の逼迫が若干観察されるとの指摘があったことを紹介しましたが、その影響についても細心の注意をもって点検していきたいと思います。2 点目の、復興国債が発行された際の日本銀行の対応に関しましては、私からのコメントは差し控えたいと思います。そのうえで、中央銀行による国債引受けに関する一般論としてお答えしますと、この点の法的な取り扱いとして、欧州では明示的に禁止されているほか、新興国を含め世界の多くの国で、中央銀行による国債引受けは認められていません。わが国でも、財政法5 条本則で、日本銀行による国債引受けを禁じています。これは、一旦中央銀行による国債引受けが始まると、初めは問題なくともやがて通貨増発に歯止めが効かなくなり、激しいインフレを招き、国民生活や経済活動に大きな打撃を与えるとの過去の歴史の教訓を踏まえたものと認識しています。
§11Ryuzo Miyao
こうした基本原則が世界的に確立されている中で、日本銀行による国債引受けが万が一行われるということになると、通貨への信認自体を毀損することになります。通貨への信認は、わが国の金融経済にとってきわめて重要なインフラの一角をなすものと考えていますので、今後とも、国際的にも国内的にも、通貨への信認を維持して、金融面からのインフラをしっかりと維持することがきわめて重要だと考えています。
§12Question
電力不足の今後の状況についてお伺いします。まだ見えにくい部分が非常に多い問題ではありますが、電力不足の定量的な影響を試算するにあたっては、どういったデータをみていく必要があるとお考えでしょうか。
§13Ryuzo Miyao
今のご質問にはきわめて一般的にしかお答えできませんが、定量的にきちんと把握するためには、電力の供給量と需要量を推計することになろうかと思います。ただし、需要量の見通しや推計は、日々の需要や天候等に左右されることになりますので、不確実性を伴うものではないかと思っております。
§14Question
福島第一原子力発電所の 5、6 号機を稼働させれば、電力不足を解消できるとの試算もあるようですが、本日の金融経済懇談会の挨拶では、大分県における自然エネルギーに関する期待について述べられておられます。事実上、東京電力管内においては脱原発の方向にシフトせざるを得ないという前提で、今後の景気への影響を試算されているのかどうか、宮尾審議委員の個人的な見解で構いませんので教えてください。
§15Ryuzo Miyao
難しい質問ですが、電力供給の安定化につきましては、関係各位が必死にご対応されているところでありますので、その推移を見極めながら、わが国経済の影響についても、細心の注意を払って点検していきたいと考えています。
§16Question
再び震災関連の質問ですが、先行き 1~2 か月ですと震災の影響が含まれない経済指標が多く、実際に震災の影響を含んだ経済指標が発表されるまでには暫く時間がかかると思います。一方で本日の挨拶の中でも述べられたとおり、景気の下振れや下押し、マインドの慎重化といった影響が懸念されます。こういう状況であればこそ、中央銀行として積極的な行動──資産の買入れの実施等──により、マインドの悪化を防ぐことができると指摘しておられますが、こうした中央銀行による早めの対応、政策の発動の必要性に関して、現状ではどのようにお考えでしょうか。
§17Ryuzo Miyao
ご質問にありますように、まさに中央銀行による早めの対応が必要であると考え、先週の金融政策決定会合では、通常の2日間の日程を 1日に短縮して、5 兆円の基金の増額を決定しました。企業や家計のマインド悪化が懸念され、短期的に生産活動の低下が見込まれる中で、人々のマインド悪化やリスク回避姿勢の高まりが経済に悪影響を及ぼすことを未然に防ぐという観点から、より一段の金融緩和の強化を決定したところです。こうした姿勢を示すことはきわめて重要かつ適切であると判断し、今回の措置を決定した次第です。
§18Question
追加の質問ですが、先週実施された追加金融緩和策については企業や家計のマインド悪化を防ぐ一定の効果があったと思われますが、金融政策決定会合後に停電や福島原子力発電所の報道等があり、企業や家計のマインドが更に悪化している状況にあるとの指摘もあります。こうした中で先週 14日に決定した政策が実際に効いているのかどうかご認識を教えて下さい。
§19Ryuzo Miyao
先週の金融政策決定会合での決定が、景気や物価へどのような影響を及ぼすかについては、引き続き慎重に見極めていきたいと思っています。本日の挨拶でも申し上げましたとおり、人々のマインドが過度に委縮ないし過度に悲観的な方向に増幅する状況において、中央銀行が積極的なアクションをとって、そうした動きを是正するのは、リスクプレミアムを持続的に引き下げるという意味でも非常に効果がある政策だと考えています。そうした点から、今後正常化に向けた取り組みが一歩一歩進んでいく中で、今回の政策がより有効な効果を発揮し得るのではないかと考えています。
§20Question
2 点お伺いします。1 つ目に、阪神・淡路大震災の際には、日本銀行が被災地の銀行に政策金利で貸出を行うという事例があったのですが、今後、同様の措置を実施する可能性があるのかという点についてお伺いします。2 つ目に、先週のG7 の協調介入に対する評価をお願いします。
§21Ryuzo Miyao
まず 1 点目ですが、阪神・淡路大震災の際は、被災地の復興を目的に融資を行う民間金融機関の活動を支援するために、被災地域に営業店を有する金融機関のうち、希望する先に対して通常の日本銀行貸出とは別の枠組みを設けて貸出を実施しました。その措置は、被災地域の復興活動を着実に進めていくために、民間金融機関から復興資金の供給が円滑に行われることが重要となる局面におきまして、金融機関などからの要望を踏まえ、実施したものです。今回の東北地方太平洋沖地震におきましては、現在、金融機関の現金手当への対応などを含めて、金融機能の維持、あるいは資金決済の円滑の確保を図ることに全力を挙げて取り組んでいる最中です。今後、被災地域の復興活動を着実に進める観点から、とり得る政策対応についても真剣に検討していきたいと考えています。先行きの経済・物価動向に関して注意深く点検したうえで、必要と判断される場合には、適切な措置をとっていきたいと考えています。2 つ目のG7 につきましては、先進各国の協調介入というかたちで、財政当局が介入を実施したと認識しています。急激な円高が進行する下で為替レートの動きをスムージングさせるという意味で、一定の効果があったのではないかと考えています。
§22Question
2 点お伺いします。1 つ目に、震災後、日本銀行は短期金融市場に異例の資金供給を続けていますが、これに対する宮尾審議委員の評価をお聞かせ下さい。2 つ目に、そうした資金供給の結果として、日本銀行の当座残高が昨日時点で 41 兆円と過去最高となっています。今後の状況を細かく点検していくということですが、もし仮に状況が悪化した場合、この預金残高を放置したまま追加金融緩和に踏み切る可能性があるのかということについてお聞かせ下さい。
§23Ryuzo Miyao
まず 1 点目の潤沢な資金供給については、日本銀行は先週 1 週間および昨日までに、金融機関の旺盛な資金ニーズに応えるかたちで、きわめて潤沢な資金供給オペを実行しております。オファーの総額は、昨日時点で 92.5 兆円となっており、最終的な落札額──これは実際に実行された資金供給額ですが──は 64 兆円となっています。金融機関サイドにこれだけ膨大な短期資金のニーズがある中で、中央銀行がしっかりと資金供給を実施して金融機関の不安を抑えるという意味において、非常に重要な効果があったのではないかと考えています。その結果、足許当座預金が積み上がっています。当座預金の積み上がりは、今申し上げた潤沢な資金供給に加えて、財政の受払などの日々の資金の流れ等も受けたものですが、今後も金融機関の資金ニーズに応じて、潤沢な資金供給をしっかりと続けて参りたいと考えています。2 点目の追加緩和の可能性に関しましては、それはあくまで金融政策という観点で考える必要があります。先程から申し上げているとおり、経済・物価への先行き見通しを点検したうえで必要と判断される場合には、適切な手段を講じていく考えです。
§24Question
先程、万一、日本銀行によって国債の引受けが行われると、通貨の信認が毀損されるおそれがあるというお話をお伺いしました。一般論で結構なのですが、日本銀行による国債の引受けは財政法 5 条で禁止されていますが、同じ財政法の条項には、但し書きとして「特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない」と明記されています。それを踏まえた上で、先程国債引受けは通貨の信認が毀損されるとおっしゃったわけですが、それは宮尾審議委員が国債引受けについては明確に反対されているという理解でよいのでしょうか。
§25Ryuzo Miyao
復興国債に関するコメント、あるいは日本銀行による国債の引受けに関するコメントにつきましては、先程申し上げた通り、差し控えたいと考えております。あくまでも一般論として、財政法の本則で国債引受けが禁じられていることは、やはり重要な点かと思います。中央銀行として、通貨の信認を維持していくということはきわめて重要であると考えていることを重ねて申し上げたいと思います。以上