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Bank of JapanPress conferenceApr 1, 2011Sayuri Shirai, Board Member

白井審議委員就任記者会見(2011年4月1日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

就任にあたっての所感と、今後の抱負についてお話頂けますか。

§2Sayuri Shirai

本日、辞令交付を受け、審議委員を拝命した白井でございます。どうぞよろしくお願い致します。まず、私の就任にあたっての所感と抱負を述べる前に、今回の東日本大震災で犠牲となられた方々に対して、心よりお悔やみ申し上げます。それとともに、被災者の皆様に対して、心よりお見舞い申し上げます。さて、審議委員就任にあたっての抱負ですが、私は、これまで18年程にわたり、IMF、国内外の大学、その他の国際機関において、中国・アジアを中心とする世界のマクロ経済、為替制度、国際資本移動、金融資本市場といった分野の分析、研究に携わって参りました。特に、最近では欧州、中でもユーロを採用している地域を中心に、財政・経済問題について、論文や著作等を発表してきました。そうしたこれまでの分析、研究活動を通じて蓄積した知見も活かしながら、金融政策決定の議論に貢献していきたいと思っています。わが国の経済・物価情勢については、わが国観測史上最大とも言われる今回の地震の発生により、大きな不確実性を抱えたと思っています。特に東北地方には、製造業の部品・部材工場が集積しており、それらの工場が被災したことで、国内外のサプライチェーンが寸断される状態に陥っています。

§3Sayuri Shirai

それに加えて、電力供給の悪化により経済活動が打撃を受けており、日本全体の家計や企業への心理的影響なども考えますと、今後、細心の注意をもって、景気の現状と先行き、および物価の動向について点検していく必要があると思っています。このような時期に日本銀行の審議委員を拝命し、これは相当責任重大だなと、正直身の引き締まる思いです。こうした難しい情勢のもとで、私としては、今後、内外の経済データや現場のヒアリング情報等も十分に参考にしながら、適切な判断をするように努めて参りたいと思っています。日本銀行に課された使命である物価の安定、そして経済の持続的成長、金融システムの安定に尐しでも貢献できるよう、全力を尽くして参る所存ですので、何卒どうぞよろしくお願い致します。

§4Question

質問が若干重複する部分があるかもしれませんが、委員がこれまでご専門としてこられた分野からみた内外の経済情勢について、ご所見をお願いします。

§5Sayuri Shirai

足許の経済情勢、景気情勢についてですが、やはり今回の大震災がありましたので、震災前と震災後では大きく状況が変わっており、両者を分けて考えなければいけないと思っています。震災前は、景気が改善する見通しがある程度みえていたわけです。すなわち、輸出や生産、あるいは緩やかながら雇用も回復する兆しがみられました。また、消費者物価――生鮮食品を除いたコアの消費者物価――も下げ幅が縮小している状況にあったわけです。しかし、今回の大震災、そして電力供給の不安定化などによって、現在、非常に先行きが不確実な状態になっているとみています。

§6Question

東日本大震災の復興に当たっては、財源をどうするのかという議論が出ています。一部報道によれば、震災の復興国債を政府が発行して日本銀行が直接引受けるという論議がありますが、これについてのご所見をお願いします。

§7Sayuri Shirai

まず、震災からの復興・復旧に関する政府支出に関しては今政府において議論している最中ですので、私の立場からはコメントを差し控えさせていただきます。この、復興国債という話は、非常に大きな震災があり皆さんが心を痛めていて、どうしたら早く復旧できるかという観点から出てきた案だと思います。そうした気持ちは、私も十分理解しています。ただ、一つ一つの政策を考える際には、その政策が私達国民にとって長期的にみて良い結果をもたらすのかどうかを常に検討しなければいけないと思います。その上で、中央銀行による国債の引受けについて一般論を申し上げると、例えば、私が専門分野としてきた欧州、とくにEUでは、基本条約でECB(欧州中央銀行)による国債の引受けおよび政府に対する直接的な融資を明確に禁止しています。その他の多くの主要な国々でも、明確に中央銀行による国債引受けを禁じています。このように、ある種の国際的なコンセンサスがあることをまずきちんと踏まえなければいけないと思います。何故そのようなコンセンサスが国際的にできているのかといえば、その背景には共通の歴史的な認識があることが指摘できます。最初は、中央銀行による国債引受けを認めて、それが良いと思うかもしれません。しかし、そうしたことを一旦導入してしまうと、後に歯止めが効かなくなり、国債の乱発に繋がるかもしれません。

§8Sayuri Shirai

そのためにインフレが起きてしまえば、結局国民の皆様が銀行券を安心して使えなくなってしまい、経済活動に色々な歪みをもたらす惧れがあります。一番気を付けなければならないことは、長期的にみた場合に、通貨に対する信認が失われてしまう可能性です。一度通貨に対する信認が失われると、長期金利に跳ね返ってきます。長期金利が上昇すれば、政府の利払いに大きな負担となって返ってきます。そうしたことがあるからこそ、先程申し上げたようにEUも明確に中央銀行の国債引受けを法律で禁じており、日本でも財政法 5 条で日本銀行による国債の引受けを禁止しているわけです。したがって、そのようなリスクを十分考慮した上で、日本銀行による引受けといった案が妥当かどうかを考えていく必要があると思っています。

§9Question

財政法では特例の規定があり、特別な事由がある場合は、国会で審議し議決すれば、議決を経た金額の範囲内で国債を引受けできるという定めがあります。また、与党の中では日本銀行が直接国債を引受けることで貨幣の供給量が増えて、お金が市中に増え、結果として物価が上がり、それがデフレ脱却や景気の回復に繋がるという意見もあるわけですが、これについてはどのように思われますか。

§10Sayuri Shirai

そのような意見があることは、理解しています。しかし、私が強調したいことは、短期的な面だけではなく、長期的にその政策が経済および国民の皆様にとって良い結果をもたらすのかを常に考えていかなければいけないということです。特に中央銀行による国債の引受けは、先程申しましたように、ある種の国際的な共通のコンセンサスがあります。中央銀行が国債を引受けることに関しては、明示的に禁止しているという国際的なコンセンサスがある中で、もし日本だけがそのような措置を行った時に、市場の受止め方次第では、取り返しのつかない問題が起きてくると思います。通貨の信認というのは、私の研究活動を通しても感じていることですが、一度失ってしまうと、なかなか取り戻せません。最近の例においても、ハイパーインフレ、つまり高いインフレを経験した国がありますが、そうした国が通貨の信認を取り戻すのは大変なことです。しかも、わが国の場合は、通貨である円が国際通貨であり、経済規模も世界第3 位という国です。こうした国で中央銀行が国債を引き受けるようになると、それが日本の長期金利に跳ね返り、日本の金融資本市場にも影響を与えると思いますし、日本に止まらず国際的な影響があるかもしれません。したがって、そのようなことを十分考えた上で、このような政策について判断していく必要があると思っています。

§11Question

先程、震災前と後では経済の状況を分けて考えないといけないとおっしゃいました。日銀では、震災を受けて、日銀短観を本日発表し、また 4日にも再び発表するという異例の措置を採っていますが、こうした措置についてどのようなご所見をお持ちでしょうか。

§12Sayuri Shirai

今回、特例措置として週明けに新たに参考計数を発表する背景には、短観の回答を集める段階において、途中で大震災が発生したことがあります。そのため、震災前と震災後という、アンケートに回答した時期によって、おそらく回答の内容が相当変わっているわけです。本日は、震災前と震災後の回答が混ざっている全体の集計結果が発表されました。それによると、前回調査に比べれば、若干ですが景気の現状認識が良くなっている、しかし先行きは尐し悪くなっているという内容です。この先行きが尐し悪くなっているのが震災の結果なのかどうかは見極められません。こうした点を見極めたいというニーズもあって、週明けに、震災前と震災後に回収した回答を分けて再集計した業況判断DIを発表することにしました。私自身も、その結果を強い関心を持って注視しています。

§13Question

震災後の景気の見通しが、当面の金融政策を判断する上での重要なポイントになると思います。不確実性が高い中ではありますが、当面の見通しをどのように展望していらっしゃいますか。

§14Sayuri Shirai

震災後の見通しですが、まだ判断するためのマクロデータがありません。この点をお断りした上で、私の意見を申し上げます。まず、当面は生産や輸出等が減尐する可能性があります。それは、1 つには東北地方でインフラや生産設備そのものがかなりの被害を受けているということ、それから北関東地方の工場も被災しているということ、また電力供給の悪化による経済活動・物流への影響を考えると、自動車産業を中心に、当面は輸出・生産が減尐すると考えられます。同時に、先程も申し上げましたが、今回の震災や電力不足が、日本全体の家計や企業へ心理的に様々な影響を与えています。そうした大きな影響があるので、当面の見通しは非常に不確実性が高いと思っています。ただ、いずれ中期的には復興・復旧が始まり、それに関連した需要が増えていくため、その分だけ成長していく可能性もあります。それがいつ始まるのか、どの程度の大きさなのかは、今判断するのは時期尚早だとみています。

§15Question

今般の地震もそうですが、経済がダウンサイドのショックに見舞われて、実体経済面や心理面にダメージを受けた際に、金融政策で積極的に対応していく、あるいは緩和的な政策を保ちつつ他の財政政策などの出動を待つなど、色々な考え方があると思います。ダウンサイドのショックに対し、金融政策はどのように対応していくべきとお考えでしょうか。

§16Sayuri Shirai

ご存知のように、震災後、日本銀行は比較的迅速に対応していると思います。例えば、被災地に現金を迅速に供給しているほか、預金証書等を持っていない方への払戻しにも応ずるよう金融機関に要請しています。また、決済システムの根幹である日銀ネットもしっかり機能していますし、大量のオペも実施しています。さらに、3月14日にはリスク性資産を中心に、より多くの資産買入れを行うことを決定しました。私は本日就任したばかりですから、今後、データや現場のヒアリングなどの情報を参考にして、経済・物価の動向をしっかり見極めていく必要があると思っています。その上で、これからどういう政策が必要なのかということを考えていきたいと思っています。

§17Question

日銀による国債の買入れを巡っては、いわゆる「銀行券ルール」が今まで運用されて来ているのですが、審議委員からご覧になって、その必要性、有用性とか、このルールについてどのようにご覧になっているのか、今後どういうかたちで遵守していく必要性があるのか、ご感想をお願い致します。

§18Sayuri Shirai

ご質問の趣旨は、長期国債の買入れについての銀行券ルールが今後どうあるべきか、ということだと思います。ただ、私は本日就任したばかりですので、それにつきましては、色々なデータ等も踏まえた上で、これから考えていきたいと思っています。現段階でのコメントは控えさせてください。

§19Question

ご専門の国際通貨関係でお伺いします。為替について、これまで日本経済は円高に対する脆弱性が大きくクローズアップされることが多かったわけですが、今後、復旧関係の輸入増加により経常収支が大きな赤字に転落するかもしれない中で、急激な円安と急激な円高のどちらの方がリスクが大きいとみればよいか、ご所見をお伺いします。

§20Sayuri Shirai

為替の動向については、経済の先行きの不確実性が非常に高まっていることもあり、今、私の意見を申し上げるのは、時期尚早かと思います。

§21Question

3 点伺います。 1つ目は、地震が発生したことで日本の金融政策に対する海外からの注目度が高まっていると思いますが、海外に向けてどのようなメッセージを発信していきたいとお考えでしょうか。2 つ目に、金融政策運営上、白井審議委員はボードメンバーの中でどのようなスタンスに立っていると認識されているでしょうか。最後に、出身地を教えて下さい。

§22Sayuri Shirai

今回、甚大な震災、電力不足の問題などが生じており、先行きの不確実性が高まっている状況のもとで、物価見通しがどのようになるかについては、プラス・マイナス両方に動く可能性があり、現時点では見極めが非常に難しいと思います。私としては、自分の知識・経験を活かしつつ、できる限りデータを収集・咀嚼し、日本経済の発展のために適切な判断をしていきたいと申し上げたいと思います。2 つ目のご質問については、今後、金融政策決定会合等の中で、私の考えをお示ししていきたいと思います。最後に、出身地は東京都です。以上