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Bank of JapanPress conferenceApr 7, 2011Masaaki Shirakawa, Governor

総裁定例記者会見(2011年4月7日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の決定会合の結果について、先日公表された短観の解釈も含めてご説明願います。

§2Masaaki Shirakawa

東日本大震災の発生からほぼ1か月が経ちましたが、多くの尊い命が奪われた上、今なお多くの行方不明の方がいらっしゃいます。今回の地震で犠牲になられた方々に対し、心よりお悔やみを申し上げます。また、現在も多くの方が厳しい生活を余儀なくされています。被災者の皆様に対し心よりお見舞いを申し上げます。今回の大震災について、多くの海外中央銀行からお見舞いの言葉を頂いたほか、タイの中央銀行とその職員有志、およびBISからは、義捐金も寄せられています。世界の中央銀行の仲間が、わが国の苦難に心を痛めるとともに、日本経済の回復を確信し、これを心から支援してくれていることに大変感謝し、また勇気付けられた次第です。本日の決定会合では、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。また、被災地金融機関を支援する資金供給オペレーションを実施することが必要と判断し、骨子素案を取りまとめたほか、担保適格要件の緩和を図ることが適当と判断しました。その上で、議長である私から、これら2 つの措置について具体的な検討を行い、次回の金融政策決定会合において報告するよう執行部に指示しました。

§3Masaaki Shirakawa

日本銀行は、地震発生後、金融市場の安定を確保するため、市場において需要を十分に満たすようリーマン破綻後の金融危機時に行った資金供給を大きく上回る潤沢な資金供給を行ってきています。また、リスク性資産を中心に資産買入等の基金を 5 兆円程度増額し、買入規模を2 倍として金融緩和を一段と強化しました。こうした措置に加えて、今回、被災地の金融機関を対象に、今後予想される復旧・復興に向けた資金需要への初期対応を支援するため、被災地に営業店を有する金融機関に対し、期間 1年の資金を 0.1%の超低利で供給するオペレーションを総額1 兆円の規模で実施することが必要と判断しました。被災地において、今後の預金受入れの動向が不透明である一方、資金需要が大きく高まることが予想される中で、被災地金融機関にとっては、現在の潤沢な資金供給に加えて、さらに長めの資金供給が行われれば、資金調達面からの安心感につながると考えられます。さらに今後の被災地金融機関の資金調達余力を確保する観点から、担保適格要件の緩和を図ることとしました。次に、以上の決定の背景となる経済・物価情勢についてご説明します。まず、わが国の景気については、震災の影響により、生産面を中心に下押し圧力の強い状態にあると判断しました。今回の地震の影響で広範囲に亘る地域において、生産設備が毀損されています。

§4Masaaki Shirakawa

被災地の工場で、生産されていた部品や素材の供給に制約が生じていることなどから、サプライチェーンにも障害が生じています。さらに、発電設備が大きく毀損されたことに伴い、電力供給面での制約も生じています。これらを受けて、一部の生産活動が大きく低下しており、輸出や国内民間需要にも相応の影響を及ぼしています。先日公表した3月短観をみると、今回の震災前までは日本経済が私どもの見通し通りの回復を続けていたことが裏付けられました。同時に震災後の回収分のみを集計した業況判断DIからは、業種・規模を問わず、企業が先行きの悪化を予想していることも確認されました。いずれにせよ、今回の短観には、震災の影響が十分織り込まれてはいませんので、ここから多くの情報を引き出すことは難しいとみています。次に震災後の金融動向をみると、関係者の懸命の努力を通じて、わが国の金融・決済機能はしっかりと維持されています。日銀ネットや全銀システムなど主要な決済システムは正常な稼働を維持し、円滑な決済が確保されており、金融市場も全体として安定しています。被災地の金融機関も現金需要を満たすための預金の引出しや企業の運転資金や手許資金需要の高まりに、円滑に対応しています。このように、震災後、金融システムと金融市場が頑健性を維持していることは、厳しい経済情勢を金融面から下支えし、人々の安心感を確保する上で、その意義は大きいと思っています。

§5Masaaki Shirakawa

この間、金融環境をみると、総じて緩和の動きが続いていますが、震災後、中小企業を中心に一部企業の資金繰りに厳しさが窺われています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、下落幅が縮小を続けています。特に高校授業料の実質無償化等の影響を除いてみると、前年比が小幅のプラスとなっています。先行きの見通しについて申し上げると、わが国経済は、当面、生産面を中心に下押し圧力が強い状態が続くとみられます。その後、供給面での制約が和らぎ、生産活動が回復していくにつれて、海外経済の改善を背景に輸出が増加するほか、設備投資、住宅投資、公共投資など、資本ストックの復元に向けた動きが顕現化することなどから、わが国経済は、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、当面、小幅のプラスに転じていくと考えられます。ただし、本年8月には消費者物価指数の基準改定が予定されており、それに伴い、前年比が下方に改定される可能性が高いことも意識しています。次に、リスク要因についてご説明します。景気の上振れ要因としては、これまでと同様、旺盛な内需や海外からの資本流入を受けた新興国・資源国経済があります。これらの国の多くでは、金融緩和策の修正を進めていますが、景気過熱やインフレに対する懸念は依然、払拭されていません。

§6Masaaki Shirakawa

一方、下振れ要因としては、国際金融市場の動向や、一頃に比べ低下しているとはいえ、米欧経済の先行きを巡る不確実性があります。さらに、今回の震災がわが国経済に及ぼす影響という大きな不確実性が加わりました。この間、国際商品市況の上昇もリスク要因として注意が必要です。国際商品市況の上昇は、その背景にある新興国・資源国の高成長が、わが国にとって輸出の増加につながる一方、交易条件の悪化に伴う実質購買力の低下は、国内民間需要を下押しする面もあります。物価面では、国際商品市況の一段の上昇により、わが国の物価が上振れる可能性があります。一方、中長期的な予想物価上昇率の低下などにより、物価上昇率が下振れるリスクもあります。日本銀行は、引続き震災の影響を含め、先行きの経済・物価動向を注意深く点検した上で、必要と判断される場合には、適切な措置を講じていく方針です。日本銀行は、前回、金融緩和の強化を決定し、また本日は被災地金融機関の支援のための資金供給オペレーションの検討を決めたところです。当面は、これらの措置が経済に対してどのような影響を及ぼしていくのか、しっかり点検していくべき段階にあると認識しています。

§7Question

震災からの復興に向けた展望とその過程における課題について、どのようにお考えになっていますか。また、本日、被災地金融機関を支援する貸出の検討指示が出されたわけですが、今後、復興過程において、日本銀行としてどのような貢献をお考えでしょうか。

§8Masaaki Shirakawa

まず最初に、今回の震災をリーマンショックとの比較で位置付けてみたいと思います。わが国経済は、生産面を中心に、2008年秋のリーマン破綻後と同様に、大幅に落ち込んでいます。もっとも、リーマン破綻後の落ち込みは、金融収縮に端を発する「需要の蒸発」が原因でしたが、今回は、供給面の制約が経済の落ち込みの原因であり、「需要の蒸発」が生じたわけではありません。供給面での制約が解消していけば、海外経済の改善を背景とする輸出の増加や、資本ストックの復元に向けた需要の顕現化などから、日本経済は緩やかな回復経路に復していくと考えています。このように、時間軸を意識しながら先々の経済を展望した場合、今申し上げたような回復経路に復していく上で、多くの課題を克服していく必要があります。中央銀行の立場からは、次の 3 点を指摘したいと思っています。1 つ目の課題は、供給面での制約の解消に向けた努力です。この点、企業サイドでは、生産施設の再稼働、西日本などへの生産代替の推進、代替調達先の確保、電力不足への対応など、既に様々な取り組みを進めています。今後、供給面での制約が解消していけば、世界経済が新興国・資源国に牽引されて高い成長を続けているだけに、輸出の増加が日本経済の回復を支える原動力の 1 つとして、はっきりと作用してくると見込まれます。2 つ目の課題は、震災によって毀損した資本ストックの復元です。

§9Masaaki Shirakawa

そのためには、必要な資金調達を確実なものとすることが大事ですが、わが国の場合、家計および企業部門の貯蓄超過状態が続いています。従って、金融システム・金融市場の安定が確保されている限り、マクロ的にみれば、資本ストック復元のための資金調達が困難な状況ではありません。3 つ目の課題は、被災地をはじめ、わが国経済が現下の困難を乗り越えるとともに、これが同時に、将来の成長力の向上につながることを意識しながら、復旧・復興に向けた取り組みを進めていくことです。こうした取り組みは、企業や家計の中長期的な成長期待が下振れしないようにするためにも重要な課題です。さらに、以上3 つの課題に取り組む際には、内外への正確な情報発信を行っていくことが必要です。特に、日本経済に対する不安感などから風評被害が起きやすい時だけに、誤解を招かないような情報発信が現在きわめて重要となっています。今回の震災の影響は大きいわけですが、日本経済は、今申し上げた 3つの課題を克服し、再び持続的な回復経路に復帰した上で、成長力の高い経済を築き上げていくことができると確信しています。日本銀行としては、わが国経済がこうした課題を克服していくことを金融面から支援していくことが中央銀行の最大の貢献であると考えています。

§10Masaaki Shirakawa

すなわち、日本銀行は、第1 に、金融機能の維持と資金決済の円滑確保に万全を期していくとともに、金融市場の安定を維持し、金融市場におけるリスク回避姿勢の高まりが実体経済に悪影響を与えることを未然に防止する観点から、市場の需要を十分に満たす潤沢な資金供給を続けるとともに、リスク性資産を中心に資産買入等の基金を増額しました。米ドル資金供給オペレーションについても、こうした趣旨から、3 か月物に加えて、新たに 1 週間物の資金供給を開始しています。第2 に、今回の決定会合では、被災地の金融機関の円滑な金融機能の発揮を支援するための措置を検討していくこととしました。第 3 に、日本銀行は、その調査・分析機能を活用しながら、震災が日本経済や金融システムに与える影響を調査し、内外に向けて正確な情報発信に努めていきます。日本銀行としては、引続き、震災の影響をはじめ、先行きの経済・物価動向を注意深く点検した上で、必要と判断される場合には、適切な措置を講じていく方針です。

§11Question

震災からの復興に関連して、必要な財源捻出のための復興国債の日銀引受けということが、度々議論にのぼっています。これについて、総裁のお考えを改めてお伺いします。

§12Masaaki Shirakawa

復興資金をどのような方法で調達するかについては、政府・国会でお決めになることであり、私からコメントすることは差し控えたいと思います。その上で、中央銀行による国債引受けについて、一般論としてお答えします。この点に関する法的な取り扱いをみると、欧州では、中央銀行の国債引受けが明示的に禁止されているほか、新興国を含め世界の多くの国で、中央銀行による国債引受けは認められていません。わが国でも、財政法第5 条が本則で日本銀行による国債引受けを禁じています。このような取り扱いは、いったん中央銀行による国債引受けを始めると、初めは問題はなくても、やがて通貨の増発に歯止めが効かなくなり、激しいインフレを招き、国民生活や経済活動に大きな打撃を与えたという歴史の教訓を踏まえたものだと思います。このように通貨に関する基本原則が世界的に確立されている中で、日本銀行による国債引受けが行われると、わが国への信認、通貨への信認自体を毀損することになります。こうした通貨への信認の毀損は、長期金利の上昇や金融市場の不安定化を招き、現在は円滑に行われている国債発行が困難になる惧れもあります。震災後、国庫短期証券を含めて 12 回の国債入札が行われており、震災直後を除き、好調な入札結果となっています。こうした現在の安定的な国債発行環境を維持していくことが大事であると考えています。

§13Masaaki Shirakawa

今回の震災の経験から、私どもはインフラが破壊された場合に、国民生活や経済活動にいかに大きな影響が生じるかを改めて認識させられました。この点、通貨への信認・信頼は、わが国の金融・経済にとって重要なインフラの一角をなすものです。日本の財政状況は厳しく、日本経済も震災の大きな影響を受けている時であるだけに、国際的にも国内的にも通貨への信認・信頼をしっかりと維持することがきわめて重要な課題だと思っています。

§14Question

この先の経済の不確実性が大きい要素の 1 つとして、福島第一原発の事故があると思いますが、これが経済に与える影響についてどうお考えかお聞きかせ下さい。

§15Masaaki Shirakawa

福島第一原発の影響ですが、1 つは電力供給の制約という問題です。福島に限りませんが、関東・東北地方では電力供給の制約が生産活動を下押ししています。生産設備の立ち上げや立ち下げに時間がかかる業種、あるいは製品の品質維持のために常時通電が必要である業種などでは、生産設備に大きな損害がなくても、計画停電により電力の安定供給が確保されない状況が続くことになり、工場の稼働率低下につながっているとの声が聞かれています。影響を及ぼすもう 1 つのルートとしては、原発の安全性への懸念による様々な風評被害から、生産や観光をはじめとする周辺地区での様々な経済活動が大きな影響を受ける可能性もあります。日本銀行としては、そうした電力供給の制約、風評被害による影響等について、注意深くみていきたいと考えています。

§16Question

本日示された新たな資金供給オペの金額は1兆円ですが、この額に決めた理由は何でしょうか。また、今後、必要があれば増額するお考えがあるのか伺います。

§17Masaaki Shirakawa

本日お示しした措置は、先程も申し上げましたが、被災地の金融機関を初期段階において支援することを狙いとしています。今回の被災による影響はまだ正確には分かりませんし、見通すことは非常に難しいことだと思います。先般、内閣府が発表した試算によると、今回の大震災の被害見込みは約16~25兆円程度です。これは、阪神・淡路大震災の約 10 兆円の 2 倍程度となっていること、阪神・淡路大震災の際に私どもが行った、いわゆる復興支援貸出の限度額は5 千億円だったことも勘案して1兆円が適当と判断しました。なお、被災地の金融機関において、現在、資金の不足が生じているということではありません。しかし、被災地の生活を考えると現金の引出しに応えていく、あるいは今後復旧・復興が本格化してくる段階で資金需要が増えてくる、そうした事を今から想定して初期段階で対応していく必要があるということです。現在、政府においても地方公共団体においても、復旧・復興に向けた様々な取り組みが進められています。そうした事が今後どのようになるのかによって、最終的な被災地企業の資金需要は変わってくると思いますが、日本銀行はこの初期の段階でしっかりと対応していきたいと判断しました。

§18Question

先行き、経済が再び回復経路に復していくためには、生産体制の回復が必要だと思いますが、これは、いつ、どのようなことで回復していくのかという点についてご所見を伺います。

§19Masaaki Shirakawa

現在の経済活動の落ち込みは、供給制約が突然生じたためであり、それに伴って需要も減少しているためです。こうした基本的な原因である供給制約──これはサプライチェーンの問題もありますし、電力の問題もありますが──、こうした供給制約が解消していけば、それに伴って本来の需要がまた戻ってくるということです。ここで、本来の需要とは、海外経済が高い成長率を維持し、そのもとで様々な需要が増えていくということです。従って、経済が回復に向かう基本的なメカニズムは供給制約の解消であり、それを支えるものは世界経済全体の好調ということになります。次に、供給制約がいつ解消するのかということですが、サプライチェーンについては、現在企業が懸命になってその修復に努めています。正確な時期はもちろん特定できませんが、6月か 7月くらいには、このサプライチェーンの制約は解消していくだろうと期待しています。一方、電力についてはこの後いったん計画停電が解消されますが、夏場にかけて再び電力不足が関東地区を中心に生じてくると考えられます。その後は、また、いったん電力の供給制約は解消していくことになると思います。そのような供給制約の解消について、日本銀行で時期を特定することは性格上難しいわけですが、注意深く点検していきたいと考えています。

§20Question

震災発生前、総裁はデフレ脱却の道筋が展望できたというご発言をよくなさっていましたが、震災発生後の今はどのようにお考えですか。

§21Masaaki Shirakawa

物価の見通しをどのように考えるのか、という趣旨のお尋ねかと思います。物価を考えていく上で、需給ギャップ、輸入コスト、予想物価上昇率の3 つの要因があることは、いつも申し上げている通りです。まず、需給ギャップですが、現在生じているような、サプライチェーンの寸断や、電力不足といった事態は、需給ギャップの議論で通常想定しているような世界ではないと思います。また、供給力が低下すると同時に、それに伴って需要も減少しているため、足許の需給ギャップについて正確に捉えることは、なかなか難しいように思います。いずれにしても、財によってはボトルネックが生じると思いますので、その面からは短期的には物価が少し上がる要素があるように思います。また、輸入コストについてですが、このところ国際商品市況がさらに上昇していることから、こちらの面でも物価は上昇していく要素があると思います。一方、中長期的な予想物価上昇率については、先行き変化していく感じはありません。これについては、少し長い目でみて需給ギャップがどのように変化していくのかということが基本にあるわけですが、この点については次回の決定会合で展望レポートを議論する時にしっかり点検していきたいと思っています。

§22Question

話題は変わりますが、本日の政策決定会合でも「全員一致」であり、最近は「全員一致」というケースが多いです。かつては中原審議委員がいらしてずっと「反対」ということもありましたが、より多様な意見を持った人材を取り込んでいくべきというお考えはないでしょうか。一義的には政府が決めるわけですが、お考えをお聞かせ下さい。

§23Masaaki Shirakawa

政策委員会のメンバーを任命するのは、政府・国会のプロセスです。私から任命のプロセスについてコメントすることは不適切だと思います。いずれにせよ、本日の決定会合での議論もそうでしたが、9 名の政策委員会のメンバーが様々な角度から自身の見解を表明し、実に活発な議論が行われていると思います。最終的な採決の結果が仮に「全員一致」の場合でも、あるいはそうでない場合でも、日本銀行の政策委員会は、非常に活発な議論を行っていると実感しています。

§24Question

震災に話を戻しますが、震災発生から 1 か月近く経って、未だに被害の全貌が分からないわけですが、地域金融機関についてどの程度の被害状況なのか、お分かりでしたら教えてください。

§25Masaaki Shirakawa

地域金融機関についてのご質問に答える前に、まず全体感をお示しするため、金融システム全体についてお話し、最後に地域金融機関について申し上げたいと思います。今回の大震災の被害は甚大ですが、それによって、わが国の金融システム全体の安定が脅かされることにはならないと考えています。その理由として第 1 に、金融機関はこれまで増資や内部留保の蓄積を通じて自己資本の充実に努めており、損失吸収力を高めています。第2 に、日銀ネットや全銀システムなどの主要な決済システムは正常に稼働しており、決済システムは安定性を維持しています。第 3 に、日本銀行の潤沢な資金供給もあって、金融機関の流動性に不安はみられていません。この間、被災地の金融機関では、復旧を進めているものの、なお一部の店舗の閉鎖を余儀なくされています。この点については金融庁がデータを公表していますが、被災地域の金融機関の店舗のうち約 6%が現在も閉鎖されています。もっとも、こうした金融機関では、困難な状況にもかかわらず、地域の金融機能を維持するために懸命に金融サービスの提供を行っています。具体的には、他の地域の金融機関とも連携しながら、通帳を無くした預金者等に対して柔軟に預金の払戻しを行い、地域の現金需要に応えているほか、被災地の企業や個人からの資金需要にも積極的に応じています。

§26Masaaki Shirakawa

日本銀行としても、金融機関のこうした取り組みを最大限サポートすべく、金融機関からの現金需要に万全の態勢で応えているほか、金融市場への潤沢な流動性供給も続けています。なお、被災地の金融機関の財務状況については、債務者の被害状況、今後の政府等による被災地支援策、復興需要の規模やタイミングなど、様々な点に依存しており、現時点で具体的なことを申し上げることは適当ではないと思います。いずれにしても、日本銀行としては、今後とも被災地域をはじめとする金融経済の動向や、それが金融システムに及ぼす影響について、注視していきたいと考えています。

§27Question

2 点伺います。資産買入基金による社債等の買入れですが、発行体あたりの買入れ上限である 1 千億円をもう少し緩めて欲しい、という声がマーケットで急速に増えているようですが、この点についてどうご覧になりますか。2 点目は、国内の長期金利が緩やかに上昇しているようにみえますが、どういった背景があるのか、国際商品市況とか円安といったファンダメンタルな理由によるものなのか、むしろ日本のリスク・プレミアムが上昇しているとみるべきなのか、ご所見をお願いします。

§28Masaaki Shirakawa

まず、社債の買入れについてお答えします。現在、日本銀行は社債の買入れ限度を設けています。これは、日本銀行として異例の措置を講じながら、金融政策の面から経済を支えていくために買入れを実行している一方で、中央銀行の財務の健全性に配慮し、信用リスクの集中を避けるという観点から設けているものです。今これを見直す必要があるとは考えていません。2 つ目の長期金利上昇の背景についてですが、お尋ねの趣旨はおそらく、長期金利上昇だけではなく、日本の金融市場全体として、震災後日本経済に対する不安感から市場が少し不安定になっていることがあるのか、という趣旨のご質問と受け止めました。まず、為替相場については具体的にコメントすることは差し控えたいと思います。次に株価ですが、震災の発生後、いったん大きく下落したものの、その後は世界的にリスク回避姿勢が弱まるもとで上昇に転じており、最近では9 千円台半ばで推移しています。また、国債市場をみても、確かに幾分金利は上がっていますが、震災後の 12 回の国庫短期証券を含む国債入札が順調に行われています。このように、金融市場は全体として安定していると判断しています。金融市場を考えていく上では、日本経済が今後どうなっていくのかということが判断の基本にあるわけです。

§29Masaaki Shirakawa

先程ご説明したように、今回の震災がわが国経済に与えた影響は大きく、当面、生産面を中心に下押し圧力が強い状態が続くとみられます。もっとも、供給面での制約が和らげば、海外経済の改善を背景とする輸出の増加や、資本ストックの復元に向けた需要の顕現化などから、緩やかな回復経路に復していくと想定されます。金融市場が今後も安定して推移するためには、こうした見通しをはじめ、日本経済の姿に関する正しい情報を内外の市場参加者に向けて適切に発信していくことが大事だと考えています。加えて、金融市場の安定を維持するためには、通貨への信認が不可欠だということも指摘したいと思います。日本の財政状況は厳しく、日本経済が震災の大きな影響を受けている時であるだけに、国際的にも国内的にも通貨への信認を維持することがきわめて需要な課題だと認識しています。

§30Question

震災前、折に触れて総裁は、過度な悲観が日本経済の下押し圧力の 1つの要因であると指摘されていたと思います。震災後、現在の状況を踏まえて、今後の供給制約の解消、あるいは復興に向けたプロセスの中で、どのような心持ちで臨めば良いのか、あるいは具体的に復興に向けてどのように取り組めば良いとお考えでしょうか。

§31Masaaki Shirakawa

今回の震災、津波、原発、これらは大変大きな問題です。これは経済面に限らない様々な側面があるわけで、皆が知恵を結集してこの難局にあたっていくことが必要だと思います。今回の震災の発生以前から私が申し上げたことは、日本経済が直面している問題、これを正しく認識し、──正しく認識すると、非常に厳しい問題があることも分かってくるのですが──、しかし、過度に悲観することは適当ではないということを繰り返し申し上げてきました。今回の震災は、もちろん大変で悲惨な出来事ですし、経済への影響も大きいわけですが、しかしそれでも経済の基本的な道筋を頭に入れた上でしっかり取り組んでいく必要があると考えています。先程から申し上げていますが、短期の動きは供給制約に伴う需要の減少です。従って供給制約を解消していく努力に全力をあげていく必要があると思います。「復興」という場合には、これは多くの方が指摘されているように、単に元に戻す「復旧」ということではなくて、先々の日本経済の成長を見据えた様々な取り組みが同時に必要だと思っています。こうしたことについて、今、誰しも直ちに解決策を提示できるわけではありませんが、知恵を集めて取り組んでいくことが大事であり、そうした気の持ち方は、悲観論の対極にあるものだと思っています。

§32Question

社債関連で 2 点伺います。昨日、社債オペがあり、前回のオペに比べて落札金利が上昇していますが、この点についてどのように受け止めているのでしょうか。もう1 つは、社債の流通市場で、原発問題が発生した以降に東京電力債のスプレットが上昇しています。日銀としては個別企業についてコメントしにくいところがあるかもしれませんが、社債市場の中で非常に大きな発行体で投資家も多様ですので、直近の金利上昇についてどのように受け止めていらっしゃるのか伺えればと思います。

§33Masaaki Shirakawa

1 つ目の社債オペの結果ですが、オペは、市場参加者が自らの相場観、ポジション等を踏まえて入札しているわけであり、そのオペの結果について私がコメントすることは差し控えたいと思います。ただ、1 点だけ申し上げると、日本銀行は、前回の決定会合で社債の買入れを含む資産買入れ規模を倍増しました。そのことは、アナウンスメントという意味でも、実際の買入れ資金という意味でも、金融市場、あるいは社債市場の安定に相応に貢献していると思っています。2 つ目の東電債の金利については、ご質問の方ご自身がおしゃっていたように、個別企業のプライシングについて私がコメントするのは差し控えたいと思います。

§34Question

3 点お伺いします。1 点目は、供給制約についてです。サプライチェーンが 6~7月に回復したとしても、電力供給は依然として不安定で、来年の見通しも立たない状況です。仮に 7~9月に復興需要が出てきたとしても、電力の供給制約により、厳しい状況が続いてしまうリスクがあるように思いますが、総裁はどのようにみていますか。2 点目は、生産の減少が長期化すれば、貿易収支に短期的に影響が出て、黒字から赤字になる可能性もあるかと思います。特に、所得収支が小さくなる6月などは、かなり悪化するリスクがあるように思いますが、そうしたマクロデータへの影響について、どのような見通しをお持ちですか。3 点目は、供給制約によりGDPが短期的にマイナスになることは、日本銀行がこれまで行ってきた需要不足に対応する金融政策のあり方と少し違った面が出てくるように思います。供給不足を早期に解消するために、日本銀行としてどのような点でさらに貢献する部分があるとお考えかお聞かせ下さい。

§35Masaaki Shirakawa

1 点目の電力の供給制約については、日本銀行は電力の専門家ではないので、まずは専門家の方にご意見を伺って頂きたいと思います。確かに夏場に電力不足が発生するわけですが、これは基本的にはピーク時の電力が不足するということであり、現在、政府が音頭をとってピーク時の電力をできるだけ平準化していこうという努力を進めています。これがどのようなかたちで実現していくかによって最終的な姿は変わってきます。生産面・生活面での苦労は残りますが、秋にはいったん電力不足が解消することが見込まれています。来年の夏場にかけてどうなるかについては、関係者が様々な努力をされているわけであり、注意深くみていきたいと考えています。一市民としては、供給制約をできるだけ早期に解消するような努力を、国民レベルで行っていく必要があると感じています。2 点目の貿易収支については、貿易収支は一国全体の生産と支出の差ですが、供給ショックは生産能力に影響すると同時に、今回は支出の減少ももたらしています。従って、最終的なバランスとして貿易収支がどのように変化するかは、必ずしもはっきりしないように思います。足許、為替が少し円安方向に振れていることもあり、私自身、現時点で明確にどちらの方向だという答えを持っているわけではありません。

§36Masaaki Shirakawa

3 点目の日本銀行としてさらに貢献できることについては、基本的に経済活動の停滞の原因が供給制約である場合、金融政策それ自体で供給制約を緩和することはできません。中央銀行ができることは、供給制約に端を発した需要ショックがさらに追加的な需要ショックを生み出すことがないようにしていくことであり、それが日本銀行の課題であると考えています。前回の政策決定会合は地震発生の翌営業日でしたが、まさにそのことを念頭に置きつつ、金融市場参加者をはじめ人々のリスク回避行動やマインド悪化が経済活動全体に悪影響を及ぼすルートをできるだけ防ぎたいと考えて措置を決定しました。資産買入れ額を倍増し、その発表後では、社債は昨日初めて買いましたが、今後こうした買入れを対象資産に応じて毎月もしくは月2 回のペースで実施していきます。こうしたことを通じて日本銀行として貢献していきたいと考えています。

§37Question

震災による消費や需要サイドへの影響についてですが、例えば原発のニュースが出るたびにおそらく多くの消費者は一喜一憂していると思います。そのことが消費を萎縮させている、チリング・エフェクト(萎縮効果)がきわめて強く働いており、また、一方で自粛ムードも非常に強い印象を受けます。需要サイドで経済が下振れしてしまうリスクが非常に大きく、供給制約とは別のルートの下押しリスクがあるように感じられます。この点についてご意見をお伺いします。

§38Masaaki Shirakawa

供給制約が元々の出発点ではありますが、そのことが原因となって様々なルートを通じて需要の減少をもたらしていると思います。今おっしゃったように、原発リスクによる消費者のチリング・エフェクトというルートもありますし、自粛による影響もあります。こうしたことは、供給面の制約を原因とする需要のショックです。ただ、大元の原因はやはり供給ショックであり、この供給制約が解消していけば、やがては需要面のショックも解消していくことになります。もう1 点は、需要が回復した場合、その需要に対応した供給が出せるかどうかという時に、やはり供給制約の問題にぶつかるわけです。そのように考えた場合、もちろん全てが供給面だけではありませんが、やはり大元は供給ショックの問題であると感じます。需要ショックの面については、マインドの萎縮、リスク回避の強まり、そうしたことが金融市場の価格形成に影響を与えて、経済を更に下押ししていくことにもなります。そうした観点から、日本銀行としては、先般、リスク性資産を中心に資産買入れを増額したわけです。

§39Question

被災地の金融機関への資金供給については、次回決定会合で報告されるとのことですが、5月から始まると考えてよいでしょうか。また、資金供給の名称については、「復興支援貸出」という名称でよいでしょうか。

§40Masaaki Shirakawa

今回の新しいオペの実行時期ですが、次回 4月28日の決定会合で決定後、速やかに、できるだけ早く実行したいと思っています。先方の金融機関の準備もありますので、日本銀行サイドだけで決められる話ではありませんが、初期の対応を支援していくという趣旨から、5月中には実行したいと考えています。詳しい検討はこれからですので、最終的にはその検討結果を待っていただきたいのですが、できるだけ早く実行したいと思っています。また、名称についてですが、前回は、95年1月の阪神・淡路大震災の後、同年7月に「復興支援貸出」を行いました。この時は、ある程度「復興」ということが目に見えた段階で、その復興資金をファイナンスするという趣旨で、まさに「復興支援貸出」が適切な名称でした。今回は、まだ、復旧・復興が本格的に始まる前の段階で、日本銀行としては初期の対応をできるだけ支援していきたいという気持ちで実行するものです。名称は次回の決定会合で決まるわけですが、被災地の金融機関を支援する資金供給オペレーションという性格が強いわけですから、「復興」というよりは「被災地の金融機関支援」の方に力点を置きたいと思っています。もちろん、その資金は復興にも使っていくわけですが、今の段階では、現地の厳しい状況を考えると、まだ「復興」という言葉を使う段階ではないということだと思います。

§41Question

社債の買取りについてお伺いします。一部報道では、東電債の応札が多かったとされていますが、実際にはいかがでしょうか。また、一般論として、大きな事故を起こした企業の社債を日本銀行が買取ることは、社債買取り制度の趣旨にあっているのでしょうか。

§42Masaaki Shirakawa

日本銀行は、オペの個別の結果については公表していません。個別企業に関する情報ですので、公表は不適切だと思います。なお、今回の原発の問題については、政府の方で、今後解明、検討を進めていくと伺っていますが、現段階ではその検討結果は分かりません。中央銀行としては、金融市場の安定、経済の安定を図っていくという観点から対応しています。

§43Question

一般的に、値下がりが確実な社債を買うことは、ある意味では金融機関を救済しているようにみられかねないと思うのですが、その点はいかがでしょう。

§44Masaaki Shirakawa

今、質問者の方は「値下がりが確実」だとおっしゃいましたが、もちろんそのような見方もあるかも知れませんし、またその逆の見方もあると思います。いずれにしても、マーケットである価格がついたということは、両者の見方が拮抗してその値段がついているわけです。日本銀行による買入れは、市場価格をベースに入札方式で行っています。

§45Question

リスクについてお伺いしたいのですが、先行きに対する不確実性は、震災発生から約1か月経っていますが、本日までで増加しているのでしょうか。

§46Masaaki Shirakawa

地震発生直後に、不確実性が「相当に高まったな」と、私もそうでしたが、多くの委員が思ったと思います。定量的には、不確実性の量は図り難いわけですが、不確実性が少なくとも減ったという認識はありません。しかし、著しく高まったという感じではなく、当初想定したように不確実性は大きいと改めて認識している、ということです。

§47Question

2 点伺います。震災後、金融緩和策を一段と進めて、世界の中央銀行の中でみてもかなり異例な対策が採られたわけです。その反面、これによって金融政策の「弾力性」がかなり失われ、今後市場が大きく動いた時に日本銀行が採りうる手が限定されてしまうように思うのですが、その点について危機感をお持ちかどうかお聞かせください。また、リーマンショック以降、日本では異例の事態がほぼ常態化しているわけですが、異例な金融政策が常態化したことによる金融市場への悪影響は考えられないのか、お聞かせ下さい。

§48Masaaki Shirakawa

いずれのお尋ねも、ある意味で共通の問題意識があるように感じましたので、1 つの問いとしてお答えしたいと思います。日本銀行は、過去 10 数年間、異例の政策を展開してきています。昨年秋の包括緩和のもとでの資産買入れも、CP、社債、J-REIT、ETFを買入れる等、異例ともいえる政策です。中央銀行としては、相反する2 つの要素を勘案しつつ、今回の政策が最適であると判断しました。すなわち、一方で、中央銀行の本来業務は流動性の供給であり、個別の資源配分には介入しない、それを強めると最終的には中央銀行の信認を傷つけてしまう惧れもあると思っています。しかし、他方では、足許の経済の厳しい状況に照らして、中央銀行が持てる手段を使って経済の安定に貢献していく道を探っていくことも大事な要請だと思います。この両者を解く何か機械的な方程式があるわけではないと思います。私どもとしては、現在採用している政策の意味合いを国民にしっかり説明しながら、このような判断でこの政策を採っていますということを丁寧に説明していき、理解を求めていくことが大切だと思っています。そうした努力をしなければ、結局は、長い目でみた日本経済の発展にとっても、通貨の信認という面でもマイナスになっていくわけですから、説明責任をしっかりと果たしていきたいと考えています。

§49Question

復興債については発行されるかどうか分かりませんが、日本銀行として国債の直接引受けに反対というお立場は当然かもしれません。このようなことからすると、引受けをできるとしている財政法第5 条の但し書きは必要ないというお考えなのでしょうか。また、但し書きが行使されることがあるとすれば、どういう場合なのかご所見を教えて下さい。

§50Masaaki Shirakawa

財政法第 5 条の解釈は、日本銀行が行うことではありませんが、これまでも財政法第5 条に基づいて日本銀行は毎年国債の乗換え引受けを行っています。つまり、国会においてその金額の上限が定められて、日本銀行の判断で、買入れた国債が満期を迎えた時に、その国債を乗換えて引受けることをしています。その国債について、いったん全部現金償還を受けた上でマーケットから同額を買うという手もありますが、両方がセットになっていると考え、買入れた国債の満期償還について金融調節上支障がないことを確認した上で乗換えの引受けを行っています。言い換えると、この乗換え引受けは通貨を追加的に発行するために行っているわけではなく、現在ある通貨の量を維持する時に行っているのがこれまでの実績です。過去、政府が国会で示しているのもこのような見解です。以上