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Bank of JapanPress conferenceApr 28, 2011Masaaki Shirakawa, Governor

総裁定例記者会見(2011年4月28日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の決定会合の結果について、展望レポートの内容も含めてご説明願います。

§2Masaaki Shirakawa

本日の決定会合では、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。なお、会合では、西村委員より、震災等の影響が長期化し、企業や消費者マインドの悪化を通じて実体経済への悪影響が強まることを防ぐ観点から、資産買入等の基金を 5 兆円程度増額する議案が提出されました。これに対し、その他の委員は、現在は、3月に思い切った金融緩和を行っており、増額した基金による買入れを着実に進め、その効果を点検していくことが適当との考え方から反対しました。こうした決定の背景となる経済・物価情勢について、展望レポートの内容を含めてご説明します。今回の展望レポートでは、震災の影響に関して、次の 3 つの視点を整理しました。第 1に、震災による経済への下押し圧力は、基本的には供給制約、供給ショックによるものであり、海外経済の高成長など、日本経済の回復を支えていた基本的な条件に大きな変化はないことです。第 2に、震災の影響は、短期的な供給制約、その後の復興需要の顕現化、長期的な成長力への影響と、時間の経過とともに変化することに留意が必要です。第 3に、震災の影響の表れ方には不確実性が大きい点です。こうした 3 つの点を念頭に置きながら経済・物価情勢を点検することが重要だと考えています。

§3Masaaki Shirakawa

まず、見通しの前提となる海外経済と金融環境についてご説明します。海外経済は、新興国・資源国経済が旺盛な内需や海外からの資本流入のもとで高成長を続けており、これに牽引されるかたちで、世界経済全体でみた成長率は、歴史的にみてもかなり高い水準となっています。先行きも、米欧経済が回復を続けるほか、新興国・資源国経済が高めの成長を維持するとみられることから、世界経済全体として回復を続ける姿を想定しました。わが国の金融環境は、震災後、中小企業を中心に一部で資金繰りが厳しくなったとする先がみられているほか、手元資金の積み増しなどから企業の資金需要が増加する可能性が高いとみられます。もっとも、民間金融機関は、自己資本や流動性の面からみて、今後の資金需要の増加に十分に応えられる状況にあります。各種金融面での措置の効果も見込まれます。また、日本銀行は、震災直後に、リスク性資産を中心に資産買入等の基金の増額を決定し、強力な金融緩和を推し進めています。これらを踏まえると、わが国の金融環境全体としては、基調的には緩和の動きが続き、国内民間需要の回復を下支えすると予想しています。次に、経済・物価の中心的な見通しについて述べます。わが国経済は、震災後、生産面を中心に下押し圧力が強い状況となっています。

§4Masaaki Shirakawa

資本設備の毀損、サプライチェーンにおける障害、電力不足の問題などから、一部の生産活動が大きく低下しており、輸出や国内向け出荷・販売に大きな影響を及ぼしています。需要面からも、企業や家計のマインドの悪化を通じて、設備投資や個人消費を下押ししているとみられます。先行きは、当面、生産面を中心に下押し圧力が強い状況が続くと考えられますが、サプライチェーンの再構築が進むもとで、秋口以降、電力需給も改善するとみられるため、供給面の制約は和らいでいくと見込まれます。そうした状況になれば、海外経済の改善が輸出や生産の増加につながるほか、資本ストックの復元に向けた動きも、次第にわが国経済を押し上げる方向で寄与すると考えられます。本年度後半にかけては、輸出や生産がはっきりとした増加に転じるもとで、年度前半の反動もあって、景気回復テンポが高まる可能性が高いとみています。来年度入り後は、輸出・生産を起点とする所得・支出への波及メカニズムがより明確に働き始めるとともに、資本ストックの復元に向けた需要増加も続くため、潜在成長率を上回る成長が続くと予想しています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、下落幅が縮小を続けており、最近では高校授業料無償化等の影響を除けば、小幅のプラスに転じています。

§5Masaaki Shirakawa

先行きは、中長期的な予想物価上昇率が安定的に推移し、また、国際商品市況も緩やかに上昇を続ける想定のもとで、見通し期間を通じて、小幅のプラスで推移すると見込まれます。いつも申し上げているように、本年8月に消費者物価指数の基準改定が予定されており、前年比計数が下方改定される可能性が高いことは認識しています。こうした中心的な見通しに対する実体経済面での上振れ・下振れ要因として、4 つの点を指摘しました。第 1 に震災の影響に関する不確実性、第 2に企業や家計の中長期的な成長期待の動向、第 3 に海外経済の動向、第 4 に国際商品市況が一段と上昇した場合の影響です。物価の上振れ・下振れ要因としては、まず、実体経済の変動に伴う物価の変動が挙げられます。物価固有のリスクとしては、企業や家計の中長期的な予想物価上昇率の動向と輸入物価の動向の 2 つを意識しています。日本銀行では、以上の経済・物価見通しについて、「中長期的な物価安定の理解」を念頭に置いた上で、2 つの柱に基づいて点検しています。「中長期的な物価安定の理解」は、毎年一度確認することとしていますが、今回の会合での確認の結果は、「消費者物価指数の前年比で 2%以下のプラスの領域にあり、中心は 1%程度である。」となりました。

§6Masaaki Shirakawa

第 1 の柱に即してみると、わが国経済は、「中長期的な物価安定の理解」に基づいて物価の安定が展望できる情勢になったと判断されるにはなお時間を要するものの、やや長い目でみれば、物価安定のもとでの持続的成長経路に復していくと考えられます。第 2 の柱に基づきリスク要因を点検すると、景気面では、何といっても、震災がわが国経済に及ぼす影響について大きな不確実性があります。新興国・資源国経済は、上振れの可能性があります。米国経済は、成長率が上振れる可能性もある一方で、バランスシート調整が景気を下押しするリスクがあります。欧州については、ソブリン問題の帰趨に引き続き注意が必要です。この間、国際商品市況の上昇については、その背景にある新興国・資源国の高成長が輸出の増加につながる一方、交易条件の悪化に伴う実質購買力の低下が国内民間需要を下押しする面もあります。物価面では、国際商品市況の一段の上昇により、わが国の物価が上振れる可能性がある一方で、中長期的な予想物価上昇率の低下などによる下振れリスクもあるとみています。以上の 2 つの柱に基づく点検を踏まえると、日本経済は、やや長い目でみれば、物価安定のもとでの持続的な成長経路に復していくと考えられますが、当面は、震災の影響を中心に、景気の下振れリスクを意識する必要があると考えています。

§7Masaaki Shirakawa

日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰するために、「包括的な金融緩和政策」を通じた強力な金融緩和の推進、金融市場の安定確保、成長基盤強化の支援という 3 つの措置を通じて、中央銀行として最大限の貢献を粘り強く続けていきます。今後とも、震災の影響を始め、先行きの経済・物価動向を注意深く点検した上で、必要と判断される場合には、適切な措置を講じていく方針です。なお、今回の会合では、前回、執行部に対して検討を指示した「被災地金融機関を支援するための資金供給オペレーション」と「担保適格要件の緩和」について、具体的な措置を決定しました。このオペは、被災地金融機関を対象に、期間 1年の資金を 0.1%の超低金利で総額 1 兆円の規模で供給するものであり、今年の 10月末まで受け付けることとしました。担保については、被災地の企業や地方公共団体の債務に関する適格要件を緩和しました。日本銀行としては、こうした措置が、今後予想される復旧・復興に向けた資金需要の初期対応において、金融面からの支援となるとともに、被災地金融機関の資金調達余力を確保することにつながることを期待しています。

§8Question

西村委員から基金増額の提案があったということですが、総裁は、今回示された実質成長率の見通しなどを踏まえて、追加緩和の必要性についてどのようにお考えかご説明下さい。

§9Masaaki Shirakawa

西村委員の意見については、詳しくは、今度公表される議事要旨で説明したいと思います。ご質問の趣旨は、本日の議論で残り 8 名が、今回の展望レポートで示された成長率見通しやリスク判断を前提に、追加緩和の必要があると判断しなかった理由は何なのかということだと思います。改めて、震災発生以降、日本銀行が採ってきた対応を整理すると、経済活動の基盤となる決済・金融機能の維持に万全を期しているほか、市場の需要を十分満たす潤沢な資金供給を行い、金融市場の安定確保に努めています。こうした大きな震災の後の危機というべき状況においては、これは非常に大事なことです。また、震災直後の 3月14日には、リスク性資産を中心とする資産買入等の基金の増額を決定し、金融緩和を一段と強化しました。これは、既にその時点において、実体経済が 1月の中間評価より下振れる可能性、あるいは不確実性が高まっていることを十分意識し、そうした可能性に早めに対応する観点から講じた措置です。金額も、今申し上げた趣旨から、いわゆる too little (少なすぎ)となることを避けるために、リスク性資産を中心に 5 兆円という思い切った増額を行いました。現在は、そうした考え方のもとで増額した資産買入れを着実に進めながら、その効果波及を見守っていく段階にあると考えています。

§10Masaaki Shirakawa

こうした措置に加えて、先程申し上げた通り、被災地金融機関に対する資金供給オペレーションも本日決定し、5月中に実行したいと考えています。繰り返しになりますが、今回の展望レポートの冒頭で強調している通り、先行きについては不確実性が非常に大きいということを、私どもは十分に認識しています。従って、私どもとしては、経済・金融情勢を丹念に点検し、必要と判断される場合には、適切な措置を講じていくという一般的な構えである、ということは、いつも申し上げている通りです。ただ先程申し上げたように、3月に思い切った金融緩和を行い、その買入れについてはまだ始まったばかりです。そうした効果を見極めて行くことが、今は適切だと判断しています。

§11Question

震災からの復旧・復興へ向けた取り組みを、経済の中長期的な成長力の向上につなげていくには、民間企業や政府について何が求められるのか、総裁のお考えを伺えますか。

§12Masaaki Shirakawa

わが国の経済は、震災前から少子高齢化のもとでいかに経済成長を確保していくか、財政再建をどのように進めていくかが重要な課題でした。そこに今回、震災からの復旧・復興という新たな課題が加わったわけで、そういう意味で状況は一段と厳しくなっていると思います。逆にそうであるからこそ、覚悟を決めて、積年の課題にしっかりと取り組んで行くことが、より重要になっていると思います。この点、民間企業は、これまでも様々な取り組みをしてきていますが、新市場の開拓や事業再編の取り組みを、更なるスピード感を持って推進することを期待しています。わが国の企業は、従来、どちらかといえば、徹底したコスト削減努力によって生産性の向上を実現してきました。これはこれでもちろん大事ですが、それだけでは、経済全体としての生産性向上を実現することは難しく、縮小均衡に陥る可能性もあります。企業がイノベーション精神を発揮して新たな付加価値を創り出し、ニーズを掘り起こしていくとともに、事業の再編などを通じて、そうしたニーズにマッチした供給体制を整えていくことが必要だと思っています。今回の震災や、電力不足、原発の事故は、いずれも不幸な出来事ですが、そうした問題に対応するための様々な努力が、新たな成長を生み出すきっかけになることも、認識しておく必要があると思います。

§13Masaaki Shirakawa

私はエネルギーの専門家ではありませんが、例えば、LED照明等の普及を通じて「省エネ」を強化すること、太陽光など代替エネルギーの「創エネ」を推進すること、エコカーを利用したスマートグリッドで「蓄エネ」社会を目指すこと、すなわち「省エネ」「創エネ」「蓄エネ」の加速は、ますます急務になっていると感じています。原発問題や電力不足に直面している今の日本だからこそ、また、環境・省エネ面で技術力を有する日本だからこそ、環境・エネルギー分野のイノベーションで、世界をリードしていくことも期待できると考えています。さらに、労働参加率の上昇を促すことや、市場創造に向けた企業の取り組みを支えることなど、経済を拡大均衡に導く環境の整備という点で、政府の果たすべき役割も大きいと思っています。いつも申し上げている通り、FTA、EPAを推進し、内外双方向で人、モノ、カネの行き来を活性化していくことなど、これまで進めてきた成長戦略の歩みを、決して止めてはいけないと思います。日本銀行も、「包括的な金融緩和政策」を通じた強力な金融緩和の推進や、金融市場の安定確保のための施策によって、金融面から経済を下支えしていく方針です。

§14Masaaki Shirakawa

また、金融機関や企業の前向きな取り組みを支援するため、これまでも、「成長基盤強化を支援するための資金供給」を実施してきましたが、今後とも、中央銀行としてどのような貢献が可能か、検討していきたいと思っています。

§15Question

「中長期的な物価安定の理解」の表現がやや変更されました。透明性の観点、あるいは一般国民や市場関係者に伝えるという観点から、もう少し詳しくご説明をお願いします。

§16Masaaki Shirakawa

詳しい議論の中味については、議事要旨をご覧頂きたいと思いますが、日本銀行は、金融政策を運営する上で意識している中長期的な物価安定がどのようなものかについて数値で表現しています。9 名の委員それぞれが様々な見解を持っており、年1 回、4月の展望レポートの時期に点検を行っています。今回は、昨年と比べて委員の何人かに交替がありました。改めて議論を行い、各委員の考える「物価安定の理解」を合わせてみると、冒頭申し上げたように「2%以下のプラスの領域にあり、中心は 1%程度である」となったということです。この「物価安定の理解」について考えていく上では、物価指数のバイアスの問題──若干の上方バイアスがあると言われています ──、それから、ゼロ金利あるいはデフレということに陥る可能性を意識した場合に、金利引き下げの余地を持っておいた方がいいという観点から若干の糊代を持った方がいいという議論、また、長い期間、ある国の経済・社会において実現している物価上昇率から大きくかけ離れた物価安定はないだろうという国民の物価観、これら 3 つの観点から点検を行っています。そうした点検を行った結果、先程申し上げた数字となったということです。

§17Question

2 点伺います。まず、秋口に供給制約が和らぐ時のイメージですが、その際、需要面はどうなっているとみればよいでしょうか。需給ギャップは改善するのか、あるいは、むしろ悪化する可能性の方が高いとみているのか、教えて下さい。2 点目は、供給制約が和らいだその先の話ですが、生産全体としては、震災前の水準に戻っていくとみるべきなのか、回復は続くが震災前の絶対水準に戻ることは当面望むべくもないとみているのか、教えて下さい。

§18Masaaki Shirakawa

供給制約が解消した後の経済のイメージについてですが、震災前まで日本経済の回復を支えていた最も大きな条件は、新興国経済の成長に牽引された世界経済の高い成長率でした。この基本的な条件自体は、現在のところ大きく変わっているわけではないと思いますので、その意味では、潜在的な需要はあると考えています。加えて、今後の復旧・復興の過程で、毀損した資本ストックの修復に向けた需要も出てくるわけです。供給制約が和らいでいく秋口以降、そうした潜在的な需要や復興需要が出てくるというイメージです。ただ、いつ、どの程度、供給制約が解消していくのかについては、これは不確実性がありますので、この点は丹念にみていきたいと考えています。また、需給ギャップについてですが、生産能力が毀損している一方で、震災後のマインドの低下によって需要も減少しているので、供給も需要もともに落ちているという状況です。ただ、先行き供給制約が解消したその後を考えると、経済回復の基本的な条件自体が変わっていないという前提のもとでは、緩やかに需給ギャップのマイナス幅も小さくなっていく、改善方向に向かっていくというイメージを持っています。それから、供給制約が解消した後の生産水準についてですが、供給の制約が完全に解消した後は、定義によりこれは需要に見合った水準になっていくわけです。

§19Masaaki Shirakawa

先日、経済産業省が、企業に対して行なった供給制約の解消に関する調査結果を公表しました。同調査によれば、確か 7月までに 9 割の企業がサプライチェーンの障害から立ち上がり、部品・部材の調達については 10月までに8割弱の企業が十分な調達ができるという回答結果であったと思います。逆に言えば、残りの企業については十分な調達ができないという回答です。このような企業の回答結果を踏まえると、10月の段階ではまだ十分に戻るということではないのかもしれません。いずれにしても、これは供給制約の解消テンポについての現時点での情報に基づくものであり、今後、予断を持つことなく点検していきたいと考えています。

§20Question

FRBのバーナンキ議長が記者会見に応じることになりました。日米欧の3つの中央銀行では、これまで米国だけが記者会見を行っておらず、今回、新たに行うようになったのですが、このことについてどのように評価されていますか。

§21Masaaki Shirakawa

ただ今のご質問にあったように、従来、その 3 つの中央銀行の中でFRBだけが金融政策決定会合終了後の記者会見を行っていませんでした。どの国の中央銀行も、置かれた社会や歴史的経緯、制度的な位置付けなどの様々な要因に依存していると思いますので、どの方法が一番良いということは一概には言えなくて、その国の状況に一番適した対外的な説明の仕方を工夫していくということだと思います。今回の記者会見でバーナンキ議長は、従来、FRBの中では記者会見についてコストが便益を上回ると考えられていたものの、様々な環境変化の中で、今回改めて小委員会を作って検討した結果、コストより便益が勝るという判断になったと答えられていたと思います。その意味で、FRBの運営の仕方それ自体についてコメントするということではなく、どの国の中央銀行も一番良い対外発信の方法を模索していますし、今後も模索を続けていくということだと思います。日本銀行では、ずっと昔から記者会見を実施していますし、私が若い頃にもこの部屋で当時の総裁の会見を聞いていました。また、他の情報発信として、例えば、展望レポートは 2000年の秋から始めましたが、その後、展望レポートにおける見通しの発表の仕方も随分変わってきました。

§22Masaaki Shirakawa

これは、その都度いろいろな経験に遭遇しながら改善してきたものであり、今後とも、より良い方法をそれぞれの中央銀行が工夫していき、お互いに刺激を受け合っていくということだと思います。

§23Question

2 点お伺いします。今回、担保要件の緩和の中で、金融機関の自己査定に委ねる部分が盛り込まれていますが、この意味と狙いについてご説明下さい。2 点目は、被災地金融機関の業績修正や、公的資金の申請検討等の動きが出てきていますが、被災地の金融システムの現状について評価をお聞かせ下さい。

§24Masaaki Shirakawa

自己査定の方ですが、今回は、被災地金融機関の資金調達余力を確保するという観点から、担保基準を緩和しました。その中で、例えば大きな企業では社債を発行することもありますが、今回の被災地域を考えてみると、資金調達を行う企業の中には小さな企業もたくさんあります。そうした企業を想定し、取りうる担保を考えた場合に、企業を債務者とする手形、証書貸付債権には格付けが無いわけです。一方で、中央銀行として銀行券を発行していますから、財務の健全性に配慮しなければいけないという要請もあります。その 2 つの要請を満たす解決策の 1 つとして、金融機関の自己査定結果が正常先の企業について、日本銀行が担保として受入れ、ただし、信用リスクの大きさや流動性の低さを勘案した担保の掛け目を設定するということです。2 つ目の被災地の金融機関の状況について、ご質問の主旨は公的資本のことも含めてと思いますが、被災地の金融機関の現状から先にご説明したいと思います。被災地の金融機関は、震災後、沿岸部を中心に多数の店舗が閉鎖し、ATMが使用不能になるなど、営業設備の面で大きな影響を受けました。もっともその後、役職員の方々の懸命な努力により、店舗の復旧を進めているほか、仮設店舗や移動店舗を活用しながら、営業活動を再開しています。こうした金融機関の皆さんの取り組みには、私自身頭が下がる思いであり、大変心強く感じています。

§25Masaaki Shirakawa

また、他の地域の金融機関とも連携しながら、通帳を失くした預金者に対して柔軟に預金の払戻しを行い、地域の現金需要に応えています。さらに、被災地の企業や個人向け貸出について、返済猶予等の相談に柔軟に応じているほか、給与支払等のためのつなぎ資金需要にも積極的に対応していると受け止めています。この間、被災地の金融機関の資産内容については、今後、債務者や担保物件、保証人の状況等の実態把握が進むにつれて明らかになっていくと見込まれますが、現時点で深刻な状況に陥っている金融機関はないと認識しています。いずれにせよ、金融機関の資産の健全性については、債務者の被害状況のみならず、今後の政府あるいは地方公共団体による被災地支援策、復興需要の規模やタイミングなど、様々な点に依存していますので、日本銀行として注意深くみていきたいと思います。こうした中で、被災地の金融機関の中には、今後の復興資金需要にしっかりと対応すべく、自己資本充実策の一環として、金融機能強化法に基づく公的資金の申請を検討する先がみられています。金融庁においても、このような動きを後押しする観点から、同法の見直しを検討していると聞いています。こうした金融機関や政府の取り組みは、被災地における金融仲介機能の強化に資するものと受け止めています。

§26Question

3 つご質問します。1 つ目は、西村副総裁が追加緩和の提案をされましたが、資産買入等の基金の 5 兆円増額とは、前々回 3月会合で決まった、国債やリスク性資産を含む金融資産の買取りの増額か、それとも共通担保オペの増額か、どちらかをお聞かせ下さい。2 つ目は、バーナンキ議長が記者会見を始めましたが、ECBのトリシェ総裁もそうですが、その記者会見は基本的に生中継されていると思います。日銀のこうした記者会見も、例えば国会などと同じ様にインターネットのホームページを通じて生中継しても良いのではないかと思うのですが、その点について質問です。最後に、最近よく話題になる国債、復興国債が発行された時に日銀が直接引受けをするべきだとの主張が与野党にありますが、もっぱら白川総裁は望ましくないとのスタンスを常に主張されています。また、財政法第 5 条の特別事由について、これは、もともと発行された国債の乗り換えに限定しているとの趣旨はご説明されていますが、国会でやはりここを使って、復興国債を発行し日銀に引受けさせるべしとの議決などがされた場合は、日銀としてどのような対応をされるのでしょうか。

§27Masaaki Shirakawa

第 1 問ですが、西村委員の詳しい提案の趣旨については議事要旨でご覧頂きたいと思いますが、資産買入れの増額の提案でした。2 つ目の記者会見の生中継化ですが、先程申し上げた通り、各国の中央銀行は対外説明の仕方について、これまで、もちろん完全に同じではなくて、それぞれの置かれた環境の中で一番良い方法を模索してきています。日本銀行は、記者会見の回数という意味では、この 3 つの中央銀行の中では断然多い中央銀行です。また、決定会合の後に声明文を出す、議事要旨を出す、それから議事録を出すという、いわば 3 点セットを行っています。これはFRBも行っていますが、ECBにはありません。ライブ中継については、もちろん色々なメリットもあるでしょうし、デメリットもあると思います。私としては、どのような運営の仕方が一番良いのか、これからも考えていきたいと思います。ただ、記者会見は、私どもが主催しているのではなく、記者クラブが主催していると理解しています。いずれにせよ、日本銀行も記者の皆さんも、国民の皆さんにどうやって金融政策について分かりやすく説明していくかという共同の責任を持っていると感じていますので、お互いにしっかり考えていきたい、そういう課題だと思います。

§28Masaaki Shirakawa

3 問目の国債引受けの問題ですが、東日本大震災の復旧・復興のための財源を巡って、国会をはじめ様々な議論がなされていることはもちろん承知しています。そうした中で中央銀行による国債引受けに関してご質問を受けた時に、私どもとしては、一般論としてこれが適当ではないという旨をお答えしています。それから、記者の方の直接の質問は、国会で議決されれば日銀は引受けるのかどうか、その考え方はということですが、これは仮定のご質問ですので、仮定のご質問に対するお答えは控えたいと思います。

§29Question

震災の復興資金の財源を巡りなかなか方向性がみえてこない中、復興が始まる時期がどんどん後ろ倒しになるのではとの懸念があります。また、先日の統一地方選挙の結果を巡り、政治の方が混乱しつつあるというリスクも指摘されています。こうしたことを背景に、復興の開始時期が遅れるリスクについて、どのようにお考えでしょうか。

§30Masaaki Shirakawa

これだけ大きな震災を経験し、日本社会として復旧・復興にできるだけ早くしっかりと取り組んでいくことは非常に重要な課題だと思いますし、また、現にそういう取り組みが始まっていると思います。ただ、記者の方の政治的な文脈でのご質問については、中央銀行の総裁として直接お答えすることは不適当だと思いますので、お答えを差し控えたいと思います。

§31Question

3 点ご質問します。1 点目は、2011年度の物価の見通しを引き上げましたが、日本国内のインフレ期待については横這いの前提だと言っておられました。ガソリン等がかなり上がってきている状況の下では、もう少し強くなる可能性についてどうお考えでしょうか。2 点目は、製造業の供給制約についてはご説明を頂き分かりましたが、非製造業への影響について、例えば旅行や外食など様々な分野で非常に大きなマイナスが言われていますが、この部分がどのような軌跡を辿るかは、日本経済への影響がかなり大きいと思います。その点どうお考えでしょうか。3 点目は、FRBが 6月でいわゆるQE2 を止めると明確に言いましたが、グローバルなマネーフローへの影響について、どのように想定されていますか。

§32Masaaki Shirakawa

まず第 1 問のガソリン価格が上がっているもとで、予想インフレ率の動向に関する質問ですが、中長期な予想物価上昇率の動向は、私どもにとって非常に大事な判断材料です。これを知るために幾つかの方法がありますが、1つの有力な手段はエコノミストあるいはアナリスト等が出している予想インフレ率に関する集計値で、私どももみています。展望レポートの背景説明で詳しくご説明しますが、その値をみると大体 1%で安定的に推移しています。ついでに申し上げると、この 1%は日本銀行の「中長期的な物価安定の理解」の中心の値でもあり、そうした水準でアンカーされています。現在はそうですが、この先、石油製品の値段が上がってインフレ期待が高まっていくことがないか、注意してみていくべき事項の 1 つだと思います。欧米の金融政策をみても、そこが 1 つの重要な判断項目になっていますし、日本の場合には、需給ギャップの動向から判断して物価がどんどん上がる状況ではないと思っていますが、中央銀行としてその点をしっかりみるようにというご指摘だと受け止めたうえで、そこはしっかりみていきたいと思います。2 つ目の非製造業の供給制約についてですが、日本銀行もその点、とても大きな問題意識を持っています。おっしゃったように、特にサービス消費に対して影響があると思っています。業種によって異なりますが、電力の供給制約の影響が大きいと思います。

§33Masaaki Shirakawa

旅行についても、飲食についても、電力の問題はやはり大きいと思います。従って、秋口以降、電力不足の制約が和らいでいくにつれて、サービス面での下振れ要因が薄らいでいくことを期待していますが、そこは要注目点の 1 つです。3 問目は、FRBのQE2 が終わった後のグローバルな資金の流れの変化についてです。感覚的に表現されることがありますが、即物的にお金が流れ込んだり流れ出すということではなく、グローバルにみた金融政策環境がどのように変わっていくのかということだと思います。FRBの現在の実質ゼロ金利政策がどれくらいの期間今後続いていくのか、あるいは欧州、日本銀行の金利政策がどう展開していくのかです。例えば、キャリートレードを考える際は、将来の金利のパスがどのように変わっていくのかが要因となります。そうしたことも含めてよく点検していかなくてはならない項目の1つだと思います。

§34Question

先程、海外の潜在需要と復興需要の話をされましたが、今、足元で企業や家計のマインドは確かに悪化していると思います。マインド面は、これから供給制約などが変わっていった場合に、どう変化していくとみているのですか。

§35Masaaki Shirakawa

現在のマインドの悪化の原因を辿っていった場合に、1 つは供給制約それ自体からきていると思います。2 つ目は、原因がそうであれ、経済活動が停滞すると、そのことが出発点になってまたマインドの低下に繋がっていくということだと思います。そういう意味で、供給制約が解消していくことがマインドの改善に必要なことですが、それがどれ位のスピードで改善していくのかが、やはり大きなポイントだろうと思います。出発点が供給制約であっても、それが長く続くと、やはり独立的なマインドの悪化要因になりうると思います。以上