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Bank of JapanPress conferenceJun 14, 2011Masaaki Shirakawa, Governor

総裁定例記者会見(2011年6月14日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の金融政策決定会合の結果について、ポイントをご説明下さい。

§2Masaaki Shirakawa

本日の決定会合では、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。こうした決定の背景となる経済・物価情勢についてご説明します。まず、景気の現状については、「震災の影響により、生産面を中心に下押し圧力が続いているが、持ち直しの動きもみられている」として、先月の判断から一歩進めました。生産や輸出は、震災後に大きく低下し、国内民間需要も供給制約の影響やマインドの悪化を受けて、弱い動きとなりました。こうした下押し圧力はなお続いていますが、最近は、サプライチェーンが着実に修復されてきているほか、当初懸念されていた夏場の電力問題への対応も進められているなど、供給面の制約が和らぎ始めています。また、家計や企業のマインドも幾分改善しつつあります。そうしたもとで、生産活動や国内民間需要に持ち直しの動きもみられています。この間、金融環境をみると、コールレートが極めて低い水準で推移する中で、企業の資金調達コストは、低下傾向が続いています。企業からみた金融機関の貸出態度は、引き続き、改善傾向にあります。CP市場では、良好な発行環境が続いています。社債市場では、電力会社の発行する社債については、発行体と投資家の目線が揃わない状況が続いていますが、全体としてみると、発行環境が改善して、良好となっています。

§3Masaaki Shirakawa

企業の資金繰りについては、総じてみれば改善した状態にありますが、震災後、中小企業を中心に一部で資金繰りが厳しくなったとする先がみられています。物価面では、4月の生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、2008年12月以来、2年4 か月振りに、小幅のプラスとなっています。先行きのわが国経済については、当面、生産面を中心に下押し圧力が残るとみられます。その後は、供給面での制約がさらに和らぐにつれて、生産の増加が明確になっていくと考えられます。そうしたもとで、海外経済の改善を背景とする輸出の増加や、資本ストックの復元に向けた需要、いわゆる復興需要の顕現化などから、2011年度後半以降、わが国経済は、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比は小幅のプラスで推移するとみられます。なお、本年8月には消費者物価指数の基準改定が予定されており、前年比プラス幅が下方改定される可能性が高いと考えています。以上を踏まえると、日本経済は、やや長い目でみれば、物価安定のもとでの持続的な成長経路に復していくと考えられます。次に、リスク要因についてご説明します。景気面では、震災がわが国経済に及ぼす影響に、大きな不確実性があります。海外経済に関しては、バランスシート調整が米国経済に与える影響や、欧州のソブリン問題の帰趨について、引続き注意が必要です。

§4Masaaki Shirakawa

新興国・資源国については、このところ減速の兆しがみられていますが、上振れの可能性にも引き続き注意が必要です。この間、国際商品市況の上昇については、その背景にある新興国・資源国の高成長が輸出の増加につながる一方、交易条件の悪化に伴う実質購買力の低下が国内民間需要を下押しする面もあります。以上のように、様々な上振れ要因、下振れ要因はありますが、当面は、震災の影響を中心に、下振れリスクを意識する必要があります。物価面では、国際商品市況の一段の上昇により、わが国の物価が上振れる可能性がある一方で、中長期的な予想物価上昇率の低下などによる下振れリスクもあるとみています。今回の会合では、昨年夏以来実施している成長基盤強化を支援するための資金供給について、今後の取り扱いを決定しました。本資金供給は、当初の狙い通り、金融機関がわが国経済の成長基盤の強化に向けて自主的な取り組みを進める上で、「呼び水」としての役割を果たしてきている、と評価しています。金融機関の取り組みをさらに後押ししていく観点からは、資本性資金の供給や、従来型の担保・保証に依存しない融資に着目して、今後、これを支援していくことが適当と考えられます。

§5Masaaki Shirakawa

こうした判断に基づき、今回の会合では、金融機関による出資や動産・債権担保融資(いわゆるABL)などの取り組みに対して、日本銀行が資金供給を行うために、新たに 5000 億円の貸付枠を設定することを決定しました。日本銀行としては、今回の措置によって、金融機関が金融面の手法を一段と広げ、わが国経済の成長基盤の強化に向けて、さらに活発に取り組むことを期待しています。日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰するために、包括的な金融緩和政策を通じた強力な金融緩和の推進、金融市場の安定確保、成長基盤強化の支援という3 つの措置を通じて、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていきます。さらに被災地の金融機関を支援する資金供給オペレーションについても、先月に続き、来週には第2 回の入札を実施する予定です。今度とも震災の影響を始め、先行きの経済・物価動向を注意深く点検した上で、必要と判断される場合には、適切な措置を講じていく方針です。

§6Question

ただ今、成長基盤強化支援融資についてご説明がありましたが、その効果と副作用について、もう少し詳しく総裁のお考えを伺えますでしょうか。また、今後、さらなる増額といった一段の拡充を行う考えがあるのでしょうか。

§7Masaaki Shirakawa

先程の説明でも申し上げましたが、本措置は、当初の狙い通り金融機関がわが国の成長基盤強化に向けた自主的な取り組みを進める上での「呼び水」としての役割を果たしていると思います。多少具体的に申し上げると、対象先の金融機関は、業態・地域の双方で拡がり153 先に達しているほか、各金融機関の取り組み分野も多様化しています。また、金融機関が設定した投融資枠は約 8.4 兆円と本措置の上限である 3 兆円の 3 倍近くになっています。このような、いわば即物的な「呼び水」効果に加え、メッセージ効果、すなわち、日本経済にとって成長力を高めていくことが大事であり、そのために金融機関としてもしっかりとした取り組みが必要であるとの問題意識を高めていく上でも、効果があったと思っています。この点は、金融機関に対する日本銀行のアンケート調査の結果にも示されていますし、あるいは金融機関のIR報告書等においても、成長基盤の強化、成長分野への取り組みが大事であるということが謳われています。こうした点は、もちろん日本銀行の力だけではありませんが、「呼び水」としての効果が発揮されていると考えています。しかしながら、この成長基盤強化支援の投融資のうち、出資については金額的に少額にとどまっており、この面での「呼び水」効果は限定的でした。

§8Masaaki Shirakawa

また、この間、一部の金融機関からは、本措置が金利引き下げ競争を強めているのではないかといった声が聞かれています。成長分野の発掘に向けた競争的な取り組み自体は、本措置の効果の現れでもあります。しかし、仮に、金融機関が利ざやの圧迫を感じているとすれば、成長のフロンティアをさらに拡げていく上で、現在の枠組みによる追加的な押し上げ効果が徐々に小さくなってきている可能性もあります。以上を踏まえると、成長基盤強化に向けた金融機関の取り組みをさらに後押ししていく観点から、先程申し上げた通り、資本性資金の供給や従来型の担保・保証に依存しない融資に着目し、今後これを支援していくことが適当と考えられます。次に、さらなる増額という観点からのご質問についてです。今申し上げた通り、従来の成長基盤強化支援資金供給の枠を単純に増額することは、効果と副作用の面からみて、そろそろ限界に近づいています。一方、まだ十分に効果が発揮されていない出資の面、あるいは新しい金融手法を通じて成長基盤強化の体制を作っていくという面から、今回、新たな措置を設けたということです。

§9Question

世界経済についてご質問します。順調とみられていた米国や新興国の景気減速を懸念する見方がありますが、総裁の考えをお聞かせ下さい。

§10Masaaki Shirakawa

まず米国ですが、いつも申し上げている通り、家計のバランスシートの問題が引き続き重石となる中、既往の原油高による実質購買力の低下を受けて、個人消費の伸びが足許鈍化しています。また、生産についても、日本の震災に伴うサプライチェーン障害による下押しもあって減速しています。一方、新興国については、全体として高めの成長を維持していますが、金融引き締めや既往の通貨高、サプライチェーン障害の影響から、成長テンポが幾分鈍化している国もみられます。原油価格は5月に入って反落した後、横ばい圏内で推移しているほか、サプライチェーン障害の影響も短期間で収束すると見込まれます。このため、米国経済は、緩和的な金融環境に支えられて、成長テンポを再び回復させていくと考えられます。ただし、原油価格の動向に関しては不確実性が高いほか、バランスシート調整圧力も引き続き作用するため、米国経済の下振れリスクには注意していきたいと思っています。一方、新興国については、先行きも、所得水準の向上を背景に、個人消費が堅調に推移し、基調として高めの成長を続けるとみています。金融引き締めの動きが続いていますが、流動性の過剰感はなお強く、賃金やインフレの上昇圧力がより強まっていけば、景気の振幅が拡大する惧れがあります。

§11Masaaki Shirakawa

これまで成長が速いテンポで続いてきただけに、成長を持続的なものにするためには、景気の過熱やインフレの上昇を回避する必要があり、景気がある程度減速することはむしろ望ましいと考えています。

§12Question

今月初、被災地へ初めて行かれましたが、被災地に行かれてお感じになったことと、3 か月経ってこれから復興に向けた課題について、それぞれの地域で違うのかもしれませんが、行かれた地域ごとに何かあればお聞かせ下さい。

§13Masaaki Shirakawa

日本銀行では、震災発生直後から、被災地にある支店・事務所をフルに活用して、実情把握に努めてきました。また、3月末には山口副総裁も現地の状況を確認し、私どもの対応に万全を期してまいりました。私自身、先週、福島・仙台・石巻・盛岡を訪問して、被災地の状況を直接視察する機会を得ましたが、東日本大震災の発災から3 か月、今なお多くの方が厳しい生活を余儀なくされていることに、胸がふさがる思いがしました。それと同時に、日本経済の復興・成長に向けて、しっかり取り組んでいく必要があることについて、思いを新たに致しました。現地では、多くの尊い命が失われた石巻市内を臨む高台からも、被災の状況を確認しました。山側の地域では商業店舗も営業を始めており、ボランティアの方々の姿はあるものの、震災前の日常生活を取り戻しつつあるように感じられました。これに対し、海側の地域では、住宅や店舗、工場、社会インフラがことごとく津波に流されており、今もその惨状を顕わにしていました。眼下には津波の爪痕がまざまざと残された地域が広がっており、今回の震災の被害の大きさに身がすくむ思いがしました。

§14Masaaki Shirakawa

この石巻の現状が示すように、一口に被災地と言っても、現地の人々の現場力を梃子とした懸命な復旧・復興の努力が実を結び、経済活動が持ち直しに向かいつつある地域がある一方、被災の規模がきわめて大きい沿岸部や原発の影響でそもそも立入りさえもできない避難区域など、今なお復旧への足掛かりがつかめない地域も少なからず存在します。被災地の経済活動は全体としてみれば、少しずつ動き出しているようにみえますが、今後の対応を考えていく際には、震災の影響やその下での経済の状況が、地域・産業などによってそれぞれ大きく異なっていることについて、十分に認識する必要があると感じました。今回は時間の許す限り、地元金融機関のトップの方々ともお会いしましたが、皆さんのお話を総合すると、被害が甚大な地域に所在する企業でも、事業再生への意思を強く持っている経営者は決して少なくないようです。サプライチェーンの予想以上に早い回復についてもそうですが、復旧・復興に向けた人々の懸命の取り組みに頭が下がる思いがしました。と同時に、こうした経営者の方々の意欲が実を結んでいくためには、その意欲が削がれることのないよう、出来るだけ早期に復興に向けたビジョンを固める必要があると感じました。

§15Masaaki Shirakawa

また、金融機関では、こうした事業再生のみならず、通帳の再発行から、相続に関連した複雑な事務まで、地元住民の生活を支える地道な業務にも、熱心に取り組んでおられます。私ども日本銀行としても、中央銀行業務を通じて、被災地の皆さんの努力に精一杯応えていかないといけない、と思いました。今回は、被災地に所在する日本銀行の福島支店、仙台支店および盛岡事務所の状況も確認しました。被災地の支店・事務所では、本支店からの応援要員と一緒になって、少しでも住民の方々のお役に立てるよう、汚れたり傷んだりしたお金の引換などの業務にも、丁寧に、そしてしっかりと取り組んでいました。私どもの職員も、日本銀行員としての使命感を持って職務にあたっており、私自身、心強く感じた次第です。

§16Question

かねてから復興への対応について言及されていましたが、今回の成長基盤融資の新たな貸付枠の設定にも、こうした復興対応の意味合いが込められているのでしょうか。もしくは、今後、新たに対応が必要だとお考えですか。

§17Masaaki Shirakawa

復興と成長には重なる面もありますので、従来からある成長基盤強化支援の措置、それから今回新たに導入した措置についても、これを被災地でも活用することとなれば、大いに歓迎したいと思います。もっとも、復興に関連した資金需要が本格的に高まる時期は、いましばらく後になる可能性が高いと思います。その段階で、具体的な復興資金需要の出方や、それに対する民間金融機関の取り組み、さらには政府等による支援の状況も踏まえつつ、日本銀行としての対応を考えていきたいと思っています。その際の検討にあたっては、復興を成長力強化に結び付けていくことが望ましいことは、かねてから申し上げている通りです。しかし、日本銀行としての具体的対応を考える際には、成長基盤強化支援の資金供給の中へ復興を取り込むというより、復興支援の枠組みとしてどのような設計が考えられるかという観点から、検討していきたいと思っています。

§18Question

この 1 か月、前回の決定会合から変わったことの中で、電力供給の話が出ましたが、関西電力の15%削減要請がありました。企業の方々の話を聞くと、これが全国に波及するのではと懸念材料になっているようです。このことが、先行きにどのような影響を与えるか、個別各社の判断については言及しづらいと思いますが、お考えがありましたらお聞かせください。

§19Masaaki Shirakawa

関西電力の件については、経済活動や国民生活に大きな影響が及ばないように、今、関係者が様々な工夫を重ねている段階だと思っています。関西電力についてではなく、前回会合以降、あるいはもう少し前、前々回の会合以降の変化かもしれませんが、夏場の電力不足問題とは別に、少し長い目で見た電力不足の問題が日本経済にどのような影響を与えていくのかについてのご質問としてお答えします。電力は、経済・生産活動に非常に大きな役割を果たしているものです。この電力供給が、仮に、中長期的にも十分に行えなくなると、日本経済に対する影響が非常に大きくなってくると思います。仮にそうなった場合には、特に製造業が中心ですが、日本での製造のコスト、あるいは日本への投資という面での見直しがなされ、日本経済の潜在的な成長率、潜在的な経済活動水準を下げていく、そういうリスクを秘めていると思います。経済面からみると、そうした点について意識していく必要があると思います。もちろん、原子力について安全を確保することは大事な要請です。経済活動は、先々を予測して行っていくものですから、関係者が十分に議論して、先々の対応が出来るだけスムーズになされるように、電力不足の問題に対して取り組んでいくことが、非常に大事な課題だと思っています。

§20Question

成長基盤強化支援について、確かに呼び水効果はあったということですが、国内の資金需要をみるとかなり落ち込んでいます。5月の貸出残高をみても、もう 18 か月連続で落ち込んでいる中で、こうした措置がどれほど効果を持つのか、全体の需要を伸ばすことができるとお考えなのか、教えて下さい。また、こうした追加的な資金供給が「金余り」を生んで、結局は国債への運用に流されていくという指摘もあるのですが、いかがでしょうか。

§21Masaaki Shirakawa

この制度による資金供給を始めた時から申し上げていることですが、日本経済が直面している最も大きな問題は、成長力が徐々に低下しているということです。その背後には急速な高齢化に伴う労働力人口の減少、それから 1人当たりGDPの成長率でみた生産性の上昇率が徐々に低下していることです。こうした長期間に亘って続いている傾向に対し、これに歯止めをかけて反転させていくという取り組みを、成長力の強化、成長基盤の強化と呼んでいます。こうした取り組みは、私どもの資金供給だけで実現できるものではもちろんありません。そういう意味で、私どもとして、この流れが直ちに変わったと言うつもりはありません。ただ、どんな長期的・恒常的な問題でも、我々自身ここにこういう問題があるということを明確に認識し、その問題に取り組んでいくという意思がない限りは、問題は改善しないわけです。先程、呼び水としての効果として、即物的な効果とメッセージ効果の2 つがあると申し上げましたが、1年前と現在を比べると、成長基盤の強化が重要な課題だという意識は確実に高まっていると思います。そうした意識の変化がない限りなかなか事態を改善できません。そういう意味では現状まだ貸出が大きく増えるという状況ではありませんが、私どもとしては、メッセージの面でも即物的な面でも、それなりの効果はあったと思っています。

§22Masaaki Shirakawa

今後、本格的に貸出が増えるかは、まさに我々自身が、一連の検討の中で掲げられた色々な課題にしっかりと取り組んでいくことにかかっているように思います。また、「金余り」あるいは国債への運用についてですが、これは成長基盤強化支援に固有の問題というよりは、日本銀行が現在きわめて緩和的な金融環境を維持しているもとでも十分な貸出案件がないことの反射効果だと思います。そういう意味で、どうやって成長力を高めていくかが重要です。日本銀行ももちろん努力していきますが、何よりも民間の努力が必要ですし、また環境整備という意味においては政府の努力も必要であると改めて強く思っています。

§23Question

先程、電力不足の問題が潜在的な成長力を引き下げていくリスクについてお話がありました。こうした点が当面の景気、年度後半に向けて緩やかな回復に向かうというシナリオに影響する可能性について、どのようにご覧になっているのでしょうか。

§24Masaaki Shirakawa

当面の日本経済の下押し圧力は、主としてサプライチェーンの障害と電力の不足という供給制約です。サプライチェーンについては、企業の努力により、制約が相当程度和らいできています。電力についても、確かに夏場は、東京電力・東北電力管下の地域では 15%の節電を要請されているわけですが、企業サイドでも様々な努力を進めてきた結果、15%の節電それ自体が生産活動を大きく制約する事態はだいぶ薄らいできていると思っています。そういう意味で、短期的には──短期的とは夏場から秋ということですが──、むしろ前回会合時点に比べると事態は幾分好転していると思います。一方で、少し長い目でみた電力不足の問題は、前回会合時よりも意識せざるを得ない──もちろん現状ではリスク要因として意識しているということですが──、そうした問題も先々の経済を考える上では意識していく必要があると思います。

§25Question

成長基盤支援の新しい貸付枠設定関連で教えて下さい。動産や債権担保融資は、これまで金融機関や政府が取り組んできて、必ずしも拡がっていない実態があると思います。低利の資金を出したからといって、直ぐにそれで金融機関が貸出しを伸ばすというのはなかなか考えにくいような気がします。今回の貸付枠の設定は、過去の取り組み事例に照らしてどうお考えかという点と、中央銀行が金融の手法にまで踏み込んだ異例の措置を採ることの意義について、どのようにお考えか教えて下さい。

§26Masaaki Shirakawa

ご指摘のように、ABLについては関係する省庁あるいは金融機関でも近年、一生懸命取り組んできていますが、現状の市場規模は、統計によりますが 3000 億円または 4000 億円程度と、大きなマーケットではありません。私どもとしても、低利で融資を行うことだけによってABLの市場が大きく拡大すると思っている訳ではもちろんありません。ただ、物事全てそうですが、何か 1 つレバーを動かすことでたちどころに解決するというものがあれば、皆とっくにやっています。市場が発展する初期の段階では、市場が小さいために市場自体がなかなか発展しにくいという時期が必ずあると思います。私どもとしては、ABLを資金供給の対象にすることによって、ABLに対して、金融機関あるいは一般の企業の方が、さらに認識を高めていく、いわば「認知効果」を通じて少しでも市場を大きくしていく、これがまた好循環を生んでいくということも期待しています。それから、今回はこの措置を発表しただけですが、今後、そもそもABLの市場はどのような市場か、どういう課題を抱えているのかについても、日本銀行なりの分析をして発表したいと思っています。また、これは日本銀行の仕事では必ずしもありませんが、これまでも法律的な整備が行われてきました。さらに、政府や民間金融機関の努力で、電子債権の登録機関も生まれてきました。

§27Masaaki Shirakawa

少しずつ制度やインフラは整備されてきていますが、まだ改善を要する面があるかもしれません。そうしたことについて、私どもは議論を興していきたいと考えています。次に、金融の手法に中央銀行が入っていくことは異例ではないかということですが、もちろん非常に頻繁に行われているわけではありません。しかし、多くの中央銀行をみてみると、市場の発展期に中央銀行が役割を果たしています。非常に古典的な例を挙げると、かつて米国ではBA(銀行引受手形)という貿易金融のマーケットが大きかったのですが、 FRBが創設された直後に、BA市場を大きくするために随分いろいろな努力をしています。日本銀行については、2003年以降、 ABCPあるいはABSのマーケットを健全に育てていきたいという思いから、買入れを行うと同時に、市場関係者と一緒にフォーラムを作って、市場の発展の色々な条件、具体的な策を検討しました。そのうちの幾つかは、例えば情報をもっと開示していくという動きで、フォーマットも当時作り、今でもこのフォーマットが使われていると思います。そうしたことは、中央銀行の仕事の中の 1 つの部分だと思っています。

§28Question

震災間もない時期の予想と比べると、足許の経済の回復度合いは予想よりも早く戻ってきているのか、それとも後ずれしている印象なのでしょうか。

§29Masaaki Shirakawa

「震災直後」といった場合に、3月11日なのか、あるいはそれ以降なのかによって若干変わってきますが、大きく捉えれば、震災直後は、サプライチェーンの障害および電力の問題が非常に深刻だと思っていました。もちろん、定性的には、こうした問題が回復・修復すれば景気は回復するという道筋は予測していましたが、その時期について企業の方々からお話を伺うとかなり慎重な見方が多い状況でした。日本銀行としては、そうした企業の方々のお話を伺いながら、若干の合成の誤謬といいますか、ミクロで積み上げた話は非常に悲観的になるが、マクロ的にみれば恐らくそこまで悲観的な姿ではないだろうと思っていました。また、展望レポートにおいても、そういう意味で、企業側の見方に比べると若干明るい方向で考えていました。そうした見通しとの比較でみても、この1か月間はやや良い方向にサプライズがあったなという感じがします。繰り返しになりますが、短期的には良い方向のサプライズがあったわけですが、中長期的には懸念材料が出てきているということで、先々の経済をみていく上ではそうした時間軸を意識しながら考えていく必要があると思っています。

§30Question

2 点お伺いします。1 点目は企業の設備投資についてです。日銀もヒアリングをしていると思いますが、民間ベースの調査も幾つか取りまとめられていて、予想より強めの結果が出ているところもあります。これについて総裁はどのように感じておられるのか、これが景気を押し上げる力がどの程度なのかということについてお伺いします。2 点目は、海外経済に関して、先程米国経済についてご説明頂きましたが、ローレンス・サマーズが一部のメディアで、「失われた 10年になるかもしれない」とかなり厳しい認識を示しています。米国経済は予想よりも深刻な事態になるリスクがあるという指摘ではないかと思います。この点について総裁はどのようにお考えかお伺いします。

§31Masaaki Shirakawa

まず、設備投資ですが、今回の景気下押しが突然の供給制約によるものであると分析した場合、中長期的な成長期待それ自体は下がっていないと言えます。企業の設備投資はあくまで中長期的な経済の見通しに立って行うものですので、設備投資が落ち込まないのは、ある意味でロジックに適った話です。ただ、企業がロジック通りに動いているのかということは、現実のデータに則して確認する必要があります。最近発表された幾つかの設備投資の計数をみると、数字としては比較的強めであったと思います。ただし、こうした数字の読み方については若干注意が必要です。今回の震災の影響で、全ての企業が調査対象に入っているわけではないケースもありますし、投資計画の中には、国内と海外の投資を必ずしも分けていないケースもありますので、数字だけで判断しているわけではありません。ただ、その他の機械受注、建設関係の統計、それから設備投資のアンケート等をみますと、今のところ震災前の中長期的な成長期待が基本的には維持されていると思っています。それから、2 つ目の米国経済についてですが、サマーズ氏の寄稿は私も読みました。私自身は、多くの日本の方々と同じだと思いますが、大きなバブルを経験した後のバランスシート調整は非常に強い力で作用するということを、身をもって体験しています。

§32Masaaki Shirakawa

従って、本格的に経済の成長率が高まるにはかなり長い時間がかかるだろうという想定を持っています。もし、バブル崩壊後も金融政策あるいは財政政策を非常に積極的に運営することにより、前と同じ経済に速やかに戻っていくという前提を強く置いているとすれば、確かに景気回復はフラストレーションがたまるような遅い回復という評価になりますが、バブル崩壊後の景気回復はもともとそういう性格のものではないかという思いもあるわけです。そういう意味で、「失われた 10年」になるかどうかはもちろん分かりませんが、私が記事を読みながら思ったことは、やはりバランスシート調整に対する感覚の違いというものを――この件に限らず少なからず感じていますが――ここでもまた感じています。

§33Question

社債の買入れオペについて伺います。1 発行体あたりの買入れ上限が1000 億円に設定されていますが、4月7日の会見で総裁は、今、これを見直す必要があるとは考えていませんと言われていました。このスタンスについては、全く変化がないと理解してよろしいでしょうか。

§34Masaaki Shirakawa

変化していません。

§35Question

先程の質問と関係しますが、現在、国内の景気の回復ペースが予想よりも少し速いピッチであるとすれば、今後もしばらくは続くとみているのかお聞かせ下さい。

§36Masaaki Shirakawa

今の生産活動の回復が、想定よりも幾分速いというのは、ひとえに供給制約の解消のスピードの反映です。従って、あれだけ大きく落ち込んだ、1か月で生産が 15%も落ちる、あるいは3月、4月で輸出が 15%近くも落ちた後ですので、当然、回復のスピードは供給制約さえ解消すれば大きくなるわけです。そこまでは定性的に考えると不思議なことではなく、供給制約が解消した後の経済の回復スピードがどうかが論点になってきます。それを大きく規定するのは、世界経済の拡大のスピードがどのようになっていくかと、先程中長期的な懸念材料として挙げた電力の問題をどのように考えるかなど、幾つかの要因がありますが、一番大きな要因は、やはり世界経済がどのようなテンポで拡大していくのかだと思います。先程、世界経済、米国と欧州と新興国に分けてご説明しましたが、今、世界経済の成長率がここに来て大きく低下するという見通しを立てているわけではありません。基本的には、高い成長率が続くということですが、この問題についての判断が、ご質問への答えになってくると思います。

§37Question

先程の質問に関連してお伺いします。足許の景気認識、景気判断は 4月の展望レポートにおけるシナリオ対比でみても上振れているとのご判断でしょうか。

§38Masaaki Shirakawa

先程申し上げたのは、サプライチェーンの修復あるいは電力の回復により、生産活動については、4月の展望レポートに比べると幾分上振れているということであり、景気全体についてそのように申し上げたわけではありません。いずれにしても、来月、展望レポートの中間評価を行います。繰り返しになりますが、今、景気全体について上方修正したと申し上げたわけではありません。以上