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Bank of JapanPress conferenceJul 12, 2011Masaaki Shirakawa, Governor

総裁定例記者会見(2011年7月12日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の金融政策決定会合の結果について、展望レポートの中間評価を含めて、ポイントをご説明頂けますでしょうか。

§2Masaaki Shirakawa

本日の決定会合では、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。また、6月29日に、本日の決定会合において検討を行うことを公表していた中央銀行間米ドル・スワップ取極めの延長の件についても議論を行ない、2012年8月1日まで延長することを決定しました。金融市場調節方針決定の背景となる経済・物価情勢についてご説明します。まず、景気の現状については、「震災による供給面の制約が和らぐ中で、持ち直している」として、先月に引き続いて判断を進めました。震災後に大きく落ち込んだ生産活動は、サプライチェーンが当初の見通しを上回るペースで着実に修復されるなど、供給面の制約が和らぐ中で、このところ持ち直しの動きが明確になっています。電力問題も、この夏場については、電力会社の供給能力増強に加え、企業および家計における節電や需要平準化の工夫などにより、当初懸念されていたほどには経済活動の大きな制約とはなっていないとみられます。生産活動の持ち直しを受けて、震災後に大きく低下した輸出も増加に転じています。国内民間需要についても、家計や企業のマインドが幾分改善するもとで持ち直しつつあります。

§3Masaaki Shirakawa

6月短観の結果をみると、業況判断は、災害の影響がほとんど織り込まれていなかったとみられる 3月調査対比では悪化しましたが、先行きについては、製造業を中心に多くの企業が改善を見込んでいます。また、設備投資計画をみても、製造業を中心に3月対比で上方修正されるなど、しっかりしたものになっており、持ち直しつつあることが示されています。この間、金融環境をみると、コールレートが極めて低い水準で推移する中で、企業の資金調達コストは低水準で推移しています。企業からみた金融機関の貸出態度は、引き続き改善傾向にあります。CP市場では、良好な発行環境が続いています。社債市場では、電力会社については引き続き発行体と投資家の目線が揃わない状況が続いていますが、全体としてみると良好な発行環境となっており、発行体の裾野にも拡がりがみられています。企業の資金繰りについては、中小企業を中心に一部で資金繰りが厳しいとする先がみられていますが、総じてみれば改善した状態にあります。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、4月に 2008年12月以来 2年4 か月振りにプラスとなった後、5月も 4月同様、+0.6%となっています。

§4Masaaki Shirakawa

先行きについては、供給面での制約がさらに和らぎ、生産活動が回復するにつれ、海外経済の改善を背景とする輸出の増加や、資本ストックの復元に向けた需要、いわゆる復興需要の顕現化などから、2011年度後半以降、わが国経済は緩やかな回復経路に復していくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比は小幅のプラスで推移するとみられます。ただし、かねてより申し上げている通り、本年8月には消費者物価指数の基準改定が予定されており、前年比プラス幅が下方改定される可能性が高いことも認識しています。以上を踏まえると、日本経済は、やや長い目でみれば、物価安定のもとでの持続的な成長経路に復していくと考えられます。次に、こうした判断を4月の展望レポートで示した見通しとの比較でどう評価するかについて申し上げます。まず、成長率についてみると、2011年度は、4月時点に比べ幾分下振れる見通しとなりました。これは、主として、震災直後の経済の落ち込みが大きかったことが影響したものです。すなわち、1~3月期の大幅なマイナス成長の結果、翌年度にかけての発射台――いわゆる統計上の「ゲタ」――が下振れたことが、主に 2011年度の成長率に影響しています。

§5Masaaki Shirakawa

もっとも、2011年度の成長率の数値は幾分下振れますが、わが国経済が本年度後半には緩やかな回復経路に復していくという展望レポート時のシナリオは維持されていると考えており、このため、2012年度の成長率については、概ね見通しに沿って推移すると予想しています。物価面では、国内企業物価、消費者物価とも、概ね見通しに沿って推移すると予想しています。次に、リスク要因についてご説明します。景気面では、サプライチェーンに関する懸念は和らいでいますが、震災の家計マインド等を通じる影響については、なお注意する必要があります。また、この夏を越えて、やや長い目でみた電力の供給制約については、定期点検終了後の原子力発電所の再稼働の問題から、不確実性が幾分増していると考えられます。次に、海外経済を巡るリスクについては、バランスシート調整が米国経済に与える影響や欧州のソブリン問題の帰趨について引き続き注意が必要です。新興国・資源国については、金融引き締めが続けられているにも関わらず、高成長が続く中、インフレ圧力は沈静化していません。このため、物価安定と成長が両立する形で経済がソフトランディングできるかどうか、不確実性が大きいと考えています。物価面では、国際商品市況の一段の上昇により、わが国の物価が上振れる可能性がある一方で、中長期的な予想物価上昇率の低下などによる下振れリスクもあるとみています。

§6Masaaki Shirakawa

日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰するために、包括的な金融緩和政策を通じた強力な金融緩和の推進、金融市場の安定確保、成長基盤強化の支援という3 つの措置を通じて、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていきます。さらに、被災地の金融機関を支援する資金供給オペレーションについても、来週、第3 回の入札を実施する予定です。日本銀行としては、今後とも、震災の影響を始め、先行きの経済・物価動向を注意深く点検した上で、必要と判断される場合には適切な措置を講じていく方針です。

§7Question

生産についてお伺いします。持ち直しということをお話されていましたが、7~9月期のうちに、震災前の水準に完全に戻るとみていますか。また、その後の生産については、どのような展望をお持ちでしょうか。

§8Masaaki Shirakawa

まず、7~9月期に生産が震災前の水準に回復するだろうということを、前回のこの席でも申し上げましたが、現在もそうした判断です。ただし、鉱工業生産指数は、季節調整の関係で大変読みにくくなっています。2009年の 2月は、リーマンショック後の一番落ち込みの大きかった月ですが、この2月の落ち込みを季節性と捉えた場合に、そのベースで調整した本年2月の季節調整済計数は比較的高くなります。そのため非常に細かい話ですが、私どもは実勢ベースを把握するために、私どもなりの季節調整をしたり、企業経営者の感覚を聞いたりしています。そうしたことを行った上で、7~9月期のいずれかの時点で、震災前の水準を回復すると申し上げており、その判断は変わっていません。3月に震災が起きて突然の供給制約が発生し、その段階で日本経済は、いわば世界経済の動きから遮断されて、実際の生産の能力に規定される姿になりました。この供給制約が解消された後の姿は、本来の需要の姿、つまり世界経済の成長率に大きく左右されます。これについては、先程も少し触れましたが、引き続き様々なリスク要因が存在します。海外経済については、繰り返しになりますが、米欧経済の成長ペースのほか、新興国・資源国経済が、物価安定と成長が両立する形でソフトランディングできるかどうかについても、不確実性が大きいです。

§9Masaaki Shirakawa

国内面では、やや長い目でみた電力の供給制約が生産活動に与える影響や、企業や家計の中長期的な成長期待などを、注意深く点検していく必要があると考えています。

§10Question

3 点目は欧州の財政問題についてです。ギリシャ問題をはじめとして、イタリアの件も含め、現在、市場が大きく動揺しています。この現状と日本経済に対するリスクをどうみたらいいのかという点についてお伺いします。また、同じように日本も財政問題を抱えていますが、欧州で起きていることを日本に引き付けた場合に教訓として何をみたらいいか、この点もお願いします。

§11Masaaki Shirakawa

ギリシャ議会で中期財政戦略が承認され、EU、IMFの第 5 次融資による資金手当てに目途がついた後も、ギリシャの国債利回りは既往ピーク圏内で推移しています。ポルトガルなど他の欧州の周縁国においても、国債の格下げなどを受けて利回りが上昇しており、また、昨日は、今ご指摘の通りイタリアあるいはスペインの国債金利も上昇しており、不安定な状態が続いています。このように、欧州周縁国の緊縮財政の実施やあるいはEU、IMFの金融支援によっても、債務問題に対する不透明感が払拭されない背景は、周縁国経済が安定成長軌道に向かう道筋がみえてこないことにあると考えられます。政府と民間双方が過剰債務を抱え込んでいる状況のもとで、周縁国の長短金利水準が名目成長率を大幅に上回る状態が続いており、このことが周縁国の景気を下振れさせ、財政再建計画の達成を困難にしています。その結果、周縁国の政府部門と銀行部門、そして実体経済が相乗的に悪化するリスクが払拭されていないと思います。ギリシャの債務問題に関する追加の金融支援や民間投資家の関与のあり方は、問題解決のための重要事項ではありますが、経済を安定成長軌道にのせるための十分条件ではありません。

§12Masaaki Shirakawa

周縁国が政府と民間双方の過剰債務を圧縮していく道筋をつけるためには、緊縮財政と並行して、民営化プログラムや産業競争力強化に向けた構造改革、金融システムの安定化など、周縁国の成長力を高める施策をしっかり進めていく必要があると考えています。欧州のソブリンリスクの問題が日本経済に与える影響ですが、先程申し上げた通り、これは1 つのリスク要因として意識しています。ギリシャ国債を含め、ギリシャ向けの日本の金融機関のエクスポージャー自体は限定的ですが、欧州の金融市場、経済が混乱することによる影響、これは下振れリスクとして意識しています。こうした欧州の財政状況を受けて、日本にとっての教訓ということですが、次の 3 点を挙げたいと思います。第1は、ギリシャの場合、2009年秋頃までは国債の金利はそれほど上昇していなかったのですが、財政の持続可能性がしっかりと確保されていないと、何らかのきっかけで、突然、市場参加者の信認が非連続的に低下する可能性があるということです。第2 に、いったん財政の持続可能性に対する信認が低下し、金融市場が動揺すると、実体経済も下押しされ、財政、金融システム、実体経済の間で負の相乗作用が生じることです。第 3 に、そうした状況に陥ると、最終的に必要となる財政の緊縮が、急激で厳しいものになってしまうということです。

§13Masaaki Shirakawa

この点で、日本の長期国債金利が低位で安定していることをどのように解釈するかということが論点になります。この点については2 つの解釈が可能だと思います。第 1 は、日本の財政バランスは大変厳しい状況にあるわけですが、いずれ必ず財政バランスの改善に向けた取り組みが進められるはずであると市場で受け止められている、という解釈です。第2 は、金利はこれまで安定してきたのだから、これからも安定していると市場が漠然と予想している、という解釈です。仮に前者の場合ですと、わが国として、市場からの信認を裏切らないことが大切ですし、また、後者であれば、そうした漠然とした予想がいつまでも続く保証はありません。いずれにせよ、できるだけ早期に財政健全化への取り組みを実際に開始する、あるいはその道筋を明確に示していく必要があることを示していると思っています。

§14Question

電力問題の影響について伺います。リスク要因として、電力の供給制約については不確実性が幾分増していると記述されています。政府は、原発の新たな安全性評価としてストレステストの実施を表明しており、これによって、定期検査中の原発の再稼働の遅れや、来年春までに国内の全原発が停止しかねない状況になるとの指摘もあります。そうした事態になった場合の日本経済に与える影響についてご見解をお聞かせ下さい。

§15Masaaki Shirakawa

原発のストレステストそのものについて、私からコメントすることは不適当ですから、あくまでマクロ経済をみている立場から申し上げます。電力供給について、定期点検後の原発の運転再開を巡る問題などから、不確実性が幾分高まっているとしていることの意味合いについてご説明します。電力供給の問題は、次の3 点で日本経済にマイナスの影響を与える可能性があるとみています。第1 に、万が一、原子力発電所が全て稼働停止した場合、それによる電力供給の減少を他の手段で完全に補うことは当面は難しいと考えられます。その場合、夏場や冬場を中心に、電力不足が恒常化し、様々な対応努力を行っても、経済活動が制約される可能性が高いとみています。第2 に、原子力発電を火力発電によってある程度代替していく場合でも、安全対策を強化して原子力発電を継続する場合でも、これまでよりコストがかかります。再生可能エネルギーも、割高と言われているコストを短期間で大幅に引き下げることは難しいと思います。いずれにしても、電力コストには、従来よりも上昇圧力がかかると考えられます。その分、マクロ的には企業収益や家計の実質購買力が圧迫され、設備投資や個人消費が抑制される可能性があります。第3 に、より長期的な観点から、電力の安定供給に対する懸念やコストの増加が、日本経済の中長期的な成長力の低下要因となるリスクも認識しておく必要があると思います。

§16Masaaki Shirakawa

もっとも、わが国は、過去、例えばオイルショックの際、技術革新を加速させることによって省エネ社会を実現しました。明確な課題に対する日本人の問題解決能力の高さは、今回のサプライチェーンの回復の早さにも表れていました。電力問題に対しても、力を結集し、早期に展望を拓いていくことが重要と考えています。

§17Question

2 点目の質問ですが、4月の展望レポートでは、世界経済はわが国経済回復の原動力という位置付けでしたが、世界経済については米国を中心に減速懸念も指摘されています。現在もなお、わが国経済の回復の原動力という位置付けなのか、足許の評価と今後の見通しをお聞かせ下さい。

§18Masaaki Shirakawa

足許の日本経済は供給制約がかかっているので、先程も申し上げた通り、世界経済の動きから若干遮断される動きになっています。ただ、供給制約が解消された後の姿についての判断は変わっていません。すなわち、世界経済の成長に牽引されるという判断には、変わりはありません。成長のスピードの点では、幾分減速していますが、このうち米国経済については、かねてより私どもとしてはバランスシート調整の厳しさを認識していました。欧州については、緩やかではあるが成長していて、先程申し上げたような財政のソブリンリスクをリスク要因として認識しています。新興国については、成長率は幾分減速していますが、息の長い成長を考えるとむしろ望ましい方向での減速と考えています。ただ、これがうまくソフトランディングできるかどうか、注意してみていきたいと考えています。

§19Question

今のお答えと関連しますが、リスク要因の上振れ、下振れを考慮したリスク全体のバランスについてのご判断をお聞かせ下さい。

§20Masaaki Shirakawa

先程の説明とできるだけ重複を避け、結論だけ申し上げます。震災直後に懸念された足許の下振れリスクは、ほぼ解消しつつあると思います。しかし、内外に様々なリスクがあることは十分に意識しています。特に、中長期的な電力不足等による生産の海外シフトは、日本の潜在成長力の低下を引き起こすリスクです。このリスクは、循環的な意味での下振れリスクとは性格が異なりますが、強い懸念を持っています。

§21Question

ユーロの方の混乱を受けて、今日、為替相場の方も対ユーロでは 112円台、対ドルでも一時 79 円とまた円高が進んでいますが、こうした為替動向が今後の日本経済に与える影響についてどうみていけば宜しいでしょうか。これはリスク要因として捉える必要はないのでしょうか。

§22Masaaki Shirakawa

足許のユーロのご質問ですが、欧州の経済それ自体について先程来、申し上げている通り、リスク要因として認識しています。世界全体としての投資家のリスクテイク姿勢の変化が為替相場にも影響を与えると思います。その為替レートの変動が日本経済にどのような影響を与えていくのか、短期と中長期では異なってきますが、いずれにせよ、為替相場の動向については、従来と同様、注意深くみていきたいと思っています。

§23Question

本日の発表文を拝見すると、国内の要因に関しては明るい材料が結構増えていると思うのですが、その中で民需、設備投資と個人消費に関してお伺いします。企業ベースでみると、キャッシュフローが引き続き潤沢な中で投資計画は堅調だが、実行されるかどうかは下期以降の海外需要がどうなるか次第で、不透明かと思います。一方、個人消費も、生産の回復に比べれば所得環境の改善が少し遅いような気がします。そうすると、日銀がイメージしている海外経済の堅調からくる輸出、生産、所得、支出というメカニズムが、まだちょっとはっきりしない、リスクがある感じがするのですが、その辺を、現状ではどうみているかお伺いします。

§24Masaaki Shirakawa

まず設備投資ですが、今回の短観でも、設備投資計画について非常に注目してみましたが、製造業を中心に設備投資計画は比較的底固かったという感じがします。分野別にみた場合、特に中小企業の非製造業についてはやや弱い、気になる動きがありましたが、全体としては、底固かった感じです。個人消費についてのマインドも、もちろん今も完全に回復しているわけではありませんが、改善方向にあると思います。記者の方のご質問の通り、供給制約が解消した後、本当にシナリオ通りに展開するのかについては、上にも下にも不確実性があります。これはいつも申し上げている通りです。そういう意味で、確実にこれが実現していくと申し上げているわけではなく、そうなるかどうか、先程申し上げたリスク要因を意識しながら、点検していきたいと考えています。

§25Question

先般、さくらレポートが発表され、全体としては非常に明るいという印象を受けましたが、地域的なばらつきをどのようにみているか伺います。

§26Masaaki Shirakawa

当然のことですが、今回の震災で被害を受けた地域かどうか、また生産活動が最も落ちた自動車のウェイトなどによって、地域間のばらつきはあると思います。被災地の中でも随分と違いがあります。例えば、宮城県の百貨店等の小売の売上高をみると、かなり強い数字が出ていますが、宮城県全体が同じわけではなく、地域によって違いがあります。今回、当然のことですが、地域によってばらつきが非常に大きいと感じています。

§27Question

電力のストレステストの問題も含め、震災の復興についても政府の決定が遅れがちな部分もあり、成長に対して影響が及ぶのではないかと思います。そうした政策的なリスクについて今回の決定会合では議論がありましたか。

§28Masaaki Shirakawa

今回の決定会合における議論の詳細については、議事要旨で発表したいと思います。問題意識として、日本の経済ができるだけ早く復旧し、復興するために政策面で必要なことを速やかに実行していくことが重要である、できるだけ不確実性を小さくしていく必要がある、ということは委員の方の間に共有されていたと思います。復旧・復興についてのご質問と思いますが、財政バランスの問題が消費に与える影響を考えた場合も、将来の自分たちの負担がどうなるかについて、ある程度合理的な予測がつかないとどうしても消費は抑制されてしまいます。そういう意味で様々な政策的な不確実性を小さくし、必要な政策を速やかに決定し、実行していくことが非常に大事だと思っています。

§29Question

先程、米国経済について、バランスシート調整の影響が出ているとのお話がありましたが、もう少し詳しくお聞きしたいと思います。雇用統計の数字も悪く、マーケットでは「ソフトパッチではないか」という見方があります。総裁は、むしろそうではなく、長期間成長率があまり高くない状況が続くとみていらっしゃるのでしょうか。2 点目は、欧州の危機で欧州系の銀行のドル資金調達が難しくなる現象がみられます。ドル資金供給については、今回の決定会合でも延長が決まりましたが、この先、金融市場の混乱が深まってきた時、日本銀行としてどのようなスタンスを取られるのか改めてお伺いします。

§30Masaaki Shirakawa

まず、米国経済ですが、ご指摘の通り足許減速しています。これについては、これまでの原油価格上昇による実質購買力の低下や日本の震災に伴うサプライチェーンの障害の影響などから、個人消費や生産の伸びが鈍化しているということだと思います。もっとも、原油価格は 5月に入って反落した後、横ばい圏内で推移しているので、この面から追加的な実質購買力の低下は現在起きていません。また、日本からの部品供給の再開に伴い日系自動車メーカーの生産は回復しつつあり、サプライチェーン障害の問題も短期間で終息すると見込まれます。現在の米国の極めて緩和的な金融環境を考えると、標準的な見通しは、成長テンポを再び回復させていくというのがFRBの見方です。私も基本的にはそのようにみています。一方、FRB自身も述べているように、家計のバランスシート問題が引き続き重石となって作用するため、景気回復に弾みがつきにくい状況がしばらく続くと考えられます。ソフトパッチかどうかというご質問ですが、ソフトパッチかどうかを判断する 1 つの基準は、潜在的な成長率が低下したかどうかです。成長率が低下している場合は、必ずしもソフトパッチということではなく、潜在成長率が低下しただけということもあります。潜在成長率が高い場合は、ソフトパッチという位置付けになります。

§31Masaaki Shirakawa

私自身はこの点について特定の結論を持っていませんが、歴史的な経験則からみると、大きなバブルが崩壊した後、やや長い期間にわたって平均的な成長率は低下しがちです。欧州の資金市場を巡る緊張感についてご質問を頂きました。日本銀行に限らず、主要国の中央銀行の共通の基本スタンスとして、金融システムの安定をしっかり維持していくことが大事だということです。日本銀行もまったく同じ認識です。そうした認識に立って、本日もドルのスワップによるドル資金供給オペを協調的な枠組みの中で再度延長することを決めました。実際の利用は現在ありませんが、こうしたオペがバックストップとして存在することは、金融市場が市場内部の要因で緊張感を高めることがないようにするために有用であると考えています。

§32Question

少し細かい点ですが、公表文の中でリスク要因としてサプライチェーンと電力の話はすでに出たと思うのですが、震災の家計マインドなどを通じる影響について、もう少し詳しく具体的に、例えば余震や放射能の話など色々あると思いますが、どのようなことを指しているのかお教え下さい。

§33Masaaki Shirakawa

個人消費の面をみると、財・サービスに分けて考えた場合、全体にサービスの弱さが目立っているという感じがします。もちろん震災直後に比べると、改善方向に向かっていますが、特に今回、中小企業の非製造業の短観の業種別業況判断に表れている通り、飲食、旅行等は少し弱いと思っています。それから、日本の家計ではありませんが、海外からの旅行客も前年比大きく落ち込んだ状態が続いています。これも、日本国内での消費関連の売上げの低下につながっていると思っています。

§34Question

中長期的な電力供給の懸念についてお伺いしたいのですが、仮に、脱原発というか、原発から他のエネルギー源にシフトするという政策が採られると仮定した場合、節電もしくは他のエネルギー源への代替による需要創出効果といった前向きな要素は、定量的または定性的に、現時点でどの程度期待できるのかお聞かせ下さい。

§35Masaaki Shirakawa

先程、電力の不足の質問に対するお答えでも触れた点ですが、市場経済ですから、必ず価格のメカニズムに反応して、新たな投資が生まれてくると思います。ただ、エネルギーの分野では、そうした代替的な投資が現れてくるには少し時間がかかると思います。従って、今の段階で定性的な評価はできても、定量的な評価をすることは、なかなか難しいと思っています。以上