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Bank of JapanPress conferenceAug 4, 2011Masaaki Shirakawa, Governor

総裁定例記者会見(2011年8月4日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の金融政策決定会合の結果について、ご説明頂けますでしょうか。

§2Masaaki Shirakawa

日本銀行は、本日の金融政策決定会合において、金融緩和を一段と強化するために、資産買入等の基金を 10 兆円程度増額し、50 兆円程度とすることとしました。また、次回会合までの金融市場調節方針については、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」とすることを全員一致で決定しました。こうした決定の背景となる経済・物価情勢についてご説明します。わが国経済の現状については、「震災による供給面の制約が和らぐ中で、着実に持ち直してきている」と判断しています。先行きについても、生産活動が回復していくにつれ、輸出の増加や、資本ストックの復元に向けた需要、いわゆる復興需要の顕現化などから、緩やかな回復経路に復していくとみられます。生鮮食品を除く消費者物価の前年比も小幅のプラスでの推移を続けると考えられます。しかしながら、こうした見通しを巡る不確実性は高く、このところ、景気の下振れリスクに留意すべき情勢となっています。海外経済をみると、米国においては、債務上限問題が決着をみた後も、市場では、財政健全化を巡る懸念は払拭されておらず、最近では景気の先行きに関する見方も慎重化しています。このほか、欧州周縁国のソブリンリスク問題や、新興国の物価安定と成長の両立など、海外経済は、引き続き大きな不確実性を抱えています。

§3Masaaki Shirakawa

こうした海外情勢や、それらに端を発する為替・金融資本市場の変動については、わが国の企業マインド、ひいては経済活動にマイナスの影響を与える可能性があると認識しています。この間、物価面では、今月に予定されている基準改定に伴い、消費者物価の前年比が下方改定され、マイナスの可能性を含めゼロ近傍となる可能性が高いとみています。その点も踏まえると、物価安定の実現までにはなお時間を要するとみられます。日本銀行は、こうした景気・物価情勢を検討した上で、金融緩和を一段と強化し、これを通じて、震災からの立ち直り局面から物価安定のもとでの持続的成長経路への移行を、より確かなものにすることが必要と判断しました。日本経済は、急速な高齢化のもとでの成長力の強化という積年の課題に加え、震災からの復旧・復興という課題にも直面しています。先行き、新たな発展の基盤を築くためには、民間、政府を含め各方面の積極的な取り組みが不可欠です。日本銀行としても、第1 に、包括的な金融緩和政策を通じた強力な金融緩和を推進しています。この包括的な金融緩和政策の下では、0~0.1%という実質的なゼロ金利を、「中長期的な物価安定の理解」に基づき、物価の安定が展望できる情勢になったと判断できるまで継続することを明らかにしているほか、今回増額した資産買入等の基金を通じて、多様な金融資産の買入れと長めの資金供給を進めています。

§4Masaaki Shirakawa

第2 に、金融市場の安定確保に努めています。第3 に、成長基盤強化の支援を行っています。日本銀行は、以上の 3 つの措置を通じて、今後とも、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていく方針です。

§5Question

本日、政府は円売り介入を実施しましたが、日銀が決定会合を 1日短縮し、このタイミングで追加緩和を決めた理由について、ご説明頂けますでしょうか。

§6Masaaki Shirakawa

このところ、海外経済の先行きに対する不確実性が大きいもとで、それらに端を発する形で、為替・金融資本市場も大きく変動しています。このため、本日は財務省が朝方より、為替市場への介入を実施しています。このような状況のもとで、日本銀行としても、わが国の経済・物価情勢を点検した上で、金融政策運営方針をすみやかに決定、公表していくことが、金融資本市場の安定を確保し、企業マインド、ひいては経済活動の下振れを防ぐ観点から重要であると判断しました。このため、今回の決定会合については、本日と明日の 2日間で行う予定であった日程を変更して、本日中に終了させることとし、11 時15 分から開始することにしました。そのもとで決定した本日の措置についてですが、日本銀行自身が金融緩和を一段と強化することが必要と判断し、決定したものです。

§7Question

今回の基金の増額ですが、増額の規模と内容について、どうしてこのように決めたのか、また、その狙いについてご説明下さい。

§8Masaaki Shirakawa

まず、増額の規模について申し上げます。先程申し上げたように、景気の下振れリスクについて、より留意すべき局面にあります。そうした事態に対して、日本銀行として政策措置を採るという姿勢を明確に示すためには、それに対応した規模が有効と判断し、今回は5 兆円の刻みではなく、10 兆円としました。次に、増額の内訳についての考え方です。昨年10月の基金導入時や本年3月の震災後の増額時と同様、これから申し上げる3 つの原則を踏まえて、配分額を決めています。第1 に、長めの市場金利の低下やリスク・プレミアムの縮小を促すという政策目的に照らして効果の高い配分にするという基準です。第2 に、各資産の市場規模面での制約や市場特性に応じて適切な配分にすることです。第3 に、リスク性の資産を買い入れるということは、最終的に納税者の負担となる可能性もありますから、中央銀行として、財務の健全性に配慮する必要があるということです。この 3 つの基準、観点で考えました。第1 の観点からは、まず、やや長め、すなわち、一般にターム物と呼ばれる 1年未満の資金を一層潤沢に供給するために、6 か月物の固定金利オペを 5 兆円程度増額することとしました。また、残存期間6 か月超のものを中心とする短期国債の買入を 1.5 兆円程度増額することとしました。

§9Masaaki Shirakawa

さらに、1年未満の金利のこれまでの低下状況を踏まえ、長期国債の買入額の割合をこれまでよりも高め、2 兆円程度の増額としました。また、幅広くリスク・プレミアムに働きかけるため、社債、ETFなどのリスク性資産を1.5 兆円程度増額することとしました。第2 の観点からは、J-REITやCP等は、個別発行体の経営への関与や信用リスクの過度の集中を回避するため、1 発行体当りの買入限度を設定しています。市場規模とともに、こうした1 発行体当りの買入限度からみて、既に買入余地が大きくないJ―REITやCPについては、少額の増額に止めました。第3 の観点からは、ETFおよびJ-REITについては、これを大量に保有すると、市況の変動如何によっては、最終的に大きな損失が発生し、納税者負担につながる可能性があります。その点を踏まえ、日本銀行の財務の健全性に対する国民の信認を確保していく観点から、合計0.5 兆円程度の増額としました。

§10Question

決定文の中に、「為替・金融資本市場の変動が、わが国の企業マインドひいては経済活動にマイナスの影響を与える可能性がある」とありますが、このマイナスの影響について、もう少し具体的にご説明をお願いします。また、本日の決定には、為替の水準自体がやはり看過できないという判断に至ったものかどうか、ご説明頂けますでしょうか。

§11Masaaki Shirakawa

後の質問からお答えしたいと思いますが、日本銀行として、特定の為替相場水準を念頭に置いて政策運営を行っていくということではなく、為替相場の変動も含めて、わが国の景気・物価情勢の先行きにどのような影響を与えていくかという観点から、政策判断を行っています。次に、円高のマイナスの影響についてですが、現在の円高がどういう局面で生じているのかということを考えてみる必要があると思います。海外経済を巡る不確実性が大きい中で、グローバルな投資家がリスクを取りにくいという状況にあり、リスクが非常に大きいとみられる通貨から、とりあえずリスクが小さいとみられる通貨に、買いが集まるという現象が生じています。その出発点として、海外経済を巡る不確実性が大きいことがあり、その中で、円高が生じているわけです。それから、先々の電力供給の制約問題をはじめとして、日本経済が課題を抱えている中で円高が生じることは、企業マインドという面でも、また、日本企業の生産シフトを促進、加速してしまうというリスクの面でもコストがあると判断しています。

§12Question

今後の景気見通しについて伺います。本日の発表文では「緩やかな回復経路に復していく」という文言は残っていますが、今まであった「今年度後半以降」という時期についての文言は抜けています。これは、回復が後ずれする可能性があるという意味なのか、それとも書いてはいないが今年度後半以降という基本的な回復のシナリオは変わっていないのか、ご認識と理由を教えてください。

§13Masaaki Shirakawa

日本銀行は 4月に展望レポートを公表し、7月に中間評価を行いました。これまでのところ、足許の経済の歩みは展望レポートの想定通りですし、先行きの中心的な見通しについても、今回修正したということではありません。今回、全てを書き込むと発表文が長くなりますから書き込んではいませんが、現状判断、それから先行き判断の中心的なシナリオを変えたということではありません。ただ、先程強調してご説明した通り、従来から意識しているリスク要因について、その後の展開を踏まえると、より下振れリスクを意識した方が良いと判断し、今回の政策措置を採ったということです。

§14Question

本日、政府による為替介入が始まったのが、ちょうど午前 10 時頃でしたが、日本銀行が政策決定会合を本日中に終えて結論を出すと発表したのも、ちょうど同じくらいの時刻でした。これは、政府と日銀との間で、何らかの事前の話し合い、あるいは調整があったのか、それとも、為替介入が行われたために、そうした決定をしたのか、こうした決定の過程についてお伺いします。

§15Masaaki Shirakawa

日本銀行と政府は――この場合、財務省ですが――、常日頃から緊密な意見交換、情報交換を行っています。そうした意見交換の中には、経済・物価情勢、金融情勢も含まれます。また、日本銀行は、為替介入の実行部隊、代理人でもあります。それら全てについて意見交換、情報交換を行っており、また、現在の経済情勢に対する見方という点で、両者の認識は基本的に一致しているということです。

§16Question

今後、資産買入れの増額をしていくことはないという理解なのか、それとも、必要があれば今後も増額を随時検討していくという理解なのか、今回決定した追加の金融緩和についてのお考えを伺いたい。

§17Masaaki Shirakawa

日本銀行として、先行きの経済・物価情勢を注意深く点検し、先々の色々なリスク要因をいち早く点検し、この時点で十分な措置を講じたと判断しています。ご質問は、将来の増額があり得ないのかということでした。もちろん、経済は生き物ですから、その意味で、中央銀行仲間でよく使う言葉である「ネバー・セイ・ネバー」です。ただ、私どもとしては、今回、今の経済情勢、金融市場の状況、8月の物価指数の基準改定、それ以外の様々な不確定要因も相当に前広に取り込み、点検して、思い切った金融緩和を強力に行ったということです。

§18Question

為替介入が行われたその同じ日に、決定会合の日程を 1日に短縮して決めた追加緩和策ということですが、為替介入と足並みを揃えて、同時に追加緩和を行うことの意味について、総裁はどのようにお感じになっていますか。

§19Masaaki Shirakawa

本日、午前中から為替介入が行われたわけですが、たまたま、金融政策決定会合が本日と明日に予定されていました。もちろん、本日と明日の2日間をかけて議論した上で明日の午後に発表するという選択肢はあり得ます。しかし、その間にマーケットで様々な思惑が生じるわけで、そうした思惑が出ることに伴う副作用と、一方でこれを1日繰り上げ、不確実性を消して、マーケットに対して私どもの強い姿勢を示していくことのプラス面を考えた場合、答えはおのずから明らかだと思いました。

§20Question

2 つ質問があります。1 つ目ですが、国際商品市況は、一部貴金属を除くとあまり上昇しなくなってきている状況にありますが、今後の日本のCPIの方向感についてどのようにみていらっしゃるのかお伺いします。2 つ目は、社債やCP買入れの1発行体当りの上限について、マーケットでは、柔軟な対応を求める声がありますが、この点に関するご見解を伺います。

§21Masaaki Shirakawa

消費者物価の先行きの見通しですが、今回の決定会合で物価の見通しについて何か変化があったわけではありません。ご質問から少しそれますが、消費者物価指数の基準改定が 8月に予定されていることについては、かねてから留意する必要があると申し上げてきました。基準改定それ自体によって、人々の経済行動が変わるわけではありません。また、新しい基準で作られる物価指数によって、現在の物価情勢についてより正確な判断ができるということになりますが、その点では、先程申し上げた 0%近傍という評価になるだろうということを確認しました。大事なことはデフレの状況がどういう方向に向かっているのかということですが、マクロの需給ギャップが段々と縮小していくという基調は維持されています。物価の基調として次第にデフレの情勢が緩和されていくという判断は変わっていません。新しい基準が発表されるまで、もうしばらくあるわけですが、実態が変わっていないにも関わらず、新しい数字が出ることによって、情報についての認識ないしコミュニケーションがうまくいかないと、その段階で新たなデフレ要因が発生したかのような状況になって、そのこと自体がまた悪影響を与えます。

§22Masaaki Shirakawa

従って、この点は強調して申し上げたいのですが、基準改定によって物価情勢を正確に認識することは大事なわけですが、基準改定自体によって何か追加的に経済に対して影響が出てくるというものではありません。商品市況について、前回決定会合時点との比較でみると、国際商品市況は必ずしも下がったわけではありません。商品によって違いますが、全体の指数をみると、どちらかといえば、前回会合時に比べ横這いないし上がっていると思います。いずれにしても、市況ですから上にも下にも変動するわけですが、大きな国際商品市況の流れを考えてみると、世界経済、なかんずく新興国経済が成長していくときには、商品市況は上がりやすいということです。上昇率という意味では、さすがにどんどん上がっていくわけではありませんが、展望レポートの一応の想定では、商品市況水準が緩やかに上昇していくとみています。そうした想定自体を現在変えているわけではありません。2 つ目の質問についてですが、CPあるいは社債の買入れについて、1発行体当りの限度額を緩和すべきではないかというご意見が、マーケットの声としてあることは、もちろん承知しています。

§23Masaaki Shirakawa

マーケットの中で、こういう買入れによって直接的にプラスの影響がおよぶ投資家からみると、買入れはできるだけ多い方が良いという声になることはもちろんありますが、ただ私どもとしては、金融政策の一環として行っているものなので、最終的に、金融政策の目的に照らして有効かどうかが、常に判断軸となるわけです。CP、社債については、1発行体当りの買入限度額を、現在1,000 億円以内、かつ発行残高の 25%以下としています。これは、 CPや社債等の少数の銘柄に集中して大量に買い入れると、最終的に損失が発生し、納税者の負担につながる可能性もあることから、そうした信用リスクの過度な集中を回避するために設けている制約です。中央銀行としては異例の政策であり、こうした異例の政策を行う上で、中央銀行に対する信頼、つまり中立的な立場で政策運営を行っているという信頼は、非常に大事だと思っています。

§24Question

去年8月の円高局面では、ともすれば日銀の対応が遅いといった批判があったかと思いますが、今年、迅速な判断をされた背景に、去年の反省が何かあったのでしょうか。

§25Masaaki Shirakawa

日本銀行の政策対応についての様々なご意見は、私どもとしても拝聴していますが、日本銀行としては、いつも適切なタイミングで政策行動を採ってきていると判断しています。

§26Question

海外経済についてお伺いします。米国については、一昔前は日本の震災の影響もあってソフトパッチという言葉が使われていて、景気の減速は一時的だろうという見方がありましたが、どうもそういう状況ではないような動きが出ています。その点について、総裁はどうお考えでしょうか。また、もしこれが一時的ではないとすると、ドル安・円高の傾向は変わらないのではないかと思います。その点も含めて、お考えをお聞かせ下さい。

§27Masaaki Shirakawa

最後の為替の先行きに関するご質問については、中央銀行の総裁としてコメントを差し控えたいと思います。前段の米国経済の見通しについてお答えしたいと思います。米国経済をみると、輸出は堅調で、設備投資も緩やかに増加しています。ただ、これまでの原油価格の上昇による実質購買力の低下などから、個人消費の伸びが横這い圏内まで鈍化していますし、生産面でも日本のサプライチェーンの寸断の影響を受けて、自動車の生産が減少するといったように、全体として現在、景気が減速しています。これまで言われてきた減速要因について点検してみると、原油価格については 5月に入って反落した後は、横這い圏内で推移しているので、追加的な実質購買力の減少という要因は現在は発生していないということですし、サプライチェーンも日本の自動車メーカーの生産は急速に回復しつつあります。ただ、最近の経済指標をみると、個人所得、あるいは個人消費、その他の指標において、弱めの指標が相次いでいるため、市場では先行きの米国経済について慎重な見方が増えていると思います。当面のポイントを考えると、1 つは雇用ですが、雇用の増加ペースが鈍化しています。また、連邦政府の債務ですが、上限引き上げについては合意に達したものの、財政再建実現への道筋には、なお不確実性が残されています。

§28Masaaki Shirakawa

そういう中でどうしても、消費者あるいは企業が支出スタンスを慎重化させていく可能性に注目が集まっていくと思います。以上は、一般的なエコノミストあるいは市場での見方を紹介しましたが、この席でも何度も強調している通り、日本銀行自身としては、大きなバブルが崩壊した後の経済については、やはり調整に時間がかかるというのが一貫した思いです。もちろん、大きなバランスシート調整の中でも、財政政策あるいは金融政策によって一時的なあやで、少し景気が良くなったり悪くなったりはもちろんあります。それはそれで注意してみていくべき動きですが、経済を貫く大きなメカニズムを重視してみていく必要があると、日本銀行自身は考えています。

§29Question

先程総裁は、今回の決定について適切なタイミングで行われた、また、決定内容についても日銀独自の判断で行われたとおっしゃいました。ただ一方で、介入が行われたタイミングで、会合を前倒ししたこともお認めになっています。つまり、決定のタイミング自体は、政府の決定に左右されたということをおっしゃっているのだと思います。もう 1 つ、内容については、会合日程につき2日を 1日に短縮してまで今日開くということで、何もしない、現状維持という答えは選択肢としてありえなかったと思います。つまり、決定のタイミングだけではなく、政策変更の有無自体も左右されたのではないかというのが、広く市場に共有されている認識だと思います。何をいくら買うかという配分だけは日銀が行ったことについては、誰も疑問は持たないと思いますが、いずれにしても、タイミング、政策変更の有無が政府の決定に大きく左右されたという認識が非常に多い中で、一方で、今、政府の一部や与野党の中に日銀引受けを求める声があります。こうした声が強い中、日銀は今のところ、そういうことはしないと強くおっしゃっていますが、今回の決定がタイミングだけでなく、政策変更の有無までも政府の決定に左右されたというようなこと自体が持つ弊害、副作用というものはお感じにならないのでしょうか。

§30Masaaki Shirakawa

全体の質問の意味がよく分からなかったのですが、あえてお答えしますと、経済・金融の情勢は政府も市場参加者も日本銀行も等しく同じようにみているわけです。日本銀行だけがアナザーワールドをみているわけではありません。同じ経済・金融の世界をみている中で、望ましい日本経済の姿を実現していくという目的に照らして、政府、日本銀行が行うべきことは何かを考えた場合に、おのずと、政府も日本銀行も現在採った政策に至ったということです。タイミングについてですが、どのタイミングで財務省が介入するかということは、もちろん為替市場の動きに依存して、財務省の方で本日が最適であると判断されたということです。日本銀行として本日、2日間ではなくて、1日で決定をした方がいいということ自体は、先程申し上げた通りです。今回決定会合で、何も採らないという選択肢はなかったのかということですが、現在の経済・金融の状況をみて、日本銀行として追加緩和をこの段階で採った方が良いということは、政府のアクションがあったからではなく、政策委員全員の日本銀行自身の判断です。繰り返しになりますが、望ましい経済の姿を実現していくという責任感を持てば、おのずと出てくる判断だと思います。日銀引受けについてですが、この点に関するスタンスはかねてから申し上げている通りであり、そうした考え方はきわめて不適当であることで、全く変わっていません。

§31Question

現在、原発が止まっていて海外から燃料を買わないといけない状況を考えると、円高はプラスの側面もあるかと思いますが、その辺をどう評価されているのかが1点目です。また今回、円高が進む最初の局面では、東証株価も下げ渋るという感じだったのですが、日本の産業構造が、輸出依存と言いますか、そういう産業構造が変わってきていて、円高に対する耐性を上げているのではないかという気もするのですが、その辺はどのようにお考えになっていますか。

§32Masaaki Shirakawa

これは今回に限らず、円高にしても、円安にしても、プラスもあればマイナスの面もあると思います。また、短期と長期でも異なってきます。今回の円高について、今のご質問にお答えすると、原燃料の価格が上昇していますが、円高なかりせばという状況に比べると、その分、原燃料輸入の支払金額が減っているという意味でマクロ的にプラスが発生していることは、その通りです。ただ一方で、この局面での円高、つまり世界経済について不確実性が増している、あるいは原発の稼働問題とも関連して日本企業の生産シフトが懸念されている、また、そのことが、もし本当に起こればさらに企業マインドを悪化させる可能性がある、そういう局面での円高であることを評価する必要があると思います。そういう意味で、円高について一般論としては色々な評価がありますが、この時点での円高について評価すると、今申し上げたことになります。

§33Question

海外経済の動向について伺います。新興国経済が世界経済に占めるウェイトが大きくなってきており、中でも、中国が大きなウェイトを占めていると思います。ただ、最近の中国経済は、PMIの動向に陰りが出てきているなど、年初からリスクが大きくなってきているように思われます。先程、世界経済の減速に関して、メインシナリオを変えていないと述べられましたが、こうした中国経済の状況について、改めて考えをお聞かせ下さい。

§34Masaaki Shirakawa

中国経済は、高い成長を続けてきているもとで、PMIが 50 を少し上回っている状況であることの評価について、ご質問を頂きました。中国は、あれほど高い成長を続けているだけに、PMIが 50 を少し上回った水準にあることの読み方について別の議論もあると思います。いずれにしても、中国経済の高い成長は、色々なデータを総合的にみる限り、現在のところ、基調としては大きく変わっていないと考えています。先週、EMEAP(東アジア・オセアニア中央銀行役員会議)の総裁会議に出席し、アジアの中央銀行総裁方と意見交換をしましたが、やはり、今の中国にとって重要なことは、どのように物価安定のもとでの持続的成長を実現していくかということでした。だからこそ、中国人民銀行は、金融を引き締める方向でアクションを採っています。私どもとしては、持続可能性を考えれば、成長率が若干スローダウンした方が望ましいと考えています。ご質問が、中国の成長率が低下しており、年初に比べてリスクが高まっているのではないかという趣旨であれば、中国は、政策の舵が切られ、年初に比べ、むしろ望ましい姿を実現する方に向かっていると思っています。ただ、今回、決定会合の公表文に書いた通り、物価安定と持続的成長の両立に関する不確実性が引き続き存在しているため、ここは、あまり決め打ちせず、丹念にみていくしかないと思っています。

§35Question

今回の措置の効果の波及経路についてお伺いします。円高によるマインドの下振れを防ぐことが今のご説明で分かったのですが、長めの金利に働きかけて為替に影響を与える意図があるか否かという点をお聞かせ下さい。

§36Masaaki Shirakawa

為替相場は、もちろん金利差だけで決まるわけではありませんが、金利差という面からのご質問だと理解しました。例えば、日米で考えた場合、どの期間の金利差が最も為替相場に影響するかについては、なかなか先験的には言えないと思います。ただ、マーケットのアナリストのコメントをみていると、2年物の日米の金利差に着目した分析が多いように思います。なぜそういう分析が多いのかという点について、以前、期間別に内外金利差と円・ドル相場の関係を分析したことがあります。結果的には、2年程度の内外金利差の説明力が相対的に高いという結論になりました。だから2年だということではありませんが、現在私どもが基金で行っている方法論は、金利面を通じてそうした影響もあり得ると思っています。

§37Question

2 点お伺いします。1 点目は金利の低下について、基金の買入対象期間の 2年物近辺の金利をみると、2年ぐらいまでの金利はすでに政策金利にきわめて近い 0.1%台前半になっています。そうした中で、基金の枠を10 兆円増やすことによって、どういう経路で経済に波及していくのか、もう少し具体的にお伺いしたいと思います。2 点目は、本日、政府・日銀が介入する前の相場水準が77 円ぐらいでしたが、足許、会見が始まる前には79 円50 銭ぐらいまで戻っていました。政府・日銀がこうした対応をしっかりとった中で、直後のマーケットの反応について、現時点でどのように評価しておられるのか、お伺いします。

§38Masaaki Shirakawa

2 点目の方から先にお答えします。私どもは、経済・金融の状況をみて、私どもなりに最も望ましいと思われる政策を遂行していくわけです。それに対する市場の――特に短期的な――反応について、ひとつひとつコメントしていくことは、かえって市場における自律的な相場の形成という意味でも望ましくないと思いますので、コメントを差し控えたいと思います。1 点目の質問については、これだけ日本銀行が徹底した金融緩和を行っているわけですから、金利水準は相当程度低下しています。こうした中で、私どもに課せられた課題は、中央銀行の金融政策という手段を使って、どのようにして緩和効果を生み出していくかということです。確かに、金利水準は既に低い水準にありますが、金利の低下あるいはリスク・プレミアムの縮小に向けて残された金利の余地を最大限活用していくことが適切だと思います。その効果については、1 つは国債に代表されるリスクフリー金利の低下、あるいはリスク・プレミアムが上乗せされて形成される民間の金利を引き下げていくことが 1 つの効果です。結果として、株式市場や為替市場にも相応の影響が出ていく、もちろん金利の低下幅が 5%ある経済とそれがずっと小さい経済では違いますが、その中で中央銀行としてどういう政策を追求していくのかということが第 1 のルートです。

§39Masaaki Shirakawa

第2 のルートは、日本銀行が現在の経済・金融の状況について、先程申し上げたような認識を持っていて、状況に対応して行動をとっていることを明確な形で示すことを通じて、企業のマインドにもそれなりの好影響を与えていくことを期待しているということです。以上