宮尾審議委員記者会見(2011年9月14日)要旨
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§1Question
3 点質問します。1 点目は今日の金融経済懇談会の大まかな内容について、2 点目は函館の経済の状況をどのように認識しておられるか、3 点目は函館の街の印象についてお答え頂ければと思います。
§2Ryuzo Miyao
まず、本日の懇談会においてどのような話がされたかという点ですが、当地の行政および金融・経済界を代表する方々から、地域経済の現状や課題、あるいは日本銀行の金融政策運営に関する率直なご意見やご要望等を数多く頂きました。極めて有意義な意見交換ができたと思っています。改めて、本日ご出席頂いた皆様に感謝を申し上げたいと思います。全体として、どのようなお話があったかと申しますと、震災後の下押し圧力が和らぐ中で、道南地方の経済は徐々に持ち直してきている、ただし依然として厳しい面、あるいは不安な面が払拭されたわけではないので注意が必要である、というのが全体的な印象でした。意見交換の内容全てについてご紹介するのは時間的にも難しいのですが、頂いたご意見の中でいくつか整理して申し上げたいと思います。まず第 1 点目ですが、当地の主力製造業である水産加工業についてです。東北地方の同業他社が被災したことによる代替需要があり、足許高めの操業を続けており、中には売上げが前年比 2 倍となる先もあるなど、高操業の状態にあるというお話がありました。ただし、世界的に漁獲高が減少しているイカなどの原料が高騰しているほか、先程申し上げた代替需要がいつまで続くのか見極めが難しいといった点に不安があるとのお話を伺いました。2 点目は、もう 1 つの当地を代表する主力産業である観光業です。
§3Ryuzo Miyao
観光客数をみる限りは、震災直後は前年比 6~7 割減少していたわけですが、夏場以降、ようやく観光客が戻ってきているということなど、地域経済の回復を窺わせる動きがみられ始めているというお話がありました。ただし、なお震災前の状態まで回復しておらず、例えば原発の風評被害で中国や韓国からの外国人観光客が戻っていないという点や、宿泊単価の下落を余儀なくされている中で収益環境が引き続き厳しいというお話も伺いました。加えて昨今の円高傾向は海外からの観光客の足を遠ざけている可能性もあるというご指摘もありました。3 点目は、建設業関連です。2015年度の北海道新幹線新函館駅開業に向けた関連工事の発注が進んでおり、これ自体は道南経済にとってプラスであるというお話、あるいはそれを含めて将来的に東北経済圏とのシナジー効果が期待できるといったお話がありました。問題は、地元建設業者の受注はまだ一部に止まっており、多くの中小建設業者では、国や道の公共工事が減少していく大きな流れの中にあって、受注の減少や単価の下落など、依然として厳しい経営環境が続いているというお話を伺いました。最後に 4 点目ですが、当地における地域密着型の金融の推進についてお話を伺いました。
§4Ryuzo Miyao
創業支援、ビジネスマッチング、事業再生支援といった企業のライフサイクルに応じて、いろいろな取り組みがなされているという面で、相応の実績がでてきているというお話がありました。また、日本銀行が取り組んでいる成長基盤強化支援の資金供給についても、医療・福祉あるいは環境リサイクル関連などの分野で実績が挙がっており、企業からも一定の評価が得られているとのご紹介がありました。以上が金融経済懇談会の内容です。質問の 2 点目は、当地、函館ならびに道南地域の金融経済情勢をどうみるか、あるいは印象、あるいは先行きについてどう考えるかということです。現状については、先程も若干触れましたが、当地の景気は、震災の影響から基幹産業である観光面を中心に下押し圧力がみられ、先行き不透明感が強い状況が続いていましたが、足許では、震災からの下押し圧力が和らぐ中で、観光・個人消費・生産を中心に持ち直しの動きがみられており、今後、緩やかな回復経路に復していく可能性が高いとみています。また、先行きを展望しても、先程話がありました、2015年度の北海道新幹線新函館駅開業が予定されているほか、当地の特徴である豊富な水産資源を活かし、産学官が一体となって「函館国際水産・海洋都市構想」を進めておられるなど、当地のさらなる発展が期待できる取り組みが行われています。こうした皆様方の取り組みに大変心強く感じた次第です。
§5Ryuzo Miyao
道南という地域は、特に函館を中心に申し上げると、ミシュランから三つ星評価を受けた函館山の夜景や、五稜郭跡などの歴史的・文化的遺産をはじめ、非常に魅力のある観光資源、あるいは豊富な農水産物に恵まれており、非常に高いブランド力を有しておられるという強みがあるのではないかと思います。そうしたブランド力をさらに強化、拡充されて、積極的かつ前向きな取り組みがさらに進み、地元経済の一層の活性化に繋がることを期待しています。質問の 3 点目の街の印象については、昨日、函館に入ったばかりですが、昨日頂いた食べ物も美味しかったですし、先程申し上げたブランド力、あるいは観光資源、水産物など、豊富な資源に恵まれているとの印象を受けました。
§6Question
先程、懇談会で要望があったというお話がありましたが、出席者の方から具体的にどういった要望があったか、複数教えて頂ければと思います。もう 1 点は、先程道南経済についての先行きなどについて見解を教えて頂きましたが、今度は道内の経済について見解を頂ければと思います。
§7Ryuzo Miyao
懇談会で寄せられた具体的な要望に関して申し上げることは少し控えさせて頂き、大枠としてどういったお話があったかについて申し上げます。先程、円高に関して、例えば中国、韓国等を中心に外国人観光客を受け入れるという面では若干厳しいというお話があり、日本銀行に円高対策を期待するという文脈でお話がありました。ただ、ご承知かと思いますが、私どもの金融政策においては、為替レートだけをみて政策判断をしているわけではありません。為替動向、海外経済なども含め、あるいは地域の実情等も勘案しながら、先行きの経済・物価情勢を丹念に点検していく、そして必要と判断される場合には適切な措置を講じていくことを考えているとお答えしました。為替レートについては、そうした苦しみもある一方で、当然輸入業者の皆さんに関してはありがたい面もあるといったお話もありました。引き続きしっかりと金融政策、金融緩和を推進して欲しいといったご意見が主だったと思います。北海道全体についての景況感をどうみているかということですが、私が理解している範囲でお答えすると、基本的に今申し上げた道南地域と同様に震災後の下押し圧力が和らぐ中で基本的に持ち直してきているという情勢判断になろうかと思います。
§8Question
懇談会の意見・要望に対するやり取りの中で、具体的に何か返答、アドバイスなどをされたことがありましたら教えて下さい。
§9Ryuzo Miyao
先程の持ち直している、あるいは厳しい面もあるというお話に対し、私からは、そうした地域の現場の皆様方のお声は非常に貴重であり、私どもの金融政策判断は当然経済全体をみて実行するわけですが、それだけではなくて、各地域の現状を金融経済懇談会の機会、支店長会議等で各支店長から上がってくる意見等を踏まえて総合的に判断するものであり、従って今回非常に貴重な機会を頂いて大変ありがたいとご返答させて頂きました。
§10Question
欧州問題を巡り、2 点質問します。欧州の金融市場の緊張は、在欧邦銀、その他日本企業に影響が出るのか出ないのか。もう 1 つは、日本の金融市場に影響が出る可能性について、その場合の適切な措置のあり方というか、2008年のリーマンショックの時のような、日銀が講じた様々な一連の施策の経験を踏まえ、どのようにみているのか、マーケットに安心感を与える意味で何かメッセージを頂ければと思います。
§11Ryuzo Miyao
欧州の債務問題に関して、欧州にある日本の金融機関への影響および日本の金融市場への影響という、2 つのご質問と思います。この 2 つに共通している面もありますが、本日の懇談会では、現在、欧州ソブリン問題を巡るリスクが拡大しているという表現で申し上げました。この問題がさらに悪化していく場合にどのような影響が日本の金融機関にあるのかという質問としてお答えさせて頂くと、日本の金融機関が保有する欧州国債のエクスポジャー自体はそう多くはないと理解しており、今後この問題がさらに深刻化した場合に日本の金融機関に対して及ぼす直接的な影響自体は、そう大きくないのではないかと考えています。しかし、そう申し上げた上で、もしこの欧州の問題がさらに深刻化して金融システムが不安定化し、さらにこれが実体経済にも波及していくという場合には、世界経済全体に大きな影響を与えうる可能性があるという問題かと思いますので、そのことが日本の金融機関、ひいては日本の金融市場、あるいは日本の経済全体に影響を与える可能性があるという点で注意が必要だと思います。日本の金融市場への影響に関し、今申し上げたのはそのリスクについてですが、私どもの金融政策の構えとしては、そうした金融市場の様々な不安等も勘案しながら、あくまで先行きの経済・物価情勢を丹念に点検する。
§12Ryuzo Miyao
すなわち、足許生じている様々な不確実性あるいはリスクの拡大が、先行きの景気・物価情勢にどのような影響を及ぼすのかということを丹念に点検して、必要と判断される場合には適切に措置を講じていくという、従来通りですが、そういう構えでいます。
§13Question
今朝の挨拶の中でゼロ金利予想の長期化という問題に触れられて、デフレが自己実現化的に強まってしまうリスクがあるということと、一方で投資家が利回りを追求する流れが広がる中で景気が改善する効果もあるというように指摘されていますが、今後、ゼロ金利の長期予想を何らか転換していく必要があるとお考えなのでしょうか。ゼロ金利の長期化が今後の日銀の政策に与える影響について教えて頂ければと思います。
§14Ryuzo Miyao
ゼロ金利の長期化の予想は、その背後にデフレ脱却の物価安定の時期を達成するのになお時間を要するというリスク、可能性に付随して出てきている問題です。デフレ予想の長期化は、あるいはゼロ金利予想の長期化はリスクであり、今現在私がどうみているかというと、日本経済は震災の落ち込みから着実に回復してきており、需給ギャップが縮小の方向に向かっていてデフレを解消する方向で、緩やかな回復の経路を着実に歩んでいるとみています。そうしたメインシナリオを軸として、しかし今後、海外経済の下振れ、あるいは不確実性の増大といったことで、景気・物価見通しがもし下振れするということになった場合には注意が必要だと、あるいはそれに伴い人々の中長期的なインフレ予想が下振れするといったリスクが考えられるので注意が必要だということです。そうした先行きの経済・物価情勢の動向をしっかり点検していき、必要と判断される場合には適切な措置を講じていきたいと考えています。
§15Question
本日の懇談会で、円高の定着によって、産業空洞化の懸念があるというお話をされていましたが、円が70 円台後半で定着し、ユーロも100 円台前半で定着しているわけですが、この定着が企業のマインドに ―― 8月の決定会合以降、1 か月以上経ったわけですが ―― 企業のマインドにさらに悪い影響を与えて、一層マインドが悪化しているというように考えているのかどうか、マインドの悪化の程度が当初日銀が想定した範囲に収まっているのかどうか、宮尾審議委員の見解をお聞きしたい。
§16Ryuzo Miyao
円高定着のリスク、それがまた企業マインドのさらなる悪化に繋がっているのか、現状どうみるのかということですが、今進行中の円高の背景としては、懇談の中で申し上げていますが、米欧経済の減速の懸念、先行きに対する不確実性の高まり、あるいは特に欧州債務問題を巡るリスクの拡大といったものが市場のリスク回避姿勢を強める結果になって、相対的にリスクの小さい円が買われ、円高になっているのではないか、ドル安、ユーロ安の裏側として円高になっているのではないかと思っています。これが企業マインドに及ぼす影響が気になるところですが、とりあえず今、データとして確認できる企業マインドの指標について申し上げると、懇談会の資料の中で少し触れましたが、今のデータから窺われる範囲では、まだ大きくは崩れていないというのが私自身の理解です。7月、8月の企業マインドの指標では、大企業と中小企業を含め、一部足踏みしているところもありますが、総じて改善していると判断できるのではないかと考えています。しかし、これは 8月半ば、部分的に 8月下旬の回答もありますが、今月に入ってそうしたリスクがさらに拡大しているのかどうかという点について、これからより注意してみていかなければならないし、企業の経営者の皆様にマインド面で与える影響を、慎重にみていかなければならないと考えています。
§17Question
円高について 2 点お伺いしたいと思います。先程の質問とかぶってしまうかもしれませんが、午前中の懇談の中で円高が実体経済にもたらす影響については、良い面も悪い面もあるというように仰っていますが、足許の円高の状況下で良い面と悪い面の影響度合いが等しい状態なのか、それとも既に悪い面の方が良い面を凌駕していっているというような惧れは生じてきているのでしょうか。もう 1点は、円高を受けた政策対応の必要性についてですが、政府の対応、円高に対する痛みを緩和する対応について評価されていますが、日銀としてどんな対応ができるかということについてもお伺いしたいと思います。例えば、先日スイス中銀がスイスフラン相場に対ユーロで上限を設ける通貨高抑制策を実施しましたが、日本でもスイスのように望ましい為替水準の目標を設定することで円高を止めるということはできないのでしょうか。その点についてもお伺いしたいと思います。
§18Ryuzo Miyao
円高に対して第1点目、良い面と悪い面と、総合してどう考えているのかということですが、懇談会でも述べましたように、プラス面は輸入原材料のコストが低下して、それが企業、家計に幅広くメリットになる。特に今、震災から立ち直る現状において輸入が増えていますので、そうした足許短期的に輸入が必要な状況下においては、このメリットは相対的に大きいだろうと思っています。また、海外企業買収によって成長力を強化する、これはやや長い目でみてもプラスの側面があります。一方で、マイナス面としては、輸出企業の収益、あるいは輸出量の減少、企業マインドの悪化ということが懸念されるわけです。そしてやや長い目でみた懸念として産業空洞化があり、特に基幹工場、あるいは研究開発拠点の海外シフトが本格化すると、悪い産業空洞化という形で日本経済の成長力が損なわれ、長い目でみて大きな懸念材料に繋がりかねないと考えています。今申し上げたところを総合的に判断して、足許の評価、あるいは少し長い目で見た評価、双方ありますので、それをしっかりと点検して今後の政策判断に反映させていきたいと考えています。2点目、日銀の政策対応として、例えばスイス中銀の為替政策などをどうみるかという質問だったかと思います。ボードメンバーである私の立場から他国の金融政策に関して評価することは差し控えたいと思います。
§19Ryuzo Miyao
そう申し上げた上で、各国の中央銀行は恐らくその国々の与えられた制度的な枠組みや金融経済情勢の下で最適な政策を追求していると理解しています。そのことは私どもも一緒です。従って、円高に対する構えとしては、先程来申し上げているとおり、そのプラス面、マイナス面、両方を総合的に勘案して、必要と判断される場合には適切な措置を講じていきたいと考えています。
§20Question
米国のFOMCが 21・22日に行われます。金融緩和観測というのが根強くありまして、保有している国債の残存期間の長期化ということが行われるのではないかという見方が今のところ強いですが、それに加えて、付利の金利 ―― 日銀で言えば、補完当座預金制度適用利率、米国では IOER0.25% ―― を幾ばくか下げるのではないかという憶測も出始めています。白川総裁は、かねて 0.1%の付利の金利、実質的なオーバーナイトコールの下限金利にもなっているわけですが、これを引き下げることには非常に慎重な見解を示してこられました。特に海外もやっていないということを一つの大きな後ろ盾のようにしてきたわけですが、もし米国がこれを引き下げた場合には、当然日本も引き下げ圧力というか、引き下げ観測というのが出てくると思いますが、この点について宮尾審議委員の見解を教えて下さい。
§21Ryuzo Miyao
今の質問は、もし米国が追加緩和を行ったら、付利金利を引き下げたらという仮定の話かと思います。そうした仮定の話にお答えするのは控えさせて頂きたいと思いますが、私どもの現在の付利金利は0.1%で、0~0.1%の実質的なゼロ金利を金融調節方針として採用しています。この方針を採用しているのは、今の強力な金融緩和がもたらすプラスの効果および、一方で金融システムの安定、あるいは金融市場の機能に対する副作用といった面を総合的に勘案して、今の金融調節方針が望ましい、適切であると考えているわけです。懇談会の中でも申し上げているとおり、ゼロ金利の下での金融緩和については、さまざまなチャネルでの効果、あるいは潜在的な副作用が考えられるわけですが、それぞれを総合的に判断して先行きの景気・物価情勢を丹念に点検して政策判断を行っていくのだという姿勢であることを改めて申し上げたいと思います。以上