総裁定例記者会見(2011年10月7日)要旨
Full text
§1Question
本日の金融政策決定会合の結果について、短観の結果も踏まえて、ポイントをご説明下さい。
§2Masaaki Shirakawa
本日の決定会合では、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。東日本大震災の被災地の金融機関を支援するための資金供給オペレーションについては、10月末に到来する受付期限を 6 か月延長し、2012年4月末とすることを決定しました。あわせて、被災地企業等にかかる担保適格要件の緩和措置も、その適用期限を6 か月延長し、2013年4月末とすることとしました。次に、本日の金融市場調節方針の決定の背景となる経済・物価情勢についてご説明します。まず、景気の現状については「持ち直しの動きが続いている」と判断しています。すなわち、生産や輸出は、震災による落ち込みからの急速な回復過程に比べれば、そのペースは緩やかになっているものの、増加を続けています。こうしたもとで、設備投資は、被災した設備の修復などもあって、緩やかに増加しているほか、個人消費についても、全体としては持ち直しています。先日公表した 9月短観の結果をみると、企業の業況判断は、6月調査対比大幅に改善しており、震災によって生じた供給制約が、予想を上回る早さで解消されてきた、という日本銀行のこれまでの認識と整合的なものとなっています。先行きの業況判断についても、全体として小幅の改善が見込まれています。
§3Masaaki Shirakawa
業種別には、震災直後に落ち込んだ分を取り戻す計画の自動車や、復興需要が徐々に出てくることも期待される建設、鉄鋼などの業種では、業況の改善を見込んでいます。一方、海外情勢を巡る不透明感などを背景に、化学や生産用機械など、慎重な見方を示している業種も尐なくないと受け止めています。このように、先行きの見通しについては、業種によるばらつきもみられているところです。この間、金融環境をみると、コールレートが極めて低い水準で推移する中で、企業の資金調達コストは緩やかに低下しています。企業からみた金融機関の貸出態度は、改善傾向が続いています。CP市場では、良好な発行環境が続いています。社債市場の発行環境についても、発行体の裾野に拡がりがみられるなど、良好な状態が続いています。企業の資金繰りについては、中小企業を中心に一部で資金繰りが厳しいとする先が、なおみられていますが、総じてみれば、改善した状態にあります。こうした金融環境に関連して、9月短観における企業の資金繰り判断や企業からみた金融機関の貸出態度判断をみると、大企業と中小企業の間で緩和度合いに差はあるものの、いずれも、2000年以降の平均を上回る水準にまで回復しています。このように、緩和的な金融環境が、企業の実感としても受け止められるようになっているとみています。
§4Masaaki Shirakawa
物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比については、7月は+0.1%、8月は+0.2%と、先般の基準改定後、概ねゼロ%となっています。先行きについては、まず、海外経済は当面減速するものの、基調的には、新興国を中心に底堅く推移すると考えられます。そうしたもとで、わが国の経済は、輸出が緩やかな増加基調を辿ることや、資本ストックの復元に向けた国内需要が、公共投資、民間設備投資、住宅投資、更には耐久消費財の消費といった様々な面で顕現化してくることなどから、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比は、当面、ゼロ%近傍で推移するとみられます。続いて、リスク要因についてご説明します。景気面では、欧州のソブリン問題の帰趨や、バランスシート調整が米国経済に与える影響について、引き続き注意が必要です。新興国・資源国については、物価安定と成長が両立する形で、経済がソフトランディングできるかどうか、なお不透明感が高いと考えています。このような海外情勢を巡る不確実性や、それらに端を発する為替・金融資本市場の変動が、わが国経済に与える影響については、これまでも十分に意識してきましたが、最近の情勢も踏まえ、注意して点検していく方針です。物価面では、国際商品市況の先行きについては、上下双方向に不確実性が大きいと考えています。
§5Masaaki Shirakawa
また、中長期的な予想物価上昇率の低下などにより、わが国の物価上昇率が下振れるリスクもあるとみています。日本銀行は、8月の金融政策決定会合において、先行きの景気について「下振れリスクにより留意すべき情勢となっている」との判断に基づいて、「資産買入等の基金」を10 兆円程度増額し、金融緩和を一段と強化しました。そのもとで、現在、金融資産の買入れ等を着実に進めています。また、日本銀行は、「中長期的な物価安定の理解」に基づき、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、現在の実質ゼロ金利政策を継続していく方針です。この「中長期的な物価安定の理解」については、「消費者物価指数の前年比で2%以下のプラスの領域、中心は1%程度」となっています。日本銀行としては、こうした包括的な金融緩和政策を通じた強力な金融緩和の推進、更には、金融市場の安定確保や成長基盤強化の支援を通じて、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰するよう、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていく考えです。今後とも、先行きの経済・物価動向を注意深く点検した上で、適切に対応していく方針です。
§6Question
欧州債務危機や米国の景気減速で世界経済の不確実性が高まっているかと思うのですが、そのことが日本経済にどのように影響してくるのか、日本経済のダウンサイド・リスクが高まっているのか、総裁の見解をお聞かせ下さい。
§7Masaaki Shirakawa
最初に、世界経済について申し上げたいと思います。世界経済の成長率は、先進国を中心に減速傾向にあります。欧州については、ソブリン問題の拡がりが、金融市場の動揺や企業・家計マインドの悪化を通じて、実体経済にも影響を与え始めていることもあり、景気は横這い圏内の動きとなっています。米国経済についても、雇用の改善テンポが依然として緩慢な上、家計のバランスシートや住宅市場の調整が長引くもとで、回復感に乏しい状態が続いています。新興国・資源国経済では、金融引き締めや先進国経済の減速の影響などから、幾分減速していますが、旺盛な内需を背景に総じて高めの成長が続いています。そうしたもとで、新興国・資源国の多くは、引き続きインフレ圧力が強い状態にあり、今後、物価安定と成長が両立する形でソフトランディングできるかどうか、なお不透明感が高いと考えています。以上のように、世界経済の先行きに関する不確実性が高まっており、これを背景に、為替・金融資本市場では、グローバルな投資家がリスク回避姿勢を強めています。世界的に株価が下落しているほか、為替市場でも、円が相対的に安全な通貨として認識されて、買われやすい地合いとなっています。こうしたグローバルな金融経済情勢の影響は、当然、わが国経済にも及んできます。
§8Masaaki Shirakawa
この点、尐し前まで、日本経済の動向は、主として、震災による供給面の制約をいかに早く解消できるかにかかっていたわけですが、供給面の制約がほぼ解消された現在、需要面の動向、とりわけ海外経済情勢の重要性が増しています。従って、先程申し上げたような海外情勢を巡る不確実性や、それらに端を発する為替・金融資本市場の不安定な動きを考えると、日本経済については、下振れリスクをより意識する必要があると考えています。先程申し上げましたが、8月の金融政策決定会合において、今申し上げたような展開になる可能性があることも予想しながら、金融緩和措置を一段と強化しました。現在はそのもとで、金融資産の買入れ等を進めているところです。今後とも、常に最新の情勢を踏まえつつ、先行きの経済・物価動向や、それを巡るリスクについて、注意して点検していきたいと考えています。
§9Question
包括緩和導入からほぼ1年が経過しました。この段階で、その成果について総裁がどのように評価していらっしゃるか、お考えをお聞かせ願います。
§10Masaaki Shirakawa
振り返ってみると、包括緩和採用後の 1年間は、東日本大震災や欧州のソブリンリスク問題をはじめとして、日本経済にとっては、非常に強い逆風にさらされた 1年間であったように思います。従って、包括緩和だけの効果を捉えることは難しいわけですが、企業の資金調達コストの低下を促し、市場参加者のリスク回避姿勢を和らげるなど、緩和的な金融環境を実現する上で、一定の効果を上げてきたと思います。金融政策で最終的に実現している金融環境について、国際比較をしてみると、例えば銀行間取引の緊張度を示すLIBOR -OISスプレッドをみても、米ドルとユーロは夏場以降、拡大していますが、日本円のスプレッドは安定しています。リスク性資産についても、例えば、AA格の社債利回りの対国債スプレッドは、8月初から足許までの間に、欧州では1.7%程度から 2.9%程度までに、米国では 1.4%程度から 2.2%程度までにと、それぞれ上昇していますが、わが国では 0.3%程度の低位で安定しています。実際の社債発行金額でみても、米欧市場では8月以降、発行量が急減していますが、わが国では電力という特殊事情のある業種以外は、8、9月とも、前年を上回っています。ただし、こうした極めて緩和的な金融環境にもかかわらず、実体経済が本格的に成長していくことになかなかつながっていかないことが、大きな課題としてあります。
§11Masaaki Shirakawa
私どもとしては、この極めて緩和的な金融環境を最大限に活用して頂きたいと思っていますし、またそのためには、かねてから申し上げているように、様々な成長力強化に向けた取組みが不可欠です。バーナンキ議長は、今週、議会証言を行い、「金融政策は万能薬ではない。様々な取組みが必要だ」ということを強調されていますが、そうした証言を聞きながら、私自身の思いと非常に共通していると感じた次第です。
§12Question
先程もちょっと質問がありましたが、欧州の債務問題が日本経済に与える影響をもう尐し具体的に教えて頂けますか。
§13Masaaki Shirakawa
欧州の債務問題が与える影響というのは、いくつか概念的に整理できると思います。 1つは欧州経済に対する日本の輸出という直接的な影響ですが、この面では相対的に欧州向けの輸出ウェイトはアジア向けに比べて高くはありません。欧州問題が影響を与えるルートとしては、やはり国際的な金融市場に与える影響、これを通ずる世界経済全体への影響、日本経済への影響が相対的に大きいと考えています。その意味では、今のご質問の域を越えるのかもしれませんが、金融市場、金融システムの安定をしっかり維持していくことが非常に大事だと思っています。
§14Question
欧州の債務問題は、今、欧州の金融機関の資本が不足しているのではないかという問題に発展し、信用不安が拡大していると思いますが、一方で、リーマンショックの時と違って、各国とも財政出動の余地が限られてきていると思います。そうした中で、リーマンショックのような世界的な金融危機に発展する惧れが無いのかどうかについて、見通しをお伺いします。
§15Masaaki Shirakawa
リーマンショックと現在の状況、正確に言いますと、リーマンショックが起こる前の状況と現在の状況を比較して、どのようにリスクを考えるのかというご質問だと思います。類似点と相違点があると思います。類似点から先に申し上げると、2008年秋のリーマンショックに至る過程では、短期金融市場において金融機関の信用力を懸念する動きが強まり、銀行間金利の上昇圧力が高まっていきました。今回の局面でも、同様の動きがみられており、欧州の金融市場は緊張した状態にあると思っています。一方で、相違点もあります。リーマンショックの時には、民間金融機関の信認が懸念の対象になっていたのに対して、今回の局面では、通常は信用リスクが意識されずに金融取引で大きな地位を占めている国債が懸念の対象になっており、その分、影響に拡がりがみられます。また、ご質問にもありました通り、今次局面では、財政面での支援措置についてはユーロ圏の 17 の国の合意・承認が必要であることも多く、周縁国への金融支援などの施策実行に、一定の時間を要してしまうという面もあります。これはマイナス面での違いです。しかし一方で、リーマンショック時の経験を踏まえ、現在では、金融機関に対する流動性供給や資本の強化について体制の整備が進んでいるという、プラス方向での相違点もあります。
§16Masaaki Shirakawa
ECBは、固定金利かつ全額無制限方式のオペを続けているほか、主要国中央銀行と協調して、年末越えとなる米ドル資金供給の実施を決定するなど、ユーロ・ドル双方の金融市場に潤沢に流動性を供給する体制がしっかり組まれています。また、金融機関への資本注入についても、欧州の多くの国では、リーマンショックの際に整備された資本注入スキームが現在も存続しているほか、欧州金融安定基金(EFSF)の機能拡充によって、機動的に資本注入をする仕組みも今整備されつつあります。このように類似点や相違点がありますが、いずれにせよ――これはご質問に戻るわけですが――、リーマンショックのような事態を回避することが何より重要です。そのためには、ソブリン問題を抱えた欧州各国政府が、財政健全化に着実に取り組むとともに、産業競争力強化に向けた構造改革、金融システムの安定化など、成長力を高める施策についても、しっかり進めることが必要です。先日のG20声明でも述べられているように、日本を含めた世界各国が協調して欧州各国の取組みを後押ししていくことが不可欠だと考えています。
§17Question
今の質問の関連で、日銀としては各国の中央銀行と連携して欧州の流動性の供給をされていると思いますが、今後更に追加的に、欧州の問題に対して日銀を含めた域外の中央銀行が追加的な下支えの対策を出される可能性はあるでしょうか。
§18Masaaki Shirakawa
主要国の中央銀行は総裁レベルでも実務責任者のレベルでも様々なレベルで密接な意見交換、情報交換を行っています。中央銀行としては、中央銀行の有する機能を使って国際的な金融システムの安定のためにどういうことができるかという問題意識を常に持っています。今のご質問に対して直接のお答えではありませんが、そうした問題意識を持って、現在この局面に当たっているということです。
§19Question
欧州関係で 2 点伺います。1 点目は、欧州の金融機関に対する資本注入をすべきだという意見が欧州では盛り上がっていますが、総裁ご自身は資本注入が必要と考えているかどうかをお聞かせ下さい。2 点目は、欧州の問題が新興国経済の成長にかなり悪影響を及ぼしているのか、実際に通貨安などの問題も起きていますが、欧州の情勢が新興国経済にどういう影響を与えるかについてもお聞かせ下さい。
§20Masaaki Shirakawa
まず、欧州の金融機関への資本注入の必要性如何というご質問ですが、もちろん日本銀行は欧州の金融機関の規制・監督当局ではありませんから、個々の金融機関に即してコメントする立場ではありません。そう申し上げた上で一般論としてお答えすると、欧州の金融機関に対して、現在十分な信認が確保されていないということが金融市場における様々な金利、スプレッドに表れているわけです。これは様々な国際会議でも強調されていますが、いざという場合に資本注入ができる枠組み、そうしたバックストップが整備されているということが大事なことだと思います。先程申し上げた通り、現実に今、多くの国では資本注入の枠組みがまだ残っていますし、更に今度EFSF(欧州金融安定基金)が強化されていくという方向です。そうした方向感自体は正しい方向性だと思っています。その上で、まずは各金融機関が資本基盤の強化に取り組み、それが不足する場合には、関係する当局がしっかり対応策を採っていくことが大事だと思います。それから欧州経済の新興国経済への影響ですが、現実に新興国の輸出をみると、これは欧州には限りませんが、先進国経済全体の減速の影響が既に輸出に徐々に出始めています。そうした貿易を通ずるチャネルに加えて、先程も触れました金融を通ずるチャネルが重要だと思います。
§21Masaaki Shirakawa
現実にそうした動きが強まっているわけではありませんが、これまで新興国に対しては先進国から多額の資本が入ってきていたわけで、この資本の流れが止まり、あるいはそれが逆転していくということになると、これは新興国に対して影響を与え得るものです。この点について新興国自身も問題意識を持っていますが、私どもとしても大事なポイントの 1 つだと考えています。
§22Question
2 点伺います。1 点目ですが、韓国ウォンが 9月以降急落している要因について、欧州のソブリン問題の影響なのか、あるいは国内の多くの銀行が休業に追い込まれている金融問題が影響しているのか、その要因をどうみているか、お聞かせ下さい。この急落に関して韓国は介入をしているわけですが、かねがね日本では、産業界中心に対ウォンでの円高に関する懸念があって、対ウォンでも介入はできないかという声があったと思いますが、これだけ急落していて韓国政府も介入をしている中で、日本がサポート的に介入をするということは意味があるのか、実際に円―ウォン市場というものがあるのか、介入ができるかどうか、将来の課題かどうかも含めてご見解をお伺いします。次に、新政権ができて財務大臣も変わり、安住財務相と国際会議にも参加していらっしゃるわけですが、いろいろなテレビなどにも映像が出ていると思います。安住さんは経済問題に詳しい方ではないのかなと思いますが、お二方の相性についてどう思われているか、お聞かせ下さい。
§23Masaaki Shirakawa
まず韓国の経済・金融市場についてです。たまたま先週の木・金曜日、韓国ソウルで開催された保険監督者国際機構の年次総会があり、そこで話をする関係で韓国に参り、その機会を利用して韓国の中央銀行あるいは韓国に進出している日本の金融機関や企業経営者の方ともかなりインテンシブに意見交換を行いました。ご質問にあった通り、韓国のウォンは足許下落していますし、先程別の記者の方の質問にもお答えした通り、新興国、韓国も含めて資本の流れが変化することについて、国として関心を持っていることを改めて認識しました。その原因が何かということですが、もちろん詳細な分析を行っているわけではありませんが、欧州のソブリンリスクに端を発した国際的なリスク回避の姿勢が、韓国に限らず世界の金融市場に濃淡の差はあれ影響を与えているということだと思います。金融機関の破綻のことを言及されましたが、韓国で破綻している金融機関は小規模の金融機関であり、この問題が韓国の金融システムの不安感を生じさせているわけではないと認識しています。対ウォンでの介入ということですが、為替市場の介入それ自体については財務大臣の所掌ですので、私からお答えするのは不適切だと思います。ただ1点、円―ウォンの為替市場があるかということですが、円―ウォンの為替市場はありません。
§24Masaaki Shirakawa
これは別に円―ウォンに限らず、多くの通貨についてはすべてドルを介して取引が行われており、円―ウォンの為替市場は存在しません。2 つ目の財務大臣に関するご質問についてです。9月以来国際会議でご一緒しており、会議の場でも、その前後でもそうですが、様々な意見交換をさせて頂いています。私にとって日本の経済・金融を国際的に説明していく、理解を求めていくときに、大臣と私と力を合わせてやっていきたいと思っています。個人的なご質問についてお答えすることは適切ではないと思います。協力して日本の状況を説明することに、ともに努力をしているということです。
§25Question
先程、今回の金融システムの問題については、国債の信認が揺らいでいるということで、より広範な影響がみられるということでしたが、現行の資本注入の枠組みあるいはEFSF拡充ということで対応可能なのか、あるいは今後拡大が必要なのか、どのようにご覧になっているかが 1 点目の質問です。2 点目は、来週のG20の会合では、バーゼルⅢについても議論が出ると思いますが、この1年間で金融システムを巡る状況が変わっている中、これまで決まっているスケジュールで進めていくことについて、どのようにお考えになっているかお伺いしたいと思います。
§26Masaaki Shirakawa
欧州の問題は、様々な要因が絡んでいます。従って、これひとつ解決すれば直ちにすべての問題が解決するというものではありません。資金の面からのご質問を頂きましたが、資金を拡充していくことは必要なプロセスの1 つだと思います。ただ、根本にある問題は財政の問題です。これも、更に突き詰めていくと、その国の対外的な競争力の問題です。その国の経済の抱えている実体的な問題に対してしっかり取り組んでいくことなしに、単に流動性の面で手当てをすれば解決するというわけではありません。それだけが先行すると、時として、むしろ長い目でみて逆効果になることもあります。そういう意味では、バランス良く進めていく必要があります。資金の拡充は必要ですが、それだけが先行することは欧州が直面する問題に対する答えではないと思います。バーゼルⅢについては、もともと昨年の夏に発表した時に、経過措置を設けて段階的に実行していくことで導入が決定されました。そもそも、バーゼルⅢがなぜ導入されたかを考えると、リーマンショックが発生し、多額の納税者資金を投入したほか、経済活動への影響も非常に大きかったわけです。そうした危機の再発を防いでいくために、長い目で時間をかけて導入していくと決まったものです。
§27Masaaki Shirakawa
その意味で、足許の情勢が変化しているからといって、直ちに長期のプロジェクトであるバーゼルⅢを見直していくということではなく、決められたスケジュールに従って実行していくというのが各国の共通の理解だと思っています。いずれにせよ、今度のG20でも、こうした規制の中身についてしっかり議論していくと理解しています。
§28Question
2 つ質問があります。1 点目は、欧州ソブリン問題と銀行等が発行したCDSの件です。例えば、市場では、ギリシャ国債の発行高の4 倍のCDSが発行されていると言われています。これについては、米国の銀行もかなり関与しているという見方もあります。先程、総裁は、リーマンショックの時は民間金融機関の問題で、今はソブリン問題が中心と言われましたが、ソブリン問題がCDSを介して銀行のオフバラを経由してかなり影響を与えるリスクがあるという見方について、総裁はどのような見解をお持ちでしょうか。2 点目は、米国経済に関して伺います。最近の米国経済に関する議論の中で、「スクリューフレーション(screwflation)」という概念――中間層が貧困化するというイメージだと思います――があります。総裁は、かねて米国経済に関して、調整下では色々なことがあるとおっしゃっていましたが、もしスクリューフレーションという概念があるとすれば、更にその調整が長引いたり、米国の成長率が重石を受けることがあるのかどうか。つまり、米国は、今、FRB のバーナンキ議長も、かなり足許の経済に下向きの圧力があるとおっしゃっていますが、そういう構造的なことがあれば、更に下押し圧力になるという見方もあるようですが、総裁はどのようにご覧になっているかお伺いします。
§29Masaaki Shirakawa
まず、CDSに関するご質問は、CDSを介してソブリンについての信用問題が民間金融機関の信用にも影響するのではないかということだと思います。これは、CDSに限らず、現在起きていることは、財政と金融システムと実体経済という三者の負の相乗作用が問題の本質です。それぞれをつなぐ金融商品として、もちろんCDS、国債など、様々なルートがあります。2 点目は、中間層の貧困化が米国経済の調整を更に長引かせるのかということです。米国経済に即しての答えではありませんが、日本におけるバブル崩壊後の成長率低下を考えた場合、バブル崩壊による直接的な影響に加え、潜在的な成長率が様々な要因から低下していったことがあるように思います。潜在成長率の低下には、労働人口の増加率が低下していったことや、様々なルートを通じて、資源配分の面で経済の新陳代謝が低下し、生産性が下がっていったというルートもあったように思います。経済成長率が下がる過程でどのような政策が採られるのかは非常に重要な要素です。経済政策の運営に当たっては、成長だけでなく、もちろん社会の安定も大事な政策の目的ですが、そのバランスが崩れて生産性が大きく下がっていくと調整が長引くことになります。どうやって、そのバランスをとっていくかが、バブル崩壊後の経済運営の難しさの 1 つだと思います。
§30Question
2 点お聞きします。1 点目は、総裁もかねて財政健全化の重要性ということを強調されてきたと思うのですが、中長期的に財政健全化の重要性があるとする一方で、最近の経済情勢を考えると、短期的には財政を必ずしも引き締めているだけでは駄目ではないかという議論があり、最近バーナンキ議長もそういうことを主張されているようですが、総裁はどのようにお考えになっているかをお聞かせ下さい。2 点目は、本日のステートメントでも、いわゆる包括緩和における資産の買入れを着実に進めていると言っています。8月の会合で資産買入等の基金の額を 10 兆円積み増して 50 兆円にしたと思いますが、営業毎旪報告の中の資産買入等の基金の残高の数字が、8月に決める前に 37 兆円くらいだったものが足許で 38 兆円~39 兆円くらいであり、包括緩和で枠を増やした割には、数字が増えていないと言う方もいます。この点が着実な資産の買入れとどういう関係にあるのかということが必ずしも理解されていない面もあると思いますので、解説をお願いします。
§31Masaaki Shirakawa
財政を巡る議論ですが、今足許で行われている復興増税案を含め、具体的な財政政策についてコメントすることは差し控えたいと思います。今のご質問の趣旨も、個別の話というより、もう尐し考え方という点でのご質問かと受け止めました。一般論として申し上げると私は 3 つの点が重要だと思っています。1 つ目は、中長期的な財政の健全化についてしっかりと信認を確保していくことが重要だということです。この点について不確実性が残ると、そのこと自体が消費を抑制してしまい経済に対して悪影響が出ることになりますし、一番悪いケースでは、今欧州で起きているような負の相乗作用が働いてしまうことになります。そうした事態を避けるためにも中長期的な財政の健全化に対してしっかり信認を維持することが大事だと思っています。2 つ目は、財政の健全化を実現していくスピードについては、景気動向への影響も考える必要があるということです。3 つ目は、財政支出の内容や税制が中長期的な成長力の強化とも整合的であるということです。この 3 つの点は今記者の方が触れたバーナンキ議長の議会証言でも、尐し整理の仕方が違いますが、強調されている点であり、中央銀行において金融という面から経済の安定を図っていくという立場に身を置くと、今申し上げた 3 点は普遍的な考え方かなと思います。
§32Masaaki Shirakawa
2 点目の資産の買入れですが、私ども自身、資産の買入れは来年末に向けて現在決めた金額を着実に買っていくという目標を掲げています。実際の買入れはもちろんマーケットの状況がありますので、機械的に按分してその線から一寸たりとも違わないというわけには参りませんが、私ども自身が設定した目標に向って着実に買入れを行っていくということで運営をしています。
§33Question
円相場が 76 円台で推移し続ける中、日産のゴ―ン社長も含めた輸出企業の経営者が産業空洞化を懸念しています。日本のメーカーが国内の拠点を海外に移すと、日本の雇用が減尐し、デフレ脱却が更に難しくなり、潜在成長率も低下するという指摘もあります。こうしたリスクが鮮明になってきている中、日銀が金融政策を通して円高を是正する必要性があるのか、そしてその方法はあるのか、総裁のお考えを伺います。
§34Masaaki Shirakawa
円高の影響については、この席でも度々申し上げてきましたが、急激な円高が企業の収益やマインドに悪影響を与え、震災からの復興途上にある日本経済に対して大きな影響を与え得るという認識を持っています。そうした認識があるからこそ、8月初に金融緩和を一段と強化したということです。日本銀行の金融政策は、為替レートの動きに対して割り当てていくものではなく、為替の変動が日本経済、景気・物価の先行きに対してどのような影響を与えるかを点検し、その上で、対応の必要があると判断した場合に金融緩和を行うというロジックであり、それに従って金融緩和の強化を行ったということです。空洞化については、前回この席で申し上げたことですが、尐し長い目でみて、日本企業の海外での生産と国内での生産の割合をみると、世界経済に占める日本経済の割合とかなり相関しています。つまり、新興国が成長し、世界経済の中での日本のGDPのウェイトが低下することとほぼ比例する形で、海外での生産のウェイトが増えていくということです。基本的には、これは「地産地消」といいますか、実際に需要が一番増加する地域で生産を行うことが効率的であるという、企業の合理的な判断を反映していると思います。そうした大きな流れをバックに、どのタイミングで海外に進出するかという時に、為替レートが影響します。
§35Masaaki Shirakawa
円高局面ではそうした動きが加速されますし、円安局面ではそうした動きが抑えられるということです。しかし長い目でみると、海外での生産を規定する一番大きな要因は、海外マーケットの拡大テンポであるということだと思います。私自身が懸念しているのは、一時的に急激な円高が生じ、日本企業が海外に生産拠点を動かし、その後円高が是正されても、一旦移転した生産拠点はなかなか戻し難く、そうなると取り返しのつかないコストになるという事態です。そうした意味で、急激な円高が日本経済に悪影響を与えるルートについては、私どもも十分認識しています。
§36Question
国内の緩やかな景気回復に自動車業界の貢献は相当大きいと思うのですが、海外経済が減速する中で自動車業界のペントアップ――挽回生産ですか――、これが過剰生産になるリスクはないのか、その辺をどうご覧になっているかお伺いします。
§37Masaaki Shirakawa
自動車業界の状況自体については、私よりも、自動車メーカーの方々がより専門的な知識があると思います。ただ、マクロの数字でみてみると、例えば、米国における日本の自動車メーカーの在庫は、現在、正常な水準に比べてかなり低下しています。企業が販売活動を行っていく上で、ある程度の在庫を持たないと通常の営業活動が出来ないというのは、どの業種にも当てはまることです。そういう意味で、供給能力が回復し、サプライチェーンが修復され、生産水準を高めていく、挽回生産を行っていくこと自体は合理的な判断と思います。それが過剰になるかどうかについては、自動車メーカーの方々も注意しながら進めていると思いますが、私どもも注意してみています。
§38Question
ちょうど包括緩和から 1年になりますので、改めて2 点お伺いします。1 点目は、包括緩和を開始した時に、狙いとしてより長めの金利の低下を促すという話をされました。その文脈で基金の買入対象の長期国債の期間は 1~2年にされたと思うのですが、実際、当時と比べて現在の1年あるいは 2年の国債の金利は、もちろん低水準ではありますが、むしろ若干上がっているという状況です。元来、短期金利を動かすという金融政策の枠組みの中で、より長期の金利を政策目標に、金利の低下を促すことを1年間やってこられた感想というか、難しさあるいはその有効性についてお考えをお聞かせ下さい。2 点目は、もともとなぜ1~2年の長期国債を買入対象にしたかといえば、たしか企業の設備資金の需要もこの程度の期間のものが多かったという話があったと思います。実際、先程総裁もおっしゃったように、実体経済への波及というか、8月末の企業向け貸出金をみると、むしろ 1年前より減尐しているという状況です。これだけ中央銀行が積極的な金融緩和をしても、なかなか実体経済に結び付かない原因について、改めてお伺いします。
§39Masaaki Shirakawa
記者の方自身が既に答えを言われているようにも思います。まず、私どもは、包括緩和のもとで企業など最終的に経済活動を行っていく主体の資金調達コストを下げていくことを通じて、なんとか景気・経済の回復を図っていきたい、ということで政策を実行してきたわけです。ひとつひとつのマーケットは、もちろん当時と比べて金利が下がったものもあれば上がったものもありますが、全体として金融環境を評価した場合、この1年間で更に緩和方向に進んだことは間違いないと思います。あるいは色々なショックが起こる中で、もし包括緩和がなければもう尐し金融環境が厳しくなったものを和らげたということにおいて、効果があったように思います。ただ、いずれにせよ昨年包括緩和を始めた段階でも、金利は相当に低い水準にあったわけですし、信用スプレッドも欧米対比相当低かったわけです。従って、そこを出発点に考えた場合、追加的な低下幅が小さいというのは、出発点で既に金融緩和を行っていたからだ、ということに尽きるように思います。問題なのは、先程申し上げた通り、これだけ緩和的な金融環境が実現しているにもかかわらず、人々や企業が本格的に投資をしていかない理由は何なのかということです。いつも申し上げていることですが、日本の潜在成長率が徐々に低下してきている、従って将来、所得や支出が増えていかないということがバックにあるわけです。
§40Masaaki Shirakawa
その意味で成長力を強化することが不可欠です。要因を分解してみると、1 つは労働人口が減尐しているということですので、どのようにして尐しでも減尐テンポに歯止めをかけていくかということについて、労働参加率の引き上げも含め、もっともっと取組みが必要であるということです。それから生産性の方も徐々に低下しているわけです。生産性というと何か技術的な響きがありますが、要は付加価値ですから、人々が対価を払ってもよいというニーズの高い商品なりサービスを提供することによって、はじめて実現するものです。その面からすると、国内の様々な規制緩和が必要だと思いますし、TPP、EPA、FTAなど様々な名前で呼ばれていますが、国内の市場が全体として小さくなっていく以上、海外の市場をもっともっと活用していくことを考え、またそのことが国内市場に対してもプラスの影響をもたらしていくという好循環を実現していくことだと思います。時間の関係で細かい話は省略しますが、要は労働人口の減尐に対して、また生産性の低下に対して、日本がしっかり取り組むことが必要だということです。そうした取組みなしに経済が本格的に成長することはないということを冷静に認識する必要があると思います。
§41Question
2 点ご質問します。第 1 点は、海外要因に伴う下振れリスクにつき、より意識する必要があると指摘されましたが、現在、このリスクは顕在化していないという見方なのか、また、先々これが顕在化していくとして、どういったところを着眼点に注意深くみていかれるお考えなのか、お聞かせ下さい。第2 点は、延長を決められた被災地金融機関向けオペレーションについて、導入時、総裁は初期対応であると指摘されていましたが、改めて半年延長するということに対する、その時との意識の変化、お考えについてご説明下さい。
§42Masaaki Shirakawa
最初のリスクについてですが、8月初の金融緩和強化の段階では、リスクを意識して金融緩和の強化を図ったわけですが、その時、私どもがリスクとして認識したことは、その後数か月の間に、現実の世界経済の減速という形で、一部は実現してきていると思っています。今後、更に足許の不確実性やリスクの増加が、現実の経済の減速につながっていくのかどうか、ここについては注意してみていきたいと思っています。その際のルート、経路ですが、先程申し上げた通り、貿易を通ずる経路もありますが、より重要なルートとして、金融市場を通ずるルートを重視しているということです。次に被災地支援オペについてですが、この制度の狙いは、今、記者の方がおっしゃった通りです。これまで月1 回のペースで合計 5 回の資金供給を行ってきました。今月実施予定のオペをあと 1 回残していますが、これまでの資金供給額の合計は約4,500 億円と、4月に設定した上限1 兆円の半分弱となっています。今後、被災地の復旧・復興に向けて、金融機関が果たし得る役割も大きいと考えられることから、残っている貸付枠を活用することによって、引き続き被災地金融機関を支援していくことが適切であると判断しました。
§43Masaaki Shirakawa
被災地金融機関の状況をみると、復興資金需要は、なお本格化の段階には至っていない一方で、保険金や義援金などの受け入れから預金が大幅に増加していることもあり、資金繰りに問題がある状況では全くないと認識しています。今後については、復興資金需要の動向やそれに対する民間金融機関の取組みのほか、政府等による支援の状況なども踏まえつつ、必要に応じて中央銀行としての適切な対応を検討して参りたいと考えています。以上