白井審議委員記者会見(2011年11月2日)要旨
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§1Question
本日の金融経済懇談会での意見交換を踏まえた、山梨県経済の現状認識と先行きの展望について、ご見解をお聞かせください。また、山梨県経済の活性化に向けたアドバイスや提言があれば、あわせてお聞かせください。
§2Sayuri Shirai
本日の懇談では、「急激な円高の影響で輸出採算が悪化している」、「このまま円高が定着すれば海外シフト、場合によっては廃業も考えざるを得ない」、あるいは「アジア等の新興国との競合が厳しい中、為替相場その他の競争力の土俵をしっかり整えて欲しい」といった声や、「雇用・所得環境の先行きには不透明感があり、消費マインドは決して明るくない」、「中国人などの外国人観光客が、震災前の半分程度に止まっている」、「人口減少や少子高齢化が続く中、中心市街地の衰退に歯止めがかからない」といった厳しい声が聞かれました。もっとも、そうした中にあって、「新たな発想で需要掘り起こしに努めていきたい」とか、「農工商連携や農業の第6次産業化など業種を超えた取り組みを進めて当地経済の活性化を図っている」、「環境関連など今後の成長が見込まれる分野に注力していきたい」といった前向きな声も、少なからず聞かれたところです。次に、以上の意見交換の内容も踏まえて、山梨県の経済情勢について申し上げたいと思います。山梨県内の景気は、震災の影響が和らぐ中、持ち直しつつあります。生産は、堅調な海外需要を背景に、当地主力の一般機械や電気機械などを中心に緩やかに増加し、生産水準も震災前の水準を上回っています。
§3Sayuri Shirai
こうしたもとで、設備投資は緩やかに増加しているほか、個人消費も、観光関連の一部などになお厳しさが残りますが、全体としては下げ止まっています。当地経済の先行きについては、当面、海外経済の減速や円高の影響を受けるものの、その後は、海外経済の成長率が再び高まることなどから、緩やかな回復経路に復していくと考えています。もっとも、国際金融資本市場や海外経済の動向次第で、こうした見通しが下振れるリスクには注意が必要です。私どもとしても、中央銀行の立場から、物価安定のもとでの持続的な成長を実現していくことを通じて、当地関係者の皆様のご努力がより大きな実りへと繋がっていくよう、積極的にサポートしてまいりたいと思っています。それから、山梨県経済の活性化に向けたアドバイスについてですが、基本的には、首都圏へのアクセスに恵まれているという立地条件の良さを活かしつつ、一般機械や電子部品など競争力の強い製造業が集積している、全国屈指の収穫量を誇る果樹栽培などを中心とした農業が盛んである、自然環境に恵まれ観光面で優位性がある、といった当地の強みを活かしていくことではないかと思っています。実際に当地を訪れ、皆様のお話を伺う機会がありましたが、規模によらず技術力に秀でた製造業の存在は注目に値すると感じました。
§4Sayuri Shirai
また、自然の美しさ、歴史、伝統、文化に裏打ちされた観光資源には、提案型の宣伝戦略を拡充していく余地が少なくないことを実感しました。こうした中、当県では既に、恵まれた自然環境を活かして企業誘致が進められているほか、太陽光発電施設や小水力発電所の建設など、再生可能エネルギーの普及にも積極的に取り組まれています。また、農業の面では、果実やワインの輸出拡大や第6次産業化への支援にも取り組まれています。観光の面では、現在は厳しい状況にあると伺いましたが、インバウンド観光客の取り込みに官民挙げて取り組まれており、富士山の世界文化遺産への登録に向けた作業も順調に進んでいると伺いました。こうしたご努力が実を結び、山梨県経済の一層の発展に繋がることを願っています。
§5Question
リニア中央新幹線が開通することが当県に与える影響と、そのメリットを最大限に活かすためにどのような方策を取ったらよいかという点について、お考えをお聞かせください。また、挨拶の中に「リニア中央新幹線も当地にとって追い風です」とありますが、甲府という地方都市にリニア中央新幹線の中間駅ができることがどのように追い風になるとみているのか、あわせてお聞かせください。
§6Sayuri Shirai
リニア中央新幹線の開通がどのような影響を与えるかという点について日本銀行として特に定量的な分析は行っていません。ただ、地元の皆様とお話したところでは、リニア中央新幹線の開通に大きな期待を持っておられ、これが山梨県経済活性化へのきっかけになるとのご意見が強いと感じました。<松本甲府支店長>補足しますと、リニア中央新幹線開通のメリットについては、黙っていれば自然に追い風になるというものでもないと思いますので、これを追い風にできるよう様々な面で山梨県の魅力を高めていく必要があります。こうしたお話は本日の懇談会の場でもありましたし、私どももそのように思っています。
§7Question
本日の挨拶の中で、欧州不安等を背景に円高が進むと企業や家計の心理が悪化して日本国内の景気が下振れるリスクがあると指摘されていますが、現時点でマインド悪化はどの程度具体的に出ているとお考えでしょうか。また、先日、政府・日銀が円売り介入を実施しましたが、その効果や市場に与える影響をどのようにみているか、あわせてお聞かせください。
§8Sayuri Shirai
円高の長期化が企業マインドに影響し、それが実体経済に及ぼす影響については、日本銀行としても懸念しており、8月に資産買入等の基金を 10 兆円程度増加する金融緩和の一段の強化を決定しました。また、10月27日には、さらに5 兆円程度の基金の増額を決定しました。8月の段階では、海外経済の減速や急激な円高がもたらす景気の下振れリスクを考慮したうえで金融緩和を行いました。10月27日の段階では、懸念していた下振れリスクが一部顕在化していること、私どもが考える中長期の物価安定の理解に基づく物価安定が展望できるまでにはもう少し時間がかかるということ、それからやはり全体としてみれば下振れリスクをより強く意識した方が良いという判断に基づいて金融緩和を行いました。今のところは、そうした点を織り込んで対応しているということです。為替介入は、財務大臣の所管事項であり、日本銀行はその代理人として行いますので、その効果について、私の立場から申し上げるのは差し控えたいと思います。ただ、今申し上げたとおり、私どもとしては、円高がマインド面や実体経済に及ぼす影響について、非常に注視していますので、為替介入が為替相場の安定的な形成に寄与することを期待しています。
§9Question
欧州の財政・金融問題について、挨拶には「10月末までの情報をもとに記述されています」とありますが、これをアップデートして書き直すとすれば、何か付け加えることがありますでしょうか。また、内外市場の連関の強まりについて警鐘を鳴らされていますが、国債のマーケットにおいてそうした内外市場の連関によるショックの可能性があるのか、あわせてお聞かせ下さい。
§10Sayuri Shirai
足もとでは、ギリシャにおける国民投票に関する閣議決定、米国大手金融機関の破綻といった話も出ていますが、全体としてみれば、ユーロ圏17 か国が、それぞれの考え方を持っている中で、10月26、27日に大変な時間をかけてギリシャ救済の包括案の合意に至ったことについては、非常に高く評価しています。詳細はこれから決定されるため、意見を申し上げる段階にはありませんが、挨拶でもお話しした欧州の3つの問題――ギリシャの問題、ギリシャの問題が他国へ波及するかという問題、財政問題が金融システムの安定性に与える影響―― のすべてについて言及し、大枠でも合意に達したことについては評価しているということです。次に、内外市場の連関については、欧州から日本、欧州から他の国を通じて日本に影響が及ぶことがあると思います。国際金融市場というもう少し大きな視点からお答えすると、仮に、欧州の問題が深刻化した場合――そういう可能性がゼロではないとして、その場合に、どういう影響があるのかということですが――、世界全体で、投資家のリスク回避姿勢が強まっていき、その結果、リスク性資産とされる株式が世界的に下落する可能性がありますし、その対極として安全資産とみなされる一部の主要国の国債が買われるといった状況があり得ます。また、外国為替市場では、相対的に安全通貨とみなされる円が買われる可能性があります。
§11Sayuri Shirai
さらに、そうした直接的なルートのほかに、米国や新興国を通じる影響も考えられます。例えば、欧州の金融機関から新興国に対する投融資が変化することがあり得ますし、それを通してわが国金融市場への影響も考えられます。いずれにしても、欧州ではこうした事態が起きないように取り組んでおり、私としては、こうしたリスクを念頭に置きつつも、欧州におけるギリシャ救済策の詳細に関する合意の形成に期待しています。
§12Question
先週のユーロ圏サミット以降「リスクオン」になっていた国際金融市場が、ギリシャの国民投票の問題により再び「リスクオフ」的な動きになっていますが、今後の状況をどう見通しておられますか。また、ギリシャ救済にかかる包括案の合意を受けて、今後はユーロ圏以外の国のサポートが重要になってくると思いますが、G20 サミットに向けた期待をあわせてお聞かせください。
§13Sayuri Shirai
欧州では、先週のユーロ圏サミットにおいて包括的な戦略について大筋で合意しましたが、その後の新たなニュースもあり、金融市場は非常に不安定化しています。もともと金融市場は7月頃から日々のニュースに敏感に反応する状況が続いており、この状況が今後も続く可能性があると思っています。私どもでは、こうしたことを下振れリスクとして捉え、10月27日に5兆円の基金増額を実施したわけです。今のところは、リスクはバランスがとれていると思っていますが、あえて、上振れ・下振れかといえば、バランスはとれていますが下振れリスクの方が強いと思っています。それは、欧州問題を契機とする不確実性はなお大きいためです。今、EUの首脳が非常に前向きに取り組んでいることは評価していますが、様々なニュースが飛び込む中で投資家の心理が日々変わるという状況にありますので、市場の状況を注意深くモニターしていきたいと思います。G20 への期待については、今回の包括的な戦略について他の諸国から支持を得られるか、また、支持だけではなく具体的に支援を実行してもらえるかが非常に重要だと思います。包括的な戦略の枠組みがきちんと理解されて、他の諸国からサポートされることが大事であり、そうなることを期待しています。
§14Question
先週の金融政策決定会合における資産買入等の基金の増額では、増額の対象が長期国債のみとされましたが、銀行券ルールの外で長期国債を買い増していくことがマーケットから財政ファイナンスであると受け取られるおそれはないのか、お考えをお聞かせください。また、先日の国家戦略会議で、岩田前日銀副総裁が円高と金融危機への対応として外債を購入する基金の創設を提案されましたが、日本銀行として外債購入についてどのように考えているか、お聞かせください。
§15Sayuri Shirai
日本銀行は、国債を市場から買い入れて既にかなりの金額を保有しています。これは金融政策、時には危機対応として購入してきた結果であり、明らかに財政ファイナンスとは全く別のものです。詳しく申し上げますと、国債の買入れは2つの目的で行っています。1つは、長期国債買入れと言われるもので、最高で30年のものまで購入していますが、この目的が銀行券ルールと言われるものです。私どもは、銀行券を発行していますが、銀行券は比較的長期的に安定した負債ですので、これに見合う資産として長期国債を買っているということです。もう1つは、昨年10月から始めている包括的金融緩和の下で、資産買入等の基金を通して買い入れているもので、この目的は金融緩和です。金融緩和の一環としての長期国債買入れは、超短期の金利がかなり潰れている状態の中で、私どもとして何ができるかを考えた時に、より長期の金利に働きかけていこうということです。国債はリスクフリーと言われる資産で、あらゆる金利のもとになりますから、長期国債の買入れを通して色々な金利に働きかけていこうという思いで買入れを始めました。長期国債の残存期間は1~2年としていますが、企業の借入期間が 3年以下ですから、これにほぼ合わせた形でやっているということです。
§16Sayuri Shirai
目的が違うからこそ、あえて「基金」というものを作り、一時的な措置として行っているものであり、中長期的な性質を持つ銀行券の見合いとして買うものとは全く違う性質のものです。国家戦略会議における岩田前副総裁の提案については、私はその場にいたわけではないので、どのような形でご提案されたのか承知していません。その上で、私が感じていることを申し上げますと、為替介入政策は財務大臣の所管であり、日本銀行はその委託を受けて実施しているものです。日本銀行には日本銀行のマンデートがあります。それは、簡単に言えば、第一義的には物価の安定であり、より詳しく言えば銀行券の信認を維持していくこと、そして銀行券が市場に回っていくよう金融市場の安定を確保していくことです。そのマンデートの中で、私どもができる手段というものを常に考え、その中で、様々な視点から検討して実行しています。資産買入等の基金についても同様です。したがって、そのマンデートから外れることをする予定はありませんし、そのマンデートの中でできることをします。私どもが具体的な金融政策手段を考える場合には、当然のことながら、国民の皆様、そして世界に向けてその背景を説明していく責任があります。したがって、日本銀行のマンデートを維持していくことを最重要視し、その中でできることを常に考えて金融政策を実行しています。
§17Question
日銀は、マンデートに従って行動するということですが、例えば外貨建て資産を買うことがそのマンデートに資すると判断すれば購入する可能性はあるとお考えでしょうか。また、基金での国債買入れについて、日本企業の借入期間が3年以下ということであれば、なぜ買い入れる国債の残存期間を 1年から2年ではなくて3年まで伸ばさないのか、残存期間3年の国債があまり流通していないというのなら、なぜ、例えば5年まで伸ばさないのか、お考えをお聞かせください。
§18Sayuri Shirai
外貨建て資産の買入れがマンデートに入るのかどうかということですが、具体的な政策手段に関してはコメントを差し控えたいと思います。繰り返しになりますが、私どものマンデートの下でやれることを考えていくということです。そして、具体的な手段を選択するときに、どういった視点から私自身が考えているかについて、3点申し上げます。1つ目は、同じ金融緩和といってもいくつか採り得る手段があります。それぞれが実体経済に及ぼすチャネル ――金融政策のトランスミッション・メカニズム ――、金融政策の波及経路がそれぞれの手段によって違います。また、それぞれの手段がもたらす副作用も違います。短期的な効果だけでなく、中長期的な効果もみなければなりません。政策手段は、そういうことも含めて考えています。また、私どもは過去にも非伝統的な手段を採った経緯もありますので、その教訓も踏まえて、具体的な政策手段を考えるということです。2つ目は、私どもは、例えば基金を通してリスク性資産等も買い入れていますが、リスク性資産を購入するということはリスクを取っているということであり、当然、日本銀行のバランスシートの健全性というものを十分考慮することが必要であるということです。忘れられがちなことですが、私どもが中央銀行として、きっちりと財務基盤の安定性を確保することが非常に重要であるということです。
§19Sayuri Shirai
3つ目は、私どもはCP、社債、 REIT、ETFなどの市場に働きかけを行っていますが、そうした色々な市場に働きかけるときに私自身が非常に重視していることは、価格形成に歪みをもたらすことは最小限にしなくてはならないということです。市場というものは、需要と供給に基づく取引の中で価格が決まるのが健全な姿ですから、そこにできるだけ影響を及ぼさないようにするよう配慮しています。それぞれの市場の規模、その中での日本銀行の存在、それらを配慮して採り得る政策を考えているということをご理解頂きたいと思います。次に、私どもが買い入れる国債については、確かに残存期間1~2年の国債を対象とするということで、今のところ変えていません。残存期間1~2年の国債金利に働きかけるということは、その近傍の金利にも影響することになります。そういった観点からご理解頂きたいと思っています。企業の資金調達の期間は国によって違います。日本企業の資金調達の期間は、米国と比べると、ずっと短く、先ほども申し上げましたように3年以下です。私たちは、金融緩和として国債の買い入れを行っており、最終的には実体経済に影響を及ぼす形で企業の資金調達環境に働きかけますから、今のところ残存期間1 ~2年のところに焦点を当てて買入れを進めています。
§20Question
企業の資金調達が3年以下ということであれば、 3年の金利がより下がった方が良いわけなので、なぜ残存期間が3年以上の国債を買わないのかということについて再度、お聞かせください。
§21Sayuri Shirai
繰り返しになりますが、やはり1~2年、それからその近傍の金利に働きかけているということでご理解頂きたいと思います。今の時点では、先ほど申し上げた3つの視点にも配慮し、そのように考えています。以上