総裁定例記者会見(2011年11月16日)要旨
Full text
§1Question
本日の金融政策決定会合の結果について、ポイントをご説明下さい。
§2Masaaki Shirakawa
本日の決定会合では、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。こうした決定の背景となる経済・物価情勢について、ご説明します。まず、景気の現状については、「持ち直しの動きが続いているものの、海外経済の減速の影響などから、そのペースは緩やかになっている」と判断しています。国内需要をみると、設備投資は緩やかに増加しているほか、個人消費についても底堅く推移しています。一方で、輸出や生産は、震災後に減少した海外在庫の復元もあって増加を続けていますが、海外経済の減速の影響などから、そのペースは緩やかになっています。この間、国際金融資本市場の緊張度は引き続き高いものの、わが国の金融環境は、緩和の動きが続いています。すなわち、コールレートが極めて低い水準で推移する中で、企業の資金調達コストは、緩やかに低下しています。企業からみた金融機関の貸出態度は、改善傾向が続いています。CP市場では、良好な発行環境が続いています。社債市場の発行環境についても、発行体の裾野に拡がりがみられるなど、良好な状態となっています。企業の資金繰りについては、総じてみれば、改善した状態にあります。
§3Masaaki Shirakawa
このように、わが国の金融環境については、欧州ソブリン問題が強く意識されるようになった本年夏場以降も落ち着いた動きをみせており、この点、米欧の金融環境との間には違いがみられています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比については、9月も、8月と同様+0.2%と、このところ、概ねゼロ%となっています。わが国経済の先行きについては、当面、海外経済の減速や円高に加えて、タイの洪水の影響を受けるとみられます。もっとも、その後は、新興国・資源国に牽引される形で海外経済の成長率が再び高まることや、震災復興関連の需要が徐々に顕在化していくことなどから、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比は、当面、ゼロ%近傍で推移するとみられます。もっとも、以上の中心的な見通しを巡っては、様々な不確実性が存在しています。中でも最大のリスク要因は、欧州ソブリン問題の今後の展開だと考えています。この問題は、既に世界経済に大きな影響を与えているところですが、今後も、欧州経済のみならず国際金融資本市場への影響などを通じて、世界経済の下振れをもたらす可能性があります。米国経済については、バランスシート調整の影響などから、減速が長引く可能性があります。新興国・資源国では、物価安定と成長を両立する形で経済がソフトランディングできるかどうか、なお不透明感が高いと考えています。
§4Masaaki Shirakawa
海外金融経済情勢を巡る今申し上げたような不確実性が、わが国経済に与える影響について、引き続き注視していく必要があります。なお、この不確実性そのものについて、その高まりを指摘するなど、委員間でも若干のニュアンスの差がありました。物価に関するリスク要因として、国際商品市況の先行きについては、上下双方向に不確実性が大きいと考えています。また、中長期的な予想物価上昇率の低下などにより、物価上昇率が下振れるリスクもあるとみています。日本銀行は、資産買入等の基金の規模を累次にわたり大幅に増額し、そのもとで、金融資産の買入れ等を着実に進めています。足許の基金の残高は40 兆円程度であり、基金の総額である 55 兆円程度に向けて、今後、さらに15兆円程度の残高を積み上げていきます。また、日本銀行は、「中長期的な物価安定の理解」に基づき、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を継続していく方針を明らかにしています。中長期的な成長力強化という日本経済にとって最も重要な課題への対応を進めていくためには、民間企業や政府、さらには金融機関が、現在の極めて緩和的な金融環境を十分に活用しつつ、それぞれの役割に即した取組みを続けていくことが不可欠と考えています。
§5Masaaki Shirakawa
日本銀行としては、こうした包括的な金融緩和政策を通じた強力な金融緩和の推進、さらには、金融市場の安定確保や成長基盤強化の支援を通じて、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰するよう、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていく方針です。
§6Question
欧州のソブリン問題について伺います。先程総裁からも最大のリスク要因というお話がありましたが、イタリアの10年物国債の利回りが 7%を超えるなど、かなり欧州の経済情勢は不確実性を増しているように思えますが、この問題の拡がりについて、現状と先行きについてどう評価されているのか、もう少し詳しくお聞かせ下さい。
§7Masaaki Shirakawa
先日の欧州サミットでは、多岐にわたる合意がなされたわけですが、その後の展開をみると、残念ながら欧州ソブリンや欧州金融機関に対する市場の懸念は、払拭されていません。具体的に市場動向をみると、ギリシャやイタリアを巡る政治情勢の混迷などを契機に、欧州各国の国債利回りや欧州金融機関の資金調達利回りが上昇し、ギリシャ国債に加えてイタリア国債の利回りも、一時ユーロ導入後の最高水準を更新するなど、緊張した状態が続いています。欧州ソブリン問題は、以下のようなルートで欧州経済に影響を及ぼしています。第1 に、ソブリン問題の深刻化に伴いコンフィデンスが悪化しており、家計や企業の支出スタンスが慎重化しています。第 2 に、緊縮財政の強まりが景気を下押ししています。第3 に、欧州各国の国債を多く保有する欧州金融機関では、資金調達面での不安から、貸出スタンスが厳しくなってきており、金融面からの下押し圧力も強まっています。さらに、欧州ソブリン問題の影響は、グローバルにも波及しつつあります。欧州経済減速の影響は、既に新興国の輸出に出始めるなど、貿易取引を通じて波及し始めています。さらに、国際金融資本市場を通じた波及ルートもあります。先行き、投資家のリスク回避姿勢が強まることがあれば、新興国からの資金流出につながる可能性があります。
§8Masaaki Shirakawa
また、欧州金融機関では、ドルの資金調達環境が悪化し、ドル資産を圧縮する動き──いわゆるデレバレッジング──もみられています。先行き、新興国向け貸出が抑制され、貿易金融などに影響が及ぶ懸念もあります。こうしたことから、各国政府や関係者は、今回の合意に基づき、必要な取組みを迅速かつ着実に進めていくことが望まれます。特に中央銀行の立場から申し上げると、金融機関の自己資本増強は重要であり、金融機関が最大限自己調達の努力をした上で、政府が必要な対応を採っていくことが、まず求められます。その上で、各国政府は抜本的な歳入・歳出の見直しによって財政健全化を着実に実行するとともに、産業競争力強化など中長期的な成長力を高める構造改革にも正面から取り組んでいくことが不可欠です。さらに、欧州全体については、欧州の安定と持続的成長を実現していくために、財政規律の確立など経済ガバナンスの強化にも、しっかり取り組んでいくことが大切であると考えています。
§9Question
今回の景気判断で、日本の実体経済にも若干の減速、陰りがみられ、その要因は世界経済の減速である、というご説明だと思いますが、欧州の危機が日本の実体経済に影響を及ぼしつつある、そのパスはどのようなものか、どのように分析をされていらっしゃるのでしょうか。
§10Masaaki Shirakawa
色々な整理の仕方が可能ですが、ルートという意味では、貿易チャネル、金融チャネル、為替チャネルがあると私自身は考えています。貿易チャネルは、欧州に対する輸出の減少として影響が出てくる面がありますが、日本は相対的には、欧州向けの輸出のウエイトが高くないので、直接欧州向けの輸出減というよりは、欧州の影響を受けてその他の地域、特に新興国経済が減速し、その影響が日本に出てくるルートということになります。2 つ目は、金融チャネルですが、世界全体の金融市場が不安定化し、金融機関が資金調達に不安感をもつと、貸出を抑制することになってきます。欧州では既にその影響が出ていますが、日本の場合は、金融機関の資金繰りは現在のところ非常に安定していますので、その影響は出ていません。しかし、もし将来、もっと大きな金融市場の混乱が生じると、もちろん日本の金融機関も無縁ではないので注意をしています。3 番目は、欧州を発端として、世界経済全体の不確実性が増大してくると、当然投資家は、リスクを出来るだけ取りたくない、外したいと考えます。現在の環境のもとでは、相対的に安全資産とみられている円が選好されやすく、円高を通じて日本経済に悪影響を与えてくるということになります。このように、欧州の情勢は色々なルートで日本経済に既に影響を与えていますし、また今後も与え得るため、日本銀行として注意をしてみています。
§11Masaaki Shirakawa
8月、および先般10月末の金融緩和の強化も、そうした判断に基づくものです。
§12Question
足許の生産・輸出に鈍化がみられる主な原因は、今のルートでいうと、貿易部分と為替部分の要因ということになりますか。
§13Masaaki Shirakawa
大きく言えば、そういうことだと思います。ただ、輸出については、もちろん世界経済の減速ということで括れる話ですが、 IT関連財については、このセクターの弱さもありますから、それも影響していると思います。
§14Question
ステートメントの中で少し触れられていますが、タイの洪水の影響をどの程度とみているのか――震災ほどの深さではないとは思いますが――、もう少し詳しく教えて下さい。2 点目は、個社の話であるため、総裁としては答え難いと思いますが、オリンパスのことで海外の投資家から日本市場への信頼が失墜しているとの指摘もあります。総裁は、そうした見方について、どのような所感をお持ちなのか教えて下さい。
§15Masaaki Shirakawa
まず、タイの洪水の件です。お答えする前に、今回の洪水で被害にあわれているタイの皆様に対して、心からお見舞いを申し上げたいと思います。東日本大震災に際して、タイ中央銀行とその職員からは、お見舞いの言葉を頂くとともに、義援金を頂き、日本銀行を通じて、被災地の方々に送らせて頂きました。当時、このように中央銀行の仲間から支援を頂いたことで、私としても大変勇気付けられました。今回の洪水の報を受けて、日本銀行の役職員一同、心を痛めており、一日も早い復旧を願っています。ご質問の件ですが、ご承知の通り、タイは東南アジアの自動車産業で中心的な役割を果たしているほか、ハードディスク駆動装置など一部のIT関連財の生産の集積地となっています。そのため、洪水による生産減少の影響は、サプライチェーン障害を通じて、タイ国内はもとより、日本を含め他のアジア諸国などにも波及しています。日本への影響については、3 つに整理できると思います。第 1 に、今回の水害により、日系企業の現地生産設備にも被害が拡がっています。このため、タイでの生産ウエイトが高い企業などにおいて、連結ベースでみた業績に相応の影響が出てくるとみられます。
§16Masaaki Shirakawa
第 2 に、わが国の生産についても、タイからの部品調達の困難化や、わが国の輸出の約 4%を占めるタイ向けの輸出減少によって、自動車や電気機械の関連企業などで生産活動を抑制せざるを得ない状況となっています。このため、短期的には、わが国の輸出や生産を目に見える形で押し下げる可能性が高いとみています。第 3 に、先行きタイでの復旧が進むにつれて、部品供給の再開に伴う、いわゆる挽回生産に加え、現地工場再開のための資本財への復旧需要などによって、わが国の輸出や生産を押し上げる要因になると考えられます。こうした点については、被害状況を含め、なお不確実な要素が多いため、全体として日本企業や日本経済がどのような影響を受けるか、引き続き動向を注意深くみていきたいと考えています。2 問目のオリンパスの件ですが、ご指摘の問題については、現在、関係当局が、正確な実態解明と迅速な情報開示が行われるように対応されていると承知しています。日本銀行としても、関係金融機関から事態の推移について情報収集に努めています。あくまで一般論として申し上げると、企業経営の公正性・透明性に対して、疑問を持たれることは非常に残念なことであり、この点、正確な情報を速やかに提供することが大切であると思います。
§17Masaaki Shirakawa
また、公正・透明な企業経営への信頼は、資本市場がその役割をしっかりと果たす上で極めて大切であり、企業経営者は、自らの自己責任と自己規律に基づく行動によって、資本市場の公正性・透明性が向上するように努力していくべきと考えています。
§18Question
中長期的な成長力の強化という観点での質問ですが、現在TPPを巡る色々な議論がなされています。中長期的な成長力の強化という観点からTPPについてどのような所見をお持ちか教えて下さい。
§19Masaaki Shirakawa
TPP協定については、先日、政府より、交渉参加に向けて関係国との協議に入ることが表明されたところであり、私の立場からTPPそのものについて具体的にコメントすることは差し控えたいと思います。その上で、ご質問にあった日本の中長期的な成長力強化という観点から、一般論として申し上げます。日本経済にとっての最大の課題は、いつも申し上げているように、中長期的な成長力を強化していくことだと思います。いわゆるデフレの問題も、中長期的な成長力の低下という基礎体力の低下がデフレという形で表れているという意味では、ことの本質は中長期的な成長力の低下です。中長期的な成長力を強化していくためには、グローバルな展開と内需の開拓の両面作戦により、一人当たりがより多くの付加価値を生み出していけるように、経済構造を再構築していく努力が不可欠です。TPPという特定の枠組みにどのように対応するにせよ、必要な規制緩和等を進め、内外双方向で、ヒト、モノ、カネの行き来を活性化していくことは、日本経済の今後の発展にとって、不可欠の取組みであると考えています。
§20Question
2 つ質問があります。1 つは、先程の欧州関連の質問と重なるところがありますが、以前より、欧州ソブリン問題については、金融市場から実体経済への負の相乗効果が進展しつつあるとのご認識だったと思いますが、前回会合から今までの間で、負のスパイラルは、残念ながら若干進んでしまったというご認識かどうか、解説をお願いします。2 点目は、先日、オランダで電話会議を通じて金融イノベーションについての講演をされたと思いますが、その中でご懸念を示されていたような金融のイノベーションとは、具体的には、今であればCDSのようなものを念頭に置かれているのか、解説をお願いします。
§21Masaaki Shirakawa
まず、欧州ソブリン問題に関連して、負の相乗作用が前回会合以降、強まったかどうかとのご質問です。負の相乗作用という抽象概念の性格上、なかなか定量化して、この3 週間でどうかと正確に表現するのは難しいわけですが、そうした問題への人々の懸念が端的に表れるのは、金融市場の動きです。短期の資金市場における緊張度を表す指標、あるいは社債の信用スプレッド、ソブリン物の金利、ドイツ国債とのスプレッドなど、どの指標をみても、この3 週間でいったん、良い方向で変化し、それからまた悪い方向に向かっていますが、この3 週間全体では悪い方向に向かったことは客観的な事実であると思います。ただこれは、マーケットの認識ですから、大事なことは財政、金融システム、実体経済の 3 者の相乗作用を断ち切る取組みということですが、この取組みは、ことの性格上少し時間のかかる話です。それから 2 つ目の、金融のイノベーションに関する、オランダ中央銀行のコンファランスにおける、テレビ会議を通じて参加した講演のことです。まず、お答えから申し上げると、特定の商品を念頭に置いているわけではありません。オランダ中央銀行のウェリンク前総裁が6月末に退任されたことを記念するコンファランスが開かれ、コンファランス全体のテーマが「金融イノベーションがもつ経済厚生上の効果」というものでした。
§22Masaaki Shirakawa
多少、講演の中身の紹介になりますが、普通のイノベーションの場合は、当然に良いことである、成長力を高めていくものであるとして、イノベーション自体について善か悪かを議論することはありません。しかし、金融イノベーションについては、少なくともこういうテーマでコンファランスが開かれることに示されるように、中には経済の発展につながったものもあるが、経済に混乱をもたらしたものもあるのではないか、もしそうだとすれば、その問題についてどう考えるべきか、ということが論点になります。サブプライムローン問題以降の金融市場の展開をみても、 CDSあるいは再証券化商品が、バブルを拡大する過程、あるいは、金融危機の過程でそれを促進する役割を一部担ったことは否定できません。ただ、講演で繰り返し強調していることですが、特定の商品について、金融のイノベーションを否定するものではありません。多くの金融イノベーションは、経済の発展に貢献していますが、どういう場合にイノベーションが経済に貢献しないのか、そのことを考えていくと、金融イノベーションを行っている人の背後にある動機(インセンティブ)の問題に帰着します。経済の発展につながっていかないようなインセンティブを生み出さないようにしていくことが、私ども当局者としては大事であることを申し上げました。
§23Masaaki Shirakawa
経営者については、新しい金融商品の販売を始める前に、これがどういう形で世の中の付加価値の創出につながっていくのかについてよく考えて、その上で、販売についてゴーサインを出す、出さないということが大事です。これらの積重ねによって、金融イノベーションの良い部分が、最大限発揮されていくのではないかということが、私の講演の趣旨です。
§24Question
先程の冒頭のご説明の中に、海外情勢を巡る不確実性そのものについて高まっていると指摘するなど、委員の間で若干ニュアンスの違いがあるとおっしゃいましたが、もう少し具体的にこの点についてご説明頂けますでしょうか。
§25Masaaki Shirakawa
直前に、欧州の負の相乗作用が前回会合以降に強まったのかというご質問がありました。前回、展望レポートを作成するとき、先々の金融経済情勢について、それぞれの想定のもとで見通しを立てているわけですが、この3 週間の動きについて、よりリスクが高まったという認識をされる方も、基本的には変わっていないと認識をされる方もおり、そこにニュアンスの差があったと受け止めました。具体的に、どのように意見を表明されたかについては、議事要旨で発表していきたいと思います。
§26Question
この 3 週間で「よりリスクが高まった」という委員は、1 人ではなく複数いらしたのですか。
§27Masaaki Shirakawa
全ての委員が、3 週間前との対比で「リスクが高まった」とか「変わっていない」と意見表明しているわけではありません。そういう意味で、私が単数だ複数だと申し上げるのは適当ではないと思います。意見表明しなかった委員の中にも、「高まった」という委員があるいはいたかもしれません。ただ申し上げられることは、「高まった」と認識した方が、数として多かったわけではない、と受け止めているということです。
§28Question
海外経済の見通しについて伺います。本日の発表文でも、当面は海外経済が減速してから、新興国に牽引される形で海外経済の成長率が再び高まるという趣旨のことが書いてあります。この点に関して、成長率が再び高まるタイミング・時期についてのイメージを教えて下さい。また、成長率が高まった時に、力強いものになるのか、それともまた下振れリスクをかなり大きく抱えながらの成長率の高まりになるのか、その辺のイメージも併せてお願いします。
§29Masaaki Shirakawa
新興国が足許の減速からいつ成長率が再び高まっていくか、そのタイミングについて、本日の議論で正確に「いつである」とされたわけではありません。時期というより、どういうメカニズムを考えているかについて申し上げます。新興国は、地域によって違いますが、インフレ圧力が高まり、あるいは地域によっては資産価格の上昇圧力も高まってきて、放置すると短期的には大きく成長率が上がり、その後反動で低下します。従って、ソフトランディングを図っていくことが大きな政策課題です。その面では、新興国は金利を上げていく、あるいは外生的要因を含めてですが、既往の国際商品市況の上昇によって実質購買力が下がってくるという要因から、今は経済が減速しています。高過ぎる成長率が巡航速度に調整されていくこと自体は、その先々の経済を考えると、もちろんプラス要因です。今、ソフトランディングがうまくいくかどうかについて、私自身不確実性があるとみており、決め打ちはせずにデータに則してみていくしかありませんが、筋道としては今ご説明したように考えています。
§30Question
欧州について重ねて質問です。先程、総裁は、欧州の銀行の資本建直しの必要性について言及されました。まことに重要な課題だと思います。その際に、最終的にはEFSF(欧州金融安定化基金)が重要な役割を果たすと思いますが、実際のところ、EFSFに対し、AAAの格付をもって信用をエンハンスしているフランスないしオランダの国債が、今、売られている状況です。そうなると、最終的な火消しの役割を、EFSFが果たすことができるのかが疑問になってくると思います。その点の認識と、さらなる欧州の銀行の信用回復のために何をすべきかという点について、もう少しお伺いしたいと思います。
§31Masaaki Shirakawa
非常に難しいご質問で、正にその問題を巡って、欧州の当事者がずっと議論を重ねていると思います。問題の性格については、今ご指摘の通りです。EFSFは、欧州の国の中で信用力の高い、AAAを持っている国の力に依存しており、そうした国の格付けが下がってくれば、EFSFの実質的な資金供給力自体が落ちてくるわけです。どう対応すれば良いのかについては、幾つかの措置の組合せだと思います。この問題は、第一義的には欧州の問題ですから、ユーロ圏の各国が自ら、先程申し上げた努力を最大限していくことがまず必要だと思います。その結果、最も本質的な問題である欧州各国の競争力が強化されていくという先々の展望が拓けてくると、財政の問題についても中長期的な維持可能性が高まってくるわけです。そうした努力を、欧州当事者自身がしっかりやっていくということだと思いますし、欧州の中でも、資金供与を受ける国に対して、他の国がしっかりと条件付け(conditionality)をしていくことが大事だというのが第 1 点です。しかし、これだけで本当に問題が解決するのかというのが、ご質問の趣旨だと思います。先般の欧州サミットやG20サミットで、欧州以外の資金、IMF等の資金についての活用についても対応策に盛り込まれています。
§32Masaaki Shirakawa
どういう条件でどのようにやっていくのかについて、まだ議論が進んでいる段階ですが、これも欧州の努力があってこそのことです。やはり、マジック・ソリューションはないので、欧州各国がしっかり取り組んで、良い方向に向かっていくことになれば、先程言及した、マーケットの金利上昇の中でも行き過ぎた金利上昇の部分については、徐々に低下していくと思います。そうなってくると、必要となる資金自体も減ってくるわけです。今申し上げたような取組みをしっかり進めていくという――教科書的ではありますが――、原理原則が大事だと思っています。
§33Question
2 点伺います。1 点目は、最近、欧州の高格付けあるいは財政が比較的健全な国の国債やCDSも売られている状況にありますが、財政状況が非常に悪い日本は、このまま良好な金融環境を維持できるのでしょうか。2 点目は、安全通貨・避難通貨として、円が今後も買われ続けるのかということについて、総裁のご見解をお聞かせ下さい。
§34Masaaki Shirakawa
2 点ご質問がありましたが、いずれも本質的には、現在の状況がいつまでも続くのかという問題だと思います。この席でも再三申し上げている通り、欧州のソブリン問題をみて感じることは――これは、多分、私だけでなく、多くの人が感じていることと思いますが――、日本の国債に対する信認も非連続的に変化し得るということだと思います。欧州各国では――今は周縁国だけでなく、イタリアなどを含めてそうですが――、金利が随分と上がってきています。わずか3年前までは、ギリシャを含め、ほとんどの国がドイツとほぼ同じ金利で資金を調達できていました。もちろん、これはユーロという枠組みのもとであるという事情もありますが、この3年間で人々の見方が大きく変わったわけです。日本の国債についても、90%以上が国内で保有されていることが、短期的には確かに安定要因ですが、どの国も無限に借金を重ねることはできません。どこかで債務の返済能力に対して疑問が感じられるようになると、それ自体がだんだんに次の動きを生み出していくことになります。従って、現在の状況が将来も当然に続くということではないと思います。その意味で、中長期的に財政バランスを維持できると人々が思えるような取組み――財政バランスの改善や、それを支える成長力の強化――が大事だと思います。
§35Masaaki Shirakawa
また、日本銀行の金融政策が、物価安定のもとでの持続的な成長という政策目標にしっかりフォーカスして運営されているという安心感を維持することも大事だと思います。少し長くなりましたが、当然にして現在の状況が続くということではないことを、しっかり受け止めておく必要があると思います。
§36Question
オリンパスの問題で、関連の金融機関から情報収集をされているとのことですが、先日、メインバンクも見抜けなかったというトップの発言もありました。一般論として、企業が経営の透明性・公正性を確保していく際のメインバンクの役割や責任について、総裁の考えをお教え下さい。
§37Masaaki Shirakawa
オリンパスの件ということではありませんが、あくまで一般論として、メインバンクという言葉で表す内容も時代によって随分変わってきていると思います。メインバンクという言葉が良いかどうか分かりませんが、金融機関は預金者から集めたお金を企業や個人に貸し出す、これをきっちり運用するという非常に高い責任を負っています。従って、お金を貸し出す先がどのような状況にあるのかをしっかりみていく必要があります。それが審査ということだと思います。そうした責任というか、仕事を行っていく上で、当然求められてくるものだと思いますが、そうした仕事の重要性は昔も今も変わっていないと思います。
§38Question
欧州問題の域外への影響について、縷々ご説明がありましたが、米国への影響について伺います。少し前にサンフランシスコ地区連銀が、欧州ソブリン問題の展開如何では、2012年に 50%以上の確率でリセッション入りするかもしれないというレポートを出しています。総裁は、米国経済については、バランスシート調整下にあり、非常に厳しい状況であるとおっしゃっていますが、ここに欧州問題が加わったときの米国経済の動向をどうみているのでしょうか。
§39Masaaki Shirakawa
米国経済の低成長の最も大きな原因はバランスシート調整だと思っていますが、そこに、今ご指摘された欧州ソブリン問題が春先以降に加わり、特に夏場以降は、これが大きくなってきていると思います。米国の金融機関も、欧州周縁国に対するエクスポージャー自体が非常に大きいわけではありませんので、必ずしも直接的な影響が大きいということではないと思います。しかし、日本と比べると、欧州に対する輸出ウエイトが高いほか、連日、欧州の問題が大きく取り上げられると、一般国民も含め、やはりマインドに対して悪影響を与えると思います。FOMCの議事要旨を含め、FRBの景気判断をみると、この欧州問題からくるマインドの低下を随分指摘していますが、そうしたルートを通じて、現実に米国経済に影響していると思っています。以上