総裁定例記者会見(2011年12月21日)要旨
Full text
§1Question
本日の決定会合の結果について、ポイントをご説明下さい。
§2Masaaki Shirakawa
本日の決定会合では、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。こうした決定の背景となる経済・物価情勢について、ご説明します。まず、景気の現状については、「海外経済の減速や円高の影響などから、持ち直しの動きが一服している」と判断しています。国内需要をみると、設備投資は緩やかな増加基調にあるほか、個人消費についても底堅く推移しています。一方で、輸出や生産は、海外経済の減速や円高に加えて、タイの洪水の影響もあって、横ばい圏内の動きとなっています。先日公表した 12月短観の結果をみると、企業の業況感については、海外経済減速の影響などを背景に製造業大企業で悪化し、全体としては、改善はしていますが、その動きが鈍化しています。ただ、復興需要などを背景に内需関連業種に底堅さがみられていることも事実です。先行きについては、過去1年あまりにおいて、震災の局面を除き、先行き判断が事後的には常に上振れてきたことなどを考慮する必要はありますが、多くの企業が当面の景気に慎重な見方を示していることに注意が必要です。この間、国際金融資本市場の緊張度は引き続き高いものの、わが国の金融環境は、緩和の動きが続いています。
§3Masaaki Shirakawa
すなわち、コールレートが極めて低い水準で推移する中で、企業の資金調達コストは緩やかに低下しています。CP市場では良好な発行環境が続いており、社債市場の発行環境も、総じてみれば、良好な状態が続いています。また、企業からみた金融機関の貸出態度は、改善傾向が続いており、企業の資金繰りも、総じてみれば、改善した状態にあります。こうした点は、12月短観の結果からも確認されました。このように、わが国の金融環境と欧米の金融環境との間には、違いがみられています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比については、9月は+0.2%、10月は-0.1%と、このところ、概ねゼロ%となっています。わが国経済の先行きについては、当面、横ばい圏内の動きになるとみられますが、その後は、新興国・資源国に牽引される形で海外経済の成長率が再び高まることや、震災復興関連の需要が徐々に顕在化していくことなどから、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比は、当面、ゼロ%近傍で推移するとみられます。もっとも、以上の中心的な見通しを巡っては、様々な不確実性が存在します。このうち、景気に関する最大のリスク要因は、引き続き、欧州ソブリン問題の今後の展開です。
§4Masaaki Shirakawa
その影響は、直接・間接の貿易面のルートを通じて、既にわが国の輸出・生産にも及び始めており、今後も世界経済ひいては日本経済の下振れをもたらす可能性には注意が必要です。米国も、足許はやや底堅い動きもみられているとはいえ、バランスシート調整の影響が長引く可能性がありますし、新興国・資源国では、物価安定と成長を両立する形で、経済がソフトランディングできるかどうか、不透明感が高い状況が続いています。物価面では、国際商品市況の先行きについては、上下双方向に不確実性が大きいと考えています。また、中長期的な予想物価上昇率の低下などにより、物価上昇率が下振れるリスクもあるとみています。日本銀行は、資産買入等の基金の規模を累次にわたって大幅に増額し、そのもとで、金融資産の買入れ等を着実に進めています。現在の基金の残高は40 兆円を超えており、基金の総額である 55 兆円程度に向けて、今後、さらに15 兆円近く残高を積み上げていきます。また、日本銀行は、「中長期的な物価安定の理解」に基づき、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、実質的なゼロ金利政策を継続していく方針を明らかにしています。
§5Masaaki Shirakawa
日本銀行としては、包括的な金融緩和政策を通じた強力な金融緩和の推進、さらには、金融市場の安定確保や成長基盤強化の支援を通じて、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰するよう、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていく方針です。なお、本日の会合では、5 つの中央銀行、すなわち、カナダ銀行、BOE、ECB、FRB、スイス国民銀行との間で締結する為替スワップ取極の「要綱」、および、米ドル以外の外貨資金供給オペレーションの「基本要領」等を決定しました。日本銀行を含む 6 つの中央銀行は、11月30日に、不測の事態への対応措置として、市場の状況によって必要とされる場合に、各国・地域において、各中央銀行が、いずれの通貨でも流動性供給を行えるよう、2013年2月1日を期限とする為替スワップ取極を締結することとしました。本日の決定は、この間進めてきた実務的な検討作業の結果を受けたものであり、日本銀行が米ドル以外の資金供給を行う必要性や、他の中央銀行が円資金を供給する必要性が高まっているというわけではありません。日本銀行としては、今後とも各国中央銀行と緊密に協力をしながら、金融市場の安定確保に万全を期していきたいと考えています。
§6Question
欧州問題について伺います。先日、欧州首脳会議が行われました。これに対する総裁の評価と、今の欧州問題が日本経済に与えるリスクをどうみているか、ご認識をお聞かせ下さい。
§7Masaaki Shirakawa
先日の欧州サミットでは、欧州安定メカニズム(ESM)の前倒し設立や支援能力強化を企図したIMFへの資金提供など、金融市場の安定を図るバックストップの充実に加え、均衡財政ルール導入によって財政規律を強化するとの合意がなされました。財政の信認を中長期的に高めるとの観点からは意義が大きいと考えられます。もっとも、その後、各国の国債利回りが上昇に転じるなど、金融資本市場の緊張感は引き続き高い状況です。市場では、バックストップの資金規模やその迅速な実現について、なお不透明感が払拭されていないという見方が多くなっています。欧州経済は、足許停滞色を強めており、周縁国のみならず、ドイツでも輸出や生産が減少に転じています。こうした中、欧州ソブリン問題は、以下のルートで欧州経済に影響を及ぼしています。第 1 に、コンフィデンスの悪化を通じて家計や企業の支出スタンスが慎重化しています。第 2 に、緊縮財政の強まりが景気を下押ししています。第 3 に、欧州金融機関では、資金調達面での不安から、貸出スタンスが厳格化し、金融面からの下押し圧力も強まっています。さらに、そうした影響は、貿易や金融のチャネルを通じてグローバルにも波及しつつあります。まず、貿易面では、欧州向け輸出の減少から、輸出依存度の高い東アジアや中東欧経済への下押し圧力となっています。
§8Masaaki Shirakawa
金融面では、国際金融資本市場において、投資家のリスク回避姿勢が強まれば、新興国からの資金流出につながる可能性があります。また、欧州金融機関では、ドルの資金調達環境の悪化から、ドル資産を圧縮する動き――いわゆるデレバレッジング――もみられています。現在、これらが新興国経済の大きな下押し要因になっているわけではありませんが、特に欧州勢のウエイトが高い中東欧に加え、アジアなど他地域向けでも、プレゼンスが大きい貿易金融などの分野などにおいて、デレバレッジングによるマイナス面が生じないか、注意してみていく必要があると考えています。以上、欧州問題が欧州経済あるいは世界経済にどのように影響を与えるかについて申し上げましたが、これは、当然、日本経済にも直接・間接に影響を与えてくることになります。欧州危機への対応が遅れれば、世界経済に大きな影響を与える可能性があります。そうした事態は何としても防がなければならないと考えています。各国政府など関係者は、これまでに合意した事項を強い意志で迅速かつ着実に実行していくことが不可欠です。ご質問の範囲を超えているかもしれませんが、欧州ソブリン問題への対応策には 3 つの要素が不可欠です。
§9Masaaki Shirakawa
第1 に、個別国における財政改革を含め不均衡の是正と競争力の強化、第2 にユーロ圏内部のガバナンスの強化、そして第 3 に市場の混乱を封じ込めるための強固なファイヤーウォール(防火壁)の用意です。前2 者が根本的な解決に向けた中長期的な対応、3 点目が金融経済システムや市場の安定を確保するための短期的な対応です。これら3 つの要素を一体にして同時に実施していくことが重要であると考えています。
§10Question
今回は今年最後の定例会見ですので、今年を振り返ってどのような感想をお持ちになっているかをお聞かせ下さい。
§11Masaaki Shirakawa
この 1年の経済情勢を振り返って、感想をいくつか申し上げたいと思います。わが国にとって本年最大の出来事は、言うまでもなく東日本大震災でしたが、その経済面の影響についてみると、サプライチェーンの寸断を始めとした様々な供給面の制約は、夏場にかけて予想以上の早さで解消し、景気は持ち直しに向かいました。震災直後の悲観的なムードを考えると、わが国企業の現場力や国民の比類なき対応力に改めて日本の底力を感じました。これが第 1の感想です。第 2 の感想は、現在世界経済の最大のリスク要因となっている欧州ソブリン問題についてです。この問題を巡る展開をみると、金融経済の安定を実現する際に、最も根源的な次元でソブリン債務に対する信認がいかに重要であるかを物語っていると思います。それと同時に、市場は平常時から先行きへの警戒シグナルを発してくれるとは限らず、何らかのきっかけで、突然非連続的に変化する可能性がある、ということを改めて実感しました。この点、日本としても様々な教訓を引き出し得る出来事が展開していると思います。第 3 は、このような状況にあっても、わが国が極めて緩和的な金融環境を維持していたということです。わが国の金融動向については、東日本大震災による大きなショックに見舞われた際にも、金融機能が維持され、資金決済の円滑も確保されました。金融市場も、震災直後を除けば安定して推移しました。
§12Masaaki Shirakawa
年後半においては、欧州ソブリン問題に対する懸念の強まりから国際金融資本市場の緊張度が高まり、とりわけ欧州では、金融機関の資金調達コストや社債市場の機能などの面で、金融環境がはっきりと悪化しましたが、そうした中でもわが国の金融環境は緩和的な状態を維持しています。その背景としては、潤沢な資金供給を始めとする様々な金融市場の安定確保策に加え、包括的な金融緩和政策を通じた強力な金融緩和の推進も大きかったと考えられます。逆に言うと、これだけの金融緩和にもかかわらず、支出が本格的に増えていかないということは、それだけ日本経済が直面している中長期的な課題が大きいことを意味しており、成長力強化の必要性を強く感じた 1年でもありました。こうした難しい問題を抱えながら2012年を迎えることになりますが、日本銀行としては、今後とも「物価の安定」と「金融システムの安定」という日本銀行の使命達成に向けて、日々誠実に努力を積み重ねていきたいと考えています。
§13Question
本日オリンパスに対して強制捜査が入りましたが、この件に対するご感想をお聞かせ下さい。
§14Masaaki Shirakawa
オリンパスの件そのものについての具体的なコメントは差し控えたいと思いますが、11月の決定会合後の記者会見で申し上げた通り、現在関係当局が正確な実態解明と迅速な情報開示が行われるように対応されていると承知しています。一般論として、企業経営の公正性・透明性に対して疑問を持たれるということは、非常に残念なことであり、この点、正確な情報を速やかに提供することが大切であると思います。また、公正・透明な企業経営への信頼は、資本市場がその役割をしっかりと果たす上で極めて大切であり、企業経営者は、自らの自己責任と自己規律に基づく行動によって、資本市場の公正性・透明性が向上するよう努力していくべきと考えています。
§15Question
景気の現状について、足踏み状態といいますか、踊り場入りしたという認識でよいのかという点と、もう1 点、2012年のいつ頃に、緩やかな回復経路に復していくのかの見通しをお伺いします。
§16Masaaki Shirakawa
景気判断については、先程申し上げた通り、「持ち直しの動きが一服している」という認識です。現在、相反する 2 つの動きがあると思います。1 つは、世界経済の減速、円高、そして今、タイの洪水の影響も加わって、輸出・生産が横ばいの動きになっています。他方、内需をみると、今回の短観でも意外に底堅かったなという印象です。この背景には、復興関連需要やその他の事情があると思います。この2 つの要素が今は拮抗しているわけですが、それがどうなっていくのかということです。私どもの基本的な見方は、やがて新興国の成長に牽引されて世界経済が回復していくということです。日本経済が横ばいから抜ける時期が正確に 1~3月なのか4~6月なのかという点については、現在色々な議論をしていますし、次回の展望レポートの中間評価の時には、またさらに議論していきたいと思いますが、今、正確にその時期を特定していつとは申し上げられません。ただ、基本的なメカニズムについては変わっていないという判断です。
§17Question
本日、日本の格付会社が日本国債の格付けをトリプルAから引き下げました。総裁は、先程、欧州ソブリン問題を受けて日本も様々な教訓が引き出し得るとおっしゃいましたが、日本国債の信認を維持するためには、具体的にどのようなことが必要とお考えでしょうか。
§18Masaaki Shirakawa
格付け自体に対するコメントではなく、いつもこの席で申し上げている財政バランスの健全性、財政の維持可能性をしっかり確保していくことの重要性という観点から申し上げます。財政バランスに対する信認が低下すると、それ自体が景気の下押し要因になりますし、信認が崩れた場合には、経済に対して大きなショックを及ぼします。従って、財政の健全化が大事なわけですが、いくつかのこと――以前、展望レポートの分析で示したことですが――が必要です。1 つは、実質的に経済成長率を高めていく、成長力を強化していくという努力が必要です。単に物価だけが上昇しても、歳出・歳入ともに増えますし、歳出の方が金額的に大きいため、これだけでは財政バランスは改善しません。実質的な成長力を上げていく――そのもとでは物価も上がっていきますが――努力が必要です。分析の詳しい内容については、この席で度々申し上げてきたことですから本日は省略します。もう 1 つは、実質的な成長率の引上げだけでは財政バランスの改善を達成できるわけではなく、財政構造自体の見直しも必要ということです。
§19Question
2 つご質問があります。1 つはドルオペについてですが、11月末の6 中銀の決定を受け、日銀のドル供給にも多数の応札があり、非常に増えていますが、これをどうご覧になるか教えて下さい。具体的には、困っている先がスティグマを気にせずたくさん利用して良かったということなのか、国内には困っている先がないにもかかわらず鞘抜き的な利用が増えているとみた方がいいのか、教えて下さい。2 つ目は、北東アジアの地政学リスク、北朝鮮を巡る動きについて、日本経済に対するインプリケーション、リスクをどう捉えているか教えて下さい。
§20Masaaki Shirakawa
まず、第1 問のドル資金供給オペの利用状況に対するご質問についてです。年末越えのドル資金供給オペに対しては、12月13日に実施した 3 か月物では 50 億ドル弱、20日に実施した 2 週間物では 90 億ドル強の応札が、それぞれみられました。このように、適用金利の引下げ前と比べ、多めの応札となっている点については、金利引下げによりコスト面からみたインセンティブが高まる中、ドル資金供給オペを積極的に活用する動きが一部にみられ始めたためと判断しています。もっとも、主要金融機関の年末越えドル調達が概ね終了していることもあり、 ECBに比べて応札額は少額にとどまっていると理解しています。また、日本の金融機関について、ドル資金繰りの面で何か問題があるということは全くありません。北東アジアに関するご質問ですが、経済・金融面への影響について、現時点では見極めることが難しいように思います。こうした不透明感を背景に、総書記死去の報が伝わった 19日には、アジアの株価や通貨が下落する動きがみられました。もっとも、その後は、比較的速やかに元の水準に戻っている、あるいはそれ以上に上昇しています。海外を含め、金融市場は概ね安定を維持しているように思います。日本銀行としては、今後の動向を注意深くみていくとともに、金融市場の安定確保に万全を期していきたいと考えています。
§21Question
欧州危機を受けて、ECBの中では、ソブリンに関するリスクを、これまでのようにア・プリオリにリスクフリーの資産としてみるべきではないという声もあるようです。そうなると、これまでのBIS(規制)の考え方も変えなければならないと思いますが、総裁の見解をお聞かせ下さい。
§22Masaaki Shirakawa
非常に難しい問いですが、現在重要なことは、まずソブリン危機に対してしっかり向き合って必要な対応策を採っていくことだと思います。ソブリンの信認と金融システムと実体経済が負の相乗作用を起こしている状況の中で、まずはこの問題に対応した取組みを進めていくことが大事だと思います。この問題に限らず、様々なリスクに対応した規制のあり方については常に議論していますが、今、このタイミングでそういう検討が必要というより、むしろ本来のソブリン問題に対して取り組むことが大事だと考えています。
§23Question
自国通貨建ての国債とはいえ、これからア・プリオリにリスクフリー資産としてみていくべきかについて、どうお考えでしょうか。
§24Masaaki Shirakawa
現在も、金融機関は自ら持っている有価証券について、国債を含め、どういったリスクを持っているのかを認識した上でリスク管理体制を組んでいます。金融機関がア・プリオリにリスクフリー資産とみなしていないからこそ、周縁国の国債が売られているなど、現実には、金融機関はそういう対応を採っています。その対応が時として行過ぎになるということは別の論点としてありますが、金融機関はア・プリオリではない対応を採っているということだと思います。
§25Question
本日発表された資金循環統計において、海外主体による国債等の保有比率が 8.2%に上昇したことが明らかになりました。かつては 3%、5%といった保有比率が長らく続いていたと思いますが、ここにきて上昇傾向が続いていることをどのように評価されているかをお聞かせ下さい。
§26Masaaki Shirakawa
海外の保有比率は、これまでに一番高かった時は今回の 8.2%を少し超えた 8.5%でした。その意味では、その高い比率から下がってきて、最近また上がってきているということだと思います。ただし、国債の非居住者保有比率が低いから日本の国債については先々も心配ないという見方が適当ではないということは、繰り返し申し上げている通りです。日本の国債金利と海外の国債金利、特に欧米の国債金利との間には、その水準はもちろん違いますが、変動という意味ではかなり高い相関関係があります。また、日本の金融機関の保有比率が高いということは、それだけ同質的な人が投資をしているということであり、何か事が起きた場合には同じような行動を取りやすいという点で、むしろ変動を増幅する可能性も秘めているわけです。その意味で非居住者の保有比率が低いことは、短期的には安定材料であることは事実だと思いますが、しかしそうであるからといって、先行きも問題ないということではありません。
§27Question
今のご質問の関連でお伺いします。資金循環統計において海外の国債保有比率が増えるということは、裏を返せば、国内の資金余剰がピークアウトし、増勢が止まっているのではないかというインプリケーションがあると思います。そうであれば、国債の安定的な消化について疑問が生じてくるということが、今のご質問の趣旨だったのではないかと思います。この点についての総裁のご見解をお伺いしたいと思います。
§28Masaaki Shirakawa
先程申し上げた通り、一方的に非居住者保有比率が上がっているわけではなく、これまでに今回の水準よりも高い時期があって、その後下がり、また上がっているということで、その意味ではトレンドがあるというわけでは必ずしもないと思います。一般論としてどう考えるのかということですが、日本以外の国の国債、アジアの国も含めてそうですが、日本よりも非居住者保有比率が高いわけです。そういう中で安定的に消化されている国もあれば、そうではない国もあるということです。従って、この非居住者保有比率の大小それ自体が、いわば一対一で安定消化と関係しているというわけではないと思います。ごく短期的には、ショックに対する耐久力という意味で若干の違いがあるように思いますが、基調としてみた国債の消化力という点では、その国全体として財政のバランスが将来にわたって維持可能であるかどうかという見通し、あるいは、それを維持していくことについて国民全体としてのコミットメント、支持ということが影響しているように思います。
§29Question
なかなかお答え頂けないかも知れませんが、来年の金融政策についてお伺いします。本年は、震災や欧州危機といった様々なリスクに対応するような、ややディフェンシブな金融政策が中心だったと思います。市場では、来年も引き続きリスクが多い中で、そういう対応を迫られるのではないかという見方が多いのですが、総裁のご見解をお伺いします。
§30Masaaki Shirakawa
先程、今年1年の感想の中で最後に申し上げましたが、中央銀行の使命は物価の安定と金融システムの安定です。特に、現在のように欧州ソブリン問題を背景に世界の金融システムの安定が重要となっている局面では、中央銀行として金融システムの安定を維持することが、当然大事な仕事になってきます。そういう意味で、来年は、欧州ソブリン問題が解決に向けて前進することを期待しています。
§31Question
2 つあります。1 つは、新興国の中で非常に存在感の大きい中国の経済見通しです。欧州経済の減速に伴って中国の輸出の勢いに陰りがあるということを中国当局者も言い出しているわけですが、当然、日本の経済にも影響が出てくると思います。同時に、一部では上海や北京など大都市圏の不動産価格に変調があり高級物件を中心に下がり始めていて、90年代の日本のバブル崩壊が始まった時のような動き、そういう予兆が既にあるのではないかとの疑念もあるようですが、それらも含めて、中国経済の不確実性について、総裁はどのようにお考えかご質問します。2 つ目は、今日からECBが 3年物のオペを始めるのですが、かなり異例の政策ですので、効果もある一方、副作用もあるかと思います。特に、もし銀行が国債の購入にシフトすると、資金が民間に出ていかないとか、色々な歪みが生じるリスクもあると思うのですが、他国の政策なのであまりコメントが出来ないかも知れませんが、一般論で結構ですので、ご見解をお伺いします。
§32Masaaki Shirakawa
まず、中国経済についてです。足許の中国経済をみると、輸出が減速しているわけですが、堅調な内需に支えられて全体としては高成長を続けていると判断しています。先行きの中国経済の見通しですが、色々なエコノミストあるいは政策当局者が中国経済を語ると、過去についてもそうですが、色々な見方があるように思います。私自身、ある特定のシナリオに固執するということではなく、中国経済をみていく上で、どういう点がポイントなのかを申し上げることがお答えになるかと思います。3 点あります。1 つは、中国経済の成長のポテンシャルはまだ引き続き高いということで、都市化の進展等に支えられて潜在需要は増加していくと思います。第 2 点は物価を巡る動向です。中国のインフレ率は、水準としてはまだ高いですが、明確に低下方向に向かっているように思います。そうなると、実質購買力の回復、あるいは金融緩和の余地が出てきて、そうした面から景気が持ち上がってくる、景気が刺激されるという効果が生じます。3 つ目のポイントは、欧州ソブリン問題の影響ですが、日本に比べると、中国は欧州向けの輸出ウエイトが高いため、それが貿易ルートを通じて影響してきます。
§33Masaaki Shirakawa
以上、3 つのポイントを意識しながら中国経済を点検していきたいと思っていますが、記者の方のご質問の背後にあるような、中国経済が短期的に大きく落ち込んでいくというような見通しには、現在、立っておりません。2 つ目のECBによる 3年物の資金供給オペについてです。これは中央銀行としてはもちろん異例の措置ですが、現在、欧州の金融機関を巡って、カウンターパーティリスクへの懸念が高く、資金市場で取引がなかなか成立し難い状況を考えると、中央銀行として適切で必要な政策だと思っています。この資金がどのように使われるかについては、特に来年の第1 四半期がそうですが、欧州の金融機関が過去に発行した金融債の償還が、相当な金額にのぼるので、そうした償還の資金に充てられるのかも知れませんし、あるいは国債の購入に充てるのか、そこは良く分かりません。しかしいずれにせよ、資金市場の安定を保っていく上で、これは必要な政策だと思います。このことの副作用ということですが、いつも申し上げている通り、中央銀行による流動性の供給は、こういう金融システムの安定が問題になっているような局面では、時間を買う上で大切な政策です。決して効果を過小評価すべきではないと思いますが、一方で、時間を買っている間に、本来取り組むべきことに関係者が取り組むということがなければ、それは副作用にもなり得るということです。以上