山口副総裁記者会見(2012年2月2日)要旨
Full text
§1Question
2 点質問させて頂きます。まず本日の金融経済懇談会ですが、どのような意見交換があったのでしょうか。また、香川経済の現状についての印象をお聞かせください。
§2Hirohide Yamaguchi
本日の懇談会では、当地の行政および金融経済界を代表する方々から、地域経済の現状や課題、あるいは日本銀行の金融政策運営に関する貴重なお話、率直なご意見などを数多く頂きました。極めて有意義な意見交換ができたと思っています。本日ご出席頂いた皆様に、まず感謝申し上げたいと思います。全てを網羅することはできませんが、席上聞かれた話を整理して申し上げると、まず1 点目としては、当地の景気について、東日本大震災等を経ながらも、基本的には持ち直し基調が続いているとのお話を伺いました。2 点目として、当地の経済が直面する厳しさや課題について、色々なお話を伺いました。具体的には、最近の海外経済の減速や円高の影響を受けて、製造業の受注動向や輸出採算が悪化しているというご意見を多くお聞きしました。また、非製造業についても、人口の減尐・高齢化や公共事業の減尐といった構造的な課題に直面し、厳しい収益環境が続いているとのお話を伺いました。3 点目ですが、そうしたなかで当地では、産業、金融、行政、教育機関が一体となって、地域経済の活性化や発展に向けた様々な取り組みが行われているというお話を伺い、非常に心強く感じました。例えば、農業分野では、地元金融機関や大学等が連携して農業経営の研究機関を設立し、小豆島のオリーブ加工ビジネスを対象に、事業モデルの研究を行っているとのお話をお伺いしました。
§3Hirohide Yamaguchi
また、観光分野では、第2 回「瀬戸内国際芸術祭」を来年に控えるなかで、戦略的な情報発信やインフラ整備等に取り組んでいるというお話を伺いました。以上が本日聞かれた話を私なりに整理したものです。私どもとしては、高松支店を通じて、香川県内の金融経済情勢について肌理細やかなモニタリングを継続するとともに、地元経済の持続的成長の実現、金融システムの安定確保など、香川県経済を支える関係者のご努力がより大きな成果へとつながっていくように、しっかりとサポートして参りたいと考えています。また、当地の経済動向についてですが、香川県経済は、生産面など一部に弱めの動きがみられていますが、全体としては持ち直し基調が続いていると判断しています。欧州をはじめとした海外経済の減速の影響もあって、液晶テレビ等に使用される電子部品、あるいは化学製品を中心に、県内の製造業でも減産の動きがみられているようです。一方で、12月短観でも確認されたところですが、企業の設備投資は増加しているということですし、加えて、有効求人倍率が 1倍を超え、雇用・所得環境は改善基調にあります。そうしたもとで、個人消費も乗用車販売を中心に持ち直しの動きがみられています。先行きについては、海外経済の減速、円高等を背景に一段と不透明感が強まっており、これらの不確実性が当地経済に与える影響を引き続き注視していく必要があると思っています。
§4Hirohide Yamaguchi
若干の補足として、今後、香川県がさらなる発展を遂げるために何が必要なのかという点について触れたいと思います。香川県は、もともとバランスのとれた産業構造を背景に、リーマンショックや東日本大震災など外部環境が大きく悪化した局面でも、生産活動の落ち込みが他地域に比べて小幅にとどまりました。ショックに対する耐久性が強いという特徴を持っていると理解しています。こうした強みをさらに伸ばすとともに、人口減尐等の構造的問題を乗り越えて地域経済が自律的に成長していくためのモデルを構築していくことが重要であると思います。当地でいえば、成長が期待される分野として、例えば「医療・介護・高齢者ビジネス」、「観光」、「農業」等が挙げられます。医療・介護・高齢者ビジネス分野では、全国初の全県的遠隔医療ネットワークである「K-MIX」を活用した「かがわ医療福祉総合特区」が、昨年末に全国 26 の地域活性化総合特区の 1 つに指定されています。また、観光分野では、世界に誇る観光資源である瀬戸内海を舞台に、来年春から秋にかけて第 2 回「瀬戸内国際芸術祭」が予定されており、大成功を収めた 2010年の第 1 回を上回る成果が期待されています。農業分野でも、香川県は、全国的に高いシェアを誇る食材を数多く有しています。
§5Hirohide Yamaguchi
こうした恵まれた素材にこれまで以上に焦点を当てながら、企業や行政、大学、金融機関等が連携しつつ、自律的な成長システムを地域主導で構築していくことが期待されます。
§6Question
為替相場、対ドル相場で、76 円台ぎりぎりまで円高が進んでいます。本日の副総裁の挨拶でも、円高の定着や電力コストの上昇等が今後の成長期待を下押しする可能性があるというお話がありました。足許のこの円高が日本経済の回復に与える影響について、どのようにみておられますか。
§7Hirohide Yamaguchi
このところ、米国経済についてやや慎重な見方が出てきていることを背景に、円高の動きが尐し進んでいる状況だと思います。今、日本経済は海外経済の状況に非常に影響を受けやすい状況にあります。そういうもとでの円高進行は、これから先の輸出の動向、企業収益の状況などに影響を与えます。さらには、企業のマインド面にも悪影響を及ぼす可能性があります。こうした点を踏まえ、昨今の円高がどのような形で日本経済に影響を与えてくるのか、注意深くみていく必要があると思っています。
§8Question
2 点お伺いします。まず、対ドルで円高が進んでいる理由についてお伺いします。先日FRBが新しい金融政策の方針を公表しましたが、米国に比べて日本の方が緩和の方針が弱いといいますか、逆にいうと米国の方が金融緩和の方針が強いのではないかという見方から、ドルが売られて円が買われるという、ある意味多尐投機的な動きが増えてくるのではないかという見方も出てきているようです。本日の挨拶でも、米国でも 2%という方針を出しているが、日銀も同じような明確な方針を出している、というお話がありました。FRBが出している方針と、日銀が既に出している物価安定の理解がどう違うのか、改めて確認させて頂きたいと思います。もう 1 点は、金融緩和の時間軸について、米国の方は 2014年末としていますが、この点について、日銀はそれと比べて長いのか短いのか、マーケット参加者がどのようにみているのかということがあると思いますが、この点についてどのようにご覧になっていますか。
§9Hirohide Yamaguchi
先般、 FRBが公表したコミュニケーションの方法についての見直し、特に物価についての彼らの考え方と、私どもが示している中長期的な物価安定の理解、この違い如何というご質問かと思います。私どもは、消費者物価でいえば前年比で 2%以下のプラスの領域、中心値としては 1%程度になることが中長期的にみての物価の安定である ──物価が安定した状態である ──という理解をしています。米国は、ロングランのゴールとして、すなわち長い目でみた目標として 2%という数値を出しているので、相違点の 1 つは、当然、この数値上の違いです。一方で、類似点も実は結構あります。1 つは、彼らは、物価の目標だけを掲げて政策運営を行うのではなく、いわゆるデュアルマンデートのもとで、雇用にも目配りしながら物価の安定も図っていくという立場であることを、バーナンキ議長自身が明確に語っています。私どもも、中長期的にみて物価が安定している状態について明確に表現すると同時に、金融的な不均衡その他のリスク要因を抱え込むことがないかどうかをチェックしながら、物価の安定を図っていくという考え方を示しています。こうしたことを踏まえると、FRBが今回導入したコミュニケーションの方法と、私どもが「中長期的な物価の安定の理解」を示しながら政策の構えを示す方法は、考え方において基本的に変わりはないと思っています。
§10Hirohide Yamaguchi
2 点目の時間軸についてですが、米国の場合には、それまで2013年央まで極めて低い金利水準を維持するとしていたものを、今回、2014年の遅くまで伸ばしたということです。その限りにおいては、金利を上げ始める時期について、2014年の遅く以降ということになると思います。私どもの方は、ご承知の通り、そうした形では時期を明定せずに、中長期的にみた物価の安定が展望できる情勢になったと判断できるまで、現在の実質的なゼロ金利政策を続けるとしています。確かに時期を明確にしていないようにみえますが、米国についても、経済状況その他について条件付けをしながら時期を明らかにしているということであり、「2014年の遅く」というのは、何があってもそこまで今の極めて低い金利水準を必ず続けるという約束ではないということです。このように、よくよく比較をしてみると、基本的にこの面でも大きな違いがあるということではないと受け止めています。
§11Question
前の方の質問と重複する部分もあるかと思いますが、FRBの新しい発表があって以降、米国の長期金利が下がって、日米金利差が縮小するなかで、今回の円高が進んでいるのではないかという指摘もあります。そういう意味で経済にとって必ずしもプラスではない円高を是正するために、日銀として一段と長めの金利を引き下げるような何らかの取り組みが必要ではないかという意見もあるようですが、こうした意見に対する考え方を教えてください。
§12Hirohide Yamaguchi
確かにこのところ、以前に比べれば、円高方向に推移していることは事実ですが、為替相場というのは、御承知の通り非常に振れやすいものです。したがって、その基調的な動きを判断するには、それなりの時間をかけながら慎重にみていく必要があると考えています。円高の背景としてマーケットで言われていることは様々あるわけですが、1 つには、米国経済に対する見方が尐し慎重味を増していることも、円高の大きな要素となっていると言われています。こうした見方の妥当性を見極める意味でも、もう尐し様子をみていく必要があると思っています。それと合わせて、昨今の円高が仮に続いていく場合に、日本経済の景気面、物価面にどのような影響を与えるのか、真剣に見極めつつ政策対応を考えていくということです。このところの円高をみて直ちに政策対応が必要だと思っているわけではありません。
§13Question
本日の講演で、中長期的な成長期待の下振れについて述べられています。これに関連して、日本企業としてはグローバル需要を取り込んで海外へ生産をシフトしなければならないといわれていますが、日本では、趨勢的に企業の海外生産シフトが進むなかで、民間企業の海外シフトはイコール「空洞化」、イコール「悪い」と理解されている向きがあるかと思います。今回このように副総裁が述べられたのは、その固定観念というか、海外シフト、イコール空洞化がそれほど悪いわけではないというか、正当化されているような感じがしますが、いかがでしょうか。
§14Hirohide Yamaguchi
単純に、海外生産シフトが日本経済にとって望ましいことだと言い切っているわけではありません。もともと日本経済は、この 20年くらいを振り返ってみても、海外生産シフトはそれなりに進んできています。それにも関わらず、日本経済は確かに苦しい局面を経験しつつも、均してみれば緩やかな成長を続けています。したがって、一方的に海外生産シフトが日本経済にとってマイナスだとみるのはどうかという問題意識があるのは事実です。ただし、本日の挨拶でも述べましたが、企業の海外進出のスピードが速すぎるということになると、逆に国内の雇用の空洞化をもたらす要因にもなります。したがって、企業の海外進出に際しては、海外における市場の動向について、企業が慎重に検討しながら決定していく、そういう構えが必要だという思いを持って述べた、ということです。
§15Question
先程、県の産業構造についてもバランスのとれたとか、ショックに強いということをおっしゃいましたが、自動車産業などに偏っていない香川県でも、全国的にみたら必ずしも指標が良いわけでもありません。今後のどこに展望を持っていくかというところで、成長分野ということをおっしゃいましたが、それ以外に、こういうところに力を入れていけば展望を開けるのではないかという点に関して、本日の懇談会を経たうえでの感想をもう尐しお聞かせください。また、香川県を中心に、地域経済について日銀が今後こういうことをやっていきたいなと、これも本日の懇談会を経て、お感じになったことがあれば教えて頂きたいと思います。
§16Hirohide Yamaguchi
香川県にとって必要なことについては、先程申し述べたことで基本的には尽きると、私自身としては思っています。ただ、本日の懇談会でも──先程申し上げたこととも重なりますが──、やはり街づくりの重要性、魅力ある街づくりをどのように実現したらよいのかという点や、また、コミュニティの再生の重要性などを指摘される方もおられました。そうした努力は、香川県の経済の底力を引き上げていくことにつながっていくのではないかと考えています。そして、それとの関連で、観光の大切さをおっしゃる方もいました。先程私が述べたこととも重なるわけですが、これから様々なイベントが予定されているようですから、そういうなかで県経済の活力を引き出していく努力が必要だとおっしゃる方もいましたし、私自身もその通りだなと思いました。それから、「アグリビジネス」の重要性が挙げられます。単に農業というよりは、それを超えて、もう尐しビジネスとしての農業の大切さをおっしゃる方もいましたし、私自身もこういう形で日本国内を時々出張してお話をお伺いすると、農業、アグリビジネスの重要性を語られる方は尐なくありません。金融の分野でもそういうことをいわれる方は多いと聞いています。今回そういうお話を伺い、またそれが香川県にとっても非常に重要な産業となり、経済力を、成長力を高める要素になり得るのだというお話を聞いて、そういう思いが強くなりました。
§17Hirohide Yamaguchi
また、日本銀行として、そうした点についてどのような貢献ができるかということですが、既に皆様ご承知のように、清水支店長が日本銀行としての考え方なり支店長なりの考え方を披歴しつつ、この地域の活性化のために努力していると思っています。しかし、この努力というのは終わりのない努力だと思います。これからも支店が総力を挙げて情報収集しながら、その収集した情報を基に、支店として香川県にとって必要なもの、香川県経済にとってプラスになりそうなことを積極的に発信していく姿勢が大事だと思っています。
§18Question
講演の終わりのあたりで、「金融政策の運営に当たっては、市場とのコミュニケーションのあり方を含め、客観的かつ冷静な目で不断に点検していくことが重要」とおっしゃっています。特にコミュニケーションの部分については、先程からも話に出ている、FRBの新しい市場との対話の方法が念頭にあるのではないかと思います。日銀の市場との対話、具体的にいうと、物価の安定の考え方あるいは実質ゼロ金利を続ける約束、こういったものについて、今後、客観的かつ冷静な目で不断に点検した結果、変え得る余地があるというお考えをお持ちかどうかお教えください。
§19Hirohide Yamaguchi
非常に難しい質問だと思います。いかなる政策についても、未来永劫というとオーバーかもしれませんが、かなり長い期間に亘って見直しを施さないと断言できるかというと、そういうものではないと思います。したがって、状況に応じて変え得るものだということは、一般論としてはあると思います。しかし、差し迫って今、そうしたことが必要だという認識に立っているかといえば、私自身は、今はそういう状況にあるとは思っていません。本日述べたのは、あくまでも一般論として、政策の運営に際しては、市場とのコミュニケーションのあり方を含めて、客観的かつ冷静な目で──あえてこう言いましたのは、前川春雄さんの「奴雁」という言葉の意味を突き詰めると、常に客観的かつ冷静な目で世の中の変化をみていくということですので、その言葉を頭に置きながら──、そういう目線で不断に点検していくことが重要だということを、一般論として述べたということです。
§20Question
副総裁が高松支店長として当地におられたのが 1996年ということですが、時も経ち、久しぶりにいらして、実際にご自身の目でみられて、香川県や高松市の経済、もしくは街のつくりなどについて、どのような変化を感じられましたか。
§21Hirohide Yamaguchi
私が当地におりましたのは、平成 8年5月から平成 10年1月までの1年半余りです。その後サンポートが出来上がり、街の雰囲気は当時と比べると一変しています。そしてまた、新たな街の雰囲気の中で、活気の高まりもあるように思っています。ですから、やはりこの 10 数年の間の変化はそれなりに大きいものがあるという印象で受け止めています。その間に「うどん」の売り込みも全国的にかなり進んできたことも事実ですし、本日も市長のお話の中で「うどん県」という言葉もお聞きしました。それから、「アート」を1 つのキーワードにしながら、この県の力、あるいは高松市の力を高めていくというような話も承りました。要するに、これまでの間の変化もそれなりにみられたうえ、今後についても引き続き変化を遂げていこうという意欲も承ったこともあり、非常に元気づけられたなというのが、今回訪問しての印象です。
§22Question
本日の講演でも、日本経済の先行きについては、緩やかな回復に復していくという見通しを示しておられ、日銀では、2012年度前半にも回復していくのではないかという見通しを示していると思いますが、今後、不確実性が大きいなかで、そうした時期がさらに後ずれするリスクをどのようにお考えでしょうか。また、後ずれした場合は、景気回復見通しが維持されても、時期が後ずれした場合は政策発動の余地が生じるとお考えなのかどうか教えてください。
§23Hirohide Yamaguchi
私どもは、先日、昨年10月の展望レポートに対する中間見直しを行ったばかりです。その結果、日本経済は 2012年度の前半には緩やかな回復パスに復帰していくという見立てをしたところです。したがって、ご質問のような、さらにそれが後ずれするリスクをどうみているかということについては、リスクとしてそれを全否定はできませんが、基本的にはそういう見方は今の段階では採っていないということです。ただし、2012年度前半には日本経済が緩やかな回復パスに復帰していくという見通しについては、様々な不確実性があるということもきちんと留保として付け加え、最大のリスクが欧州の債務問題であるということまで言っています。そうした不確実性ないしリスクを念頭に置きながら、今後の日本経済の動きをしっかりと見ていきたいということです。このような見方にたつ以上、政策論にはつながらないという感じはしますが、敢えて言えば、政策というのはあくまでも、その時々の経済情勢、あるいはその時点時点で考えられる先行きについての見通し、および、それにまつわるリスクを念頭に置きつつ政策判断をするものだと思っています。以上