亀崎審議委員記者会見(2012年2月29日)要旨
Full text
§1Question
本日の金融経済懇談会では、どのような意見交換が行われ、また、出席者から日本銀行への要望や提案はどのようなものであったかということについて教えて下さい。
§2Hidetoshi Kamezaki
本日の懇談会では、当地の経済界、金融界、自治体を代表される方々にお集まり頂き、様々なお話を伺いました。地域経済や金融政策に関する率直なご意見を数多く頂き、大変有意義な意見交換ができたと思っています。ご出席頂いた皆様には、改めて御礼申し上げたいと思います。懇談の内容について、概要を申し上げます。まず、当地における前向きな取り組みが多く聞かれたことは、大変励みになりました。具体的には、福岡は「日本海側拠点港」、「グリーンアジア国際戦略総合特区」、「特定都市再生緊急整備地域」に指定されて、その振興をこれから進めていくところです。また、ファッション産業や繊維産業、香港等向けの食品の売り込みにみられるようなアジアの成長を取り込むための取り組みや、中国、韓国、台湾からの観光客やコンベンション誘致への取り組みの強化なども進めておられます。農業についても、非常に積極的で、例えば、6 次産業化を含めた取り組みを進めていきたいといったお話を伺いました。九州は、GDP、人口、面積は全国の1 割程度ですが、1 次産業は約 2 割を占めています。そこで、食料品の供給基地として農林水産業の活性化が重要であり、行政とも連携しながら、海外との取引や海外進出を支援する取り組みを行っている、といった非常に力強いお話がありました。
§3Hidetoshi Kamezaki
一方、当地の景気については、元気な動きもみられていますが、デフレが大きな問題であるとの話が多く聞かれました。特に雇用情勢を中心に厳しい状況が続いています。デフレの進行によって、売上げの拡大が期待できず、中小・零細企業を中心に厳しさを増しているとの声が聞かれました。デフレの長期化、円高による市場競争力の低下、産業の空洞化の進展などが、雇用の減尐につながっているというお話を伺いました。もう一つの懸念材料である電力問題については、原発停止が地域経済に与える影響は大きく、電力の安定確保が懸念されるほか、電力コストは電力会社、需要家双方の重要な関心事項であるとの意見も伺いました。一方で、日本銀行が 2月14日に決定した金融政策については、「良い効果がある」、「デフレ脱却に向けた日本銀行の決意を示すものとして評価したい」という声が聞かれました。また、日本銀行の金融政策に関する丁寧な説明や情報提供を引き続きお願いしたいという要望も頂きました。こうした中で、やはり現在の一番の課題は、根深いデフレからの脱却である、というご意見を伺いました。
§4Question
福岡県経済に対する現状認識と、今後の展望をお聞かせ下さい。
§5Hidetoshi Kamezaki
本日の意見交換も踏まえ、福岡県の経済情勢についての現状認識、先行きについてお答えします。福岡県の現在の経済情勢をみると、個人消費は大型商業施設の開業効果もあって、足許は比較的堅調に推移しています。また、住宅投資も増加しています。一方、公共投資は減尐しているほか、設備投資も弱めの動きとなっています。また、輸出や生産は、東日本大震災直後に大幅減産した自動車が高操業で挽回生産を続けていますが、海外経済の減速や為替円高の影響もあって、弱めの動きとなっています。先行きについては、当面、海外経済の減速や為替相場の影響を受けるとみられますが、福岡県には今後の発展に向けた力強さを感じています。昨年3月に全線開業した「九州新幹線・鹿児島ルート」のほか、国際海上航路や空路においても新規路線が就航するなど、陸・海・空の総合的な広域交通インフラが拡充しています。福岡県はもとより九州各地において、国内外からの往来が増加する中で、新たなビジネス・チャンスが生まれる可能性も高まっていると考えられます。福岡県、福岡市、北九州市では、成長著しいアジアとの地理的近接性を活かして、「グリーンアジア国際戦略総合特区」に取り組んでいますが、環境関連を中心に当地が得意とする技術や有能な人材を活用しながら、一層発展していくことを祈念します。
§6Hidetoshi Kamezaki
また、福岡県では、「県民幸福度日本一」をスローガンに掲げていますが、その中心都市である福岡市は、自然環境と都市機能が調和した暮らしやすさを背景に人口が増加しており、非常に心強い県です。政令指定都市では京都市を抜いて国内 6 位の人口規模となるなど、日本で最も活力を感じる街の1 つだと考えています。我が国は、高齢化が進展する中で、東日本大震災からの復興と安定的な経済成長が課題となっていますが、幸福で豊かな社会への発展を目指す当地の取り組みを積極的に発信され、その活力で九州経済ひいては日本経済を牽引していくことを期待しています。
§7Question
2 点お伺いしたいと思います。1 点目は、九州も原発への依存度が高いので、今年の夏に向けて電力不足が懸念されていますが、輸出や生産への影響をどのように捉えていますか。2 点目は、先程は前向きなお話を多く紹介されましたが、九州全体でみると、かつてはシリコンアイランドと言われるほど半導体生産が盛んでしたが、半導体工場の閉鎖が相次いでいます。こうした状況での九州の経済の印象をお聞かせ下さい。
§8Hidetoshi Kamezaki
1 点目の原子力発電所の問題ですが、現在、定期点検中の原発の運転再開については、不確実性が高い状況です。この問題が日本経済に与える影響ですが、日本には原発が 54 基ある中で、現在、動いているのは 2 基だけです。これらも春頃に定期点検に入ると、全部ストップすることになります。仮に定期点検後の再稼働が難しい場合には、計画停電や電力の使用制限、これを回避するための省エネ促進等による需要抑制、あるいは電力会社等による供給力の積み増しがなされなければなりません。ただ、これらはいずれも簡単に実現する施策ではありません。またコストの問題もあります。特に、現在、イラン情勢を巡る地政学リスクもあり、原油価格が強含んでいるため、火力発電のコストは高まってきています。昨年から本年にかけての貿易収支の赤字も、石油やLNGの輸入が増えたことが大きな要因となっています。再生可能エネルギーについては、まだ発電効率が高くないため、設備の設置費用も含めてコスト高です。原発を継続するにしても安全強化のためのコストが必要になるでしょう。仮に電力料金が引き上げられる場合には、実質購買力の低下や企業の収益悪化につながる可能性があり、これは景気の下振れ要因です。さらに、やや長い目でみると、電力不足への懸念、コストの増加といった要因が生産設備の海外シフトや国内企業の競争力低下を招く可能性もあります。
§9Hidetoshi Kamezaki
ひいては日本経済の中長期的な成長力の低下につながりかねません。過去を振り返ってみると、日本では、戦争の災禍やエネルギー危機などへの対応において、一度目標を定めれば経営者、従業員を問わず、国民全体の創意工夫のもとで大きな力を発揮して、困難を克服してきています。今回も、前向きに取り組んでいくことが重要と思っています。2 点目の半導体工場の閉鎖が九州の経済に与える影響ですが、先程申し上げたように、九州経済の現状およびこれからについては、私はどちらかというと期待を持ってみています。工場の閉鎖は、雇用にも、また生産にも影響を及ぼすために、その影響については注意深くみていかなければなりませんが、こうした影響を克服して、先程の色々な構想、新しい取り組みをもって、九州の経済を発展させて頂きたいと思います。
§10Question
2 点質問します。1 点目は、2月14日の決定会合で中長期的な物価安定の目途を導入し、追加の金融緩和を行いましたが、その後、株価が上昇し、為替市場では円安が進んでいます。今回の決定に関して、総裁が国会に呼ばれ、もっと何かないのか、もっとやらないのかということを言われたりしているようですが、この現状を率直にどのようにご覧になっているでしょうか。2 点目は、亀崎審議委員の任期満了が近いと思いますが、在任中はずっと金融緩和の方向で政策が動いてきましたが、この間の感想があれば伺えればと思います。
§11Hidetoshi Kamezaki
まず、14日の決定会合において、皆さんご存じの通り、中長期的な物価安定の目途を導入しました。また、いわゆる時間軸政策に係るコミットメントを一段と明確にしました。加えて、資産買入等の基金の金額を、長期国債を対象として 10 兆円程度増額し、日本銀行のデフレから脱却する決意をしっかり示したわけです。その後の金融資本市場の動きをみると、為替相場は円安方向に進み、14日は 77 円台でしたが、現在は 80 円台の動きとなっています。また、国債利回りは低下し、株価は上昇しています。ただ、株価や為替レートなどは、内外の様々な経済金融情勢を反映して変動するものです。例えば、足許の円安ですが、私は大きな要因としては、世界的な投資家心理の改善、すなわち投資家のリスク回避姿勢の後退が背景にあるのではないか、さらには、日本の貿易収支が昨年は赤字となり、本年1月も大きな赤字となったことも影響しているのではないか、と考えています。また、2月14日以降、2年物の米国債と日本国債の金利差が開いてきていることも影響しているかもしれません。従って、私は日本銀行の金融緩和の強化という理由だけでこういう動きになったとは思っていません。そもそも今回の2月14日の決定は、横ばい圏内から緩やかな回復経路に向かう日本の景気回復を一層確実なものにする目的で行ったものです。
§12Hidetoshi Kamezaki
今回の決定が我々の狙い通り金融緩和効果を一段と強めて、その効果が金融市場全体に浸透するとともに、企業のマインドに好影響を与え、ひいては経済・物価を金融面から支えていくことにつながることを期待しています。2 点目の任期満了が近くなったことに関する感想ですが、私の決定会合への出席はまだ尐なくとも 1 回、臨時があれば何回あるか分かりません。そのほかにもまだ通常の政策委員会が毎週火曜日、金曜日にあります。この場で感想を言うのはちょっと早すぎます。私は、常に決定会合の都度、精一杯その時々の経済物価情勢を丹念に検討しながら、適切な政策運営は何かということを考えてきましたので、任期満了に際しての感想は私が任期を終えてから申し上げたいと思います。
§13Question
3 点質問します。1 点目ですが、足許の原油価格上昇の背景と原油高のリスクについてどうみていらっしゃいますか。2 点目は、貿易収支についてです。挨拶の中で、震災やタイの洪水の要因は今年は生じない、1月の赤字はアジア地域の春節の時期のずれという要因もあると話されていますが、貿易赤字の今後の見通しは、縮小傾向なのか拡大傾向なのか、お聞かせください。また、経常収支については黒字が続くとのことですが、この点については赤字になるのではないかとの見方もあるようですので、委員の認識をお聞かせ下さい。3 点目は、エルピーダメモリの倒産がありましたが、企業マインド面等で景気にどういう影響があるかお聞かせ下さい。
§14Hidetoshi Kamezaki
まず 1 点目の原油高のご質問ですが、このところ原油価格の上昇が顕著になってきています。原油価格は、新興国の旺盛なエネルギー需要を背景に高値横ばいの状態が続いていました。これに加えて、イラン情勢の緊迫化による地政学的リスクの高まりが原油価格を押し上げている主な要因とみています。それから、米国商品先物取引委員会(CFTC)の発表では、先週 24日時点での投機筋による原油先物の買い越し幅は 2 週間連続で急増しており、約 10 か月振りの高水準になったとのことです。原油価格の更なる上昇は、日本経済だけでなく世界経済の成長の重しとなるだけに、注意が必要です。特に、原油高に日本の為替円高修正が加わってくると、燃料コストが増え、企業収益が圧迫されます。その度合いによっては、個人消費に悪影響が及び、景気の下振れ要因になり得るという点で注視しなければいけないと思っています。かつて 2008年の夏にWTI(原油価格)が高騰したことがありましたが、そういうことが繰り返されないか見守っています。
§15Hidetoshi Kamezaki
それから、2 点目の経常収支ですが、最近の貿易収支や経常収支の状況をみると、2011年の貿易収支は 1.6 兆円の赤字と、1963年の 600 億円以来、48年振りの赤字となっていますが、この背景としては、輸出が震災による供給面の制約から大幅に減尐したこと、輸入が代替品需要から中間財などで増加したことが挙げられます。また、原発停止に伴う火力発電需要の高まりから、 LNGと原油の輸入が増加したこともあります。加えて、秋以降の海外経済の減速や円高、タイの洪水が輸出の足を引っ張りましたので、これらが貿易収支の下押し要因となったとみています。このように、様々な要因が複合的に作用していると考えていますが、今申し上げた中で、震災に伴う供給制約やタイの洪水の影響は一時的なものであり、本年の輸出には影響しないと考えています。先程も申し上げたように、1月の貿易収支は赤字が 1.5 兆円となりました。これは、月単位でみて 1979年以降の最大の赤字となっています。通常 2月のアジアの春節が今年は 1月にずれ込んだといった特殊要因も輸出の落ち込みに影響したとみています。経常収支ですが、2011年に確かに減尐しましたが、黒字は維持しています。これは、対外資産からの利子・配当などを背景に所得収支が大幅な黒字となっているためです。日本は約250 兆円に上る対外純資産を保有しています。
§16Hidetoshi Kamezaki
このため、所得収支については、黒字は維持されていく可能性が高いとみています。従って、貿易収支の赤字が急速に拡大していかない限り、経常収支の黒字トレンドは、当分の間、変わらないものとみています。最後に 3 点目のエルピーダメモリの件ですが、個別の企業についてのコメントは差し控えさせて頂きますが、大きな倒産の影響はやはり尐なからぬものと思っています。一日も早く再生し、関連産業についても新たな道を探って頂きたいと期待しています。
§17Question
原油価格が今後、リスク要因ということですが、足許の全体の景気をみると、今朝発表された日本の鉱工業生産指数の前月比が、 1月が+2.0%、2月の予測指数が+1.7%、3月も+1.7%となっており、尐し上向きになっているようにみえます。日銀の景気判断である「横ばい圏内の動き」との見解と違和感がありますが、やや上向きになってきたというご認識はお持ちでしょうか。
§18Hidetoshi Kamezaki
現在、景気は横ばい圏内の動きであるとみています。個人消費は底堅く推移しており、設備投資もややしっかりとした動きでありますが、海外経済の減速や円高で、輸出がかなりマイナスのインパクトを与えている状況です。ただ、生産の数字がプラスに出てきたということは、明るい兆しであると思います。こうした動きは、我々が考えていたシナリオ、すなわち、個人消費は底堅く推移する中で、海外経済の減速等による輸出、生産の落ち込みが、新興国・資源国の成長に牽引されて徐々に回復し、加えて、震災復興関連需要の強まりとも相まって、春先以降は緩やかに回復していくのではないかとみておりましたが、それを裏付ける一面であるとみています。以上