総裁定例記者会見(2012年3月13日)要旨
Full text
§1Question
本日の決定内容について詳しく説明して頂けますか。
§2Masaaki Shirakawa
本日の金融政策決定会合では、当面の金融政策運営について、次回会合までの金融市場調節方針は、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの方針を維持すると同時に、成長基盤強化支援の拡充等について決定しました。具体的な措置の内容をご説明する前に、日本銀行としてのデフレ脱却に向けた考え方を、改めて申し述べたいと思います。わが国経済は、現在、急速な高齢化のもとで、趨勢的な成長率の低下という長期的・構造的な課題に直面しています。この課題への取組みは、わが国経済の新たな経済成長の基礎を築いていく上で不可欠です。デフレからの脱却は、こうした成長力強化の努力と金融面からの下支えを通じて実現されていくものです。以上を念頭に、民間企業、金融機関、そして政府、日本銀行がそれぞれの役割に即して取組みを続けていくことが、重要であると考えています。こうした基本認識のもとで、日本銀行は、先月、政策姿勢をより明確化するとともに、金融緩和を一段と強化しました。
§3Masaaki Shirakawa
デフレ脱却に必要なもう 1つの柱である成長力強化については、かねて日本銀行として取り組んでいる成長基盤強化を支援するための資金供給──長いので、以後「成長支援資金供給」と呼びますが――、この成長支援資金供給について、円貨および外貨の両面で拡充し、貸付額の総額を、これまでの 3 兆 5,000 億円から 5 兆 5,000 億円に 2兆円増加させることを決定しました。先程申し上げた通り、前回の金融政策姿勢の明確化、金融緩和の一段の強化と、今回の成長力強化の支援は、パッケージとして打ち出しているものです。具体的な措置は、以下の 4 点です。第1 に、金融機関による成長基盤強化に向けた取組みをより幅広く支援するために、これまでは対象としていない小口の投融資を対象に、新たに5,000 億円の貸付枠、「小口特則」を導入しました。第2 に、成長基盤強化に資する外貨建て投融資を対象に、日本銀行が保有する米ドル資金を用いて新たに 1 兆円の貸付枠、「米ドル特則」を導入することとし、これに関する骨子素案を取りまとめ、公表することとしました。この「米ドル特則」については、議長から、執行部に対し、次回の金融政策決定会合までに具体的な検討を行い、報告するよう指示しました。
§4Masaaki Shirakawa
第3 に、2010年6月に導入した 3 兆円のいわゆる「本則」については、新規貸付の受付期限を 2014年3月末まで 2年延長するとともに、貸付枠を 3兆円から 3 兆 5,000 億円に 5,000 億円増額することとしました。第 4 に、昨年6月に導入した出資や動産・債権担保融資、いわゆるABL(アセット・ベイスト・レンディング)などを対象とした特則分については、現行 5,000 億円の貸付枠のもとで、新規貸付の受付期限を 2014年3月末まで 2年延長することとしました。また、本年4月末に受付期限が到来する、被災地金融機関を支援するための資金供給オペレーションについては、金融機関等の要望も踏まえ、現行1 兆円の貸付枠のもとで、貸付の受付期限を2013年4月末まで 1年延長することを早めに決定しました。併せて、被災地企業等にかかる担保要件の緩和措置についても、その適用期限を2014年4月末まで1年延長することとしました。次に、本日の金融市場調節方針の決定の背景となる経済・物価情勢についてご説明します。海外経済をみると、全体としてなお減速した状態から脱していませんが、米国経済にこのところ消費や雇用面などで改善の動きがみられるほか、欧州経済も停滞感の強まりに歯止めがかかっています。
§5Masaaki Shirakawa
国際金融資本市場も、ECBによる3年物の資金供給オペや、ギリシャ第2 次支援の実行に向けた進展などもあって、幾分落ち着きを取り戻してきています。こうしたもとで、わが国の経済は、持ち直しに向けた動きもみられていますが、現時点で確認できるハードデータによれば、なお横ばい圏内にあります。国内需要をみると、設備投資は、被災した設備の修復などから緩やかな増加基調にあるほか、個人消費についても、自動車に対する需要刺激策の効果もあって、底堅さを増しています。一方、輸出や生産は、海外経済の減速や円高の影響などから引続き横ばい圏内の動きとなっています。この間、わが国の金融環境は、緩和の動きが続いています。すなわち、コールレートが極めて低い水準で推移する中で、企業の資金調達コストは緩やかに低下しています。CP市場では良好な発行環境が続いており、社債市場の発行環境も、総じてみれば良好な状態が続いています。また、企業からみた金融機関の貸出態度は改善傾向が続いており、企業の資金繰りも、総じてみれば改善した状態にあります。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、概ねゼロ%となっています。
§6Masaaki Shirakawa
先行きのわが国経済については、新興国・資源国に牽引される形で海外経済の成長率が再び高まり、また、震災復興関連の需要が徐々に強まっていくにつれて、次第に横ばい圏内の動きを脱し、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。実際、生産については、予測指数の動きがしっかりしてきているほか、公共投資についても、公共工事の発注の動きを示す請負金額が増加してきているなど、このところ、先行きの持ち直しを窺わせる動きがみられ始めています。消費者物価の前年比は、当面、ゼロ%近傍で推移するとみられます。もっとも、以上の中心的な見通しを巡っては、様々な不確実性が存在します。景気に関するリスク要因について考えると、このところ市場はやや落ちついているとは言え、欧州債務問題が今後どのように展開していくかは引続き大きなリスクとなっています。原油価格上昇の影響も懸念されます。さらには、世界経済の牽引役として期待される新興国・資源国についても、例えば中国のインフレ率は低下基調にありますが、新興国が物価安定と成長を両立する形で経済がソフトランディングできるかどうか、なお不透明感が高い状況が続いています。物価面では、国際商品市況や中長期的な予想物価上昇率の動向などを注視する必要があります。
§7Masaaki Shirakawa
日本銀行は、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、経済の持続的な成長を確保する観点から問題が生じていないことを条件として、当面、消費者物価の前年比上昇率 1%を目指して、それが見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置により、強力に金融緩和を推進していきます。併せて、本日拡充を決定した成長支援資金供給を通じて、わが国経済の成長基盤強化にも取り組んでいく方針です。
§8Question
本日の決定内容の柱である、成長基盤強化の関連ですが、先月の金融緩和とパッケージであるとおっしゃった意味、また、その中の、小口、米ドルあるいは期間 2年の延長という対応に込められた狙いを、ご説明下さい。
§9Masaaki Shirakawa
先程も申し上げましたが、わが国経済は、現在、急速な高齢化のもとで、趨勢的な成長率の低下という長期的・構造的な課題に直面しています。デフレという現象も、成長率が低下するもとで将来の成長期待をなかなか持てない、その結果、支出が本格的に増えないということの反映です。そういう意味では、デフレという問題は、成長力低下の裏返しの現象です。私どもとしては、先程申し上げた通り、成長力強化の取組みと、金融面での下支え、この両方が相俟って、デフレから脱却していくと考えています。日本銀行として成長力強化という面で果たせる役割はそう大きなものではありませんが、日本銀行が持っている手段を使って、少しでも成長力の強化に貢献できる道を模索した結果、2年前に成長基盤強化を支援する資金供給を導入しました。この措置は、そもそも成長力強化が重要であるというメッセージ、これを送ることを通じて、世の中全体としての取組みを少しでも後押ししたいということ、それから、金融面でこの資金供給の持つ利点を活かす形で、金融機関の具体的な取組みを後押ししていくというものでした。そういう「呼び水」としての効果を狙って行ってきたわけですが、相応の効果は上げてきたと思っています。では今後、どういう分野、どういう形で、更なる貢献が出来るかを考えた場合に、本日発表した措置に至ったわけです。
§10Masaaki Shirakawa
小口特則についてですが、これまでも、私どもが取り組んでいる中で、本則で対象とされていない小口投融資にも、成長基盤強化に資するものが少なくない、という声が聞かれていました。そうした観点に立って、今回この措置を導入したわけですが、小口の投融資先には、わが国の企業数の9 割以上を占め、日本経済を支えている中小企業など、今後の事業展開次第で大きく飛躍する潜在力を持つ企業も含まれていると考えられます。それから米ドル特則ですが、わが国経済の成長力強化のためには、内需開拓と共に、拡大するグローバル需要の取込みが重要であるということは、かねて申し上げている通りです。こうした取組みは、例えば、より効率的な国際的分業態勢の構築と国内産業の高度化といった戦略的な取組みを一体として行うことで、国内の成長力にも好影響を与える側面があると考えています。具体的な制度設計は、次回会合で行いますが、これから金融機関あるいは企業の声も聞きながら、ベストの制度を考えていきたいと思っています。また2年の期間延長についてですが、こうした取組みを粘り強く進めて行くためには、もちろん永遠の課題、ずっと続く課題ではありますが、1年は少し短いということで、2年の期間延長を行いました。
§11Question
東日本大震災から、ちょうど1年が経ちました。本日も、オペレーションの期限延長などを決定されましたが、日本銀行として、震災復興の現状をどうみていらっしゃいますか。また、日本銀行の役割についてどう考えているかについてもお伺いします。
§12Masaaki Shirakawa
昨年3月に、東日本大震災という極めて大きな惨事が発生してから 1年が経過しました。改めて、犠牲者やそのご家族の方々に心からお悔やみを申し上げるとともに、懸命に復興に取り組んでいらっしゃる皆様に心から敬意を表します。その上で、震災が経済や金融に与えた影響について、5 点、申し上げたいと思います。第1 に、震災に伴いわが国経済には大きな影響が及びましたが、震災直後に生じた工場や営業用設備の毀損、サプライ・チェーンの寸断といった問題が、関係者の努力と工夫により、比較的短期間で克服されました。このことは、日本の底力、あるいはわが国企業の「現場力」、といったものを改めて感じさせるものでした。第 2 に、被災地の経済の現状については、震災復旧関連投資や、震災後に一旦大幅に落ち込んだ消費の増加など、着実に持ち直す動きもみられます。一方で、地域により大きな違いがあり、被害が大きかった地域においては、経済活動再開の動きがみられ始めているとはいえ、本格的な復興が進むには至っていません。第 3 に、震災後の経験も活かしながら、日本経済の将来に向けた新しい取組みも芽生えています。例えば、 BCP (事業継続計画)を再検討したり、サプライ・チェーンの再構築を図るといった、リスク管理体制の見直しと、それに基づくビジネスの見直しが進んでいます。
§13Masaaki Shirakawa
また、電力供給について不確実性が残っているなか、「創エネ」「省エネ」「蓄エネ」といった、エネルギーを巡る様々な技術革新や新たなビジネスモデルの構築も推進されつつあります。こうした前向きな動きが新しい需要の創出につながり、ひいては、日本経済の中長期的な成長力を高めていくことを期待しています。第4 に、金融動向については、東日本大震災による大きなショックに見舞われた際にも、金融機能は維持され、資金決済の円滑も確保されました。金融市場も震災直後を除けば、欧州債務問題にも関わらず、安定して推移しました。金融システムの安定性という点は、日本経済の大きな強みであると改めて認識しました。第 5 に、より抜本的な復興に関しては、被害が広域にわたり、かつ甚大であったため、簡単な道のりではないかもしれませんが、多くの方々の熱意と努力により着実に前進していくと確信しています。政府の復興関連費も約15兆円が既に予算手当てされており、今後、その執行が次第に本格化していくことから、国内経済活動の押上げにも寄与していくと考えられます。日本銀行としても、被災地の復興を金融面から支えるべく、中央銀行としてできる限りのサポートをしていきたいと考えています。そうした観点から、本日の金融政策決定会合では、被災地金融機関を支援するための資金供給オペレーションの期限延長を早めに決定しました。
§14Masaaki Shirakawa
また、わが国全体として対応を考えるに当たっては正確な実態把握が不可欠ですが、日本銀行は、被災地の経済金融動向を丹念に調査しています。例えば、福島支店では、東日本大震災後の福島県内の金融動向について取りまとめたレポートを公表しています。今後とも、こうした支店の調査機能も十分に活用しながら、復興資金需要の動向、あるいは被災地の経済の動向をきめ細かくモニタリングし、政府とも認識を共有しながら、この面で適切な対応を図っていきたいと考えています。
§15Question
前回会合で、事実上のインフレ目標を導入されましたが、現時点で、その政策決定をどのように評価しているか教えて下さい。また今回、成長基盤融資制度の拡充を決められましたが、物価上昇率 1%の上昇に向けて、今後も様々な施策を次々と打っていかないといけないという認識なのか、それとも打てる施策はだいぶ打ち切ったという認識なのか、総裁のご認識を教えて下さい。
§16Masaaki Shirakawa
前回、日本銀行は「中長期的な物価安定の目途」を発表し、併せて金融緩和の強化を決定しました。その後の経済の動きについては、先程申し上げた通りですが、金融資本市場の動きをみると、国債利回りは中短期ゾーンを中心に低下しています。こうしたもとで、為替相場は、国際金融資本市場における緊張緩和や、米国経済の改善を示す動きもあって、円安方向の動きとなっています。株価も、グローバルな投資家のリスク回避姿勢が弱まる流れの中で、上昇しています。私どもの政策姿勢も、こうした金融市場の動きを形成する 1つの要因だったと思っていますが、基本的には先程申し上げたような大きな環境の変化、世界経済の色々な変化ということが、金融市場における価格形成に影響していると考えています。デフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的な経済成長を実現していくという課題は、一朝一夕に実現するわけではありません。先程も申し上げた通り、デフレからの脱却という問題は、実はすぐれて成長力をどう強化していくかという話です。こうした問題については、粘り強い努力が必要です。
§17Masaaki Shirakawa
日本銀行として、本日こういう形で、成長力の強化についての私どもの考え方を出したわけですが、今後とも、日本銀行は、中央銀行としてできることを最大限行っていきたいと考えると同時に、関係する民間企業、金融機関、政府が、この成長力強化の重要性を十分に認識して、最大限の努力を払っていくことを強く期待しています。
§18Question
前の質問に関連するかもしれませんが、本日の会合でも宮尾委員から5 兆円の基金増額の提案があったと思いますし、与党の一部にも、さらなる基金の積増しを求める声もあったと思いますが、総裁ご自身は、どういった考えで反対されたのでしょうか。
§19Masaaki Shirakawa
先程の説明と重複しますが、2月に金融緩和の強化、3月に成長基盤強化と、この 2 つをパッケージとして強力に打ち出しました。これによって、日本銀行のメッセージを明確に伝えると同時に、行動を明確に取ったということで、私どものメッセージは非常に明確だと思います。
§20Question
2 点お伺いします。成長基盤融資については、2010年6月から色々な批判等もあったかと思います。場合によっては、金利の引下げ競争につながるとか、中央銀行としての役割を逸脱しているという声もあったかと思います。そこで、今回、2年間の延長、さらに拡充を決められたこの施策の分析と総括――どういった効果があったのか――を教えて下さい。もう 1 点、米ドル特則ですが、わが国経済の成長に資する外貨建て投融資について、具体的にどういうものを想定されているのか。場合によっては、国内の雇用を脅かすような企業の海外進出といったものも外貨建て投融資につながるかと思うのですが、この辺のバランスを教えて下さい。
§21Masaaki Shirakawa
まず、成長基盤強化について、一部の金融機関から、ご指摘のような懸念が示されていたことは事実です。もっとも、この措置に対する理解が浸透するにつれて、そうした懸念の声は以前ほど強くなくなってきていると認識しています。今回、小口特則を導入したわけですが、「小口」の世界は、金額当たりの手間やコストが相対的に大きいことを踏まえると、金利引下げ競争という形ではなく、個々の金融機関が独自の目利き力や特徴を発揮しやすい分野であると考えています。それから、この効果をどう評価するかです。私どもが、この制度を始めた時から繰り返し申し上げていることは、これは「呼び水」であるということです。いつも強調していることですが、デフレから脱却するためには――これだけ金融が緩和されているわけですから――、この金融環境を最大限活かしていく、成長力を強化していくことが不可欠です。私どもとしては、日本経済が直面している最大の問題は、この成長力の強化であるというメッセージを送り続けているつもりです。その際、日本銀行として、自分たちもできることは最大限やるという姿勢をみせない限り、これは単なる言葉で、力を持たないと思います。そういう意味で、この制度を始めた2年前と現在を比べた場合、少しずつ成長力強化が重要であるという認識がやはり高まってきており、私はこれが最大の効果だと思っています。
§22Masaaki Shirakawa
当初は、確かにご批判もありましたが、現実に、色々な金融機関の経営者の方から、「日本銀行がこういう施策を打ち出したことを契機に、改めてこの問題に取り組む態勢を作りました。その結果、色々な反応も出ています」という声も聞いています。また、昨年導入したABL特則ですが、これは、その重要性は認識されていても、なかなか発展していません。ABLの市場が発展するための様々な障害を少しずつ取り除いていく努力がないと、本格的な発展をしないわけです。私どもは、この面でも、先般もセミナーを開催するなど、色々な働きかけを行っています。問題の性格上、短期的にすぐ成果が出るわけではありませんが、少しずつ効果が出てきていると思っています。次に、米ドル特則ですが、今回の措置は、日本銀行が保有している外貨を使って成長基盤強化を図っていきたいということです。これを行っていくためには、金融機関、あるいは企業の方々と色々な意見交換をしていく必要があります。そういう中で、私どもが机上で考えていることではなく、具体的に、どうすれば一番効果的にこのお金を活かせるかを考えていきたいと思っています。私ども自身の狙いは、あくまでも国内の成長基盤の強化です。ご質問の中で指摘されていましたが、例えば、企業の海外展開が国内の空洞化を招くと捉えることは必ずしも適切ではないことは、かねて申し上げている通りです。
§23Masaaki Shirakawa
基本的には、需要が拡大する海外に日本の企業が進出していくこと自体は自然な流れであり、抑えることの出来ない動きだと思います。そういう意味では、拡大するグローバル事業を取り込むと同時に、内需を開拓していく努力も必要ですが、実は、そのグローバルな展開をしていく時、国内との補完的な関係が出来上がってくるわけです。過去の海外進出がそうであったように、海外で生産を増やすと同時に、国内からは、より高度の部材、中間財の輸出を行うという形で分業関係ができてきたわけです。私どもとしては、効率的な国際的分業態勢の構築と、国内産業の高度化といった戦略的な取組みを一体として行うことで、国内の設備投資や雇用にも好影響を与え、その結果、成長力も強化されていくことを期待しています。今、抽象的に申し上げましたが、これをどういう形で実現していくのかについては、今後、十分に意見交換をし、具体案を詰めていきたいと考えています。
§24Question
原油高に関して、先般のG20でもリスクの 1 つとして認識されたと思うのですが、この原油高が世界経済および日本経済に及ぼすリスクについて、総裁はどのようにご覧になっていますか。
§25Masaaki Shirakawa
まず、原油高が生じている背景ですが、一番大きな要因は、イラン情勢を巡る地政学リスクの高まりだと思います。これに加えて、欧州債務問題を巡る緊張の緩和、米国経済の改善の動き、世界的な金融緩和など、様々な要因が影響していると考えられます。原油価格の上昇は、その点だけをとれば、わが国のような原油輸入国にとっては、交易条件の悪化を通じて国際収支の赤字を拡大させる要因になるほか、実質購買力の低下にもつながる、そういう意味では景気の悪化要因になるわけです。しかし、世界経済の改善期待が原油価格上昇の一因になっているとすれば、そうした世界経済の改善自体は、輸出の増加等を通じて、わが国における景気の押し上げ要因にもまた、なってくるわけです。物価面についてみると、原油価格の上昇が川下へと波及し、物価の上振れ要因となる可能性があるほか、人々の予想インフレ率を押し上げる可能性もあります。一方で、こうした物価上昇が実質購買力の低下を通じて、経済にマイナスの影響を強く与える場合には、やや長い目でみて、結局は下振れの要因となる可能性もあります。以上は概念的な整理ですが、原油価格の上昇は様々な要因と関連し、時間の経過とともにその影響も変わり得るために、原油価格の動向やその背景、さらにはそれが基調的なものかどうかといった点を含めて、多角的に点検していくことが大事です。この点については、十分な問題意識を持っています。
§26Question
先程、先月の追加緩和と今回はパッケージだという話をされました。先月の場合は追加緩和と言えると思いますが、今回の場合は緩和という考え方ではないという理解でよろしいでしょうか。
§27Masaaki Shirakawa
記者の方の定義、緩和というものをどのように定義されているか分かりませんが、私ども自身は、前回も今回も、デフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的な経済成長が実現していくという目的のために、政策措置を相次いで打ち出したということです。
§28Question
今回の成長基盤強化支援の融資制度について、トータルで 2 兆円、ドルを除いて実質 1 兆円の増額です。去年の増額の段階で、本則の増額については、上限というか枠に限界があるということをおっしゃっていましたが、そこから1年経って、去年とどこがどう変わって今回、増額に踏み切ったのか、理由を教えて下さい。
§29Masaaki Shirakawa
資金供給残高が上限の 3 兆円に達したあとも、四半期に1 回行っている毎回の入札で、3,000 億円前後の新規借入希望が寄せられていました。こうした借入希望状況を踏まえると、金融機関は成長基盤強化に取り組むための態勢整備を、引続き進めていることが窺われます。その一方で、既往貸付の返済によって生じる新規の貸付余力は、1 回あたり 1,500 億円前後にとどまっており、借入希望のすべてに応えることができない状況が続いていました。日本銀行がこういう制度を打ち出して、態勢整備をして、さあ、日本銀行に申し込もうと思った段階で枠が一杯になったので十分に応じることができないという事情があったことを考え、今回、5,000 億円増額することが適当だと判断しました。
§30Question
2 点伺います。今回、成長基盤の関係で、金融機関の資金調達コストという点では、ゼロ金利であり、預金金利も非常に低い状況の中で、日銀がどこまで貸出への支援をするのかという非常に難しい局面にあると思います。要は、政策金融と何が違うのかという点です。制度融資もあるわけです。今回、貸付枠も増額していますが、希望に応じて増額すると、いつまでも増額しなくてはならなくなるかもしれません。日銀の役割はどこまでなのか、総裁のお考えをお聞かせ下さい。2 点目は、本日、宮尾委員が 5 兆円の基金増額の提案をされていますが、これについて、どういった理由でご提案があり、どういった議論があったのか、お話できる範囲でお答え下さい。
§31Masaaki Shirakawa
ご質問は、成長基盤強化の支援ということで、日本銀行がどこまで役割を果たすべきなのか、というものだと思います。ご質問の通り、現在、金利水準が非常に低い状況にあります。短期金利はゼロで、長期金利も先進国では最も低く、国債金利に対する社債の金利上乗せ幅も先進国の中で非常に低い水準です。量的にも非常に潤沢な状況にあります。ご質問は、そういう状況のもとで、金融緩和政策として、どのように効果を生み出すのか、つまり、どういうツールであれ、金融政策により景気を刺激する力がもうそれほど無いのではないか、という問いに帰着するように聞こえました。私どもとしては、残された金融緩和の余地を最大限に追求することで、金融緩和政策を行っています。しかし、これだけで、必ずしも需要が創出されていくわけではありません。それだけに、これだけ緩和された金融環境を最大限使っていくための努力の方が遥かに重要です。その面では、様々な企業の取組み、政府の環境整備が重要と思っています。そこで話を止めてしまうことも可能ですが、中央銀行として少しでも貢献していく道を探っていくということです。元々、これだけで全体が解決すると思っているわけではありません。ただ、繰り返しになりますが、それでも効果と副作用を点検した上で、効果が勝ると判断する領域で模索していくのが私どもの今のアプローチです。
§32Masaaki Shirakawa
2 番目の宮尾委員に関するご質問ですが、詳しくは議事要旨でご覧頂きたいと思います。宮尾委員は、今回、この時点で基金の増額を行うことが有効であると判断されたということと理解しています。
§33Question
先月打ち出された包括緩和の延長の金融緩和強化について、改めて確認させて下さい。総裁としては、どういった経路で、先般の追加緩和がデフレ脱却に資するとお考えなのか、つまり、長めの金利を下げることに主に働きかけるということなのか、為替市場を通じてなのか、もしくは実質成長率やインフレ期待に働きかけることを主眼においているのか、そのあたりをもう少し詳しく教えて下さい。
§34Masaaki Shirakawa
先般の措置の中で、まず「中長期的な物価安定の目途」についてですが、これは、日本銀行という組織にとっての目指すべき物価安定の数字を明らかにしたものです。こうした数字が明らかになることによって、人々の将来の物価に対する予想がしっかり数字にアンカーされていくということを期待しています。それから資産の買入れについては、現在、国債やリスク性の資産を買い入れています。これはいずれも、買入れを行うことによって金利の低下を促していくものです。金利の低下の効果が、色々な形で経済全体に染み出していくということです。そういう意味では、基本は、今回のケースではあくまでも中短期金利を下げていく、そしてそのことが経済・金融全体に染み渡っていくことを期待している、ということです。
§35Question
2月の政策決定会合で「物価安定の目途」を導入した際、総裁は、これは日本銀行の政策姿勢を明確化したもので、これにより日本銀行の金融政策の考え方が変わるものではないと言われました。一方、3月の国会答弁では、デフレ脱却に向けて日本銀行は能動的に行動していくと話されています。マーケットでは、この発言を受けて、日本銀行は物価上昇率が 1%になるまでどんどん金融緩和をしていくのではないかという期待感も高まっています。総裁として、金融政策に対する考え方を変えたのか、それとも従来通りなのか、その辺をもう少し明確にご説明下さい。
§36Masaaki Shirakawa
日本銀行が、デフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長を実現していくことが極めて重要な課題と考えていることは、再三申し上げている通りです。この点について考え方が変わったということはありません。一貫して、こうした課題が重要であると思っています。ただ、そうした日本銀行の姿勢が必ずしも明確に伝わっていないというご批判があったことも事実です。そうした部分について、私どもは最大限解消する努力をしたわけですが、私どものデフレ脱却に対する基本的な構えは一貫して真剣です。前回会合で「物価安定の目途」を発表した際、私どもの構えを具体的に示すものとして、基金の増額を行ったということです。
§37Question
2 点質問します。1 点目は、この1 か月間で金融市場はかなり変動し、為替は円安になり、日本株は上昇しました。日本銀行は 1%――英語ではゴールと呼んでいますが――に向かって金融政策をやるとのことですが、こうした外部環境の変化は、ゴールの方向に向けた変化とご認識されているか、お聞かせ下さい。2 点目は、米国の景気回復について情勢判断でご指摘になっていますが、米国ではシェールガスの開発が非常に活発化し、液化天然ガスの価格が大幅に下がるほどになっており、一部では、エネルギー革命の兆しではないかとの指摘もあるようです。総裁は、シェールガスの開発がアメリカの経済構造を変えるほどのインパクトがあるとみておられるのかどうか、見解をお聞かせ下さい。
§38Masaaki Shirakawa
1 点目の金融市場の動向については、先程、別の記者の方にお答えした通りです。金融市場の動向について、私から詳細にコメントすることは適切ではないと思います。デフレから脱却していくことは積年の課題です。日本全体として、これに、しっかり取り組んでいくことが大事だと思っています。 2点目のシェールガスについては、シェールガスの開発を巡り、米国で色々な議論が高まっていることは十分認識しています。ただ、私はシェールガス問題の専門家ではありませんので、関心は大いに持ってはいますが、ご質問に十分説得的に答えるだけの材料を持ち合わせているわけではありません。
§39Question
2 点お伺いします。1 点目は、基本的なことですが、緩やかな回復経路に復していくと考えられるということですが、それでも物価上昇率 1%がみえるまで、日本銀行として一段の緩和政策を採っていくという理解でよろしいでしょうか。2 点目は、来月、審議委員 2 人の任期が来ますが、そのことに対する政治的なプレッシャーを恐れて、日本銀行が政策を採っているという声もあります。総裁のご見解をお願いします。
§40Masaaki Shirakawa
1 点目の物価についてですが、私どもが金融政策を運営していく上では、先行きを展望して、物価安定のもとでの持続的な経済成長の経路に向かっていっているかどうかが、非常に大事なポイントだと思います。デフレの原因が、先程申し上げた日本経済の構造的な成長力の低下にあるわけですから、短期的にこの目的に到達するわけではありません。しかし、そうした方向に経済が向かっているかどうか、これが基本的な判断の大事な点だと思っています。いずれにせよ、望ましい物価の状況が実現するためには、関係者の様々な努力が必要だと思います。2 点目の審議委員の人事については、国会の同意を得て内閣が任命する手続きになっていますので、私からコメントすることは差し控えたいと思います。ただ、日本銀行が政治的なプレッシャーを意識して金融政策の運営を変えていくということはありません。中央銀行が働きかけていく経済主体、あるいは市場参加者という面からいうと、中央銀行が独立した判断で、中長期的な経済・物価の安定という観点から金融政策を行っていくことが非常に大事であり、中央銀行がそうした政策運営を行っていくような環境を作っていくことが大事であるということも――既に認識して頂いていると思いますが――、さらに一段の理解を頂きたいと思っています。
§41Masaaki Shirakawa
いずれにせよ、日本銀行が政治的な圧力によって金融政策を変えていくということは、中央銀行にとって自殺行為ですので、そうしたことはありません。以上