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Bank of JapanPress conferenceMar 22, 2012Yoshihisa Morimoto, Board Member

森本審議委員記者会見(2012年3月22日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

森本審議委員は兵庫県のご出身ということで、県内の経済構造等についてはお詳しいと思いますが、それを踏まえたうえで、兵庫県の経済の現状をどうみておられますか。また、本日の地元経済団体の方々との懇談会の中で、地元からどのようなお話がでて、どのようにお答えになったのか、議論の様子をできるだけ詳しくお聞かせ願います。

§2Yoshihisa Morimoto

本日の懇談会では、当地の金融経済界を代表する方々から、地域経済の現状や課題、あるいは日本銀行の金融政策運営に関する貴重なお話、率直なご意見などを数多く頂きました。極めて有意義な意見交換ができたと思っています。本日ご出席頂いた皆様に、改めて感謝申し上げたいと思います。まず、兵庫県の経済情勢から申し上げます。兵庫県経済については、色々な経済指標からは、「持ち直しの動きに一服感が窺われている」とみています。個人消費は、家電やスーパーなど一部に弱めの動きがみられますが、自動車や観光関連では回復の動きもみられ、全体としては緩やかに持ち直しています。また、住宅投資は分譲住宅を中心に底打ち感が窺われるほか、設備投資も底堅い動きが続いています。一方で、輸出や生産は、海外経済の減速等から、昨年秋以降、弱含みの状態となっています。先行きについては、欧州債務問題の今後の展開やその帰趨、電力需給の動向や為替相場の影響など引き続き不確実性が大きい状況下、これらの不確実性が当地経済に与える影響を引き続き注視していく必要があると思っています。

§3Yoshihisa Morimoto

こうした中、本日の議論全てを網羅することはできませんが、席上聞かれた話を整理して申し上げると、まず、「大半の地元企業にとっては、まだまだ高い水準にある円高、原油高、電力供給不足懸念等により引き続き厳しい状況にある」というお話や、「ビジネスのやり方を見直す時期に来ており、国内空洞化も懸念される」といった声、また、「事業再構築の必要があるが、海外戦略を企画・立案する人材がなかなか得られない、不足している」といった収益環境の厳しさや環境変化への対応の難しさを指摘する話が聞かれたところです。また、「金融円滑化法の下での企業再生支援の取組みの難しさ」についてもお話がありました。もっとも、そうした中にあっても、「神戸医療産業都市構想の下で、我が国を支える健康医療産業の一大拠点としていく」とか、あるいは「エコ未来都市を宣言し、環境と共生した街づくりを行う」など、中長期的にみて地元経済の活性化に大きく結び付くような官民挙げた取組みが進められているといった、前向きなお話も聞かれたところです。兵庫県経済についての私の印象を申し上げると、開港以来培われてきた、時代の変化を先取りする進取の気質が浸透している下で、環境・エネルギー・インフラ、航空・宇宙、医療・ヘルスケア、高機能素材、食品・飲料など多くの分野で先端・独自技術やサービスを有する企業・研究施設群が存在しているとの印象です。

§4Yoshihisa Morimoto

昨日は、昔から計測が非常に難しいといわれている「燃焼・熱分野」でのレベルの高い先進技術を見学させて頂きました。工場立地件数は産業の蓄積や研究開発環境の充実などから、引き続き全国トップレベルを保っているほか、世界一の演算速度を誇るスーパーコンピュータ「京」の共用開始が本年秋に予定されており、その演算効果を期待した企業の集積の動き等もあると聞いています。さらに、消費・観光面では大河ドラマ効果も期待されるなど、明るい話題も少なくありません。こうした明るい話題は、経済面における当地の高いポテンシャルを物語っているように思われます。足もとでは、海外生産シフト等を背景とした国内事業縮小の動きもみられますが、今申し上げたような、医療・科学技術分野やシニアビジネス等の新成長産業が着々と育っており、地域経済全体として外部環境の変化への対応が進んでいるように思いました。こうした兵庫発のイノベーションやビジネスモデルが、わが国経済の活性化につながるよう期待するとともに、私どもとしても、中央銀行の立場から経済の持続的成長の実現や金融システムの安定確保を図りながら、兵庫県経済を支える関係者のご努力がより大きな成果へ繋がっていくようサポートして参りたいと思っています。

§5Question

本日の挨拶の内容をみると、特に欧州問題について――先日、ギリシャ問題については国債の償還が一段落したわけですが――、先行きについてはかなり強い懸念を持たれている印象を受けましたが、今後の欧州のリスクについてどのようにみていらっしゃいますか。また、電力会社のご出身でいらっしゃるということですが、原発停止による電力不足懸念のリスクについて――当地に関して言えば、関電では原発への依存度が高いため、夏へのリスクはかなりあると思いますが――、景気への影響をどうみておられますか。

§6Yoshihisa Morimoto

繰り返しになる点はご容赦願いたいのですが、欧州の金融資本市場については、皆さんご承知の通り、このところ緊張感は幾分和らいでいる現状にあるという認識については、全くその通りです。これは、申し上げるまでもなく、ECBの 3年物オペによる資金供給の効果が浸透していて、欧州金融機関の資金繰りは改善していますし、国債市場でも、一時7%前後まで上昇したイタリア、スペインの国債利回りは、最近では5%程度まで低下しています。こういったテールリスクが後退する中、ある程度落ち着いてきていると思っています。この間、心配されている根源的な問題として、ギリシャの債務問題がありました。この債務削減問題についても、ご承知の通り、強制的な集団行動条項が適用される状況になりましたが、最終的な参加率は高くなり、また、ある程度こういった状況は事前に予想されたものであったため、特段大きな混乱は生じていません。こうしたことを踏まえてギリシャに対する第 2 次金融支援策が正式に決定したこともあって、一定の時間が確保される見通しとなっています。今後、与えられた時間を活かして、財政健全化策や競争力強化策を着実に実行することが求められますが、これらがどういう風に進んでいくのか、という面で不安定要因があると思っています。

§7Yoshihisa Morimoto

ギリシャという個別国の財政改革に加えて、欧州債務問題の解決に不可欠である2 つのポイントとして、1 つはユーロ圏内部の財政ガバナンスの強化、もう 1 つはいわゆるファイヤーウォールの拡充といった大きな問題があろうかと思います。まず、1 つ目の財政ガバナンス強化については、3月初のEU首脳会合で新たな財政協定が署名されるなど、一定の進展がみられています。一方、ファイヤーウォールの問題については、色々と検討される中で、決定が当初予定の 3月初から 3月末にずれ込んでいて、不透明感が払拭されていません。こうした状況において、関係者による粘り強い努力が、これから実を結んでいくことを期待したいと思っています。もう 1 つ、欧州債務問題の世界経済への波及という意味で、いわゆるデレバレッジングの問題があり、これによる金融面からの下押し圧力が引き続き懸念材料として残っています。今のところ、これが大きな影響をもたらしているわけではありませんが、先行き、欧州金融機関の資金調達環境が悪化すれば、中東欧向け与信に加え、アジアなど他地域向けでも、プレゼンスの大きい貿易金融やプロジェクトファイナンスなどが削減される可能性があり、このような欧州債務問題に対する対応次第では、世界経済に大きな影響を与える可能性もあって、それが日本にも影響してくるおそれがあります。

§8Yoshihisa Morimoto

このように、ひとまず緊張は和らいでいますが、色々な不安定要因を考えると、これらをこれからも注視していかなければならないと思っています。2 点目の原発停止に伴う需給問題については、関電はご承知の通り原子力ウェイトが高いため、当地域においては非常に高い関心事項の1 つだと思います。関電管内では、2月20日をもって、原子力発電が全て停止となり、これから、原発再開については安全性をしっかり確認した上で、政府をはじめ関係者間で協議されていくことになると思いますので、大変申し訳ありませんが、私からは具体的にコメントすることは差し控えさせて頂きたいと思います。ただ、その上で当然ながら電力は、経済・生産活動に非常に大きな役割を果たしていますので、今年の夏をはじめ当面の電力需給の問題に加えて、仮に関西の電力供給が中長期的に不安定という状況になれば、当該地域での製造コストや投資という面での見直しもあり得ますし、兵庫県でも潜在的な経済活動水準が低下するリスクが浮上してくるのではないかと思っています。具体的には、当地への企業誘致・立地などにおいても影響を与えることも懸念されますので、十分に注意してみていく必要があると思っています。

§9Question

1 点目は、今進めている強力な金融緩和において、年間 40 兆円の国債購入は財政ファイナンスが目的ではないということを改めて強調されておりますが、どのくらいのペースまでの買入れであれば、財政ファイナンスではないと言えるのでしょうか。閾値――threshold――があるのかないのか。「財政ファイナンスではない」と言うことによって、財政ファイナンスではない、ということになるのか。この点を教えてください。2 点目は、挨拶の中で、当地の歴史上の人物として平清盛について触れていらっしゃいますが、ハイパーインフレについても昨今話題になる中で、敢えて宋銭輸入とインフレについてさらっと触れていらっしゃいますが、政策的なメッセージが入っているのかどうか、ご説明をお願いします。

§10Yoshihisa Morimoto

1 点目については、今般の 10 兆円の国債買入れ増額に絡めて、私どもとしては財政ファイナンスではないことをしっかり発信しています。繰り返しになって大変恐縮ですが、私どもが基金を通じて行っている国債の買入れについては、強力な金融緩和を推進する一環として、長めの市場金利に働きかけることを目的として実施しています。基金については、私どものバランスシート上、しっかり透明性を持って分別管理をして運営しています。基金を通じた国債買入れについては、総額 19 兆円――現在の 5 兆円弱に約 14 兆円プラス――となるわけですが、これとは別に、年21.6 兆円、経済が成長するにあたり必要とされる現金通貨をしっかり市場に供給していこうとしています。これは日銀券ルールに基づき行っており、基金を通じた国債買入れとは全く違った観点で行っているものです。国債買入れの中には 2 種類、基金を通じたものと恒常的にやっているものがあって、たまたま足し算すると確かに金額は約40 兆円という金額になりますが、特に今回増額した10 兆円については、しっかり基金として分別管理をしているという性格をご理解頂ければと思います。2 点目の宋銭の輸入とインフレの問題については、そこまでは考えが及びませんでした。金融にも関係あるということで軽く触れさせて頂いた次第です。

§11Question

先般、2月の決定会合の議事要旨が公表され、「中長期的な物価安定の目途」について1%以外の提案も出ていたということがはっきり分かりましたが、その中で「『1~2%』という表現も一案である」とか、「2%」という声もありました。現在、永田町などでは1%からさらに物価上昇率を引き上げるべきだという声も多くありますが、そういった中で「物価安定の目途」の見直しについては、どのように行われるべきだとお考えでしょうか。もう 1 点は、前回の決定会合で宮尾審議委員から基金買入 5 兆円増額の提案があって、他の審議委員の方は皆さん反対されました。森本審議委員が反対された理由について教えてください。

§12Yoshihisa Morimoto

2月に「中長期的な物価安定の目途」導入に当たって、議事要旨の中で「2%」あるいは「1~2%」という記述があったと思いますが、色々な議論の上に、結果的に「中長期的な物価安定の目途」として「2%以下のプラスの領域で、当面 1%を目途」として頑張っていこうという決定が結論になったわけです。この1%が低いのではないかなど色々なご意見があるわけですが、これを色々議論して結論に至った私どもの根拠とは、これも繰り返しになりますが、①消費者物価指数の計測誤差や、 ②物価下落と景気悪化の悪循環が生じるリスクに備えた「のりしろ」、それから③家計や企業などの国民の物価観、の 3 つに基づいて、私どもが色々と議論した中において、「1%」とか「1~2%」という議論があったわけです。いわゆる「物価観」を取り上げると、緩やかなデフレに陥る前から海外主要国に比べて一貫して低い状態が続いています。また実際の消費者物価の上昇率をみても、バブル期(1986~1990年)でも年平均で+1.3%に過ぎず、同期間、G7では同+3.4%ぐらいだったと思います。このように物価が安定していると、日本の家計や企業が考える物価上昇率は、やはり諸外国より幾分低いと判断されるのが通常の見方と思っています。

§13Yoshihisa Morimoto

そういう国民の物価観の下で、一気にこれまであまり経験していないような物価上昇率を目指そうとした場合には、家計や企業がかえって大きな不確実性に直面する可能性があり、思いがけない長期金利の上昇を招くおそれもないわけではありません。こうした色々な観点を踏まえて、当面1%を目指し、強力な金融緩和と成長力強化の支援のパッケージで、私どもとしてしっかり強いメッセージを出して頑張っていこうということになったわけです。今後についても色々な考え方が皆さんにある中で、これからの経済状況等が構造的に変化していくかといった、色々な視点を踏まえながら、原則として 1年ごとに点検していくとの方針の中で、また議論していきたいと考えています。それから、前回、宮尾審議委員からの増額の提案に対して、他の 8 人の政策委員が反対したわけですが、これも繰り返しになって恐縮ですが、デフレからの脱却は、成長力強化への努力と金融面からの強力な下支えを通じて、実現されていくものだという基本的な考え方のもとで、当面、消費者物価の前年比上昇率1%を目指して、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の金融緩和措置を進めていこう、合わせて、この3月に成長力強化のために成長基盤強化支援にも取り組んでいくというパッケージで方針を打ち出したわけです。

§14Yoshihisa Morimoto

我々としてはデフレ脱却への動きを2 つのパッケージで上手く起動して、デフレ脱却へ向かって進んでいくことを期待したわけです。これからも経済・物価情勢を丹念に点検しながら、適切な政策運営に努めていきたいというのが反対した意思です。

§15Question

確認ですが、デフレからの脱却については、成長力強化の努力と金融面からの下支えで実現するということでよろしいですか。

§16Yoshihisa Morimoto

下支えとは、強力な金融緩和ということです。

§17Question

講演の中で、基本的には来年度の前半に新興国に牽引されるなどの形で日本経済も回復するとおっしゃったと思いますが、その中でも 3 つのリスクについて挙げられていて、下振れリスクをちょっと心配されていると思います。原油がこのままの状況で推移すると新興国においてもインフレが懸念され、世界経済を牽引するのも難しくなるかと思いますが、そうなってくると日銀のシナリオも狂うと思います。その辺の判断のポイントは、どのようなことに注目されて、判断されるのか、教えて頂きたいと思います。

§18Yoshihisa Morimoto

イランの地政学リスクに基づく原油価格の高騰問題については、今日の講演の中でも3 つの大きなリスク要因の1 つとして挙げているわけです。現実問題として、例えばドバイ原油は120 ドルを超えるような水準で推移しており、これはいわゆる「地政学リスク」に加えて、金融緩和といったことも影響していると思いますが、色々な要因がある中で、地政学リスクについては、さらに先行きについて不確定性を持っているという状況だと思っています。そういうもとで、新興国では共通してインフレ懸念について色々苦労しつつも、漸くここのところ、生鮮食料品高騰等の一服感からインフレ率が低下してきています。そういう中で先行き実質購買力の回復が個人消費を下支えするといった面があり、一部の国では金融緩和方向へ政策スタンスを変更しているところです。このように、非常に難しい舵取りを迫られている状況ですので、原油価格の高騰というのは目を離せない状況だと思いますし、わが国は特に資源の少ない国ですから、原油価格の上昇が経済の下押し要因として大きく影響を与えるのは間違いないことだと思います。

§19Yoshihisa Morimoto

私どもは 2012年度の前半から新興国・資源国が牽引する形で緩やかな回復過程を辿るという基本シナリオを持っており、この時のリスクとしてイランの地政学リスクに関わる原油価格の問題を掲げているわけですが、どういう段階で判断を変えていくのかということについては、わが国はイラン問題で制裁対象外であるとか、色々と解決に向けた努力が政治面を含めて行われている下で、原則として 1か月ごとに金融政策決定会合を行う中にあって、その都度イラン情勢についてもしっかり点検していくことになると思います。原油価格は、今は強含みの状態で、それでもあるレンジ内で動いていると思いますが、今後より一層注視していかなければならない状況だということです。

§20Question

先ほどの 2 点目の質問について追加ですが、電力不足の件については、全国的な経済全体への下押し懸念についてどのようにご覧になっていらっしゃるのか。政治情勢のところはコメントが難しいと思いますが、今日の懇談でもお話が出たかも知れませんが、企業サイドからモノ自体がないことへの懸念が相当高まっていると思われますので、経済全体への下押し圧力としてはどのようにみているのか、改めてお伺いします。

§21Yoshihisa Morimoto

よく経済界の皆さんが「六重苦」――従来の「五重苦」に電力需給問題を加えて――とおっしゃいますが、エネルギーインフラが不安定になっていないか、というのは企業経営上大変大きな問題になっていると思います。これが全国レベルでどういった状況になっていくのかということで、先ほど申し上げたように、原発の再開問題については安全第一、安全を十分に確認した上で、政府をはじめ関係者で色々協議されていくことになると思います。そのうえで、電力供給に関する不確実性であるとか、火力発電への依存度の高まり等を映じたコスト高という問題が生じる可能性があるとすると、輸出や生産だけではなく、経済活動全体に対してマイナスの影響が及びますし、中長期的にみても、その不安感が拭えないとすると、国内企業の競争力低下、あるいは生産設備の海外シフトといったことを招く可能性もありますので、私どもとしては十分に注視して参りたいと思っています。以上