白井審議委員記者会見(2012年5月10日)要旨
Full text
§1Question
本日の金融経済懇談会で、具体的にどのような意見交換がなされたのか、それを受けて秋田県経済の現状についてどういう印象を持たれたのか、先行きの展望を含めてお聞かせ下さい。
§2Sayuri Shirai
本日の懇談会では、「震災の影響については、秋田県では直接の被害が少なかったものの、観光等において大幅な売上低下がみられた」、「円高や製造業の拠点再編等により、地元企業の生産活動に悪影響が及んでいる」、「太平洋側の震災復興需要がなかなか波及してこない」といった、地域経済の厳しい現状を指摘する声が多く聞かれました。また、「日本一の早さで進む高齢化と人口減少が先行きの秋田県経済の活力を奪いかねない」とか、「太平洋側とバランスのとれたインフラ整備が不可欠」といった中長期的な課題についての指摘もありました。もっとも、そうした中にあって、「観光や農業など既存の資源を活用しつつ、新たな発想で需要掘り起こしに努めていきたい」とか、「再生可能エネルギー関連など今後の成長が見込まれる分野に注力していきたい」、「秋田港を活かした対岸貿易を積極化したい」といった前向きな声も少なからず聞かれたところです。次に、以上を踏まえた秋田県経済の情勢について私の見解を申し上げます。秋田県の経済情勢は、昨年の震災のマイナスのショックからは概ね脱しており、全体としては持ち直しています。個人消費は大型小売店の売上や自動車販売を中心に底堅く推移しています。企業の生産活動は、主力の電子部品で昨年後半から弱めの動きを示していましたが、足もとでは在庫調整の進展に伴い、再び持ち直しに向かう兆しが窺われます。
§3Sayuri Shirai
また、雇用・所得環境も厳しいながらも一部に改善の動きがみられています。先行きについては、個人消費が比較的底堅い中、復興関連需要の波及が期待できることもあって、持ち直しの動きが続くとみています。しかし、主力の電気機械で県内での拠点再編等の動きがあるほか、復興関連需要の波及効果には不確実性が残っていることから、今後の経済動向を注意してみていく必要があると思います。より長い目でみると、秋田県は、1982年から人口減少が続いているほか、高齢者比率が日本一の高さとなっており、人口減少と高齢化への対応が喫緊の課題です。こうした中長期的な課題に取り組むうえでは、当地でこれまで育まれてきた産業基盤や豊かな自然環境、また、北東アジアに近いといった地理的優位性を最大限に活用することが重要だと思います。官民の関係者により現在進められている様々な取り組みが実を結び、今後の秋田県経済の一層の発展に繋がることを期待しています。
§4Question
秋田県経済の活性化に向けたアドバイスや提言などがございましたら、お聞かせ下さい。
§5Sayuri Shirai
今回初めて秋田県を訪問するにあたり、事前に色々と勉強し、さらに実際、当地で色々な企業の方々とお会いしてお話を伺う中で、関係者の皆様がグローバルな視点から当地の強みを活かした様々な取り組みを行っていることを知り、大変感銘を受けました。具体的には、秋田県は、まず第 1 に電子部品・デバイス産業の集積、第 2 に優れた鉱山・製錬技術の蓄積とそれを活用した資源リサイクル、第 3 に風力や地熱といった豊富な再生可能エネルギー資源、第 4 にコメをはじめとする食・農資源、そして第 5 に中国やロシアに近いという地理的な優位性などに強みを持っています。こうした強みを最大限に活用すべく、秋田県をはじめとする行政はもちろん、企業の方々からも様々な取り組みを行っていると今回伺って、私は大変心強く思いました。これからもこうした取り組みを着実に進めていくことが大切だと思っています。また、昨年、大震災を契機に、インフラや産業基盤、各企業の調達・販売先などの「分散化」が重視されるようになりましたが、そうした視点からも秋田の役割が今後重要になってくるようにも思います。また、先ほども申し上げましたが、当地では人口減少が続いており、65 歳以上の人口比率も全国一となっています。日本全体で高齢化が進んでいるわけですが、その中でも最も高齢化しているという意味で、当地は日本の将来を占う重要な地域であると思っています。
§6Sayuri Shirai
また、世界の先進国でも、欧州をはじめこれから本格的な高齢化に直面する国々があります。そういった意味で当地は世界における高齢化の最先端を走っており、秋田県がこの高齢化という問題にこれからどのように対応し、それに合った地域・社会づくりを推進していくのか、私自身は非常に関心を持っています。また、それをマイナス材料とだけに受け止めず、高齢化社会に合った新しい潜在的な需要を開拓して、そのような新しい社会に合った企業が創り出されていくこと、そして、そういう企業を支えるような金融サービスが生まれていくことが望まれていると思います。高齢化を前向きに捉えて、地元経済が持っている力を活かして、さらに発展していくことを心から期待しています。
§7Question
まず、1 点目ですが、欧州情勢に関して、ギリシャの総選挙後の混乱で、まとまったばかりのギリシャへの追加支援について、その前提となる財政再建が難しい状況になりつつあるという見方があります。本日の懇談会のご挨拶の中で、国際金融資本市場が総じて落ち着いて推移すれば、世界の成長率が高まるという言及がありましたが、その前提とも大きく関わるので、総選挙後のギリシャ情勢をみて、テイル・リスクは近付いてしまったかどうか、その点をお伺いしたいと思います。次に、2 点目ですが、ギリシャのユーロ離脱の可能性についてどのようにみていらっしゃるのでしょうか。仮に離脱した場合にユーロ圏の崩壊に繋がるかどうかという点を含めてお聞かせ下さい。最後に、少し違う質問ですが、金融政策について、10年ほど前に、外貨建て資産の購入が日銀の方で議論の俎上に乗ったということですが、現状でも選択肢の中にあるとお考えでしょうか、お聞かせ下さい。
§8Sayuri Shirai
先ず 1 点目ですが、総選挙後のギリシャで新政権の樹立が非常に難航しており、このままではギリシャの財政再建の継続は難しいかもしれないとの見方も出ている中で、テイル・リスクについてどう判断しているのかという趣旨のご質問と思います。確かに、5月に入って、フランスで大統領選挙、ギリシャで総選挙があり、厳しい状況にある国が幾つかあるとは思いますが、テイル・リスクについていえば、昨年までの状況と比べると、緊張が緩和してきている状況は変わっていないのではないかと思っています。その理由は幾つかあります。ギリシャ危機というのは一昨年前から起きていますが、その時と現在の違いというのは、一言で申しますと、それなりの制度、仕組みができつつあるということです。具体的には、まず、昨年から日本銀行を含めて 6 中央銀行でドルの資金供給あるいはそれ以外の通貨での資金供給を実施しています。欧州の金融機関はドル建ての投資あるいはドル建ての資金調達が多かったわけですが、これによって、そのドル建ての資金調達がかなり容易になったということです。それから、ご存じのように、 ECB(欧州中央銀行)が 3年物の長期の資金供給──いわゆるLTRO──を昨年末の12月と今年の 2月に行い、これによって欧州の金融機関の資金繰りがかなり楽になっておりますので、これらの点からも、金融市場の緊張度は昨年に比べて緩和してきていると思います。
§9Sayuri Shirai
こうした手段の他に、ご存じのようにファイヤーウォールの拡充──いわゆる EFSF、ESMを通じた融資能力増強──、それからIMFを通じた資金基盤の強化が進められておりますので、国際的に様々な国を巻き込みかねない危機について、そのリスクが他国に伝搬することを防ぐ制度がつくられつつあると思います。最後に、昨年からずっと懸念されていたギリシャの公的債務の民間保有分の問題については、債務カットが今年行われて、それに伴い第二次支援が行われています。現在、こうした措置により財政の持続可能性が確保されているのかどうかが問題となっているわけですが、この問題についていえば ――一般論として申し上げますが――、欧州のユーロ圏の17 か国を一括りに議論することは難しいと思います。各国が抱えている問題が異なるためです。もしある国が、例えば財政データに対する信頼を損ない、それによってその国の財政再建に対する意思に対して市場で疑念が生じた場合、そういう国にとって大事なことは、信認を回復していくことです。この点に関連して、いわゆる周縁国の一部では、かねてから──今回の危機が起こる前から──、成長を促進するような様々な規制緩和の必要性が多くの国際機関や専門家により指摘されてきたにもかかわらず、こうした取り組みがなされてこなかったという現状があります。
§10Sayuri Shirai
そういう場合には、財政再建をきっちりとやっていくことと同時に、以前から指摘されてきた成長を促進するような改革を実行していく必要があります。それをどのようなタイミングでどのような順番でやっていくのかということは、当該国や融資をしているEU あるいはIMFが考えることで、私が申し上げることではありませんが、いずれにせよ、信認をできるだけ早く回復するということが大事だと思います。2 つ目の、ユーロの離脱の可能性については、私の立場でその可能性についてコメントをすることは差し控えますが、離脱をするかしないかについては、様々な見方があり得ると思います。あくまで一般に言われていることですが、ユーロ圏に加盟しているからこそ、今、EUから、そしてIMFから協調で融資がなされているという側面があります。ギリシャも含めて、ユーロ圏に加盟しているからこそ、ユーロ圏 17 か国の必要な金融機関に融資が行われておりますので、ユーロ圏に加盟している恩恵は非常に大きいわけです。こうした融資が行われている中で、借り手に対してやるべきことはきっちりやって欲しいということで、現在、コンディショナリティと呼ばれる融資条件が課されており、それは信認回復のプロセスとして必要であるわけです。
§11Sayuri Shirai
以上をまとめると、もしギリシャがユーロを離脱した場合には、これらの支援が今後どうなっていくのか、もし、離脱することにより、ギリシャが再びドラクマを採用する場合、信認を伴わない中で、自国通貨を採用するということがどういう帰結になるのか、十分検討していく必要があるのではないでしょうか。特に、ギリシャの場合はユーロ建ての借金が多いわけですから、自国通貨を採用するということは、借金がユーロ建てから外貨建てに切り替わることになります。そういうインプリケーションもみていく必要があると言われていますので、どうするかということは、もちろんギリシャの国民自身が決めていくことですが、これらの問題を踏まえた最善の選択がなされると思っています。3 つ目の外貨建て資産の購入――日銀が外貨建て資産を購入するかどうか――についてですが、個々の政策の一つひとつの是非について、今、私の立場で申し上げることは致しません。ただ、一般論として言えることは、あらゆる政策手段について、絶対にない、というようには考えてはおらず、あらゆる政策手段を常に念頭に置いておくことが必要だと思います。ただ、その際に、その政策が採用できるかどうかということに関しては、私個人としては、今までもそうしてきましたが、常に 3 点の視点から判断をしていきたいと思っています。第 1 点は、その政策を採用したときにどの程度の効果があるのか。
§12Sayuri Shirai
同じ金融緩和をするにしても、様々なやり方があり、その手段によっては効果も違うでしょうし副作用も違ってくるわけですから、効果と副作用を、それぞれ短期、中長期の視点からみていく必要があります。第2 点ですが、中央銀行は様々なリスク性資産――ETFやREIT、社債、CPもそうですが ──を買い入れています。そういう時に気をつけなければならないのは、公的機関である中央銀行がどの程度市場に介入すべきなのかということです。やはり基本的には市場主義経済ですから、市場で価格が決まってくる、その点を大事にしなければいけないと思います。政策の採用が市場にどういった影響を及ぼすのか、つまり介入が及ぼす影響、価格決定に及ぼす影響について配慮していく必要があります。そして第 3 点として、忘れられがちですが、日本銀行は中央銀行として銀行券を発行し、通貨の信用を支えているわけですから、その発行主体である日本銀行の財務の健全性が非常に重要です。従いまして、様々なリスク性資産を含めて購入する場合、当然のことながら、財務の健全性は配慮して判断すべきだと思います。
§13Sayuri Shirai
そのように申し上げたうえで、最後に 1 つ付け加えたいことは、外貨建て資産の購入──例えば外債の購入とか ──について、ご質問が為替市場への介入といったようなことを念頭におかれているのであれば、現在の日本銀行法のもとでは、為替相場の安定化を目的にした為替売買は財務大臣の所管であり、日本銀行は代理人として介入していますので、こうした日本銀行法の規定を十分踏まえなければいけないと思っています。
§14Question
2 つお聞きします。1 点目ですが、本日の講演録の 5 ページ目で、4月27日に追加緩和を行った背景について述べられています。そこでは、「日本銀行の金融政策上のコミットメントに対する揺るぎない意思を示す点からも適切であると考えています」とおっしゃっています。2月も同じような姿勢を示すということが強調されたかと思いますが、2月にやり、3 か月足らずでまた姿勢を示さなければいけないと、こう何度も日銀が姿勢を示さなければいけないということは、裏を返すとなかなか日銀の姿勢というものが伝わっていないからだと思いますが、それはなかなか理解してくれない相手が悪いのか、それとも日銀の姿勢そのものに問題があるのか、どうお考えかをお聞かせ下さい。2 点目は、4月の展望レポートの金融政策に関するところで、日銀は「物価安定の目途」である当面 1%を目指して強力な金融緩和を推進する、その例外条件として、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検する、というふうにしています。
§15Question
この展望レポートでは、「現時点において、過度に楽観的な期待に基づいて金融的な不均衡は生じているとは考えにくい」としていますが、その後に続けて、「もっとも、政府債務残高が顕著に累増しているなかで、金融機関は多くの国債を保有しており、何らかのきっかけで、長期金利が上昇した場合、経済・金融に大きな影響を与える可能性がある点に留意しておく必要がある」と書かれています。日銀の度重なる追加緩和で、主に大量の長期国債を購入しているわけですが、日銀の大量の長期国債の購入そのものが、こうした不均衡の芽、もしこれが不均衡だとすれば、長期金利は 0.8%台まで下がっています。裏を返せば、国債の価格がそれだけ上がっているということです。そういう不均衡の芽のようなもの、あるいは芽だけでなしに不均衡そのものかもしれないものを加速させているのではないのかというような懸念もあると思うのですが、その点についてどうお考えかお聞かせ下さい。
§16Sayuri Shirai
1 つ目の質問ですが、日本銀行は以前からデフレ脱却を目指しており、物価安定のもとでの持続可能な成長を実現したいとの意思をずっと持ってきました。もっとも、こうした意思は以前から貫いて政策運営をしてきているのですが、なかなか日本銀行のスタンスが分かりづらいという批判もあり、そうであれば、私どもの気持ちそのものは何も変わりませんが、国民の皆様により私どものスタンスが理解して頂けるのであれば、もう一歩明確な形にしようということで、以前は「中長期的な物価安定の理解」と言っていましたが、2月14日に私どものスタンスを明確化するべく「目途」という言葉を使いました。これは、ある意味では一歩前進だったと思っています。以前は、それぞれの委員が中長期的に物価安定と思う数値を全体的に網羅する表現である「理解」であったわけですが、それを一つの数値として示すことでボードメンバーが合意に至ったということでありますので、そういう意味で私は明確化がなされたと思っています。その際、言葉だけではなく、私どもはこうした意思を持っているということを伝えるために、10 兆円の増額を行ったのが 2月14日です。4月27日に関しては、年に 2 回の展望レポートを発表する時期にあたり、今回は 2013年度までの経済・物価の見通しを発表するタイミングでした。
§17Sayuri Shirai
私どもは、今回の展望レポートで、1月の中間段階に比べて経済成長率や物価の変化率の見通しを上方修正しましたが、同時に、日本経済を取り巻く不確実性は大きいと感じておりました。欧州情勢だけではなくて、原油価格の問題もありますし、このほかに展望レポートに書いてあるような様々な上振れ・下振れ要因があるためです。私どもは、当面、物価上昇率1%を目指し、それを実現するまで強力な金融緩和を行うということを 2月14日に申し上げましたが、このように日本経済を取り巻く不確実性が大きいことを踏まえて、2013年度までの私どもの経済・物価の見通しを出す機会に、こうした意思を再度明確に示すために金融緩和を一段と強化したわけです。こうした日本銀行の姿勢は、なかなか理解されていないのかもしれません。それは相手の問題かもしれませんし、日本銀行のコミュニケーションの問題かもしれませんが、今、私が世界の様々な中央銀行の方々と話していてつくづく痛感することは、日本は、他の先進国に先駆けて、少子高齢化というどの国も経験していない新たな段階に入っているということです。欧州の一部の国が人口減少に転じてようやく似たような状況に直面しつつあるにしても、65 歳以上の人口比率がここまで高い国は日本だけです。
§18Sayuri Shirai
このように日本が他の先進国が経験したことのない新しい時代に入っている中にあって、様々な経済政策の役割や効果は自ずと変化してきており、日本銀行の金融政策についてもなかなか理解されない面があると思います。それは相手が悪いということではなくて、現在の日本が、先進国の中央銀行でも直面したことのない問題に直面していることに起因する難しさであるように感じております。今の日本経済が抱えている問題について、どうやって国民のコンセンサスを得て、必要な政策を皆で実施していけるのか、日銀は日銀で、政府は政府で、民間企業あるいは金融機関はそれぞれの立場で、デフレ脱却のためにどうしたらよいのか、人口が減少しているというマイナスを克服して成長に繋げていくにはどうしたらよいのかという問題を考えなければならない時代にきているわけです。そういう状況の中で中央銀行のコミュニケーションも難しい面はありますが、私自身も今後最善を尽くして、現在抱えている問題、そして取り組まなければならない課題について国民の皆様に分かりやすくお伝えしていきたいと考えており、そのためにも様々な方々と意見交換をしていきたいと思っています。2 つ目の質問ですが、ご指摘のように、金融緩和の結果として、日本銀行は市場から大量に国債を買っており、既にかなりの金額となっています。
§19Sayuri Shirai
こうした状況を受けて、金利は非常に低下してきており、10年物金利でいえば0.8%台という非常に低い水準になっています。そのことがかえって金融システムの不安定化を招く、あるいはその懸念があるのではないかという趣旨のご質問だと思います。日本銀行でも、金融面での不均衡の蓄積といったリスクがないかという問題意識のもとで、様々な金融機関と常に意見交換をしていますし、私どもからリスク管理について提言やアドバイスも行っています。先ほども申し上げましたが、労働力人口が 1995年以降減少している、つまり働く人が少なくなっているということは、それだけGDP も減っていくということになります。こうしたマイナスをどのように克服して成長に繋げていくのか、あるいは一人当たりの収入をどのように増やしていくのか、これらは国民レベルで日銀を含めて考えなければいけない課題だと思います。この点、現在では、企業の方々あるいは消費者の皆様にまだまだ不安が残っています。企業経営者の方々とお話しても、人口減少が続きマーケットの縮小に歯止めがかからない中で、工場や設備を新たにつくりたいとは思わない方が多いですし、消費者の皆様も、年金、社会保障、財政含め将来への不安が大きいですから、余分にお金があるなら貯金したいと考えがちです。こういう状況では、なかなか消費も増えないし、設備投資も増えないわけです。
§20Sayuri Shirai
そうすると、日本銀行が一生懸命金融緩和を行って金融機関に資金を供給しても、こうした資金が経済を活性化する方向に回っていきません。従って、豊富な資金を使って経済を活性化していくためにはどうしたらいいかを考えなければいけないわけです。現在、預金が増加して大量に資金を抱えている金融機関も多いわけですが、こうした大量の資金を設備投資、消費といった需要サイドにどうやって回していくのか、そこに焦点を当てて、政府、民間企業、金融機関、日銀それぞれがやるべきことに取り組んでいくことが重要だと思います。
§21Question
欧州の債務問題について改めて伺いたいのですが、フランスとギリシャの選挙結果を受けて、市場がユーロ安、株安の方向に反応しており、日本経済にも円高、株安という金融ルートを通じた影響が既に出始めているのではないかというふうに思うのですが、実際、こうした現状をどのように考えておられるのか、この問題が日本経済の先行きに与える影響をどう考えるのか、教えて下さい。
§22Sayuri Shirai
欧州問題に関しては、展望レポートの上振れ・下振れの要因のところにも書いてあるように、私どもも、これは非常に重要な下振れ要因の一つとみています。それを考慮したうえで、そういうリスクが高いからこそ、今はまだ横這い圏内ですが少しずつ回復の兆しが出てきているわが国の景気について、私どもは今後 2012年度の前半から緩やかな成長、回復経路に復していくという中心シナリオを持っているわけですが、それをより確実にするために、欧州問題を含めたリスクを考慮したうえで、金融緩和を強化した──具体的には基金の規模を65 兆円から 70 兆円にした──わけです。4月末現在で、基金による買入れ残高は50 兆円となっていますが、それを70 兆円規模にするわけですから、これから約20 兆円の金融緩和をしていくということになります。従って、今後、長めの金利や、あるいはリスクプレミアムの低下という形で効果が次第に出てくるだろうと思います。金融政策というのはご存知のように効果に時間がかかるわけであり、だいたい 1年半から 2年くらいかけて金融緩和の効果が出てきますので、それをこれからも見極めていきたいと思っています。
§23Sayuri Shirai
ギリシャやフランスの問題を含めて、欧州の問題に関してはリスク要因として私どもは考慮したうえで金融緩和をしたということで、その効果をこれから見極めていきたいと思いますし、そういう効果が出て私どもが考えている中心シナリオが実現していくことを期待しています。以上