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Bank of JapanPress conferenceJun 15, 2012Masaaki Shirakawa, Governor

総裁定例記者会見(2012年6月15日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の金融政策決定会合の結果について、ポイントをご説明願います。

§2Masaaki Shirakawa

本日の決定会合では、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。こうした決定の背景となる経済・物価情勢について、ご説明します。わが国の景気の現状については、「復興関連需要などから国内需要が堅調に推移するもとで、緩やかに持ち直しつつある」と判断しています。先月の決定会合では、わが国の景気について、「なお横ばい圏内にあるが、持ち直しに向かう動きが明確になりつつある」と判断していましたが、今月は判断を一歩前進させています。需要項目別の動きをみると、国内需要では、公共投資は増加しています。設備投資は、企業収益が内需関連業種を中心に改善しつつあるもとで、緩やかな増加基調にあります。また、個人消費は、消費者マインドの改善傾向に加え、自動車に対する需要刺激策の効果もあって、緩やかな増加を続けているほか、住宅投資も持ち直し傾向にあります。この間、海外経済をみると、欧州経済は停滞し、中国経済は減速した状態がやや長引いているなど、全体としてなお減速した状態から脱していませんが、米国経済が緩やかな回復を続け、NIEs、ASEAN経済も内需を中心に持ち直しつつあるなど、緩やかながら改善の動きもみられています。こうしたもとで、輸出には持ち直しの動きがみられています。

§3Masaaki Shirakawa

以上の内外需要を反映して、生産は緩やかに持ち直しつつあります。このように、輸出・生産については、判断を引き上げたと言っても、海外経済がなお減速した状態から脱していない中で、ようやく持ち直しの動きがみられ始めた段階ですが、先程述べたように、内需はしっかりしていますので、全体としては、「緩やかに持ち直しつつある」と判断しました。わが国の金融環境は、緩和の動きが続いています。すなわち、コールレートがきわめて低い水準で推移する中で、企業の資金調達コストは、緩やかに低下しています。CP市場では、良好な発行環境が続いています。社債市場の発行環境も、総じてみれば、良好な状態が続いています。また、企業からみた金融機関の貸出態度は、改善傾向が続いており、企業の資金繰りも、総じてみれば、改善した状態にあります。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比については、3月に続き 4月も+0.2%と、このところ、概ねゼロ%となっています。わが国経済の先行きについては、国内需要が引き続き堅調に推移し、海外経済が減速した状態から脱していくにつれて、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比は、当面、ゼロ%近傍で推移するとみられます。もっとも、以上の中心的な見通しを巡っては、様々な不確実性が存在します。

§4Masaaki Shirakawa

まず、欧州債務問題を巡る国際金融資本市場の動きをみると、スペインの銀行の不良債権問題やギリシャの政治情勢などへの懸念を背景に、神経質な動きが続いており、当面十分注意してみていく必要があります。これまでのところ、銀行間の資金調達市場は、総じて安定していますが、欧州の財政・経済構造改革や金融システム面の対応を巡って不透明感の高い状況が続く中、欧州債務問題の展開は、引き続き、最も意識しておくべきリスク要因だと考えています。米国経済については、企業部門が比較的堅調であるなど、改善の動きがみられる一方、家計のバランスシート調整圧力が残る中で、景気の回復力について注意深くみていく必要があります。新興国・資源国についても、物価安定と成長を両立するかたちで経済がソフトランディングできるかどうか、なお不透明感が高い状況が続いています。中国経済は、成長ペースの鈍化した状態がやや長引いていますが、先行き、物価上昇率の低下や金融緩和の効果などから、減速局面を脱していくかどうか、そのタイミングも含め、注意してみていく必要があります。物価面では、国際商品市況や中長期的な予想物価上昇率の動向などを、注視する必要があります。日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することが極めて重要な課題であると認識しています。

§5Masaaki Shirakawa

この課題は、幅広い経済主体による成長力強化の努力と金融面からの後押しを通じて、この両方が揃って初めて実現されていくものです。金融面からの後押しという点では、資産買入等の基金の残高を、現在の 51 兆円程度から来年6月末には70 兆円程度と、あと19 兆円程度積み増していきますので、金融緩和の効果は今後とも強まっていくと考えられます。また、成長力の強化という点では、成長基盤強化のための資金供給という、中央銀行としては異例の措置を実施しています。このように、日本銀行は、成長基盤強化を支援するとともに、強力な金融緩和を推進しています。日本銀行としては、引き続き適切な金融政策運営に努めていくとともに、国際金融資本市場の状況を十分注視し、万が一にもわが国の金融システムの安定が脅かされるようなことのないよう、万全を期して参ります。

§6Question

欧州債務問題のリスクについて、ギリシャの再選挙が目前に迫っていること、スペインの金融不安が続いていることを踏まえて、どのように認識しておられるのか、ご説明をお願いします。

§7Masaaki Shirakawa

最近の国際金融市場の動向をみると、欧州債務問題の展開を受けて、神経質な動きとなっています。投資家のリスク回避の動きから、ギリシャやスペインの国債利回りが上昇している一方、米国・ドイツ国債では歴史的な低水準となっています。株価についても、金融株を中心に下落するなど不安定な動きとなっています。もっとも、銀行間の資金調達市場は、欧州中央銀行による大量資金供給の効果もあって、総じて安定した状態が続いています。この間、欧州経済の現状をみると、域内の内需低迷が足枷となって、停滞しています。イタリアやスペインなど周縁国では、厳しい金融環境と緊縮財政の影響からマイナス成長が続いています。かねて申し上げているように、欧州債務問題のリスクの本質は、財政、金融システム、実体経済、この三者間の負の相乗作用です。現状、既にそうした負の相乗作用が働いていますが、これが深刻化することを防ぐための有効な枠組みが採られなければ、周縁国を中心に欧州経済がさらに下振れるリスクがあるだけでなく、金融市場の不安定化を通じて、世界経済に極めて大きな影響を与える惧れがあります。こうしたリスクが顕在化しないようにするために、欧州の当局者は、2 つのことに、しっかりと取り組む必要があると思っています。第1 は、資本の不足する金融機関への公的資本の早期の注入です。

§8Masaaki Shirakawa

この点、スペインでは、先週末、金融機関の自己資本充実を図るために、政府が金融支援を要請する意向を表明し、ユーロ圏財務相会合は、最大1,000 億ユーロの金融支援を表明するなど、金融システムの安定・強化に向けて、進展がみられています。日本もかつてバブル崩壊後に金融危機に直面しましたが、政府も日本銀行も、「日本発の世界金融危機は引き起こさない」という強い覚悟で問題に取り組み、実際、そうした事態は引き起こさなかったわけです。欧州の当局者による速やかな取組みを強く期待したいと思っています。第2 は、抜本的な歳入・歳出の見直しを通じた財政健全化と、労働市場改革や競争促進などの構造改革にしっかりと取り組むことです。さらに、欧州委員会等が提案しているように、預金保険スキームの共通化や統一的な金融監督などを柱とする銀行同盟(Banking Union)に向けて取り組んでいくことです。上記の 2 つの課題は、法的、政治的、経済的な制約が複雑に入り組んでいるもとで、いずれも難しい課題であることは認識していますが、ユーロ圏諸国は問題解決に向けた意思と能力を有していると信じています。

§9Question

日曜日にギリシャの再選挙がありますが、ギリシャがユーロを離脱して、もし、市場が大混乱に陥った場合、各国の中央銀行がどのような対応策を打てるのかについて、教えて頂けますか。

§10Masaaki Shirakawa

日本銀行の考えは、先程申し上げた通りです。欧州の債務問題を巡って、国際金融市場が神経質な動きを続けている中で、各国の中央銀行も市場の状況を注意深くみていると思います。主要国の中央銀行は、私のレベルでも、スタッフのレベルでもそうですが、常に密接な意見交換を行っています。ご質問は、ギリシャの再選挙についてのお尋ねでしたが、リーマンショック後の経験が示すように、金融システムがしっかりと安定を保っていることが、経済の発展の基礎です。金融システムの安定が脅かされると、経済活動に大きな落ち込みをもたらします。そういう意味で、金融システムの安定をしっかりと図っていくことが大事であることは、中央銀行間の共通の認識になっていると思います。

§11Question

今後、ギリシャ総選挙後に、金融システムに危機的な状況が起こったとすれば、各国中央銀行は、日銀を含め、追加の資金供給や追加的・臨時的な対応を採る可能性、準備もあるという理解でよろしいでしょうか。

§12Masaaki Shirakawa

ご質問の趣旨は、本日、一部で報道されていた内容を指してのことかもしれませんが、報道の件については、私は承知していません。私が先程申し上げたことは、あくまでも、欧州債務問題、あるいは金融システムの安定についての中央銀行の一般論です。

§13Question

声明文の一番最後にある「わが国の金融システムの安定」についてですが、欧州債務問題がどう影響・波及してくるのか、具体的に詳しく教えて下さい。

§14Masaaki Shirakawa

欧州債務問題が日本経済に影響を与える際のルートとして、いつも 3点申し上げてきました。1 つ目は貿易のチャネル、2 つ目は為替のチャネル、3つ目が金融のチャネルです。世界経済全体に対する影響の大きさという意味では、金融市場、金融システムの安定がしっかり保てるのか、これが決定的に重要です。このことは、先程も触れたリーマンショック後の経験が示す通りです。今、日本の状況、日本の金融機関、あるいは円の資金市場という点についてみると、極めて安定しています。様々な数字で判断すると、円の資金市場、あるいは日本の金融機関が関わる様々な通貨のファンディングは、おそらく、先進国の中では最も安定していると思っています。これは、過去における日本の金融機関の様々な取組みと、日本銀行による潤沢な資金供給の結果として、そのような状態が実現していると思っています。そういう意味で、私どもは、今、この面で心配があるということではありませんが、欧州債務問題がこのような展開をしているということで、私どもの一般的な構えを明確な言葉で発表しておくことが望ましいと判断したわけです。

§15Question

政府の同意人事についてお伺いします。エコノミストの 2 人が審議委員候補として名前が挙がっていて、金融緩和に積極的な方であるとか、市場との対話を重視するものであるなど、色々な見方が出ているようです。その点について、ご意見をお聞かせ下さい。

§16Masaaki Shirakawa

同意人事の件は、政府・国会において決めることですので、私がコメントすることは不適当だと思います。

§17Question

政府・政治において、消費税増税の論議がまだ続いていますが、市場では、まとまることをある程度織り込んでいるという意見もあります。逆に、まとまらなかった場合、市場にどのような影響が及ぶのか、どうみていらっしゃるか教えて下さい。

§18Masaaki Shirakawa

まとまらなかった場合の影響という仮定のご質問ですので、お答えすることは適当ではないと思います。消費税法案そのものについては、現在、国会において、まさに議論が進められているものであり、私の立場から具体的にコメントをすることは差し控えたいと思います。一般論として申し上げると、大幅な財政赤字が続き、既に政府債務残高が極めて高い水準となっていることを踏まえると、成長力の引上げとともに、財政の持続可能性を確保するための取組みを着実に進めていくことが、極めて重要であると考えています。また、将来の財政に関する不確実性を取り除いていけば、人々がより前向きに消費や投資を行いやすい環境を整えることにもつながり、ひいては経済成長力の強化にも資すると考えています。

§19Question

金融緩和の効果は、一般論として、景気がよくなっていく時に、より効果が高まるとみられると思いますが、今回、景気判断を若干上方修正されたことで、これまで累次打ち出してきた政策の効果がより大きくなるという考え方はできるのでしょうか。

§20Masaaki Shirakawa

日本銀行が行っている強力な金融緩和が、どのようなルートを通じて景気の刺激効果を持つのかとのお尋ねが、これまでも何回かありました。その時、私はいつも、第3 番目の効果として「時間軸効果」を挙げていました。つまり、例えば同じゼロ金利であっても、あるいは同じ 1%の金利であっても、景気がよくなり企業の収益率が高まってくると、同じ金利の持つ景気刺激力がより高まってくるわけです。そういう意味で、景気がよくなる程度に応じて、緩和力も刺激力も強まってくるということになります。今、定性的に申し上げましたが――数字は手許に持っていませんが――、例えば、法人企業統計では、日本の企業全部についての収益率を計算することができます。実は、この1~3月期の収益率は、特に非製造業、中でも中小企業を中心に、非常に高くなっています。多少、統計の連続性という点で問題があるかもしれませんが、非製造業・中小企業の収益率は、過去何十年みられないぐらいの高さになっています。その収益率と現在の金利水準の差は、先程申し上げた景気刺激力を測る1 つの指標になると思いますが、そうした数字でも確認できるということです。ただこれは、金融政策の金融緩和力ということであり、必要条件ではありますが、これまでも極めて緩和的な環境のもとで、企業が十分に投資を行っていかない、支出を行っていかない環境があるわけです。

§21Masaaki Shirakawa

従って、こういう環境自体を是正していく、つまり成長力を強化していく様々な取組みが必要です。そして、この両方が揃って初めて、デフレから脱却することになっていくと思っています。

§22Question

日本銀行は強力な金融緩和を行っているとのことですが、例えば、3.11以降のマネタリーベースのグラフをみると、3~2%くらい前年に比べて下がっています。これはどう解釈すればよいのでしょうか。

§23Masaaki Shirakawa

ご質問の数値は、前年比の数字だと思いますが、今おっしゃったように、前年3月は、東日本大震災の後、非常に市場が不安定になる惧れがあった時に、日本銀行が大量に資金を供給した時期です。その前年同期との比較でみて、マネタリーベースの伸び率が下がったということですが、マネタリーベースの水準自体は非常に高い状態にあります。また、月々のマネタリーベースは、様々な要因で変動します。私どもは、内部的にマネタリーベースの予測をしていますが、その中の当座預金は、この先また増えていく局面に入ってくるという予測になっています。そういう意味で、マネタリーベースの水準は、趨勢として高まっていくと考えています。

§24Question

2 点ご質問します。1 点目は、先程ご説明がありましたが、デフレ脱却には、強力な金融緩和の後押しと成長力を高めることが大切なのだと、本日だけでなく何回も繰り返されています。しかし、成長力を高めるという点で言うと、これから生産年齢人口が前年比で大体1%ずつ下がるという試算もあり、成長力を上げるのは生半可なことではないと思いますが、どういうことを重点的にやっていけば高い成長に結び付くとお考えなのかをお伺いします。2 点目は、欧州の金融システムに関連したことです。ユーロ圏ではTARGET2というシステムを作動させていますが、これは、金融危機を前提としておらず、平時の状況を想定していたと思います。その結果、ブンデスバンクが貸方として 6,000 億ユーロも抱えている一方、南欧の中央銀行がかなりの額で借方として並ぶというような、かなりアンバランスが生じてしまっています。この持続性については、東京からみても、この先、銀行間の預金の流出等があった場合にどうなのかと正直思ってしまうのですが、総裁はどのようにご覧になっているのか、もしくは何か欧州の当局がこれに関して対応をする可能性があるとみていらっしゃるのかを、お聞きしたいと思います。

§25Masaaki Shirakawa

まず 1 点目の日本の成長力強化のご質問です。ご指摘の通り、日本の生産年齢人口は、向こう10年を考えてみると、年率0.6%で減少していくことになります。成長力を高めていくことは、生産年齢人口に労働力率を掛けたものである労働力人口と労働生産性という 2 つの話に分解できます。まず、前者の労働力人口を決める要素のうち生産年齢人口は、これ自体は過去のパターンによってある程度決まってくるところがありますが、労働力率は、所与の生産年齢人口の中でも変わり得ます。6月4日の講演で数字をもって示しましたが、仮に、日本の女性の労働参加率がスウェーデン並みの水準にまで上がり、あるいは、現在60~64 歳にかけての男性の労働参加率が 55~59 歳と同じ水準まで上昇してくる、という前提を置いて計算すると、労働力人口の伸びは、先程の年率 0.6%の減少という数字から、0.2%の増加になってきます。もちろん、どの程度の労働参加率がよいのかということは、成長力だけで判断するわけではなく、様々な社会的な要因を考慮して各人が決定した結果として決まっていくものです。しかし、社会において労働参加率を上げていく努力をしていけば、実は、生産年齢人口の伸びがマイナスとなることによる成長力の低下を若干緩和できることになります。次に、生産性を上げていくことについてです。

§26Masaaki Shirakawa

「生産性」という言葉の響きは、どうしても技術的な意味での効率性を連想させがちです。しかし、生産性とは、付加価値を労働投入量で割ったものですから、それを高めるということは、付加価値のあるもの、つまり皆がニーズを感じる財・サービスを作っていくことを意味します。そのためには、外需を取り込むことと内需を開拓することの両面の努力が必要です。外需の面では、日本をより開いた経済にしていくということですし、内需の面では、高齢化一つ取ってみても、医療、介護あるいはその他サービスに対する需要は着実に増加しているわけですが、そうした潜在的な需要の増加が十分に開花していないというのが、現在の日本の状況だと思います。そういう意味で、急速な高齢化の影響は非常に大きいとは思っていますが、これは決して運命論に立っているわけではなく、問題の本質は、そういう高齢化に対して日本が十分な取組みをまだ行っていないということだと考えています。従って、そうした努力を行うことによって、成長力の低下をある程度緩和できる、そうして時間を買いながら、さらに必要な政策は何かを日本全体でしっかり考えていくことが大事だと思っています。2 点目は、欧州の金融システムに関係したTARGET2についてのご質問です。単一通貨制度を採っている以上、最終的に各国間の支払いのインバランスは、中央銀行の勘定、つまりTARGET2に表れてくるわけです。

§27Masaaki Shirakawa

これは、 TARGET2というECBの決済システムに起因する問題ではなく、欧州域内で単一通貨を採用し、その中で資本は自由に移動するが、その資本については民間ベースでのファイナンスが、なかなか難しくなっている現状を表しているのだと思います。従って、この問題に対する解決は、先程申し上げた、欧州が必要な対策をしっかり採っていくことに帰着すると思います。

§28Question

2 つ質問があります。1 つは、現状の景気判断を前進させ、前回まであった「横ばい圏内」という表現がなくなりました。総裁は、なぜ、この「横ばい圏内」という表現をなくして判断を前進させたのか、最も大きな要因をお聞かせ下さい。また、政策効果の息切れが指摘されている中で、今後も内需は力強く回復していくのかどうか、総裁の見解をお伺いします。2 点目は、先程も出たギリシャの話です。今週末の選挙もあり、週明け以降のマーケットについて懸念する声が非常に高まっています。もしかすると、リーマンショック並みの事態になるとの危機感もあります。総裁はどのようにみておられるのか、国際的に協調して行動する必要性はあるのかお伺いします。

§29Masaaki Shirakawa

日本の景気、経済活動を総合的に測る統計としては、実質GDPがあります。実質GDPは、昨年の第 4 四半期が年率+0.1%、今年の第 1 四半期が年率+4.7%でした。この数字だけみると、既に1~3月についても、「横ばい圏内」というよりも少しよい数字でした。それにもかかわらず、私どもが「横ばい圏内」という言葉を使っていたのは、いくつかの理由があります。1 つは、足許のデータで、輸出や生産が横ばいからプラスになっていく姿を確認したいということでした。この点、輸出については、少し出来過ぎの感じもありますが、4月はプラスということが確認されました。生産については、リーマンショック後の変動を季節調整上どう扱うかにより、表面の数字では実勢判断が難しくなっていますが、私ども独自の季節調整で判断すると、足許、緩やかではありますが増加に転じていることが確認できました。輸出・生産ではなくて、支出面からのデータをみると、以前から比較的強い数字が出ていました。個人消費は予想外に健闘しているという感じがありますし、設備投資も、機械受注、あるいは資本財出荷、各種の設備投資アンケート調査等からみて増加しています。その上で、私どもが、この動きをどう評価するかというと、今直面している状況は、外需については当初の想定よりも幾分弱い、内需は当初の想定よりも幾分強いということです。

§30Masaaki Shirakawa

しかし、これだけ経済がグローバル化しているので、欧州債務問題が色々な形で内需に影響してくる可能性も意識せざるを得ません。そういう意味で、私どもは、判断を慎重に少しずつ進めているということです。今回についても、先々を考えていく上で、最大のリスク要因は欧州であると申し上げたのは、まさにそういう趣旨です。2 つ目のご質問ですが、欧州債務問題について、どういう言葉で表現するのが最も適切なのか、少し注意して選ばなくてはなりませんが、現在の状況について、細心の注意を持って国際金融資本市場の動きをみているということです。これは、各国中央銀行とも同じだと思います。詳細については申し上げられませんが、先般のG7の電話会議もそうですし、一対一でも他の中央銀行総裁と話していますが、各国はそうした意識でこの状況をみているということだと思います。いずれにせよ、中央銀行は最後の貸し手なので、金融システムの安定をしっかり守っていくことが大事だということは、先程来申し上げている通りです。

§31Question

先程、欧州問題の波及経路の1 つに為替が挙げられていたと思いますが、欧州情勢の展開次第では、円高が急に進むことも想定されると思います。円高が進むと、日本経済にダメージを与えると思いますが、急激な円高が進んだ場合、世界の中銀の協調行動も大事ですが、日銀としても、その円高に対して、果断かつ速やかな対応を採るという心構えはあるのでしょうか。

§32Masaaki Shirakawa

まず、この先、為替相場がどうなるのかという点については、中央銀行の総裁として、コメントは差し控えたいと思います。昨年の夏以降の為替相場の動きをみると、改めて、グローバルな投資家のリスクテイク姿勢の程度によって、円相場の変動が大きく規定されているという思いがします。昨年の夏から年末にかけて円高が進んだ局面では、欧州債務問題の深刻化から円高になり、年初以降この3月ぐらいまで円高修正が進んだのは、リスク回避姿勢が幾分後退したということだと思いますし、ごく足許は、その逆だと思います。日本銀行としての構えということですが、円相場の変動自体にどう対応するかは、財務省の為替介入政策の話ですので、私からコメントすることは差し控えたいと思います。この円高が、日本経済、日本の景気・物価にどのような影響を与えるのかということが、日本銀行が金融政策を判断する上での 1 つの材料です。ご質問にあったように、円高は、短期的には企業の収益やマインドを悪化させることを通じて、景気に対するマイナス要因になると思います。私どもの金融政策の運営は、為替の影響も含めて、景気全体が先々どのような展開になっていくのかをみていくということです。

§33Question

今回の声明に、先月は抜けていた「強力な金融緩和」という文言がまた入りました。その趣旨についてご説明下さい。もう1 つ、強力な金融緩和を推進している中で、資産買入れプログラムのETFとJ-REITがリミットに近付いてきています。リミットが近付いてきている中で、ETF、J-REITを買い続けていくべきとお考えなのかどうか。と言うのも、4月27日の決定会合で、スタッフメンバー(執行部)から、価格変動リスクが大きいという指摘がありました。そういう中で、総裁は、どういうご見解をお持ちかお聞かせ下さい。

§34Masaaki Shirakawa

まず、「強力な金融緩和」という言葉についてのご質問です。この席でもご説明した通り、私どもの基本スタンス、基本哲学をしっかり説明しようと思うと長い文章になります。そういう意味で、私どもの基本スタンスについては、2月、4月の会合後に公表した声明文で詳しく述べているので、前回は、最終的には「適切な政策運営」と括ったわけです。今回は、欧州の債務問題が前回に比べより緊張感を高めている中で、最後に「金融システムの安定」というスタンスを明確に示す必要があるということで、改めて日本銀行の政策スタンスの全体像を体系的に説明した方がいいと判断した結果、その言葉を含めたということです。ただ、見比べて頂ければ分かる通り、2月の発表文と比べると、今回の方がコンパクトになっています。その点については、皆様に十分な知識があるということで、エッセンスだけを書いたわけです。いずれにしても、今回は、欧州債務問題を踏まえて、私どもの政策全体の体系を説明した方がいいと思った次第です。ETFとJ-REITですが、年末までに発表している買入れを着実に進めていくということです。買入基金について、どのような運営が望ましいのかは、基金創設の目的に照らして、また、ご質問された方もおっしゃった日本銀行の運営上考えるべきいくつかの要素に照らして、適切な判断をしていきたいと思っています。

§35Question

週明け、ギリシャの再選挙を受けて金融市場が緊張するという懸念も高まっていますが、その際に日本の中央銀行として、あるいは各主要国の中央銀行と協調する形で、どういう政策手段を採り得るのか、具体的に教えて頂けますか。

§36Masaaki Shirakawa

金融システムの安定を保つ上で、何か奇手奇策があるというわけではありません。流動性の調達に不安があるということであれば、流動性を供給することがオーソドックスな対応になります。この点では、自国通貨、外貨の両方があり得るわけです。ドルについては、既に主要国中央銀行がFRBとの間でドルのスワップ取極を締結し、無制限にドル資金を供給するスキームが出来上がっています。それから、昨年11月末に締結することを決め、その後に細目も決めたドル以外の主要通貨――つまり、円、ユーロ、ポンド、カナダドル、スイスフラン――について、それぞれの母国以外の市場においても、中央銀行が資金を供給できる体制を――現在、この枠組みを発動しているわけではありませんが――、既に作っています。ご質問は、技術的にどういう手段があり得るかということでしたが、技術的には、今申し上げた枠組みがあります。前者については既に発動しているほか、後者についても発動できる体制が出来ているということです。それから、自国通貨については、協調ということを言うまでもなく、各国が自ら流動性を供給できるということです。いずれにせよ、しっかり流動性を供給して不安を鎮めるということですし、より地味な話ですが、決済システムの運営をしっかり行っていくことも大事な課題だと思っています。

§37Question

先行きの景気認識について伺います。今回の声明で、今までずっとおっしゃっていた「新興国・資源国に牽引される」という表現がなくなりました。これは、中国の減速等を念頭においているかと思いますが、景気の回復経路について、これまで想定されていたパスと少し違う想定になっているのかどうか教えて下さい。また、ずっと「年度前半の回復」とおっしゃっていましたが、その想定についても、多少下振れというか、さらに遅れてしまう懸念はないのか、お伺いします。

§38Masaaki Shirakawa

従来、「新興国・資源国に牽引される」という言葉を使っていましたが、今回発表文からはその表現を落としています。その理由は、牽引する主体である国の構成が少し変わってきたという感じがしているためです。従来は、新興国・資源国が牽引するということでしたが、この数か月間の動きをみると、ご指摘のように、中国の減速が少し長引いている一方、米国については――もちろん、色々な評価がありますが――、緩やかに回復しているとみています。米国という大きな経済が 2%を超えるペースで成長しているということも、やはり意識する必要があると思います。そういう意味で、新興国・資源国だけを取り出して語るより、世界経済全体で語った方がよいと思った次第です。それから、新興国についても、中国については先程申し上げましたが、NIEs、ASEAN諸国は内需を中心に持ち直しつつあることがデータで確認できています。そういう意味で、今回、言葉を変えました。それから、見通しの達成可能性、あるいはその時期についてのお尋ねですが、もちろん経済は生き物ですから、毎回入念に点検していきますが、少なくとも本日の会合で、その蓋然性が下がった、あるいは時期が後ずれしたということではありませんでした。これは、先程申し上げた通り、外需は想定比幾分弱いという感じがありますが、内需は想定比幾分強い感じで、現在のところその両者が相殺しあっている感じです。

§39Masaaki Shirakawa

ただ、経済の先行きについては、何よりも欧州債務問題が最大のリスク要因ですから、これについては、純粋に経済のロジックで予想ができるというよりも、かなり政治的な要素もありますので、ある特定のシナリオだけを持つことなく、丹念に状況をみていくことになると思っています。

§40Question

少し古い話になりますが、98年から日本の自殺者数というのは 3 万人を超えております。その 98年から、例えば、日銀の金融引締めが始まっていたり、消費税が 3%から・・・

§41Masaaki Shirakawa

「98年から金融引締め」とは・・・

§42Question

引締めというか、前年比でも比率が下がりつつある。下がり続けているのですが、例えば日銀の金融引締めが、日本の自殺者数に何か影響があると関連付けられる可能性はあるのでしょうか。

§43Masaaki Shirakawa

私自身は、自殺ということについて、十分な社会学的な分析をしているわけではありません。私も、今ご指摘の点を含めて、色々な論評は読んでいます。もちろん、広い意味で経済の状況が関係しているとは思いますが、お尋ねの金融政策との関係では、金融政策として経済の安定をしっかり維持していくことが、国民生活全体の安定につながっていくと認識しています。分析の話については、コメントを差し控えますが、そのように思っています。

§44Question

短期市場で、5月から 6月にかけては、資金の入り繰りが激しく、「札割れ」も何回か起きてきたと思います。特に、6 か月物の資金供給は「札割れ」がずっと続いている状態ですが、今後、何らかの形で見直さなければいけないというお考えはありますでしょうか。

§45Masaaki Shirakawa

「札割れ」が発生しているのはその通りですが、その背景としては、相対的に短期のゾーンについて金利水準が一段と低下していることが挙げられます。これは、日本銀行による金融緩和の効果がそれだけ浸透しているということの証でもあると思います。「札割れ」の背景としてもう1 つ、最近における国際金融市場の緊張からくる安全資産への選好、「質への逃避」が強まっていることも挙げられると思います。その意味で、この状況については注意深くみています。ただ、私ども自身の金融緩和が浸透すればするほど、「札割れ」が発生しやすくなるということは従来から認識していますし、4月末の決定会合で固定金利オペの減額を行ったこと、あるいは買入れ対象とする長期国債や社債の残存期間を、従来の「1年以上 2年以下」から「1年以上 3年以下」に延長したこと、1 先当たりの応札限度額を引き上げたことなど、オペの運営面でもきめ細かく対応をしています。日本銀行としては、引き続きオペの応札状況や市場全般の情勢を見極めるとともに、オペ運営等の工夫も講じながら、金融資産の買入れ等を着実に進めていく方針です。以上