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Bank of JapanPress conferenceJul 24, 2012Takehiro Sato, Board Member

佐藤審議委員・木内審議委員就任記者会見(2012年7月24日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

お二人に、就任にあたっての所感、今後の抱負をお伺いします。(佐藤委員)本日、辞令交付を受けまして、審議委員を拝命しました佐藤健裕と申します。よろしくお願いします。私は、国内の民間銀行、それから外資系の証券会社ということで、職業人としてのキャリアのほとんどをマーケットに近い部分で過ごして参りました。10 数年ほど前に、前職の外資系の証券会社に移ってから、ここ数年は日本経済担当のチーフとして、また、最近は債券調査部門のヘッドとして、主に経済・物価情勢、日本銀行の政策運営についての分析・予測、あるいは投資戦略の策定に関わって参りました。このように、これまでほぼ一貫してマーケットに身を置いて参りましたので、民間エコノミストの立場から、経済・金融情勢、政策・市場分析に関わってきたわけであり、今後はこれまでの経験とそこで得られた知見を活かして、デフレ脱却に向け、微力ながら貢献して参りたいと考えています。経済情勢全般について一言だけ申し添えておくと、国内に関しては、周知の通りデフレ状況にあるとみており、また、海外に関しては、欧州ソブリン問題をはじめとした様々なリスク要因があるということで、先行きの不確実性が非常に高い状況にあるとみています。このような情勢のもとで、審議委員に課せられた職責は非常に重いものと考えています。

§2Question

今後は、これまでの民間エコノミストとしての経験を踏まえつつ、市場関係者や企業経営者の方々との意見交換を通じて情報収集等もしながら、緊張感を持って職責にあたりたいと考えています。また、マーケット出身ということですので、やはりマーケットとのコミュニケーションということを重視して参りたいと考えています。長らく市場参加者の一員として中央銀行を見て参りましたので、今後、市場参加者の目線から、ボードメンバーの方々に、様々な意見あるいは提言をしていくことができるのではないかと考えています。最後に、日本銀行に課せられた使命である物価安定のもとでの持続的な成長と金融システムの安定ということに尐しでも貢献できるよう、また、究極的には、現下の最大の課題であるデフレ脱却に貢献できるよう、全力を尽くして参りたいと考えていますので、どうかよろしくお願いします。(木内委員)本日、審議委員を拝命しました木内登英でございます。どうぞよろしくお願いします。私は、シンクタンクからキャリアをスタートしており、一貫してマクロ経済の調査・分析・予測といった業務をして参りました。途中からは証券会社に籍を移しましたが、業務内容としては、純粋な経済分析・予測だけではなく、金融市場に近い市場分析といった業務もかなりのウエイトを占めていました。

§3Question

そして、投資家、主に機関投資家向けの情報サービスを主な業務としており、一対一で情報を伝達するということをして参りました。自分のキャリアを振り返ると、海外での業務を比較的長く経験しており──ドイツのフランクフルトで 4年、ニューヨークで6年──、海外経済の分析や現地の金融経済の分析、また中央銀行等とのコミュニケーションを行って参りました。こうしたバックグランドを最大限活かして、審議委員の責務を果たしていきたいと思っています。経済予測の技能、あるいは海外経験、金融市場への知見、そしてメディアを通じた情報発信の経験も踏まえて、分かりやすく政策を伝えていくことができれば良いのではないかと思っています。行内、あるいは政策委員会の中では、特に、自由闊達な議論、内部での議論を、非常に重視していきたいと考えています。

§4Question

日銀は、物価上昇率1%を「中長期的な物価安定の目途」として掲げ、その上で、早ければ2014年度にもその 1%に到達可能であるという見解を示しています。日銀が示している物価のパス、またデフレ脱却のパスを満たすにあたって、日銀の現状の金融政策が十分であるとみていらっしゃるかどうか、この点をお伺いします。(佐藤委員)現状の金融政策については、周知の通り、強力な金融緩和を進めているということで、資産買入れ基金の増額を順次進めてきていると理解しています。ただ、問題は、資産買入れ基金の増額あるいはそれに伴うマネーの供給増が、実際の物価の安定あるいは物価の回復に結び付くパスが、必ずしも明確ではないということだと思います。そういう点では、資産買入れ等の金融緩和が、如何にして物価の回復に結び付くのかというパスを、もう尐しクリアにしていけるような、そういった政策運営が必要なのではないかと個人的には考えています。(木内委員)現状の経済のもと、デフレ圧力は緩和の方向に向かっていることは確かだと思います。日本銀行の基本的な考え方としては、需給ギャップが縮小に向かう中でデフレ圧力が緩和の方向に向かうというもので、こうした考え方は基本的に正しいのではないかと思っています。

§5Question

しかし、現在想定している成長率で、果たして、例えば 2014年度にかけて 1%に達するということが、非常に確実性が高いかというと、不確実性も依然として大きいのではないかと思っています。特に足許の物価は、原油価格の上昇によって押し上げられている部分もあります。食料・エネルギーを除くという国際的なスタンダードで見た消費者物価は、前年比では依然として比較的大きなマイナスであるということから、先行きの物価については、不確実性は比較的高いのではないかと思っています。従って、必要であれば、追加の緩和策は検討すべきであると思っています。さらに、資産の買入れを軸とした金融緩和策については、実施から既に 2年弱が経過していますので、その効果については、そろそろ検討あるいは総括すべきタイミングにきているのではないかと思っています。その結果として、今の政策の延長線上で 1%の目標を達成できる可能性があまり高くないということであれば、ここから新たな形の金融緩和を柔軟に考えていくということは、当然ですが必要になっていくのではないかと考えています。

§6Question

お二人にお伺いしたいのですが、日本経済がデフレから脱却できない理由はどこにあるのかということをお尋ねします。合わせて、デフレ経済に突入して以降、日銀がデフレ脱却のために行ってきた金融政策への評価も、お伺いしたいと思います。(佐藤委員)バブル崩壊から既に 20年余り経ち、未だにデフレ脱却ができていないということですが、私は、デフレには2 つのフェーズがあった、あるいは、あると理解しています。1 つ目のフェーズは、資産価格の急低下、いわゆるバブル崩壊から起こった逆資産効果、そして、その逆資産効果の結果として、企業や家計のリスクテイク余力が大きく削がれ、それが結局、需要の減尐、需給ギャップの悪化、そして一般物価の下落を招く──いわゆるネガティブ・フィナンシャル・アクセラレータ──、そういった作用が働いたということかと思います。これが第1 のフェーズです。ただ、こういった第1 のフェーズに関しては、2000年代初頭に不良債権処理が概ね峠を越える中で、一旦は終息したかと考えています。ただ、2000年代のどちらかというと後半から、新しい第2 のフェーズに入って来ているかと思います。第2 のフェーズにおけるデフレですが、要因は色々あると思います。

§7Question

日本銀行の公式見解では、デフレの要因とは、1 つには成長力の低下、その背景としては人口の高齢化に伴う労働力人口の減尐あるいは生産性の低下が挙げられていると思います。それと並び、私は、賃金の低迷、これが非常に長期的に続いていることを挙げておきたいと思います。労働需給は段々改善してきている、有効求人倍率も非常にゆっくりとではありますが、徐々に「1」に近付いてきているという状況ですが、完全失業率が4%台半ばという中で、これだけ労働需給が緩いという状況のもとでは、持続的な賃金の回復、名目賃金の回復が図れないということかと思います。過去に実際に物価が1%前後にあった時期の完全失業率は──例えば 90年代初頭、バブル崩壊後で、実際には物価が低下していた局面なので、ちょっと今とはフェーズが違うかもしれませんが──、3%程度に低下しており、ほぼ完全雇用の状態にあったということだと思います。足許は、改善しつつあるとはいえ、雇用情勢にまだ厳しさが残っている、そういう中で、名目賃金の回復が非常に微々たるものに止まっているということであり、そういう中では、なかなか需給ギャップの改善というだけでデフレ脱却を図ることは難しいかと考えています。まとめると、1 つは経済情勢全般の改善による需要の回復、それによる需給ギャップの改善ということですが、もう1 つは賃金の回復がデフレ脱却の鍵になるかと考えています。

§8Question

2 点目の、デフレ脱却に向けたこれまでの日本銀行の取組み、金融政策についてですが、2010年10月にようやく重い腰を上げて、資産買入れ基金を立ち上げ、株式、具体的にはETFやJ-REIT等のリスク資産の買入れも含めた先進的な政策を打ってきていると思います。ただ、先程も申し上げたように、そうした先進的な政策を打ってはいますが、それが実体経済にどのようにフィードバックしていくかというところのパスが今一つはっきりしない面があるかと思います。金融緩和の効果は、こういったゼロ金利制約のもとでは 2 つあると思います。1 つは実質金利を下げ、為替レートに影響を及ぼそうとすることです。もう1 つは資産効果かと思います。すなわち、市場に流動性を供給していく中で、いわゆるポートフォリオ・リバランス効果、資産市場への浸み出し効果を図っていくということかと思います。前者の為替に関しては、国内要因だけで決まるものではありません。ご案内の通り、欧州情勢等、日本以外の要因で円高になっている部分もありますし、また、他国の金融政策にも大きく影響されるということで、日銀が努力はしていますが、なかなか努力の割に報われないというところは、そういった海外要因も影響しているかと思います。

§9Question

それから資産効果についてですが、これは、2001年から 2006年まで量的緩和を行っていく中で、当初そういった効果もあるのではないかということも期待されたわけですが、これも思いのほか大きくなかったと総括できるのではないかと思います。米国においても、QE1、QE2と段階を経るに従い、その株式市場への波及効果も段々薄れてきているということです。これまで様々な政策を打ってきたわけですが、それがデフレ脱却まで今一つ結びつかなかったのは、そういったことが裏にあるかと思います。(木内委員)それでは、私の方からですが、デフレのきっかけとなった要因として、一番重要だったのは、企業部門での過剰債務問題、バランスシート調整ではなかったかと思います。過剰債務の削減のために必要な設備投資も抑える中で需要が弱くなったという面もありますし、必要な設備投資が抑えられたために資本ストックの蓄積が滞った、あるいは設備が古くなる形で競争力が低下していったということで、需要面だけではなく、供給面からも日本経済の活力が削がれていった、これがスタート時点ではなかったかと思います。しかし、これは、2000年代に入ってほぼ解消されてきた。その中でも、低成長とデフレが続いてきたというのは、やはり色々な期待が下がってしまったということではないかと思います。

§10Question

需給バランスが悪化し、成長期待が下がる中で、成長率への期待、所得への期待、物価への期待が、企業や家計の中で一旦下がってしまうと、なかなかそれを浮上させるのは難しいということだと思います。ただ、色々な期待の中で、インフレ率の期待については、金融政策である程度上げることが可能ではないかと思います。引き続き、インフレ期待の引き上げというのは、日本銀行がデフレ脱却に向けた強い姿勢を示すことで、ある程度可能な分野ではないかと思っています。それから、もう1 つ気になるのは、為替の動きです。デフレになった後というのは、デフレと円高が相乗的に進む、スパイラル的に円高からデフレ、デフレから円高というのが進行してきたと思います。つまり、円高の主な要因がデフレであり、さらに円高によってデフレ圧力が高まる、というスパイラルからなかなか抜け出せていない。これは簡単に抜け出せるものではありませんが、それに対する政策は、日本銀行だけではなく、政府も含めて今後も考えていくということが、デフレ脱却にとっては1 つの重要な施策ではないかと思います。金融政策の評価ということですが、デフレになった後は、非常に限られた政策のオプションの中で、知恵を絞り、色々考え、工夫して良くやってきた、と思っています。ただ、やはり、終わりというものは無いのではないかと思います。

§11Question

2010年10月に発表された包括緩和策、これは、量的緩和、ゼロ金利、信用緩和、時間軸効果と、デフレ下で実施されてきた様々な政策を全部包括したような、完成形のような金融政策のように見えます。しかし、それも、やはり終わりではないということだと思います。その効果は、やはり総括すべき時期に来ているようにも思います。さらにそれを超えて、限られた選択肢の中から知恵を絞って、常にデフレ脱却に向けて新たな政策を考え出していくという姿勢は、今後も必要だろうと思っています。

§12Question

日銀が物価安定の目途として出している 1%という数字の妥当性、もう尐し高い数字を出した方がいいとお考えか、また、この 1%が達成される時期が 2014年度も含めて遠からずと言っているところについての妥当性についてはどうお考えか、教えて下さい。(佐藤委員)まず、物価安定の目途の妥当性ということに関してですが、諸外国におけるインフレターゲット、あるいはインフレーションターゲティングのグローバルスタンダードというのは、おおよそ2%であると理解しています。その中で日銀は、当面 1%を目途とすると言っているわけであり、これが低すぎるのではないかという質問かと思います。確かに、購買力平価の観点からすると、例えば米国が 2%のインフレを長期的に目指していく中で日本が 1%ということであれば、内外金利差の観点からは毎年1%の円高になる、1%の円高を許容しているのと同じことであるという批判もあるかと思います。そういう点では、理想的には 2%ということかと思います。ただし、達成可能性ということは、やはり政策運営には重要かと考えており、要は、あまり現実的でない、一見して達成不可能にみえる、そういった目標を掲げても、マーケットに信認されなければ全然意味がないわけです。あるいは、マーケットに信認されるような達成手段がなければ、意味がないように思います。

§13Question

そういう点では、とりあえずはスタート地点として 1%を目指していくという、現状の日銀の考え方は理解できると思います。ただ、付け加えると、あくまでも理想は、諸外国のように2%ということかと思います。それから、足許の日銀の物価見通しの妥当性に関してですが、おそらくご質問の趣旨は、私の民間エコノミスト時代の消費者物価の見通し――2013年度でマイナス 0.3%――が、審議委員の見通しのレンジの下限からも大きく外れていることについてかと思います。ただ、物価見通しというのは色々な前提があると思います。前提の最たるものは原油価格、あるいは為替レートといったものです。ただ、日銀の物価見通しといっても、個々の審議委員の見通しということに建前上なっていますし、前提条件も個々の審議委員に委ねられているということですので、本当は前提条件をきっちりとみた上で申し上げたいと思うのですが、如何せんそれが公表されていないということですから、これはまた中に入りましてから、しっかりとその前提条件をみていきたいと考えています。もう 1 つは、物価の予測モデルです。

§14Question

どういったモデルを使っているのか、あるいはモデルのパラメーターがどうなっているのかというところも、個人的には非常に興味があるところであり、要は先行きの需給ギャップの変化、これをGDP 見通しからおくとして、その需給ギャップの変化による物価の反応速度、これをどうみるのかによって、予測の結果は大きく変わってくると思います。現時点での私の感触としては、おそらく日銀の公式見通しというのは、需給ギャップの変化に応じた物価の反応速度、これをかなり大きめにみているのではないかと思います。また、今一つは、需給ギャップから物価へのタイムラグです。物価への波及のタイムラグということですが、こういったものもみておく必要があると思います。私の考えでは、このタイムラグは意外と大きくて、大体需給ギャップが改善したとしても、実際それが物価に反映されてくるのに 3~4 四半期、すなわち 1年弱はかかるかと考えています。先程申し上げたように、物価に関しては、財・サービス市場の需給ギャップのみならず、やはり労働市場の需給、これも重要であるということです。そういう点では、今のところ私としては、物価が来年1%に向けて加速していくというイメージはなかなか持ちにくいというところです。(木内委員)当面の目途としての 1%というのは、結論から申し上げると妥当かと思っています。

§15Question

どの水準が非常に理想的なインフレ率かというのは、軽々には申し上げられないと思っていますが、先程申し上げたように、現状の物価が、基調的な部分――食料、エネルギーなどを除く部分――でいうと、比較的大きなマイナスであるということを考えると、1%の目標というのも、依然としてかなり意欲的な目標であると思っています。安定的に 1%を達成できるのであれば、それは非常に大きな成果というか、大きな変化です。それを達成した上で、1%ではなくて、長期的に2%が妥当である、その方が日本経済にとって良いということであれば、新たに長期的な目標として 2%を掲げれば良いのであって、現状から考えると 1%でもかなり意欲的な目標、目途ですので、当面の数値としては 1%で良いのではないかと思っています。先程、金融政策が期待インフレ率に影響を与えることができると申し上げました。日本銀行がデフレ脱却に向けて非常に強いメッセージを送ることによって、実際、経済主体のインフレ期待にプラスの影響を与えることができると思っています。従って、1%よりも 2%という目標を掲げた方が結果的にはプラスの効果が大きいのではないかという議論もあろうかと思います。

§16Question

しかし、現状でいうと、その目標は非常に高い、さらにそれを達成していくための非常に信頼できる確実性の高いツールがあるわけではない、ということから考えると、あまりに高い目標を掲げることによって、逆に信認が低下してしまうという面もあると思いますので、当面は 1%で妥当だと思っています。この話とも重複しますが、早ければ2014年度に 1%という見通しに関しても、不確実性は比較的高いのではないかと思っています。可能ではあると思いますが、2014年度というのはだいぶ先の話ですので、比較的不確実性は高いというように、現状では考えています。ただ、佐藤委員もおっしゃっていましたが、やはり政策委員会の中で、どういった考え方でそういう物価の見通しになっているかはしっかり理解して、私としても考えていきたいと思っています。あと1 点だけ申し上げると、これも佐藤委員が指摘されていましたが、日本の消費者物価のコアは、原油価格を含むということで、非常に振れが大きいと思います。例えば、4月の展望レポートを作成した時には、原油価格がかなり上がっているような局面であったので、各委員が、先行き原油価格が上がるという前提で、あのような数字を作ったのかもしれないということです。

§17Question

従って、展望レポートの物価見通しとして、どの指標が良いのか、場合によっては原油を含まない、どちらかというと国際スタンダードである、食料・エネルギーを除くベースで見通しを作った方が妥当なのではないかという気もしますので、そうした指標の妥当性というのも、今後は考えて参りたいと思っています。

§18Question

ヨーロッパ情勢について伺います。白川総裁は度々、ヨーロッパ情勢が最も注意すべきリスク要因だという話をされています。その点についての認識が同じかどうかをお聞かせ下さい。また、本日もムーディーズがドイツ国債の格付け見通しをネガティブに変更したりしていますが、ヨーロッパ情勢は、この先どのように推移していくとみているかをお聞かせ下さい。(佐藤委員)欧州問題、あるいは欧州情勢は、やはり最大のテイル・リスクであると考えています。これまでのところ、欧州中央銀行による資金供給策の実行、あるいは国家の財政破綻を防ぐためのセーフティ・ネットの構築と、色々模索してはいます。そういった政策が出る度に、マーケットは一時的に落ち着きを取り戻しはするのですが、結局のところ、政策対応があくまでも対症療法的なものに止まるということで、所詮は時間稼ぎ的な要素が強いように見受けられます。その中で、昨日もスペインの問題が深刻になっているということで、客観情勢としては刻一刻悪化していると見ざるを得ないと思います。そういう中で、マーケットは、対策あるいは政策の催促相場的な様相を示しているわけですが、政策の進展する時間軸と、マーケットはやはり短気ですので、マーケットの時間軸は大きくずれているということで、そこからくるストレス、このために、当面、経済あるいは市場の混乱が続かざるを得ないかと考えています。

§19Question

そういう点で、欧州問題については、引き続き下振れリスクが非常に強い状況にあると理解しています。(木内委員)金融市場にとっても、最大のリスクは、やはり欧州問題ではないかと思っています。ただ、日本を取り巻く世界経済の状況を考えると、欧州だけではなく、アメリカと中国の減速もダイレクトに日本の景気の足枷になってくる、景気に悪影響を及ぼすという点でいうと、それも合わせて注視していかなければならないのではないかと思っています。例えば、欧州金融情勢が悪化した時、日本が被る――日本経済が受ける――リスクとしては、様々なチャネルがありますが、私は、やはり円高を通じた悪影響が大きいのではないかと思っています。その場合、欧州情勢の悪化によって安全通貨が買われるということが起こり得るわけですが、例えばアメリカ経済が安定した状態であれば、ドルが買われることによって、日本経済に大きな影響を及ぼす対ドルでの円高には必ずしも結びつかない可能性があります。しかし、現状でいうと、アメリカ経済が減速感を強めてきている、さらに追加の緩和期待が出てきているという、ドルの安定性が揺らいでいるような局面で欧州情勢が悪化すると、日本の金融経済にとって重要な対ドルでの円高のリスクにつながりやすい。こういった観点から、欧州情勢のみならず、アメリカ、中国の景気情勢といったところも十分注視しなければならないのではないかと思っています。

§20Question

欧州情勢については、政策対応は、危機が起こる度に前向きに進んでいるとは思っていますので、非常に悲観しているというわけではありませんが、政策対応のスピード感が常に市場の動きに追いついていないという面があります。政策対応が進むことによって、ソブリン問題は封じ込めていくことが可能ではないかと思います。しかし、その過程で、欧州経済の低迷が長期化し、それがいわゆる資産価格の下落などを通じて銀行問題に波及してきます。これは、現状ではスペインが注目されていますが、今後もっと大きな拡がりをみせていく可能性が高いのではないかと思います。その点で、欧州問題のより本質的な部分は、実はソブリン問題というよりは、民間経済の弱さであったり、競争力の低下であったり、民間経済の抱えている潜在的な過剰債務の問題であったり、資産価格の行き過ぎであったりと、むしろ、より本質的な問題がこれから表面化してくるという点で、欧州問題はまだまだ長期化すると思います。それは日本の実体経済と、場合によっては金融システムの不安定要因にもなってくるという点で、長きに渡って注視しなければならないと考えています。

§21Question

2 点ほど伺いたいのですが、お二方から、これまでの日銀の政策に対する評価についてのご発言がありましたが、既に、ゼロ金利の制約下、打てる手段が相当限られているかと思います。これ以上金利は下げられない、あるいは基金の額を積み増すにしても国債の額をどんどん増やすわけにもいかないと思いますが、逆にどういった政策を打つべきなのか、さらにリスク資産を買うべきなのか、色々な考え方――以前から、お二方がアナリストの立場で示されていると思いますが――、改めて委員就任にあたってお考えになっている新たな政策手段について―― 先程木内委員からも今までの政策を総括して新しい方法を考えるべきだというお話がありましたが――、伺いたいのが1 つです。もう 1 点は、マーケットとのコミュニケーションですが、2月の物価安定の目途の導入以降、マーケットの緩和期待と日銀の姿勢とに多尐ギャップが出て色々な批判も出ていましたが、その点について、お二方がどのようにお考えで、どうあるべきだと考えていらっしゃるのか、お聞かせ下さい。(佐藤委員)まず、ゼロ金利制約下の金融緩和手段ということですが、確かにおっしゃる通り、採れる手段は極めて限られているかと思います。

§22Question

そういう中で、私なりに政策効果という観点から採り得る手段を整理してみると、ゼロ金利制約ということで、名目金利はゼロ未満には下がらないわけですから、実質金利を引き下げていく政策が必要かと考えています。それは、先程木内委員からもご指摘がありましたように、期待インフレ率に訴えかけていく、期待インフレ率を引き上げていく、それによって実質金利の引き下げを図っていくということかと思います。では、どのようにしたら期待インフレ率を上げることができるのかということですが、これはなかなか難しい問題です。例えば、今やっているように、国債をひたすら買いまくっていけば期待インフレ率が上がるのかということですが、現状では、例えば残存期間が2年あるいは 3年の国債を大量に買い入れたところで、市場の期待インフレ率に働きかけるどころか、むしろ 5年までのカーブがどんどんフラット化しているという状況ですから、現状では、今のところ効果としては逆に出てきていると思います。そういう中では、採り得る手段としては、例えば、資産買入れを多様化していくということで、これまでも各方面から提案が出ていますが、例えば、岩田前副総裁が提唱しているような外債買入れということも一案かと思います。

§23Question

これは、財務省とのすみ分けというところで、フィージビリティの面で色々と問題があることは十分理解していますが、為替操作を目的とした外債買入れということではなく、資金供給を増やすための外債買入れと位置づければ、そのあたりの問題というのはクリアできるのではないかと考えています。ただ、このあたりは法律論あるいは手続き論、それから諸外国の財政当局との関係ということも絡んできて、色々とクリアすべき関門は非常に多いと思います。これから勉強して、どういったところがフィージビリティの点で問題になり得るのか、見て参りたいと思います。あとは、一段のリスク資産の買入れということです。既にETFあるいはJ-REITの買入れを進めているわけですが、例えば、よりリスク性の高いものにシフトしていくことも一案かと考えています。2 番目の質問で、マーケットとの対話でギャップがあるのではないかということですが、これは、昨日まで民間エコノミストとして私もマーケットの一員でしたので、そういう中で、若干感じているところです。2月14日のインフレ目標の設定ということですが、その後、果たして日銀は本気なのかどうかというところが、投資家の最大の関心事であったと思います。ただ、3月に次の一手が出てこなかった―― 4月は出てきましたが――、そういった中でマーケットあるいは投資家の期待もだんだん萎んでいったということかと思います。

§24Question

また、強力に金融緩和を推進するという2月のステートメントですが、これは5月には一旦剥落してしまったということで、そのあたりの情報発信のやり方をみて、マーケットとしては、日銀の情報発信の一貫性、あるいはスタンスの一貫性というところに若干疑問を持っているかと思います。強力な金融緩和を推進するという文言、これは形を変えて 6月には復活したわけですが、ただ、詳細にみると、現在完了形のような形になっています。すなわち、強力に金融緩和を推進してきた、これからは適切な金融政策運営に注力するといったようなことが書かれているわけですが、これだと、やはりマーケットとしては、強力な金融緩和はもう終わってしまったのかと受け止める可能性もあるかと思います。そういう点で、情報発信の一貫性というところは、今後大きな課題になってくると思いますし、私も、実際に中に入りましたら、マーケット参加者は果たしてこういうステートメントを出せばどういう反応をするのか――日銀流に言うと、おそらく政策反応関数ということになるかと思いますが――、そういったところを、市場参加者の目線でボードの方々に提言していくことができるのではないかと思います。(木内委員)今後の政策についてですが、こういった新しい政策をすべきだというのをこの場で申し上げるのは控えるべきかと思っています。

§25Question

先程申し上げましたが、今の資産買入れなどを中心とする包括的な緩和の評価ができていないということです。それが十分な効果を上げているということであれば、その延長線上で、国債やリスク資産――特にこれはETFが中心になると思いますが――の買入れを進めていくことが妥当だという判断になるでしょう。あるいは、今の包括緩和は十分な効果を上げていないということであれば、また新たな政策を考えなくてはいけないということです。現状では、その判断がまだできていませんので、今後考えを深めていきたいと思っています。ただ、漠然と考えているのは、為替の安定というのはやはり重要で、これは日本銀行だけの業務ではもちろんないということです。政府、財務省と協力して為替の安定に従来以上に関与していくというのが、ある意味新たな政策のフロンティアではないかと、非常に漠然と今は思っています。それから2 番目のマーケットとのコミュニケーションという点ですが、やはり、多尐2月以降の状況をみると、日本銀行とマーケットの受け止め方の間に乖離があったり、混乱があったりということも、もしかしたらあったかと思います。これは佐藤委員も指摘されていましたが、一貫性というところで、1 つは 2月の物価安定の目途についてみると、内外の市場の受け止め方には、かなり乖離があったと思います。

§26Question

「Goal」という言葉と「目途」という日本語から受けるニュアンスにかなり乖離があって、海外では非常に強い積極緩和期待が急激に強まってしまい、内外でダブルスタンダード的になってしまったのではないかという見方が市場にあったことは確かであり、ある種の混乱が起こったのかと思います。それからもう 1 つの一貫性というのは、やはり時間軸でみた一貫性であり、非常に強い 1%の物価安定の目途達成に向けた強い姿勢がみえたと思ったら、尐しトーンダウンしたような印象を市場に与えたということです。実際はそういうことを意図して情報発信したわけではないと思いますので、市場が一貫した姿勢を日銀から感じ、受け取ることが重要だと思いますし、もし、そこにやや誤解があるのであれば、情報発信の仕方というのを工夫できたらと感じています。

§27Question

お二方に伺います。日銀の現在の国債の買入れ規模とペースですが、年間で43 兆円くらいに達しているということで、日銀は、5月以降、マネタイゼーション懸念ということを割と頻繁に発信するようになっていますが、例えば先程、佐藤委員がおっしゃった岩田先生など、マネタイゼーションの「マ」の字もあまり心配されていない方もいらっしゃると思います。その国債の買入れについて、今後、ある種の天井があるというか、マネタイゼーション懸念をお感じになるのか、ご見解をお願いします。(佐藤委員)マネタイゼーションという言葉の定義をもう尐し明確化する必要があるかと思います。日銀は現在、マーケットから間接的に国債を買い入れているということですが、これがマネタイゼーションなのかどうかというと、私は、量の多寡に拘らず、これはマネタイゼーションではないと思います。マネタイゼーションとは、狭義の意味では、やはり国債の直接引受けということかと思います。直接的に政府から買い入れる、それから間接的にマーケットから買い入れる、これらは、似たように見えて、その経済効果としては大きな開きがあるということです。政府から直接買い入れるというのは、要は、政府預金口座に日銀がクレジットすることになり、これは文字通りプリンティング・マネーということかと思います。

§28Question

マーケットから間接的に買い入れるということ、これはマーケットのカウンターパート、主に銀行になると思いますが、その銀行の日銀当座預金にクレジットしていくということであり、これはマーケットというフィルターを通しているという点で、狭義のマネタイゼーションとは大きな開きがあるものだと思います。そういう点で、現在の政策がマネタイゼーションに近付いてきていると私は特に考えていません。それから、敢えて付け加えておくと、やはり国債の直接引受け、これは、財政規律の観点から厳に避けるべきだと考えています。(木内委員)現状では大きな問題になっているとは思ってはいませんが、国債の買入れが財政の規律を緩めることにならないかどうか、そういうリスクを常に意識して政策を運営しなければならないのではないかと思っています。つまり、日本銀行が大量に日本国債を買うことによって、政府がそれに甘んじて財政規律が緩み、安易に財政環境を悪化させてしまうことにつながってしまった場合には、財政環境は一段と悪化しますし、場合によっては金利が上がるという形で日本経済や金融システムの安定に悪影響を及ぼす、こういったリスクは、今後も常に考えなくてはいけないのではないかと思っています。ただ、足許では、財政再建の動きが、まだ分かりませんが、比較的強まる方向になっていると思っています。

§29Question

消費税の引き上げ、あるいは社会保障制度の一体的な改革の中で、もし中期的に財政改善の方向がしっかりと強まっていくということである場合には、財政リスクを高めずに国債を買う余地が追加的に生まれるのではないか、とも思っています。従って、やや中期的に金融政策運営を考える上では、やはり、政府の財政再建という政策がしっかりと進んでいくかどうかにより、政策のオプションが変わってくるということが、非常に重要なテーマになっていくのではないかと思っています。以上