総裁定例記者会見(2012年8月9日)要旨
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§1Question
本日の決定会合のポイントをご説明下さい。
§2Masaaki Shirakawa
本日の決定会合では、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。こうした決定の背景となる経済・物価情勢について、ご説明します。まず、海外情勢をみると、米国経済は、企業マインドなどに弱めの動きがみられる一方、個人消費が底堅い動きをみせ、住宅市場にも持ち直しの兆しがみられるなど、全体としては緩やかながら回復基調を続けています。他方、欧州経済は、停滞した状態が続いており、ここにきて家計や企業のマインドの悪化が周縁国からコア国へ波及しつつあります。中国経済は、金融緩和などの政策対応の効果が内需の一部にみられ始めていますが、欧州向け輸出の落込み等から、減速した状態がやや長引いています。このように海外経済は、緩やかながら一部に改善の動きもみられていますが、欧州債務問題の悪影響を主因として、全体としてなお減速した状態から脱していません。次に、わが国の景気ですが、外需はやや弱めの動きとなっているものの、国内需要が復興関連需要などを背景に堅調に推移していることから、全体として「緩やかに持ち直しつつある」という前月と同様の判断をしています。国内需要面では、公共投資が明確に増加を続けています。
§3Masaaki Shirakawa
また、設備投資は、最近公表された各種のアンケート調査からも確認できるように、企業収益が改善するもとで、緩やかな増加基調にあります。個人消費は、消費者マインドの改善傾向に加え、自動車に対する需要刺激策の効果もあって、緩やかな増加を続けているほか、住宅投資も持ち直し傾向にあります。この間、輸出は、欧州向けの減尐等から、持ち直しの動きが緩やかになっており、鉱工業生産も足許弱めとなっています。経済主体の支出・投資活動を支える金融環境は、日本銀行の強力な金融緩和を反映して緩和した状態にあります。すなわち、コールレートが極めて低い水準で推移する中で、企業の資金調達コストは、貸出金利を中心に緩やかに低下しています。CP市場では、良好な発行環境が続いています。社債市場の発行環境についても、これまで起債が見送られてきた電力債も相次いで発行が再開されるなど、総じてみれば、良好な状態が続いています。また、企業からみた金融機関の貸出態度や資金繰りなど企業を巡る金融環境指標は、2000年以降の平均を上回る水準まで改善しています。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、このところ、概ねゼロ%となっています。わが国経済の先行きについては、国内需要が引き続き堅調に推移し、海外経済が減速した状態から脱していくにつれて、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。
§4Masaaki Shirakawa
物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、当面、ゼロ%近傍で推移するとみられます。以上のような見通しには、様々な不確実性が存在することは十分認識しています。欧州債務問題については、スペインの金融システム支援などを巡って一定の前進がみられたことは事実ですが、欧州域内の支援体制や財政・経済構造改革を巡ってなお不透明感の強い状況が続いています。こうしたもとで、スペインやイタリアなどの国債利回りが高止まりを続けるなど、国際金融資本市場では神経質な動きが続いています。欧州債務問題は既に世界経済に大きな影響をもたらしており、この点は私どもの経済・物価見通しにも既に織り込んでいるところですが、この問題がさらに深刻化し、国際金融資本市場の動揺、ひいては世界経済の一段の下振れにつながるリスクについては、引き続き、最も意識しておくべきと考えています。中国経済についても、インフラ投資や不動産販売など内需の一部で改善の兆しがみられ始めているとはいえ、欧州向け輸出の弱さが続く中で、減速局面がさらに長引くことはないかどうか、注意してみていく必要があります。このほか、米国経済についても、いわゆる「fiscal cliff(財政の崖)」の問題を反映し、財政政策の先行き不透明感が強い状態が続いており、その回復力に引き続き注意が必要です。
§5Masaaki Shirakawa
日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することが極めて重要な課題であると認識しています。この課題は、幅広い主体による成長力強化の努力と金融面からの後押しの両方が揃って初めて実現されていくものです。こうした認識のもとで、日本銀行は、成長基盤強化を支援するとともに、強力な金融緩和を推進しています。今後とも、資産買入等の基金の着実な積上げを通じて間断なく金融緩和を進めていきます。日本銀行としては、引き続き適切な金融政策運営に努めていくとともに、欧州債務問題を背景に神経質な動きが続いている国際金融資本市場の状況を十分注視し、わが国の金融システムの安定確保に万全を期していく方針です。
§6Question
海外経済の下振れで日本の輸出回復の時期が後ずれするのではないかとの見方がありますが、総裁の見解をお聞かせ下さい。
§7Masaaki Shirakawa
海外経済あるいは輸出の動きですが、実質輸出を四半期ベースでみると、4~6月は 3 四半期振りの増加となりました。もっとも、月次でみると、5、6月と 2 か月連続の減尐となっており、こうした動きには、欧州債務問題の悪影響を主因とした海外経済の減速が影響していると考えています。地域別にみると、欧州向け輸出は、債務問題の影響を背景に減尐しているほか、米国向けは、自動車関連の在庫復元の動きの一巡もあって増勢一服となっています。また、中国向けについては、中国の欧州向け輸出の弱さも間接的に影響し、低い伸びにとどまっています。先行きの輸出を規定する最も大きな要因は、言うまでもなく海外経済の動きです。この海外経済の先行きを展望すると、欧州経済は、停滞した状態が暫く続くと考えられます。一方、米国経済については、いつも申し上げている通り、高い成長は期待できないと考えていますが、家計のバランスシート調整が徐々に進捗し、緩和的な金融環境にも支えられて、回復が続くと考えられます。また、中国経済についても、目先、成長ペースが鈍化した状態は続くと考えられますが、その後は、インフレ率の低下に加え、金融緩和やインフラ投資の前倒しなどの政策効果が次第に発現し、かつてのような 2 桁成長といった高成長ではないにせよ、成長ペースはそれなりに高まっていくと考えられます。
§8Masaaki Shirakawa
このように、海外経済が減速した状態を脱していくにつれて、わが国の輸出は緩やかに増加していくと考えられます。もっとも、先程申し上げた通り、欧州情勢の不安定な動きが続く中で、米国経済や中国経済の回復力については、回復の時期を含めて不確実性が小さくありません。日本銀行としては、こうした不確実性も十分認識しながら、先行きの経済・物価動向やリスクの点検を丹念に行っていく方針です。
§9Question
本日決定された成長支援資金供給の延期について、その理由をご説明下さい。
§10Masaaki Shirakawa
成長支援資金供給の米ドル特則については、初回の資金供給を 8月30日にオファーし、9月6日に実行する予定で実務作業を進めてきました。米ドル特則については、支援対象である民間金融機関による外貨建て貸付けの多くがLIBORをベースレートとする変動金利で行われているという実態を踏まえ、 LIBORを貸付金利として適用することとしていました。しかし、LIBORを巡り関係者の間で議論が行われている情勢であることや、市場における中央銀行の役割も踏まえ、実施日をいったん延期することが適当と判断しました。日本銀行としては、秋口にかけて進展が予想されるLIBOR改革を巡る議論も踏まえ、米ドル特則の第1 期貸付を早期に実施したいと考えています。
§11Question
昨日、民主党・自民党・公明党が、消費税増税を含む一体改革の法案成立とその後の解散について合意しました。これについて、どう受け止めているかということと、消費増税の成立が確実になったことが日本経済に与える影響について、どのようにご覧になっているか、ご見解をお聞かせ下さい。
§12Masaaki Shirakawa
まず、政治情勢自体に関しては、中央銀行総裁という立場で具体的にコメントすることは差し控えたいと思います。あくまでも一般論として、財政健全化への取組みについてお話をしたいと思います。財政改革については、いつも申し上げている通り、日本経済にとって重要な課題の 1 つです。財政の持続可能性が維持されること、それに対する信認が確保されることは、物価の安定、金融システムの安定の基礎的で最も大事な条件です。そうした意味で、かねてから申し上げていますが、財政の健全化に向けた努力はより重要であると、改めて申し上げたいと思います。
§13Question
LIBORについて、前回の記者会見からお立場や見解は変わらないとは思いますが、改めて、不正操作が起きたこと自体、および、これから議論になっていく制度設計についてのご見解をお聞かせ下さい。
§14Masaaki Shirakawa
LIBORは、金融市場における重要な金利指標であり、デリバティブ取引を含め、様々な取引がこの指標を用いて契約されています。この点、今回指摘されている金融機関内部での不正操作の働きかけは、金融市場の公正性に対する人々の信頼を失いかねない重大な問題であると認識しています。まずは、金融機関において、こうした不正を防止できるような体制を確保すること、そして、金利指標の作成に関わる諸機関が、指標の信頼性を担保できる枠組みを整えることが、金融市場への信頼確保にとって重要だと考えています。その上で、金利指標を考える際には、そもそも「金利の実勢」をどのように定義し、把握するのかという基本的な問題があると考えています。例えば、リーマンショック後の国際金融市場あるいは足許のユーロの資金市場のように、市場の緊張度が高まり、取引が細っている状況では、そもそも「金利の実勢」というものを定義することが難しくなるほか、仮に取引が薄い状況において、実際の取引データに基づいた金利を市場実勢とみなす場合には、個別性が強くなり、指標性としての問題が生じる可能性もあります。また、仮にLIBORの作成過程を見直す場合や、代替する指標を導入する時には、既存の取引への影響などについても考慮する必要があります。
§15Masaaki Shirakawa
いずれにせよ、こうした論点も含めて、現在、関係者の間で検討が行われており、日本銀行も含めて各国の中央銀行や規制監督当局の間でも議論が行われていく予定です。日本銀行としても、市場における指標金利のあり方には重大な関心を持っており、中央銀行の立場から議論に積極的に貢献していきたいと考えています。
§16Question
LIBORに絡んで、邦銀の関与の疑いも出てきているようですが、日銀として、何か情報収集したり、対策を採ったりということはあるのでしょうか。それからもう 1 点質問です。本日は、3月以来 9 人揃っての議論となった決定会合であり、多様な意見が出たと思うのですが――どのような議論だったかは言えないでしょうが――、総裁はどういった印象を持たれたか、お伺いします。
§17Masaaki Shirakawa
まず、LIBORの件に関しては、現在、関係当局による調査が続けられている段階と理解しており、私の立場からコメントすることは適当ではないと思います。その上で申し上げると、先程の質問への答えと多尐重複しますが、LIBORは、金融市場における重要な金利指標であり、金融機関内部での不正操作の働きかけは、金融市場の公正性に対する人々の信頼を失いかねない重要な問題だと認識しています。金融機関において、こうした不正を防止できるような体制を確保するとともに、金利指標の作成に関わる諸機関が、指標の信頼性を担保できる枠組みを整えることが、重要だと考えています。次に、新しい審議委員が加わっての印象についてのご質問です。ご質問された方がおっしゃった通り、議論の中身については、1 か月後に公表される議事要旨をご覧頂きたいと思います。これまでも 7 名の委員のもとで活発な議論が行われてきましたが、今回、日本銀行法が本来想定している9 名の政策委員が全員揃い、そのもとで活発で実りの多い議論が行われたと思います。新しく就任されたお 2 人とも、中央銀行の金融政策に責任を有する政策委員としてのバランスのとれた意見を述べられ、政策委員会の活発な議論に貢献されていたという印象を持ちました。
§18Question
政局のことはあまりコメントできないということですが、一連の政局の動きによって長期金利が上下したり、市場にも影響を与えていますが、そうした状況について、何かご見解があればお願いします。
§19Masaaki Shirakawa
長期金利の動きについてみると、日本および米国、ドイツ、英国等の先進国の長期国債金利は、欧州債務問題が厳しい情勢を続ける中で、「質への逃避」、安全資産選好によって、全体の金利が低下しています。日々の欧州債務問題を巡るニュースを反映して、ある時はリスク・オン、ある時はリスク・オフという形で変動していますが、大きな流れとしてみると、今、そういう情勢の中で、日本も含めた主要国の長期金利が低下していると思います。やや長い目でみた日本の長期国債金利に関するご質問ということでお答えしますと、どの国も、財政赤字を無限に続けることはできません。最終的に、財政の健全性確保に対する信認が確保されることが不可欠です。この点、日本の長期国債金利が低いということは、日本の国民は最終的に財政改革に向けて取り組む意志と能力を有していると、市場参加者や投資家が信頼しているということだと思います。それだけに、それを具体的に担保していくべく財政再建に取り組んでいくことと、中央銀行が、物価安定のもとでの持続的成長に向けて、金融政策をしっかり運営しているという信頼が大事だと思っています。
§20Question
前回の決定会合で、札割れ対策として一定の政策を講じていたわけですが、その後も8月1日に長期国債の買入れオペで札割れが発生するなど、まだ問題があるように見受けられます。基金残高の積上げ目標を確実に実施していくために、追加的な札割れ対策を講じるお考えがあるかどうか、お聞かせ下さい。
§21Masaaki Shirakawa
まず、札割れが生じている背景ですが、今申し上げた通り、主要先進国の長期国債利回りが、欧州債務問題を背景とする「質への逃避」もあって低下しており、そうしたもとで、わが国の国債利回りは、日々の振れはあるものの低下しています。このように、国債利回りが低下する中で、国債の売却を控える先がみられたことから、8月1日にオファーした資産買入等の基金の長期国債買入れは札割れになったわけです。金融機関の応札行動は、今申し上げたグローバルな金融市場の動向を反映した国債金利の動向に加えて、個々の金融機関のポートフォリオの内容や投資方針などにも依存して変化します。市場の状況は日々変動するわけですが、現状において基金の積上げが困難となっているわけではなく、長期国債買入れの下限金利撤廃が必要な状況ではないと考えています。いずれにせよ、日本銀行としては、基金の着実な積上げを通じて、既に発表している残高目標を達成していく方針です。
§22Question
先程の質問と重なるところがありますが、7月の札割れ対策と、その直後に出された輪番オペの 1年以下の下限金利撤廃は、市場への緩和効果があったのか、どのようにご覧になっているのか教えて下さい。総裁は、前回の会見では、札割れ対策の緩和効果の有無はやってみないと分からない、とおっしゃったと記憶していますので、改めてお伺いします。また、仮に、ある程度は緩和効果があったと認められる場合には、今後、下限金利撤廃は緩和策の1 つの手段、オプションになり得るのかについても、ご見解をお願いします。
§23Masaaki Shirakawa
前回、短期国債の買入れについて下限金利を撤廃し、あわせて、銀行券見合いの長期国債買入れオペのうち、1年以下のオペについて下限金利を撤廃しました。特に、その中心となる短期国債の下限金利撤廃は、オペに対する札を十分確保する上で有効であったと評価しています。それから、金利の動きですが、もちろん、資金供給を含めて、日本銀行の行う様々なオペレーションが金利に影響を与えていくことはあるわけです。そういう意味で、全く整然と、「札割れ対策」と「金融政策」を明確に分けられるわけではありません。しかし、前回の措置については――前回もご説明しましたが――、主として、既に私どもが発表している基金の買入れという目的を実現するための手段として対策を講じたものです。
§24Question
7月25日に山口副総裁が広島の講演で発言した言葉で、「私どもが当面の目途として目指している 1%には、2014年度以降、遠からず達すると考えています」という表現があるのですが、これは、あと約2年近い間、金融緩和を実行しても 1%には達しないという理解で良いのでしょうか。また先程、消費税の質問で、消費税増税をすることで財政健全化に資するという話があったと思いますが、デフレ下で消費税増税をしても税収は伸びないという意見もあるのですが、これに関してはどうお考えでしょうか。
§25Masaaki Shirakawa
1 問目ですが、日本銀行は、先月、展望レポートの中間評価を行いました。消費者物価(除く生鮮食品)について、2012年度は+0.2%――4月時点での見通しが+0.3%でしたから、ごく僅かに下方修正していますが、いずれにしてもほぼ同じ数字です――、2013年度は+0.7%でした。2014年度は、数字での見通しは公表していませんが、「遠からず1%に達する可能性が高い」という見通しを公表しました。包括的な点検作業は四半期毎に行っていますが、今回の決定会合では、現在、景気・物価の基本的なシナリオを変える必要があるとは判断していません。私がご質問の趣旨を正確に理解しているかどうか分かりませんが、長い先の物価を理解していく時には、やはり、物価を巡る大きな環境をしっかり押さえていく必要があると思います。物価の動向を規定する最も大きな要因は、やはり何といっても需給ギャップだと思います。先月発表した成長率の見通しをみると、潜在成長率を上回っているので、需給ギャップは縮小していく方向にあります。実際、過去の物価動向をみても、2009年8月に過去最大の落込み幅であるマイナス 2.4%を記録し、その後はマクロの需給バランス改善を反映し、概ねゼロ%まできています。そういう意味で、先々を展望する上では、需給ギャップの動向から、改善していく方向にあると考えています。
§26Masaaki Shirakawa
また、必ずしも需給ギャップにはうまく反映されませんが、労働需給が徐々に改善するもとで、最近は賃金も下げ止まってきています。中国の賃金上昇等を背景に、以前ほど安値輸入品の流入は目立っておらず、輸入コストは上がってきていることもあります。それから、企業の価格戦略において、他との差別化を意識した商品開発を行う傾向が強まっています。そうした大きな物価を巡る環境を意識して、先程申し上げた判断になっています。もちろん、先行きの物価情勢を巡る様々な不確定要因がありますので、注意してみていきたいと思っています。もう1 つは、デフレ下での税収についてのご質問です。これは、「デフレ」という言葉の定義にも依存すると思います。「デフレ」という言葉は、「物価が継続的に下落する」という意味で使われるケースもありますし、「景気が悪い」という意味や、「資産価格が下落する状況」を表す言葉として使っているケースもあるなど、色々な意味で使われています。過去 20年間の歳入あるいは歳出を、物価、あるいは実質成長率との関係でみると、非常に興味深い事実が観察されます。まず、歳入について、GDPデフレーターとの関係でみると、GDPデフレーターの伸びと名目の歳入の伸びは、実はあまり相関関係がありません。一方、実質成長率と歳入の伸び率には、明確な正の相関関係があります。歳出については、物価上昇率が上がるケースでは増える。
§27Masaaki Shirakawa
それから、実質成長率が高まっていく、景気が良くなっていく時には、全体として歳出の伸びは低下し、景気が悪くなってくると、公共事業など様々な支出、歳出が増えていくという関係があります。現在の歳入と歳出のバランスを考えると、もちろん、歳出の方が多くなっています。そういう意味で、財政バランスについてみると、実質的に成長率が高まっていく時には、財政バランスが改善していくことになります。そして、実質的に成長率が高まっていく時には、需給ギャップが小さくなり、物価が上がってくることになり、それはそれで歳入に対してプラスの影響を及ぼすと考えています。ご質問は「デフレ下で」ということでしたが、一番大事なことは、成長率が高まっていくもとで、経済の体温も上がり、物価も上がっていくという経済では、歳入が増えてくるということです。
§28Question
欧州問題に関連して、先週、ECBがスペインを念頭に、国債買入れを再開すると表明しましたが、これに対する評価をお聞かせ下さい。また、同時にECBは、EFSF等の救済基金が動かない限り、買入れを再開しないことも表明していますが、 ECBおよび各国の現状の対応のスピードは十分だとお考えかどうか、あわせてお伺いします。最後に、ユーロ圏の状況は、秋口にかけて、ますます悪化するとの見方もありますが、こうした見方についてのお考えをお聞かせ下さい。
§29Masaaki Shirakawa
欧州債務問題について、幾つか非常に難しいご質問をされたと思いますので、尐しまとめてお答えしたいと思います。最近の欧州経済をみると、周縁国では、財政、金融システム、実体経済の間の負の相乗作用が作動しており、貸出の減尐や失業率の上昇に歯止めがかかっていません。それから、先程申し上げた通り、最近は周縁国の影響がコア国の企業マインドにも波及しつつあります。国際金融資本市場では、欧州債務問題を巡る不透明感が払拭されず、スペイン国債利回りが一時 7%を超えるなど、神経質な動きが続いています。この間、銀行間の資金調達市場は、ECBによる潤沢な資金供給もあって、総じて安定が維持されています。ご質問は、ECBによる周縁国国債の買入れについてですが、ドラギ総裁が記者会見で述べているように、まだ詳細は発表されていません。そういう意味で、直接コメントすることは、なかなか難しいと思いますが、一方で、金融市場の安定を維持するために、こうした取組みを行うというECBの考え方は十分理解できると思います。同時に、中央銀行の流動性供給だけでは、問題を抜本的に解決することはできないということも、かねて申し上げている通りです。ドラギ総裁も指摘しているように、欧州当局者は、「強い意志」を持ってこの問題に取り組む必要があると思います。
§30Masaaki Shirakawa
ご質問は、今後どうなっていくのかという見通しの方に重点があったと思いますが、見通しを語るよりは、今後、ユーロ圏の当事者がどういうことに取り組む必要があるか――それによって、その後の展開自体も変わってくると思います――、を申し上げることによって、ご質問にお答えしたいと思います。第1 に、周縁国においては、抜本的な財政再建、労働市場改革や金融システムの安定・強化などの構造改革を進めていくことです。最近、スペインなどでは、財政健全化や構造改革に向けた動きが進展しつつありますが、こうした取組みをより迅速かつ着実に実施していくことが望まれます。その際には、金融市場や金融システムの緊張が高まるリスクに備えて、欧州安定メカニズム──いわゆるESM──を早期に立ち上げるとともに、必要に応じ果断に活用していくことも重要です。第2 に、欧州全体として、ユーロ圏をより安定した経済・金融圏として再構築・強化していくことです。現在、欧州では、「銀行同盟」への取組みの一環として、域内単一の金融監督メカニズムの創設に向けた検討が進みつつあり、この設立を条件に、ESMが金融機関に対して直接資本を注入することを可能とする方針です。さらに、ユーロ圏各国の財政規律強化も進展しており、将来の「財政統合」に向け、EU当局は、具体的かつ明確な期限を設けた工程表の作成に取り組んでいます。
§31Masaaki Shirakawa
これらの論点は、いずれも解決すべき多くの課題を抱えており、短期間で合意を形成することが難しい面はありますが、ドラギ総裁を始め、欧州当局の関係者は「ユーロは後戻りしない」と繰り返し指摘して、この問題に取り組んでいます。私としても、欧州各国は、問題解決に向けた意志と能力を有していると信じています。欧州当局者による迅速かつ着実な取組みに強く期待しています。
§32Question
LIBOR改革について伺います。不正がないようにしようとすれば、大きな制度の変更が必要かもしれない一方で、大きな制度変更をすると前の指標と新しい指標とで食い違いが生じ、デリバティブの世界に混乱が起きるかもしれないというジレンマがあると思いますが、総裁としてはどちらを重視されていますか。私は、デリバティブの世界の混乱に尐々目を瞑ってでも、ちゃんとやらないと、二度と誰も信じてくれないと思うのですが、如何でしょうか。もう1 つは、BISで秋にLIBOR改革の議論があるかと思いますが、おそらく英国や米国から提案があるかと思いますが、日本としては、それを聞いて吟味するだけなのか、それとも日本として具体的に提案する用意があるのかについて教えて下さい。
§33Masaaki Shirakawa
先程、LIBOR改革を巡る論点を幾つか申し上げました。それらの論点はそれぞれ重要であり、これらの論点を踏まえた上で、最適な解決策、改革案を探し出していくということを、まずは各国の金融機関、各国の中央銀行、当局が、知恵を出し合って考えていく性格の問題だと思います。私としては、これから行われていく様々な議論を踏まえ、また、先程申し上げた論点を踏まえ、最適なスタンスで臨みたいと思っています。それから、日本銀行でも、どういう方法が望ましいのかについて、もちろん内部で色々な検討は行っています。世界の金融機関も、そうした検討を行っています。いずれにせよ、これは非常に複雑な問題ですから、日本銀行だけではなく、知恵をお互いに集め、最適な解を見つけ出していく、作り出していくという精神が大事だと思っています。
§34Question
声明文の中で、わが国の金融環境について、前月までは「緩和の動きが続いている」というところが、今月は「緩和した状態にある」と、現在形というか過去形に変わっています。これは、今までやっている緩和の効果がかなり出てきており、これ以上さらに 70 兆円まで基金残高を増やすことは、なかなかそこまでやる程は必要ないという意味合いが滲み出ているのでしょうか。
§35Masaaki Shirakawa
そのような意味合いは、全く滲み出ていません。本年末までに 65 兆円程度、来年6月末までに 70 兆円程度という基金残高の目標は、はっきり書いてあります。先程申し上げたことの繰り返しになりますが、基金残高の目標を達成していくという私どもの方針は全く変わっていません。
§36Question
欧州問題が日本経済の最大のリスクだと総裁はおっしゃっています。これは所詮外的な要因だと思いますが、この外的な要因に対して、政府・日本銀行として一体何ができるのか。例えば、今年の 10月に東京でIMF・世銀総会も開かれて、そこで各国当局も集まるわけですが、こういった場で、問題が世界経済に波及しないように国際協調を打ち出すとか、そういったことも考えられると思うのですが、政府・日銀として、このIMF・世銀総会の場を通じて、欧州問題に対してどういった働き掛けや議論をしていくのか、またはそのような問題が一連の国際会議の主要議題になるのか、総裁のお考えをお聞かせ下さい。2 点目は、札割れが相次いでいることについて、正直言って、金融政策に尐し手詰まり感が出ているという感じもあります。例えば、最近、外債購入論などが出てくるのも、「ハードルが高いことは分かっているが、なかなか他に手立てが見つからない」という手詰まり感の反映ではないかと考えられます。包括緩和という枠組みに、尐し手詰まり感があるのか、総裁の見解をお聞かせ下さい。
§37Masaaki Shirakawa
まず、欧州債務問題という、外的要因に基づく経済の減速に対して、日本の政府、あるいは中央銀行として何ができるのかという問いです。今、IMF・世銀総会という話がありました。もちろん、IMF・世銀総会は非常に大事な会議ですが、その前にも色々な国際会議が目白押しです。9月上旪にはBIS総裁会議があります。それから、各国中央銀行の代理者レベルでの会合など、東京でのIMF・世銀総会を待たずに目白押しで予定されている国際会議も含め、必要な働き掛け、議論を行っていくことが大事であると思っています。確かに、欧州債務問題は外的な要因ですが、日本の不良債権問題もそうであったように、仲間内だけで議論するのと、外部の色々な意見を聞いて議論するのとでは、中身が変わってくることは大いにあり得るわけです。そういう意味では、日本銀行としては、いつも繰り返し、繰り返し、日本の経験に基づいて欧州の当事者に対して色々な問題提起を行っています。そうした問題提起は、今後も行っていく必要があると思います。それと同時に、中央銀行として非常に大事なことは、欧州債務問題がきっかけとなって金融市場が不安定化することがないようにすることです。今回の公表文の最後にも、そういう趣旨のことを書いていますが、そうした構えにあることを、改めて強調したいと思います。
§38Masaaki Shirakawa
2 つ目の札割れの話ですが、これはある種の「手詰まり感」の表れとおっしゃったわけですが、この札割れという現象自体は、日本銀行による金融緩和がそれだけ強力に浸透していることの表れだと思います。例えば、3年以下の期間で、ECBの長期資金供給オペ(LTRO)による無制限の資金供給に対して、あれだけの金融機関が応募してきています。日本銀行も、残存期間3年以下の国債も買っていますが、時として札割れが起こることは、実は金融機関には、もう十分に資金があるということであり、それだけ日本銀行による金融緩和が強力だということの証だと思っています。その上で、「手詰まり感」とおっしゃったことの意味合いは、こうした金融環境が支出や投資活動の増加に繋がっていくことをどう実現していくのか、という点にあるように思います。それを「手詰まり感」という言葉で表現するのももちろん 1 つの方法ですが、私としては、それは「手詰まり」と考えるのではなく、前向きに捉え、成長力の強化にしっかりと取り組めば、経済が成長する余地が大いにあるということだと思っています。「手詰まり」と後ろ向きに考えるのはどうかと思っています。次に、外債購入についてです。これは、これまでも度々申し上げていますが、その目的が円高是正、円安誘導ということであれば、これは為替介入です。
§39Masaaki Shirakawa
日本銀行が為替レートの誘導を目的として外貨資産の買入れを行う場合には、政府の代理人として行うことが法律にはっきりと規定されています。そうした趣旨のことは、先般、財務大臣も国会で答弁されています。従って、今の外債購入論は、政府による外債購入はどうあるべきかという議論――これについては、色々な議論があるとは思いますが――として考えるべき話だと思います。お答えが尐し長くなりますが、IMF・世銀総会についてご質問があったので、この点について若干PRしたいと思います。IMF ・世銀総会は、10月9日から 14日に東京で開催されます。日本銀行は、財務省と協働し、かなりの資源を投入して、この準備を鋭意進めています。日本でこの総会を開催することは大きな意義があると考えています。第1 に、まさに今おっしゃったように、世界経済の不安定な状況が続くこのタイミングで、世界経済やグローバルな金融システムの現状や課題について、様々な角度から議論することに、大きな意義があると考えています。第 2 に、総会に参加するため、188 か国の財務大臣・中央銀行総裁を始め、世界の金融界の主要人物が、実際に日本を訪問されます。総会は、そうした出席者に日本経済に対する理解を深めて頂く絶好の機会になると思います。
§40Masaaki Shirakawa
私としても、この機会に、東日本大震災からの復興過程を含め、日本経済の状況について、しっかり説明をしたいと思っています。第3 に、総会開催の直接の目的ではありませんが、世界最大規模の国際会議であるIMF・世銀総会を東京で開催し、効率的な会議運営に成功することで、今後の日本への国際会議誘致に弾みがつくことも期待しています。総会では、主催国として、参加者に対し、日本文化に触れる機会や工場見学、被災地の訪問などのプログラムを提供する予定です。総会で取り上げるテーマは、先程おっしゃった欧州債務問題と国際金融市場の動向が中心になってくると思いますが、日本銀行としては、そうしたテーマに加えて、IMF・世銀と共に、アジア経済や中小企業金融等をテーマとする幾つかのセミナーを開催する予定です。例えば、アジア経済に関するセミナーでは、私自身のほか、ラガルドIMF専務理事や、米・中・インドの学者やビジネスリーダーがパネリストとなり、アジアの今後の成長見通しと政策課題、世界経済に果たすアジアの役割について議論を行います。こうした議論を通じて、積極的に貢献していきたいと考えています。
§41Question
2 点お伺いします。1 つは、欧州の危機が、米国、ドイツ、日本などの金利低下を促しているとおっしゃったと思いますが、欧州の危機は長期化しており、異常な事態が長期化するもとでのバランスが起きています。ある意味、長期金利の低下に皆が慣れていますが、これは異常な事態でのバランスなので、いつまで続くのか、その反動はどうかなど、色々不確定なことがあると思います。その点について、総裁はどのようにお考えなのか伺います。もう1 つは、この間、ドラギ総裁が、「自分の責務の範囲でできることは何でもしたい」という趣旨のことをおっしゃって以降、世界中の中央銀行の機能と、ある種の限界について、色々な人が色々なコメントをしているかと思います。欧州でやれることについては――先程、既に総裁がお答えになっていますが――、もう尐し一般的に、日銀の総裁として、日本の今の状況も踏まえ、今やっていることも踏まえ、中央銀行のできることと、中央銀行のある種の能力の限界について、一般の市場参加者がどう整理をしたらいいのか、お伺いします。
§42Masaaki Shirakawa
いずれも非常に難しい問いですが、第 1 問目は、先進国における非常に低い金利水準をどう考えるかという話です。現在の長期金利の低下には、安全資産選好が反映されていることは先程申し上げた通りです。私どもとしては、欧州債務危機が解決していくことを願っていますし、そのことは最終的には世界経済に対して、もちろんプラスの影響を及ぼしていきます。しかし、その過程では、安全資産選好の巻き戻し現象がまた起きてくるということで、金融システムあるいは金融市場に混乱が生じることも起こり得ます。そういう意味で、主要国の中央銀行は、いずれも、長期金利の動き、市場の動きについて、景気との関係だけでなく、長い目でみた金融システムの安定との関係も意識しながら、注意深くみていると思います。2 つ目は、中央銀行のできること、あるいはできないこと、というご質問です。ご質問された方が引用された通り、ドラギ総裁も、「中央銀行のマンデート(責務)の範囲内で」とおっしゃっています。私も、ドラギ総裁の発言に共感します。中央銀行は、無制限で流動性を供給できるという大変大きな力を与えられています。この力を、どういう形で使っていくのかについて、各国の中央銀行法では――表現は尐し違いますが――、金融システムの安定、物価の安定のために遂行していく、と規定しています。
§43Masaaki Shirakawa
現在の経済・金融環境に即して考えてみると、先進国の金利水準は、短期金利は概ねゼロ、長期金利も非常に低い水準にあります。もちろん、先程申し上げたように、長期金利については、留意事項はあります。長期金利について低下余地が全くないわけではありませんが、大きくみて長短金利とも非常に低い水準であることは明らかです。そういう意味で、金利低下による景気の刺激効果は徐々に限定的になってきているというのがエコノミストの間での共通の理解になっているように思います。一方、金融システムの安定をしっかり維持することは、現在の環境のもとでも、非常に大事だと思っています。あえて申し上げると、今のような欧州債務問題、つまり財政と金融システムと実体経済の負の相乗作用が心配される時、金融システムの安定性が本当に維持されるかが懸念される時、中央銀行のこの面での機能――これは流動性供給ですが――は大事であり、かつ、できることです。しかし、中央銀行のできないこととして、先程私が欧州について述べた様々な経済・財政の構造改革が挙げられます。これらは、しっかりと取り組んでいく必要があると思っています。流動性供給は、時間を買うことはできますが、本来必要となる構造改革の必要性をなくすものではありません。そのことについての認識を踏まえた上で、中央銀行として適切に行動していくことが大事だと思っています。
§44Question
尐し抽象的な質問になるのですが、市場との対話について伺います。マーケットは、常に日銀に対して金融緩和的な政策を求めています。ただ、いちいちマーケットの注文に応えて緩和的な政策はできないわけです。マーケットは、常に短期的な成果を求め、総裁から市場に対して非常に優しい言葉を求めているわけですが、総裁は往々にして、非常に正確に金融政策についてお話され、真面目に、真摯に話すことが、時に、マーケットからは「緩和的でない」と逆のベクトルで受け止められることもあるわけです。そういう市場との対話に関するジレンマについて、どうお考えなのでしょうか。時には、マーケットに対して、リップサービスのようなことも必要なのか、それとも、リップサービスあるいはマーケットの催促に応えて緩和的な政策を必要以上に打つことが、長い目でみると良くない結果を招くということなのか、その辺のジレンマについて、単に金融政策だけではなく、総裁としての発言の仕方も含め、どういうことをお考えか、お聞かせ下さい。
§45Masaaki Shirakawa
中央銀行の金融政策は、物価安定のもとでの持続的な成長を実現していくことが目標です。そういう意味では、本質的に、時間の長さは中長期的なものです。一方、「マーケット」という場合、その参加者には、非常に短期のタイムスパンで投資をなさっている方もいますし、非常に長期のタイムスパンで投資をなさっている方もいます。従って、今おっしゃった「マーケット」とは、短期から長期、超長期までを含めた全ての市場参加者かというと、必ずしもそうではなく、実は、より短期の市場参加者を意味しているケースもあるのではないかと思います。いずれにせよ、市場参加者のタイムホライズンは、金融政策のタイムホライズンに比べ、往々にして短いということは、現実問題としてあると思います。以前、この席でも申し上げましたが、かつてFRBの副議長を務めたアラン・ブラインダー氏が、中央銀行の金融政策の独立性について語った言葉があります。1 つは「政治からの独立性」、もう 1 つは「市場からの独立性」、という 2 つのことを言っておられます。長い目でみた経済の安定を図っていくという中央銀行の行動原理と市場参加者の行動原理が、時として衝突することについて、経験に基づいた議論展開をされています。私としては、何かリップサービスをするということではなく、中央銀行としての考え方をできるだけ分かり易く説明していくことが大事だと思っています。
§46Masaaki Shirakawa
自分自身の説明の仕方について、さらにどうすれば中央銀行としての考え方が正確に伝わっていくのか、これからもしっかり考えていきたいと思っています。いつも記者会見で色々な質問を受けて、その後、反芻をしながら、後から、「こう答えれば良かったかな」と思うこともよくあり、これからも、しっかり考えていきたいと思っています。
§47Question
1 つ確認させて下さい。下限金利の撤廃については、今、その必要はないとのことですが、資産買入等の基金の着実な残高積上げをしていく中で、また、強力な金融緩和をしていく中で、札割れが生じていった場合、やはり長国買入れの下限金利撤廃も辞さないということなのでしょうか。
§48Masaaki Shirakawa
決定会合では、毎回、市場の状況についても点検を行っています。繰り返しになって恐縮ですが、「札割れ」には、国際的な低金利環境のもとで、わが国の国債金利も極めて低い水準まで低下していることが影響しています。日本銀行としては、引き続き、そうした市場の状況や入札の状況等を点検しながら、資産買入等の基金の着実な積上げを進めていく方針です。
§49Question
先程、デフレの定義の話をされ、質問に対する答えが聞けなかった気がするので確認したいのですが、名目成長率が上がれば税収は上がるというようにお答え頂いた感じがしたのですが、そうすると、消費税の増税が、税収、財政改革に与える影響はあまりないというご理解なのでしょうか。また、消費税の増税で、政府は、3 党合意で、2%の成長という経済条項が付いたと思うのですが、日銀の見通しが 2014年までに 1%ですと、2%と 1%ということで、政府と 1%の乖離があるのですが、これは今後修正していく予定、あるいは政府と詰めていく方向があるのでしょうか。
§50Masaaki Shirakawa
すみません。最後の「1%の乖離」のところについて、もう一度ご質問の趣旨をおっしゃって頂けませんか。
§51Question
政府は、景気回復として 2%を掲げている一方、日銀の先程の話ですと、2014年までに 1%ほど持ち直すという山口副総裁の発言もあったと思うのですが、この 2%と 1%の乖離は、どう解消していくのか、お伺いします。
§52Masaaki Shirakawa
まず最初に、元々のご質問に対する私の答えの趣旨は――尐し長かったので、もう尐し簡潔にお答えします――、確かに名目GDPが増えると税収は増えるわけですが、「名目成長率の上昇が必要」と言うと、理屈上は、実質成長率が高まらなくても、物価上昇率が上がるだけで税収が増え、財政バランスも改善するというインプリケーションになりますが、そうではない、ということを申し上げたわけです。つまり、実質成長率が高まっていき、そのもとで物価が上がるという形で名目GDPの成長が実現する時には、財政バランスが改善するということを申し上げたわけです。その意味で、財政バランスが改善する時は、単に名目GDPの成長率が高まるだけではないということを申し上げたわけです。それから、消費税の増税が――これは、現在、国会で議論している最中ですが――、日本の景気にどのような影響を与えるかということです。消費税の増税で税収が上がりますが、これは他方で社会保障費として国民に還元されていくため、基本的にマクロでみた可処分所得自体が変わっていくものではないと思います。それから、消費税の増税は財政健全化に向けた取組みですから、これが放置された場合に起こるかもしれない長期金利の上昇という事態を防いでいく、あるいは人々の先行きに対する不安感を薄めていくことを通じて、経済に対しても好影響を与えると考えています。
§53Masaaki Shirakawa
もちろん、消費税引上げの前後という短期でみれば、引上げ前に駆け込み需要が発生し、引上げ後にその反動も出ることについては、短期的な問題として意識する必要はありますが、消費税の増税自体の影響については、今申し上げた通りです。次に、成長率あるいは物価の見通しです。時間の関係で詳しい説明は省略しますが、内閣府が発表している見通しと日本銀行の展望レポートの見通しは、全く整合的な内容になっています。内閣府では、慎重シナリオと成長戦略シナリオの 2 通りの見通しを公表しています。慎重シナリオは、様々な経済・財政構造改革が進まないケースですが、様々な改革を進めたケースである成長戦略シナリオの場合は、成長率や物価も上がっていくということです。そういう意味で、この差をどのように埋めていくのかは、まさに成長力強化について、しっかりと取り組んでいくことが答えになっていくと思います。
§54Question
札割れについて 1 点質問です。札割れの直接的な原因は、基金で買入れ対象としている残存期間1~3年までの国債利回りが継続的に0.1%を下回っていることだと思います。この状態が継続するなら、オペの下限金利が設定されている限り、オペに札が集まることは今後も尐し難しいと思います。現在の金利の状態が一時的とお考えだから、まだ札は入るとお考えなのでしょうか。今の状況について、総裁のお考えを教えて下さい。
§55Masaaki Shirakawa
金融機関がオペに応じるには、様々な動機があると思いますし、それに影響を与える 1 つの大きな要因がイールドカーブの形状なり、あるいは金利水準だと思います。足許で長期金利が低下するもとで、それが札割れを起こす1 つの要因になっているとは思います。そういう事態が解消すれば、その分、オペへの応札が増え易いということは言えると思います。ただ、金融機関がオペに応じる理由がそれだけかというと、それ以外にもあると思います。従って、今申し上げた金利変動も含めて、マーケットの状況、オペに参加する金融機関の行動は、これからも注意深くみていきたいと思っています。以上