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Bank of JapanPress conferenceSep 19, 2012Masaaki Shirakawa, Governor

総裁定例記者会見(2012年9月19日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の金融政策決定会合の結果についてご説明をお願いします。

§2Masaaki Shirakawa

日本銀行は、本日の金融政策決定会合において、資産買入等の基金について以下の決定を全員一致で行い、金融緩和を一段と強化しました。第 1 に、資産買入等の基金を、70 兆円程度から 80 兆円程度に 10 兆円程度増額することにしました。基金の増額は、短期国債が 5 兆円程度、長期国債が 5 兆円程度とすることとしました。基金の増額は 2013年12月末を目途に完了する予定です。このうち、短期国債の増額は、2013年6月末を目途に完了し、長期国債の増額は、2013年12月末を目途に完了する予定です。第 2 に、長期国債を今回の増額分も含めてより確実に買い入れていくため、現在、年0.1%に設定している当該買入れの入札下限金利を撤廃することとしました。これにより、長期国債の買入れを円滑に行うことができると考えています。次回会合までの金融市場調節方針については、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの方針を維持することとしました。次に、こうした決定の背景となる経済・物価情勢についてご説明します。

§3Masaaki Shirakawa

国際金融資本市場では、欧州債務問題を背景とした投資家のリスク回避姿勢は、ECBの政策対応などもあって一頃に比べればやや後退しているものの、財政・経済構造改革や財政・金融面での統合の進展等を巡って不透明感の強い状況が続く中、今後の市場の展開には十分注意していく必要があると考えています。海外経済は、減速した状態がやや強まっています。欧州についてみると、債務問題の悪影響がマインド面を中心に周縁国からコア国へと波及するもとで、ユーロ圏は 3 四半期連続のマイナス成長となるなど、景気は緩やかに後退しています。中国経済は、ウエイトの高い欧州向けの輸出が落ち込んでいることに加え、このところ素材産業など幅広い分野で在庫調整圧力が強まっていることなどから、減速した状態が長引いています。それらの影響もあって、NIEs、ASEAN経済の持ち直しの動きも、企業部門を中心に、このところ緩やかになっています。この間、米国経済については、企業マインドや雇用面で弱めの動きがみられる一方、住宅市場で持ち直しの兆しもみられるなど、全体としては緩やかな回復基調を続けています。次に、わが国の景気については、「持ち直しの動きが一服している」と判断を下方修正しました。すなわち、国内需要については、公共投資は明確に増加を続けています。設備投資は、企業収益が改善するもとで、緩やかな増加基調にあります。

§4Masaaki Shirakawa

個人消費は、雇用環境が改善傾向にある中で、底堅く推移しています。住宅投資も持ち直し傾向にあります。一方、先程述べた海外経済の影響のもとで、輸出や鉱工業生産が弱めとなっており、全体として当面景気は横ばい圏内の動きにとどまるとみられます。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、概ねゼロ%となっていますが、既往の原油価格の下落が下押し要因となっています。先行きも、当面、ゼロ%近傍で推移するとみられます。リスク要因をみると、欧州債務問題、米国経済の回復力、新興国・資源国の物価安定と成長の両立の可能性など、世界経済を巡る不確実性が引き続き大きいほか、金融・為替市場動向が景気・物価に及ぼす影響には、注意が必要と考えています。とりわけ、欧州債務問題がさらに深刻化し、国際金融資本市場の動揺、ひいては世界経済の一段の下振れにつながるリスクについては、引き続き、最も意識しておくべきと考えています。中国経済についても、インフラ投資や不動産販売など内需の一部で改善の兆しがみられ始めていますが、持続可能な成長経路に順調に移行できるかどうか引き続き注視していく必要があります。また、米国経済については、いわゆる「財政の崖(fiscal cliff)」の問題など財政政策の先行き不透明感が強い状態が続いており、その回復力に注意が必要です。

§5Masaaki Shirakawa

これまで、景気の先行きについて、やや長い目でみれば、国内需要が底堅さを維持し、海外経済が減速した状態から次第に脱していくにつれて、緩やかな回復経路に復していく、という判断を行ってきました。また、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、徐々に緩やかな上昇に転じ、2014年度以降、遠からず 1%に達する可能性が高い、と判断してきました。しかし、先程申し上げたような情勢判断を踏まえると、日本経済がこうした「物価安定のもとでの持続的な成長経路に復していく」という軌道を踏み外さないようにするためには、一段の金融緩和を行うことが適当であると判断しました。すなわち、資産買入等の基金を 10 兆円程度と大幅に増額するとともに、資産の買入れを着実に進めるための措置を講じることとしました。資産買入等の基金は、2010年10月に35 兆円程度で開始しましたが、今回の増額も含め累次にわたる増額によって、80 兆円程度にまで拡大することになります。現在の残高は約 60 兆円ですが、来年末にかけてさらに約 20 兆円の資産を買い入れていくことになります。これらによる一段と強力な金融緩和の推進は、長めの金利やリスク・プレミアムへのさらなる働き掛けを通じて、企業や家計等の金融環境をより緩和的にします。

§6Masaaki Shirakawa

本日決定した金融緩和の強化は、これまでの措置の累積的な効果と相俟って、日本経済が物価安定のもとでの持続的な成長経路に復することを確実なものにすると考えられます。日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することが極めて重要な課題であると認識しています。この課題は、幅広い主体による成長力強化の努力と金融面からの後押しの両方が揃って初めて実現されていくものです。こうした認識のもとで、成長基盤強化を支援するとともに、強力な金融緩和を推進しています。今後とも、資産買入等の基金の着実な積上げを通じて間断なく金融緩和を進めていきます。日本銀行としては、引き続き適切な金融政策運営に努めるとともに、国際金融資本市場の状況を十分注視し、わが国の金融システムの安定確保に万全を期していく方針です。

§7Question

景気判断については、前回の決定会合に比べると下振れリスクを強く意識した内容に変わっていますが、景気回復の時期、あるいは物価上昇率が 1%に達する時期は、日銀のこれまでの想定に比べて後ずれしているという認識でよいのでしょうか。

§8Masaaki Shirakawa

最初に申し上げると、下振れリスクを意識したというよりも、メインシナリオ自体を下方修正したということです。わが国の景気は、振り返ってみると、本年前半は「年率 3%」と「緩やか」という形容詞で表現できる以上の高めの成長を実現しましたが、その持続性については慎重に見極めていく必要があると考え、「緩やかに持ち直しつつある」と表現してきました。とりわけ世界経済の下振れリスクに注意を払ってきましたが、実際このところ、世界経済は減速感を強めてきました。そうした中で、わが国の景気についても、本日の会合で「持ち直しの動きが一服している」と判断を下方修正し、先行きも当面横ばい圏内の動きにとどまるとみています。そうした状態から脱して緩やかな回復経路に復していく時期については、半年程度後ずれすると予想しています。これまで、景気の先行きについては、やや長い目でみれば国内需要が底堅さを維持し、海外経済が減速した状態から次第に脱していくにつれて、緩やかな回復経路に復していくという判断を行ってきました。また、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、徐々に緩やかな上昇に転じ、2014年度以降、遠からず 1%に達する可能性が高い、と判断してきました。

§9Masaaki Shirakawa

しかし、先程述べたような情勢判断を踏まえると、日本経済がこうした「物価安定のもとでの持続的な成長経路に復していく」という、日本銀行として当初想定していた軌道を踏み外さないようにするためには、展望レポートを待たずに一段の金融緩和を行うことが必要であると判断し、本日の決定を行ったということです。

§10Question

9月に入り、ECBが無制限の国債買入れを表明し、続いてFRBがいわゆるQE3を表明しましたが、こうした欧米の中央銀行の動向が今回の日銀の政策判断に影響したのかどうか、お伺いします。

§11Masaaki Shirakawa

各国の中央銀行は、常にそれぞれが置かれた経済・金融情勢に応じて、最適な政策を行うよう努めており、日本銀行も含めてどの国の中央銀行も、他国の中央銀行がある政策を行ったから自分たちも行う、という機械的な対応は採っていません。もちろん、経済そのものがグローバルに連関している以上、各国・各地域の経済が同時に下振れし、結果的に各国・各地域の中央銀行が同じような時期に同じような対応を採ることは十分あり得ます。私どもは、従来から、相対的に内需が堅調なうちに、うまく外需にスイッチしていくことができるかどうかが大きなポイントであると申し上げてきました。その点、世界経済あるいは国際金融市場をみた場合、欧州債務問題が深刻化し、世界経済の減速感が強まる中で、主要中央銀行がそれぞれの国あるいは地域の情勢を点検し、それぞれ適切な政策を採ったということです。いずれにしても、今回のECBあるいはFRBの政策対応が、それぞれの国あるいは地域に好影響を与え、ひいては日本経済にも良い影響をもたらすことを期待しています。

§12Question

FRBの政策で量的緩和が打ち出されたことで、円高圧力がかかっているという言われ方もしていますが、そういった為替の状況は、経済の下振れリスクの判断に対して何か影響があったのか、教えて下さい。

§13Masaaki Shirakawa

この 1 か月間の変化として申し上げると、円の実効為替相場――貿易量で加重平均した為替相場――は、必ずしも円高ではなく、どちらかといえば円安方向に向かったと思います。これは、ECBの措置も受けて、ユーロ安が是正されていったことの反映でもありますが、対ドルでは、この間、円高に傾く局面もありました。いずれにせよ、為替レートの動きが、私どもの金融政策にどのように影響するかについては、今回の発表文でも触れている通り、為替レートそのものではなく、その動きが日本の景気・物価情勢に先々どのような影響を与えて行くかについて十分見極めた上で判断しています。為替レートの動きは、そうした景気・物価見通しに影響する 1 つの要因ですが、為替レートをみて金融緩和の判断を行ったということではありません。

§14Question

下限金利の撤廃について、金融緩和の効果を持つものなのか、それとも単なる札割れ対策であり緩和策ではないのかについて、今一度、整理をお願いします。2 つ目は、本日打ち出された政策の日本経済への波及経路について、どういった形で、メインシナリオや回復軌道から外れることのないようにサポートしていくのか、もう少し具体的にご説明をお願いします。

§15Masaaki Shirakawa

まず、「札割れ対策」と「金融緩和措置」を、整然と切り分けることはなかなか難しいと思います。今回決定した長期国債買入れの入札下限金利の撤廃は、これまで進めてきた長国買入れについても、今回増額した分の長国買入れについても、買入れを円滑に進めていくことを可能にするものですが、それによって、長期金利に下押し圧力が働くことで、金融緩和の効果も持つと考えています。次に、今回の措置を含め、包括金融緩和がどのように景気や物価に影響を及ぼすのかという点です。振り返ってみると、包括緩和を始めて約 2年になりますが、この間、東日本大震災も、欧州債務危機もそうですが、経済・金融に大きなストレスがかかる状況のもとでも、日本の金融環境は、他国に比べても非常に安定している状況を続けることができました。金利低下――企業からみると借入金利の低下――、アベイラビリティの確保という点でも、非常に安定した緩和的な環境を維持しました。金融緩和政策の効果は、中央銀行のアクションが、企業、家計、投資家を取り巻く金融環境に働き掛け、その行動を変化させるのが第一段階です。この第一段階という意味では、今申し上げたルートを通じて、緩和効果を確実に発揮していると思いますし、これからもその効果は間断なく強まっていくと思っています。

§16Masaaki Shirakawa

そのことが、第二段階として、最終的な投資や支出の増加にどのようにつながっていくのかは、成長力を強化していくための様々な規制緩和を始めとした取組みが必要ですが、中央銀行としてできることはしっかりやっていくということで、今回の措置に踏み切ったということです。

§17Question

2 つお伺いします。1 つ目は、欧米の中央銀行の政策との比較についてです。9月にECBとFRBがそれぞれ緩和の強化を打ち出しています。ECBは無制限に国債を買い入れる、FRBは期限をはっきり定めずに毎月MBSを買っていくという策を打ち出しています。日銀も、今回、緩和を強化したわけですが、ECBやFRBと比較すると、外形的には、「無制限」「無期限」という形の欧米に比べ、緩和姿勢が弱いとみる向きもあると思います。この点について、総裁はどうお考えですか。もう 1 点は、先程の質問と関連しますが、景気の先行きについて、当初のシナリオよりも回復時期が半年程度後ずれする可能性があるとの認識を示されましたが、物価についても、「2014年度以降、遠からず 1%に達する」という見通しが後ずれする可能性があるのか、お考えをお聞かせ下さい。

§18Masaaki Shirakawa

まず、各国の中央銀行は、それぞれの国や地域の政策課題や金融経済情勢を踏まえ、最も効果的な政策手段や政策の枠組みを選択するよう努めていると思います。従って、FRBあるいはECBとの比較で、日本銀行が、金融政策において、先程おっしゃった「大胆さ」あるいは「積極性」において見劣りするとは思っていません。緩和に対する姿勢は、どのような手段あるいは武器を使ったかではなく、どのような手段あるいは武器を使おうとも、最終的にどのような金融緩和の状態を実現したかという結果でもって判断されるものと思います。そういう意味では、先程も少し触れましたが、日本の金融環境は、先進国の中でも最も緩和的だと思っています。少し具体的に 3 つの次元で申し上げます。1 つは、政策課題との関係です。FRBの場合は、米国経済の問題の中心である住宅市場の下支えが重要であるとの観点から、MBSや期間の長い国債の買入れを行っているということです。ECBの場合は、周縁国の国債金利が財政の問題も反映して上昇している中で、その周縁国の国債を一定のコンディショナリティのもとで買い入れることで、金利上昇に対応した政策を採っているということです。

§19Masaaki Shirakawa

日本銀行については、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することが重要な課題だという認識のもとで、リスク性資産を含めて様々な資産を幅広く買い入れると同時に、成長基盤強化の支援という、中央銀行としては異例の措置にも踏み込んでいるということです。第 2 に、資産買入れの上限や期限についてです。FRBは、先週のFOMCにおいて、MBS買入れの上限や期限を予め定めず、労働市場の見通しが改善するまで継続すると決定しました。もっとも、予め上限や期限を定めておくかどうかに関わらず、政策目的の達成に不十分と判断されれば金融緩和を強化するという考え方は、どの中央銀行も同じです。例えば、日本銀行では、資産買入等の基金に上限や期限を定めていますが、それらを累次にわたって拡大、延長してきており、当初の残高目標は35 兆円程度で期限 2011年末であったのが、現在は 80 兆円程度で期限 2013年末と、当初の予定を遥かに上回る、大規模かつ長期の緩和政策となっています。第 3 に、実質的なゼロ金利を維持する期間の示し方です。

§20Masaaki Shirakawa

FRBは、例外的に低い水準の政策金利が、少なくとも 2015年央まで正当化される可能性が高いとしていますが、これはあくまでも現時点での経済・物価見通しを前提にした場合の蓋然性を述べているものであって、2015年央まで低金利を維持するというコミットメントではありません。一方、日本銀行の場合は、当面の「中長期的な物価安定の目途」である消費者物価の前年比上昇率 1%が見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置により、強力に金融緩和を推進していくこととしています。これは、政策の時間軸を日本銀行が目指す状態を見通せるかどうかに紐付けた明確なコミットメントです。従って、「日本銀行の政策の方が大胆さに欠ける」という批判については、政策の内容についてもそうは思っていませんし、政策の結果として実現している金融環境についても、そうした批判は全く当たっていないと強く思います。それから、物価上昇率 1%の達成時期が後ずれしたのかというご質問です。半年に 1 回、展望レポートを示す時には、経済・物価について包括的、体系的に検討を行い、その上で数字を出していくわけですが、今回は、経済のシナリオを基本的に修正していくに当たり、先々の経済・物価についてもある程度の見方を共有しながら議論を進めました。

§21Masaaki Shirakawa

政策判断に当たって、私ども自身が望ましいと思っている姿を目指して最適と思われる政策を展開するわけですが、そうした軌道を踏み外さないように、今回、こうした対応を採ったということです。数字については、10月末の展望レポートでお示ししますが、私どもの政策判断との関係でいえば、そうした望ましい状況に至る軌道を踏み外さないように、今回の対応を採ったということです。

§22Question

中国経済および中国リスクについてお伺いします。第 1 点として、中国経済の減速について先程ご指摘がありました。現時点で、従来の外需主導、投資主導の経済が、曲がり角というか構造調整の時期に差し掛かっているとの指摘もありますが、この点についての判断をお聞かせ下さい。第 2 点は、直近の話題ですが、政治リスクといいますか、反日デモに代表される企業活動等への影響が強まっていると思います。その評価についてお聞かせ頂ければと思います。さらに、2 番目の点については、本日の政策決定に影響を及ぼしているのかどうかもお伺いします。

§23Masaaki Shirakawa

中国経済の分析は、本日の決定会合においてもかなり大きなテーマでした。ご質問にお答えする前に、中国経済の減速をどう考えるかというところから始めたいと思います。中国経済は、高めの成長を続けながらも、成長ペースが鈍化しています。こうした減速には、不動産取引抑制策などを背景に、民間不動産投資が減速してきたことに加え、輸出先の 2割を占める欧州向けの減少が影響しています。このように最終需要が鈍化する中で、在庫調整圧力が高まっており、製造業の生産にも悪影響が波及してきているというのが、現状だと思います。先行きを考えた場合、プラス材料、マイナス材料があります。プラス材料としては、金融緩和の効果、あるいはインフラ投資の前倒しなど財政面からの刺激措置の効果が期待されます。また、良好な雇用・所得環境が維持されていることで、消費の堅調な伸びが続くことが見込まれることも指摘できると思います。一方、不安材料も幾つかあります。1 番目は、言うまでもなく欧州債務問題ですが、2 番目は、ご質問にあった投資主導の経済が、記者の方の言葉を借りると「曲がり角」に直面するのかという問題意識です。これは、いわゆる過剰投資の問題ですが、素材などの業種では、過剰設備の廃棄が進まない中、需給バランスの悪化から在庫調整圧力が増していると思います。

§24Masaaki Shirakawa

3 番目の不安材料・リスクは、労働供給面の変化から、緩やかではあるが潜在成長率が低下していく公算をどう考えるかということです。農村での余剰労働力が減少してきており、また将来を展望しても、高齢化の進展によって生産年齢人口が減少することが見込まれます。日本の場合、農村部から都市部への人口の移動が終わったのが 1960年代であり、それから生産年齢人口が減少するまでに 30年程度のラグがありましたが、中国の場合、その両者のラグが非常に短いということです。この問題は、先程の高水準の投資の問題とも関連してきます。日本経済を考えてみても、高度成長の時代から中程度の成長、それから現在のような低成長へと移行してきていますが、中国も、どこかの段階で 2 桁成長という高成長から中成長へ移行していきます。中成長への移行それ自体は、どこかの段階で必ず起こることですし、それはまた望ましいことでもあります。問題は、それが円滑な形でなされるかどうかです。中国の当局者とも、こうした問題をよく議論しますが、日本がかつて経験した高度成長から安定成長への移行に伴う問題点、あるいは人口減少の問題、こうした問題も中国の当局は非常によく勉強しています。私としては、中国の当局がこうした日本の経験も活かしながら、高度成長から中程度の成長への円滑な移行を図っていくことに取り組んでいくことを期待しています。

§25Masaaki Shirakawa

それから 2 問目ですが、中国国内の情勢については、日々新しい情報が入ってくる状況であり、日本経済に与える影響についても、現時点ではなお不透明な要素が多いと考えています。日中両国の経済は、貿易や工場立地などの面で結びつきが深いことを踏まえ、今後とも、経済面の影響を注意深くみていきたいと考えています。本日の政策決定に、最近における反日デモが影響しているのかとのご質問ですが、そういうことはありません。あくまでも、中国経済を含めた世界経済の減速全般を評価して金融緩和強化を決めました。

§26Question

本日、長期国債買入れの入札下限金利を撤廃しましたが、輪番オペの下限金利についてはどうされるお考えでしょうか。

§27Masaaki Shirakawa

銀行券見合いの長期国債買入れの下限金利については、執行部にその運用が授権されていますが、資産買入等の基金に関する本日の決定との整合性を考えれば、入札下限金利は撤廃されることになります。その際、銀行券見合いの長期国債買入れについては、買入対象を残存3年以内に限っていないため、入札下限金利も全ての残存期間について撤廃されることになります。

§28Question

2 点お伺いします。先程、今回の日銀の措置は、ECBやFRBの無制限・無期限という措置に対して劣っているのか、という質問がありました。1 点目の質問ですが、今回の措置では、買入れの期限を 2013年12月まで半年間延ばしていますが、これは期限をもう少し長く延ばした方が効果があるという意味合いを持たせた措置なのか──2013年6月まで買入れ規模を増やす方法もあると思いますが──、期限を延ばした理由をお聞かせ下さい。2 点目は、為替相場の日本経済への影響についてです。1年以上にわたって対ドルで 80 円を超える円高が続いており、その間、日本の主要産業はかなり海外に流出している、あるいは生産拠点を移すという動きがかなり長期化していますが、この動きが日本経済に及ぼす影響をどの程度認識されているのかをお聞かせ下さい。

§29Masaaki Shirakawa

まず、基金の買入れ期限を 2013年6月末から 12月末に延ばした理由です。今回、私どもは景気判断を下方修正しましたが、そうした判断に照らして考えると、日本銀行が買入れを通じて間断なく金融緩和を強化していく時期も先に延ばした方がいいということで、12月末にしたということです。次に、円高が日本経済に与える影響のうち、日本の企業が海外に進出していくことの影響を認識しているのか、というご質問です。その点はもちろん認識しています。円高が経済に与える影響は、短期と長期で異なってきますが、短期的には、円高が企業の収益やマインドを通じて悪影響を与えていく、あるいは、日本企業の海外への進出を必要以上に加速していくということがあれば、国内経済に対しても悪影響を与え得るということで注意してみています。ただ、日本企業の海外進出について、一般論として申し上げると、基本的に、新興国を中心に海外経済の成長率が高いということですから、需要の拡大している地域に生産拠点を設けていくことは、企業の合理的な判断です。過去を振り返っても、海外と日本の成長率の差と、日本企業の海外進出のペースは、非常に相関関係が高いと思います。そういう意味で、大きな決定要因は海外の高い成長率だと思います。いずれにせよ、そうした影響については注意してみているということです。

§30Question

2 つ伺います。米国では、QE3の発表後、10年物や 30年物の国債の利回りがやや上がり気味で、ブレークイーブン・インフレーションレートも上昇してくる方向で、インフレ期待が高まっている兆しが出ています。こうした傾向について、どのように認識し、先行きどうなるとみていますか。もし、先行き本格的にインフレ期待が高まった場合、世界経済や日本経済にどのような影響を及ぼすとみているのか、お聞かせ下さい。また、中国に関連して、本日、日本貿易会の会長が、「こういう情勢を踏まえて、日本企業からの中国への投資判断については慎重にならざるを得ない」と記者会見で発言されています。混乱が長期化した場合の影響について、どのようにお考えかお伺いします。

§31Masaaki Shirakawa

まず、米国における予想インフレ率上昇の可能性についてです。確かに、足許のブレークイーブン・インフレーションレートは少し上がっています。バーナンキ議長が、先日のジャクソンホールの講演で述べている通り、もし本当にインフレ予想が高まり、それが、中央銀行からみて許容できる範囲を超えてくる時には、FRBはそれに対応し得る十分な政策手段を持っており、その政策を展開する用意があると言っています。私自身は、そうしたFRBの姿勢に信頼を置いています。次に、日本貿易会の会長のご発言については、詳細を承知しているわけではありません。本日、決定会合の終了後、あまり時間がなかったため、お聞きしていない発言についてコメントするのは差し控えたいと思います。

§32Question

先程、景気判断のメインシナリオが変わったというお話がありました。ただ、前回の会合で、札割れが起きているのは、強力な金融緩和が浸透している証拠だというお話がありました。今回は、そこからさらに下限金利を撤廃して、10 兆円を積み増すということで、この整合性について、もう 1 度ご説明頂ければと思います。もう 1 点ですが、銀行の決算をみていると、金融緩和の中で資金利益が低下し、一部では「長めの金利がつぶれていくと、さらに利ざやが薄くなってしまう」という声も聞かれます。緩和の効果と銀行の収益性について、今のご認識を教えて頂けますか。

§33Masaaki Shirakawa

まず 1 問目ですが、2 つの側面からお答えできると思います。1 つは、この数か月間、海外経済の減速が少しずつ長引いている――ある意味で「逃げ水現象」が起きている――ことは気にしていましたが、この 1 か月間のデータは、海外経済の減速がやや強まっていることを裏付けるものが幾つも出てきたと思います。それから、札割れが起きている中で、なぜ長国オペの下限金利をこのタイミングで撤廃するのかは、まさに今申し上げた実態的な判断があるわけです。前回の会見でも、この点についてのご質問を比較的多く頂戴しました。その時に申し上げたことは、札割れは、もちろん金融緩和がそれだけ浸透している証左ではあるわけですが、一方、私どもとして既に約束している基金の金額を確実に達成していくことは大きな条件です。この先も、金融情勢如何によって札割れが解消することもあるし、深刻化することもあり得ます。そうした不確実性を考えると、このタイミングで手を打った方が、確実に基金の積上げを図り得ると判断したということです。2 問目の銀行収益への影響ですが、これは非常に難しい課題だと思います。

§34Masaaki Shirakawa

ご質問は、日本の金融界についてでしたが、先般のジャクソンホールのコンファレンスでも、米国の場合、銀行よりも保険、年金を含めた機関投資家の収益、利ざやが圧迫されており、その結果、金融から経済を下支えする力が低下してくるのではないか、あるいは何らかの金融的な不均衡を蓄積し、将来の金融システム不安定化の材料を蓄積するのではないか、という問題意識が聞かれたところです。そうした問題意識は、金融緩和が長期化するにつれて、以前に比べて増えてきています。日本の銀行についても、確かに利ざやが圧迫され、銀行が金融面から経済を支える力が弱くなりかねないのではないかという問題意識は持っています。私どもとしては、そうした副作用も意識しながら、ネットでみた金融緩和の効果が最大限に発揮される金融緩和の仕方は何かを常に考えている、というのがお答えになります。いずれにせよ、金利が低下していくことは、金融の仲介者からみると、今ご指摘があったような問題がありますが、最終的に資金を調達して投資・支出をする人からみると、支出し易くなることは事実です。そのためには、緩和的な金融環境を活かせるよう、様々な規制緩和を是非進めていって欲しいと思っています。そうでなければ、ネットとしての金融緩和効果が、なかなか上がり難いと思います。

§35Question

海外経済の減速感を裏付けるデータが幾つかあったとのことですが、具体的に教えて頂けますか。

§36Masaaki Shirakawa

米国、欧州、中国に分けて考えますと、米国については、9月初に発表された 8月の雇用統計をどう解釈するか、色々な議論がされましたが、やはりこのデータは予想に比べて弱かったと思います。欧州については、1 つ 1 つのデータを紹介するより、問題が、欧州周縁国からコア国に段々と波及してきていることが、様々なデータで確認されてきています。中国経済についても、減速がやや強まっていることを裏付けるデータが幾つか出てきたと思っています。具体的な数字に則した説明は、担当部署に聞いて頂ければと思います。

§37Question

先程、上限を定めているが、予定を上回る緩和を逐次行っているというお話でしたが、これは、考え方によっては、金融緩和の逐次投入をして、結果的に泥沼化しているのではないかという考え方もできるのですが、これについてはどのようにお考えでしょうか。また、9月に白井審議委員が欧州、北欧の講演で、90年代以降の日本では、大半の時期でデフレが続いていると言っていましたが、そうすると、10年近いデフレが日本で続いていることになってしまいますが、これに対して、日銀としては、その危機感はいつぐらいから持ち始めたのでしょうか。過去についてお伺いする感じになりますが、お考えを伺えればと思います。

§38Masaaki Shirakawa

まず、記者の方のお言葉を借りると「泥沼化」ということですが、日本銀行の金融政策の目的は、物価安定のもとでの持続的な経済成長の実現です。物価については、当面は前年比上昇率 1%を目指して金融政策を行っていくということですし、成長率については、今、私どもは潜在成長率をゼロ%台の半ばとみていますが、いずれにしても、物価、成長率の見通しを展望レポートで示し、私どもがみて持続的な成長経路に乗っているかどうか、乗るかどうかということを常に判断していくということです。それから、少し専門的な話になりますが、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因をきちっと点検しながら金融政策を運営していくという姿勢を明確にしています。従って、そうした「泥沼化」ということにはならないと思っています。いずれにせよ、私どもの金融政策については、マスコミの方もそうですし、マーケットのアナリストの方も分析をして、しっかりみているということだと思います。それから、白井委員の講演については、私からコメントすることは差し控えたいと思います。ただ、デフレの問題というものをどのように認識するかというご質問、あるいは、人口問題、急速な高齢化が深刻化する中でデフレの問題をどのように認識していたのかというご質問としてお答えします。過去20年間の日本の低成長を考えた場合、最初の 10年間と後の 10年間とでは少し性格が違っていると思います。

§39Masaaki Shirakawa

最初の 10年間は、それ以前のバブル崩壊の後遺症の影響が大きく、そのもとで需要が低迷してくるということだったと思います。後半の 10年間は、急速な高齢化が進む中、日本経済がその変化に対して上手く調整ができていない、様々な対応が遅れているということだったと思います。その急速な高齢化に伴う影響をいつから認識していたのかですが、振り返ると、日本全体で、高齢化の問題に対する認識は遅れていたと思います。私は、講演でも何度か言及したので、ご存じの方も多いと思いますが、新聞記事の中で「急速な高齢化」「高齢化」「人口減少」などをキーワードとして記事数を検索してみると、これらが増えてきたのは比較的最近の話であり、やはり認識は随分と遅れていたという感じがします。これは、マスコミだけではなく、日本全体で、この問題に対する取組みが遅れていたということだと思います。逆に言えば、こうした面で取り組むべきことはたくさんあり、それらに取り組めば、日本の成長率、成長力も上がっていき、その結果として需要も増え、その分、物価も高まってくるということです。こうしたことも、現在日本経済が直面している問題をしっかり認識した上で、それに取り組んでいくことが大事だということを、示しているように思っています。

§40Question

本日の決定について、政府側からは「サプライズ」というコメントも出ていますが、こうした決定が実を結ぶ――総裁の言葉を借りれば「物価安定のもとでの持続的な成長」につながっていく――には、まさに幅広い経済主体の努力が必要だと思います。そういう観点でみると、行政府・立法府では、経済財政政策はもとより、このところエネルギー政策、あるいは外交政策という、国の軸となる政策について、なかなか腰が定まらない、場合によっては迷走が続いています。こうした状況について、総裁はどのようにお考えになっているのか、金融緩和に踏み切った本日であるだけに、改めてお伺いしたいと思います。

§41Masaaki Shirakawa

ご質問にあった幅広い政策については、私が語るのは不適切だと思いますので、発言を控えたいと思います。繰り返しになりますが、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的な成長経路に復するためには、様々な主体による努力が不可欠だと思います。特に、規制緩和を中心に新たな需要を創っていく、その新たな投資の魅力が増すような取組みをしていくことが大事だと思います。ただ、これは、単に政府の規制緩和を待つだけでなく、やはり、我々国民自身が、日本経済が直面している最も本質的な問題は何かを明確に認識することが全ての出発点だと思います。国民の幅広い支持がなければ、そうした政策もなかなか採用され難いように思います。そういう意味で、繰り返しになりますが、誰か特定のグループの責任だということではなく、現在、日本経済が直面している問題の本質は何かをしっかり認識することが全ての出発点だ、というのが私の強い思いです。

§42Question

今回の金融緩和は、先にECB、そしてFRBが相次いで対応を決めた後に続いたということがあると思いますが、総裁は、それらとは全く関係なく、「機械的に決めたわけではない」とおっしゃいました。リーマンショック以降、世界的に主要国の中央銀行間で「緩和競争」というものが続いていると思いますが、今回、これがさらに再燃していく、または続いていくという見通しをお持ちなのかどうか、お伺いします。もう 1 点は、今回の追加緩和の効果についてお聞きします。今回の追加緩和では、短期国債の買入れ増額が来年初めから、長期国債の買入れ増額が来年6月以降ということで、買入れ増額のタイミングが先になっていると思います。それは、言葉を変えれば、本年中は、今回の追加緩和による買入れ増額の効果がないということを意味するのかどうか。景気は、これから年後半に向けて一段と悪化するという懸念が高まる中で、今回の追加緩和が年内の景気に対してどのような影響を与えるのかについて、お伺いします。

§43Masaaki Shirakawa

まず、記者の方の言葉を借りると「緩和競争」ということに関するご質問です。先程も申し上げた通り、各国の中央銀行は、それぞれ自国の置かれた状況に照らして最適な金融政策を行っているということですから、もちろん「競争」を行っているのではありません。そして、その際に重要なことは、各国の中央銀行が、自らの採る施策の他国への波及と、それが最終的に自国にどのように跳ね返ってくるかということも考慮した上で、自国にとっての最適な政策を考えることだと思います。8月末から9月初にかけて開かれたジャクソンホールのコンファレンスで、BISのカルアナ総支配人が「金融政策の相互依存」について講演をしていますが、そこで強調されていることは――これは先進国も新興国もそうですが――、そうした金融政策の他国への波及とそこから跳ね返ってくるフィードバックを考えた上で政策を行っていくことが大事だということでした。私自身も、コンファレンスでそれに共感するという発言をしましたが、そうした構えは非常に重要と思っています。次に、買入れ完了の時期ですが、長期国債については来年6月末まで買入れを行っていくことを既に発表していました。短期国債については本年12月末に完了することになっていました。

§44Masaaki Shirakawa

従って、増額を図る時は、短国については、その買入れがない来年6月末にかけての時期までに買入れをしていく、長国については、その買入れがない7月以降の時期に買入れをしていくことで、間断なく金融緩和を行っていくことの効果とそのメッセージを発することが適当と判断しました。年内についてどうか、という点については、公表資料に表が掲げられていますが、年内は着実に買入れを行っていくということです。従って、年内も、来年の前半も後半も、切れ目なく、間断なく、金融緩和が強化されていくことになります。

§45Question

2 点お伺いします。まず、長期国債の入札下限金利の撤廃によって、市場金利が実質的にどれだけ下がるのか、実際にどういうことが起こると考えていらっしゃいますか。2 点目は、やや専門的、技術的な話になってしまいますが、今回、短期国債と長期国債の買入れを 5 兆円増額して、短期国債は来年6月までに 14.5兆円を買い入れ、その後、12月までは残額を維持することになっていると思います。これは、増額期間が終わった後も、償還した分の資金を減額させずに再投資しているということだと思いますが、長期国債についても同じ理解で、12月までが達成期限ですが、仮にその後も物価上昇の 1%の目標が達成されていないということになれば、この残高を減額させずに維持して、国債に再投資していくという方針になるのでしょうか。

§46Masaaki Shirakawa

1 点目ですが、長国オペの下限金利撤廃が長期国債の金利にどの程度影響を与えるかということです。これは、なかなか数量化は難しいと思います。ただ、相応に影響はあると思っています。2つ目のご質問ですが、償還──これは長期国債も短期国債も同じですが──があれば、その分を上乗せして買入れを行います。従って、その残高を維持するというのが方針です。それから、来年12月末より後の金融政策についてですが、物価安定のもとでの持続的な成長の実現──物価については消費者物価上昇率 1%が見通せる状況──を目指して金融政策を行っていくということです。そうした考え方に照らして、具体的にどのように運営するかは、先々また判断をしていくことです。しかし、根本となる考え方は非常にはっきりしています。繰り返しになりますが、消費者物価上昇率 1%が見通せるということと、先程も別の質問にお答えしましたが、金融面での不均衡の蓄積も含めたリスク要因、経済の持続的な成長を損なう問題が存在しないかどうかを点検した上で、再来年以降の政策を判断していくことになると思います。以上