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Bank of JapanPress conferenceOct 30, 2012Masaaki Shirakawa, Governor

総裁定例記者会見(2012年10月30日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の金融政策決定会合の結果について、展望レポートの内容も含めてポイントのご説明をお願いします。

§2Masaaki Shirakawa

日本銀行は、本日の金融政策決定会合において、金融緩和を一段と強力に推進する観点から、以下の 2 点について決定しました。第1 に、資産買入等の基金を、80 兆円程度から 91 兆円程度に 11 兆円程度増額することを全員一致で決定しました。増額の内訳については、長期国債と短期国債をそれぞれ 5 兆円程度、さらにCP等を1,000 億円程度、社債等を 3,000 億円程度増額するほか、指数連動型上場投資信託(ETF)を 5,000億円程度、不動産投資信託(J-REIT)を100 億円程度増額します。これらの増額は、2013年12月末までに完了する予定です。第2 に、今回新たな措置として、「貸出増加を支援するための資金供給」の枠組みの創設を全員一致で決定しました。この枠組みは、金融機関の一段と積極的な行動と企業や家計の前向きな資金需要の増加を促す観点から、金融機関の貸出増加額について、希望に応じてその全額を低利・長期で資金供給するもので、資金供給の総額の上限は設定せず、無制限としています。本日の決定会合では、執行部に対し、この新たな資金供給の枠組みについて具体的な検討を行い、改めて決定会合に報告するよう指示しました。資金供給の規模は、貸出の増加に向けた金融機関の今後の取組み姿勢に依存します。

§3Masaaki Shirakawa

ちなみに、直近 8月の実績をみると、取引先金融機関(国内銀行および取引先信用金庫)のうち、貸出が増加した先の貸出残高の合計額は、1年前に比べて約 15 兆円増加しています。これをそのまま当てはめると、新たな枠組みのもとで金融機関が資金供給を受けられる額は、15 兆円程度となります。この新たな枠組みと、従来から行っている成長基盤強化支援の資金供給 5 兆5 千億円を合わせて、「貸出支援基金」と呼ぶことにすると、その規模は 20 兆円程度となります。さらに、金融機関の貸出がこれまで以上のペースで増加すれば、日本銀行が供給する用意のある資金の規模は、20 兆円を超えて拡大していくことになります。次回会合までの金融市場調節方針については、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの方針を維持することを全員一致で決定しました。次に、こうした決定の背景となる経済・物価情勢について、展望レポートの内容を含めて、ご説明します。なお、この展望レポートの記述を巡っては、佐藤委員、木内委員のお二人から反対意見が示されました。お二人の委員は、「消費者物価の前年比が、2014年度には 1%に着実に近づいていく」との記述に反対の意を示されるとともに、コミットメントの文言を変更すべきとのご意見でした。

§4Masaaki Shirakawa

その詳細については次回決定会合後に公表される議事要旨をご覧下さい。以下では、決定された展望レポートに沿ってご説明しますが、国際金融資本市場では、欧州債務問題を背景とする投資家のリスク回避姿勢は、やや後退した状態が続いています。もっとも、スペインの支援要請の有無や、ギリシャの財政・経済構造改革の進展等を巡って不透明感の強い状況が続く中、今後の市場の展開には十分注意していく必要があると考えています。海外経済については、減速した状態が強まっています。欧州経済は、緩やかに後退しています。中国経済は、ウエイトの高い欧州向けの輸出が落ち込んでいることに加え、素材産業など幅広い分野で在庫調整圧力が残っていることから、減速した状態が長引いています。それらの影響もあってNIEs、ASEAN経済の持ち直しの動きも、企業部門を中心に緩やかになっています。この間、米国経済については、企業部門に弱めの動きがみられる一方、家計部門では個人消費が緩やかに増加しているほか、住宅投資も持ち直しの動きが続いており、全体としてみれば、緩やかな回復基調を続けています。以上の海外経済の状況のもとで、わが国の輸出や鉱工業生産は減少し、これまで堅調に推移してきた内需にもその影響が一部及び始めています。

§5Masaaki Shirakawa

このため、わが国景気の全体の判断については、前回会合における「横ばい圏内の動きとなっている」から、今回は「弱含みとなっている」へと、下方修正しました。先行きの中心的な見通しについては、当面横ばい圏内の動きにとどまるとみられますが、本日決定した金融緩和措置も踏まえれば、国内需要が全体としてみれば底堅さを維持し、海外経済が減速した状態から次第に脱していくにつれて、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。すなわち、2013年度の成長率に関する政策委員見通しの中央値は 1.6%と、消費税率引上げ前の駆込み需要の影響を除いても、潜在成長率をはっきりと上回るとみられます。2014年度についても、0.6%と駆込み需要の反動から成長率が低下すると見込まれますが、この影響を除いてみれば、引き続き潜在成長率を上回る成長経路を辿ると考えられます。先行きの物価情勢を展望すると、当面ゼロ%近傍で推移した後、マクロ的な需給バランスの改善を反映して、徐々に緩やかな上昇に転じ、2014年度には、当面の「中長期的な物価安定の目途」である 1%に着実に近づいていくとみられます。こうした中心的な見通しに対する実体経済面での上振れ・下振れ要因として、展望レポートでは4 つの点を指摘しました。

§6Masaaki Shirakawa

第1 に国際金融資本市場と海外経済の動向、第2 に企業や家計の中長期的な成長期待の動向、第 3 に消費税率引上げの影響に関する不確実性、そして、第4 にわが国の財政の持続可能性を巡る様々な問題です。なお、最近の日中関係が日本経済に及ぼす影響については、日中両国の経済がグローバル・サプライチェーンのもとで重層的な相互依存関係にあることを踏まえると、影響が広がることがないかどうか注意深く点検していく必要があると考えています。物価固有のリスクとしては、マクロ的な需給バランスに対する物価の感応度に関する不確実性、企業や家計の中長期的な予想物価上昇率の動向、輸入物価の動向の 3 つを意識しています。先行きの金融政策運営については、わが国経済のデフレからの早期脱却と物価安定のもとでの持続的成長経路への復帰に向けて、強力な金融緩和を推進するとともに、成長基盤強化の支援や、本日導入を決めた新たな貸出支援策を通じて、緩和した金融環境の活用を一段と促していきます。日本銀行としては、引き続き適切な金融政策運営に努めるとともに、国際金融資本市場の状況を十分注視し、わが国の金融システムの安定確保に万全を期していく方針です。デフレ脱却という課題は、民間企業、金融機関等の幅広い経済主体による成長力強化の努力と金融面からの後押しが相俟って実現されていくものです。

§7Masaaki Shirakawa

この課題を達成するためには、政府と日本銀行がそれぞれの役割を果たしていく必要があります。日本銀行は、以上の認識に立って、強力な金融緩和を推進していきます。政府におかれては、「デフレからの脱却のためには、適切なマクロ経済政策運営に加え、デフレを生みやすい経済構造を変革することが不可欠である」との認識のもとで、日本経済の成長力強化の取組みを強力に推進することを日本銀行として強く期待しています。こうした両者の取組みについて、共有している認識を改めて明確に示すため、本日、政府とともに「デフレ脱却に向けた取組について」を公表することとしました。この「共通理解」とも呼ぶべき発表文の中では、デフレからの早期脱却と、物価安定のもとでの持続的成長経路への復帰という課題の達成に向けて、政府と日本銀行が最大限の努力を行うことや、それぞれが果たすべき役割について明らかにしています。このことは、それぞれが行う政策をより効果的なものとしていくと考えています。

§8Question

今ご発言のあった「デフレ脱却に向けた取組について」という政府・日銀の共同文書についてですが、これはいわゆる、政府・日銀の「アコード」に相当するものでしょうか。また、これまでも、政府・日銀でデフレ脱却に向けて連携を取ってきたと思いますが、これを「共通理解」として明確化することによって、今後、どのような変化というか、取組みを強化したということが期待できるのか、という実質的な変化について教えて下さい。

§9Masaaki Shirakawa

先程の説明と多少重複する部分があることはお許し頂きたいと思いますが、まず、今回の文書を発表した趣旨からご説明したいと思います。本日、日本銀行は、金融政策決定会合において、わが国経済のデフレ脱却に向けた当面の取組みについて、政府と日本銀行がこれまでも共有している認識を改めて明確に示すため、政府とともに、「デフレ脱却に向けた取組について」を公表することを決定しました。これは、両者のいわば「共通理解」とも言うべきものです。そこで示されているように、政府と日本銀行は、わが国経済にとって、デフレから早期に脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することが極めて重要な課題であるとの認識を共有しています。かねて申し上げている通り、この課題は、幅広い経済主体による成長力強化の努力と金融面からの後押しが相俟って実現されていくものです。このうち、金融面からの後押しという点について、今回のこの文書では、日本銀行は、金融面での不均衡の蓄積などの問題が生じていないことを確認した上で、当面、消費者物価の前年比上昇率 1%を目指して、それが見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置により、強力に金融緩和を推進していくことを改めて示しています。

§10Masaaki Shirakawa

また、成長力強化の努力という点について、今回、政府は、「デフレからの脱却のためには、適切なマクロ経済政策運営に加え、デフレを生みやすい経済構造を変革することが不可欠である」という認識をはっきり示されています。このように、デフレからの早期脱却と物価安定のもとでの持続的成長経路への復帰という課題の達成に向けて、政府と日本銀行が最大限の努力を行うことや、それぞれが果たすべき役割について、改めて明確に示すことは、先程申し上げた通り、それぞれの政策をより効果的なものとしていくと考えています。日本銀行としては、政府との十分な意思疎通を図りながら、引き続き、自らの判断と責任のもとで、その使命をしっかりと果たして参りたいと思っています。また、政府におかれては、繰返しになりますが、デフレを生みやすい経済構造を変革するという観点から、思い切った規制緩和を含め、日本経済の成長力強化に向けた取組みを強力に推進していくことを強く期待しています。それから、「アコード」に関するご質問についてです。「アコード」の定義は定かではありませんが、いわゆる「アコード」としてよく知られているのは、中央銀行の独立性に対する意識が高まる中、円滑な戦費調達のためにFRBが行ってきた国債金利上限維持政策の終了を宣言するため、1951年に米国財務省とFRBが公表した共同声明文です。

§11Masaaki Shirakawa

要するに、FRBの独立性を回復した共同声明文がいわゆる「アコード」です。本日発表した文書については、再三申し上げている通り、わが国経済のデフレ脱却に向けた当面の取組みについて、政府と日本銀行がこれまで共有している認識を改めて明確に示すものであり、いわば、両者の「共通理解」であるということです。日本銀行としては、もちろん、これまでもこういう認識を共有していますが、物価安定のもとでの持続的成長の実現に向けて、これからも努力をしていきたいと考えています。

§12Question

今回導入された貸出増加を支援するための資金供給策の趣旨についてお伺いしたいのですが、1 つは、これを導入することによって、具体的にどういう波及経路を辿って家計・企業の資金需要が高まるのかということと、また、どのような性格の貸出がこの制度の対象になるのかについて、教えて下さい。

§13Masaaki Shirakawa

重複をできるだけ避けつつお答えしたいと思います。いつも申し上げている通り、金融緩和政策の効果は、中央銀行による金融緩和の行動が金融環境に働き掛けていくという第 1 段階と、この金融環境を利用して企業・家計などの様々な経済主体が投資・支出を行うという第2 段階の2 つに分けられます。この第 1 段階については、わが国では、包括的な金融緩和政策を通じた強力な金融緩和の推進によって、企業の資金調達コストは低水準にあり、資金のアベイラビリティに関する安心感も確保されるなど、極めて緩和的な金融環境が実現しています。問題は第 2 段階であり、こうした緩和的な金融環境が活発に利用される状況を創り出していくことです。この段階で、緩和的な金融環境が活発に使われていくことになれば、経済・物価にも好影響を及ぼしていくことになります。この点では、何よりも、成長力を高め、魅力的な投資機会を作っていく努力が最も重要です。現在の日本経済を考えると、急速なグローバル化や高齢化の進展、あるいは大震災を契機としたリスク認識の高まりなど、様々な変化が生じています。変化は、様々なビジネスチャンスを増やしていくことですから、そうした潜在的なニーズを活かし、緩和的な金融環境を使って、投資・支出を是非とも増やしていって欲しい、企業も金融機関も、それから政府も、そういう努力をして欲しいと思っています。

§14Masaaki Shirakawa

この第 2 段階において、日本銀行ができることはないのかを考えた場合、これまで出してきた1 つの答えは、成長基盤強化支援の資金供給ですが、今回、これに加え、「貸出増加を支援するための資金供給」を創設することとしました。これは、金融機関による一段と積極的な行動と、企業・家計の前向きな資金需要の増加を促す観点から行うものです。金融機関の貸出について、円ベース、外貨ベースの貸出を問わず、希望すれば、全額、長期固定でファイナンスするものです。私どもとしては、これを大いに活用して欲しいと思いますが、最終的に利用するかどうかは、あくまでも企業なり家計が色々な投資・支出を行っていく、あるいはそれらに対して民間金融機関が貸出を行っていくという、あくまでも民間の判断です。ただ、日本銀行として、こういう資金供給の枠組みがあることをしっかり説明していき、できるだけ多くの主体がこれを利用して欲しいと思っています。次に、この制度の対象についてのご質問です。細かい点はこれから金融機関等と色々な意見交換を行いながら、日本銀行で実務的な詰めを行っていきますが、基本的には、対民間貸出、つまり企業・家計に対する貸出です。その中で、どういう資金使途に対して貸出を行っていくかは、まさにどういう活動に取り組んでいくかということであり、日本銀行が決めていくものではありません。その判断は、民間の金融機関が行うということです。

§15Question

これまで、金融緩和を一度実施した場合、何か月か効果を見極めるケースが多かったと思いますが、今回、2 か月連続の緩和に至りました。その理由についてお尋ねしたいのですが、これまで想定していなかったような、想定していたシナリオになかったような変化があったとすれば、それは、どういった点なのか教えて頂けますか。

§16Masaaki Shirakawa

この間の一番大きな変化は、やはり海外経済の減速が強まっていることだと思います。そのことは、9月の段階でも認識していましたが、その後の経済の展開をみても、減速はやはり強まっていると思います。これまでも、海外経済の減速が日本の輸出・生産の減少を通じ、やがて内需にも波及してくることは、頭の中では十分に想定しており、データで確認していこうと思っていましたが、例えば、ごく最近の製造業の新規求人あるいは製造業における所定外労働時間等をみても、そうした動きが少しずつ出てきていると思います。そういう意味で、ご質問へのお答えに戻ると、一番大きかったのは、やはり海外経済の減速が強まったということです。

§17Question

少しテクニカルな点について、お聞かせ下さい。貸出増加支援のための資金供給は、試算に当てはめると、15 兆円の規模になる可能性があるということですが、この 15 兆円には、海外で貸出を増やした分も入っているという解釈でよろしいでしょうか。つまり、この新制度では、海外での貸出が伸びた場合も対象となるという解釈でよろしいでしょうか。

§18Masaaki Shirakawa

その解釈で結構です。今回は、骨子を示し、細目はこれから決定していきますが、今のご質問に対する答えは、“YES”です。その通りです。

§19Question

それに関連してお伺いします。今の日本の金融機関の貸出は、国内ではかなりフラットで、どちらかというと海外で伸ばしているという印象がすごく大きいと思うのですが、そういった資金供給の形になり得るという解釈でよろしいでしょうか。

§20Masaaki Shirakawa

この 1年間の貸出をみると、記者の方がおっしゃった通り、外貨での貸出、あるいは海外での貸出が多いのは事実です。現在のように、経済・金融のグローバル化が非常に進展しているもとでは、日本の企業や経済が成長していく上で、内外という区別なく、金融機関あるいは企業の活動をサポートしていくことが、最終的には日本の成長につながっていくという判断です。もちろん私どもは、日本国内での投資が増えていくことを強く期待しています。そういう意味で、日本の企業が日本国内で投資をしていこうと魅力を感じるためには、規制緩和を始めとして、様々な成長力強化の取組みが不可欠です。そういうことが実際に実行に移されていけば、国内での貸出も増えていくので、その点を期待しています。

§21Question

政府との「共通理解」として公表された文書の 2.に関してお伺いします。「消費者物価の前年比上昇率 1%を目指して、それが見通せるようになるまで、」基金なども続けるということですが、2014年1月以降の基金の姿について、具体的には、その時も増額しているだろうというイメージなのか、2013年12月までに達成した残高を維持するということなのか、あるいは、償還によって少し減ってしまっても仕方がないということなのか、ご説明をお願いします。

§22Masaaki Shirakawa

日本銀行全体の金融緩和の大きな方針は、消費者物価の前年比上昇率1%が見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等による強力な金融緩和を続けていくということです。従って、2013年末を超えて 2014年以降の運営についても、そうした大きな方針のもとで行っていくということになります。

§23Question

3 点伺います。1 点目は、今回の決定会合の前に、緩和に関して色々な報道や市場の見方が出たと思いますが、そのような見方というのは、今回の緩和を決定する上で、影響というか、あるいは「しんどさ」というのがあったのか、伺います。2 点目は、本日、決定内容の発表が遅れたこともあって市場が荒れたようですが、市場とのコミュニケーションという意味で、ご感想があればお願いします。3 点目は、新しい貸出枠の創設についてです。銀行で貸出を増やしている先は、おそらくこれまでの金融緩和によって得られた資金を使っているのではないかと思いますが、改めて新しい枠が設けられることの銀行にとってのメリットについて、ご説明下さい。

§24Masaaki Shirakawa

まず、最初に、今回の決定会合前の様々な市場の声が、記者の方の言葉を借りると、「しんどさ」というものになったのか、というご質問です。私どもとしては、経済・物価の先行きをみて金融政策を判断していくということです。もちろん、市場参加者は、それぞれが解釈する先行きの経済・物価見通しに従って、現実の価格形成をされていくわけです。市場の声は市場の声として私どもも注意深くみていますが、市場の動き、あるいは市場の声というものに、私どもが機械的に反応していくわけではないことは、記者の方もご承知の通りだと思います。それから、市場の見方というものは、必ず、ある価格について、より強気な見方と弱気な見方があって、その双方が拮抗して、ある価格がついているわけです。つまり、何かひとつの「市場の見方」が存在するわけではないということです。市場をみていくというのは、むしろ、様々な見方があるということを市場の動きの中からみていくということだろうと思います。それから、2 点目は、本日の決定会合の終了時刻が少し遅くなった点についてですが、それだけ真剣に議論を行っているということと思っています。もちろん、私どもとしても、できるだけ市場の開いている時間に、かつ大体予測可能な時間に発表を終えたいという気持ちは持っています。

§25Masaaki Shirakawa

ただ、逆に、最初からある時間を定めて、その時間に発表するために本来行うべき議論を行わずに決定してしまうとなると、これはやはり中央銀行としては軽率だと思います。そういう意味で、両者のバランスを取りながら確認や議論を行っていますが、本日も、それだけ真剣な議論を行った――もちろん、時間が長いから真剣で、短ければ真剣ではないということではありませんが――ということです。3 点目は、先程申し上げた、緩和的な金融政策の第 1 段階、つまり緩和的な金融環境を実現するという点において、足許、極めて緩和的な環境が実現しているというのは、記者の方もおっしゃる通りです。私どもとして、そのような意味で、第2 段階に属する努力、つまり成長力強化が非常に重要であるという点については、全く同感です。しかし、日本銀行としてできることはないかと考えた場合に、まず、第1 段階の緩和的な金融環境について、基金の11兆円程度の増額を行いました。それから、貸出増加の支援ということについては、第1 段階と第 2 段階の双方に関係してくる話だと思います。もし、金融機関として、もう既に十分に資金が潤沢にあって、それだけのお金は必要ないと、そこまで緩和しているのだと感じられる場合には、日本銀行の資金供給に対する申込みが減ってくることになります。そのような金融機関が存在しても、それは金融機関の判断です。

§26Masaaki Shirakawa

私どもとしては、少なくともこのような制度があることによって、より貸出を行いたいという金融機関があれば、使って欲しいと思います。それから、企業の中には、このような資金供給が日本銀行において存在するのであれば、自らの取引先金融機関と話をして、例えばこのような投資を行っていきたいという先が出てくるかもしれません。そうしたことを期待しているということです。

§27Question

資産買入等の基金の 11 兆円増額は、2013年末までに全て完了することになっていますが、消費者物価の前年比上昇率1%が 2014年に見通せないという中で、2014年に完了するという考え方はなかったのでしょうか。

§28Masaaki Shirakawa

まず、基金に限らず、金融政策の効果が表れるには少し時間が掛かります。1年、1年半から 2年というように、大変長い時間が掛かってきます。また、今回、検討するよう決定した「貸出増加を支援するための資金供給」は、まだ制度の細目が決まっているわけではありません。もちろん、各委員の予測の中には、この貸出増加支援のための資金供給の効果もある程度織り込んでいると思いますが、完全に織り込めているかというと、これはなかなか織り込みにくい性質のものだろうと思います。それからもう 1 つ、今回の「共通理解」の文書にも示されているように、消費者物価上昇率1%という目指すべき姿は、日本銀行だけで実現できるものではないということを、政府自身も認識している通りであり、政府もこの間、強力に「日本再生戦略」に取り組んでいくということも謳われています。こうした政府の取組みは、具体的には既に決まっているものもありますが、これから決めていくものもあります。そうした取組みによるプラス効果をどの程度織り込むかについて――もちろん委員によって差があると思いますが――、仮にそうしたものが実現していけば、むしろ上振れ要因にもなってくると思います。

§29Question

物価安定の目途である 1%について、今回の展望レポートでは、2014年度に「近づいていく」という表現になっています。4月の展望レポートでは「遠からず達する」というように、到達する時期について言及していたと思いますが、なぜ今回は「近づいていく」という表現に止まり、 1%に到達する時期を示せないのかについてご説明をお願いします。また、2014年度に「近づいていく」ということは、論理的に考えると、2015年度には達成できるという見通しだと考えてよいのでしょうか。

§30Masaaki Shirakawa

まず、物価上昇率が2014年度に 1%に「近づいていく」という点です。2014年は、かなり先のことですから、もちろん委員によって多少のニュアンスの差はあります。その辺の見方の違いは、今回お示しした分布図に出ていますが、全体としては、1%に「着実に近づいていく」というイメージだと判断しています。今回の見通しは 2014年度までですから、2015年度がどうかということでは、もちろん各委員の頭の中にイメージはあると思いますが、2015年という3年後について、確度の高い見通しを持つことの方こそ、やや不自然な感じがします。先になればなるほど、当然、その不確実性は高まっていくわけですが、大事なことは、経済・物価がどういう方向に向かっているかということです。私どもの基本的な想定としては、世界経済の減速がいずれは終息し、IMF等の見通しと同じように、その成長率が次第に高まっていくというものです。これにより、日本の輸出にも当然相応の影響が出てくる中で、ゼロ%台半ばの潜在成長率を上回る成長率が実現していくわけで、そうして需給ギャップが解消していくとなると、それは、物価上昇率に少しずつ反映されていくことになります。経済が、そうした軌道を踏み外しているのかどうかということについては、今回は、このような政策措置も採り、政府も対策を採っていく中で、そうした軌道に乗っているという判断です。

§31Question

まず、簡単な事実関係として、政府と同じ紙で共同声明を出すこと、決定会合後にこうした声明を出すことは、新日銀法以降で初めてかどうか、教えて下さい。2 問目は、本日決定した新しい資金供給についてです。成長基盤強化支援とあわせるとのことですが、これまでの成長基盤強化支援の資金供給は止めるという理解でよいのでしょうか。3 問目は、同じ類の質問ですが、本日発表された内容をみると、今まで成長基盤強化として実施していた内容と極めて似ている、あるいは、ほとんど一緒ではないかと思えます。もし、今回新たに実施すること──一律に 0.1%で 1年、最大4年の貸出を、ほぼ無制限にやるということ――が、仮に効果があるとすれば、なぜ成長基盤強化を始めた時にこれをやらなかったのか。もう2~3年が経つわけですが、もし効果があるとすれば、もっと早くやっていた方が効果があったのではないか。つまり、よく言われる“too late too little”という批判が当てはまるのではないかと思うのですが、この点について、どうかということです。

§32Question

一方、成長基盤強化支援を止めるということであれば、今まで、日銀は、こういう貸出が成長基盤強化に資するだろうとの期待の上にその政策をやっていたと思うのですが、どこまで効果があったかの総括的な評価もせず、のべつまくなしに、成長基盤強化であろうがなかろうが――例えばゾンビ企業も含まれるかも知れませんが――、同じような支援をするという趣旨なのかどうかをお聞きします。

§33Masaaki Shirakawa

第1 問目ですが、新日銀法になってから、日本銀行が政府と連名で文書を公表するのは今回が初めてです。第2 問目は、成長基盤強化支援のための資金供給を止めるのかというご質問ですが、これは止めません。第3 問目は、成長基盤強化支援と今回の資金供給との関係ですが、両者は補完的な関係にあると考えています。共に、わが国の金融環境の一層の活用を促すという点では共通していますが、枠組みの細部において若干異なっており、両者は補完的なものです。「成長基盤強化支援のための資金供給」は、わが国経済の成長に資する投融資を行う金融機関に対し、投融資の内容を個別に確認した上で、投融資の総額の増減にかかわらず、日本銀行が低利かつ長期の資金を供給する枠組みとなっています。この措置は、もちろん、資金を供給することにも意味はありますが、成長基盤を強化していくことの重要性に幅広く共感して頂くと共に、実際に企業や金融機関がその取組みを進める上で、「呼び水」としての効果を発揮してきていると判断しています。この制度を始めた直後は、必ずしも十分な理解は得られていなかった面もあったように思いますが、その後、金融機関の取組みをみると、日本銀行がこうした旗を掲げることによって、それぞれの銀行の中で成長基盤強化に取り組む体制が整備されてきた、あるいは行員の意識も随分変わったという話もよく聞いています。

§34Masaaki Shirakawa

一方、「貸出増加を支援するための資金供給」については、貸出のネット増加額について、金融機関が希望するだけ、日本銀行が低利かつ長期の資金供給を、総額無制限で供給する枠組みとなっています。確かに、両者は一部重なる面はありますが、日本銀行としては、金融緩和の実体経済への波及を、あらゆる視点から強める努力を行うことが重要だと思っています。今、この緩和的な金融環境のもとで、金融機関がどのような企業に対して貸出を行っていくのかは、金融機関自身が様々な企業やプロジェクトの収益性、将来性あるいはリスクを勘案しながら判断していくものです。一方で、記者の方がおっしゃったように、緩和的な金融環境が非効率な企業の温存に繋がっていく、という批判があることも十分承知しています。私どもとしては、全体としての緩和的な金融環境をしっかり作るという形で経済をサポートすると同時に、個々の金融機関においては、真に成長していく企業を十分に見極め、貸出をしっかり行って頂きたいと思っています。

§35Question

消費者物価上昇率 1%が見通せるようになるまで実質ゼロ金利、緩和を続けるということですが、その「見通せる」という言葉の定義を確認させて下さい。展望レポートに書かれている「 1%に着実に近づいていく」という状態が、この「見通せる」という状態には達していないということなのか、もしそうだとすれば、その「見通せる」という状態になるのは、どのような状況に変化した時なのか、ご説明をお願いします。

§36Masaaki Shirakawa

まず、今回の展望レポートの「1%に着実に近づいていく」という判断ですが、「1%が見通せる」という判断には至っていません。どういう状況になれば「見通せる」のか、ということですが、もちろん、物価に限らず景気もそうですが、「見通せる」ための何か機械的なフォーミュラがあるわけではありません。いつも申し上げていますが、物価の先行きを規定するのは需給ギャップであり、あるいは予想インフレ率や輸入コストの動向です。私どもとしては、そうした変数に影響を与えていく様々な要素を入念に点検しながら、毎回の決定会合で点検していくことになります。

§37Question

まず、本日の物価の見通しの関係ですが、2014年度についても中央値で 0.8%ということで、1%には届かないわけです。今回は総裁の任期中の最後の展望レポートですが、1%に達しない、ある意味デフレから脱却する、デフレ脱却を見通せる数字を任期中に見通せないことについて、原因は何なのか、経済の外部環境なのか、あるいは政策に問題があるのかなど色々な見方があると思いますが、その点について総裁はどのようにお考えでしょうか。また、政府との共同文書について伺います。先程のお答えでは、新日銀法のもとでは初めてという話で、この文書は政府に対して日銀が注文を付けるという形になっていますが、日銀に関する部分の表現振りでみると、2月に「物価安定の目途」を公表した時とほとんど変わらない、全く変わっていません。ここは審議委員からも一部ご意見があったようですが、日銀として、 1%を目指すもっと強力な姿勢を示すなど、そういう姿勢を示すべきではないかという意見は当然あると思うのですが、そうしなかった理由は何か、お伺いします。

§38Masaaki Shirakawa

まず、デフレとは、「物価が継続的に下落する状態」です。2013年度の見通しは、物価上昇率がマイナスではなくプラスで、中央値で+0.4%です。2014年度は、消費税率引上げの影響を除くケースでは+0.8%です。そういう意味で、デフレを、「物価が継続的に下落する状態」と定義した場合には、そうした状態からは脱しているわけです。私どもが申し上げているのは、消費者物価上昇率 1%を見通せるようになるまで強力な金融緩和を続けるということですから、デフレをそのように定義すると、これはデフレではない状態です。なぜ、物価上昇率が低いのかというご質問ですが、これは、基本的には需給ギャップだと思います。リーマンショック後、需要が大きく落ち込み、今もなお需給ギャップが完全には解消されていないということです。需給ギャップについては――色々な推定値がありますが――、 2%ということですから、それがまだ残っているというのが短期循環的な要因です。しかし、より大きな理由は、日本経済の潜在成長率が徐々に下がってきており、その背後には、急速な高齢化に伴う労働人口の減少、あるいは国内市場の減少、さらに、そうした状況に国内の様々な制度が追い付いていないことがあるということです。

§39Masaaki Shirakawa

企業や家計において、将来の所得が増えていく、所得または収益が増えていくと感じられないことが、支出の減少、従って物価がなかなか上がらないことに繋がっているというのが最も本質的な原因です。従って、物価上昇率が上がっていかない状況を脱却するためには、この面での努力が不可欠だということを強調したいと思います。

§40Question

まず、資金供給制度の新設について 2 つ質問があります。1 つは、もう少し噛み砕いたイメージをお聞きしたいのですが、例えば、直近、某企業の海外M&Aのために、金融機関がかなり巨額の貸出をしていますが、そういったことに使われ易くなるというイメージを一般の人に持ってもらうのが良いのでしょうか。あるいは、生産の落込みが急で、一部の企業はかなり業績が悪化したり財務体質が悪くなっています。そういう企業が一時的に運転資金を必要とすることに対して、銀行が救援資金を出す場合に使ってもらうことも視野に入っているのでしょうか、という質問です。2 つ目は、メガバンク等はBISの自己資本規制がかかっており、貸出をすると自己資本をより厚く積まなくてはいけないことがネックになって、貸出増加が非常に難しい面もあることは、よく言われていることと思います。この部分については、この制度を利用して欲しい日銀としては、どういうメッセージを発するのでしょうか。3 つ目は、本日、鉱工業生産指数が発表され、先行き予測値もかなり落ちています。7~9月が前期比マイナス 4.2%、10~11月平均が 7~9月比でマイナス 3.8%下がっています。本日、追加緩和をされましたが、この先、景気の落込みが激しくなることを予感させるような数字が出ています。景気後退のリスクも、以前より大きくなっている気がします。

§41Question

景気後退の危険性・可能性について、総裁はどう思っているのかお伺いします。

§42Masaaki Shirakawa

1 問目ですが、前のご質問にもありましたが、私どもとして、貸出増加支援の資金については、個々の内容につき、こういう資金が良いとか悪いといった判断を持っているわけではありません。ただ、過去1年間の貸出増加の中身をみると、増えているのは外貨であり、海外での貸出であることは、その通りです。ただ、1 つ 1 つの貸出については、一方で増えてまた減るということですし、ご質問にあったM&Aのつなぎ資金も、最終的には回収されるものでしょうから、資金使途について日本銀行がコメントするのはいかがかと思います。2 つ目の自己資本比率規制との関係ですが、日本の金融機関は2000年代の初頭に不良債権問題を概ね解決し、現在は、自己資本が全体として貸出姿勢の制約になっているとは認識していません。欧州債務危機の後、欧州の民間銀行が貸出を抑えていく―― いわゆるデレバレッジングを行っていく――中で、それを形の上で増やしている先はどこかというと、1 つは日本の金融機関でした。このことが示すように、今、貸出の自己資本比率規制がネックになっているとは認識していません。いずれにせよ、日本銀行としては、マクロの政策判断として、こうした資金供給を導入したわけですが、一方で、個々の金融機関は健全経営に努めていく必要があります。

§43Masaaki Shirakawa

従って、日本銀行のこういう資金供給の枠組みがあるということで、民間金融機関が、 ALM (資産負債管理)や信用リスク管理を踏まえた上で、この制度を利用しようと思った場合には、日本銀行は全額供給するということです。利用しようと思うかどうかは民間金融機関の判断で、民間金融機関として適切なリスク管理を行った上で日本銀行に応募してくると理解しています。3 つ目は、先々の景気に関するリスク要因についてです。先程、1 番最初の問いにお答えした通り、経済をみていく上で、リスク要因は幾つかあります。そうしたリスク要因には、下振れリスクと上振れリスクがあります。両方を比較考慮した場合に、私どもはどちらかと言えば、下振れリスクの方を意識する必要がある、と思っています。

§44Question

新しい貸出制度について、もう1 度基本的な考え方を教えて頂きたいと思います。民間金融機関の貸出のネット増加分について、ある意味、日本銀行が紐付きというか全額をサポートするわけで、かなり、従来の銀行が行っていた預金集め、あるいはマーケットからお金を調達して貸出をする形態から変わってくると思います。つまり、民間から調達したお金を民間に貸すという基本から変わってくることについて、もう 1 度、考え方を整理して教えて頂きたいと思います。もう 1 点は――総裁はあまり好まれない質問かもしれませんが――、今回「無制限」という言葉を使われました。前回の記者会見の中でも、要するに欧米が行っている無制限ないし無期限に対し、日銀はそれを行っていないけれどもやはり緩和しているのだ、というご指摘がありました。今回、あえて「無制限」というキャッチフレーズを使われた理由について、日本も緩和姿勢が相当強いことを示していくのだというニュアンスがあるのかどうかを、お伺いしたいと思います。

§45Masaaki Shirakawa

第1 問ですが、私どもは金融緩和の第 2 段階で、もう少し効果を上げていきたいと思っています。繰返しになりますが、この第2 段階で最も有効な施策は、規制緩和を始めとして、実際に投資をすることが魅力的だと企業に思わせる環境作りです。そのことを出発点とすると、今、記者の方のご質問にあったように、この制度についての懐疑的な問いになるのだと思います。しかし、日本銀行としては、それを全て政府の責任とはせずに、日本銀行として、できることは何かを考えた場合の答えがこの制度であるということです。従って、これだけで問題が解決すると言っているものではありません。それから、貸出の全額もしくは一定割合を日本銀行がファイナンスしていくというのは、90年代後半に日本銀行が同じような制度を実施しました。ごく最近も、BOEが日本銀行の制度と非常に似ている制度を 7月に導入しました。そういう意味で、これは中央銀行としてオーソドックスな方法ではありませんが、経済に対してどのように働き掛けていくかについて知恵を出したわけです。先程からの記者の方からのご質問では、これをやっても効果がないのではないかという問いと、一方で、物価が十分に上がらないからもっと何かをやるべきではないか、という両方の相反する問いを受けているように思います。

§46Masaaki Shirakawa

繰り返しになりますが、これは誰か1 人の、何か1 つのアクションでデフレの状況が是正されるということではなく、何よりも民間企業自身のチャレンジが必要ですし、そのチャレンジをサポートする金融機関の貸出が必要です。それから、民間企業がチャレンジする環境を作る政府の努力が非常に大事ですし、日本銀行による強力な金融緩和の後押し、この組合せが必要だということです。次に、「無制限」云々についてのご質問です。まず、FRBの措置についての誤解というか、その認識についてご説明した方が良いと思います。FRBは、 9月のFOMCにおいて、労働市場の見通しが改善するまで、MBSの買入れを継続することを決定しました。この間、日本銀行は、消費者物価の前年比上昇率 1%が見通せるようになるまで、強力な金融緩和を推進していく方針を明確にしています。このように、望ましい経済・物価の姿を示しつつ、その実現に向けて必要とされる政策を続けていくことを明らかにするという点で、 FRBと日本銀行の金融政策の運営の仕方は共通していると思っています。FRBのMBS買入れは、しばしば「無制限の買入れ」と理解されていますが、正確には「労働市場の見通しが改善するまで」という条件が付いており、その点で、日本銀行の物価の話と同じだと思っています。一方、日本銀行では、消費者物価の前年比上昇率 1%を目指して、様々な手段を駆使しています。

§47Masaaki Shirakawa

資産買入等の基金では、当初、基金規模を35 兆円、期限を2011年末までとしていたものを、現在91 兆円程度となり、期限も 2013年末までと、当初の予定を遥かに超えて大規模なものとなり、期限も大幅に延長されています。それから、成長基盤強化支援の拡充や、本日決定した新たな貸出支援策の導入など、当初想定していなかった制度・施策を次々と打ち出しています。繰返しになりますが、そういう意味で、消費者物価上昇率 1%を目指して、予め期限等を限定せず、新しい手法も駆使して強力に金融緩和を推進しているという点を改めて強調したいと思います。そして、今回の貸出増加支援について「無制限」と申し上げたのは、私どもとして、金融機関ができるだけこれを活用して欲しいという気持ちを込めているわけです。例えば、前年からの貸出増加実績は 15 兆円であり、その15 兆円に、ある数字を加えて、予め金額を発表することももちろんできますが、私どもとしては、金融機関がより貸出を増やしていくことを期待して、限度を設けないと言った方が良いと判断したという趣旨です。

§48Question

貸出支援基金についてです。当初、成長基盤強化支援融資を導入した時は、異例の措置なので、それほど延々とやるわけにもいかないという趣旨の話をされていたと思うのですが、今回、無制限で行う、その中に成長基盤強化支援の資金供給も入れるという意味で言うと、貸出支援基金の中では、その位置付けが当時のお考えから少し変わったということでしょうか。

§49Masaaki Shirakawa

まず、成長基盤強化支援は、2014年3月末という期限を設けていますが、今回の貸出増加の支援については、制度の期限をどうするか、これから詰めていくので、まだ決まっていません。いずれにせよ、貸出支援基金という大きな枠の中に、2 つの枠組みがあるということです。従って、成長基盤強化支援がなくなるということではありません。

§50Question

今回、買入基金でリスク性資産の買入を増やすことになりましたが、日銀の自己資本に対して、リスク性資産をどの程度買い入れることができるのか、目途あるいは考え方というのが何かありますか。

§51Masaaki Shirakawa

中央銀行は、国民の皆様から、通貨を発行するという権能を預かり、その上で金融資産を買っているわけです。現在のように、リスク性資産を買うということは、その分、その価格変動リスクあるいは信用リスクにも晒されるということです。仮に、このリスクが顕在化した場合には、日本銀行による国庫納付金の減少という形で、最終的には納税者の負担にもなってくるわけです。そういう意味で、中央銀行の財務の健全性は大事です。例えば、日本銀行として、含み損が発生した場合には引当金を積むことも行っていますし、そもそも、日本銀行の自己資本との関係で取れるリスクはどの程度であるか、入念に点検しながら政策を運営しているということです。その点については十分意識しながら運営しています。

§52Question

今回の金融政策決定会合の前に、いくつかのメディアでは「金融緩和10 兆円規模」という報道があったと思うのですが、この数字が出たというのは、日銀に取材した事実があった上で出たのでしょうか。それとも、日銀は全く預かり知らずに、こういう報道が出たのでしょうか。また、新しく創設された「貸出増加を支援するための資金供給の枠組み」について、今後、「具体的な検討を行い、改めて金融政策決定会合に報告するよう指示した」とありますが、これは、いつの金融政策決定会合で、どういう報告があって、どう公表されるのかというスケジュールがあれば、教えて下さい。

§53Masaaki Shirakawa

まず、買入基金の規模ですが、メディアの方がどのように取材をされているのか私は知りませんから、むしろ、ここにおられるメディアの方に聞いて頂きたいというのが私の答えになります。日本銀行自身は、先程、決定会合の時間が長引いたということを申し上げましたが、決定会合の場で真剣に議論を行っています。従って、これを決めたのはまさに本日です。そういう意味で、先程の日本銀行への取材云々ということについて、私が直接お答えすることは避けますが、日本銀行としては、本日、真剣な議論を行って決めたということです。また、貸出増加支援の検討のタイムスケジュールですが、民間金融機関の色々な実情についても調査する必要がありますし、実務的な詰めも必要になります。出来るだけ早く、検討の結果を踏まえて決定したいと思いますが、私どもとしては、年内にこれを固めたいと思っています。具体的な制度に落とし込んでいくわけですから、金融政策決定会合で決定し、決定したら直ちに公表する、という運びです。

§54Question

2 点ほど確認のためお伺いします。まず、物価上昇率 1%が見通せるまで強力な金融緩和を進めるという中に、貸出支援基金に基づく貸出も含まれているのか、つまり、1%が見通せるまで貸出支援基金に基づく貸出も続けるのかというのが 1 点です。もう1 点は、先程の質問へのお答えの中で、今、日銀がやっておられることは、 FRBの行っていることと実質的には違いはないというご説明でしたが、FRBが行ったことは、俗に「オープンエンド方式」と呼ばれているわけです。日銀が行っていることが、そういう呼ばれ方をされても、総裁としては違和感ないというか、そういう呼び方がされ得るものだとご認識されているのか、教えて下さい。

§55Masaaki Shirakawa

まず、今回の貸出増加支援を続ける時期ですが、細目は年内に決定します。従って、今申し上げられることは、今後の議論の結果、細部を詰めていくということです。この資金供給自体は、先程来、多くの記者の方からご質問があった通り、中央銀行としては異例の措置です。金融緩和の第2 段階に働き掛けていくことを意識しているわけですが、そうした制度の考え方からすれば、資産買入等の基金の運営と時期を全く同じとすることを予め決めているものではありません。もちろん、結果として同じになる可能性を否定はしませんが、両者は別ということです。これは、あくまでも中央銀行として異例の措置を、ある期間行っていくという性格のものです。それから、2 点目の「オープンエンド」という話ですが、日本銀行は、第一義的には、日本の国民に対して説明責任を有しています。もちろん、最終的には、内外の市場参加者も含めて説明責任を有していますが、第一義的には、日本の国民に対して語りかけなければならないという立場です。「オープンエンド」という概念自体、そもそも曖昧ですし、ごく普通の国民からみて「オープンエンド」というものが何を意味するのか、分かり難いと思います。そういう意味で、「オープンエンド」という言葉に違和感はないかというご質問でしたが、私としては、日本語で正確に表現したいと思っています。

§56Masaaki Shirakawa

日本銀行は、消費者物価の前年比上昇率 1%を目指して、予め期限等を限定せず、新しい手法も駆使して、強力に金融緩和を推進しているということです。それからもう 1 つ、私自身がこういう質問を聞きながら感じることですが、日本銀行は、この 10 数年間、金融緩和政策の面で常に世界の中央銀行の先頭を走ってきたという自負があります。もちろん、これは日本経済の厳しい状況に対応する必要から生まれてきた様々な政策です。今、海外の多くの中央銀行が採用している政策の中で、日本銀行が採用してこなかった政策はほとんどないという感じがします。それにも関わらず、日本の政策を議論するときに、常に米国の議論があり、それから米国に照らして日本の政策を議論していくというのは、非常に寂しい構図だと思います。私どもとしては、私どもがフロンティアであるという思いを持って、政策を行う者も、あるいは政策にコメントする者も、そういう気持ちで政策を考えていきたいという思いです。

§57Question

本日、公表された「デフレ脱却に向けた取組について」という文書の性質について教えて下さい。まず、「共通理解」とおっしゃったのですが、これは、日銀もこの内容を達成するように拘束されるということでよろしいのでしょうか。2 点目は、この文書は、今回の日銀の決定会合の中で決められたわけですが、政府側は財務大臣と経済財政担当大臣の署名があるだけです。日銀としては、政府側のこの文書の実現に向けた担保というものは、どのように取れたとお考えなのでしょうか。3 点目は、決定会合後にこのような文書を出されるというやり方で、今後も日銀と政府とのコミュニケーションをされていくのか、状況が変われば、新たな文書を出してコミュニケーションをされるのか、要するに、この文書を出したことで、1 つの前例ができてしまったと考えるのですが、それについてどうお考えでしょうか。

§58Masaaki Shirakawa

まず、1 点目についてです。これは、従来、日本銀行が対外的にも、それから政府にも申し上げている認識を文書に落としたものです。政府も、これまで、日本銀行に述べ、あるいは対外的にも述べていることを文書にしているものです。従って、従来と何か違う認識をここに込めたというものではありません。あくまでも、これまで共有している認識を改めて明確に示したというものです。「拘束される」という言葉の語感ですが、日本銀行が物価安定のもとでの持続的成長の実現に向けて政策を行っていくということは、私どもの意識としては、「拘束」ではなく、それはまさに日本銀行法に定められたことを忠実に行っていくということです。2 点目は、政府の措置について、これを実行する担保は何かというご質問です。こうした文書を共同で発表するというのは、もちろん日本銀行にとっても、改めて認識を明確にするという意味で重いものですが、政府にとっても非常に重たいものです。従って、政府は、これについて強力に取り組んでいくということを政府自身が明らかにしているわけですから、このことの持つ意味は非常に重たいと私は受け止めています。3 点目の前例云々ということについてです。

§59Masaaki Shirakawa

今回、海外経済の減速や、先程この「共通理解」をなぜこのタイミングで発表したのかについてかなり詳しく説明したつもりですが、そこで申し上げたような状況の中で、今回、両者の考え方を改めて明確に示すことは、それぞれの持つ政策の有効性を高めていくと判断したということです。従って、今後、こういう方法を毎回行っていくということでは必ずしもありません。このタイミングで改めて出すことが有効であると判断したということです。以上