← Back
Bank of JapanPress conferenceNov 26, 2012Masaaki Shirakawa, Governor

総裁記者会見(2012年11月26日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

2 点質問させて頂きます。1 つ目は当地の経済についてです。海外経済の減速、エコカー補助金の終了などを背景に東海地方の景気回復は一服感があります。本日の懇談を踏まえて、先行きの見通しについて総裁のご見解を伺います。続いて2問目ですが、建設国債の引受けについてです。賛否が分かれていますが、日銀の独立性の観点から適当でないという声がある一方、デフレ脱却のために積極的な金融緩和を求める声もあります。これについての総裁の見解を伺います。以上、2 点よろしくお願いします。

§2Masaaki Shirakawa

まず、景気に関するお尋ねですが、本日は当地の経済界、金融界を代表する方々から地域経済の現状に関する貴重なお話や金融政策運営に関する率直なご意見を数多く頂き、極めて有意義な意見交換であったと思います。東海 3 県の景気については、名古屋支店で判断している通り、「全体として弱めの動きとなっている」とみています。個人消費や住宅投資など内需は総じて底堅く推移しているものの、エコカー補助金の終了や、欧州や中国を中心とする海外経済減速の影響に加え、最近では日中関係の影響もあって、自動車関連産業を中心に輸出・生産がはっきりと減少しています。本日の懇談会の出席者も、景気の現状についての認識は概ね同じであり、そうした中で円高継続の影響を懸念しているというご意見を多く伺いました。その上で、今後の東海 3 県の景気見通しについて申し上げると、基本的には、全国と同じように、当面弱めに推移するとみられますが、その後は、エコカー補助金終了に伴う自動車販売の反動減の収束や海外経済の持ち直しにつれて、緩やかな回復経路に復していくとみられます。しかしながら、先行きについては、当地の場合、特にエコカー補助金終了の影響がいつまで続くかという点や、欧州や中国を始めとする海外経済の情勢、為替相場の動向等について注視していく必要があると思っています。

§3Masaaki Shirakawa

なお、当地では、経済界として当地のモノづくりの歴史の中で育まれた技術をベースに、成長分野の振興に取り組んでいるというお話や、金融機関としても、日本銀行が導入した「成長基盤強化を支援するための資金供給」制度も活用しつつ、成長に資する事業の取組みを支援していくという話をお伺いしました。このように、企業と金融機関とが息を合わせて成長基盤の強化に取り組んでおられることが窺われ、大変心強く感じたところです。私としては、そうした取組みによって東海地域の経済が今後とも益々発展し、ひいては日本経済全体の成長力強化につながっていくことを期待している次第です。2 つ目の問いについてですが、安倍総裁の発言について、私の立場からコメントすることは差し控えたいと思います。ご質問の点について、一般論としての日本銀行の考え方については、先日の金融政策決定会合後の記者会見で申し上げたことに尽きています。デフレからの早期脱却という課題は、幅広い経済主体による成長力強化の努力と、金融面からの後押しの双方が揃って初めて実現されるものです。日本銀行としては、今後とも、デフレからの早期脱却と、物価安定のもとでの持続的な成長の実現に向けて、中央銀行として最大限の努力を続けていく方針です。また、政府に対しては、強力な成長力強化の取組みを強く期待しているということです。

§4Question

中経連の三田会長と名古屋商工会議所の木村副会頭から、円高が続くことによる産業の空洞化への懸念が改めて強く示されましたが、東海地方の今後の経済を考える上で、日銀として、三田会長や木村副会頭等のご要望に対してどのように応えられるのかという部分をお聞かせ願えればと思います。

§5Masaaki Shirakawa

自動車関連企業を始めとする当地の企業が、円高の問題を始め厳しい競争環境に直面しており、産業の空洞化を懸念されていることはこれまでも認識していましたが、本日の懇談会においても、改めてそうした懸念が表明されたところです。そうした中にあって、当地企業では、技術力を活かした魅力的な新商品の開発や徹底したコストの削減など様々な対応を講じておられるとともに、新興国を中心としたグローバル市場の拡大という世界経済の構造変化に対応するため、最適な生産拠点の構築に向けて、海外展開を進められているものと理解しています。こうした対応とともに、技術水準やブランド価値の高い財・サービスを中心に国内の企画・開発・生産体制を再構築していくことや、高齢化社会のもとで多様化するニーズに目を向けて国内市場を掘り起こしていくことも、当地経済の発展にとって重要な取組みと考えられます。こうした展開は、何よりもチャレンジ精神に溢れた企業自身の取組みによって可能となるものです。変化を前向きに受け止め、不確実性をチャンスととらえることが重要です。この点、当地は昔から企業家魂の根付いている地域として知られており、経済界としても、次世代自動車産業や航空機産業、ヘルスケア産業などの次世代産業の振興に取り組まれているというお話を伺いました。

§6Masaaki Shirakawa

私としては、そうした不断の取組みを通じたイノベーションが当地の成長力強化につながっていくことを期待している次第です。それと同時に、政府が規制等を柔軟に見直すことなどを通じて、企業の前向きな取組みを支援していくことも重要です。日本銀行としても、様々なことに取り組んでいます。海外経済の減速が長引くこの局面での円高というものが、輸出や収益の減少、あるいは企業マインドの悪化を通じて日本経済に負の影響を与えているということは、日本銀行としても十分認識しており、このことは講演の席でも申し上げた通りです。日本銀行は、この 9月、10月と金融緩和の強化を実施したわけですが、そうした円高の影響も含めて、景気・物価情勢を入念に点検し、そうした措置を採ったわけです。日本銀行としては、金融機関による成長基盤強化の取組みや貸出の増加を支援するとともに、実質的なゼロ金利政策や資産買入等の基金の着実な積上げを通じて、強力な金融緩和を間断なく推進していくことで、中央銀行としての使命をしっかりと果たしていく方針です。

§7Question

懇談会の中で、総裁は、日本経済の成長力の強化ということに関して、民間企業の果たす役割の重要性をご指摘になりました。その中で、当地、中部経済の企業について、過去に幾多の困難を乗り越えてきた、フロンティアを切り拓いてきた実績があるとおっしゃいましたが、それは、例えばどういうことについておっしゃっているのか、またそれを踏まえて、今後、付加価値の高い商品・サービスを提供していくというのは、どういった分野を特に期待されていらっしゃるのか、教えて下さい。

§8Masaaki Shirakawa

私は、個々の企業経営の厳しさや実態、ビジネスモデルを正確に知っているわけではありませんが、当地の経済をみると、自動車産業や工作機械、電子部品産業などの製造業は、当地のみならず、わが国にとって重要な基幹産業であり、これらの産業が今後拡大するグローバル経済の中で、どういった形で展開していくかは重要な課題であると認識しています。過去を振り返ってみると、為替相場は、1 ドル 360 円の時代から現在のこの円高の水準まで趨勢的に円高化しているわけですが、そうした中にあっても、まさに当地がモノづくりの拠点として非常に大きな存在であったというその事実自体が、この困難な時代の中にあっても、地平を切り拓いてきたということを物語っていると思います。当地の製造業は、コスト削減等の不断の企業努力とともに、将来をも見据えた新しい取組みに挑戦しています。三田会長からも、幾つかの具体的な、例えば航空宇宙産業であるとか、あるいは医療・介護等の話、あるいは観光等についてもお話がありました。私には、当地の産業のうちどの産業が最も有望であるかを具体的に語る資格はありませんが、色々な取組みが現になされていることに関しては大変力強く思った次第です。

§9Question

2 点ほど伺いたいのですが、1 つは景気についてです。本日の講演のところで、先行きについて、特に 10~12月にかけて、日中関係の悪影響が輸出に出てくるのではないかということをおっしゃっていましたが、11月も終わりに近づいていて、現状、日中関係の悪影響はかなり足許で深まっているとお考えなのかどうか、そういったリスクについて、年末にかけて景気へのリスクは相当高まっているとみていらっしゃるのかどうかを、お伺いしたいというのが 1 つです。もう 1 点は、先程の質問とも重なりますが、日銀の緩和について、非常に色々な発言がなされていますが、国債の買い受けについては既に懸念が表明されているところですが、どういう意図かわかりませんが、「国債の買入れオペレーションはもっと強化しろ」、マーケットからではあるが、例えば「建設国債の相当分は市場からもっと量を買うべきだ」とか、「現状よりもさらに国債を買うべきだ」という主張がかなり強くなされていますが、現在の日銀の国債の買入れは十分ではないのか、それともさらにやるべきなのか、総裁の考えを改めて伺います。

§10Masaaki Shirakawa

まず、10~12月の景気見通しで、日中関係の影響についてのご質問ですが、日中関係それ自体については、私の立場からコメントすることは差し控えたいと思います。これまでの日中関係の影響が日本経済にどのような影響を与えているかですが、これは、訪日観光客数の減少という形で出ていますし、10月の貿易統計でも、企業経営者の方からの様々なミクロ情報でも確認されている通り、日本からの輸出にも影響が出てきているということです。これが、この先どの程度続くのかということについて、私自身は、もちろんリスク要因として認識していますが、出発点としての日中関係そのものについては、私の方からのコメントは差し控えたいと思います。次に、国債の買いオペについてですが、先週の金融政策決定会合終了後の記者会見でかなり丁寧にお答えしました。その時の答えに尽きていますので、それ以上のコメントは特にありません。

§11Question

本日、10月30日の決定会合の議事要旨が出ましたが、そこで、佐藤委員がいわゆるコミットメントを強化すべきだという提案をされていて、それが否決されたわけですが、改めて、総裁のこのコミットメント強化の案に対して、反対された理由を教えて頂ければと思います。

§12Masaaki Shirakawa

佐藤委員のご提案自体については、議事要旨をご覧頂きたいと思います。私ども自身のコミットメントを改めて申し上げると、消費者物価の前年比上昇率1%が見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策と資産の買入れによる強力な金融緩和政策を続けていくということです。2014年度の見通しは、生鮮食品を除く消費者物価の前年比で 0.8%です。従って、1%に着実に近づいているわけですが、まだ、これが見通せる状況にはなっていないわけです。そういう中で、日本銀行の強力な金融緩和政策が続けられていくことは、マーケットでも十分に認識し、現実の金融市場も、そうした価格形成になっていると思っています。

§13Question

議事要旨の中で、複数の委員からのご意見ということで、将来的にはこうした提案が効果を持つ局面が考えられるというくだりがありますが、こうした意見について、総裁は同じ考えなのか、また仮にそうだとした場合に、将来的に効果を持つ局面という、将来的というところの条件は何なのかを教えて頂けますか。

§14Masaaki Shirakawa

私は、金融政策決定会合における議長です。議長として、日本銀行全体として最も効果的な政策を決定し、これを実行していくことに責任を有しているわけです。決定会合の席では、様々な意見が出てきて、私としては、そうした様々な意見も十分に勘案した上で、最適な政策を模索していきたいということに尽きます。

§15Question

また円高関係の質問ですが、先程、講演の中で円相場の高止まりについて企業が引き続き厳しい状況にあることは十分に認識していると指摘されておられましたが、これは今までの一方的な円高の進行ということではなく、高止まりの状況が続く中で、いわゆる相場の変動よりも水準自体を意識しなければならない局面に変化しているという理解なのかどうかということと、そういった変動よりも水準を意識しなければならない変化の中で、日本経済に対する影響の仕方も変わり得るのか、この辺についてお聞かせ下さい。

§16Masaaki Shirakawa

当地には毎年11月のこの時期に訪問しています。本日、地元経済界の方に当地経済にとって最大の関心事項である円相場の話をする際に、この 1年間の円相場の動き、これをまず振り返るところから始めたわけです。そこで申し上げたことは、円の対ドル、対ユーロあるいは対ウォンなど、様々な通貨を加重平均した、いわゆる名目の実効為替レートベースでみると、この 1年間では、円高ではなく円安方向になっているけれども、企業経営者にとって、現在の円高化した水準が大変厳しいということは十分に認識しています、ということをまずお伝えしたかったということです。従って、今、記者の方がおっしゃった、水準か、変動か、ということを意識して言葉を使ったのではなく、要は、中央銀行として、経済の厳しい状況について、しっかり認識しているということをお伝えすることが、まず、経営者からの日本銀行への信頼感につながってくると思い、そう申し上げたという趣旨です。

§17Question

また円高の話で恐縮ですが、午前中の懇談会では、円高に対する懸念が出たものの、今、おっしゃったように 1年前と比べれば、あるいは最近の足許だけをみると、結構円安になっているわけです。これに対して、これが経済に対してどういったインパクトを及ぼすのかということをまず1点お伺いします。また、金融政策によって、直接的に為替に働き掛けることはできないにしても、何らかの間接的に円安に働き掛ける政策というのは、まだ手段としてあるのかどうか、お伺いしたいと思います。

§18Masaaki Shirakawa

この 1年間に限ってみると、若干円安方向ではありますが、多くの企業経営者がおっしゃっているように、この円高化した水準が続いていることが、企業経営に様々な影響を及ぼしていることは十分認識しています。この 9月、10月の金融緩和の強化も、そうした影響も含めて決定したものです。何か、足許は楽になっているということを申し上げたいわけではもちろんありません。次に、金融政策の為替レートへの影響ですが――講演の席でも申し上げましたが――、日本銀行が強力な金融緩和政策を続け、先行きも消費者物価と関連付けて強力な緩和政策を続けていくことを約束していることは、為替相場には相応の影響があると思っています。

§19Question

先日の会見では、3% の物価目標については現実的でないとおっしゃっていましたが、2%の物価目標については如何でしょうか。

§20Masaaki Shirakawa

これも、先日の記者会見でかなり丁寧にお答えしたつもりです。その時のお答えを要約する形でお答えしたいと思います。日本銀行が「中長期的な物価安定の目途」としているのは、2%以下のプラスの領域であり、当面は 1%を目指すことを明らかにしています。これは、成長力強化の取組みが実を結んでいけば、つまり、民間による取組み、それから政府による規制緩和等の取組み、こうしたものが実を結んでいけば、1% よりも少しずつ上がってくる可能性はあります。日本銀行は、そうした可能性も意識して、原則として年1 回、この中長期的な物価安定の目途の数字を点検していくということを言っています。いずれにせよ――いつも申し上げていますが――、金融面からの後押しと成長力強化、この 2つが揃って初めてデフレからの脱却が実現するということを改めて申し上げたいと思います。

§21Question

先程の答えと同じになるかもしれませんが、本日発表された議事要旨の中で、2 人の委員が消費者物価に対する見方、コミットメントについて反対したという、この事実について、総裁はどう受け止めていらっしゃいますか。

§22Masaaki Shirakawa

金融政策決定会合は、9 名の委員が、様々な考え方をその場に投じ、そこで日本銀行全体として最適な政策を見つけ出していく、考え出していく、そういうプロセスです。そういう意味で、様々な見解が出され、活発に議論がなされているということだと思っています。

§23Question

1 点だけ伺いたいのですが、本日公表された議事要旨に関連して、先般出ました政府との共同文書ですが、総裁自ら議長としてご提案されたことが明らかになっています。あの時期に、あのような文書を出すことを自ら提案された理由について、どういうお考えで、あの時期に出すあるいは提案をするという考えに至ったのか、教えて頂ける範囲でお答え頂きたいと思います。

§24Masaaki Shirakawa

これは「教えて頂ける範囲で」というよりも、むしろ、10月30日の決定会合後の記者会見で、私としては、そのことを強く申し上げたつもりです。つまり、世界経済の減速が強まり、その減速の影響が日本経済にも及んでくる、この局面でデフレ脱却に向けて、政府および日本銀行の行っている政策、それぞれの有効性を高めていくためにどういうことが必要かを考え、その結果、「共通理解」の発表になったというものです。日本銀行は、強力な金融緩和を続けていくということですし、政府においては、デフレからの脱却には、デフレになりやすい経済構造を変えていくことが不可欠であるとして、そのことにしっかり取り組んでいくことを明らかにしているわけです。そうした共通理解を示していくことが――繰り返しになりますが――、それぞれの政策の有効性を高めていくと判断した次第です。

§25Question

本日の講演の中でも、日銀とか民間金融機関、民間含めて、それぞれが役割を果たすことが重要だとおっしゃったかと思いますが、今、日銀ができる最大限の金融緩和をして緩和的な環境になっていることを踏まえると、やはり今、第 2 段階で求められるのは、その 4 つの主体の中では、政府の役割が一番必要というか、今一番求められているのは政府が役割を果たすこと、という理解でよろしいでしょうか。

§26Masaaki Shirakawa

本日の講演あるいは質疑応答で申し上げたと記憶していますが、成長のフロンティアを切り拓いていく上で、その担い手はいつの時代も民間企業です。民間企業がそのフロンティアを切り拓くべく、是非様々なチャレンジをして欲しいという思いです。そう申し上げた上で、民間企業の活動を支える様々な主体が存在しており、1 つは民間金融機関であり、もう 1 つは政府であり、日本銀行もそうです。そういう意味で、「誰が一番」ということを申し上げているわけではありません。繰り返しになりますが、経済が成長していくというのは、人々がどれだけ働き、どれだけそこに付加価値を生み出していくかという結果で成長率が決まってくるわけですから、そうした民間経済活動を担う民間企業の役割には大いに期待しているということです。その上で、先程申し上げた通り、その環境を作る政府の役割も非常に大事だということが私の申し上げたポイントです。以上