← Back
Bank of JapanPress conferenceNov 29, 2012Sayuri Shirai, Board Member

白井審議委員記者会見(2012年11月29日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

2 点お伺いします。1 点目ですが、本日の懇談会では、どのような意見交換がなされたのでしょうか。2 点目ですが、熊本県の経済の現状と先行きについてのご認識をお聞かせ下さい。

§2Sayuri Shirai

まず最初に、どのような意見交換が行われたのかということですが、本日の金融経済懇談会では、熊本県の各界を代表する方々から、地域経済の現状や課題のほか、日本銀行の金融政策運営に関する率直なご意見などを数多く頂き、有意義な意見交換ができました。こうした機会に恵まれ、ご出席頂いた方々や関係者の皆様に感謝を申し上げたいと思います。懇談会では、非常にたくさんの議論がありました。景気の現状については、九州新幹線の開通効果など、プラスの効果を指摘する声も聞かれましたが、製造業を中心に円高の影響等もあり、輸出・生産について足許弱い動きとなっていること、非製造業でも日中関係の影響の広がりなどから海外からの観光客が減尐していること、中小企業では小売・卸売等を中心に業況が悪化していること、倒産状況は統計でみる以上に厳しいこと、など、全体としては、景気の厳しい現状を指摘する声が多く聞かれました。また、グローバルな問題が、以前と比べてより時間をおかずに、直接的に地元経済に影響を及ぼす傾向が強まっているとの指摘も聞かれたところです。今後の課題としては、当地においても、人口減尐や高齢化が進む中にあって、九州新幹線の開通効果なども一巡することから、国内外から当地への交流人口を如何に増やしていくのかということや、財政事情が厳しいもとで、防災対策など必要なインフラ整備を如何に進めて行くのかということが挙げられます。

§3Sayuri Shirai

また、当地における強み――例えば農業や医療・介護といった分野――の競争力をさらに高めていく努力が必要なこと、そして中小企業等の企業再生への連携の強化が必要なこと、などの意見が聞かれました。次に、熊本県経済の現状と先行きについては、私自身、参加者の方々と概ね同じ見解を共有しており、熊本県経済は、現状では、海外経済の減速が続いていることから、製造業の生産水準が総じて低下しているほか、個人消費も足許やや振るわないなど、横ばい圏内ながらも弱めの動きがみられると認識しています。先行きについては、海外経済を巡る不透明性が依然として高いことから、当面は下振れリスクを意識しておいた方がよい状況と考えています。尐し長い目でみれば、当地の内需には、底堅い面もみられることから、海外経済が減速から脱していけば、緩やかな回復経路に復していくことが展望できると考えています。

§4Question

金融政策と景気判断に関してお伺いします。今年の9月、10月と連続して金融緩和を行い、先行きの経済・物価もある程度悪化することを想定していたかと思いますが、本日午前中の講演をお伺いすると結構弱めの発言があり、物価にしろ経済にしろ下振れの話をされていました。この現状の悪化というのは、10月に金融緩和を決めた時に想定していた範囲なのか、それよりもちょっと下振れているのかをお伺いします。

§5Sayuri Shirai

現状では、景気は減速していると判断しています。展望レポートの時でも景気は厳しいと申し上げていましたが、下振れリスクも含めまして、現在はその範囲内で推移しているとみています。いずれにしても、今の日本経済が置かれている状況、特に海外の経済が減速している状況は事実ですので、その下振れリスクが顕在していくかどうかを含めて、今後慎重にみていきたいと思っています。

§6Question

自民党の安倍晋三総裁や要人から、日銀の金融政策に関する発言が相次いでいます。これらをどのように受け止め、どのように考えたらよいのでしょうか。中央銀行としての一般論に即してでも構いませんのでご教示下さい。

§7Sayuri Shirai

非常に大きな質問ですので、尐し答え難いですが、安倍総裁のご発言について発言することは差し控えたいと思います。ただ、金融政策について様々な発言があるというのは、日本経済の景気回復の現状がそれだけ厳しいということを認識されているのだと思います。本年前半の成長率は比較的高かったのですが、半ば以降からは海外の経済を中心に減速が続いており、生産・輸出も減尐し、設備投資も一部先送りの兆しがあります。そういう厳しい景気認識の中で、日本銀行に対する期待を反映した発言ではないかと思っています。私自身も経済の厳しさというのは共有しています。日本銀行として、何ができるかということは常に考え、これまでも対策をしていますし、今後もきっちりと慎重に見極めていきたいと思っています。

§8Question

今の質問に関連しますが、自民党の安倍総裁がかなり細かいことを金融政策について指摘しています。将来総理になると思われる人がここまで細かいことを言うことに対して、中央銀行の独立性が脅かされているという感触をお持ちかどうか、お伺いします。それから、白井委員は本日午前中の講演で、10月に日銀と政府で出された共同文書について、非常に大きな意義がある旨、指摘されています。他方で、いわゆる政策協定(アコード)を結ぼうという話が出ていますが、アコードを結ぶ意味はあるのかどうかということをお伺いします。

§9Sayuri Shirai

まず、1 点目の独立性が脅かされているかということですが、私自身は、独立性は維持されていると思っていますし、今後も維持されていくべきであると思っています。ただ、中央銀行に対して、景気が厳しい局面で色々な期待が起きるということは、これは日本だけのことではありません。他の国でも同様に起きていることだと思います。私としては、金融政策を決定する立場の者として、私どもが行っている金融政策や現状認識を、時間を掛けて丁寧に説明していきたい、また、そういう形でお互いに理解を深める努力をしていきたい、と思っています。2 点目については、アコードとおっしゃいましたが、アコードの定義が尐しよく分からないのですが、私としては、日本経済の現状というのは、本日の挨拶でも申し上げたように、景気循環的な要因で起きている部分と、構造的な要因で起きている部分の 2 つがあるとみています。景気循環的な要因というのは、ご存じのように、リーマン・ショックから始まり、東日本大震災、タイの洪水、欧州債務問題の深刻化、最近では日中関係の影響の広がりなど、様々なことが起きており、そういうことによる景気下押しという問題があります。けれども、やはり根底には、構造的な意味で日本経済を下押しする力が働いていると思っています。この要因を私なりに整理すると、3 つあると思います。

§10Sayuri Shirai

1 つ目は、本日の挨拶でも取り上げた尐子高齢化の影響が、やはり大きいと思います。15 歳から 64 歳のいわゆる働き手、つまり生産年齢人口が、90年代半ばから減尐しています。働き手が尐ないということは、家族を形成し、子供を持つ世帯が尐ないということですから、おのずと耐久消費財の需要や住宅投資が尐なくなってくるわけです。加えて、2011年から趨勢的に人口減尐が始まっているということは、消費する者の人数が減っているわけですから、日本経済のマーケットが縮小しているわけです。これが構造的に需要を下押しするように働いているということは、否定できないと思っています。2 つ目は、日本では明るい面として、シニア層を中心に新しい消費市場がおき、サービス市場も拡大しています。そういった中で、多くの企業の方々から、様々な規制があることによって、せっかくの企業の成長が阻害されているということを聞いています。従って、民間の需要を作り出していくことが大事であり、そのためには、規制緩和によってビジネス環境を改善していくことが必要とされていると思います。最後に、社会保障制度の問題があり、それに対する不安があると思います。政府債務の問題もあるでしょう。そういう不安があるから、皆ができるだけ貯蓄したいという行動に走る部分もあります。こうした 3 点の構造的問題があり、そこから成長を下押しする力が働いていると思います。

§11Sayuri Shirai

従って、それを超える成長力強化が必要なわけです。日本銀行も努力して参りますが、政府、企業、金融機関がそれぞれ努力して初めて実現することですので、そういう意味では、それぞれがやるべきことは今までも各々が発言してきましたが、構造的な問題が長く続いている以上、お互いにやるべきことを明確に確認し合うというプロセスが大切だと感じています。その意味で 10月末に示した『共通の理解』というものを、私自身はプラスに捉えていますし、それをもって、また心を新たにして成長力強化のために何ができるか考えていきたいと思います。アコードそのものがどういったことを意味するのかは分かりませんが、お互いにやるべきことは明らかですから、政府は政府で頑張って頂きたいし、私どもも頑張っていきたいと思っています。

§12Question

2 点お伺いします。1 点目は、本日の講演の中で、先程も質問があった下振れリスクについて、いくつか触れていらっしゃいます。色々なリスクを挙げておられますが、その中で影響が大きいと思われるものについて、もう尐し詳細に、この先の見通しを教えて頂けますか。もう1 点は、展望リポートを決めた決定会合で、物価上昇率を巡る表現について委員の間で意見が分かれたところがありました。白井委員は、金融緩和の期限を、1%を「安定的に達成するまで」というのではなく、1%を「見通せるようになるまで」という表現を支持されたと思います。また、達成の時期についても、2014年度には「徐々に緩やかな上昇に転じていく」にとどめるのではなく、2014年度に「1%に着実に近づいていく」という表現を支持されたと思います。その理由について教えて頂けますか。

§13Sayuri Shirai

まず、1%を安定的に達成するまで、というのと、1%を目指してそれが見通せるようになるまで、というところで意見が分かれました。私が、その中のどの意見かということは申し上げられませんが、一般論として申し上げると、これは『時間軸政策』といわれる政策に関するものだと思います。『時間軸政策』というのは、その考え方が生まれてきたアカデミックな背景をみると、元々は政策金利に対して、本来なら出口戦略が起こるタイミングよりももう尐し長く伸ばし、それによってインフレ期待を起こすという考え方にあると思います。そうした『時間軸政策』は、いつ効果があるかといえば、まず導入時です。これはデータをみても確認できます。もう1 つは、いわゆる経済がよくなって、そろそろ出口に近くなっている時に効果がある、といわれているようです。今の日本の状況では、2014年に、私どもが目途としている 1%が見通せるかといえば、見通せていません。従って、今お話した一般論でいうと、現在はその真ん中にあるわけです。ですから、ご質問は、その真ん中にある状況で、追加的な効果があるかどうかという話ではないかと思っています。私は、この点に関して自分の見解を申し上げるのは差し控えますが、重要な点は、2014年度に1%が展望できていない以上、金融緩和は強力に続けていくということで、その意思は何も変わらないわけです。

§14Sayuri Shirai

従って、『時間軸政策』のベースには、元々できてきたアカデミックな背景からして、政策金利にあるわけですが、基金を含め、1%を見通せるまでは金融緩和を行うとコミットしているわけですから、そこに何のブレもないと思っています。それから、どのような点について下振れリスクを意識しているかということですが、生産と輸出に関しては、減尐を始めてしばらく経っていますが、私が今注目しているのは、先程も申し上げた通り、製造業を中心に、設備投資の一部に先送りがみられており、これが今しばらく続くのかということです。もう1つは、消費です。現在、エコカー補助金が終了して、明らかに自動車の需要が減尐していますが、このエコカー補助金の終了による反動減がどの程度続くのかということ、また、最近では、生産と輸出の減尐などによって、製造業を中心に労働時間の減尐と新規雇用の減尐がみられますから、それが続いてしまいますと、消費マインドに影響していくように思います。こうした観点から、設備投資と消費に関しては、しっかりと下振れリスクをみていきたいと思っています。

§15Question

先程の質問と尐し重なる部分があるかと思いますが、2014年度にかけて、消費者物価指数が 1%に着実に近づいていくということですが、これだけ下振れリスクをみていて、一方で「着実に近づいていく」というのは、個人的には違和感があるのですが、この点について教えて頂けますか。

§16Sayuri Shirai

先程も申し上げたように、展望レポートでは下振れリスクも意識しているわけです。展望レポートの中心見通しには、基本的には、9月と 10月の金融緩和と、それから、政府も含めた成長力強化の取組みの効果が入っています。下振れリスクとしては、例えば、成長力強化の取組みを行わない場合なども入っています。そういうものを含めて、先程申し上げたように、今起きていることは、リスクシナリオの範囲内とみていますので、下振れリスクが顕在化していくかどうかということを、実質成長率や物価上昇率を含めて丹念にみていきたいと思っています。

§17Question

今までの質問と若干重複するところがあるかと思いますが、講演の中で、中長期的な予想物価上昇率について、「幾分弱めの動きがみられる点には注意していきたい」とおっしゃっていましたが、これは具体的には何をおっしゃっているのでしょうか。

§18Sayuri Shirai

エコノミストの見方、あるいは市場のデータで、やや長期のインフレ期待が尐し下がっているというデータがあります。これを踏まえて、こうした傾向が長く続くかどうかをみたいということです。私自身は、中長期のインフレ期待を注視したいと思っています。実は、特に日本の場合、インフレ期待は中長期の成長期待と非常に深い関係があります。従って、日本の民間資金需要や経済活動を活発にするような成長力強化策等が行われていくと、日本銀行の金融緩和措置も非常に活用される状況になりますし、そうすると、人口減尐で縮小しつつあるマーケットであっても、「日本はこういう分野で成長できる」と企業が成長期待を持つことができます。こうしたことが、中長期のインフレ予想の引き上げにもつながってきます。そういう意味で、物価安定の目途を実現するためにも、まずは成長力強化が大事ですし、成長力強化によって「成長する」という期待が中長期的に生まれれば、それがまたインフレ期待にもプラスに働くようになります。そういう意味で非常に注視しています。

§19Question

衆議院選挙でどの政党が勝つのか、まだ分かりませんが、自民党の安倍総裁などは、成長力強化を別に軽視しているわけではないのでしょうけれども、とにかく政策の 1 丁目 1 番地は金融政策である、と何度もしつこくおっしゃっています。10月30日の決定会合で、日銀は政府と共同声明を出しましたが、現政権、現政府が衆議院選挙の後も続くかどうかは全く分からないのであって、この共同声明は、政権が代わっても効力があるのかどうか、新しい政権がまた新しい共同声明を作ろうと言えば、作り直すのかどうか、その点をお聞かせ頂けますか。

§20Sayuri Shirai

共同声明は、日本銀行総裁と財務大臣、経済財政政策担当大臣の署名によって出されています。政権が代わることによる効力について、私が発言することは差し控えたいと思います。ただし、共同声明に書かれていること――大きく言えば、日本には様々な構造的な問題があり、その背景に、企業活動において特にサービス産業を中心に規制が多いこと――に関しての認識は、かなり日本全体で共有されていると思います。そういう意味で、共同声明に書かれている大筋は、私は、そう変わるものではないと思っています。ですから、金融政策が先に前面に出ているようだというように言われましたが、重要なのは、需要を作り出していく経済成長だと思います。色々な規制緩和等が実施されると、マーケットが拡大するだろうと企業も期待し、そうすると生産活動が生まれてきます。そうすれば、需給ギャップは縮小していきます。その結果、労働市場の需給もタイト化しますから、賃金も高まっていくし、設備の稼働率も高まっていきます。それにより、販売価格が上がり、それが物価を上げていく。こういう好循環が一番望ましいと思います。

§21Sayuri Shirai

インフレ率を引き上げていく背景には、企業が販売価格を引き上げられるようなビジネス環境、また、家計が価格の引き上げを容認できるような所得環境がある、ということを考えると、やはり、成長力を高めていくために、人口動態の変化による経済への下押し圧力を上回る強い成長力、経済活動を生み出す力、そういうものを皆で結集して作っていくことが大事であります。私は、政権を超えて、その必要性は共有されていると思っています。また、そういう環境でこそ、日本銀行の金融緩和は、相当な効果を持っていくと思います。

§22Question

質問が熊本県の情勢に戻りますが、当県では、熊本市が政令指定都市になったということもあって、一極集中化が進んでおり、特に県南では疲弊が目立つといわれています。今後、一極集中のままでよいのか、また、経済を面的に発展させるためには、若干のギャップと言うか、都市部と郡部で発展・成長にズレが生じるのは仕方ないのか、といった点をお伺いします。

§23Sayuri Shirai

非常に難しいご質問です。もちろん、可能であれば域内全体が発展していくのが一番よいわけですが、人口減尐が起きている状況下、例えば、高齢の方々についてみると、病院に行きたい、買い物に行きたいということになると、都市に住む方が多くなるかもしれません。尐子高齢化の影響は、色々な点で考えていかなければならないと思います。こうした影響は、おそらく、各県、各市によっても違ってくると思います。仮に、人口が都市に──熊本県なら熊本市に──集中したとしても、その都市以外の場所をどう活用するかということを考える必要があるわけです。農業にしても製造業にしても、大きな視点で尐子高齢化をプラスに捉えながら、各地域の利点を活かして、成長戦略を考えて頂きたいと思います。熊本県の場合は、人の行き来をもっと拡大したい、すなわち、他県からも、世界からも人を呼び込みたいと思っておられますが、そういう形で経済が活発化する可能性もあります。熊本県は素晴らしい可能性を持っています。熊本県は、自然資源・観光資源が豊富で、食べ物も美味しい。こういうところをもっともっと活用できると思っています。以上