総裁定例記者会見(2012年12月20日)要旨
Full text
§1Question
本日の金融政策決定会合の結果について、短観の結果を踏まえつつ、ご説明をお願いします。
§2Masaaki Shirakawa
日本銀行は、本日の金融政策決定会合において、金融緩和を一段と強力に推進し、かつその効果を高める観点から、以下の 2 点について決定しました。第 1 に、「資産買入等の基金」を、91 兆円程度から 101 兆円程度に10 兆円程度増額することを全員一致で決定しました。増額の対象については、短期国債を 5 兆円程度、長期国債を 5 兆円程度としました。これにより、基金を通じた今後 1年間の追加的な資産買入れ額は、既に決定したものと合わせ、36 兆円程度となります。このほかに、日本銀行は、金融調節上の観点から、年間 21.6 兆円の長期国債の買入れを期限を定めずに行っています。第 2 に、「貸出増加を支援するための資金供給」について、10月30日の会合で決定された骨子素案に基づき、実施期間を来年初から 2014年3月末までの 15 か月間とすることなど、その詳細を全員一致で決定しました。この新たな資金供給は、金融機関の一段と積極的な行動と企業や家計の前向きな資金需要の増加を促す観点から、金融機関の貸出増加額について、希望に応じてその全額を低利・長期で無制限に資金供給するものです。資金供給の額は、金融機関の取組み等に依存しますが、最近の貸出実績を前提にすると、15 兆円を上回ると想定できます。ここでお手許に1枚紙のカラー刷りの資料とフリップボードを用意しましたのでご参照下さい。
§3Masaaki Shirakawa
今回の金融緩和の強化措置とこれまでの金融緩和措置の結果、「資産買入等の基金」と「貸出支援基金」、この両方を合わせて、今後 1年余りの間に 50 兆円超という大規模な資金供給を新たに行うことになり、この 2 つの基金を合計した残高は120 兆円を超える規模となります。国際比較のため、日本銀行の資金供給額をいわゆるマネタリーベースでみると、現状でも、名目GDP対比で約 27%と、先進国では最大となっており、また、リーマンショック後の増加額に限ってみても、米欧と同程度となっています。これに、今申し上げた 50 兆円超という今後の追加的な資金供給額を加味すると、マネタリーベースの名目GDP比はさらに 10%以上上昇し、40%に近づく計算になります。次に、物価安定についての考え方に関し、議長指示を行いました。日本銀行では、「中長期的な物価安定の目途」について、原則としてほぼ 1年毎に点検していくこととしています。このところ、物価上昇率を巡る議論が高まっていることなども踏まえると、次回会合において、金融政策運営に当たり目指す中長期的な物価の安定について検討を行うことが適当と判断しました。物価の安定は、広く経済や国民生活に影響を及ぼすものです。これを機に、改めて多くの方に関心を持って頂き、認識が深められていくことは、大変重要なことと考えています。
§4Masaaki Shirakawa
次回会合までの金融市場調節方針については、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。本日の金融緩和強化の背景となる経済・物価情勢について、ご説明します。まず、海外経済は、減速した状態が続いています。欧州経済については、債務問題の悪影響がドイツなどコア国でも強まるもとで、設備投資や生産は減少し、個人消費も弱さが目立ってきているなど、緩やかな景気後退が続いています。中国経済をみると、インフラ投資が増加するなど景気刺激策の効果が現れつつありますが、輸出が欧州向けを中心に弱めの動きを続け、素材産業を中心に在庫調整圧力が根強く残っていることから、減速した状態が長引いています。この間、米国経済については、企業部門に弱めの動きがみられますが、個人消費は緩やかな増加を続け住宅投資も持ち直しの動きを続けるなど、全体としては家計部門を中心に緩やかな回復基調を続けています。国際金融資本市場では、欧州中央銀行による新たな国債買入れスキームの導入に加え、ギリシャに対する追加金融支援の合意や、銀行監督一元化に向けた議論の進展など、欧州債務問題に一定の前進がみられたことを背景に、投資家のリスク回避姿勢は、このところ後退しています。もっとも、今後の市場の展開には十分注意していく必要があると考えています。
§5Masaaki Shirakawa
次に、わが国の景気ですが、「一段と弱含んでいる」と判断しています。海外経済の減速した状態が続いていることなどから、輸出や鉱工業生産は減少し、設備投資にもその影響が及んでいます。個人消費は、底堅さを維持していますが、乗用車購入において需要刺激策の一部終了に伴う反動減の影響が残っています。この間、公共投資は増加を続けており、住宅投資も持ち直し傾向にあります。12月短観の結果をみると、企業の業況感は、海外経済減速の影響などを背景に、製造業を中心に慎重化しています。2012年度の事業計画についても、経常利益は、製造業を中心に 9月短観対比で下方修正され、小幅ながらも減益見通しに転じています。2012年度の設備投資計画は、GDPの概念に近い「ソフトウェアを含み、土地投資を除く」名目ベースでみると、前年比+8.0%と、例年のこの時期の計画に比べて高い伸びとなっていますが、今後製造業を中心に下方修正されることがないかどうか、注意してみていく必要があると考えています。経済主体の支出・投資活動を支える金融環境は、日本銀行の強力な金融緩和を反映して、金利面でも、アベイラビリティの面でも、緩和した状態にあります。CP・社債市場の発行環境についてみると、一部の業績悪化企業は発行スプレッドの拡大や発行見送りを余儀なくされていますが、投資家の需要が引き続き底堅い中で、総じてみれば良好な状態が続いています。
§6Masaaki Shirakawa
また、企業からみた金融機関の貸出態度や企業の資金繰りなどに関する指標は、業況感や企業収益の悪化にもかかわらず、2000年以降の平均を上回る水準で改善した状態が続いており、この点は 12月短観でも確認されたところです。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、概ねゼロ%となっています。先行きも、当面、ゼロ%近傍で推移するとみられます。わが国経済の先行きについては、海外経済の減速の影響が輸出・鉱工業生産にとどまらず設備投資などの内需にも及んできている中で、当面弱めに推移するとみられます。また、リスク要因をみると、欧州債務問題の今後の展開、「財政の崖」の帰趨を含めた米国経済の回復力、新興国・資源国経済の持続的成長経路への円滑な移行の可能性、日中関係の影響など、日本経済を巡る不確実性は引き続き大きく、景気の下振れリスクに留意すべき情勢となっています。以上を踏まえると、日本経済が「物価安定のもとでの持続的な成長経路に復していく」という軌道を踏み外さないようにするためには、9月、10月の措置に続き、もう一段の金融緩和の強化を行うことが適当と判断しました。
§7Masaaki Shirakawa
今回を含め、これまで累次にわたって資産買入等の基金を増額してきたことは、本日詳細を決定した貸出増加を支援するための資金供給の導入などとも相俟って、企業や家計等の金融環境をより緩和的にするとともに、緩和的な金融環境が活発に利用される状況を創り出していくことを通じて、わが国経済の物価安定のもとでの持続的な成長経路への復帰を確実なものとすることに資すると考えています。日本銀行は、日本経済がデフレから早期に脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することが極めて重要な課題であると認識しています。この課題は、幅広い経済主体による成長力強化の努力と金融面からの後押しが相俟って初めて実現されていくものです。こうした認識のもとで、日本銀行は、金融機関による成長基盤強化の取組みおよび貸出の増加を支援するとともに、実質的なゼロ金利政策と資産買入等の基金の着実な積上げを通じて、強力な金融緩和を間断なく推進していきます。日本銀行としては、引き続き適切な金融政策運営に努めるとともに、国際金融資本市場の状況を十分注視し、わが国の金融システムの安定確保に万全を期していく方針です。この間、政府におかれては、デフレからの早期脱却のため、日本経済の成長力強化の取組みを強力に推進することを強く期待しています。
§8Question
物価安定の議長指示ですが、なぜこのタイミングだったのかということと、自民党の安倍総裁が「日銀と政策協定を結んでインフレ目標を 2%と定める」と発言していますが、今回はそれを踏まえての対応だということでよろしいでしょうか。
§9Masaaki Shirakawa
日本銀行は、本年2月に「中長期的な物価安定の目途」を導入し、原則としてほぼ 1年毎に点検していくことを既に明らかにしています。また、先日、自民党の安倍総裁からも、物価目標に関して検討の要請を頂いたところです。こうしたことを踏まえて、次回会合において、日本銀行が金融政策運営に当たり目指す中長期的な物価の安定について検討を行うことにしたものです。
§10Question
貸出増加支援資金供給の枠組みのポイントと、目指すべき効果といった点を、簡単にご説明下さい。
§11Masaaki Shirakawa
貸出増加支援資金供給は、金融機関の一段と積極的な行動と企業や家計の前向きな資金需要の増加を促す観点から、金融機関に対し、来年初から2014年3月末までの 15 か月間における貸出増加額の全額について、低利・長期で無制限の資金供給を行う新たな枠組みです。強調しておきたいポイントを3 点申し上げます。第 1 に、金融機関の前向きの力を最大限に引き出す観点から、民間の資金需要が年度末に季節的に高まる傾向があることも意識して、2 回の年度末を含む 2014年3月末までの貸出増加額を支援の対象とすることにしました。第 2 に、わが国経済の成長力の強化につながる民間の前向きな資金需要を最大限にサポートする観点から、支援対象とする貸出の範囲を幅広く設定し、ファンド向けや非居住者向けの貸出、邦銀海外店における貸出なども含めることにしました。ファンドには、新興企業支援や企業再生支援といった形で、わが国経済の成長力の強化に資する役割を担うものが少なくないわけです。また、外貨建てのものも含め、海外に所在する企業への貸出や海外店貸出を支援することは、中央銀行として異例ではありますが、企業の国際的な業務展開やそれを支える金融機関の融資活動はグローバルな需要を取り込んでいく観点から重要であり、これらも支援の対象に加えることが適当と判断しました。
§12Masaaki Shirakawa
実際、最近の銀行貸出の動向をみても、国内店の伸びが前年比 1%程度のプラスである一方、海外店では 2 割方の増加となるなど、金融機関や企業がグローバル展開に積極的に取り組んでいることが窺われます。第 3 に、金融機関や企業のグローバルな展開を貸出面から支援することを通じて、海外における円建ての貸出が増加していけば、円の国際化にも資すると考えられます。また、企業がグローバルにM&Aや投資を増やしていく際、円建てで借り入れた資金を外貨に転換する動きが拡がれば、円高是正方向への資金の流れが強まるという面もあります。日本銀行としては、貸出増加に向けた金融機関の取組みにより、本資金供給の総額が拡大し、日本経済のデフレからの脱却と、物価安定のもとでの持続的成長経路への復帰に向けて、大きな効果を発揮することを期待しています。
§13Question
安倍総裁が、本日午後の会合の挨拶で、本日の朝に、白川総裁からお電話を受け、決定会合の内容についてご説明を受けたとおっしゃっておられます。まず、このことが事実なのかどうか、内容も含めてお話し下さい。2 問目は、先程の質問とも関連しますが、安倍総裁は、物価目標について、アコードと 2%という数字を挙げておられます。総裁は、従来から、高すぎる物価目標は経済にとってあまり良くないというお話もされていましたが、2%という目標とアコードという枠組みを受入れることが可能だとお考えでしょうか。そういうことを考える際のポイントも含めてお話し頂けますか。
§14Masaaki Shirakawa
まず 1 問目です。本日の金融政策決定会合終了後――あくまで終了後ですが――、野田総理と安倍総裁に、本日の金融政策決定会合の決定内容を電話でお伝えしました。安倍総裁にお電話したのは、13 時 30 分頃です。従って、午前中に電話をしたということは、もちろんありません。2 問目ですが、 18日に、総選挙後のご挨拶のため安倍総裁のもとに伺いました。その際、安倍総裁から「2%の物価目標という政策協定を結びたいので、ご検討頂きたい」という趣旨のお話がありました。この件については、金融政策運営の基本に関わることですから、日本銀行政策委員会として十分議論し、その上で新政権のもとでの政府ともよく話し合っていきたいと考えています。「政府との政策協定」という点に関して、日本銀行の金融政策運営の考え方を改めてご説明すると、先程申し上げた通り、日本経済がデフレから早期に脱却し、物価安定のもとでの持続的な成長経路に復することが極めて重要であると日本銀行は認識しており、今後とも、その実現に最大限の努力を尽くしていく方針です。この課題は、幅広い主体による成長力強化の努力と、金融面からの後押しが相俟って実現していくものであり、思い切った規制緩和など、成長力の強化に向けた政府の役割も非常に重要であると考えています。
§15Masaaki Shirakawa
日本銀行としては、引き続き、政府との十分な意思疎通を図りながら、デフレからの早期脱却と物価安定のもとでの持続的成長経路への復帰に向けて、中央銀行としての使命をしっかりと果たして参りたいと思っています。また、ご質問の 2%という点ですが、日本銀行は、中長期的に持続可能な物価の安定と整合的と判断する物価上昇率について、消費者物価の前年比上昇率で 2%以下のプラスの領域にあると判断しています。これは、本年2月に公表したことです。その上で、当面は 1%を目途としているが、成長力強化への取組みの成果が挙がっていった場合には、目指すべき物価上昇率は 1%よりも高まっていくこと、また、日本銀行は、この「中長期的な物価安定の目途」について、原則として、ほぼ 1年毎に点検していくという方針を本年2月に明らかにしています。日本銀行としては――先程の繰返しになりますが――、次回の会合で、金融政策運営に当たり目指す中長期的な物価の安定について、しっかり検討することが適当と考えました。この議論に当たって重要なことは、物価の安定は、経済や国民生活の安定の基盤であり、経済の持続的な成長を伴ったバランスのとれた形で実現することが必要ということです。そうした観点から、各国では、物価安定の数値的表現のあり方や、金融政策運営上必要な柔軟性の確保など、細心の注意を払って制度を設計しています。
§16Masaaki Shirakawa
また、金融政策と並んで、政府の果たすべき役割についても深い議論が必要と考えています。
§17Question
今のお話との関連で、来月の「物価安定の目途」の点検についてですが、来月、2%という物価目標を設定する方向で議論するという理解でよろしいでしょうか。2 点目は、今回の総選挙で、日銀の金融緩和が不十分だと批判して大胆な金融緩和を求める自民党が圧勝したわけですが、この結果をどう受け止めておられるのか、また、今後、これまでの金融政策の姿勢や考え方を変えるつもりはあるのか、お伺いします。
§18Masaaki Shirakawa
先程お答えした通り、「物価安定の目途」について、次回の決定会合で議論を行うということです。従って、どういう結論になるかということは、これから 1 か月間しっかり考えていき、1月の決定会合で結論を下したいということです。従って、今、この段階で結論が決まっているということではもちろんありません。それから、選挙の結果についてのお尋ねですが、選挙の結果について、中央銀行の総裁としてコメントすることは不適切ですので、発言は控えたいと思います。何れにせよ、日本銀行の金融政策の基本的な考え方は、先程申し上げた通り、デフレからの早期脱却が重要であり、物価安定のもとでの持続的な成長経路に出来るだけ早く復帰するために全力を尽くしているということです。そうした基本的な姿勢は変わりません。
§19Question
2 点質問があります。1 点目は、今の質問とも関連しますが、「物価安定の目途」についての考え方の指示は、来月も、その同じフレームの中で、数字なり考え方を点検するということなのか、それとも、「政策協定」という形で、全くフレームを変えて、物価目標を新たに考え直すということなのか、現時点での総裁のお考えをお聞かせ下さい。2 点目は、今回の追加緩和で基金の総額が 100 兆円を超え、基金導入時から比べると相当に膨れているわけですが、これは、市場から、財政ファイナンスあるいは円の信認や国債に対するリスクの増大と受け止められることにつながらないのかどうか、総裁のお考えを今一度お聞かせ下さい。
§20Masaaki Shirakawa
まず、フレームワークに関するご質問です。「物価安定の目途」の見直しは、私どもが従来から申し上げていることに従ってやっていきます。それから、安倍総裁からのご要請については、もちろん両者は関係していますが、別のものです。従って、物価安定の検討自体は、従来の枠組みに従って行っていきます。ご質問に対するお答えになるかどうか分かりませんが、1月の決定会合で何を議論するのかに関して、幾つか基本的な視点を申し上げます。まず、日本銀行法にある「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」という規定にある「物価の安定」とは、そもそもどういうことなのか、が議論の出発点だと思います。以前、この席でも紹介しましたが、日本銀行が四半期毎に行っている「生活意識に関するアンケート調査」によると、物価の上昇について、8 割強の方が「どちらかと言えば、困ったことだ」と答えています。一方で、多くの国民が、同時に、デフレから早く脱却して欲しいとも言っているわけです。従って、「物価の安定」あるいは「デフレからの脱却」の意味について、しっかり議論することが出発点であると思います。
§21Masaaki Shirakawa
その上で、現在「中長期的な物価安定の目途」として表している数値的な表現について、見直しの余地はないのかを議論するわけですが、その際、金融政策を運営するに当たっての柔軟性をどう確保していくか、金融システムの安定性をどう確保していくか、といった点などが重要であると考えています。これらは全て、インフレーション・ターゲティングを採用している国も含めて、各国の中央銀行が強く意識していることです。また、インフレーション・ターゲティングは、インフレを抑制していく点で、あるいは、低下した物価上昇率のもとで、低下したインフレ予想の定着をどのように図るかという点で効果を発揮してきたわけですが、そうしたプロセスではなく、ゼロ金利下で物価を上昇させるプロセスにおける金融政策上の困難をどう考えるのか、という問題もあります。いずれにせよ、先程も述べたように、物価の安定は、経済や国民生活の基盤として極めて重要なテーマですので、日本銀行として、しっかり議論していきたいと考えています。
§22Question
「物価安定の目途」を点検する理由として、安倍総裁からの要請を 1つ挙げられました。これから、もし、例えば政治の世界から金融政策について色々と要請があった場合、何でも検討するということになると、日銀の独立性について、かなり疑問符が付いてくるのではないかと思いますが、それについてのご見解は如何でしょうか。
§23Masaaki Shirakawa
先程お答えした通り、日本銀行は、「中長期的な物価安定の目途」について、原則として、ほぼ 1年毎に点検していくことを明らかにしています。日本銀行は、金融政策について、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資するという重要な使命を負っています。そうした重要な使命を担っている以上、また、国民もこの問題に対する関心が高いわけですから、そのことをしっかり検討していくことは、中央銀行として当然です。日本銀行として何でも検討していくということではなく、日本銀行の最も基本的な使命について、定期的に点検していくプロセスの中で、それを行っていくということです。
§24Question
2 点お伺いします。1 点目は、色々なワーディングが飛び交っているのを少し整理させて頂ければと思います。1 つは、総裁がこれまでおっしゃっていた「物価安定の目途」というのは、「インフレーション・ターゲティング」とは別のものなのか、あるいは同じと考えていらっしゃるのか、違うとすれば何が違うとお考えになっているのかお聞かせ下さい。それから、「政策協定」という言葉もあるのですが、これも、先だって野田政権の時に「共同文書」という形で公表されていますが、これは違うのかどうか、違うのであればどういう違いがあるのか教えて下さい。2 点目は、緩和のペースが、来年――先程ボードでご説明を頂いた通り――、ものすごく上がってくるわけですが、これは、やはり先行きの経済が、今までの 2年と比べて、より下振れリスクが大きくなっているということなのか。基金の規模が 2年前と比べて 30 兆円増えたのが、今後 1年間で 50 兆円増えるというご説明ですが、そういった先行きの経済リスクが強まっているというご認識によるのか、あるいは、先程おっしゃった副作用のリスクが、当初想定していたよりも、そこまでリスクがないというご判断をされているためなのか、お考えをお聞かせ下さい。
§25Masaaki Shirakawa
まず、最初の用語の話についてです。「中長期的な物価安定の目途」は、中央銀行の金融政策の使命と整合的な物価上昇率を数値的に示していく、それを中長期的に目指していくという点では、「目標」という表現を使っている国の中央銀行の考え方と違いはありません。日本銀行が本年2月に「目途」という言葉を使ったのは― ―記者会見あるいは講演でも申し上げましたが――、わが国では、「インフレ目標」という言葉が、一定の物価上昇率と関係付けて機械的に金融政策を運営することとほぼ同義に使われているケースが少なくないという実情を踏まえたものです。海外のインフレーション・ターゲティング採用国でも、当初は、実際にそうした機械的な運営がなされていましたが、そうした機械的な運営が、却って経済の変動を大きくしてしまうことを経験し、現在では、「インフレーション・ターゲティング」とは、中長期的にみて物価や経済の安定を重視していく、いわゆる「フレキシブル・インフレーション・ターゲティング」であるということが共通理解になっています。金融危機後、この数年間、例えばニュージーランドあるいはカナダもそうですが、インフレーション・ターゲティングを採用している国で、枠組みの再点検を行った際、いずれも金融システムの安定も重視するという方向に変わってきています。いずれにせよ、フレキシブルな体系であるということは、ほぼ共通の理解になっています。
§26Masaaki Shirakawa
確か記者会見の席だったと思いますが、日本銀行が本年2月に発表した枠組みについて、「インフレーション・ターゲティングと呼ぶのか」というご質問を受けました。直前 1月に、FRBが「インフレーション・ゴール」を発表し、バーナンキ議長が記者会見で「これはインフレーション・ターゲティングではない」と明確に否定されました。ただ、FRBの政策の枠組みをインフレーション・ターゲティングであると呼ぶ議論が多かったわけですが、もしFRBの政策について、本人の否定にもかかわらず「インフレーション・ターゲティング」と呼ぶのであれば、日本銀行の今回の金融政策の枠組みは、FRBの金融政策運営の枠組みに近いということを私は申し上げました。要は、フレキシブルな運営であるという理解が――今、日本でもそうした理解が徐々に拡がってきていますが――、さらに深まっていくと、「目途」か「目標」かといった議論は意味がなくなってきます。従って、この問題のポイントは、柔軟に対応していく枠組みであるのか、あるいは物価上昇率が目標より低い限り金融緩和政策をどんどん強化していくことを「インフレーション・ターゲティング」と呼ぶのかです。海外のインフレーション・ターゲティングは、柔軟な政策の枠組みであり、あくまでも金融政策を遂行していくための枠組みであるということが大事です。2 つ目は、「政策協定」と「共通理解」は違うのかということです。
§27Masaaki Shirakawa
安倍総裁にお会いした時は、まだ自民党の総裁であり、今後正式に総理になられて政府としてどういうお考えかということはもちろんまだ伺っておりません。従って、両者がどのように違うのかを私がお答えする立場ではありません。ただ、どういう名前で呼ぶにせよ、日本銀行としては、法律に定められた「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」という使命を、最終的に日本銀行の責任と判断において果たしていくというのが現在の法律です。そうした枠組みに沿って、日本銀行としてどのようなあり方が望ましいのかを、真摯に考えていくということだと思います。次に、2年前と比べて、現在はどうか、というご質問です。この間に色々なことがありましたが、特に大きなことは、欧州債務危機が拡がりをみせてきたということです。夏場以降は良い方向に向かっていますが、2年前との比較でみると、欧州債務危機の影響が非常に大きかったと思います。振り返ってみると、日本経済が、夏場以降に、回復の動きが弱くなっている最大の理由は、欧州債務危機に端を発した世界経済全体の減速であると思います。2 つ目は東日本大震災の影響です。やはり、この 2 つの大きな力が、左右していると思います。副作用についてですが、どのような政策であっても、もちろん効果と副作用、コストがあります。
§28Masaaki Shirakawa
先程、別のご質問があった財政との関係ですが、低金利に人々が慣れ過ぎてしまい、財政規律が緩んでしまうことは、将来に向けた物価の安定あるいは金融システムの安定に対する大きなリスク要因となります。あるいは、低金利が長く続くことによって、人々が様々な構造改革に取り組んでいくインセンティブが削がれれば、これも副作用になります。私としてはそうした副作用が起こり得ることはもちろん認識していますが、起こり得るから金融緩和をしないということではなく、そうした副作用を顕在化させないように、しっかりと様々な構造改革に取り組むことが大事であると思っています。
§29Question
昨日、本日と、安倍総裁と直接お会いになったり、あるいは電話をされたりして、ある意味で意思の疎通を図られたと思うのですが、「物価安定の目途」あるいは「物価目標」といったものについての認識の違いや一致点について、どうお感じになっていますか。また、いわゆる「中長期的な物価安定の目途」について、「2%以下のプラスの領域」であるが、「当面は 1%」とされている中で、安倍総裁がおっしゃっている「2%」の物価目標は、現状において、白川総裁は適切だと判断されるのでしょうか。また、本日、フリップボードを使われましたが、この会見で総裁がフリップを使われることは珍しいと思います。使われた狙いというのは何でしょうか。
§30Masaaki Shirakawa
まず 1 問目です。安倍総裁のところにお伺いしたのは短時間で、ご挨拶です。それから、本日の電話も、決定会合で決まった内容を直接自分の言葉で伝えたということで、時間の制約もあり、細かな論点について議論したわけではありません。2 問目の「2%」に関するご質問ですが、先程、別の記者の方のご質問にお答えしたことと同じです。3 問目のフリップを使ったことについてです。日本銀行は、非常に大規模な資金供給、あるいは非常に積極的な金融緩和を行っています。ただ、日本銀行自身が地味なせいか、その事実が十分に浸透していません。実態と比べると「どうしてこんなにも大きな誤解が生じるのか」というくらい、大きな認識のギャップがあります。その意味で、日本銀行として――もちろんこれで十分だと言っているわけではありませんが――、事実としては、先進国では最も資金供給が多いですし、よく言われるように、リーマンショック後でみても欧米と同じであり、今後さらに高まっていくということです。私としては、こういう事実を、フリップを使うことによって、できればテレビでも放映して頂きたいと思っていますし、国民の多くの方にも理解して頂きたいという気持ちです。
§31Masaaki Shirakawa
また――これも再三申し上げていますが――、私は「量」について一応説明しましたが、バーナンキ議長が今月のFOMC後の記者会見でも、「金融政策の刺激の程度は、中央銀行のバランスシートのサイズ、規模で測れるものではない」ということを強調して言っています。あくまでもモーゲージの金利を下げていく、そのための手段として資産の買入れを行っているということで、これは日本銀行の資産買入れと全く同じです。従って、私どもとしては、金利や資金のアベイラビリティがどのような状況になっているのかということを、FRBと同じように重視しているわけですが、「量」についての関心が高いことも事実ですから、それについての事実をしっかり認識して頂く必要があるということです。その上で、これだけの「量」を供給していて、しかし、なかなか経済が回復していかないということの意味を、国民全体としてしっかり受け止め、認識し、また、金融緩和と並んで必要なこともしっかり議論し、実行していくということが、少しでも進んでいくことを期待しています。
§32Question
本日、「物価安定の目途」の検討を執行部へ指示したということですが、安倍総裁は、「新政権が発足したら、直ちにアコードに向けた議論の検討を関係閣僚に指示する」と言っておられます。この 1月に向けての作業というのは、新政権と擦り合わせをしながら文言等を詰めていくという作業になるのかどうか、もしそういうアプローチだとした場合、日銀の独立性という観点から問題は無いのかどうかという点について、お尋ねします。
§33Masaaki Shirakawa
まだ新政権が発足していませんから、どういう形で新政権が具体的な検討をしていくのか、私はお答えする立場ではありません。何れにせよ、日本銀行としては、先程申し上げた通り、日本銀行法の規定に従って、物価安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資するという使命をしっかり果たしていかなければいけません。従って、そういう意味では、政府とよく話し合った上で、中央銀行としての使命をしっかりと遂行していくということに尽きます。
§34Question
2 点あります。1 つ目は、米国の「財政の崖」の問題です。直近の状況をみていると、それなりに緊迫しているようにみえます。仮にですが、来年初にでも、「坂」といってもかなり急な「崖」になってしまう場合、日本経済にはどのようなリスクがあるとご覧になっているか、お伺いします。2 つ目は、今度BOEに来られるカナダのカーニー総裁が「名目GDPターゲティング」を提唱され、英国などで盛り上がっています。「インフレターゲティングの時代はお終いで、これからは名目GDPターゲティングの時代だ」という議論について、総裁のご所見をお伺いします。
§35Masaaki Shirakawa
まず、米国の「財政の崖」に関するご質問です。「財政の崖」については、欧州債務問題ともども、従来、主に企業部門で先行きの不確実性として認識されてきたところであり、秋口以降、企業マインドの慎重化につながってきました。加えて、最近では、これまで表面化してこなかった消費者心理にも、その影響が及びつつあるように窺われます。「財政の崖」の期日が迫ってくる中で、家計の間でもこのところ増税の可能性に関する認識が高まりつつあります。この間、金融市場においても、「財政の崖」への警戒は根強く残っており、日々のニュースに反応する展開が続いています。この先も、大統領・議会間で交渉が続く間、市場動向、経済主体のマインドともに不安定さが残ると考えられ、そのこと自体が実体経済に影響を及ぼす可能性があります。米国経済は回復基調を続けていますが、バランスシート問題の重石などもあって、そのテンポは依然緩やかなものにとどまっています。従って、もし、「財政の崖」が現実となり、財政面から急激な引締め措置が講じられるようであれば、米国景気の回復を損ないかねません。その場合、日本経済を含め、世界経済にも相応の影響が及ぶことが懸念されます。現在、米国では、大統領と共和党の議会関係者の間で、「財政の崖」回避に向けた交渉が続いていますが、今後も事態の推移を注視して参りたいと思います。
§36Masaaki Shirakawa
2 つ目の名目GDPターゲティングですが、カーニー総裁の講演のタイトルは、確か「ガイダンス」という言葉だったと思います。カーニー総裁は、色々な問題を議論していますが、特に取り上げているのは、ゼロ金利制約に直面したもとで、金融政策が有効性を発揮するために、どのような方法があり得るのかということで、いくつかのオプションを提示しています。カーニー総裁自身が、名目GDPターゲティングを、具体的にカナダや英国において提唱しているということでは必ずしもないと思いますが、いくつかの考えられるオプションとして示しているということだと思います。日本銀行も含め、ゼロ金利制約に直面している中央銀行は、どのように金融緩和の効果を作り出していくか腐心をしているわけです。本日、日本銀行が発表したものも、そうした努力、工夫の 1 つの表れです。色々な知恵を出して、この問題に取り組んでいくということだと私は思っています。
§37Question
本年5 回目となる今回の追加緩和決定について、市場の方では、政治からの圧力とか、強力な金融緩和を訴える自民党を大勝させた民意、この 2 つに押し切られた形だという見方があるようですが、これについては、どう思われますか。
§38Masaaki Shirakawa
中央銀行としては、あくまでも経済・物価の安定を実現していく上で、どのような方策を採り得るのかを真摯に考えていくということです。前々回の記者会見だったと思いますが、記者の方から、「これだけの金融緩和をして、効果があるのか」というご質問を随分受けました。その時もお答えしましたし、今も同じ気持ちですが、そうした角度からのご質問があるのは、ある意味で、日本銀行が既に非常に徹底した強力な金融緩和を行っていることの表れなのだと思います。つまり、これだけ強力な金融緩和をやっているから、追加的な効果というのは自ずと限られるのでないか、という見方が表れているのだと思います。これに対する私の考え方は、中央銀行としては、そうした中にあっても、経済の厳しさを考えると、出来ることは行っていくということです。それ以外の判断の軸は全くありません。
§39Question
総裁は、財政ファイナンスはしないとおっしゃいましたが、先程フリップで示して頂いた日銀の来年度末の 120 兆円超の残高の中で、国債の買入れ額はどの位になるのでしょうか。財政ファイナンスはしないと言っても、オペという形で国債を買い入れると、同じような機能を持つと思います。金融調節の道具として国債を買い入れることと財政ファイナンスの線引きはどこにあるのでしょうか。来年度末に、120 兆円の基金の中身がどうなっていて、そのうち国債はどの位になるのか、また、ある一定の金額以下にとどめるということがあれば、お示し下さい。
§40Masaaki Shirakawa
計数に即しての説明が必要であれば、後からお答えしますが、基本的に、基金の中身は国債が中心です。もちろん、CP、社債、J-REIT、ETFもありますが、多くが国債です。先程、貸出支援基金についてお話しました。これは金融機関に対する貸付ですが、担保は多くの場合国債です。従って、先程申し上げた数字の背後にある資産あるいは担保の相当部分は国債であると理解して頂いて結構です。今のご質問は、こうしたことが財政ファイナンスに当たるのではないか、という趣旨と思います。政府が国債を発行し、それを、日本銀行が、市場からではあっても買っているということは、政府のバランスシートを書いて資金調達構造を考えてみた場合、政府が国債を発行し、その国債を最終的には日本銀行が取得していることになる、ということは、もちろん理解しています。繰返しになって恐縮ですが、経済・物価の安定を図っていくための国債の買入れや、国債を担保とした貸付を行っていくということは、金融政策の判断として毎回毎回点検を行いながら進めていく、ということです。問題は、将来、経済情勢が変わってきた時、中央銀行は、本当に国債を持ち続けられるのか、ということです。
§41Masaaki Shirakawa
そういう段階になって初めて、これが本当に財政ファイナンスなのか、あるいは、金融政策上の措置として行っているのか、つまり、中央銀行が金融政策を運営していく上で、将来にわたり、自らのバランスシートをしっかりと管理していく能力あるいは意思を持っているのか、ということが試されるわけです。日本銀行としては、そうした意味での財政ファイナンスを行わないという方針は貫いていきます。同時に、現在国債発行に依存して財政支出が行われていることは事実です。従って、金融政策と並んで、財政の規律をしっかりと維持していくことが大事ですし、また、そうした財政の健全化に向けた努力を国民がしっかりサポートしていくことが大事だと思います。そうした努力が相俟って、振り返ってみて、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰したということになります。記者の方の問題提起は、十分に理解した上で、日本銀行はしっかりと対応していく、ということだけを申し上げたいと思います。
§42Question
2 点伺います。1 点目は、「インフレ目標」でも「物価安定の目途」でもいいのですが、フレキシビリティの話をされたと思います。「物価安定の目途」を金融政策運営において活用する際に、日銀はあくまでも見通しベースを重視していると思います。今後、これを見直すに当たって、達成することを重視する形に運用を変える可能性があるのでしょうか。2 点目は、総裁は 11月以降の講演において、「包括緩和策による資産の買入れは、長めの金利を引き下げて実体経済を刺激する効果のみならず、円高を防ぐ効果がある」という認識を示されています。本日、長期国債の買入れ額を増額しましたが、これは、円高である為替相場に一定の影響を及ぼす効果を意識し、かつその効果の実現を狙っている面があるか、教えて下さい。
§43Masaaki Shirakawa
次回の決定会合で議論する「物価安定の目途」は、金融政策運営の枠組みの話です。いつも申し上げている通り、物価の安定は中長期的に達成していくものです。従って、そうした枠組み自体が頻繁に変わっていくというものでは、もちろんありません。そういう意味で、物価の安定をどのように理解するのかをしっかり議論するというのが、先程申し上げた議長指示の意味するところです。他方、今のご質問は、具体的な金融政策の運営として、どうしていくのかに関するもので、これは別の論点です。これについては、色々な議論があり得ると思います。エコノミストの間でも、色々な議論がなされていることはもちろん承知しています。どのような金融政策の運営が一番望ましいのかということを、しっかり考えていきたいと思っています。2 点目は、為替レートへの影響を意識したのかというご質問です。金融政策は、様々な経済変数に影響を与えていきます。影響を与えない変数が存在するというわけではありません。もちろん為替レートにも影響を与えていきます。為替レートの動きを規定する一番大きな要因が何であったのか、例えば、この 2年間、為替レートの動きを理解する上で何が大きかったのかと考えた場合、やはり、欧州債務危機を背景とするグローバルな投資家のリスク回避姿勢が大きかったと思います。
§44Masaaki Shirakawa
そういう意味で、金融政策、金利差がドミナントな要因であったとは考えていませんが、日本銀行の緩和的な金融政策が為替レートにも相応の影響を与えているという事実認識を述べたということです。
§45Question
安倍総裁が経済財政諮問会議を復活させると言っていますが、これに関して、民主党時代には無かったのですが、それがあった頃、無かった頃、また復活ということで、どう捉えておられるのでしょうか。民主党時代は経済財政諮問会議が無かったことで、金融政策にどう影響があったのでしょうか。また、安倍さんは総裁選の時から、よく日銀を批判するようなことを言っていたと記憶しているのですが、日銀法改正等も含めて、安倍総裁の金融・経済に対する知識に関して、どのような理解をしていらっしゃいますか。
§46Masaaki Shirakawa
最後の質問については、発言を控えます。経済財政諮問会議ですが、新しくどういう形で開かれるのか、もちろん私もまだ詳細を承知しているわけではありません。国家戦略会議との比較も、そういう意味ではなかなかできるわけではありません。ただ、経済財政諮問会議であれ、国家戦略会議であれ、経済政策の基本となる事項については、日本銀行と関係の深いテーマもあります。従って、そうした場を使って意見交換を行っていくことは、有用と思っています。私は、国家戦略会議に何度も出席しましたし、それ以外にも官邸で会議があり、幾度となく出席しました。平均すると、多分、月3 回ぐらいは官邸へ行ったと思います。そうした時に、会議の場もそうですし、その前後に意見交換ができることを含めて、私は、国家戦略会議は有効に活用させて頂いたという思いです。
§47Question
本日、石田審議委員が「付利をゼロ%にする」という提案をされています。議論の詳細は議事要旨ということだと思うのですが、可能な範囲で、提案の理由について教えて頂けますでしょうか。
§48Masaaki Shirakawa
石田委員は、金利水準の一段の低下を促すとともに、それを通じて為替相場に働き掛ける観点から、補完当座預金制度における適用利率をゼロ%とする議案を提出しました。詳細は、議事要旨を参照して頂ければと思います。
§49Question
決定会合が終わった後、総理や次期総理候補に電話で報告するということは、毎回されているのでしょうか。もし、毎回ではないとしたら、本日は何故、直接お話ししたかったのかを教えて下さい。もう 1 点伺います。総裁は、これまで、1%を当面の目途としている理由について、1980年代後半の日本がバブルだった時も物価上昇率の平均はだいたい 1.3%ぐらいだった、だから当面 1%を狙っていく、ということをおっしゃっています。1%を当面の目途とするという考えについて、今もその考えは変わっていないのでしょうか。
§50Masaaki Shirakawa
まず、1 点目ですが、従来から、金融政策決定会合において重要な政策決定がなされたときには、総理を始め、関係する大臣に私から直接連絡を差し上げています。今回、安倍総裁については、野党の総裁ではいらっしゃいますが、次期政権を担う方ということでご連絡をしました。従来から、金融政策上の重要な決定がなされたときには、決定後ですが、私から連絡を差し上げています。次に、「物価安定の目途」についての考え方です。先程も申し上げた通り、1月の決定会合に向けて議論をしていき、最終的に 1月の決定会合で結論を出したいと思います。先程記者の方が言及された事実、これは事実としてしっかり受け止める必要があると思います。つまり、日本で「デフレ」ということが言われ始めたのは――物価が下落に転じたのは――、1997年、1998年ということですが、それ以前から、日本の物価上昇率は低いということです。1980年代後半のバブルの時期の平均が 1.3%です。1986年から 1988年は、確か、ゼロ%台であったと思います。日本の物価上昇率は、海外の先進国と比べると――国によって若干違いますが――、1%、2%、あるいは 3%程度低いという状態で、ある種の平行移動がずっと続いてきているという感じです。経済のグローバル化の中で、一気にこの差を縮めていくことができるかどうかということは、論点の 1 つだと思います。
§51Masaaki Shirakawa
しかし、これは論点の 1 つであって、他に様々な論点があります。従って、そうしたことも含めて、しっかり議論していきたいと考えています。
§52Question
今のご発言の確認ですが、「物価安定の目途」についての考え方は、次回 1月の会合で結論を出すというお考えでしょうか。
§53Masaaki Shirakawa
次回 1月の決定会合で結論を出したいと思っています。
§54Question
先程の質問へのお答えを少し明確にさせて下さい。先程、総裁は、「金融政策の運営については色々な議論があるので」とおっしゃっていましたが、これまで、金融政策を判断する際には、経済・物価情勢を点検し、下振れリスクがあるという懸念があった時に追加判断をしてきたと思いますが、今後、物価上昇のテンポ等もより考慮して判断する、というように変わる可能性があるということでしょうか。
§55Masaaki Shirakawa
今のご質問は、金融政策の運営をどうするか、というお話だと思います。もちろん、金融政策をどう運営するかということは、毎回毎回の決定会合で議論していくわけですが、私が「次回決定会合で議論したい」と申し上げたのは、「中長期的な物価安定の目途」というものをどう考えるか、ということです。今のご質問について言えば、日本銀行の政策目的は、物価の安定を通じた国民経済の健全な発展です。それから、金融システムの安定も日本銀行の目的です。従って、物価の安定、それから国民経済の健全な発展、バランスのとれた景気の拡大、あるいは金融システムの安定を、どのように意思決定に反映させていくのかということが、まさに金融政策運営上のポイントです。先程申し上げた通り、「インフレーション・ターゲティング」は、今や「フレキシブル・インフレーション・ターゲティング」に変質しているということが、まさにその表れです。何か一律のフォーミュラがあれば、政策決定はもちろんできるわけですが、実際は、経済の問題は毎回違った様相をとって表れてくるわけです。そこを判断することが、中央銀行としての専門性の発揮のしどころだと思っています。従って、今のご質問に対して、何か一律の答えがあるというわけではありません。以上