総裁定例記者会見(2013年3月7日)要旨
Full text
§1Question
本日の金融政策決定会合のポイントについて、ご説明をお願いします。
§2Masaaki Shirakawa
本日の決定会合では、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」というこれまでの金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。こうした決定の背景となる経済・物価情勢について、ご説明します。まず、海外経済をみると、減速した状態が続いていますが、持ち直しに向けた動きもみられています。米国経済は、底堅さを増しつつ、緩やかな回復基調を続けています。すなわち、家計部門では、社会保障税減税の打ち切りの影響が一部にみられるものの、堅調な自動車販売をはじめ個人消費は緩やかな増加を続けているほか、住宅投資も持ち直しの動きが明確になっています。企業部門でも、ひと頃慎重化していた企業マインドは徐々に改善してきており、設備投資には持ち直しの兆しが窺われます。中国経済については、製造業のPMIが力強さに欠けるとはいえ 5 か月連続で 50 を上回る中、個人消費やインフラ投資といった堅調な内需に牽引される形で減速局面を脱しつつあります。この間、欧州経済についてみると、企業や家計のマインドは、ドイツで持ち直しの動きがみられるなど、全体として一段の悪化には歯止めが掛かりつつあります。もっとも、緊縮財政や銀行の厳しい融資スタンスの影響もあって設備投資、個人消費ともに減少するなど、緩やかな景気後退が続いています。
§3Masaaki Shirakawa
国際金融資本市場についてみると、E CBの国債買入れスキーム(OMTs)や欧州安定メカニズム(ESM)といった各種の「安全弁」が整備されるなど、欧州債務問題に一定の前進がみられてきたことなどを背景に、投資家のリスク回避姿勢は後退した状態にあります。ただし、イタリアの政治情勢を巡って不透明感がやや高まる局面がみられたように、市場は経済・財政構造改革がしっかりと実行されるかどうかに注目しています。従って、今後の市場の展開には引き続き注意していく必要があります。次に、わが国の景気ですが、海外経済の持ち直しの動きなどを反映して、輸出・生産面で改善方向の動きがみられることから、前回会合における「下げ止まりつつある」から、「下げ止まっている」へと判断を一歩前進させています。輸出は、先程申し上げた海外経済の動きなどを背景に、下げ止まりつつあります。設備投資は、非製造業に底堅さがみられるものの、全体として弱めとなっています。一方、公共投資は増加を続けており、住宅投資も持ち直し傾向にあります。個人消費は、消費者マインドの改善を伴いつつ、底堅く推移しています。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は下げ止まっています。経済主体の支出・投資活動を支える金融環境は、緩和した状態が続いています。企業の資金調達コストは、新規の貸出約定平均金利が短期・長期ともに 1.0%程度となるなど、低水準で推移しています。
§4Masaaki Shirakawa
CP・社債市場の発行環境も総じて良好な状態にあり、企業からみた金融機関の貸出態度や企業の資金繰りなどに関する指標も、改善した状態が続いています。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、概ねゼロ%となっています。わが国経済の先行きについては、当面横ばい圏内で推移した後、国内需要が各種経済対策の効果もあって底堅く推移し、海外経済が減速した状態から次第に脱していくことなどを背景に、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比は、当面、前年のエネルギー関連や耐久消費財の動きの反動からマイナスとなった後、再びゼロ%近傍で推移するとみられます。リスク要因をみると、欧州債務問題の今後の展開や米国経済の回復力、新興国・資源国経済の持続的成長経路への円滑な移行の可能性、日中関係の影響など、日本経済を巡る不確実性は引き続き大きい情勢です。海外経済は次第に減速した状態を脱し、持ち直していくとみられますが、今後、世界景気を取り巻くいくつかの不透明要因が順調に払拭されていくかどうか、引き続きしっかりと点検していく必要があります。日本銀行は、1月に決定した「物価安定の目標」のもと、金融緩和を推進し、これをできるだけ早期に実現することを目指します。
§5Masaaki Shirakawa
その際、金融政策の効果波及には相応の時間を要することを踏まえ、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、経済の持続的な成長を確保する観点から、問題が生じていないかどうかを確認していきます。日本銀行は、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」という日本銀行法に定められた理念のもと、物価安定の目標の実現を目指し、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置を、それぞれ必要と判断される時点まで継続することを通じて、強力に金融緩和を推進します。併せて、金融機関による成長基盤強化の取組みおよび貸出の増加を支援していきます。なお、2011年4月に、被災地金融機関による復旧・復興に向けた資金需要への対応を支援していく目的で導入した、「被災地金融機関を支援するための資金供給オペレーション」は、本年4月末にその貸付受付期限を迎えます。本措置の今後の取扱いについては、被災地における年度末の資金需要や金融機関の資金繰りの動向などを点検した上で、決定する方針です。
§6Question
国内経済について、政府の先月の月例経済報告では、先行きの懸念材料から「デフレの影響」がなくなりました。先般の次期総裁・副総裁候補の国会聴取の席では、物価上昇率 2%という目標について、「2年程度で達成できるであろう」という見通しを示す方がおられました。日銀として、デフレのリスクが後退しているとみてよいのか、見解を教えて下さい。
§7Masaaki Shirakawa
日本銀行は、1月の中間評価において、先行き、消費者物価の前年比は徐々に緩やかな上昇に転じ、2014年度については消費税率引上げの影響を除くベースで+0.9%という見通しを公表しました。これは、国内需要が底堅く推移し、海外経済が減速した状態から次第に脱していくにつれて、わが国経済も潜在成長率を上回る成長を続け、需給ギャップが徐々に縮小していくとの見通しに基づくものです。その後の動きをみると、金融市場では、世界的に投資家のリスク回避姿勢が後退し、また、実体経済面でも、海外経済の見通しは改善方向にあります。そのような状況を基本的な背景として起きている円安・株高の動きが、わが国の企業や家計のマインドの改善につながっていくことも期待されます。加えて、ここにきて、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた取組みが進展する兆しも出てきています。こうした前向きの動きを持続的な成長につなげていけば、経済の需給バランスは一段と改善し、物価上昇率をさらに高めていくと考えられます。その意味で、日本経済が、デフレからの早期脱却と物価安定のもとでの持続的成長の実現に向けて良い方向に進んでいると考えられますし、また、是非そうしなければならないと思っています。もとより、欧州債務問題の今後の展開をはじめとして、日本経済を巡る不確実性は引き続き大きいと言えます。
§8Masaaki Shirakawa
最近の金融市場の動きは、世界経済が減速した状態を脱し、持ち直していくことを織り込んでいく動きですが、今後、先程申し上げた世界景気を取り巻くいくつかの不透明要因が順調に払拭されていくかどうかという不確実性もあります。それに、何よりも最も重要な、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた取組みが本当に進展していくのかが、大きな鍵を握っています。日本銀行としては、これらの点につき、引き続きしっかりと点検していきたいと考えています。
§9Question
もう1点お伺いします。先程の話と若干重なりますが、次期総裁・副総裁候補の方達が、国会の席で、これまでの日銀の金融政策について、基本的には緩和姿勢が不十分だったとの認識を示されていますが、これについての総裁の見方を教えて下さい。
§10Masaaki Shirakawa
総裁および副総裁の人事については、現在、国会で審議が行われている段階であり、コメントは差し控えたいと思います。それから、直接のご質問ではありませんが、人事を巡る報道について言うと、先般、山口副総裁が、人事に関連して、関係者に根回しを行っているといった趣旨の報道がありました。実際には、そのような事実は全くありませんので、日本銀行としては、当該報道機関に対し、顧問弁護士を通じて既に抗議を行ったところです。当該報道機関からは、「日本銀行の抗議を真摯に受け止める。今後は公正な報道を心掛ける」旨の回答を得ています。
§11Question
次期総裁・副総裁候補の話になりますが、国会の所信聴取で、お 2 人とも量的金融緩和を強化するというような意向を示しておられます。以前、白川総裁にお伺いした時は、量的金融緩和は、金融システム安定には非常に効果があったが、実体経済や物価を押し上げる力については、あまり明確な効果がなかったのではないかという認識を、確か示しておられたと思いますが、改めて、量的金融緩和の効果について、お伺いできますでしょうか。
§12Masaaki Shirakawa
ご質問の趣旨は、前回の 2001年から 2006年にかけて行った量的緩和の効果についての評価という意味ですか。
§13Question
そうです。さらに、それを強化していくことによって、デフレ脱却に近づいていく可能性があるのかどうかについてもお伺いしたいと思います。
§14Masaaki Shirakawa
2001年から 2006年にかけて行った量的緩和の政策効果については、今、記者の方が要約された通りです。日本銀行による潤沢な資金供給は、金融機関の流動性に対する不安を払拭し、当時大きな問題になっていた金融システム面での安定を確保することに貢献したと思います。このことは、景気回復の基盤を整える効果を発揮したと思っています。また、量的緩和継続のコミットメント──いわゆる時間軸──は、長期にわたってゼロ金利が継続されるとの予想を生み出し、金利が低位で安定的に推移することを促しました。このメカニズムを通じて、過剰な債務・設備・雇用といった構造的な問題の調整を促し、日本経済の前向きな動きを下支えしたと評価しています。また、現在行っている政策ですが、日本銀行は、今、包括緩和という枠組みのもとで資産の買入れを大量に行っていますし、その反射効果として、流動性は大幅に増加しています。この包括緩和のもとで、長めの金利を引下げ、あるいはリスクプレミアムの低下を促すことに努めて参りました。これは、金融政策という面から、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復する上で、相応の効果を発揮していると思っています。
§15Masaaki Shirakawa
それから、日本銀行の行っている現在の資産買入れについて、多少、量的な側面について申し上げると、今後 1年余りの間に、資産買入等の基金を通じた資産の買入れや、貸出支援基金を通じて、残高ベースで 50 兆円程度の増加という大規模な資金供給を行うことになります。その結果、いわゆるマネタリーベース、中央銀行通貨も拡大します。仮に、今後の基金残高の増分が、マネタリーベースの増分につながると仮定して機械的に計算すると、本年末のマネタリーベースは 170 兆円程度と試算されます。前年比では、2月の+15%から 12月には+29%、対名目GDP比では、2月の 27%から 12月には 36%に上昇します。このうち、当座預金は、2月末が 43.9 兆円ですが、先程の機械的な前提を置いて計算すると、12月末は 84.9 兆円となります。現在、FRBのマネタリーベースの対GDP比が 17%、ユーロ圏が 16%ですが、こうした数字と比較しながら、量という面でもさらに拡大していくということです。
§16Question
今回は最後の定例会合であったと思いますが、総裁は、この 5年間で、金融引締めを1回もしなかったと思います。それは、デフレから脱却できなかったということの裏返しでもあると思うのですが、この点について、どう思われていますか。
§17Masaaki Shirakawa
3月19日に最後の会見を行います。残り 2 週間しっかり仕事をしていきたいので、そうした話については、その時にしっかりお答えしたいと思います。その時に、またご質問を頂ければと思います。
§18Question
米国経済の現状についての見方を伺います。総裁は、4年前の講演で、「偽りの夜明け」との名文句を使っていらっしゃいますが、現在の米国の株式市場も含めた景況感について、もう少し細かく見方を教えて下さい。
§19Masaaki Shirakawa
まず、米国経済の足許の短期の動きから申し上げます。米国では、3月1日に財政統制法に基づく歳出自動削減が発動されました。今後も、民主・共和両党間で協議は継続されていくとみられますが、新たな合意がなければ、2013年度中にGDPの 0.5%程度に相当する850 億ドルの歳出予算が、国防費と非国防費折半で削減されます。支出ベースでみた削減額や時期について不確実性は高いわけですが、米国経済に一定の下押し要因として働くことは避けられないと思います。このように、財政面での不確実性はなお高いわけですが、現状、米国経済は緩やかな回復基調を維持しつつ、その底堅さが増していると判断しています。これを、これまで弱めであった企業部門からみると、年初以降、「財政の崖」回避や債務上限の適用先送りなどの進展もあって、企業マインドは徐々に改善してきており、設備投資にも持ち直しの兆しが窺われます。家計部門についてみると、個人消費は、社会保障税減税の打切りの影響はみられるものの、先程申し上げた通り、堅調な自動車販売が続くなど、基調としてみれば、緩やかに増加しています。住宅投資も、低水準ながら持ち直しの動きが明確になっています。
§20Masaaki Shirakawa
家計部門の支出が底堅い背景ですが、第 1 に、雇用情勢が着実な改善傾向を辿っていること、第 2 に、バランス・シート問題の重石が徐々に和らいでいること、第 3 に、緩和的な金融環境が続いていることが挙げられます。少し長い目でみた米国経済の位置付けですが、振り返ってみると、いわゆるパリバ・ショックという形でグローバルな金融危機が始まったのが 2007年の夏でした。現在は、それから 6年近くが既に経過しています。改めて、この 6年近くの米国のGDPの経路を振り返ってみると、日本のバブル崩壊後のGDPの経路と比べ、ほとんど変わりありません。このことは、大きな信用バブルが発生し、金融的な不均衡が蓄積されてしまうと、その後の経済は非常に積極的な金融政策をもってしても、なかなか捗々しく回復しないということを物語っているように思います。私が 2009年春の段階で、今ご指摘があった「偽りの夜明け」という言葉を使って申し上げたのは、当時、米国経済の回復の兆しが少し出てきた時に聞こえてきた、私から言うと楽観的な見方について強い違和感を覚えたので、あのような発言をしたわけです。実際、どの程度の期間で経済が正常な経路に戻っていくのかは、バブル期に蓄積した過剰債務という不均衡の大きさに依存するので、この点については、まだ調整が完全に終わったとは言えませんが、少しずつ調整が進んできていることも事実です。
§21Masaaki Shirakawa
ただ、もう少し視点をよりグローバルにしてみた場合には、欧州経済が今後どうなっていくかということに、米国経済も影響を受けるわけです。その欧州経済は、もともと 2000年代半ばにかけての大きな信用バブルの影響を受けています。そのように考えると、世界経済全体について、バブルの影響から脱したというには、まだかなりの時間を要すると感じています。
§22Question
週明けで東日本大震災から 2周年になりますが、その後の金融システム、復興状況をどのようにみているか、また、それに対する日本銀行の取組みについて、どのように評価しているか教えて下さい。日本銀行の取組みは、金融システムの安定に対してどのような貢献があったか、それがどのような効果をみせたかについても、お伺いします。
§23Masaaki Shirakawa
まず、2011年3月に、東日本大震災という大きな惨事が発生してから、まもなく 2年が経過します。改めて、犠牲者やそのご家族の方々に心からお悔やみを申し上げるとともに、懸命に復興に取り組んでこられた皆様に対し、心から敬意を表したいと思います。その上で、震災が経済や金融について与えた影響について、いくつか申し上げたいと思います。まず、被災地の経済の現状についてみると、生産等でみた経済活動の水準は、全国平均と概ね同程度まで回復しています。一方で、生活関連施設の復旧に遅れがみられたり、地域により復興の進捗に差がみられるもとで、復旧・復興の実感が伴わないとの声が聞かれています。金融動向については、東日本大震災による大きなショックに見舞われた際にも、金融機能は維持され、資金決済の円滑も確保されました。金融市場も、震災直後を除けば、欧州債務問題にもかかわらず安定して推移しました。決済インフラを含む金融システムの安定性という点は、日本経済の大きな強みであると改めて認識しました。東日本大震災の時に日本銀行が果たした役割を振り返ってみると、金融インフラ、中でも決済インフラをしっかり維持していくことが、中央銀行としての非常に大きな責任であることを改めて認識しました。
§24Masaaki Shirakawa
そうした観点から、この 2年間、日本銀行はいわゆる業務継続――BCP(Business Continuity Plan)――について、従来にも増して力を入れて体制を整備しています。例えば、様々な異例事態を想定しながら、日本銀行の体制をどう改善していくかについて、様々な資源制約はありますが、力を入れています。決済面での日本銀行の重要性を多くの人に知って頂き、また、多くの人にこの面でのさらなるご協力を頂きたいとの趣旨から、東日本大震災から現時点までに利用可能な金融・決済面での客観的なデータを整理した調査論文を、震災から 2年経った 3月11日に公表する予定です。より抜本的な復興に関しては、被害が広域にわたり、かつ甚大であったため、簡単な道のりではないかもしれませんが、多くの方々の熱意と努力により、着実に前進していくと確信しています。日本銀行としても、被災地の復興を金融面から支えるべく、中央銀行としてできる限りのサポートをしてきたと考えています。今後も、支店の調査機能も十分に活用しながら、復興資金需要を含めた被災地の金融動向等をきめ細かくモニタリングし、適切な対応を図っていきたいと考えています。
§25Question
2%の物価安定目標を達成できる時期について、先般、次期総裁・副総裁候補から言及がありましたが、現時点での総裁、日銀は、達成時期についてどうご覧になっているかお尋ねします。もう 1 つ、これに関連して、仮に 2年という年限、見通しを明示すると、それによって総裁がかねがね言われてきた、数字なり時期と機械的に連動する金融政策となり、金融政策のフレキシビリティが失われるという惧れはないのか、ご見解をお伺いします。
§26Masaaki Shirakawa
総裁・副総裁候補の方のご発言についての直接的なコメントは、差し控えたいと思います。物価安定目標の達成の時期ですが、かねて申し上げている通り、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」という使命、理念に照らして、できるだけ早く実現していきたいということです。前回の記者会見でも同じ趣旨のご質問がありましたので、同じことをお答えしますが、少し整理の仕方を変えてご説明したいと思います。物価の上昇率が高まっていく基本的なメカニズムは、需給ギャップの改善ということです。需給ギャップは、ピークに比べてかなり縮小しており、また、需給ギャップに対する物価上昇率の感応度を前提とすると、この先、需給ギャップの解消だけで直ちに 2%の物価目標が達成できるわけではありません。物価上昇率が 2%になる経済とは、どのようなイメージの経済で、そこに至る過程で、どのようなメカニズムが作動するのかということを考えてみると、論理的には、4 つ考えられると思います。第 1 は、円安や国際商品市況の上昇によって輸入物価が先行的に上昇するケースです。この場合、実質的な所得は圧迫されるため、これは私どもが望んでいる姿ではありません。第 2 は、賃金が先行して上昇するケースです。この場合には、企業収益が圧迫され、なかなか実体経済の持続的な回復にはつながっていきにくいケースです。
§27Masaaki Shirakawa
第 3 は、予想物価上昇率が先行して上昇するケースです。この場合は、国債の金利が上昇し、金融機関が保有している国債が値下がりし、金融システムに対して悪影響が出てくるケースです。第 4 は、企業や家計の成長期待が高まっていくケース、つまり経済全体の体温が改善していき、その結果、物価も上がっていくケースです。望ましいケースは、賃金の上昇、予想物価上昇率の高まり、企業や家計の成長期待の高まりが、同時進行的に展開する状態だと思います。ここでの大きなポイントは、賃金と物価の関係だと思います。翻って、わが国の物価上昇率が海外に比べて低い 1 つの大きな理由は、日本の雇用慣行にも求められると思います。90年代後半以降、日本の企業は、主として賃金の引下げによってコスト削減を図り、それによって雇用確保を優先しましたが、その反射効果として物価は下落したわけです。このことの根本的な原因を考えてみると、企業の収益力が低下しているということであり、さらに遡れば、潜在成長率が低下しているということです。その意味で、企業や家計の成長期待が回復していけば、賃金や物価にも持続的な好影響が及んできます。こうしたことを通じて、長年にわたって定着したいわゆるデフレ期待が払拭されていくと考えます。この点、先程申し上げた通り、足許の金融市況は良い方向に展開していますし、海外経済も持ち直しの方向に転じています。
§28Masaaki Shirakawa
それから何よりも、「デフレ脱却」について、本当に我々が必要としていることは何かに関する議論が、ようやく始まりつつあるように思います。そうした議論の結果、真に必要な取組みの進み方により、先程の達成時期は早くもなり、遅くもなるということです。この間、日本銀行は、しっかりと強力な金融緩和を展開していきます。そうした日本銀行の金融緩和と、様々な主体による成長力強化の取組みがプラスの相乗作用を生んでいくことを期待しています。最後に、金融政策の柔軟性についてですが、この点は先般発表した共同声明でも担保されていますし、先程冒頭の質問に対してお答えした通り、日本銀行は、金融面の不均衡も点検しつつ、中長期的な経済の持続的な成長を意識しながら政策を行っていく、という点もしっかり担保されていると思います。
§29Question
2 点質問します。1 点目は、本日の会合で、白井審議委員から輪番オペと基金による長期国債買入れの統合という提案が出ていますが、これについて総裁も反対されたと思うのですが、その輪番オペと基金の統合と、「日銀券ルール」の意味づけみたいなものについて──一部には、「日銀券ルール」の意義は、現在はほとんど無くなってきているという見方もあるわけですが──、総裁のお考えを聞かせて下さい。それから、新総裁候補の国会での発言でも、3年以下とされている今の基金の長期国債買入れの対象年限を、それ以上に延ばしたらいいのではないかという発言もあって、国債の金利低下が進んだというマーケットの動きもあったわけですが、一般論で結構ですが、現在、買入れ対象を 3年以下にしている理由、5年以上にしていかないことの理由をどう考えればよいのかを、改めてご説明下さい。
§30Masaaki Shirakawa
まず、白井委員のご提案ですが、物価安定の目標の実現を目指して金融緩和を推進する日本銀行の政策姿勢をより明確化するとともに、最近みられているわが国経済の改善の動きを金融面からさらに後押しする観点から、資産買入等の基金の長期国債の買入れについて、「期限を定めない買入れ方式」を速やかに導入し、「金融調節上の必要から行う国債買入れ」と統合する、との議案を提案されました。詳しくは、次回の金融政策決定会合後に公表される議事要旨をご覧頂きたいと思います。総裁候補の方のご発言自体については、コメントを差し控えたいと思います。ご質問は、従来 3年以下にしている理由は何なのか、ということだと思います。再々ここでもお答えした通り、日本の企業の資金調達のうち、8 割ぐらいは銀行借入です。銀行借入の期間を考えてみると、3年以下が圧倒的に多いということです。そういう意味で、この 3年以下のゾーンに働き掛けることを通じて、企業の積極的な行動を促していくことが目的です。もちろん、買入れ対象自体は 3年以下といっても、3年以下の金利が下がっていけば、そのことを通じて3年以上の長期金利にも影響が出てくるということではありますが、主として 3年以下を対象にしたのは、先程申し上げた理由によります。「期間」ということを離れて、日本銀行の国債買入れに関して一言申し上げます。日本銀行は、現在、多額の国債買入れを行っています。
§31Masaaki Shirakawa
日本の財政が非常に厳しい状況にあるだけに、日本銀行の国債買入れが、全体として、内外の市場で財政ファイナンスのために行っていると受け取られると、それが原因となって長期金利が上昇し、多額の国債を保有する金融機関の経営を通じて、実体経済に悪影響を与えることになります。特に、成長力強化の取組みが進展せず、結果として日本銀行の国債保有だけが増加する場合、そうしたリスクが高まります。そういう意味で、政府にも、日本銀行にも、規律(discipline)が求められます。日本銀行の規律を規定するのは、物価の安定と金融システムの安定を通じて、持続的な国民経済の成長に貢献するという中央銀行に課せられた使命・目的です。政府に求められるのは財政規律です。この点、政府は、財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取組みを着実に推進する方針を明確にしています。いったん信認が低下し、経済が混乱してしまうと、その時点では中央銀行の採り得る政策の余地は限られてきます。エコノミストはそのような状態を、“fiscal dominance”、あるいは「財政従属」という言葉で表現していますが、そうした事態を未然に防ぐためには、財政改革に取り組み、中長期的な財政規律が維持されると同時に、中央銀行の独立性が尊重されることが重要です。
§32Masaaki Shirakawa
一言で言うと、現在、日本銀行は、非常に積極的に国債買入れを行っていますが、積極性と周到さの両方が求められる、非常に狭い道だと思っています。
§33Question
財政規律や日銀の国債引受けについて、日銀自体も規律を持って行う必要があるとのご発言はその通りだと思います。国債を引き受けること自体、非常に広い意味では財政ファイナンスだという受け止め方もできないわけではないが、今はそういう状態でないということは、財政ファイナンスになってしまう国債引受けというのは一体どのような状態だとお考えですか。また、それを防ぐために「日銀券ルール」をとってきたわけですが、改めて何らかの歯止めが今後も必要とお考えですか。また、都心では不動産投機のような動きが少し出てきており、地方都市でもブランド品などが売れるようになっています。こういうことを指して、「アベノミクス」は、首相の名前の「ABE」から Asset Bubble Economy との言い方をするエコノミストも出てきています。前回の合意書の中では金融的不均衡──これにバブルが含まれると思いますが── をチェックしていくとのことでしたが、その予兆が既に出てきているか否かのご判断をお聞かせ下さい。
§34Masaaki Shirakawa
中央銀行が国債を買うことの裏側にある国債の発行について、今ご指摘があったような議論が出てくることは、議論としては分かりますが、大きな違いは、中央銀行が、物価の安定を目指して、中央銀行の主体的な判断で国債を買っているかどうかであり、そこが決定的に違うわけです。そういう意味で、日本銀行は、確かにFRBやBOEと同じように国債を買い入れていますが、あくまでも金融政策上の目的のために行っているもので、財政ファイナンスのためではありません。重要なメルクマールは、中央銀行が主体的判断で買入れを行っているかどうかです。2 点目の資産価格への影響ですが、先程も申し上げた通り、現在の包括緩和は、長期金利あるいはリスクプレミアムへの働きかけを目的にしています。言い換えると、資産価格がその分上がることを意味しているわけですから、金融緩和の効果の波及チャネルの1 つとして資産価格というものは存在しています。しかし、今ご指摘があったように、資産価格の上昇が「バブル」となると、経済の持続的発展にとってはもちろんマイナスですから、そうした危険性が大きくなっていないかどうか、中央銀行として当然チェックをして参ります。現在の日本銀行の金融政策の枠組みでは、2 つの柱に基づく点検を踏まえて政策を行っています。2 つ目の柱は、「確率は低いがやや長い目で見て経済の安定を損なうリスクがないかどうか」という点検です。
§35Masaaki Shirakawa
そうした点検は、当然、中央銀行として今後も行っていきますが、本日の金融政策決定会合でも、2 つの柱を踏まえた上で現在の強力な金融緩和は適切であるという判断でした。
§36Question
少し分かりにくい点があったので追加で質問させて頂きたいと思います。国債の買入れを主体的に行えば財政ファイナンスではないということであれば、「財政ファイナンスではないと中央銀行が言い続ければ財政ファイナンスではない」ということになりかねません。もう少し具体的に「こういう状態に陥れば財政ファイナンスだ」と、例えば量的な面でメルクマールのようなものはないのでしょうか。これと関連して、「日銀券ルール」の評価と、それに代わる新たな歯止めのようなものは必要ないのかと先程お伺いしましたので、それについてもお答えをお願いします。
§37Masaaki Shirakawa
私としては、ご質問に対してお答えしたつもりですが、先程、中央銀行にも政府にも規律が必要と申し上げましたが、中央銀行の場合、規律を規定するのは日本銀行法です。つまり、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な安定に資する」という非常に重い規定があります。その規定に照らして、日本銀行は規律を課していくということです。従って、何か数値でもって機械的に「ここから先は財政ファイナンスだ」と言えるものではありません。まさに、先程、一方でデフレからの脱却、他方で経済の安定を損なうことがないように、非常に狭い道だが中央銀行としてしっかり追求していきたいと申し上げた通りです。
§38Question
2 点お伺いします。1 つは、最近、金融政策を巡る議論が活発になっている中で、「期待に働き掛けて期待インフレ率を引き上げることが大切だ」という議論があるようです。特に、「期待インフレ率は日本銀行からのメッセージでコントロールできる」という考え方もあるようですが、これについてどうお考えか、お聞かせ下さい。もう 1 点は、FRBの中では、議事録にもあるように、「出口」の話が明確に出てきているようで、3 兆ドルよりも資産規模が大きくなっていく中では、ある意味で当然かと思います。一方、日本はこれからさらに資産を膨らませていく方針で、まだ「出口」の議論をするのは早いとおっしゃると思うのですが、これから膨らませていくに当たって、日本において「出口」を議論する際にどういう点が非常に重要なのか、円滑に金融政策を運営し、「出口」にしっかり向かって混乱なくやっていくためには、どういうことをケアしなければいけないかについて、総裁のお考えをお聞かせ下さい。
§39Masaaki Shirakawa
これは、非常に大きな問題に関するご質問です。前者の質問については、よく「市場との対話」という言葉で言われるもので、このような問題について、どのように感じているかをお答えすることによって、ご質問への答えとしたいと思います。日本銀行は、法律により独立性を与えられていますが、当然、それはアカウンタビリティーが求められるということです。政策の背後にある経済・金融情勢の判断と、政策運営の基本的な考え方を丁寧に説明することが基本だと思います。特に、現在のように、非伝統的な政策の領域に踏み込んでいる場合には、想定される効果とコスト、あるいはリスクをきちんと説明することが重要です。「市場との対話」という言葉は、時として、中央銀行の言葉や表現で市場を動かす、ということに力点が置かれているようにも感じますが、やや長い目で見ると、経済の動きを規定するのは、やはりファンダメンタルズです。言葉を裏付ける経済の実態や、政策が存在して初めて経済は動いていくと思います。先程、他の記者の方から、現在の米国経済がバブル崩壊の影響から脱却したのかという趣旨のご質問がありましたが、 2000年代半ばの世界的な信用バブルの経験が示すように、一つの問題への対応に全力を挙げているときに、実は新たな問題や予想外の危機の種が蒔かれているという事例には事欠きません。
§40Masaaki Shirakawa
従って、政策は、効果とコストの比較考量の上に決定されるべきだと思っています。これが、先程の「市場との対話」という言葉に関して私が感じていることです。もう 1 つ、「出口」に関するご質問です。日本銀行は、できるだけ早くデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的な成長を実現したいと全力を挙げていますが、まさにご質問にあったように、今、「出口」について語ることは誤った印象を与えると思いますので、あくまでも一般論として申し上げます。日本の場合には、財政の状況が非常に悪いこと、金融機関が国債を多額に保有していることが、特に大きな留意点になってくると思います。もう1つは、現在、多くの先進国が非伝統的な政策を展開していますが、各国が同じタイミングで「出口」に向かうわけではなく、それぞれの経済の状況に応じてズレが出て来ることがあり得ます。その過程で、様々な問題が起こる可能性もあります。ただ、そうした可能性があるから金融緩和を行わないのではなく、そうしたことは、リスクとしてもちろん意識した上で、現在は強力な金融緩和を行っていくことが大事だと思っている、ということが私の答えです。
§41Question
「日銀券ルール」についての評価と、それに代わる新たな歯止めのようなものが必要かどうかのご意見を、再度お伺いします。
§42Masaaki Shirakawa
本日は、定例会合という意味では、私にとって最後の金融政策決定会合の日です。そういう意味で、個別具体的な論点については、新年度入り後の金融政策決定会合で議論されていくと思っています。ただ、どのような議論であれ、先程から申し上げている通り、日本銀行の規律を規定するのは日本銀行法です。これが何より、最も大きな規律だと思っています。
§43Question
2 点伺います。1 点目は、総裁は、かつて、2%のインフレターゲットは今の日本経済にとっては決して容易なことではないとおっしゃっていたと思いますが、この認識は今でも変わりないでしょうか。2 点目ですが、日本の中央銀行の独立性が、日本国内でも海外でも色々な議論や話題になっていたと思います。現段階で、日本の中央銀行の独立性は保たれていると思われますか。
§44Masaaki Shirakawa
まず 1 点目ですが、1月に、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取組みが進展していくという認識に立って、2%の「物価安定の目標」を導入しました。そのためには相当な努力が必要であるということは、いつも申し上げている通りです。私どもとしては、そうした状態を実現していきたいという思いで、努力をしていきたいと思っています。次に、2 点目の独立性に関するご質問です。様々な方から厳しいご意見を頂戴しているところですが、中央銀行の独立性は世界的に確立された考え方であり、そうした発言は中央銀行の独立性の重要性を十分に認識された上でのご発言であると受け止めています。私としては、様々な意見に謙虚に耳を傾けた上で、自らの責任と判断において、適切な金融政策運営を行ってきたつもりですし、今後もそうであると思います。日本銀行として、物価の安定と金融システムの安定を通じて、持続的な国民経済の成長に貢献するという中央銀行に課せられた使命の達成に今後とも努力していきたいと思っています。
§45Question
国会に提示された総裁・副総裁候補ですが、2014年ではなく、できるだけ早い段階で金融緩和を、と言っています。日銀としては、本年1月に、2014年から無期限で、と言っていますが、なぜ 2014年からにしたのか、その理由をお聞かせ下さい。また、できるだけ早く始めた方がよいと言われていることをどう受け止めていますか。最後に、日銀の体制の継続性は必要だと思いますが、時期を早めたりするという意見をどのように思われますか。
§46Masaaki Shirakawa
何度も申し上げている通り、総裁・副総裁候補の方の発言について、私がコメントすることは不適切だと思います。次に、なぜ 2014年からなのか、というご質問です。先程も強調してご説明した通り、2013年中には、期限を定めている従来の方式のもとで、1年間で 50 兆円という大量の資金供給を行っていくということです。これは、既に期限を定めて発表していますから、発表したことを行った上で、さらに 2014年には新しい方式を導入するということです。従って、強力な金融緩和を既に行っているし、今後も行っていくということです。
§47Question
本日の白井委員の議案に対して、総裁ご自身はなぜ反対されたのか、可能な範囲で理由をお聞かせ下さい。
§48Masaaki Shirakawa
私を含め、決定会合での発言内容は、次回決定会合後の議事要旨で公表する扱いとなっています。
§49Question
一般論で構いませんので、安倍政権の経済政策、アベノミクスに対する現段階での問題意識と、今後起こり得る問題点等を指摘して頂きたいと思います。
§50Masaaki Shirakawa
アベノミクスに対する評価について、私が申し上げるのは不適切だと思います。中央銀行の総裁として申し上げられることは、日本銀行は、「物価の安定を図ることを通じて、国民経済の健全な発展に資する」という使命に対して、金融政策をしっかり行っていきたいということです。また、物価安定と関係するのは、2 つの点です。1点目は、1月に公表した共同声明で謳われている点ですが、日本銀行が先程申し上げた「使命」を遂行する上で政府の協力も不可欠である、競争力と成長力の強化に向けた取組みの面で政府の役割は非常に大きいと思っています。この点については、既に様々な議論が始まっており、私としては大いに期待しています。2 点目は、先程、国債に関する質問にお答えした通り、中長期的な財政規律をしっかりと確保することが大事であるということです。この点についても、共同声明で明確に謳われています。中央銀行の立場からすると、こうしたことにしっかり取り組んで頂きたいと思います。
§51Question
先程、「市場との対話」について言及がありましたが、金融政策決定会合を終えて記者会見に臨まれ市場にメッセージを発するという意味では、本日が最後の会見になると思います。任期中を振り返って、「市場との対話」は上手くいったのか、コメントを頂きたいと思います。そして、先程、回顧的な質問は退任会見で、とおっしゃられた中で恐縮ですが、決定会合後に記者会見し、ある意味、市場にメッセージを発信する、色々なメディアがこうやって市場に伝えるのですが、任期を振り返って、改めて、ご自身の仕事振りをどう評価されるのか――例えば 10 点満点で何点なのか――、どのように振り返るのか、大変失礼な質問ですがよろしくお願いします。
§52Masaaki Shirakawa
先程お答えした通り、最後の記者会見は 3月19日になります。回顧するような発言については、全て、3月19日にしたいと思います。これから、今週末はバーゼルでBISの会議があります。来週もまた、様々な会議があり、最後まで、中央銀行総裁の職務を遂行したいと思っています。回顧は、後回しにしたいと思います。
§53Question
ただ、金融政策決定会合を終えての会見という意味では、これが最後になると思いますので、その辺のところを教えて頂きたいのですが。
§54Masaaki Shirakawa
まだ、あと 2 週間もあり、最後までしっかり仕事をした上で――回顧は私の趣味ではありませんが――、最後の会見でご質問があった時に、何もお答えしないのもどうかと思いますので、何がしかお答えをしたいと思っています。
§55Question
国会に提示された総裁・副総裁候補についてはコメントできないとおっしゃいましたが、総裁は、前回の会見で、後継者の資質について、バランスが重要であると、そのバランスのうち、知識、異なる意見に耳を傾ける謙虚さ、グローバルな舞台で相手を説得したり発言する能力、そういうことをおっしゃったと思います。候補者をご覧になって、このような総裁の考える資質に当てはまる方が出てきたとお考えになっていますか。もう 1 つ、副総裁候補の岩田さんについては、1993年に、確か日銀の企画調査課長であった翁さんと色々と論争してきた方が提示されたのですが、その辺りについてもご感想があれば教えて下さい。
§56Masaaki Shirakawa
2 つのご質問とも、私がこの場でお答えするのは、非常に不適切ですので、お答えは差し控えたいと思います。
§57Question
繰返しになりますが、本日の白井委員の議案は、「日銀券ルール」と密接に関係すると思いますが、一般論として、「日銀券ルール」の考え方について、改めてお話頂けないでしょうか。
§58Masaaki Shirakawa
白井委員の議案についてはコメントできませんが、従来から行っている「日銀券ルール」についてのご説明は、この場でも何度も行いましたが、改めて申し上げたいと思います。経済が成長していくと、それに伴って銀行券に対する需要も増加していきます。増加した銀行券は、ある種の長期的な負債ですので、それには長期的な資産で対応していくということで、いわゆる「成長通貨オペ」を導入しています。一方、2年半前に包括緩和を導入した時は、既に金利水準が相当低くなっているもとで、さらに金融緩和効果を作り出していくためには、長めの金利に働き掛けていく必要があるということで、長期国債を買入れることとしました。その時に、これはあくまでも「デフレ脱却」という目的のために行っていくものであり、従来の「成長通貨オペ」とはしっかり分けて市場参加者あるいは国民に対して説明をしていく必要があるということで、導入したわけです。以上