総裁定例記者会見(2013年4月4日)要旨
Full text
§1Question
まず、本日の決定のポイントについて、ご説明をお願いします。
§2Haruhiko Kuroda
日本銀行は、本日、消費者物価の前年比上昇率 2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現するため、「量的・質的金融緩和」を導入することを決定しました。具体的には、第 1 に、量的な金融緩和を推進する観点から、金融市場調節の操作目標を、従来の無担保コールレート・オーバーナイト物から、マネタリーベースに変更することとしました。その上で、「マネタリーベースが、年間約 60 兆から 70 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う」ことを決定しました。第 2 に、イールドカーブ全体の金利低下を促す観点から、長期国債の保有残高が年間 50 兆円に相当するペースで増加するよう買入れを行うことを決定しました。また、長期国債の買入れ対象を、40年債を含む全ゾーンの国債とした上で、買入れの平均残存期間を、現状の 3年弱から 7年程度と、国債発行残高の平均並みの期間に延長することも併せて決定しました。第 3 に、資産価格のプレミアムに働きかける観点から、ETFおよびJ-REITの保有残高が、それぞれ年間1兆円、年間300億円に相当するペースで増加するよう買入れを行うこととしました。第 4 に、以上の措置で構成される「量的・質的金融緩和」は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで継続することとします。
§3Haruhiko Kuroda
また、その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行います。第 5 に、これらの実施に伴い、「資産買入等の基金」は廃止し、いわゆる「銀行券ルール」を一時停止することとしました。以上の施策は、これまでとは次元の違う金融緩和です。まず、第 1 に、戦力の逐次投入をせずに、現時点で必要な政策を全て講じたということです。第 2 に、政策を分かりやすく伝えるように、枠組みを見直したということです。まず、2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現することを明確にコミットし、そのための枠組みとして、操作目標を「マネタリーベース」とする新しい金融調節方式を導入しました。第 3 に、量的にみても、質的にみても、これまでとは全く次元の違う金融緩和を行うということです。まず、量の面では、先程申し上げたマネタリーベースでみると、2年間で倍増することになります。最大のバランスシート項目である長期国債の保有額も、2 倍以上になるように買入れを進めます。また、質の面では、長期国債の買入れの平均残存期間を従来の 2 倍以上に伸ばし、長めの金利に働きかけるほか、ETFの保有残高を 2 倍以上にするなど資産価格のプレミアムへの働きかけも強化します。
§4Haruhiko Kuroda
私どもも、この先の長期国債の買入れやマネタリーベースの供給が、市場参加者の常識を超える極めて巨額なものであることは十分に認識しています。実際、長期国債のグロスの買入れ額は毎月7 兆円強となる見込みです。その意味で、取引先金融機関の積極的な応札など、市場参加者の協力が欠かせません。市場参加者との間では、金融市場調節や市場取引全般に関し、これまで以上に密接な意見交換を行う場を設けることとしています。次に、経済・物価情勢について説明します。わが国の経済は、「下げ止まっており、持ち直しに向かう動きもみられている」と判断しています。先行きについては、国内需要が各種経済対策の効果もあって底堅く推移し、米国・中国等を中心に海外経済の成長率が次第に高まっていくことなどを背景に、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。今週初めに公表された短観でも、全産業・全規模の業況感は、3 四半期振りに改善に転じ、先行きも改善が続く見通しとなっています。また、ここ数か月、国際金融資本市場における投資家のリスク回避姿勢の後退や、わが国の政策期待によって、金融市場の状況は好転をしています。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、前年の耐久消費財の動きの反動から、小幅のマイナスとなっていますが、予想物価上昇率の上昇を示唆する指標もみられています。
§5Haruhiko Kuroda
日本銀行は、1月の「共同声明」において、「物価安定の目標」の早期実現を明確に約束しました。今回決定した「量的・質的金融緩和」は、これを裏打ちする施策として、長めの金利や資産価格などを通じた波及ルート――長めの金利や資産価格のプレミアムへの働きかけ――、さらには、リスク資産運用や貸出を増やすいわゆる「ポートフォリオ・リバランス効果」とともに、市場・経済主体の期待を抜本的に転換させる効果も期待できると思います。これらは、実体経済や金融市場に現れ始めた前向きの動きを後押しするとともに、高まりつつある予想物価上昇率を上昇させて、日本経済を、15年近く続いたデフレからの脱却に導くものと考えています。最後になりましたが、本年4月末に期限を迎える被災地金融機関を支援するための資金供給については、今後の復興関連需要に対応する観点から、期限を 1年間延長することとしました。
§6Question
ターゲットを金利からマネタリーベースに変えた狙いについて、もう少しご説明下さい。また、銀行券ルールを一時停止しますが、これに代わるルール作りを何か考えていらっしゃるのでしょうか。
§7Haruhiko Kuroda
ご承知のように、従来は、無担保コールレート・オーバーナイト物を金融市場調節の操作目標としていましたが、他方、資産買入等の基金で国債も購入していました。現時点では、無担保コールレート・オーバーナイト物の金利はほとんどゼロである中で、量的かつ質的に金融緩和を進めるという観点から、最も端的にマネタリーベースを操作目標にして量的な緩和を進めるわけです。他方、質的な緩和の面では、先程申し上げた通り、長めの金利を引き下げるために長期国債の購入を大幅に拡大する、あるいはリスクプレミアムをさらに圧縮する観点からETFやJ-REITの購入も倍増することも考えていますので、金融市場調節の操作目標としては、マネタリーベースが一番適切だろうと考えました。それから、マネタリーベースは、端的に言うと、日本銀行の出す通貨、お金という意味でも分かりやすく、学界でも一番よく知られている指標ではないかと思います。銀行券ルールについては、現時点でも、いわゆる「輪番オペ」の分と資産買入等の基金の分を合わせた長期国債の保有残高は、日本銀行券の発行残高を超えています。今後、さらに長期国債を大量に買い入れる状況のもとでは、銀行券ルールをそのまま踏襲していけないわけです。
§8Haruhiko Kuroda
従って、当面、こういった量的・質的な金融緩和を行い、2%の物価安定目標を達成するまで、国債保有残高は非常に大きいままで推移しますので、銀行券ルールを一時的に停止するということです。
§9Question
先程、「戦力の逐次投入はせず」とおっしゃいましたが、とりあえず、現在考えられるメニューは、今回で全て出し尽くしたという感覚でよいのでしょうか。
§10Haruhiko Kuroda
今回、必要な措置は全て採ったと言ってよいと思います。もちろん、経済も金融も生き物ですので、その時々の状況をみて、必要があれば躊躇なく調整していきますが、2年で 2%の物価安定目標を達成するために、現時点で必要な措置は全て決定したと考えています。実際の国債の買入れやマネタリーべースの拡大については、日本銀行として、毎月毎月、オペレーションを続けていくことになります。
§11Question
3 つ質問します。今回の政策変更で、今まで岩田副総裁が主張してこられた「マネタリーベースを増やすことで、BEIを含めて予想インフレ率を上げていきましょう」という理屈に、全面的に乗られたとの理解でよいのか確認させて下さい。2つ目は、これまでは 3 か月に 1 回、展望レポートという機会を通じて、日本銀行として物価の上昇程度を確認されていたと思いますが、今後は、何を指標に、どういう frequency(頻度)で政策効果をみていくのか教えて下さい。3 つ目は――細かい質問ですが――、現在、10年超の超長期債を毎月1,000 億円買っていますが、今後、どの程度増やすのか、決まっていたら教えて下さい。
§12Haruhiko Kuroda
第 1 点目ですが、先程申し上げた通り、今回の措置は、量的・質的な金融緩和です。もちろん、「量的」な緩和という面では、バランスシートであれ、マネタリーベースであれ、当座預金であれ、全て大幅に拡大するわけですし、金融市場調節の操作目標としてマネタリーベースを採っていきます。他方、「質的」な緩和も大幅に進めます。これは、長期国債の全ゾーンを買入れ対象とし、しかも、買入れの平均残存期間を現状の 3年弱から 7年程度へと倍以上にする、さらにETFやJ-REITも大幅に買入れを拡大するということで、今回の措置には量的・質的の両面があります。第 2 点目の展望レポートについてですが、従来同様、当然、政策委員会で議論し、公表していくことになると思います。第 3 点目の 10年超の超長期国債のご質問ですが、先程申し上げた通り、基本的には、全体の平均残存期間が 7年程度となるように買入れます。従って、当然、10年超の超長期国債もバランスを取った形で買入れていくことになります。具体的な買入れ方については、執行部にある程度の自由裁量が許されているわけですが、あくまでも 7年程度という、かなり長い平均残存期間になるように買入れることになると思います。
§13Question
2 点伺います。今回、新たにマネタリーベースを目標にしましたが、かつての日銀が実施した量的緩和政策では、マネタリーベースではありませんが、その一部である当座預金残高を目標にして緩和策をやりました。しかし、その結論として、ここに書いてあるようなポートフォリオ・リバランス効果はなかったのではないかと結論付けているようです。けれども、今回、新たにこのようなことをやる、マネタリーベースを増やせばデフレから脱却できるとは、どういう波及経路を考えているのか、前回は効果がなかったのに、なぜ今回は効果があるのか、総裁のお考えをお伺いします。次に、財政についてです。先般の国会で、総裁自身も、今の日本の財政状況について、「持続不可能である」という発言をされています。その中で、発行額の 7 割もの国債を買うということ、しかも銀行券ルールもなくすと、財政ファイナンス――事実上の直接引受け――ではないかという受止め方も出てくると思うのですが、足許、そういった懸念がないにしても、今後出てくることを考えないのか、通貨の信認を維持する立場としてのご発言をお願いします。
§14Haruhiko Kuroda
第 1 点については、かつて、当座預金残高を操作目標として量的緩和が行われたわけですが、例えば、最近のFRBのいわゆる量的緩和をみても、単に負債側の量あるいはバランスシートを拡大するだけではなく、その際に、資産の中身、内容についても、質的な面で緩和効果がより出るように工夫されています。日本銀行でも、包括緩和の中で、量的な拡大もしてきましたし、質的な面も努力してきたわけです。従って、量的な拡大は必要ですが、それだけで十分な効果があるわけではないので、それと同時に質的な面での緩和も、根本的・抜本的に、いわば次元の違う程の質的な緩和も併せて行うこととしました。量的・質的両面から効果を発揮できるように行うということです。財政ファイナンス云々については、「『量的・質的金融緩和』の導入について」という公表文にも記している通り、あくまで、2%の物価安定目標を達成するために行う金融緩和の方法として、最もマーケットの広い、深い、流動的な国債市場においてオペをするということであり、財政ファイナンスをする意図は全くありません。そういう意味で、日本銀行が、自主的に、金融緩和の方策として長期国債の買入れを行っていくということです。もとより、政府において、国債の信認を確保する必要があるのは言うまでもありません。
§15Haruhiko Kuroda
ご承知の通り、1月に公表した「共同声明」において、政府は、「日本銀行との連携強化にあたり、財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進する」としているわけです。当然、日本銀行としては、こうした取組みが進んでいくことを強く期待しています。
§16Question
先程、「現時点で必要な措置は全て採った」とおっしゃいました。その一方で、「経済は生き物なので、必要な情勢になれば、躊躇なく調整していく」とおっしゃいました。この「調整していく」という言葉を発する前に、それこそ少し躊躇されたのではないかという感じもしたのですが。この 2年間で2%の物価安定目標を実現できない、ないしこれから半年、1年経つにつれ、実現が難しいとなった時には、今回は「2 倍」というのが非常に大きなキーワードになっていると思いますが、足りないということになれば、これらを 3 倍、4 倍というように増やしていくのかどうか、長期国債の保有残高や平均残高、マネタリーベースを 2 倍から 3 倍、4倍と増やしていくのかどうか、お聞かせ下さい。
§17Haruhiko Kuroda
この点については、公表文の中でもかなり明確に書いています。「『量的・質的金融緩和』は、2%の『物価安定の目標』の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う」と書いています。当然、経済情勢をみながらリスク要因を点検し、必要な調整があれば躊躇なく行うことになると思います。ただ、何度も申し上げますが、私どもとしては、現時点で考えられるあらゆる政策を総動員して、2%の「物価安定の目標」について、2年程度を念頭に置いて実現する。そのために必要な措置は、ここに全て入っていると確信していますし、実際に、2年程度で物価安定目標を達成できるものと思っています。
§18Question
波及経路について、もう少し噛み砕いてご説明をお願いします。資金の量を増やしても、実際に民間の資金需要がなければ、なかなかデフレ脱却につながらないというのが、麻生大臣などもおっしゃっているように、1 つの説になっています。これに「質的」な緩和を加えることで資金需要を高めるメカニズム、効果があるというのは、どういうことなのか、噛み砕いて説明して頂けますか。
§19Haruhiko Kuroda
これは、先程も申し上げたように、長めの金利をさらに下げていく、あるいは資産価格のプレミアムに働きかけていくことによって、より十分あるいは迅速に資金需要に対応できるようになり、その結果、これまでよりも、当然、資金需要が出てくるわけです。このような形で、かなり直接的にイールドカーブ全体を下げ、リスクプレミアムを縮小していく効果があります。また、こうしたことを通じ、金利が下がり、リスクプレミアムが下がっていけば、投資家や金融機関、あるいは企業や個人などの主体は、他のポートフォリオに資産をシフトしていくわけです。そのようなポートフォリオがシフトしていく先には、色々な資産、例えば、株や外債やその他たくさんあると思いますし、一部の経済学者には、直接的に投資や消費に――特に投資に――シフトしていくという議論をする方もおられます。従って、ポートフォリオ・リバランス効果というのも、かなり期待できるのではないかと思います。その上で、市場・経済主体の期待に影響が出てくると、物価がこれまでよりも上がっていくという見方が出ます。今後、物価が 2%程度上がっていくと見込まれた場合には、設備投資や住宅投資、その他の投資の需要も増えてくることになります。このように、複数のチャネルを通じて、経済の拡大、2%へ向かっての物価の上昇ということが期待できると思います。
§20Question
採り得る手段は全部採ったということですが、この半年くらいテーマだった付利金利の引下げについては、今回はテーマにはならなかったのでしょうか。
§21Haruhiko Kuroda
先程述べた 3 つのチャネルを通じて、景気の拡大、2%へ向かっての物価の上昇が達成できる、従って、付利金利を引き下げる必要はないという結論に達したので、それについては何も触れていません。
§22Question
2 点伺います。まず、2年程度で 2%という目標を達成するために今回の措置を採った、すなわち、マネタリーベースと長期国債・ETFの保有額を2年で 2 倍にするということですが、なぜ 2 倍なのか、どういう根拠で 2 倍にすることが必要と判断されたのか、分かりやすく説明して下さい。もう 1 点は、「次元の異なる金融政策」ということになると、これまで我々が体験したことのない効果、または副作用が出てくる可能性があると思います。例えば、いわゆる「悪い金利上昇」が起こったりすることも考えられると思いますが、そのような副作用が出てきた場合、あるいはそのような可能性について、総裁はどのようにご覧になっているのでしょうか。
§23Haruhiko Kuroda
2年で 2%の物価安定目標を達成するのは、相当容易ならざることであることは事実です。しかし、これまでのように、いわば incremental(漸進的)に、少しずつ量的・質的な緩和を拡大するやり方では、このデフレから脱却して 2%の物価安定目標を達成することはできないと思います。そこで、現在採り得るあらゆる手段を動員して、2年程度でそれを実現するということです。その際、例えば、GDPギャップがどの程度縮小していく、あるいはポジティブになる必要があるかとか、物価上昇期待がどの程度上昇していく必要があるかといったことなどは、色々な学者が分析し、あるいはモデルでの計算等をしているようです。そういったものも考慮しながら、現在の経済状況を踏まえ、2年程度で 2%の物価安定目標に近づけ、それを実現するためには、これより少ない額では不十分であり、ここまでやれば物価安定目標の達成が可能になるということで、この額としたわけです。副作用やその他の効果についても、中央銀行として十分に議論はしていますが、現時点で、長期金利が跳ねるとか、資産バブルが膨れ上がるといった懸念は持っていません。当然のことながら、そのようなリスク、副作用も十分考慮しながら金融緩和を進めていくわけですが、現時点でそのような重大な副作用が直ちに現れる可能性は、極めて低いと思います。
§24Question
国会でも、マネタリーベースのトランスミッション・メカニズムについておっしゃっており、スピルオーバーについてもお考えがあると思いますが、具体的に、様々な資産マーケットへの波及効果等も当然念頭に置いていらっしゃるのでしょうか。今回、マネタリーベースの残高を重視する枠組みに変更されたと思いますが、これは、岩田副総裁が以前からおっしゃっている「期待に働きかける上で、マネタリーベースの残高が重要」というお考えを踏まえたものではないかと思いますが、その点について、もう一度――復習のようで恐縮ですが――、お願いします。
§25Haruhiko Kuroda
様々な資産市場があると思います。固定金利の国債、社債等の資産もありますし、株式市場や外貨建て資産の市場もあります。様々な市場があると思いますが、マネタリーベースについては――何度も申し上げますが――、これだけの国債あるいはリスク性資産の買入れという資産側の増加と見合って、当然に負債側も増加していくわけです。そういう意味で、「量的」な緩和と「質的」な緩和とを併せて行っていくわけです。その際の金融市場調節の操作目標については、これまでのように、無担保コールレート・オーバーナイト物を操作目標にする意味がもうあまりなくなってきているため、「量的」な目標をきちっと導入した方がよいわけです。その際の目標の候補としては、一番狭い意味では、かつての量的緩和時のような「日銀当座預金」があり、広いものでは「マネタリーベース」、さらには「バランスシート」があると思います。このうち、経済学的な観点から言えば、やはり「マネタリーベース」が分かりやすく、かつ金融市場調節の操作目標として適切な指標であろうと考えました。資産総額であれ、当座預金残高であれ、期待に与える影響は一定程度あるとは思いますが、マネタリーベースが、学界で一番エスタブリッシュされている量的な指標であるということと、金融市場調節の操作目標という観点からマネタリーベースが一番適切ということで、このようにしたわけです。
§26Haruhiko Kuroda
いずれにせよ、重要なことは、「量的」にみて非常に大きく拡大するという点と、イールドカーブを全体的に引き下げたり、リスクプレミアムを圧縮するという「質的」な点を、両方併せて行うことに尽きると思います。
§27Question
2 問お伺いします。ETFとJ-REITの額を増やしますが、この増加額の根拠を教えて下さい。また、市場参加者との意見交換の場を設けるということですが、具体的にどういった形で行うのかについて、決まっている範囲で教えて下さい。
§28Haruhiko Kuroda
ご承知のように、ETFは、株式をバックにしていますので、ある意味では、潜在的にもの凄く巨大な市場です。そこで、今のリスクプレミアムの状況をみると、まだまだ圧縮できる余地があるということで、ETFの保有額を 2 倍以上増やそうと決めたわけです。他方、J-REITは、まだマーケットがそれほど大きくないこともあり、今の条件のもとでは、それほど拡大する余地はないわけですが、いわば資産市場の典型である株式と不動産について、リスクプレミアムを引き下げる余地があるものについては思い切った拡大をしたということです。「なぜ倍か」というご質問ですが、J-REITは、今のままでは倍以上にするのは難しい一方、ETFは、市場規模を踏まえると、まだ買い入れる余地がいくらでもあると思いますが、あくまでもリスクプレミアムを適切に圧縮するために、いわば必要にして十分な量を買い入れるということで、2 倍と決めたわけです。2 点目は、市場参加者との対話についてです。これは、従来から金融市場局を中心に色々な形でやっているわけですが、今回の「量的・質的緩和」が、これまでと次元の違う規模であり質であるため、スムーズにオペレーションを行うには、かなり幅広い関係者から、単にオペの状況だけでなく、もう少し広く金融資本市場の動向等も含めて対話をしていく必要があるだろうということです。
§29Haruhiko Kuroda
そういう形で、市場関係者の協力を得る必要もあるし、また、市場に無理なプレッシャーを与えることなくスムーズに「量的・質的緩和」をする必要があるということで、かなり幅広い相手と、幅広いイシューについて、より高いレベルで対話することを考えています。
§30Question
1 点目は、本日、一段と長期金利が下がっているので念のため伺います。総裁が資産バブルの懸念はないとおっしゃる時には、国債相場についても、バブルの懸念が生じている、あるいは既にバブルになっているというお考えはないのかどうか、教えて下さい。2 点目は、多少技術的な話であるものの、マーケットの関心が強いイシューですので敢えて伺います。今回、ETFの買入れ額を倍増したことについて、従来の買入れ方式を維持すると枠が消化し切れないのではないかという見方があります。これまで、日銀は、どういう観点からETFを買い入れているかというルールを公表していませんが、実態としては、午前中の株価指数が1%超下落すると日銀が午後に買い入れる、ということが知れ渡っていて、それがマーケットの期待形成に影響しています。ですので、敢えて伺いますが、そういった従来のルールを見直し、いわば緩和して、従来より買いやすくするという考えはあるのか、教えて下さい。
§31Haruhiko Kuroda
1 点目について、私は、特に国債バブルが生じているとは思っていません。イールドカーブ全体にわたって引き下げようというのが、まさにこの「量的・質的金融政策」の中間的な目標ですから、当然のことながら、価格は上がり金利は下がると思います。それは必要なことであり、かつバブルであるとは思っていません。第 2 のご質問は、ETFについて、どういうストラテジーで買入れを行うかという議論だと思います。これは、執行部の専門家に任されているところですが、やはり効果的にリスクプレミアムを圧縮する、そのためにはどういうストラテジーがいいか、さらに執行部でよく検討することになると思います。倍増あるいは倍以上にすることで買えなくなるといった心配はしていませんが、より効果的にリスクプレミアムを下げていくにはどうしたらよいかは、執行部がよく考えることと思います。
§32Question
先程、総裁は「資産バブルの兆候など、そういう懸念はない」とおっしゃいましたが、これからそういう懸念をどのようにウォッチしていこうとお考えですか。総裁が、あまり「ない、ない」と言っていると、なんだか「見たくない」というような感じがしないでもないです。日本銀行は、これまでの緩和局面でいつも、指標が出ているのに見逃して大きな失敗を繰り返してきたわけですから、あまり「ない」ということを強調されると、またどうなのかな、という感じもするので、過去の教訓をどのように踏まえ、そのような懸念をウォッチされているのか、その基本的な姿勢をお伺いしたいと思います。
§33Haruhiko Kuroda
日本銀行も、他の中央銀行と同じく、その使命・目標は「物価の安定」ですが、当然ながら、資産価格や賃金、雇用といった経済全体の動向を十分に注視しながら、物価安定目標を達成、あるいは、持続するよう努力することに尽きるわけで、当然、資産価格の状況は十分注視していきたいと思っています。過去、特に 1980年代後半において、資産バブルが生じたことは紛れもない事実であり、その背景には金融行政の観点の問題もあります。80年代前半に土地の価格が上昇し――株は 80年代後半に上昇しました――、土地制度、土地規制の問題もあったと思います。それに加え、80年代後半の金融政策で緩和が行き過ぎた面もあったと思います。従って、そうした教訓は十分に頭に入れながら、資産価格の動向はよく注視していきたいと思っています。
§34Question
金融政策決定会合の議論の中身は明らかにしないと思いますが、今回、総裁が初めて出られて、結果をみると、非常に色々なことが全会一致で決まり、個人的にはこんなにスムーズにいくのかと驚きました。総裁からみて、今回の会合で、他の審議委員を含めて物価目標に向けた問題意識というか、これまでの政策に対する意識変化が何か起きたということなのか、初の会合に出られた感想を含め、可能な範囲でご意見を伺わせて下さい。
§35Haruhiko Kuroda
今回の決定会合は、私にとって最初の決定会合ですので、例えば、その前の 2月あるいは 1月の状況は存じません。ただ、やはり、日本銀行は、1月の決定会合で 2%の物価安定目標を決定し、これをできるだけ早期に実現することをコミットしたわけです。その際には、一部の委員が反対したと聞いていますが、2%の物価安定目標を早期に実現することは、いわば機関決定、政策委員会として決めたことです。それを早期に実現するという観点から、全ての委員が議論し、そうした中で、いわば incremental(漸進的)にやっていくのではなく、必要な措置を全て今回決定する――実際のオペレーションは毎月毎月やっていくわけですが――こととしました。そういうことを議論し、皆の賛同を得たということではないかと私は思っています。繰り返しになりますが、私は、今回よりも前の決定会合には参加していませんので、それとの比較はできません。
§36Question
就任会見で同様の質問が出ましたが、改めてお伺いします。安倍総理が、4月2日の予算委員会で、日銀法改正について、「日銀は 2年という期間や責任にコミットがあるので、今は日銀に任せるが、法改正は常に視野に入れていきたい」と発言されました。本日、具体的な政策を示されたわけですが、このことを踏まえ、総裁は、日銀法改正について、実際にどのようにお考えなのか、改めてご所見をお願いします。
§37Haruhiko Kuroda
日銀法改正については、政府、国会が決めることです。私どもとしては、現行日銀法を前提として、そのもとで、今申し上げたような決定を行い、2%の物価安定目標に向け、2年程度を念頭に置いて必要な措置を全て採ることを決めたということに尽きます。法律改正云々については、特に私から申し上げることはありません。
§38Question
量的・質的に大胆な緩和であると思いますが、通貨のプロである財務官もやっておられたので、一般的に言って、この緩和が円安につながるのかどうか、どうお考えなのか伺います。
§39Haruhiko Kuroda
為替について具体的に申し上げることは、中央銀行のマンデートを超えているので申し上げかねます。一般論として、他の事情が等しければ、金融を大幅に緩和した国の為替レートが下落する傾向があることはその通りだと思いますが、それ以上に、何か具体的に為替の動向について申し上げることは控えたいと思います。
§40Question
期待に働きかけることが大事だと思っていますが、その期待をみる指標を、新しく整備されるご予定はありますか。また、当座預金が 0.1%の金利である一方、2年物の国債は 0.06%であり、国債を買うよりも当座預金に入れておいた方が利回りがよいので、金融機関は貸さないのではないかとの話があります。この先、量を拡大することで、価格が上がり金利が下がると思いますが、当座預金の付利と国債利回りの差は、どんな感じになるのでしょうか。
§41Haruhiko Kuroda
第 1 点の「期待」についてです。「期待」といった場合、「期待物価上昇率」もあると思いますし、あるいは、様々な金融資産の価格も期待を反映して動いているので、期待の状況に関係していると思います。狭い意味で「期待物価上昇率」についていうと、ご承知のように物価連動債との関係からブレイク・イーブン・インフレ率(BEI)が計算でき、それも 1 つの指標になると思います。その指標は、確か、最近はかなり上昇しており、1.4%ぐらいになっていたと思います。その他、様々な企業、消費者あるいはエコノミスト等を対象としたアンケート調査で物価上昇期待の動向をみることもできますが、それらでみても、一般的に上がってきていると思います。次に、金利、特に短期の国債の金利についてです。今回の措置以前に、既にほとんどゼロになっており、そうした状態は今後も続くと思います。一方で、付利の問題については、先程申し上げた通り、全面的な量的・質的金融緩和の中で、様々な波及経路を通じて、経済・物価に影響を与え得るという考え方であるため、現在付利を動かすという考えはありません。
§42Question
2 点お伺いします。1 点目は、先程、長期国債の新規発行に関して、日本銀行の購入額が 7 割になるという話がありましたが、7 割を日本銀行が購入するというのは、まさに「池の中の鯨」のような状況になってしまうと思います。市場の金利形成、価格形成についてどう考えたらよいのか、お考えをお聞かせ下さい。2 点目は、日本銀行の国債やリスク性資産の保有が増えることに伴い、バリューアットリスクというか、日本銀行が金利リスクおよび市場リスクに晒されることについてです。仮に、リスクが増加して損失が増えた場合には、例えば国庫納付金を納められないなど、いくつかの問題が生じると思います。その際、例えば、政府との間で損失補填の条項を結ぶというようなお考えはあるのでしょうか。
§43Haruhiko Kuroda
まず 1 点目ですが、先程申し上げた「7 割」というのは、国債残高を毎年約 50 兆円ずつ増やしていく際に、グロスでみた毎月の買入れが 7 兆円強になり、それが、毎月の国債発行額の 7 割近くになるということです。国債の価格形成に一番重要なのは、おそらくストックの話だと思います。ストックでは、7 割などということには到底なりません。従って、市場に大きな歪みを生じることにはならないと思います。ちなみに、これまでのいわゆる資産買入等の基金では、残存期間 1~3年の国債を買ってきましたが、その際も、実は、グロスの買入れ額は発行額の 7 割に達していました。今回やろうとしていることは、いわば全てのゾーンに拡げてやっていこうということであって、これまで以上に市場金利の形成をそれぞれのゾーンでやり難くすることは意図していません。2点目のリスクの問題は、当然、中央銀行として念頭に置いておかなければならないことですが、リスクが増えるから必要な金融緩和はしないということではなく、リスクを念頭に置きつつ必要な金融緩和は行うということであるべきだと思っています。いわゆる「出口」の際、色々な長期国債を持っていた場合にリスクがあるという問題はご指摘の通りですが、具体的に、それが直ちに日本銀行の損失になるということではないと思います。
§44Haruhiko Kuroda
記者の方がおっしゃったように、国庫納付金がどういうレベルになるかには影響があるかと思います。もちろん、長期国債の価格が下落するとか、長期国債の金利が上がることは、リスクとしてはあるわけですが、それが直ちに日本銀行の損失につながるということではないわけです。
§45Question
時間軸について伺います。今回、時間軸について、「2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで継続する」とあります。これは、安定的に持続することが見通せれば解除できるという意味なのか、教えて下さい。
§46Haruhiko Kuroda
公表文にある通り、両面あると思います。ある場合には、物価上昇率が一時的に 2%になっても、まだ安定的に物価安定目標が持続するという状況になければ緩和を続けるわけです。一方、物価上昇率が 2%になっていなくても、既に 2%の物価安定目標が持続的に維持できる状況になっていれば、それ以上の緩和は必要ないかもしれません。いずれにせよ、公表文にあるように、物価と経済の動向について、上下双方向のリスク要因を点検しながら、調整があり得るということです。
§47Question
黒田総裁にとって、今回初めての金融緩和ですが、自己評価すると 100点満点中何点なのか、聞かせて下さい。また、「次元の違う金融緩和」とおっしゃっていますが、総裁のイメージの中で、これまでの金融緩和は何次元で、これからは何次元なのか、イメージで結構ですので聞かせて頂けますでしょうか。
§48Haruhiko Kuroda
まず 1 点目ですが、評価というのは自分でするものではなく、他人あるいは市場でされるものだと思います。それから、「次元」については、マネタリーベース――総資産でも、当座預金でも同じような動きですが――でみて、これまで行われてきた緩和とは次元の違う、大幅な量的緩和を行うわけで、さらに、質的にもそういった面があると思っています。
§49Question
今おっしゃられた「次元の違う緩和」ですが、今まで日銀は、色々な形で金融緩和をやってきましたが、なぜ、黒田総裁のもとで、次元の違う色々なメニューができることになったのでしょうか。逆に言うと、今まで、なぜデフレから脱却できずに来たのか、その辺りのお考えをお聞かせ下さい。
§50Haruhiko Kuroda
何度も申し上げますが、いわば incremental(漸進的)にやっていくのではなく、2%の物価安定目標を達成するために必要なことを全て、今、決定したという点が、ある意味で新しい要素だと思いますが、2%の物価安定目標は、1月の決定会合で既に決められており、しかも、それをできるだけ早期に実現することになっています。それを引き継ぎつつ、2%の物価安定目標を早期に実現するために、具体的に、量的・質的にこういった次元の異なる政策を、9 人の政策委員が全員一致で決めたのは新しいところだと思います。
§51Question
今回、会見でパネルを用いるなど、かなり周到に色々な種類とパターンを用意されているなという印象を受けますが、これはどなたの発案で、総裁はどういう目的でこれを使おうとしておられるのでしょうか。
§52Haruhiko Kuroda
私は、以前から、金融政策はコミットメントが非常に大事であるし、そのコミットメントが市場関係者のみならず経済主体に分かりやすく伝わって期待を変えることが非常に重要だと申し上げてきました。そういった考え方に基づいて、ポイントをできるだけ絞り、このようなパネルを使ってご説明しています。アイデアがどこからきたかというと、それはスタッフからですが、こういう形でやろうというのは、私が言ったわけです。
§53Question
就任会見の時に、岩田副総裁から、「期待が変わってお金が動き出しても貸出は増えない。それは、手許にお金がたくさんあるためで、実際、景気が拡大した時でも貸出は減っている」とのお話がありました。今回、イールドカーブを下げるという意味で、ある程度貸出をやりやすくなるという影響もあると思いますが、黒田総裁は、これを集中的にやることで、この期間で貸出が動くという期待をお持ちなのでしょうか。
§54Haruhiko Kuroda
最近の短観、あるいは色々な経済指標でみても、貸出については、やや動きが出てきているとは思います。色々な状況の中で、貸出が先行するのか、資産効果が先行するのか、あるいは期待が先行するのかという議論はあると思います。現時点では、貸出が増えつつある動きがみられることは事実ですが、非常に効いているようにみえるのは──短観でもその他の指標でも分かるように──、資産効果、あるいは期待の効果から消費マインド、企業マインドが相当好転してきている形で効いてきていると思います。しかし、貸出も、景気が拡大し物価が上昇する中では、当然に増えていくと思います。
§55Question
今回の公表文の 3 頁で「予想物価上昇率の上昇を示唆する指標がみられる」とあります。先程、BEIのお話がありましたが、BEI以外に、具体的に「この指標がこう変わっているのが期待の変化の現れだ」とか、総裁が実際に最近の指標をみて「これは」と思われた指標はありますか。
§56Haruhiko Kuroda
それは、様々なアンケート調査やその他の指標がありますし、短観にも入っています。以上