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Bank of JapanPress conferenceMay 22, 2013Haruhiko Kuroda, Governor

総裁定例記者会見(2013年5月22日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の決定会合のポイントについて伺います。今回、景気判断を上方修正した上で、「量的・質的金融緩和」を継続することを決定されたわけですが、その理由、背景や、政策効果についてどのような議論があったのか、といった点を教えて下さい。

§2Haruhiko Kuroda

本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 60~70 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という前回会合で決定した金融市場調節方針を維持することを、全員一致で決定しました。また、資産買入れについても、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、4月4日の「量的・質的金融緩和」の導入に際し決定した買入れ方針を継続します。わが国の景気についての見方ですが、このところ、個人消費、設備投資、鉱工業生産などにおいて明るい動きが増えていることから、先月の「下げ止まっており、持ち直しに向かう動きもみられている」から、「持ち直しつつある」へと判断を一歩前進させています。輸出は、海外経済が昨年来の減速した状態から徐々に持ち直しに向かうもとで、下げ止まっています。設備投資は、非製造業が引き続き底堅く推移する中で、これまで海外経済の弱さの影響から減少していた製造業を含めて、全体としても下げ止まりつつあります。公共投資は増加を続けており、住宅投資も持ち直し傾向にあります。個人消費は、株価が上昇傾向を辿り消費者マインドが改善するもとで、底堅さを増しています。以上のような内外需要を反映して、鉱工業生産は下げ止まっており、持ち直しに向かう動きが明確になりつつあります。この間、わが国の金融環境は、緩和した状態にあります。

§3Haruhiko Kuroda

マネタリーベースは、日本銀行による資産買入れの進捗を反映して大幅に増加しており、企業の資金調達コストは、低水準で推移しています。CP・社債市場の発行環境も総じて良好な状態が続いています。企業からみた金融機関の貸出態度や企業の資金繰りなどに関する指標も改善した状態が続いています。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、前年のエネルギー関連や耐久消費財の動きの反動から、マイナスとなっています。予想物価上昇率については、家計や市場参加者に対する調査、マーケットの指標などにおいて、上昇を示唆する指標がみられています。わが国の経済の先行きについては、金融緩和や各種経済対策の効果から国内需要が底堅く推移し、海外経済の成長率が次第に高まっていくことなどを背景に、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。物価面では、先程申し上げたように、消費者物価の前年比は、足許マイナスですが、当面、マイナス幅を縮小した後、次第にプラスに転じていくとみられます。なお、リスク要因をみると、欧州債務問題の今後の展開、米国経済や新興国・資源国経済の成長力など、日本経済を巡る不確実性は引き続き大きい情勢です。金融市場の動向を含め今後の展開には注意していく必要があると考えています。

§4Haruhiko Kuroda

先行きの金融政策運営について、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続します。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を引き続き点検し、必要な調整を行います。このような金融政策運営は、実体経済や金融市場における前向きな動きを後押しするとともに、予想物価上昇率を上昇させ、日本経済を、15年近く続いたデフレからの脱却に導くものと考えています。

§5Question

長期金利の動向について伺います。長期金利は、足許では、1%を窺うような水準に上がっています。4月に金融緩和を決める頃よりもむしろ上がっているということで、この理由をどう分析しているのか、決定会合でどのような議論があったのか、この急ピッチの上昇を抑えるために何か対応を考えているのかどうか、その辺りについてお聞かせ下さい。

§6Haruhiko Kuroda

ご案内のように、長期金利は、5月の初めにかけて一旦低下した後、欧米の長期金利の上昇や本邦株価の上昇、為替の円安進行などを背景に上昇しています。長期金利は――常にそうですが――、先行きの経済あるいは物価情勢に関する見通しに、債券を保有することに伴う様々なリスクに応じた、いわゆるリスク・プレミアムが加わって形成されています。日本銀行の巨額の国債買入れには、このリスク・プレミアムを圧縮する効果があり、その効果は、今後買入れが進むにつれて強まっていくと考えています。従って、こうした「量的・質的金融緩和」による強力な金利低下圧力のもとで、長期金利が跳ね上がることは予想していません。いずれにせよ、日本銀行は、「量的・質的金融緩和」の導入以降、これまで以上に、市場参加者と様々な形で意見交換を行うとともに、国債の買入れ方法の見直し、資金供給オペの機動的な実施など、積極的な対応を採ってきています。今後とも、債券市場の動きを十分点検し、市場参加者と密接な意見交換を行いながら、必要に応じて、買入れ頻度や買入れペース、買入れ対象の調整をするなど、政策効果の浸透を促すため、弾力的なオペ運営を行っていく方針です。

§7Question

2 点伺います。足許では、住宅ローン金利等に少し上昇の兆しがありますが、長期金利の上昇が、実体経済、金融市場にどのような影響をもたらすと分析なさっているか教えて下さい。もう 1 点は、 4月の緩和決定から 50日弱経ちますが、当時おっしゃっていた 3 つの波及経路がどのように機能していると分析なさっているか、教えて下さい。

§8Haruhiko Kuroda

先程申し上げた通り、国債の金利も含めて、債券その他の金利は、先行きの景気や物価の見通しによる要素とリスク・プレミアムの要素があります。このリスク・プレミアムの要素を、日本銀行が年間 50 兆円のペースで保有残高が増加するよう国債の買入れを行うことで、今後も圧縮していくわけです。そうした中で、長期金利が跳ね上がることはないと思います。ご指摘のように、足許で少し長期金利が上がっており、それを反映して住宅ローン金利等にも影響が出ていることはその通りだと思います。ただ、これが、今の時点で、実体経済に大きな影響を及ぼすとはみていません。先程来申し上げている通り、国債買入れについては、政策効果の浸透を促すために、弾力的なオペ運営を行っていくことで対応していきたいと思っています。3つの波及経路については、従来から申し上げている通り、第1に、国債を含めて、量的・質的に非常に大規模な資産の買入れを行うことによって、金利全体、あるいは特に民間の色々なリスク・プレミアムにも働き掛ける――リスク資産の買入れも通じてリスク・プレミアムにも働き掛け、金利に下押し圧力を掛けていく――という波及経路は、引き続きありますし、非常に有意義だと思っています。

§9Haruhiko Kuroda

第2 に、長期国債の保有残高を年間 50 兆円のペースで増やしていくことについて、従来のように短期ゾーンに限ることなく、短いものから長いものまで含めて、弾力的に、バランスをとって買い入れていくことで、ポートフォリオ・リバランスを促進する効果もあると思っています。これは、毎月毎月、相当な規模のオペを行っていきますので、いわば毎月毎月、その効果は出てくると思っています。第 3 に、期待に働き掛ける効果については、かなり明確に、例えば物価上昇期待というものもありますし、株を含めた資産価格への期待の反映で上昇がみられることからいっても、その効果は十分にあると思っています。

§10Question

長期金利の関連で 3 点お伺いします。1 点目ですが、4月の緩和を始めてから、長期金利の数字だけでみても、水準はともかく比率的にはかなり上がっていると思います。最初に「長期金利を下げる」とおっしゃっていて、実際には上がってしまっているのは、一般的には「何故なのか」となってくるかと思います。この原因としては、オペレーションの仕方が問題なのか、それとも他に問題があるのか、総裁がどのように受け止めているか教えて下さい。2 点目は、先程、「実体経済への影響はまだあまり大きくないのでは」という話がありましたが、社債の発行が延期されるなど、色々な面で多少影響が出ていると思います。こうした点について、どのように考えていらっしゃいますか。最後に、長期金利が上がることについて、今の状態が一時的なものなのか、あるいは今後上がっていくのは自然なことなのか、お考えをお聞かせ下さい。

§11Haruhiko Kuroda

1 点目については、先程来申し上げている通り、金利には物価上昇や景気回復の期待の要素があるわけです。これらの要素は、おそらく次第に金利を上昇させていく要素だと思います。他方、保有残高が年間約 50 兆円に相当するペースで増加するように行う国債の買入れ、あるいは全体としてマネタリーベースが年間約 60~70兆円のペースで増加していくことにより、様々な形でのリスク・プレミアムの圧縮という効果も実際にはあるわけです。私どもとしては、引き続きマーケットの状況を十分注視し、市場関係者との対話、あるいは意見交換を行いながら、必要に応じて弾力的なオペ運営を行っていく方針であり、こうしたことを通じて、長期金利が跳ねることは十分防止できると思っています。2 点目の社債の発行状況については、ご承知のように、毎月毎月の振れがかなり大きいわけですが、私どもがヒアリングしている限りでは、社債の発行を取り止めるとか、それが設備投資に影響するという話ではありません。これは、足許の長期金利が少し動いたのでマーケットの様子をみているという面もあると思います。仮に、長期金利に先高観があれば、むしろどんどん前倒しで発行が出てくるわけです。

§12Haruhiko Kuroda

月々の社債の発行状況が少し振れているからといって、社債発行を取り止めるとか、それによって設備投資に影響が出ることには──少なくとも私どもがヒアリングをしている限りでは──、なっていないと思います。また、金利の上昇には、先程申し上げたように、景気回復や物価上昇期待の要素と、引き続き日本銀行が行う巨額の資産買入れによるプレミアムの圧縮という要素の両面があるわけです。従って、直ちに金利が上がるとも言えないし、上がらないとも言えないわけです。景気回復や物価上昇期待の要素と、日本銀行のオペによるリスク・プレミアム圧縮効果──長期国債だけでも年間約 50 兆円、マネタリーベースでみれば年間約 60~70 兆円増加させていくことによるリスク・プレミアム圧縮効果──は、今後さらに累積していくわけですので、一段と強く出てくると思っています。最後に、日本銀行のオペは、先程申し上げたようにリスク・プレミアムを圧縮するように働いていることは間違いありません。しかし、仮に、景気回復や物価上昇期待が大きく上昇し、日本銀行によるリスク・プレミアム圧縮効果を相殺すれば、長期金利が上がることはあり得ます。ただ、今の段階で直ちに長期金利が大きく跳ねるようなことがあるとは考えていません。

§13Question

そもそも、中央銀行は、短期金利をコントロールすることはできますが、長期金利に対しては、働き掛けることはできても、やはり一種の飴細工のように、長期金利を動かすことは難しいのではないかとも思わせるようなことが、4月4日の緩和以降に起こっているような気がします。総裁は、長期金利を完全に抑え込むことができるとお考えでしょうか。

§14Haruhiko Kuroda

先程来申し上げているように、あるいは経済学の理論が教える通り、確かに、長期金利というものは、物価上昇期待や景気に対する期待によって左右される面が大きいわけです。このため、長期金利は、短期金利──例えばオーバーナイト金利──のように、中央銀行が完全にコントロールできるものとは違うというのは、その通りだと思います。他方、世界の他の中央銀行も、短期金利がほとんどゼロに近づいた中で、短期の金利だけでなく長期の金利に働き掛けている──私どもの言い方では「量的・質的金融緩和」を行っている──わけです。これは、やはり、こうしたことを通じて、イールドカーブ全体に働き掛けようということであり、一定の効果は期待できます。おっしゃるように、中央銀行が長期金利を短期金利のように全てコントロールできるのかといえば、世界の中央銀行の例や経済理論が教える通り、そういうものではありませんが、働き掛ける効果はあるし、現にそれを多くの中央銀行はやっているということだと思います。

§15Question

4月の記者会見時には、長期金利の動きについて「市場が落ち着きどころを探している」という言い方をされていましたが、現在はその状況が継続しているのか、あるいは違う局面になっているのでしょうか。また、「良い金利上昇」、「悪い金利上昇」という言葉がありますが、今の局面をどのように分析されますか。

§16Haruhiko Kuroda

「落ち着きどころを探している」という面は、まだあるかもしれません。ただ、4月4日に「量的・質的金融緩和」の導入を発表して以来、マーケットでは、ごく短期的には、新しい均衡点を探る中で、金利がかなり乱高下し、いわば売りと買いが激しく入れ替わるなど、振れが大きかったと思います。現時点では、先程も申し上げた通り、内外の経済情勢によって影響されている面もありますし、やはり、まだ新しい均衡点を探っている面も残っていると思います。ボラティリティは、まだかつての水準からみるとやや高いので、その点は十分注視していく必要があると思っています。

§17Question

3 点伺います。2%の物価目標の達成時期について、本日の公表資料からは、「2年程度の期間を念頭に置いて」という文言が外れたと思います。この背景には、想定外のことがあれば、2年と言わず、時間が掛ってしまうかもしれない、というお考えがあるかどうか、お聞かせ下さい。2 点目ですが、先週、長期金利がやや急激に動いた時に、日銀が 1年物の固定金利オペを行って市場が非常に安定化した実績があると思います。ボラティリティを鎮静化する観点から、今後も、こうした長めのオペを行っていくという理解でよいか、確認させて下さい。最後に、6月のオペの予定については、現時点ではまだ公表されていませんが、これは、総裁が先程おっしゃった「オペを柔軟に行っていく」という戦略の一環として、あえて公表しないということなのか、教えて下さい。

§18Haruhiko Kuroda

1 点目について、「2年程度の期間を念頭に置いて」という考えを変えたということは、全くありません。4月4日の決定会合における決定は、そのまま生きており、単に、ここでもう一回繰り返さなかっただけです。本日の公表文は、ご案内のように、短いもので、4月4日の公表文のように包括的に詳しく述べていませんが、4月4日に決定した「量的・質的金融緩和」をその通り続けることに変化はありません。ちなみに、4月4日の決定会合の公表文でも、本日の公表文にあるように、現在の「量的・質的金融緩和」について、2%の「物価安定の目標」を「安定的に持続するために必要な時点まで」続けるとしており、その点も変化はありません。2 点目の 1年物のオペ云々については、先程申し上げた通り、政策効果の浸透を促すため、弾力的なオペ運営を行っていく方針であり、ご指摘の点も含めて弾力的に行うということです。従って、そういうことをやるかやらないかを今の時点から申し上げるのは、「弾力的」という方針に反すると思いますので、お答えしかねます。最後に、6月のオペ予定については、特に何か遅らせているというつもりはないと思います。いずれにせよ──何度も申し上げますが──、必要に応じて、買入れ頻度、買入れペース、買入れ対象の調整をするなど、弾力的なオペ運営を行っていく点に変わりはありません。

§19Question

長期金利について伺います。総裁が先程おっしゃったように、景気回復や物価上昇期待を反映した金利の上昇が、日銀によるリスク・プレミアムの押し下げよりも大きく出てきた場合──両者の切り分けは難しいとは思いますが──、じわじわと上がってくる部分まではコントロールしきれないので、そうした金利上昇は許容せざるを得ないということでしょうか。

§20Haruhiko Kuroda

どのような言い方をしたらよいか分かりませんが、先程申し上げたように、いわば景気や物価上昇期待による金利上昇と、オペによるリスク・プレミアムの圧縮効果は、おっしゃるように分離するのがなかなか難しいわけです。そういう意味でも、先程別の方がおっしゃったような「良い金利上昇」または「悪い金利上昇」と簡単に割り切ることは難しいと思います。いずれにしても、日本銀行として、「量的・質的金融緩和」の中で考えている 3 つの波及経路のうちの 1 番目の経路(長めの金利や資産価格のプレミアムへの働き掛け)は、依然として重要ですので、その面では引き続き尽力していきます。また、先程申し上げた通り、国債の買入れが進むにつれて、その効果は強まっていくと考えています。何を「自然な金利上昇」と言うのかは、なかなか難しいですが、私どもとしては、今申し上げた方針で臨むわけですし、ボラティリティが過度に拡大するようなことは極力回避しなければならないと思っています。

§21Question

現在の名目金利の上昇について伺います。金利は、実質金利で考えた場合でも上がっているとみているのか、あるいは、期待インフレ率の変化で実質金利は下がっているとみているのか、総裁はどのように認識していらっしゃいますか。

§22Haruhiko Kuroda

先程も申し上げた通り、数量的に明確に分別することは難しいと思いますが、実質金利は、おそらく下がっていると思います。

§23Question

2 点伺います。1 点目は、金利に関してです。日本の金利は米国の金利にかなり引っ張られる傾向がありますが、今後、米国で、QEの停止あるいは縮小という議論が進むと、当然米国の金利が上がって、日本の金利も上がると思いますが、こうした金利の上昇は「自然」と考えるか否かについてご見解をお願いします。2 点目は、最近、消費増税延期の議論も多少聞こえていますが、仮にこれが顕在化した場合、先程のリスク・プレミアムを抑えることとは逆に、リスク・プレミアムを上げる懸念がないのかどうか、お考えをお聞かせ下さい。

§24Haruhiko Kuroda

まず、後者から申し上げると、そういう懸念はあると思います。私どもとしては、政府が、まずはきちんとした財政健全化のプランを年央までに示すと言われているわけですから、それをきちんと示して頂くことが重要であると思いますし、その中で、予想されている消費税の引上げを含む財政健全化が進められていくことが必要であると思っています。1 点目については、実際的にも理論的にも、一律に答えが出てくる話ではありません。確かに、世界的にみて、金利について同様の動きがみられますが、これは、金融市場がグローバル化して資金が自由に出入りする以上、ある意味で、当然、あり得るわけです。他方、一国内の動きと違って、国際的な資本移動では為替レートもあるため、ある国の長期金利が上がると他国の長期金利も必ず上がるというわけではないと思います。それは、資本移動が、金利にも為替にも影響するなど、やや複雑になっているからだと思います。他方、米国経済はかなり堅調に推移しており、回復軌道に乗っているわけですが、日本経済は、まだ──年央にはかなり明確な回復軌道に乗ってくるとは思いますが──、そこまでの持続的な力強い回復というところまでは来ていないと思います。物価は足許ではまだマイナスで、2%の「物価安定の目標」までまだかなり時間があります。

§25Haruhiko Kuroda

そうした中で、米国の長期金利と日本の長期金利が同じように動くということはおそらくないと思いますし、そういうことが適当とも思いません。現に、レベルは相当違っているわけです。ただ、短期的な動きについては、最初に申し上げたように、金融資本市場がグローバル化している中でシンクロナイズする傾向があることは否めないと思います。繰り返し申し上げますが、為替レートの話もありますし、さらには、そもそも両国の経済状況の違いを反映して金利のレベルはまだ相当違っているわけなので、理論的にも政策的にも簡単に答えの出る話ではありません。なお、米国経済が回復すること自体は、日本経済を含めて世界経済にとってプラスであると思っています。

§26Question

2 点お伺いします。1 点目は、2%の物価目標が達成された時に、日本の経済成長率や長期金利がどのような姿になっているのか。15年もデフレが続いていたため、多くの国民や市場関係者には少し想像がつきにくくなっています。総裁の描いている姿はどのようなイメージの経済になっているのか――具体的数値はなくても結構ですが――、お聞かせ下さい。2 点目は、本日発表された 4月の貿易統計では、輸出は確かに伸びてきていますが、数量ベースでみると前年比はまだマイナスです。円安が進み始めたのが昨年12月頃からと思いますが、過去の円安局面ではもう少し早く数量ベースはプラスになっていたと思います。日本経済の構造的な面で、かつてと違う動きがあるのかどうか、ご所見をお願いします。

§27Haruhiko Kuroda

1 点目は、2%の「物価安定の目標」は、消費者物価の前年比上昇率が2%という水準に達することを目標としていますが、その持続的な達成は、賃金や雇用も改善する、いわば生産・所得・支出のバランスがとれた改善が続かなければ容易ではないと思います。現在、2%の「物価安定の目標」の達成を目指して、「量的・質的金融緩和」を行っていますが、従来の様々なデータをみる限り、物価が上がる時にはGDPギャップが縮小し、その中で雇用も改善し、賃金も上がっていく、また物価も上がっていくという、全体としてよい方向に循環していくと思います──デフレ下では、逆に悪い方向に回っていました──。そういう意味で、2%の「物価安定の目標」が持続的に達成されるもとでは、生産・所得・支出が順調に伸びていくことになるだろうと思います。ただ、中長期的な成長のポテンシャルは、基本的には、供給力あるいは生産性の伸びに規定されるので、成長戦略等にみられるような供給力、生産性の向上が不可欠と思っています。2 点目の輸出数量については、いわゆる「Jカーブ効果」と言われますが、為替レートが変動して直ちに輸出数量が変動するのではなく、一定のタイムラグを置いて輸出数量に影響が出てくる現象だと思います。タイムラグについては、一般的な理論はないと思いますが、6 か月ないし 9 か月などとも言われています。

§28Haruhiko Kuroda

「Jカーブ効果」によって、数量増加に一定のタイムラグを要するということです。もちろん、企業が生産拠点を大規模に海外展開していることの影響もあるかもしれませんが、為替が輸出に影響するという基本的な構図は変わっていないと思います。

§29Question

家計の支出と所得の現状についてお伺いします。円安の進展によって、輸入された食料品等の値上げが相次いだり、長期金利の上昇によって住宅ローン金利が上がったりしている一方で、所得は、例えば毎勤統計をみると現金給与総額が 2 か月連続で減っています。つまり、現状では、負担が増える一方で所得は減り、むしろ暮らし向きが悪くなっていると思えるのですが、総裁はこの点についてどうみておられるか教えて下さい。

§30Haruhiko Kuroda

先程申し上げた通り、経済の色々な動きにはタイムラグが絡んでいますので、全てが一律に動くわけではないと思うのですが、基本的に、デフレが終わり、物価が 2%の安定目標近辺で動いている中では、物価が上がり、賃金が上がり、所得も増え、雇用も増えているという、全体としての好循環が期待できると思います。もちろん、私どもも雇用や賃金の動向を十分注視していますし、特定の局面ではタイムラグの違いにより色々な事象が起こると思います。現在、雇用が改善しつつあることはかなりはっきりしていますが、賃金は、ボーナスや所定外賃金が改善しても所定内賃金が上がっていない状況にあります。やはり、所定内賃金も上昇していく局面になることが必要だと思いますし、いずれそういう局面になると思いますが、現時点では、常用雇用の所定内賃金がまだ十分上がっていないということは、その通りだと思います。

§31Question

先程、オペの弾力的運用に言及されたので確認のためにお聞きします。「ペースの調整」という言葉の意味は、日銀が 4月4日に、2年程度で長期国債の保有額を倍にすると約束された、この約束の前倒しも含めて言っておられるのでしょうか。

§32Haruhiko Kuroda

おっしゃったようなことは意味していません。あくまで、本年も来年も、年間 50 兆円のペースで長期国債の保有残高を増加させていくことに変わりありません。しかし、もともと 4月4日の決定に含まれていることですが、その中でも十分な弾力性をもってオペを実施し得るわけであり、その弾力性を活用して適切に対応していきたいということです。既にご覧になっている通り、月々の国債保有残高の増加は、単純に「50 兆円÷12 か月」ということではなく、弾力性がありますし、買い入れる国債の残存期間も、「平均 7年程度」となっていますが、4月4日の公表文の脚注にあるように、「6年~8年程度」という幅もあります。オペについては、既に実施している通り、毎回のオペ金額を小さくして頻度を高めることもできます。4月4日の決定の中にこうした弾力性があり、執行部は、認められたその弾力性を活用していくということです。

§33Question

景気がよくなっていく局面では、税収も上がっていくと思いますが、来年度の税収はどうなるとお考えでしょうか。また、先程のイメージについてですが、デフレのもとでは、ミクロの話で言えば、例えば、就職活動で100 社面接をしても受からない学生がいるとか、リストラしても企業業績がなかなかよくならないという状況があります。2%の物価上昇となる局面のイメージは、「努力が報われるような社会になる」という表現をしてもよい状況なのでしょうか。

§34Haruhiko Kuroda

いずれも、私が十分にお答えできる話ではないかもしれません。前者の税収の話は、昔、財務省主税局にいた時、税収見積りの仕事をしたことがあります。税収の動きは、概ねマクロ経済の動きにリンクしているわけですが、様々な税目毎に色々な要因があるので、税収がどうなるかについて、私どもがコメントすることは――その能力もありませんので― ―適切ではないと思います。一般的に、景気拡大時には税収も増えることは事実ですが、どういう時点でどの程度の増え方となるかは承知していません。次に、デフレ局面で、物価が下がる、賃金が下がる、雇用が停滞するということがありました。2%程度の物価上昇率が持続する、すなわち、「物価安定の目標」が安定的に達成されるもとでは――何度も申し上げますが――、賃金や雇用も改善し、経済全体が好循環の中に入っていると思いますので、ご指摘のような方向で改善すると思います。具体的に、大卒者の就職状況について申し上げる立場にはありませんが、当然、雇用が改善していく中で、大卒者の就職状況も改善していくと思います。以上