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Bank of JapanPress conferenceJul 11, 2013Haruhiko Kuroda, Governor

総裁定例記者会見(2013年7月11日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の金融政策決定会合の内容について、「回復」という表現を使われた景気判断の根拠や、展望レポートの中間評価の議論も踏まえて、ご説明下さい。

§2Haruhiko Kuroda

本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 60~70 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という前回会合で決定した金融市場調節方針を維持することを全会一致で決定しました。資産買入れに関しても、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、4月4日の「量的・質的金融緩和」の導入に際し決定した買入れ方針を継続します。わが国の景気ですが、国内需要が引き続き底堅く推移する中で、輸出の持ち直しも加わって、経済活動の水準は緩やかに高まっています。企業部門において所得から支出へという前向きの循環メカニズムが次第に働き始めているとみられることから、景気の判断を、先月の「持ち直している」から「緩やかに回復しつつある」へと前進させました。海外経済は、引き続き製造業部門に緩慢な動きもみられていますが、全体としては徐々に持ち直しに向かっています。そうしたもとで、輸出は、為替相場の動きも下支えとなって、持ち直しています。設備投資は、企業収益が改善する中で下げ止まっており、持ち直しに向かう動きもみられています。公共投資は増加を続けており、住宅投資も持ち直しが明確になっています。個人消費は、消費者マインドが改善するもとで、引き続き底堅く推移しています。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は緩やかに増加しており、求人倍率が改善するなど雇用環境も好転しつつあります。

§3Haruhiko Kuroda

先日公表した 6月短観の結果をみると、企業の業況感は、業種の裾野の拡がりを伴いつつ、明確に改善しています。2013年度の事業計画についても、売上や収益見通しが改善するもとで、設備投資をしっかりと増加させていく計画となっており、マインドや収益の改善が、実際の支出活動に結び付き始めています。また、先日開催された支店長会議においても、同様の報告が聞かれたところです。この間、わが国の金融環境は、緩和した状態にあります。企業の資金調達コストは低水準で推移しており、CP・社債市場の発行環境は、総じてみれば、良好な状態が続いています。企業からみた金融機関の貸出態度や資金繰りも改善傾向を続けており、この点は 6月短観でも確認されたところです。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、足許ではゼロ%となっています。予想物価上昇率については、マーケットの指標などで上昇が一服しているものもありますが、6月短観の販売価格判断を始め企業や家計、エコノミストに対する各種調査なども踏まえると、全体としては上昇を示唆しているものとみられます。わが国経済の先行きについては、国内需要の底堅さと海外経済の持ち直しを背景に、緩やかに回復していくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比は、プラスに転じていくと見込まれます。

§4Haruhiko Kuroda

4月の展望レポートで示した見通しと比較すると、内需はやや強め、外需はやや弱めと内外需のバランスは若干変化していますが、実質GDP成長率、消費者物価ともに概ね見通しに沿って推移すると見込んでいます。すなわち、大方の委員は、基調的には潜在成長率を上回る成長が続く中で、消費税率引上げの直接的な影響を除くベースでみた消費者物価の前年比は、マクロ的な需給バランスの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを反映して上昇傾向をたどり、見通し期間の後半にかけて、「物価安定の目標」である 2%程度に達する可能性が高いとみています。ただし、複数の委員は、4月の展望レポート時と同様、物価の見通しについてより慎重な見方を示されました。リスク要因をみると、欧州債務問題の今後の展開、新興国・資源国経済の動向、米国経済の回復ペースなど、日本経済を巡る不確実性は引き続き大きい情勢です。金融市場の動向を含め今後の展開には注意していく必要があると考えています。以上のように、「量的・質的金融緩和」のもとで、実体経済や金融市場には前向きな動きが拡がっており、人々の経済・物価に関する期待は好転しています。今後とも、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続します。

§5Haruhiko Kuroda

その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を引き続き点検し、必要な調整を行います。

§6Question

米国の金融緩和縮小が世界経済に与える影響について、ご見解をお聞かせ下さい。特に、新興国の懸念が強いことを踏まえて、来週のG20会合でどのような議論が行われる見通しかも含めてお聞かせ下さい。

§7Haruhiko Kuroda

米国において、FRBの資産買入れの縮小が議論され始めた基本的な背景には、米国経済が緩やかながらも着実に回復を続けていることがあり、それ自体は、新興国も含めて世界経済全体にとってプラスであると考えています。また、FRBが資産買入れペースを調整していく前提として、緩やかな成長の持ち直しに支えられた雇用情勢の改善継続を挙げています。ご指摘のように、国際金融資本市場では、このところ、やや神経質な局面もみられましたが、FRBの政策意図については、徐々に市場参加者も含めて幅広く理解が深まってきているように思います。いずれにせよ、こうした金融政策の動向が、新興国を含めた国際金融資本市場にどのような影響を与えるかについては、引き続き注意深くみていく必要があると思います。ご指摘のように、来週、G20があります。G20には、先進国だけではなく新興国もたくさん参加しますので、国際金融資本市場の動向を含め、世界経済の動向について、幅広い議論が行われると思います。さらにいえば、リーマン・ショック後、検討を重ねてきた金融規制の問題についても、引き続き議論が行われるだろうと思っています。

§8Question

中国の金融システムに対する警戒感が高まっていますが、いわゆる「シャドーバンキング」の問題が抱えるリスクや、中国経済の先行き、日本経済に与え得る影響について、どのようにみておられるか、ご所見をお聞かせ下さい。

§9Haruhiko Kuroda

このところ、中国経済についての議論が色々と行われています。ご承知のように、中国の政策当局は、成長の「スピード」よりも「質」を重視するスタンスを明確にしてきており、その一環として、信用についても、「安定的で適度な増加」を目指しています。従って、信用が急速に拡大し過ぎることについては、これを是正する方針を打ち出しているわけです。その際、いわゆる「シャドーバンキング」についても、規制の強化を行うなど目配りしているのが現状だと思います。政府は、金融のみならず、各種の政策において、先程も申し上げたように、成長の「スピード」よりも「質」を重視する政策を進めています。数年前と比べると、成長率が低めであることは事実ですが、安定していることもまた事実です。最近公表されたIMFの新しい経済見通しでも、2013年の成長率は、若干、下方修正されたようですが、7.8%という数字であり、中国経済が安定した高い成長を続けるという見通しは変わっていません。経済の内容を色々な統計でみても、個人消費は引き続き堅調ですし、投資も前年比 2 割増くらいのテンポで増加しているなど、中国経済の先行きについては、内需を中心に安定した成長を続けることが十分に見込めると思います。

§10Haruhiko Kuroda

ただ、政府は、構造改革も含めて、色々な政策を打ち出してきていますが、それらについての市場その他における受け止め方に、まだ不確実性が残っていることも事実です。従って、中国経済の動向は、十分注視していきたいと思います。また、中国は、今や世界第 2 の経済大国になっており、ご指摘のように、日本経済を含めて、アジア経済や世界経済全体に対する影響も大きくなっていますので、当然、それらの影響についてもよくみていきたいと思っています。

§11Question

2 点伺います。1 点目は、「緩やかながら回復しつつある」という判断についてですが、その持続力をどうみていらっしゃるのでしょうか。とりわけ、少し出遅れ感があった設備投資や、今後の物価の上昇にも影響してくる雇用や所得など、この辺りの先行きを中心にお聞かせ下さい。もう 1点は、非常にテクニカルな質問ですが、本日の中間評価の見通しで、物価とGDPが、中央値だけみるとともに僅かながら下方修正となっています。この原因と、これに対してどのように受け止めておられるのか、お聞かせ下さい。

§12Haruhiko Kuroda

公表文にも示している通り、足許、日本経済は「緩やかに回復しつつある」ということですが、設備投資についても、企業収益が改善する中で持ち直しに向かう動きが出てきていることは、短観その他の調査で分かっています。また、設備投資に影響を与える輸出が持ち直していることや、さらに、消費の堅調さが続いていることもあります。様々な先行指標をみても、今後、設備投資が伸びを高めていくことを示していますので、ご指摘のように、設備投資は、消費や住宅投資あるいは公共投資に比べるとやや出遅れ感はありますが、今後、伸びが高まっていくだろうとみています。雇用・所得については、有効求人倍率や失業率など、雇用関連の指標は改善していますが、所定内賃金はまだ上昇していません。今後、雇用状況の改善が続く中で、ボーナスや所定外賃金から所定内賃金へ好影響が拡がっていくのかどうか、これはもう少し時間をもってみる必要があると思います。実際、所定内賃金については、まだプラスに転じていないのが実態だと思いますが、雇用情勢全般としてはかなり改善し、雇用者所得も全体として伸びてきており、所定内賃金も今後、伸びを高めていくだろうとみています。次に、今回の中間評価における見通しの分布およびその中央値についてです。

§13Haruhiko Kuroda

ご指摘のように、実質GDP成長率については、0.1%ポイントの下方修正になっていますが、その見通しの幅については、2013年度は、むしろ下限が上昇する感じになっています。いずれにせよ、先程申し上げたように、海外の需要はやや弱めですが、内需はやや強めとなっており、全体としては、成長率は、ほぼ以前の見通し通りの動向であろうと思っています。消費者物価についても、2013年度、14年度と 0.1%ポイント下方修正になっています。これは、ご承知のように、エネルギー価格や一次産品価格がトレンドとしてやや下がっていること――中東情勢の状況如何でまた上がるなど、色々な動きはしていますが――も影響しているとは思いますが、全体として、ほぼ見通し通りに進んでいます。2015年度の消費者物価上昇率の見通しの中央値は 1.9%で変わっておらず、レンジも変わっておらず、基本的に、従来の見通し通りであると考えています。

§14Question

2 点伺います。今回、「回復」という言葉を使うのは 2年半振りということですが、日銀としては、ある意味、「景気回復を宣言した」という見方でよいのか教えて下さい。加えて、現在は参議院選挙期間中ですが、安倍政権が掲げてきた金融緩和の功罪も選挙の争点になっています。その中で「回復」を打ち出すことは──もちろん、日銀として独自に判断したのだと思いますが──、ある意味、政権を後押しすると受け取られる懸念もあると思います。そういう点は考えなかったのかについても、お聞かせ下さい。2 点目は、本年1月から 7 か月連続で景気判断を上方修正したわけですが、本年1月は、日銀と政府が共同声明を出した時に当たります。それから今までの半年余りで、日銀として、ある意味で達成できたこと、あるいは総裁がみてまだ足りないこと──先程、雇用の話がありましたが──について、改めて確認させて下さい。

§15Haruhiko Kuroda

公表文にも明確に示されている通り、「わが国の景気は、緩やかに回復しつつある」ということに尽きます。この判断については、当然のことながら、政策委員会で議論し、この公表文について全員一致で賛成しているわけであり、政治的な云々ということは全くありません。従来、景気の動向に従って、色々な言い方をしてきたことと平仄は合っています。最初に申し上げた通り、色々な指標がほとんど全て上方に向かって見直しされています。従って、「わが国の景気は、緩やかに回復しつつある」ということは、明らかに様々な経済指標から素直に引き出せる結論であろうと思っています。次に、本年1月以降の景気動向についてのご質問です。様々な指標にみられる通り、実体経済は比較的順調に改善してきているわけです。初めは、為替や株などの金融資本市場の動向が先行するようにみられていましたが、このところ、実体経済について、「持ち直し」から、今申し上げた「緩やかに回復しつつある」という状況がはっきりしてきました。その意味では、1月に政府との共同声明を出し、そして 4月に「量的・質的金融緩和」を決定した日本銀行としても、想定した方向で経済が動いていると言ってよいと思います。

§16Question

2 点質問します。1 点目は、物価についてです。コアのCPIはマイナスを脱却しましたが、実際には、為替や一次産品価格のコストプッシュ的な側面も強いかと思います。コアコアのCPIは依然マイナスですが、コアコアの方に、日本経済の体力の実力が現れているという見方もあると思いますが、総裁のご所見をお願いします。2 点目は財政再建絡みです。IMFのブランシャール氏が、先日、アベノミクスの行方について、2 つ目のリスクとして指摘をしています。具体的には、「抜本的な構造改革が反映されなければ、投資家が持続性を懸念し、より高い金利を日本国債に求める」と指摘されたことについて、総裁のご所見をお願いします。

§17Haruhiko Kuroda

1 点目については、以前にも似たご質問にお答えした記憶があります。物価の動きをみていく場合には、色々な指標があり、消費者物価についても、「除く生鮮食品」あるいは、おっしゃったような「コアコア」という、食料・エネルギー関連を除いたものもあるわけです。重要なことは、どのようなトレンドで物価が動いているかです。生鮮食品の場合は、天候その他、ごく短期的な事由に左右されて動くので、それを除いてみることには十分合理性があると思います。コアコアも一定の合理性があるとは思いますが、以前にも申し上げた通り、食料品やエネルギー関連まで除いてしまうと、消費者支出のバスケットの 3 分の 2 ぐらいしか代表しない、つまり、3 分の 1 ぐらいが落ちてしまうため、消費者の体感する動きとやや離れるという問題もあるわけです。私どもとしては、従来通り、生鮮食品を除く消費者物価指数でみていくのが適当とは思いますが、その他の指標も、当然、考慮することはあってもいいと思います。また、消費者物価指数だけではなく、企業物価指数や輸入物価指数など、その他の指標も当然みていくことに変わりはありません。2 点目は、私どもとしても、財政の健全性が確保されなければならないと思っています。現状、日本の財政は、OECD諸国の中で最も深刻な状況にあるので、これを再建することが不可欠であることは間違いありません。

§18Haruhiko Kuroda

財政の健全化が進まなければ、市場から信認されず、金利が上がる懸念もあり得るわけです。従って、政府において、十分にこの懸念を考慮し、財政再建を着実に進めていく必要があると思っています。ちなみに、ご承知の通り、1月の共同声明でも、政府は、その点を明確に示しています。また、最近のいわゆる「骨太の方針」の中でも、財政の健全化について、2015年度までにプライマリー赤字の対GDP比を 2010年度と比べて半減、2020年度までにプライマリー赤字を解消して黒字に持っていくことが明示されており、近々、中期的な財政再建計画も決定されると聞いています。IMFのブランシャール・チーフエコノミストの懸念はよく理解できますし、私も、潜在的にそういうリスクがあるとは思っていますが、今のところ、日本政府は、その懸念を理解して、財政健全化に向けた努力をしようとしているとみています。

§19Question

まず、本日の景気判断の「回復」についてです。大多数の国民にとっては、なかなか回復を実感できないという声も多いと思います。これから景気回復が進んでいき、我々の雇用や所得が拡大していき、それが消費となり、生産という好循環になって、本格的な景気回復に結び付いて、いわゆる回復が生活者の視点で実感できるのはいつ頃になるのか、その見通しについて総裁のお考えをお伺いできればと思います。もう 1 点は、本日、「回復」について委員会内で議論があったというお話でした。これについて、差し支えない範囲で、例えば、この「回復」という表現を使うことについて反対はしないまでも慎重な意見があったのか、なかったのか、お話し頂ければと思います。

§20Haruhiko Kuroda

「回復を実感する」ということを、何を指して言うのかはなかなか難しいと思いますが、企業では、短観その他でみられるように、回復の実感がかなりしっかりしてきているわけです。中小企業まで、少しずつそういった好転の状況が拡がりつつあるということです。また、日本銀行のいわゆる「さくらレポート」をみても、地方によってばらつきはありますが、徐々に前向きの動きが出てきていることもあります。また、日本銀行が行った生活意識に関するアンケート調査でも、景気に対する前向きな見方が拡がっていることは事実です。そういった面では、マインドも含め、回復の実感が少しずつ拡がりをみせていると思います。ご指摘があった雇用・所得の面では、雇用は有効求人倍率や失業率をみても、明らかに改善しており、そのトレンドが続いています。また、ボーナスやパートの方に対する支払いも増えています。しかし、先程申し上げたように、所定内賃金がまだ上昇の動きをみせていません。雇用者所得は、「雇用者数」×「1 人当たり賃金・その他の報酬」です。雇用者数は増えていますので、雇用者所得も増えつつあります。また、6月から 7月にかけて、ボーナスが出てきますが、おそらく増えていくと思います。

§21Haruhiko Kuroda

所定内賃金が上がることは、いわば最終段階だと思いますが、大企業においては、普通、春闘のサイクルがあるので──もちろん、年度の途中で所定内賃金を上げても悪くはありませんが──、所定内賃金がすぐに上がるのは難しいかもしれません。しかし、雇用者数と 1 人当たりの報酬を掛けた雇用者所得全体としては着実に伸びていき、実感もさらに強まるだろうと思います。金融政策決定会合での議論については、今申し上げたことも含め、様々な議論が行われ、全員が一致して「わが国の景気は、緩やかに回復しつつある」というステートメントになりました。各委員が、どこを強調されるかというニュアンスの違いはあると思いますが、全体の景気判断としては、この内容で合意できたということです。

§22Question

2 点伺います。1 点目は、先程の質問とも関係しますが、コアコアCPIでみるとマイナス圏を脱していません。つまり、エネルギー価格の上昇が大分効いている一方で、賃金が上昇していない、いわゆる「悪い物価上昇」になるかと思います。コアコアCPIの先行きについては、需要や消費の盛り上がりとともに上がっていくのか、どのようにみているのか、お聞かせ下さい。2 点目は、長期金利についてです。先月の記者会見では、ボラティリティが既に安定してきており、新たなツールを導入する必要はない、ということでした。米国の金利が上がってきている中で、日本の長期金利のボラティリティは引き続きそれほど大きくなく、金利水準も 0.8%台ですが、日銀のオペが十分効いているのかどうかについて、今の金利水準も踏まえてご所見をお願いします。

§23Haruhiko Kuroda

1 点目のコアコアCPIについては、先程申し上げた通りです。円安の影響もあって、エネルギー価格や資材価格の一部が上がったことや、電力料金が上がりつつある──これには特殊な要因が影響していますが──ことが、消費者物価の上昇、マイナスからゼロになり、今後はプラスになっていくと思われる動きに、一定の影響を与えることは事実です。しかし、何度も申し上げますが、物価上昇率が 2%程度に達し、それが安定的に維持されるためには、やはり物価だけでなく賃金が増加し、生産・所得・支出がバランスのとれた形で改善していかなければなりません。そうでなければ、「物価安定の目標」の達成にはならないと思います。物価動向については、それぞれの局面で色々な要素があることは事実です。しかし、先程申し上げたように、経済が持ち直しから緩やかに回復しつつあり、さらに回復がより明確に強くなっていく中で、ご懸念のような「悪い物価上昇」にはならず、全体がバランスのとれた形で推移していくように、日本銀行としても最善の努力をします。賃金や雇用その他の問題については、政府の政策も影響すると思いますが、いずれにせよ、バランスのとれた形で「物価安定の目標」が達成されることが望ましいし、そういう方向に徐々に向かっていると思っています。

§24Haruhiko Kuroda

2 点目の長期金利については、ご指摘のように、このところ景況感が改善し、物価上昇期待などが高まる中でも、極めて安定しています。また、米国の量的緩和からの出口に絡んで資産買入れ政策が議論され、米国や欧州の金利がかなり上がっている中でも、日本の長期金利は安定し、ボラティリティも低下しています。これは、基本的に、毎月大量の長期国債を購入する──年間で保有残高が 50 兆円のペースで増加する、すなわち毎月平均 7 兆円を超える長期国債を購入する──ことによるリスクプレミアムの下押し効果が、かなり効いていると思います。この下押し効果は、今後とも累積的に強まっていくと思っています。ボラティリティの抑制については、長期国債オペに関する市場関係者との対話、様々な意見交換を行ってきたほか、オペの運営をかなり弾力化したことも、一定の効果を持っていると思います。今後とも、この両面で引き続き努力していきたいと思っています。

§25Question

先程、「複数の委員が物価の見通しについて慎重な姿勢を示された」とおっしゃった点について、差し支えない範囲でもう少し補足して下さい。また、物価見通しの中央値が下がった点について、改めて、物価目標 2%というのは、達成可能で現実的な目標なのか、総裁のお考えをお聞かせ下さい。一部の市場関係者の間では、展望レポートのことを日銀の「願望レポート」と揶揄する声もあるようですが、2%というのは現実的な目標なのか、それとも日銀の願望なのか、どちらなのでしょうか。

§26Haruhiko Kuroda

結論を申し上げれば、「展望レポート」は、まさに「展望レポート」であって、日本銀行の政策委員会メンバーの予測であることは間違いありません。ただし、その予測の前提として、どのような政策効果を見込んでいくかということが入っています。従って、市場関係者の見通しと政策担当者の見通しが乖離することがあるのは、別におかしなことではないと思います。私どもとしては、2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現するために、必要にして十分な政策を採ったと思っています。今後、その上下のリスクに応じた対応は必要になるかもしれませんが、2%の「物価安定の目標」は、十分に達成できると考えています。ただ、複数の委員は、4月の展望レポートの時も比較的慎重な見方をしておられたわけですが、その方々は、今回も引き続き慎重な見方をしておられるということです。何度も申し上げますが、この見通しの幅や中央値を見て頂いても分かるように、政策委員会メンバー全体の基本的な見方は変わっておらず、大方の委員は、2015年度、すなわち見通し期間の後半にかけて、2%近傍に達する可能性が高いとみているということだと思います。

§27Question

4月の展望レポートで、2年程度で 2%の物価上昇率を実現するためには、単なる需給ギャップの改善だけではなく、いわゆるフィリップス曲線そのものをアップサイドシフト、すなわち、従来よりも小さな需給ギャップの改善で物価を上げられるような状態に持っていく必要があるという論理を展開され、そのためには、期待インフレ率が高まることが必要だというロジックを展開されたと思います。今回、中間評価なので、4月時点のこの想定を踏まえて、景気判断の中で「予想物価上昇率については、上昇を示唆する指標がみられる」という判断を示されたわけですが、いわゆるフィリップス曲線の上方シフトというものの兆しがある、あるいはその可能性が高まっているという判断をお持ちなのかどうか、その点についてお考えをお聞かせ下さい。

§28Haruhiko Kuroda

修正フィリップス曲線の理論的枠組みは、一定の期待インフレ率を前提にした場合の曲線の形状であり、期待インフレ率が上昇すれば、バイ・デフィニションで(定義により)、その曲線が上方にシフトするわけです。要するに、期待インフレ率が上昇しているかどうかをみれば、フィリップス曲線が上昇していることが間接的にみてとれます。フィリップス曲線は、理論的なフレームワークであり、目に見える形でそこにあるわけではないので、色々な形で推計しています。期待インフレ率についても、色々な指標──色々なアンケート調査、市場のデータなど──があり、それらをみると、明らかに上昇しています。この点を踏まえると、理論的な枠組みからいえば、フィリップス曲線がおそらく上昇してきているだろうと思いますが、「見通し期間の後半にかけて、2%近傍に達する」ためには、GDPギャップが縮小してプラスに転じることと、期待インフレ率が十分に上昇してフィリップス曲線が上方にシフトするという両方が必要です。失業率がこれだけ低下してきているので、GDPギャップもおそらく縮小してきていることは間違いないと思いますし、期待インフレ率も徐々に上がってきているということで、両面からそういう効果は出てくると思います。

§29Haruhiko Kuroda

単月の物価上昇率の動きは個々の要素によって影響されますので、ある程度トレンドをみていく必要があるとは思いますが、明らかに消費者物価の対前年同月比はマイナスからゼロになり、プラスになっていくと思っています。

§30Question

先程から中国経済について色々ご説明頂いたのですが、本日の決定会合では、やはり、中国経済を含めた新興国の動向について、かなり本格的に議論がなされたのでしょうか。それから、直近の中国の輸出入のデータは、色々な要素があって前年比はややマイナスになっていますが、それを差し引いたとしても、中国の実体経済はかなり調整色が強く、この調整が長引けば、日本企業もしくは日本経済に対して、一定程度の悪影響が出るリスクがあると思いますが、そこはどのようにお考えなのでしょうか。また、今から言うのも何ですが、そのリスクが大きくなれば、日本で今採っておられる金融政策の枠組みに影響を与えることもゼロとは言えないとは思うのですが、以上の 3 点について、ご見解をお願いします。

§31Haruhiko Kuroda

中国を含む新興国経済の動向についても、当然、昨日および本日と、政策委員会で議論になりました。その結果は、このステートメントでご覧になった通りです。また、それを踏まえ、2013年度から 15年度の成長率や消費者物価上昇率についての政策委員の見通しを出しているわけです。先程申し上げた通り、今や中国経済は米国経済に次ぐ、世界第2位のGDPの大きさになっていますし、GDP成長率も、先進国と違い、IMFの見通しで切り下がったとはいえ本年は 7.8%も成長しようかというところです。よって、中国経済の動向が、当然、世界経済に影響を与えることは事実ですから、その動向について、米国、欧州、その他の新興国と並んで、議論になり、その上で、先程申し上げた結論に達したということです。先程申し上げた通り、中国経済の動向に関しては、実体経済が内需中心でかなり安定した成長を遂げることについては、おそらく多くの人が、市場関係者も含めて、同意されると思います。そうした中で、新しい構造改革を含む各種政策の効果、あるいは、その範囲、程度について、まだ一定の不確実性があることも事実なので――実体経済については、それほど大きな不確実性があるとは思わないのですが ――、いわゆる「シャドーバンキング」の問題や、その他の事象について、十分注視していく必要があることは、その通りだと思います。

§32Question

総裁は、常々、期待に働きかけることが重要だとおっしゃっていましたが、期待物価上昇率の数値が分からないので、例えば、日銀で、ブレークイーブン・インフレ率(BEI)や期待、実質、名目みたいな形でわかるような数値を、オフィシャルに出すという予定はありますでしょうか。また、先日、野党の党首から「デフレは高齢者にとっては良いことだ」といった発言がありましたが、現実として、これは間違っているのか正しいのか、教えて頂ければと思います。もう 1 点、円滑化法が終了してから、貸出が、一応、徐々に伸びているのですが、円滑化法終了の影響はあったのかどうか、ご所見をお願いします。

§33Haruhiko Kuroda

期待物価上昇率については、それぞれの人はそれぞれの期待を持っているわけで、それを一定の方法でアグリゲートした形で示すしかないのです。その方法としては、1つは、色々な方──エコノミスト、消費者、企業経営者、企業関係者など──にヒアリングをしたり、アンケート調査をし、それを一定の指標で示すことがあり、日銀短観も含め、様々のデータがあります。ただ、それらは、全て同じではなく、アンケート調査の仕方によって、区々、様々ですが、全体として、インフレ期待の上昇を示していることは間違いないと思います。マーケットについても、BEIの計算や、その他幾つかの指標から逆算する方式もあります。これも、色々なデータで違った動きをしていますが、全体としてみれば、物価上昇期待が高まっていることは間違いないと思います。そのどれか一つを絶対的、authentic なものとして示すことは、どの国もやっていませんし、難しいと思います。これは、物価指数を作ることとは違います。物価指数は、どの国でも政府や中央銀行が一定の手法に基づいて作成し公表していますが、物価上昇期待については、先程申し上げたように、色々なやり方があり、それぞれに一長一短があるわけで、どれか1つを絶対的なものとすることは難しいと思います。デフレとは、基本的に「持続的な物価の下落」です。

§34Haruhiko Kuroda

そういう状況では、どうしても、個人は支出を先延ばしにする、企業は設備投資をなかなかしない、従って、金融機関も貸出が増加しないという状況となり、賃金、物価が持続的に下がる、企業収益も雇用も改善しません。これは、経済全体として望ましくないことは明らかだと思います。個々の人で、たまたまインフレで得をしたり、デフレで得をしたりと、色々なことがあり得るとは思いますが、やはり経済全体が改善していかなければ、全ての人にとって平均的に望ましいことにはならないと思います。「デフレから脱却する」ということは、基本的に、好ましいことであると思っています。円滑化法の終了に伴う影響は、これまでのところ、全くと言っていいほどみられていないと思います。

§35Question

2 点伺います。1 点目は、4月の大規模緩和から 3 か月余り経ち、その中で今回の景気判断のように、「緩やかに回復しつつある」という明るい兆しが出ていると思います。総裁からご覧になって、景気の実態が明るくなっている背景として、金融緩和の効果がどの程度あったとご認識なのか――なかなか数字等で示すのは難しいと思いますが――、教えて下さい。もう 1 点は、先程、物価の見通しについて、「4月にも比較的慎重だった複数の委員が、今回も引き続き慎重だった」とおっしゃいました。4月の議事要旨をみると、お二方が慎重な見方をしていたと思いますが、今回、その人数が増えたりしていないのか、念のため確認させて下さい。

§36Haruhiko Kuroda

1 点目は、経済全体の改善に対して、「量的・質的金融緩和」がどの程度効いて、他の政府の政策がどの程度効いているのかというご質問と思います。実際問題として、それらの効果を分離あるいは分別するのは非常に難しいと思います。というのは、金融緩和、機動的な財政運営、成長戦略、中長期的な財政の健全化は、全体として、政府・日本銀行により行われようとしており、特に大胆な金融緩和と機動的な財政運営は既に行われ、そこに様々な期待の要素なども混ざっています。従って、それらの効果を分離するのは非常に難しいと思います。経済学的に言えば、何らかのマクロ・エコノメトリックモデルを作り、色々な政策変数を入れて算出してみる手はあるかもしれません。しかし、ご承知のように、マクロモデルというのは、それぞれにプラス面とマイナス面があり、特に、現在のように期待の変化が起こっている時に上手く使えるかどうか議論があるところです。このため、的確な答えを出すことは――将来、かなり長い期間をとって分析して、判断するというのはできるかもしれませんが――、正直にいって、今の時点では非常に難しいと思います。物価の見通しについては、4月の展望レポート時に慎重な意見を示しておられた方が、今回も慎重な意見を示しておられたということです。

§37Haruhiko Kuroda

人数が増えたとか減ったということはないと思いますが、何人かということを私から申し上げるのは差し控えたいと思います。

§38Question

直近で、ECBやBOEがフォワード・ガイダンスを採用する形をとりました。一方、日銀については、「金利」のガイダンスを「量」に切り替えているところで、他国とのやり方の違いが際立つと思いますが、日銀として、金利ガイダンスの重要性について、どのようにお考えでしょうか。

§39Haruhiko Kuroda

これは、理論的にも実践的にも込み入った問題だと思います。「フォワード・ガイダンス」といっても、色々なことを意味していますので、一概に決めつけることはできないと思います。米国の場合、資産買入れの量や期間も入っていると思います。また、短期金利の見通しも入っている可能性がありますし、FOMCでは色々な金利について各々の方の意見を示していますので、ある意味、非常に幅広いフォワード・ガイダンスになっていると思います。ECBやBOEは、最近、そのようなことを始めようかということですが、現時点では、その内容は抽象的なものとなっているわけです。BOEが、今後、より詳細なフォワード・ガイダンスを示すと聞いていますが、結局、それぞれの国の経済・金融の実態に即して、中央銀行がそれぞれ判断しているということだと思います。日本銀行としては、4月4日に「量的・質的金融緩和」を決めた際のステートメントにも書いてありますし、その後も、今回を含め、毎月の金融政策決定会合で述べている通り、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する、と示しているわけです。

§40Question

クロスボーダーの金融の問題についてお伺いします。色々な不確実性がある中で、邦銀が、この間、東南アジアの銀行の買収に動いていますが、その点をどのように評価されていますか。また、その前の動きとして、日銀はクロスボーダー担保スキームを導入しています。具体的には、タイの中央銀行が日本国債を担保として資金供給するスキームで、やや市場が混乱したときの対応として、ということだと思いますが、今後、この手のスキームを拡充させていくお考えがあるかお聞かせ下さい。

§41Haruhiko Kuroda

邦銀が、アジアの地元金融機関の買収あるいは資本提携を進めているのは、おそらく従来の業務提携を超えた踏み込んだ形で、アジア展開を図る動きであると思っています。これは、日本企業のアジア諸国とのビジネス拡大と、ちょうど裏腹の関係になっているのだと思います。金融機関としても、アジアでの業務展開を重要な経営戦略の1 つとして位置付けているのであろうと思います。私どもとしては、こうしたことが日本経済の活性化につながり、さらには日本とアジアとの経済的な交流の深化、あるいは相互発展に、金融面から貢献していくことを期待しています。2 点目ですが、誰に対して、どのようなものを担保と認めて資金を供給するかは、あくまでも各国の中央銀行が決めることです。従って、こちらから一方的に何かを言うことはできませんが、このようなスキームが拡充すれば、日本企業がアジアにおいて必要に応じて現地通貨建ての資金調達をする際のバックストップを得られることになるので、好ましいことだと思います。しかし、誰に対して、何を担保として資金を供給するかは、あくまでも、それぞれの中央銀行が決定することですので、引き続き話し合いを続けていきたいと思っています。以上