総裁定例記者会見(2013年9月5日)要旨
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§1Question
本日の金融政策決定会合の決定内容について、ご説明をお願いします。
§2Haruhiko Kuroda
本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 60~70 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という前回会合で決定した金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。資産買入れに関しても、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、4月4日の「量的・質的金融緩和」の導入に際し決定した買入れ方針を継続します。わが国の景気ですが、企業部門において収益の改善が設備投資にプラスに作用しており、家計部門においても雇用・所得環境の改善の動きが個人消費を支える要因となるなど、企業・家計の両部門で所得から支出へという前向きの循環メカニズムが次第にしっかりと働いてきています。このような情勢を踏まえ、景気の総括判断について、先月の「緩やかに回復しつつある」から「緩やかに回復している」へと前進させました。海外経済は、一部に緩慢な動きもみられていますが、全体としては徐々に持ち直しに向かっています。そうしたもとで、輸出は、為替相場の動きも下支えとなって、持ち直し傾向にあります。設備投資は、先般公表された法人企業統計でも確認された通り、企業収益が改善する中で、非製造業を中心に持ち直しつつあります。公共投資は各種経済対策の効果が顕在化する中で増加を続けており、住宅投資も持ち直しが明確になっています。
§3Haruhiko Kuroda
求人倍率や失業率が労働需給の引き締まり傾向を示し夏季賞与も増加するなど、雇用・所得環境に改善の動きがみられる中で、個人消費は引き続き底堅く推移しています。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は緩やかに増加しており、サービスや建設など非製造業の活動もこのところ強めとなっています。この間、わが国の金融環境は、緩和した状態にあります。貸出金利は既往ボトム圏で推移するなど、企業の資金調達コストは引き続き低水準で推移しています。CP・社債市場の発行環境も、良好な状態が続いています。物価面では、7月の消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、6月からプラス幅を一段と拡大し、+0.7%と 0%台後半となっています。予想物価上昇率については、家計、エコノミスト、市場参加者に対する調査なども踏まえると、引き続き全体として上昇していると判断されます。わが国経済の先行きについては、生産・所得・支出の前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかな回復を続けていくとみられます。物価面では、消費者物価の前年比は、プラス幅を次第に拡大していくとみられます。リスク要因をみると、欧州債務問題の今後の展開、新興国・資源国経済の動向、米国経済の回復ペースなど、日本経済を巡る不確実性は引き続き大きく、今後の展開には注意していく必要があると考えています。
§4Haruhiko Kuroda
以上のように、「量的・質的金融緩和」のもとで、実体経済や金融市場には前向きな動きが拡がっており、人々の経済・物価に関する期待は好転しています。今後とも、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続します。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を引き続き点検し、必要な調整を行っていくという方針に変わりはありません。
§5Question
2 点目ですが、今回、景気判断を上方修正されたわけですが、最近の、特に海外の経済情勢をみると、米国の金融緩和の縮小観測をきっかけに、新興国の通貨が下落したり、足許ではシリアなどの中東情勢の悪化で原油価格が上がるなど、多少先行きに不安感が出る要素が出ていると思います。こういった海外経済の不安が日本の国内経済にどういった影響を与えるとお考えなのか。また、何か影響があった場合には、日銀としてどういった対応をとるのか、お伺いしたいと思います。
§6Haruhiko Kuroda
ご指摘のように、FRBの資産買入れの縮小開始を巡っては、その政策意図への理解が市場で進むにつれて、落ち着いてきていたわけですが、最近、再びやや神経質な展開となっています。そうした状況のもとで、新興国経済の経済構造に焦点が当たる一方、投資家のリスク回避の姿勢も加わって、いくつかの新興国通貨はかなり下落しています。ただ、以前から申し上げている通り、FRBは、資産買入れのペースを縮小していく前提として、緩やかな成長の持ち直しを背景とした雇用情勢の改善継続を挙げており、いわばそうした米国経済の好転自体は、貿易などを通じて、新興国を含め世界経済全体にプラスの影響を及ぼしていくと期待されます。シリア情勢の緊迫化については、確かに、国際金融市場に何がしかの影響を与え、さらに、地政学的リスクから、原油価格がやや上昇する要因となっていることは事実だと思います。いずれにしても、新興国を含め、こういった国際金融資本市場の動向については、引き続き注意深くみていく必要があると思っています。なお、国内の金融政策との関連では、以前から申し上げている通り、日本銀行は、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に 2%の「物価安定の目標」を実現するために、現在、「量的・質的金融緩和」を実行しています。
§7Haruhiko Kuroda
内外経済の先行きについては、先程申し上げた通り、海外経済は、色々な要素がありますが、やはり全体としては次第に持ち直していき、そうしたもとで国内経済が緩やかに回復を続けていく中で、消費者物価はプラス幅を次第に拡大し、2%の「物価安定の目標」の実現に向けた道筋を辿ると考えています。こうした経済・物価見通しに対して、仮に、上下双方向のリスク要因が顕現化した場合には、当然、必要な調整を行うということです。本日公表した「当面の金融政策運営について」の中でも、4月4日に「量的・質的金融緩和」を決定した時以来、一貫して申し上げていますが、「2%の『物価安定の目標』の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、『量的・質的金融緩和』を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う」ということです。従って、当然、状況に応じて「物価安定の目標」を実現するために必要な施策を行うということです。
§8Question
消費増税の関連でお伺いします。先週、官邸で有識者ヒアリングが行われ、総裁もご出席されて色々な方の意見を伺ったかと思います。様々な意見があったと思いますが、消費増税を先送りした場合は、政権の指導力といったものへの懸念から株安・債券安へといった不安があるのではないかという意見がある一方で、増税すると、逆に、来年春の景気が腰折れするのではないかという意見も出ていたと思います。総裁は、増税を実施した場合、あるいは先送りした場合に顕在化するリスクについて、どうお考えなのか。また、そうしたリスクに対して、日銀として何らかの追加策を検討していることがあるのかどうかをお伺いします。
§9Haruhiko Kuroda
以前から申し上げている通り、消費税率の引上げの問題については、政府において、経済状況などを総合的に勘案して判断されると認識しています。日本銀行では、4月の展望レポートあるいは 7月の中間評価においても、消費税率が予定通りに引き上げられることを前提に、経済・物価見通しを作成しています。そこでお示しした通り、駆込み需要とその反動といった振れは予想されますが、基本的には、経済の前向きな循環は維持され、基調的に潜在成長率を上回る成長を続ける可能性が高いと考えています。一方、消費税率の引上げを先送りした場合の金融市場あるいは経済に与える影響は、なかなか見通すことは難しいわけですが、やはり、大切なことは、財政運営に対する市場の信認をしっかりと確保することです。その信認が失われると、国として極めて困難な状況に陥ることになりかねないわけです。従って、集中点検会合においても、ご質問があったので、それにお答えし、これを先送りした場合の国債に対する信認への影響を見通すことは非常に難しく、国債価格が大幅に下落するリスクがどれほどあるか分かりませんし、それほど大きくないかもしれませんが、そういうリスクが顕現化した場合の対応は、今申し上げたように、非常に難しくなるとお答えしたわけです。1月の共同声明にもある通り、政府において、持続可能な財政構造を確立するための取組みが着実に進められることを強く期待しています。
§10Haruhiko Kuroda
日本銀行としては、常に、上下双方向のリスクをみており、2%の「物価安定の目標」を実現するために必要な施策を行っていくということに尽きると思います。
§11Question
2 点お伺いします。本日、景気判断を上方修正されましたが、「緩やかに回復している」という状態が、この先どれだけ持続していくかについての鍵をどこにみてらっしゃるか教えて下さい。今おっしゃった通り、海外が若干弱い中で内需中心の好循環ですが、雇用、設備投資、消費と色々ファクターがあると思いますが、持続力の鍵をどこにみていらっしゃるのでしょうか。もう 1 点、消費税の質問にお答えになった中で、国債価格の下落リスクは、分からないけれども、顕現化した場合には非常に対応が困難であるというお話でしたが、「対応が困難になる」とは、どのような状態を指していらっしゃるのでしょうか。財政出動や金融政策とか色々な面からだと思うのですが、具体的に詳しく教えて下さい。
§12Haruhiko Kuroda
最初に申し上げた通り、全体として、経済が回復してきているので、先月に比べ、景気判断を少し前進させました。それが、今後どうなるのかというご質問です。先行きについては、先程申し上げた通り、引き続き海外経済が徐々に持ち直す中で、内需の堅調さを反映して緩やかな回復を続けていくとみています。その場合のポイントは、生産・所得・支出の前向きの循環メカニズムがどのように働いていくかということです。今回、景気判断を少し前進させた背景には、やはり家計と企業の双方で、そういった前向きの循環メカニズムが働いてきていることがあります。家計では、雇用・所得面の改善がみられ、それが底堅い消費を支えるようになってきています。これが、今後どのようになっていくかが一番重要だと思いますが、私どもの見方では、引き続きそうした家計部門での前向きの循環メカニズムが続いていくとみています。一方、企業については設備投資が、色々な先行指標をみて、いずれ出てくるとみていたわけですが、特に最近の法人企業統計で明確に出てきました。この背景には、もちろん、企業の経済に対する見方・マインドの改善があると思いますが、ご承知のように、足許、企業収益が非常に改善しており、また、多くの調査で、こうした企業収益の改善は続くとみられています。従って、企業部門での生産・所得・支出の前向きの循環メカニズムも働いていくだろうとみています。
§13Haruhiko Kuroda
海外経済の動向には、まだリスクがあることは事実ですので、毎期毎期全ての指標がどんどん伸び率を高めていくとは思っていませんが、基本的には、今申し上げたような家計・企業における前向きの循環メカニズムも働き、海外経済も全体としては徐々に改善していく中で、こうした景気の動向が持続できるのではないかと私どもはみています。もう 1 点の消費増税を先送りした場合の影響については、マーケットの方は色々なことを言っておられますが、例えば、国債価格がどうなるか、株価がどうなるかは不確実な要素が多いわけです。仮に、そうした状況で財政に対する信認に傷が付き、国債価格が下落することになった場合には、当然ですが、財政を拡張するわけにはいかず、財政政策で対応することは難しいわけですし、金融政策でも、そうした状況では対応することは困難だと思います。先程から何度も申し上げている通り、先送りした場合のリスクが顕在化する可能性、確率がどのくらいあるかは、人によって考え方も見方も違いますし、マーケットには「相当ある」と言う方もおられますが、これは、不確実で分からないと思います。ポイントは、仮に、そういうリスクが顕在化した場合には、対応が極めて困難であるということです。それに対して、私どもは、予定通り消費税率を引き上げたもとでも、基調的に潜在成長率を上回る成長が続くと思っており、景気が腰折れするとは思っていません。
§14Haruhiko Kuroda
仮に、景気に大きな影響が出るリスクが顕在化したとすれば、それは、財政政策でも十分対応できるでしょうし、金融政策でも、2%の「物価安定の目標」の実現に対して下方リスクが顕在化すれば、当然、それに対して適切な対応を採ります。これは、4月4日の「量的・質的金融緩和」導入時から申し上げている通りです。
§15Question
「リスクの顕在化」と「必要な調整」との関係についてです。仮に、今はリスクが顕在化していないけれども、予防的に追加の措置を採るという考え方について、総裁はどうお考えでしょうか。
§16Haruhiko Kuroda
これまでのところ、経済は政策委員会の見通しに沿って動いており、リスクが顕在化するとは思っていません。ただ、「リスク」である以上、顕在化する惧れはありますから、そのような事態になった時には、当然、それなりの対応をするということです。2%の「物価安定の目標」の達成に向けて進んでいる道筋が大きく影響を受けることになれば、金融政策としても、当然、対応を考えなければならないと思いますが、今の時点では、そういう状況にあるとは思っていません。ただ、上下双方向のリスクは、常にみていかなければならないと思っています。
§17Question
財政の信認と景気への影響の話です。消費税率の引上げ幅について、小刻みに上げていくという手法を主張されている方もいますが、引上げ幅を圧縮しての増税策は、財政と景気との両方にとって望ましい手段として捉えられるのでしょうか。あるいは、財政からみたら、予定通りの引上げとは大きく違うということで、リスクのある手法だという認識なのでしょうか。いわゆる段階引上げについて、総裁の評価を教えて下さい。
§18Haruhiko Kuroda
段階的引上げについての私の個人的な評価はありますが、どのような税制を採用し、どのような税率にするかは、まさに政府が考え、国会が決定することです。従って、それについて、中央銀行として、何か申し上げることは差し控えたいと思います。ポイントは、要するに、2014年4月に 3%、2015年10月に 2%引き上げることは法律で定められており、それと違うことをするということは、新たに法律を出し、国会で可決しなければいけないということです。そのような状況が、市場やその他にどのような影響を及ぼすかは、なかなか予測し難いということです。私の意見というわけではありませんが、例えば、政府が「一回決めたことを止め、今度は違うことをやります」と言ったとき、「その違うことを 100%やる」と市場が本当に信認するかどうかは、少し分からないところがあります。小刻みの引上げと 2 段階引上げについて、それぞれにどのようなメリット・デメリットがあるかという議論は、今申し上げた点を踏まえ、政府で決めて頂くことと思います。ただ、予定通りの引上げを行わない場合の市場やその他の反応というものは、不確実でなかなか予期できないところがありますが、何かあったときの対応は、極めて難しいということに尽きると思います。
§19Question
景気判断を「緩やかに回復している」とされましたが、4月の段階で「年央頃には、緩やかな回復経路に復していく」と考えていたシナリオがほぼ実現したと考えているのでしょうか。また、これは、一種の日銀による「景気回復宣言」という理解でよいでしょうか。2 点目は、物価動向についての質問です。消費者物価の前年比は 0%台後半の伸びで、順調に伸びているという見方もできますが、一方で、中身をみると、コストプッシュ型が中心で、エネルギー価格の上昇や円安を反映しているという見方もあります。庶民はコストプッシュ型の物価上昇では困るという認識も強いと思いますが、「良い物価上昇」に向かうのはいつ頃になるのか、今、脱デフレの道筋はどういうところにあるのか、ご見解をお願いします。
§20Haruhiko Kuroda
4月に新しい金融政策の枠組みを決め、展望レポートを出し、7月に展望レポートの中間評価をした過程で考えられていたように、景気は想定通りに回復していると思います。ただ、内外需要別の動向でみると、4月頃にみていたよりも、外需が少し弱いかもしれません。他方、内需がその時にみていたよりも、少し強いかもしれません。ただ、経済全体としては、いわば想定通りに回復しているということだと思います。物価についても、前々から申し上げている通り、2年程度の期間を念頭に置いて、2%の「物価安定の目標」を達成するために必要な措置を採るということですので、いきなり物価上昇率が 2%になるわけではなく、徐々に物価上昇率が高まっていくということです。そういう意味で、物価上昇率は、私どもが考えていたテンポで徐々に高まってきていると思います。なお、中身については、確かに、ご指摘のように石油製品などのエネルギー関連の押上げが効いている面があることは事実ですが、他方、個人消費がかなり底堅く推移する中で幅広い品目で改善の動きがみられたことも影響しています。こうした改善の拡がりは、例えば、除く食料・エネルギーでみた消費者物価上昇率でみても、徐々に下げ止まりつつあることからも明らかだと思います。従って、全体として、消費者物価上昇率もいわば想定通りに徐々に高まってきています。
§21Haruhiko Kuroda
さらにそうした動きは、経済全体における生産・所得・支出の好循環の中で起きていることですので、当面、エネルギー価格の上昇という面があることは事実ですが、中期的にみて、全体として需給バランスが改善していく中で、2%の物価上昇率へ向けて徐々に高まっていくと思います― ―需給バランスが改善していかなければ、物価上昇率が持続的に 2%に向けて高まっていかないと思いますので、そのようになるだろうと思っています――。実際、雇用・所得の改善がみられており、実質所得もややプラスになっていると思いますので、全体としては、好ましい方向に向けて、徐々に消費者物価の上昇率が高まってきていると思います。
§22Question
本日の会見でも、脱デフレと消費税率引上げが両立するというご見解を、展望レポートの例を引きながらおっしゃっておられますが、それは、岩田副総裁、あるいはリフレ派という形で入られた木内審議委員など審議委員の方も含めて、政策委員会全体として一致した見方なのでしょうか。また、やや素人くさい質問なのですが、黒田総裁は、消費税について、リフレ派ということで協調してこられた浜田さん―― あるいは本田さんもそうかもしれませんが――のような方々と、真っ向から反対する考え方を持っておられます。本日のお話の中でも、色々回答があったかもしれませんが、改めて、浜田さんと黒田総裁は、同じリフレ派でありながら、消費税について、どのように見方が違って、これだけ考え方が違うのか、総裁として思っているところを教えて頂けますか。
§23Haruhiko Kuroda
1 つ目のご質問については、展望レポートに示されている通り、一定の幅はありますが、基本的に、2%の「物価安定の目標」を達成していくことと、消費税率の引上げとは両立するとみていると言ってよいと思います。個々の委員がどうみているかは、展望レポートでは示していませんので申し上げかねますが、政策委員会全体としては、そのような見方をしているということです。展望レポートの見通しは、消費税率が法律通りに、2014年4月に 3%、2015年10月に 2%引き上げられることを前提にして、実質GDPや消費者物価指数(除く生鮮食品)の対前年度比を示しているわけです。次に、浜田先生との考え方の相違は、私はそれほど大きいとは思っていません。そう申しますのは、浜田先生も含め、集中点検会合で意見を述べられたほとんどの方々が、消費税率の引上げが必要とみているわけで、問題は、来年4月に 3%、2015年10月に 2%と予定通りに引き上げることでよいのか、あるいはそれを例えば 1%ずつ 5年かけて引き上げるのがよいのか、ということだと思います。その際、私どもは、先程申し上げた通り、消費税率の引上げと潜在成長率を上回る成長が基調として続くこととは両立し、そういうもとで、当然、マイナスの需給ギャップが徐々に縮小してプラスになっていくことで、消費者物価の上昇率も徐々に 2%に向けて高まっていくとみているわけです。
§24Haruhiko Kuroda
確かに、そうではない見方もあることは事実と思いますが、消費税率の引上げそのものについて言えば、基本的には、ほとんどの方が、財政健全化を進める中で社会保障財源を確保するという観点から、不可避・不可欠であるということについて、意見が一致していたように思いました。
§25Question
先程の質問に関係するのですが、日本銀行が展望レポートで経済成長の見通しを作るに当たって、消費税率の引上げを法律通り実施することによって、財政への信認もしくは社会保障への安心感、それがある種のプラス要因として織り込んでいたと思いますが、仮に、増税の時期や幅について何らかの変更がなされる場合、そこにも影響は出てくるのでしょうか。それとも、数量的にメンションできるようなものではないということなのか、ご所見をお願いします。
§26Haruhiko Kuroda
展望レポートを作成するに当たっては、政策委員会の 9 人の委員が、それぞれの見通しを出しますが、その時、どのようなことまで織り込んでいるのかは、それぞれの方によると思います。もちろん、消費税率が予定通り 2 段階で引き上げられることは織り込んでいますが、そのプラス面をどこまで織り込んでいるかは、それぞれの方のお考えです。先程、私が申し上げたのは、要するに、消費税率引上げの必要性は多くの方が理解されており、それは基本的に財政の持続可能性、健全性を高めつつ、社会保障に必要な財源を確保することの必要性を非常に強く考えているということだと思います。そのことが、短期的に、どの程度のプラスになっているかと問われても、予定通り実施した場合のプラス面については、色々な議論があると思います。先程申し上げた通り、予定通り実施しない時のマイナス面と、予定通り実施した時のマイナス面とをよく比較考量する必要があるということだと思います。いずれにせよ、個々の方がどのような要因を織り込んでいるかは、その個々の方のご判断だと思います。
§27Question
需給ギャップについて伺います。需給ギャップは、足許はマイナスだと思いますが、物価が 2%上がるような状況ではプラスになっていると思います。しかし、需給ギャップのプラスは、永遠に続くわけではないと思いますので、いずれ需給ギャップがマイナスに転じた場合には、景気を下押しすると思います。需給ギャップの振れにかかわらず、物価上昇率 2%を安定的に達成するということになると、期待インフレ率を 2%でアンカーさせないと難しいと思いますが、今まで 1%でインフレ率がアンカーされている中で、日銀が目指している 2%で期待インフレ率をアンカーさせられる要因というのは、「日銀は絶対目標を達成するのだから、日銀を信じろ」ということを皆さんに信じさせるからなのか、足許の物価や賃金が上がって期待インフレ率が 2%でアンカーされるからなのか、教えて下さい。
§28Haruhiko Kuroda
まず、前段で言われたことについては、需給ギャップのマイナス幅がどんどん縮小していく、あるいはプラス幅が拡大していくということは、物価上昇率を上げていく、加速させていく要因であることは事実ですが、2%なら2%という、一定の物価上昇率で安定させるためには、需給ギャップのマイナス幅をどんどん縮小させていったり、プラス幅を大きくしていく必要はありません。どこの国でもそうですが、2%なら2%という「物価安定の目標」の周りで物価上昇率が変動する形を作っていくためには、需給ギャップのマイナス幅を縮小あるいはプラス幅を拡大していく必要はなく― ―色々な説はありますが――、物価上昇率が加速するわけでもなく、減速するわけでもないところである種の均衡が維持されれば、物価上昇率はその率で安定するということだと思います。物価上昇期待が安定していることが現実の物価上昇率を安定させる上でもプラスになるということは、広く認められています。欧米の物価上昇期待が 2%近傍で比較的安定しているということが、ある程度の景気の変動にもかかわらず、実際の物価上昇率が比較的安定してきたことの背景にあることは事実だと思います。そういう意味では、物価上昇期待が 2%近傍で安定する、アンカーされるということは、非常に重要だと思います。
§29Haruhiko Kuroda
ただ、日本の場合は、ずっと、いわば物価上昇期待がゼロないしマイナスのところで 15年ほど経過していましたので、徐々に 2%程度にアンカーさせていくために努力しているということです。
§30Question
先般、総裁が米国で講演された内容について 1 点お伺いします。講演の中で、総裁は、金融緩和の効果を出すには実質金利を下げることと自然利子率の上昇の両面が必要だとおっしゃいました。後者の自然利子率については、いわば潜在成長率とほぼ同じような概念かと理解していますが、講演によれば、「量的・質的金融緩和」で両面において成果を出しつつあるというご見解を示されました。ということは、「量的・質的金融緩和」は、いわば日本経済の成長力を上げるような効果も狙い、かつその成果を出しつつあるとみておられるのでしょうか。もし、そうであればどのようなメカニズムでそうなっているのか教えて下さい。
§31Haruhiko Kuroda
ジャクソン・ホールで講演した際、主催者から与えられていたテーマの 1 つに自然利子率の話がありました。ご承知のように、自然利子率の概念については、20 世紀の初め頃から延々と議論があり、理論的に考えれば、確かに自然利子率と実質金利のギャップが大きければ大きいだけ投資が促進され、成長が促進される。逆に、自然利子率よりも実質金利が高いと、なかなか投資が出てこない。投資が出てきて経済成長にプラスになるためには、通常は、この実質金利をどのように下げるかということになります。ただ、自然利子率のことも議論する必要があったので、自然利子率自体にも若干働きかける効果があるのではないかと申し上げ、その関連で、いくつかの日本銀行が採っている政策についても言及しました。全体をご覧頂くと分かるように、基本的には、実質金利を下げて投資、消費を促進することにウエイトがかかっており、その点については、従来の考え方と変わっていません。中長期的な潜在成長率を上げ、自然利子率を上げていくためには、基本的には、よく言われている成長戦略のようなものが絶対的に必要であって、金融政策でそこを引き上げる余地は極めて限られていると思います。ただ、デフレが長く続き、全体として、やや抑圧されてきた自然利子率を少し回復させる効果は、あり得るとは思っています。
§32Question
総裁の消費税に対するお考えを、本日出た話も含め、2 点整理させて下さい。1 点目は、政府との共同声明もあるので、日銀としては、財政の健全化を求めていく、それで、消費増税を具体的にどうするかというのは政府がお決めになることだ、とのスタンスでやってこられたと思います。本日の総裁のご発言を聞きますと、消費税を上げる場合と上げない場合のリスクが両方あって、引上げを見送った場合のリスクは、財政政策、金融政策上、対応するのは困難であるが、上げた場合のリスクについては財政政策および金融政策などで対応できるとおっしゃいました。これを素直に考えると、消費税については、決めるのは政府だが、総裁個人としては上げたほうがよいとおっしゃっているのかな、と受け止められますが、そういう理解でよいのか教えて下さい。
§33Haruhiko Kuroda
何度も申し上げている通り、消費税率を引き上げるべきか、引き上げるべきではないか、ということについては、あくまでも政府で決定されることであると考えています。それぞれの経済に対するリスクについては、先程申し上げたことを集中点検会合でも申し上げたということです。
§34Question
分かりました。もう 1 点、消費税を上げた場合、金融政策で対応できるということでしたが、経済状況をオントラックで本日も上方修正しているわけですが、仮に、今、総裁がおっしゃったことで言えば、消費増税をしたことによって、今思っておられる「2年で 2%」のシナリオが崩れた場合には、新たに何らかの措置を躊躇なく採ると受け止められますが、それはそのような理解でよいのでしょうか。
§35Haruhiko Kuroda
それは、先程から何度も申し上げている通り、海外経済の要因であれ、国内の要因であれ、2%の「物価安定の目標」に向かって進んでいる道筋が大きく阻害され、その実現が難しくなる、あるいはその実現に対して大きな影響を与える要因があれば──それは、上方・下方の双方のリスクが常にあり得るわけですが──、あるいは、今ご指摘のような下方リスクがあって、「物価安定の目標」の達成が難しくなるということがあれば、当然、それに応じて必要な措置を採ることは、4月4日の決定の中に含まれているということです。
§36Question
最後にもう 1 点お願いします。本日、お話に出てこなかったのですが、シリアの実態情勢が緊迫化していますが、これが日本経済および金融政策に与える影響をどのように考えているのか教えて下さい。
§37Haruhiko Kuroda
シリア情勢については、その後、国際金融資本市場に影響が出たことは事実です。特に、原油価格がやや上昇しました。その後、少しまた下がっていますが、いずれにしても、国際金融資本市場などへの影響については、十分注視していきたいと思っています。
§38Question
2 点ご質問します。1 点目は、消費増税先送りの関連で、先程から「対応が困難になるリスクがある」と繰り返しおっしゃっていますが、それは別の言い方をすると、フィスカル・ドミナンス(財政従属)に陥るリスクもかなり意識せざるを得なくなってしまうとご認識されているということなのでしょうか。2 点目は、仮に、3%上げた時に価格転嫁されれば、名目の物価上昇率は 3%オンされてしまうと思います。一方、今の賃金の動向は、少しずつ上がってきていますが、それ程急には上がらないとすれば、やはり消費に対する影響はどうしても出ざるを得ないと思います。日銀は、「基本的に大きな影響はない」と繰り返し言っていますが、少しブレークダウンして、消費への影響についてどうみているのかを教えて下さい。
§39Haruhiko Kuroda
3%の消費税率引上げは、消費者物価上昇率を 2%程度押し上げる要因になると言われています。これは、価格への完全転嫁を前提にしていますが、非課税品目などがありますので、消費税率を 3%引き上げると、消費者物価上昇率を 12 か月間は 2%程度押し上げるということになります。消費者物価は、既に 0.7%上昇しているわけですが、これが徐々に高まっていくとすれば、消費税率引上げによる 2%の押上げ分を含めると、来年の消費税率引上げ後には、物価上昇率は 3%台の前半ぐらいになる可能性があるわけです。これらも、展望レポートに示されており、消費者物価の対前年同月比で、消費税率引上げの価格への完全転嫁による直接的な影響を含めた数字と、その影響を除いた数字との両方を示しています。そういう意味では、かなり透明な形で政策委員の見方を示しています。なお、それが賃金にどのような影響を与えるかは、特に示していません。政策委員会は、2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現するので、当然ながら、物価上昇率については非常に強い関心がありますし、経済全体の動きを示す意味で、実質GDP成長率も示しているわけですが、賃金の上昇率などは特に示していません。
§40Haruhiko Kuroda
各委員が、どのような賃金上昇率を想定しているかは分かりませんが、消費税は、あくまでも価格に転嫁されて消費者が負担する税ですので、そういう前提で一定の試算をしてみると、2013年度は駆込み需要などで成長率を 0.3%ポイント程度押し上げる効果があり、逆に、2014年度については、駆込みの反動と消費税の負担増の影響で、0.7%ポイント程度、成長率を押し下げる可能性があるとみています。そうした効果を全て反映したところでも、実質GDPの成長率では、2013年度は+2.8%、2014年度は+1.3%、消費税率を 2%引き上げる 2015年度は+1.5%とみているわけです。いずれも、0%台の半ばなどと言われている現在の潜在成長率よりも、かなり高い成長率で推移するとみています。次に、フィスカル・ドミナンス云々ですが、これも以前から申し上げている通り、日本銀行の「量的・質的金融緩和」は、年間 50 兆円に上るペースで保有残高が増加するよう長期国債の購入を行うことを重要な部分として含んでいますので、それが財政ファイナンスではないかという懸念が持たれると、効果が減殺されてしまう惧れがあります。従って、1月の共同声明にもあるように、政府において、きちんと財政の持続可能性を高める財政健全化を進めて頂くことが必要不可欠であると思っています。
§41Question
消費税率引上げについて 2 つお聞きしたいと思います。1 つ目は、非常にシンプルな質問ですが、消費税率引上げが予定通り行われた場合でも、2%の物価目標達成に向けて道筋を歩んでいくというのが日銀のシナリオだと先程から繰り返しおっしゃっています。そうすると、予定通り行われなかった場合は、この 2%の物価達成の実現の可能性がより困難になるのかどうか、予定通り実施するよりも予定通り実施しない方が 2%の物価目標達成については、より困難が増すのかどうか、という質問です。2 つ目は、消費税率引上げをした後、仮に、経済が大きく落ち込めば、2%の物価目標達成が難しくなるということで対応されると、これも繰り返しおっしゃっています。仮に、消費税率引上げが予定通り行われなかった場合でも、それによって経済に何か大きなショックが加わった場合、2%物価目標の達成が難しくなることが仮にあっても、これはやはり日銀が対応するのが筋だと思うのですが、その時に、先程から「政府の信認が傷つけば日銀がやれることは困難だ」とおっしゃっています。これは、もう何もやれることがないという意味なのか、それとも何かやれるのであれば、何があるのか、ということをお聞きします。
§42Haruhiko Kuroda
結局、2 つは同じご質問だと思います。消費税率引上げを先送りした場合に、どういうことが起こるかですが、何度も申し上げているように、国債の価格や株価などに、どういう影響が出るのかは不確実であり、はっきりしたことは言えません。確率は低いとしても、仮に、財政・国債に対する信認が損なわれたことを理由に、国債の価格が大幅に下落することになった場合は、財政政策は引き締めるしかありませんし、金融政策としては、財政ファイナンスをしているわけではないので、そういう事態には対応が非常に難しいということです。従って、そういう事態になったとき、実体経済についても、あるいは「物価安定の目標」についても、非常に困難な状況に陥るということです。金融政策での対応も極めて難しくなるということです。
§43Question
質問に丁寧に答えて頂きましたが、もう 1 つだけ念のため確認させて頂くと、消費税率を予定通り実施しない方が、2%の物価目標に対する障害は大きくなるという理解でよいのでしょうか。
§44Haruhiko Kuroda
何度も申し上げている通り、消費税率引上げを予定通り実施しない、先送りする、あるいは違ったやり方にする時の市場などへの影響は、なかなか計り難いところがあります。ただ、実際に先程申し上げたようなリスクが顕在化した場合の対応は極めて難しいということです。仮に、そうした状況で景気が落ち込んだとしても、財政政策で何か対応することはできないでしょうし、金融政策で何かをするといっても、財政・国債に対する信認が落ちて国債価格が大幅に下落する、金利が大幅に上昇するという状況では、金融政策で対応し得る余地も極めて限られていると思います。実体経済についても、物価の問題についても、いずれにせよ、先程申し上げたようなリスクが顕在化した場合には、対応は極めて困難だと思います。
§45Question
消費税に対する金融政策の対応に関する質問です。金融政策にはラグがあると思いますが、例えば、来月、日銀短観を見て総理は判断すると言われているようですが、その場合、来月の段階で何らかの金融政策上の措置を考えるのか、それとも増税が始まってから何らかの対応を考えるのかで、結果に対する影響が違ってくると思います。この辺りをどうお考えなのでしょうか。また、金融政策は、基本的には物価安定目標だと思いますが、波及経路としては賃金・雇用という面もあると思います。消費増税の影響に関して、先程、賃金についてはおっしゃっていましたが、雇用に対しては何か影響があると考えていますでしょうか。
§46Haruhiko Kuroda
金融政策については、 2%の「物価安定の目標」に向けて着実に前進していると思いますが、様々なリスクについては、上下双方向のリスクに適時適切に対応していくという以上のことを申し上げることはできません。現時点では、展望レポートにおいて、予定通りに消費税率が引き上げられることを前提に、経済・物価の見通しを作成しているということです。その中では、生産・所得・支出の好循環が続くからこそ、経済が成長し、物価上昇率が 2%に向けて次第に上昇していくとみているわけですので、雇用・所得も、当然、改善していくとみています。
§47Question
まもなく、リーマンショックから 5年の節目ということでお伺いします。本日、奇しくも「回復している」という判断をされましたが、日本経済あるいは世界経済でもいいのですが、「5年前の危機から立ち直った」と言えるのでしょうか。また、この間、欧州の債務問題や、最近では中国のシャドーバンキングの問題が出ていますが、新たな危機が発生するリスクはどのようにみていらっしゃいますでしょうか。
§48Haruhiko Kuroda
リーマンショックの影響は、非常に大きかったので、世界経済が全て完全に立ち直ったとまでは、なかなか言いにくいと思います。そうした中で、日本経済については、幸い、世界経済の中でも、比較的順調に回復していると言えると思います。それから、そうしたもとでのリスクということですが、公表文にも書いてある通り、まだ欧州の問題、新興国・資源国の状況、そして米国経済の回復のテンポといった点について、不確実性が残っていることは事実です。全体として、リーマンショックという巨大な金融危機の影響から脱しつつあるという状況は変わらないと思いますし、今すぐに、何かあのような巨大なリスクが顕在化するようなことはありそうにないと思っていますが、海外経済についての不確実性は、引き続き残っていると思います。以上