中曽副総裁記者会見(2013年10月9日)要旨
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§1Question
2 点お伺いします。1 点目は、本日の金融経済懇談会で、地元の経済界の方々とどのような意見交換が行われたのか、具体的に教えて下さい。2 点目ですが、山陰の経済状況について、本日の講演でも、前向きなトレンドや明るいマインドがあるというお話がありましたが、当地のような、一次産業のウェイトが比較的高い産業構造のもとでは、アベノミクスの効果波及がまだ限定的であるという見方もあります。懇談会を通して、改めて何か認識されたことや課題として感じられたことがあればお聞かせ下さい。
§2Hiroshi Nakaso
本日の金融経済懇談会では、島根県の各界を代表する方々から、地域経済の現状、課題のほか、日本銀行の金融政策運営に関する極めて率直なご意見などを数多く頂きました。私にとって初めての金融経済懇談会でしたが、極めて有意義なものでした。経済をみるうえで、マクロ的な視点に加えて、地域でどのようなことが起きているのかという、ミクロ的な視点がいかに重要であるかということを再認識しました。ご出席頂いた方々や関係者の皆様に改めて深く御礼申し上げたいと思います。1 点目の懇談会での議論ですが、全てを網羅的にお話するにはやや時間が足りないので、私なりに席上で伺った点を整理して申し述べたいと思います。当地の景気情勢については、出雲大社の大遷宮や自動車道の整備などの効果が相応に出てきており、出雲・松江地域を中心に観光客が大幅に増加しているほか、当地でウェイトの高い建設業においても、公共工事関連を中心に受注が増加していることから、総じてみれば緩やかに回復しているというお話を伺いました。もっとも、問題点としては、地方と都市、あるいは、グローバルな大企業と中小零細企業との格差をどのように埋めていくか、ということが大きな課題であるとお伺いしました。特に中小企業の立場からすると、最近の為替動向を受けた燃料・原材料価格の上昇分を、思うように販売価格に転嫁できず、収益的に厳しいといったお話も頂戴しました。
§3Hiroshi Nakaso
また、少子高齢化への対応、あるいは、人材の確保や教育の難しさなどについても率直なお話を伺うことができたと思います。このほか、金融機関の方々からは、コンサルティング機能の充実などの工夫を行いながら、地元企業の前向きな資金需要の掘り起こしや経営改善支援等に積極的に取り組んでいきたいといったお話を伺いましたので、日本銀行としても、こういった点については引き続き側面支援してまいりたいとお話をさせて頂きました。私どもとしては、こうしたご意見も踏まえつつ、当地の金融経済情勢について、松江支店を通じて引き続ききめ細くご意見を伺って、中央銀行の立場から、島根県経済の発展に向けた皆様の前向きな取組みに対して、積極的にサポートしてまいりたいと考えています。2 点目のご質問については、今述べた感想と若干重なってしまう部分もありますが、改めて、印象的であった点と合わせてお話をさせて頂きます。当地は、出雲・大田・石見銀山などに代表される、伝統的な文化、歴史を体感できる豊富な観光資源や、豊かな自然に育まれた農林水産資源を有しているほか、「たたら製鉄」をルーツとした鉄鋼関連産業や、情報機器・電子部品関連産業など、高い技術力を有された製造業の集積、Rubyを軸としたIT関連企業の展開もみられます。
§4Hiroshi Nakaso
さらに、地域的には、北東アジアに近いといった地勢上の利点などがあり、多くの強みを持った、いわば「資源大国」だという印象を改めて受けました。従って、島根県経済をどのように発展させていけばいいかという点については、今申し上げたような資源をいかに有効に活用し、潜在成長率の改善に繋げていくかが重要になってくるのだろうと思います。例えば、今年に入って観光需要が大きく増加し、相応の経済波及効果を地元経済に及ぼしていますが、観光業が県内の様々な産業とより有機的に結合していくことで、生産誘発効果が一層拡大する余地がまだあるのではないかと思われます。これは本日の講演の中でも申し上げましたが、広い意味での「地産地消」を進めていく余地があるということです。例えば、観光土産品やアメニティグッズ、食材などで地元産のものを利用する、あるいは、観光施設間や観光施設と宿泊施設間をより効率的に結び付けるための運輸業との連携など、様々な工夫の余地があり、こうした取組みを行うことで地域経済を活性化できるのではないかと思いました。成長産業との関係では、当地には、少子高齢化による需要変化に対応したサービスの提供や潜在的なニーズの掘り起こしを図っている企業がみられるほか、製造業では、難易度の高い国際規格の取得に挑戦するなど、成長分野への本格参入に向けた取組みに注力しておられる企業も少なくありません。
§5Hiroshi Nakaso
こうした動きを企業の間でより拡げていくうえで、金融機関が果たす役割も大きいと思いました。これらの努力が結合することによって、島根県経済の潜在成長率の改善に繋がっていく、つまり島根県経済全体のパイを大きくしていくことができるのではないかと思いました。
§6Question
2 点伺います。1 点目は、山陰を含め景気が上向きになっていますが、消費税の増税が今後の懸案材料として出てきています。黒田総裁は、予定通り来年4月に引き上げることが望ましいとの立場を示しておられました。これは政府が決めることであり、日本銀行が決めることではないという前提でお伺いしますが、本日、様々な業界団体からの意見の中で、消費税率引上げについて今後の景気の腰折れを懸念する声があったかどうか、お聞かせ下さい。2 点目は、そうした声がなかったとしても、今後、下向きの動きが出てきた時に、日本銀行としてどのような対応していくお考えなのか、お聞かせ下さい。
§7Hiroshi Nakaso
本日の議論では、先程申し上げた原材料価格上昇の影響と同様に、消費税率引上げ分をどのように販売価格へ転嫁していくのか、収益にはどのような影響が出るのか、というお話を伺いました。その上で、消費税率引上げが景気に与える影響についてですが、まず、我々が従来から申し上げている通り、現在、日本経済は、講演で申し上げたような理由から、順調に推移していると思っています。つまり、「量的・質的金融緩和」の効果は着実に発揮されてきており、日本銀行としては、2%の「物価安定の目標」の実現に向けた道筋を順調にたどっていると判断しています。今回、消費税率引上げに備えて、政府は経済政策パッケージを策定されたわけですが、その中には、経済成長力の底上げや「政・労・使」の連携による経済の好循環の実現、あるいは消費税率引上げによる反動減の緩和のための経済対策が入っています。これについて総理は、「目先の経済を押し上げるだけの一過性の対策ではなく、将来にわたって投資を促進し、賃金を上昇させ、雇用を拡大する、未来への投資である」とおっしゃっています。その意味を私なりに解釈すると、今回の経済政策パッケージは、目先の成長率だけではなく、中長期的に日本の潜在成長率を引き上げていくことにも寄与すると受け止めています。それだけ消費税率引上げの影響を緩和することになるのだろうと思っています。
§8Hiroshi Nakaso
2 点目のご質問は、追加緩和があり得るのかということかと思いますが、消費税率引上げの影響については、 4月の展望レポートや 7月の中間評価で示している通り、消費税率引上げに伴う駆け込み需要とその反動といった振れは予想されますが、均してみれば、経済・物価情勢は 2%の「物価安定の目標」の実現に向けた道筋をたどっていくとみています。加えて、先ほど申し上げた経済政策パッケージを念頭に置けば、今すぐ追加緩和が必要だとは思っていません。もちろん、これは、毎回の金融政策決定会合のステートメントにある通り、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、こうした見通しに変化が生じた場合には、「物価安定の目標」を実現するために必要な調整を行っていくということだと思っています。
§9Question
午前中の講演の中で、新興国経済のことを懸念されていました。成長のモメンタムが下がっているということですが、今朝公表された先月の決定会合の議事要旨の中でも、NIEs、ASEAN経済に関して、全体として持ち直しに向けた動きが弱まっており、暫く低い成長が続くという話があり、日本の輸出の増加ペースに関しても、想定よりも下振れているというか鈍いということが言われています。昨日のIMFの世界経済の見通しでも、新興国が若干下方修正されていますが、輸出が想定通りに戻らないリスクや物価安定の目標である 2%の道筋へ与える影響を現状でどのようにみているか、お聞かせ下さい。
§10Hiroshi Nakaso
IMFは、最新のWEO(世界経済見通し)を発表しており、その数字をみると、確かに、2013年、2014年の世界経済成長見通しを、7月時点に比べて若干下方修正しています。この数字の中身をみると、先進国はほとんど変っておらず、主として新興諸国の見通しを引き下げていることが背景であると思っています。その新興諸国の状況をみると、通貨や株価は概して神経質な動きが続いています。その要因は多岐に亘っていると思いますが、ひと頃みられたような新興国への強い成長期待に陰りがみられる中で、特に経常収支赤字などの経済構造に焦点が当たっているように思います。また、先進国の金融政策面を巡る思惑や、米国の財政協議とも関係しますが、投資家のリスク回避姿勢が影響しているという面もあると思います。新興国の経済をみると、国ごとに状況が異なっていますが、金融環境のタイト化の影響もあり、当面、成長には勢いを欠く状況が続くとみています。この点は、WEOなどの見通しと私どもの見通しは整合的です。ただ、WEOも、世界経済が 2014年にかけて成長力を高めていくという姿を展望している点には変わりありません。つまり、世界経済は、現状、新興国の一部に緩慢な動きがみられていますが、先行きは、米国をはじめとする先進国経済の回復テンポが増していくにつれて次第に持ち直していくとみています。これが基本的な私の見方です。
§11Hiroshi Nakaso
その上で、新興国や資源国経済の動向、あるいは米国経済の成長ペースや財政協議の帰趨、欧州債務問題の展開など、世界経済の不確実性はまだまだ引き続き大きいと思っていますので、これらについて引き続き注視してまいりたいと思っています。
§12Question
講演からは離れますが、報道によると、イエレンFRB副議長がバーナンキ議長の後継になる見通しになっているようです。イエレン副議長がFRB議長に就任された場合、アメリカの金融政策にどのような影響があるのかということについて、もし所見があれば教えて下さい。
§13Hiroshi Nakaso
イエレン氏については、ノミネーション(指名)があるかもしれないという報道段階のお話しであり、まだ確認はされていません。従って、今のご質問は仮定のご質問ということになりますので、ストレートにはお答え申し上げにくいと思います。ただ、私は、イエレン氏がサンフランシスコ連銀総裁でおられた頃から存じ上げており、また、私が前職の国際担当理事の時は、G7Deputies(代理会合)、G20 Deputies の私のカウンターパートでしたので、信頼関係を構築できている方だと認識しています。いずれにしても、まだノミネーションを受けているわけではないと認識していますので、金融政策などへの影響については現時点でコメントすることは控えさせて頂きたいと思います。
§14Question
それでは誰がFRB議長になるかというのはおいておき、次のFRB議長に何を期待されているか、それについて教えて下さい。
§15Hiroshi Nakaso
期待というよりは、世界中が注目しているのが、米国金融政策の帰趨であり、特に、tapering(金融緩和の縮小)がどうなるかというところが大変注目されています。今後の米国経済の動向と、それに対応して米国の金融政策がどうなっていくかという点が、当面の最大のポイントであろうと思っています。米国金融政策の中身について具体的にコメントすることは差し控えますが、tapering については、バーナンキ議長の記者会見などを聞いていると、市場とのコミュニケーションに最大限努力するとおっしゃっている一方、市場の予想が政策を決めるわけではなく、経済にとって必要なことは何かという評価に基づいて政策を決めるとおっしゃっています。FRBに限らず、どの中央銀行にとっても、金融政策を見直す際の考え方や、その前提となる経済・物価情勢についての判断をできるだけ分かりやすく説明し、市場の理解を得ていくことは非常に重要です。私や日本銀行だけではなく、この点はおそらく世界の市場が注目している点であろうと認識しています。
§16Question
物価動向についての質問です。午前の講演の中で、 2014年度後半から2015年度にかけて、物価上昇率が目標の2%に達する可能性が高いとおっしゃられていましたが、強気の見方という感じを受けてしまいます。これは、早ければ 2015年度後半にも安定的に物価上昇率が 2%になる可能性もあるという理解でよろしいのでしょうか。また、そう考える根拠について、もう少しご説明頂けますでしょうか。
§17Hiroshi Nakaso
これは、講演の繰り返しになってしまうかもしれませんが、まず、金融市場の動きについて申し上げると、長期金利は非常に安定的に推移しています。それから、ここが一つのポイントだと思いますが、予想物価上昇率は、全体として上昇しています。これは、エコノミストや家計に対するサーベイ、ブレーク・イーブン・インフレ率、フォワードレートなど各種の指標をみても、全体として上昇していると判断しています。従って、実質金利は低下しています。これが民間需要を刺激しているということが、まずメカニズムとして働いていると思います。次に、実体経済の評価については、これも講演の中で申し上げていますが、企業・家計の両部門で所得から支出へという前向きの循環メカニズムがしっかり働いてきている中で、わが国経済は緩やかに回復しています。実際、物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)が 8月には+0.8%までプラス幅が拡大していますので、全体的な評価としては、「量的・質的金融緩和」が着実に効果を発揮する中で、日本経済は 2%の「物価安定の目標」の実現に向けた道筋を順調にたどっているということです。多少付言すると、4~6月の日本のGDPは、実質で 4%近い成長率を達成できていますので、需給ギャップは相当縮まってきていると思います。
§18Hiroshi Nakaso
この点については、民間のエコノミストの方々の予想というのも拝見させて頂いていますが、かなり差が縮んできているのではないかと思います。一方、インフレ率、物価見通しについては、かなりまだギャップがあります。我々の方がかなり高い、言葉を換えれば、楽観的に過ぎるようにみえるということかもしれませんが、この差は何かというと、実体経済の見方は両者で差がなくなってきているということだとすれば、需給ギャップの縮小度合いに対する物価の感応度についての見方に差があると思われます。それは、言ってみれば――ややテクニカルになって申し訳ありませんが――、フィリップスカーブの形状についてどういう前提を置くかという見方の違いです。一般的には、金融危機以降の日本の、極めて低くて平坦なスロープのないフィリップスカーブを前提にすれば、インフレ 2%は遠いということになると思います。一方、我々は、申し上げたように予想物価上昇率が徐々に上がってきていますので、これが需給ギャップの縮小に対する物価の感応度を高める、言い換えれば、フィリップスカーブが上方にシフトすることを通じて、2%の物価上昇率が視野に入ってくるであろうとみており、ここに見方の違いがあります。
§19Hiroshi Nakaso
結局、インフレ期待の部分をどうみるかということなのですが、我々は、予想物価上昇率が上昇してきているということを捉えて――もちろん、2%には達していませんので途上ではありますが――、「物価安定の目標」の実現に向けた道筋を順調にたどっていると判断としていることが、今日の講演内容にも現れているとご理解下さい。
§20Question
今回、松江にいらっしゃって、出雲大社の 60年に一度の遷宮ということで、出雲大社にはお参りをされたのでしょうか。もし行かれたのであれば、2年を念頭に 2%の物価目標実現を祈願されたのかどうか、この 2 点をお願いします。
§21Hiroshi Nakaso
まだ行っていませんが、もし、これから時間があれば、折角の機会ですので行ってみたいと思います。その場合、何を祈願するのかということですが、縁結びと直接関係ないかもしれませんが、日本経済の積年の課題であるデフレからの脱却を何としても果たしたい、このチャンスをぜひ活かしたい、ということはきっと祈願するだろうと思います。もとより、非常に難しい政策を行っていることは自覚していますが、この点については、きっと祈願することになるだろうと思います。以上