総裁定例記者会見(2013年10月31日)要旨
Full text
§1Question
本日の金融政策決定会合の決定内容と展望レポートの議論の背景について、ご説明をお願いします。
§2Haruhiko Kuroda
本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 60~70 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。資産買入れに関しても、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、これまでの買入れ方針を継続することとしました。本日は、「展望レポート」を決定・公表しましたので、これに沿って、先行きの経済・物価見通しと金融政策運営の基本的な考え方について説明します。まず、わが国の景気ですが、個人消費をはじめとした堅調な国内需要に牽引され、緩やかに回復しています。先行きは、内需が堅調さを維持する中で、外需も緩やかながら増加していくと見込まれ、生産・所得・支出の好循環は持続すると考えています。このため、わが国経済は、2 回の消費税率引上げに伴う駆込み需要とその反動の影響を受けつつも、基調的には潜在成長率を上回る成長を続けると予想しています。具体的には、実質GDP成長率に即して申し上げると、2013年度は 3%弱、 2014年度および 2015年度は 1%台半ばと、ゼロ%台半ばとみられる潜在成長率を上回って推移するとみています。この結果、マクロ的な需給バランスは改善傾向を辿ると考えています。
§3Haruhiko Kuroda
今回の見通しを 7月の中間評価と比較すると、海外経済の想定はやや下振れていますが、内需が政府の各種経済対策の効果もあって幾分強めに推移すると予想されることから、全体の成長率は概ね不変となっています。次に、消費税率引上げの直接的な影響を除いた物価情勢の先行きですが、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、マクロ的な需給バランスの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを反映して上昇傾向を辿り、見通し期間の後半にかけて、「物価安定の目標」である 2%程度に達する可能性が高いとみています。今回の物価見通しを 7月の中間評価時点と比較すると、概ね不変です。金融政策運営については、「量的・質的金融緩和」のもとで、実体経済や金融市場、人々のマインドや期待など、好転の動きが幅広くみられており、わが国経済は 2%の「物価安定の目標」の実現に向けた道筋を順調に辿っています。今後とも、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続します。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を引き続き点検し、必要な調整を行っていくという方針に変わりはありません。
§4Haruhiko Kuroda
なお、展望レポートについて、佐藤委員、木内委員それぞれから、「消費者物価の前年比は、見通し期間の後半にかけて、2%程度に達する可能性が高い」との記述を修正する議案が、また白井委員から、より分かりやすい説明に修正するとともに、より下振れリスクを意識した記述に変更する議案が提出され、否決されました。その上で、これら3 名の委員は、展望レポートに反対されました。その詳細については、次回決定会合後に公表される議事要旨をご覧下さい。最後に、日本銀行が 5 つの中央銀行、すなわち、カナダ銀行、イングランド銀行、欧州中央銀行、米国連邦準備制度およびスイス国民銀行との間で締結しているスワップ取極について、2014年2月が期限となっていましたが、本日の会合では、これを常設化することを決定しました。本スワップ取極は、2011年11月、欧州債務問題により国際金融資本市場が緊張度の高い状況にあったことを受けて、市場の状況によって必要とされる場合に、各国中央銀行がいずれの他通貨によっても流動性供給を行えるよう、導入されたものです。本スワップ取極は、これまで金融市場の緊張緩和に貢献してきており、今般、期限の更新を巡る不確実性を減らすため、常設化することとしました。本スワップ取極は、引き続き、流動性の安全弁として機能していくと考えています。
§5Question
先程、展望レポートについて、木内委員と佐藤委員から、「見通し期間の後半にかけて、2%程度に達する可能性が高い」との記述について修正する議案が提出されたとのお話がありましたが、基本的に、2%程度に達することが難しいという意味で修正を求めたという理解でよろしいでしょうか。また、白井委員の提案について、もう少し説明を頂ければ助かります。
§6Haruhiko Kuroda
佐藤委員と木内委員は、前回の展望レポートでも、「見通し期間の後半にかけて、2%程度に達する可能性が高い」という記述には反対していたわけですが、今回も同様に反対ということであると思います。白井委員からは、展望レポートの文章について、より分かりやすく書いた方がよいのではないかという意見が 1 つと、もう 1 つは、下振れリスクについて、より意識した記述に変更してはどうか、という意見でした。
§7Question
今回、展望レポートでは、2年程度で 2%という物価目標を達成するシナリオを維持したともいえますが、仮に、このシナリオを維持できなかった場合の政策対応について、政策委員の方々が色々ご発言されているようですが、総裁はどのようなお考えかお聞かせ下さい。
§8Haruhiko Kuroda
4月4日に現在の「量的・質的金融緩和」を決定した際、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に 2%の「物価安定の目標」を実現することを明確に約束しており、そのために必要な施策として「量的・質的金融緩和」を導入し、現在に至るまで着実に実行してきているわけです。そうした中で、先程申し上げたように、先行き、消費税率引上げに伴う駆込み需要とその反動といった振れは予想されますが、わが国経済は、基調的には潜在成長率を上回る成長を続け、2%の「物価安定の目標」の実現に向けた道筋を順調に辿っていくとみています。ただ――これも 4月4日から常に申し上げていますが――、今後、内外のリスク要因によって、こうした見通しに変化が生じ、「物価安定の目標」を実現するために必要であれば、当然、必要な調整は行っていきます。
§9Question
米国では、債務上限引上げなど財政問題が 10月に入り非常に注目されました。米国の財政問題が、米国経済のみならず世界経済に及ぼすリスクを、総裁はどのように評価しているかお伺いします。
§10Haruhiko Kuroda
米国経済は、世界最大であり、現在、世界経済の回復を牽引していますから、その先行きは、世界経済にとっても重要なファクターであると考えています。そこで、米国経済の現状をみると、個人消費をはじめとした民間需要は堅調であり、全体として緩やかな回復基調が続いていることは変わりないと思います。もちろん、こうした中で、最近、財政を巡る協議が難航し、政府機関の一部が閉鎖される事態もあったわけです。しかし、その後、協議が進展し、債務支払いの遅延も回避されたため、経済への影響は小幅かつ一時的なものにとどまった公算が大きいと考えています。従って、先行きの米国経済に関しては、緩和的な金融環境が維持され、財政面からの下押し圧力も次第に和らいでいくことなどを背景に、回復テンポが徐々に速まっていくとみており、こうした見方に変わりはありません。ただし、財政協議は今後とも継続されるため、その帰趨次第では、先行き金融市場や経済主体のマインドへの悪影響から、米国景気が下振れる可能性もあり得ます。その点については留意が必要であり、今後とも十分に注視していきたいと思っています。
§11Question
本日、6 つの中央銀行によるスワップ協定の常設化が発表になりました。比較的金融市場は安定していると思われるのですが、このタイミングでなぜ常設化を決められたのか、そして、6 つの中銀以外にこれを拡大するというお考えが今のところあるのかどうか、お聞かせ下さい。
§12Haruhiko Kuroda
今、足許で国際金融市場での流動性に何か懸念があるわけでは全くありません。また、特に日本の金融環境は緩和した状況にあり、わが国の金融機関の外貨資金繰りにも問題は全く生じていません。今回、常設化を決めた理由は、先程申し上げた通り、この 6つの中央銀行間のスワップ取極が国際金融市場の安定に貢献しているということで、この期限が来年2月に来るので、更新されるのかどうかで不確実性が生じてはなりませんので、この際、常設化しようということで決定しました。また、現時点でこの 6 つの中央銀行から拡大しようという考えは、全くありません。
§13Question
展望レポートの中から 2 点伺います。「『量的・質的金融緩和』のもとで、実体経済に好転の動きが幅広くみられる」という記述があると思いますが、少し詳しく教えて下さい。今の金融緩和のどういった効果が――例えば、金利の押下げなど、色々な効果があると思うのですが――、実体経済の具体的などういった分野に効果をもたらして、好転の動きがみられるのか、ここを少し詳しく教えて下さい。それからもう1点、物価のパスについてお伺いしたいのですが、足許、為替の状態がこのままある程度なだらかな状態が続くとすると、円高修正による物価の押上げ効果というのは来年の春くらいになると切れてくると思うのですが、その先、来年度以降の物価が上昇していくというパスを――例えば消費財やサービスなど色々な分野があると思うのですが――、どういった分野の、どういった効果で、さらに物価が上がっていくとみていらっしゃるのか、詳しく教えて下さい。
§14Haruhiko Kuroda
前者については、現在の「量的・質的金融緩和」を導入した際にもご説明したように、3 つのチャネルを考えています。まず第 1 に――1 番重要な点かもしれませんが――、大規模な国債の買入れ、あるいはいくつかのリスク資産の買入れを通じて、金利のイールドカーブ全体に下方圧力を加えていくとともに、リスクプレミアムを圧縮することで、全体として金利、資金調達コストを抑制していくことです。第 2 に、特に大量の国債買入れを通じて、金融機関その他投資家のポートフォリオ・リバランスを促していくことです。これは、やや中長期的な効果だと思います。第3 に――これも非常に重要だと思いますが――、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に 2%の「物価安定の目標」を実現することを明確にコミットし、物価その他の将来予想・期待に働きかけることです。その1 つの効果として、例えば、投資について、名目金利から予想物価上昇率を差し引いた実質金利は明確に低下してきており、一部ではマイナスになっていると思います。これが、投資、特に長期的な投資である設備投資や住宅投資などを刺激する効果が出ていると思います。また、消費にも、実質金利の低下がプラスに働きますが、さらに、株その他の金融資産の価格の上昇が資産効果を通じて消費を刺激する効果もあると思います。
§15Haruhiko Kuroda
輸出などについては、ご承知のようにJカーブ効果等もありますので、名目的な貿易収支に直ちに影響が出てくるわけではないと思いますが、為替の影響はもちろんあります。「量的・質的金融緩和」の効果は、投資、消費、その他の内需に特に大きな効果を持つと思っています。消費は堅調な動きが続いていますが、設備投資についても、これまでは堅調な消費、あるいは住宅投資に支えられて非製造業の設備投資が伸びていましたが、ここへきて、製造業の設備投資も出てきており、今後とも堅調な消費の継続と設備投資のさらなる伸びが期待されます。物価については、ご指摘のように、為替あるいは国際商品市況の影響で、エネルギーを中心とした輸入物価の上昇が消費者物価に影響していたことは事実ですが、最近の消費者物価の動きをみると、いわゆる生鮮食品を除いた消費者物価上昇率がプラスに転じ、8月には+0.8%、9月には+0.7%となっただけでなく、食料やエネルギーを除いた、いわゆるコアコアでも、かなり大きなマイナスからゼロ%というところまできています。今後、為替がさらに円安に振れない限り、為替の物価への影響は徐々に小さくなっていくと思います。
§16Haruhiko Kuroda
他方、堅調な内需を受けて、全体として、今後、潜在成長率を上回る成長が続くという前提のもとで、需給ギャップが縮小し、いずれプラスになっていくと思いますので、エネルギー、食料だけでなく、他の品目にも次第に改善の動きが拡がり、一気に 2%にいくということはないと思いますが、幅広く、物もサービスも含め、物価は上昇していくとみています。もちろん、品目によって物価上昇の程度は違いますが、ごく一部のものに限って物価が上昇することにはならないのではないかと考えています。
§17Question
2 点伺います。1 点目は、展望レポートでも「賃金が上昇していくかどうか注視していく必要がある」と書かれている通り、デフレ脱却に向けては賃金の上昇が不可欠だと思います。本日発表された「毎月勤労統計」では、所定内給与が 16 か月連続でマイナスだったようですが、一方で、昨今、企業経営者がベースアップに前向きな発言を相次いでされています。足許の賃金の状況と、そうした状況を受けて、先行きの賃金をどのようにみておられるのか、ご所見をお願いします。2点目は、先程の質問へのお答えの中で、大量に国債を購入する中でポートフォリオ・リバランスを促していくことは、中長期的な効果だとおっしゃっていましたが、大手生保は、運用計画の中で、下期の国債購入を増加させると相次いで発表しています。この辺りはどのようにみておられるのか、ご所見をお願いします。
§18Haruhiko Kuroda
1 点目のご質問については、いくつかの点を指摘できると思います。第 1 に、企業収益が大幅に改善してきており、そうした状況が続くと見込まれる中で、賃上げの可能性も強くなってくるということです。第 2 に、先程申し上げたように、物価も、ごく一部の品目だけではなく、幅広い品目で改善の動きがみられています。そうした中で、特に労働市場は需給がタイトになってきており、これは賃金を引き上げる要素になってくるだろうと思います。有効求人倍率も失業率も、かなりよいところまで来ていますし、今後も引続き改善していくと思いますので、この面から、賃上げにプラスの影響を及ぼすだろうということです。さらに言えば、政労使会議でも、ご指摘のように、経済界から賃上げに前向きな発言が出てきています。賃金と物価がバランスよく上昇していく形で物価上昇率が 2%に近付いていくことが望ましい姿ですので、こういった面からも、「政・労・使」の連携などの取組みが賃金上昇に向けた動きを後押ししていくことは期待しています。従って、賃金については、企業収益が改善しているということと、労働市場などがタイトになってきているということ、さらには政労使会議での取組みなども踏まえると、今後、上昇していくことが見込まれるわけです。
§19Haruhiko Kuroda
2点目のポートフォリオ・リバランスについては、従来から申し上げているように、やや中長期的にみていくべき話ではありますが、足許でも、例えば、国内の銀行、特に大手行は、相当大幅に国債の保有を減らしており、その代わりに株式への投資を増加させるなど、ポートフォリオ・リバランスの動きが出ています。また、貸出について言えば、大手行だけでなく、銀行全体として、前年比で 2%台前半のペースで増加していますので、足許でも、ある程度ポートフォリオ・リバランスが進んでいるということだと思います。これは、最初に申し上げた通り、ある程度時間をかけて効果が出てくると思います。一方、今ご指摘があったような、非常に長期の資産を保有する保険会社や年金等が、いわゆるフィックスド・インカム・アセットという長期的にリターンが固定されている資産をある程度持つことは、当然あり得る話だと思います。そうしたところも含めて、中長期的に新しい金融環境にアジャストしていく動きは次第に起こっていくと思っています。
§20Question
3 点お伺いします。1 点は、今回、14年度の経済見通しを引き上げていますが、来年4月の消費増税前の駆込みとその後の下振れのうち、下振れ時の対応について、消費増税が決まる前の官邸での会議では「何かあれば躊躇しない」との趣旨の発言をされたと記憶しています。現時点で 14年度の見通しが引き上げられたということで、1 回目の 8%に上げる時の下振れリスクは下がったとみているのかどうか、追加的な措置が必要となる可能性は低くなっているとみているのかどうか、お伺いします。2 点目は、物価の見通しを今回ほとんど変えていませんが、2%に達する時期について、4月は「委員の大方は、15年度の真ん中くらいに 2%に達するのではないかと思っている」とお話されましたが、その点について、変わっているのかどうか、お伺いします。3点目は、今回、白井委員からもご提案があったとのことですが、レポートの全体的なトーンとして、リスク内容についての記述が薄いのかなという印象を受けます。特に、海外も合わせたリスクが上下にバランスしているとの記載が 6 頁にありますが、IMFの見通しをみると、新興国を中心に見通しを引き下げている動きもありますので、リスクについて楽観的ではないかという感じもします。その点について、どのようにお考えか、お伺いします。
§21Haruhiko Kuroda
政策委員の大勢見通しと中央値をみて頂くと、2014年度の実質GDP成長率について、7月時点で+1.3%とみていたところを+1.5%へ、0.2%ポイント上方修正しています。これは、9 人の政策委員見通しの中央値ですので、どの要因を、どのように量ったかはそれぞれだと思いますが、全体として、このような見通しとなり、見通しの幅も下の方が上がり、中央値も上がったことから言えば、大勢は消費税率引上げによる成長率への影響は、いくつかの要因で緩和されるとみていると思います。もちろん、政府が経済対策を決めたこともありますし、最近の経済情勢をみて、今後の内外経済を推測し、こういった見通しになっていると思います。ご質問のように、消費税率引上げだけを取り出して云々はできませんが、消費税率引上げが行われる来年4月以降の 2014年度成長率見通しが上方修正されたのは、景気腰折れリスクが小さくなったということかといえば、その通りだと思います。物価上昇率 2%の見通しについてですが、今回、消費税率引上げの影響を除いた見通しの中央値は全く変わっていません。その意味では、政策委員の平均的な見方は変わっていないと思います。
§22Haruhiko Kuroda
従って、初めに申し上げた通り、見通し期間の後半、具体的には 2014年度の終わり頃から 2015年度にかけて、2%程度に達するという見方だと思いますので、普通に、なだらかな見通しを作れば、2015年度の真ん中か前半、その辺りに平均値あるいは中央値として、あるいは一定の幅の中で、そうした見通しが持たれていると思います。いずれにせよ、前回と変わったところはありません。また、今回の展望レポートの内容ですが、あくまでも、3 か月くらいの足許の動きをみて、今後を展望し、このような文章になっています。上下双方向のリスク要因をかなり詳細に検討して、この文章になっていますので、特に下方リスクを軽くみていることはないと思います。このレポートの中では、かなり幅広くリスク要因を検討して掲げており、政策委員見通しの分布チャートをみても、リスク要因は、実質GDP成長率については上下双方向にバランスしていますし、消費者物価指数の上昇率についても、概ね上下双方向にバランスしているということではないかと思います。
§23Question
2 点お伺いします。1 点目は、今回の展望レポートでも、2%の「物価安定の目標」の実現に向けた道筋を順調に辿っているという内容になりました。一方で、民間の大方のエコノミストの見方は、それよりは厳しくて、日本銀行の見方とはややかけ離れているというか、乖離しているのが現状だと思います。この原因がどこにあると思われるか、総裁のお考えをお聞かせ下さい。2 点目は、先程、白井委員が展望レポートに反対された理由として、大まかに言って、「もっと分かりやすく」ということと、「下振れリスクを意識した記述をすべきだ」という 2 点を教えて頂きましたが、可能であればもう少し具体的に、例えば、「分かりやすく」というのは、何が分かり難いという問題意識でおっしゃったのか、また、「下振れリスク」というのは、例えばどのような部分をおっしゃっているのか、さらに言えば、これから展望レポートの記述のあり方について何か考えていく余地があるのかどうかを含めて、お聞かせ願えればと思います。
§24Haruhiko Kuroda
1 点目については、民間の色々なエコノミストの方々の考え方は、むしろ民間の方々に聞いて頂いた方がよいと思いますが、私どもとしては、2年程度の期間を念頭に置いて、2%の「物価安定の目標」を、できるだけ早期に実現するために、必要にして十分な措置ということで、「量的・質的金融緩和」を導入したわけです。これまでのところ、物価上昇率も予定した経路を辿って徐々に上昇してきており、年度内には、1%という水準には達するのではないかと思っています。どこの国でも、政策当局者と民間の人との見方は、必ずしも一致するわけではないとは思いますが、私どもとしては、こういった政策対応と、上下双方向のリスクを点検し、必要に応じて調整するということで、2%の「物価安定の目標」に向けて、順調にその道筋を辿っていけると考えています。2 点目の白井委員の意見等については、次回の金融政策決定会合後に議事要旨が公表されますので、私からここで詳しく申し上げるのは、差し控えたいと思います。ご承知のように、「量的・質的金融緩和」導入後、4月の展望レポートを出した際、従来よりも、大幅に簡素にして、分かりやすくしたので、従来に比べると相当進歩したとは思いますが、より分かりやすくした方がよいのではないかということで、具体的なご提案があったということです。
§25Haruhiko Kuroda
また、リスクの話については、展望レポートの 6 頁に、金融政策運営の観点から、第 2 の柱として色々書いてあるほか、4 頁から 6 頁にかけても、経済情勢については 5 点、物価情勢に固有のものとしては3 点、上振れ下振れ要因としてリスク要因が掲げられています。これに加えて新しいリスク要因を云々するということではなく、リスクにより注目していく必要があるというご意見だと思います。
§26Question
2 点お伺いします。まず、物価の先行きについてです。物価連動国債からみえるBEI(ブレーク・イーブン・インフレ率)が、財務省の再発行を受けてもあまり変わらず、最近、上昇が止まっていると思いますが、これについてのご所見、解説をお願いします。2 つ目は、国債買入れについて、年間 50 兆円というペースを 4月に公表されて、本年は 9 か月で 50 兆円買っていく予定だと思いますが、来年は 12か月で 50 兆円ですと、「毎月の買入れは年明け少し減るのではないか」、「日本の tapering ではないか」というような声が市場に出てきているのですが、これについてご所見をお願い致します。
§27Haruhiko Kuroda
前者の点については、新しい物価連動国債は、若干、元本保証などの性質が違うので、違った計算結果が出てくることもあると思いますが、根っこにあるインフレ予想が新しい物価連動国債によって変化するということではありません。新しい物価連動国債になったから、そこから計算されるBEIが変化するということはないと思います。物価連動国債は、比較的薄いマーケットではありますが、私どもも、指標として十分注視しているわけです。元々発行されていた物価連動国債から算出されるBEIをみると、いったん、2%近いところまで上昇した後に下がり、また少し上がって、最近は、多分、1.6~1.7%辺りにあると思いますが、半年前、1年前、2年前と比べると、やはり、着実に上昇してきていることは事実だと思います。BEIは、ここ数か月は、どんどん上がっていく状況ではないのはその通りだと思いますが、他方、インフレ予想には、その他色々な指標があり、それらの中には顕著に上がっている指標もあるので、インフレ予想は全体として上昇してきているし、今後も上昇していくだろうと思っています。後者の国債の買入れについては、年間 50 兆円のペースで残高を増加させることは、本年も来年も変わりませんので、tapering off ということは全くありません。同じテンポで、年間 50 兆円のペースで残高を増加させていくことに変わりはありません。
§28Question
展望レポートについて、3 人の委員が反対されたということですが、この点について総裁はどう感じていらっしゃるのか、お伺いします。
§29Haruhiko Kuroda
2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現することは、本年1月の金融政策決定会合で決まりましたが、2 名の方は反対していたわけです。その後、4月の展望レポートについても、「物価安定の目標」である 2%程度の達成時期について、政策委員会の大勢とやや違った意見の方が引き続き 2 人いるということだと思います。白井委員の意見は、先程申し上げたように、このお 2 人とは少し違っており、リスクをよりよくみていく必要がある、重視していく必要があるという意見だと思いました。
§30Question
仮定の質問で恐縮です。来年度の成長率の見通しを 0.2%引き上げたということですが、これは 5 兆円の経済対策を織り込んだ数字だと思います。仮に、その 5 兆円がなかったとしたら、今回、見通しは下方修正になった可能性はありますか。
§31Haruhiko Kuroda
この見通しは、9 人の政策委員の方々の見通しの中央値です。それぞれの方が、経済対策のみならず、その他各種の要因を勘案して、こういう見通しにされたということです。そこから経済対策分を差し引いてどうかというのは、それぞれの委員がそういう仮定を置いた計算を、モデルなどを使って行うということになります。何回も申し上げますが、9 人の政策委員の方々が、経済対策も含め、その他各種の要因も勘案して見通しを出され、その中央値がこういう数字になっているということです。従って、経済対策なかりせば、どういった成長率になるかと言われても、この展望レポートからはお答えしかねるということです。
§32Question
4月時点では、2%の物価目標の達成には外需の増加も予想していたと思いますが、その後、結果として 4月から 7月と下振れ、今回も下振れる一方、内需が想定外に強まったことで、全体としてみればオントラックになったと思います。本日の展望レポートでも、先行き、外需は緩やかに増加していく一方、新興国に関しては金融環境の引き締まり傾向もあって成長率が弱いとみています。「物価安定の目標」2%の達成において、輸出の貢献度が下がったのか、それとも、向こう半年を考えると、新興国が回復して日本の輸出が順調に戻ればよいですが、そうならなかった場合でも、2%への道のりはそれほど影響を受けないとお考えなのか、教えて下さい。
§33Haruhiko Kuroda
結論から申し上げると、展望レポートの文章と参考計数を見て頂くと分かりますが、「物価安定の目標」である 2%への道筋が変わったということはありません。その中で、現在、春にみていたよりも、輸出が若干弱め、内需が若干強めになっていることは事実です。今後の見通しですが、最近のIMFの見通しでも、新興国の成長率が若干下方修正された一方、先進国は下方修正されておらず、全体として、米国を中心とした先進国が相対的に世界経済の成長を牽引する状況は変わっていません。また、本年から来年にかけて、世界経済の成長率は高まっていく見通しになっています。今後、世界経済がどんどん悪くなっていくシナリオは、IMFも含めて描いていないわけです。私どもも、春にみていたよりも、このところ外需が弱めに推移しているのはその通りですが、先行き、海外経済は全体として緩やかに回復していくとみており、それに伴って、輸出も緩やかに回復していくという見通しには変わりありません。以上