総裁記者会見(2013年11月5日)要旨
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§1Question
2 点お伺いしたいのですが、1 点目は、先程の関西財界の方々との懇談会の印象・感想についてお伺いします。さらに、関西のアベノミクス効果(経済効果)について、東京では五輪が決まったりして、一極集中が進むのではないかという懸念もありますが、現状として、関西への経済効果をどうみてらっしゃるのかと、今後の見通しをお伺いします。
§2Haruhiko Kuroda
先程行われた本日の懇談会では、関西の経済界を代表する方々から、わが国あるいは当地の経済・金融の現状と課題についてお話がありました。さらには、日本銀行の金融政策運営に関する率直なご意見・ご要望を数多く頂き、大変有意義な意見交換ができたと思っています。この場を借りて、改めて御礼申し上げたいと思います。席上で頂いたご意見・ご要望について、特に印象付けられたことを 2 つにまとめると、第 1 点は、足許の景気が緩やかに回復してきており、長期にわたるデフレを脱却する道筋がみえてきたとのご指摘が多く聞かれたということです。当地においても、消費者や企業のマインドの改善傾向が続くもとで、内需が堅調さを増すとともに、外需が持ち直しており、雇用・所得環境にも改善の動きがみられているほか、徐々にではありますが、企業の投資意欲が出始めているというお話を伺いました。ただ、中小企業については、コストアップなどを背景に業況の回復が芳しくないとのご認識も伺いました。全体としては、前向きの動きが着実に強まっているというお話であったと思います。景気の情勢について、私どもと認識を共有して頂いていることには、心強く感じた次第です。第 2 に、景気の前向きな動きが強まってきている局面だけに、これを持続的なものにするべく、成長力強化に向けた取組みが重要になっているというご意見を多く頂きました。
§3Haruhiko Kuroda
いわゆる「成長戦略」の重要性ということかと思います。当地では、ライフサイエンスやエネルギーなど成長が期待される分野で、中小企業・中堅企業も含めて、優れた技術を持つ多くの企業の集積がみられているようであり、今後とも、関西経済界が持ち前の進取の精神やイノベーション力を発揮されることが大いに期待できると感じました。また、中小企業に十分な成長資金が供給されることを含め、これらの前向きな動きを後押しするよう金融緩和を進めて欲しいとのご要望を頂きました。日本銀行としては、本日頂いたご意見等も踏まえつつ、引き続き適切な政策運営に努めていく方針であることを改めて申し上げました。関西地域の景気の現状と先行きについてですが、関西地域の景気は緩やかに回復していると判断しています。輸出が持ち直し傾向にあるほか、内需についても、全般的に堅調さを増しています。こうした関西景気の状況は、回復テンポも含め、概ね全国と同様であると考えています。また、先行きについても、全国と同様、緩やかな回復を続けていくとみていますが、その際、ポイントは 2 つあると思います。1 つは、足許、緩やかな持ち直し傾向にある輸出の動向です。当地の輸出は、主力産業である電子部品において、スマートフォンの新型モデル向けの出荷が好調であること、あるいは為替円安の効果などから、先行きも、緩やかに増加していくとみられています。
§4Haruhiko Kuroda
もっとも、関西は、輸出に占めるアジア新興国向けの割合が他地域に比べて高いという特徴があるだけに、これらの国――東南アジア――の一部に弱めの動きがみられることの影響については、しっかりとみていく必要があると思います。2 つ目は、雇用・所得動向です。当地においても、労働需給が改善を続ける中、雇用者所得に改善の動きがみられています。特に、小売や飲食サービスといった一部の非製造業では、大阪駅周辺などでの大規模な商業施設の開業以来、人手不足感がかなり高まっており、アルバイトの時給上昇などにつながっているようです。こうしたことから、当地の雇用者所得は改善しているとみられますが、一方で、賃金面では、特別給与などで全国と比べてやや弱い面もあるようです。今後、企業収益の改善がはっきりしてくれば、賃金も全体として上昇していくとみられますが、雇用や賃金の動向については、当地における所得と支出の好循環が想定通り強まっていくかどうかという観点から、今後とも注視していく必要があると思っています。以上の輸出と雇用・所得の動向は、関西経済のみならず、日本経済全体をみていくうえでも大切なポイントであると思いますので、引き続き、十分、丹念に点検していきたいと考えています。
§5Question
先程、何度か、話題あるいはテーマに出てきている、「中小企業向けに長期の資金が回るようにして欲しい」、「そういうふうに日銀のほうで配慮して欲しい」という声が何度か出ているのですが、これについては、何か具体策をお考えでしょうか。
§6Haruhiko Kuroda
本日の懇談会でもお話したように、日本銀行は、成長基盤強化支援と貸出増加支援という 2 つの仕組みを持っており、これは、大手銀行も地銀その他もかなり活用しています。その最終的な借入者の中には、中小・中堅企業も沢山あるようで、そうした意味では――中小企業だけに対する仕組みではありませんが――、中小・中堅企業、特に、成長していく産業に対する低利融資、比較的低い金利での貸出を支援する仕組みがありますので、大いに活用して頂きたいですし、現に、かなり活用されていると思います。また、特に、地銀など、中小・中堅企業と密接な関係を持っている地域金融機関も貸出を増加させています。その増加のテンポ自体は、実は、大手行よりも高いのですが、大手行は、もともとマイナスの伸び率だったのが、最近、急速に伸び率を高めてきているのに対し、地域金融機関は最近特に伸び率が高まっているわけではありません。今後、もう少し中小・中堅企業向けに、前向きの設備資金の供給が進むことが望ましいとは思っています。このように、そういうことができる金融的な環境は十分整っているとは思います。
§7Haruhiko Kuroda
ただ、そうした地域金融機関と中小・中堅企業との関係で、中小・中堅企業側の業況判断や、それとの関連で、中小・中堅企業側の設備資金あるいは運転資金という需要サイドの状況もありますし、供給サイドとしての地域金融機関側は、貸出をする場合、当然ですが、そのプロジェクトなり、企業なりの将来性等を勘案して貸しますので、私どもが、一方的に押し付けるというわけにはいきません。それでも、先程申し上げたように、現在、貸出の伸び率自体は、比較的、地域金融機関の方が高くなっています。再生エネルギー関係、医療関係あるいは不動産関係などの資金需要はある程度伸びており、そうした中小・中堅企業に対する地域金融機関の貸出も伸びているということだと思います。中央銀行としては、今後も最大限の努力を重ねていきたいと思いますし、今後、中小・中堅企業も、業況感の改善とともに、設備投資も伸びていくのではないかと期待しています。
§8Question
長期金利についてお伺いします。先程の講演の中でも、日本の長期金利は0.6%ぐらいで安定しているというお話がありました。これは、異次元緩和の効果ということも言えるかと思いますが、予想インフレ率が上昇すると名目金利も上昇していくことが見込まれます。これに関して、現段階で、金利が上がらない、あるいはじりじりと下がっていくことについて、総裁はどのようにお考えでしょうか。
§9Haruhiko Kuroda
インフレ期待は、先程の懇談会でご説明した資料の中にもあるように、物価連動国債を使って計算される、いわゆるブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)などをみても、最長期のもので 1.6%~1.7%というところまできていますし、エコノミストの予想も、1%台半ばくらいのところまできています。そういった意味で、色々な形で、インフレ期待は、徐々にではありますが、上昇してきていることは間違いないと思います。他方、そうした中でも、長期金利は低位安定しており、このところ、若干下がり気味で 0.6%くらいになっていること自体は、「量的・質的金融緩和」のもとで、大量の国債を購入していることによる金利低下圧力が効いているということであり、その結果として実質金利は低下を続けており、一部にはマイナスになっているという見方もあるかもしれません。そういうことで、インフレ期待が徐々に上昇している中でも、長期金利は、現在のところ低位で安定している結果、実質金利は下がっているということで、「量的・質的金融緩和」が効果を表しているということだと思います。
§10Question
現状の動きについて、特に懸念を持たれているということはなく、政策の効果が出ているという方に、むしろ重きを置いておられるのでしょうか。
§11Haruhiko Kuroda
物価上昇率がさらに上がっていき、インフレ期待も上がっていくもとで名目金利がどうなっていくかは、今後の注目点だとは思います。しかし、「量的・質的金融緩和」は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するのに必要な時点まで続けるわけですので、大量の国債購入による長期金利に対する低下圧力は続きます。従って、インフレ期待が上がっていき、それに伴い、仮に名目金利が上がるとしても――現在は下がってきているわけですが――、その上昇の程度は、より小さく、やはり実質金利は下がり続けていくだろうと思います。そういうことで、「量的・質的金融緩和」は、2%の「物価安定の目標」が安定的に達成されるのに必要な時点まで続け、引き続き効果を持っていくと考えています。
§12Question
懇談会において、緩和の出口について質問があった中で、総裁が「現時点では具体的な議論は時期尚早だ」と述べられる一方で、「もとより出口の当てもなく入口に入ることはない」と述べておられましたが、この「当て」というか、その点についてどのようにみていらっしゃるか。
§13Haruhiko Kuroda
懇談会でも申し上げた通り、現在、出口戦略について具体的に議論するのは、やはり時期尚早だと思います。足許、生鮮食品を除く消費者物価の対前年比が 0.7%とプラスにはなっていますが、「物価安定の目標」である 2%からは、まだまだ程遠いわけです。何度も申し上げているように、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するのに必要な時点まで現在の政策を続けるという、まだ途上ですので、今から具体的に出口戦略を議論することは、やはり時期尚早であろうと思います。このように申し上げるのは、出口の議論になってくれば、当然、その時の経済・金融情勢等々と関連して議論されるわけですので、そういうことについて、今から、こう仮定したらこうなるとか、ああ仮定したらああなるとか、色々言うこと自体、あまり現実的な意味はありませんし、かえって市場に余計な雑音を与えてしまうことになります。従って、やはり、今の時点で出口戦略を具体的に議論するのは、時期尚早であると思います。
§14Question
まず、大阪、関西の主要産業である電気機械を含めて賃上げに前向きなところと消極的なところが出ていて、今の賃上げの各社の議論に対して、総裁がどういうふうにご所感をお持ちかというのが 1 つ。もう 1 つは、本日の動きの中で、みずほ銀行の金融庁の追加検査というのがありましたが、それに対する所感、考え方というのを教えてください。
§15Haruhiko Kuroda
まず、賃金の問題ですが、過去の例をみても、物価が上がる時は賃金が上がる、逆に言うと、賃金が上がる時には物価が上がっています。賃金の上昇なくして物価が持続的に上がることはなく、また、物価だけが上がって賃金が上がらなければ、消費などに影響が出ますので、そういうことは望ましくないし、ありそうもないということです。労働市場がタイトになっていく中で、賃金は上がるわけですし、需給ギャップが縮小し、さらにプラスになっていく中で、物価も上がっていくということだと思います。ただし、15年続いたデフレのもとで、企業に一種のデフレ期待、デフレマインドのようなものがまだ残っていると、個々の企業は、将来の売上や、その中での賃金コストを考えるわけですが、その際、他の企業が価格を上げない、賃金を上げないかもしれないと思えば、自分のところも、なかなか価格、賃金を上げられないとういことになりかねません。現在、政労使会議で賃上げを議論されていますが、一種の合成の誤謬というのでしょうか、長らく続いたデフレのもとで、デフレマインドが残っているとすれば、それは個々の企業にとっても、そして何よりも、日本経済全体にとっても好ましいことではありません。
§16Haruhiko Kuroda
それぞれの企業の賃上げというのは、最終的には個々の企業経営者と従業員、労働者の話し合いの中で決まっていくことだと思いますが、そういう時に、日本経済全体として、物価や賃金がどうなっていくのか、デフレマインドを脱却し、今の経済の状況、今後の経済の見通しを踏まえて議論がされているわけで、それ自体は大変好ましいし、そういう意味で、賃金、物価がともに上がっていく形で好循環が出てくると予想していますし、それ自体は好ましいことと思っています。次に、みずほ銀行の問題です。私どもは、以前から申し上げているように、提携ローンについて反社会的勢力との取引が存在することを把握してから、長期間、その防止・解消のために抜本的な対応を行わなかったという点は、誠に遺憾であると考えています。私どもは、みずほ銀行から 10月28日に業務改善計画に関する報告を受け、現在これを精査している段階ですが、ともかく、自身で策定した改善策を着実に実行していくことが、まずは必要であると考えています。金融庁の検査云々については、私のほうから特別なコメントはありません。
§17Question
先程の出口戦略について、もう少しお尋ねしたいのですが、「時期尚早だ」ということですが、一方、「内部、日本銀行の中で考えていきたい」というようなことをおっしゃったと思うのですが、これは、今後、議論を公表はしないが、内部で検討を進めていくということなのか。さらに、出口戦略については、やはり今まであまり踏み込んでおっしゃらなかったにもかかわらず、本日、おっしゃったということは、何らかのメッセージを市場に与えようとしたのか、あるいは、副作用を気にする人もいるので、あまり心配しなくてよいというメッセージを与えたかったのか、その辺をお伺いします。
§18Haruhiko Kuroda
あまり深読みして頂く必要はないと思います。従来から申し上げていることと全く変わっておりません。先程申し上げたように、基本的に、今の段階で出口戦略について具体的に云々することは時期尚早であると考えています。
§19Question
海外経済について少しお伺いしたいのですが、先程、特に海外経済について「こちらでどうしようもできない」というようなお話をされていまして、やや先行きについて心配しているという印象を持ったのですが、海外経済だけをとってみた場合、リスクについては、上下バランスしているのか、それとも下振れリスクが強いのか、ということが 1 つ。そして、海外経済について、先行き回復を見込んでいると思いますが、総裁ご自身は、回復する時期がいつ頃になると考えているのか、ご所見をお伺いします。
§20Haruhiko Kuroda
海外経済については、要するに、政策主体は外国の政府や中央銀行ですし、経済の動き自体、私どもが制御できるものではないわけです。海外経済は、あくまでも、外的な与件として、どう動くかを予測するものであり、直接的に海外経済に働きかけたり、政策をすることができないという意味で、「私どもがどうこうできるものではない」と申し上げたわけです。特に、海外経済がどうしようもない状況で、下方リスクが大きいと言っているわけでは全くありません。先程申し上げたように、米国経済は、民需が非常に堅調です。財政問題を巡る不透明性があり、一部政府の閉鎖もありましたが、当面、ともかく予算もでき、債務上限問題も来年まで先送りされたわけですので──問題点が最終的解決になったか、あるいは棚上げになったかという議論はあるとは思いますが──、今から振り返ってみると、経済に対するマイナスの影響は小幅で一時的なものだったということです。米国経済自体は、IMFの見通しにもあるように、財政の下押し圧力は徐々に小さくなっていきますので、このままでも、次第に成長率は加速していくという見通しだと思います。それは、メインシナリオとしては、極めて正しいと思います。もちろん、上下双方向のリスクはあると思いますが、基本的に、回復の状況が続き、成長率は加速していくだろうと思っています。
§21Haruhiko Kuroda
中国経済については、構造改革を進めるということですが、その過程で成長率が大きく落ちることのないように、既に環境、その他のインフラ投資を進めることを決め、足許の成長率も7%台の後半ぐらいになっています。IMFの見通しにあるように、7%台半ばの成長あるいは来年も 7%台前半から後半にかけての成長は、十分に可能な状況にあると思っています。従って、海外経済のメインシナリオは、本年よりは来年、来年よりは再来年と、成長率が高まっていくということだと思います。リスクは上方にも下方にもあると思いますが、特に、IMFやその他の見通しで、下方リスクが大きいとは思いません。以上