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Bank of JapanPress conferenceDec 2, 2013Haruhiko Kuroda, Governor

総裁記者会見(2013年12月2日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

東海地域の景気の現状と先行きについて、ご認識をお聞かせ下さい。

§2Haruhiko Kuroda

本日は、東海地域、中部経済圏を代表する経済界、金融界の方々から地域経済の現状に関する大変貴重なお話、あるいはご意見を頂き、極めて有意義なものであったと思っています。そうした意見交換も踏まえて、足許の東海3 県の景気について申し上げると、名古屋支店で判断している通り、「緩やかに回復している」とみています。すなわち、輸出・生産が高めの水準で推移する中、好調な企業収益のもとで、設備投資が増加を続けているほか、雇用者所得も改善しており、個人消費についても、持ち直しの動きが拡がっています。本日の懇談会の出席者も、概ね同様の認識であったと思います。その上で、今後の東海 3 県の見通しについては、基本的に、全国と同じく、生産・所得・支出の好循環が続くもとで、緩やかな回復が次第に拡がっていくとみています。その際、当地の場合は、自動車など輸出産業が数多く集積しているということですので、欧米あるいは新興国など海外経済の情勢は、十分注視していく必要があると思っています。また、今回の懇談では、経済界として、既存産業に加えて、次世代自動車産業、航空宇宙産業、ヘルスケア産業など次世代産業の振興に取り組まれているというお話、あるいは金融機関としても、海外進出を含めて、様々な企業に対する支援をするなど、色々なニーズに応えてやっていくというお話を伺いました。

§3Haruhiko Kuroda

こうした企業と金融機関とが東海地域の経済発展に取り組んでおられることを非常に心強く思いました。私としては、そうした取組みによって、東海地域の経済が今後とも益々発展し、ひいては、日本経済全体の成長力強化につながっていくことを期待しています。

§4Question

2 点ほどお伺いしたいのですが、ともに設備投資についてです。先程、企業が現金をだいぶ積み増しているとのことでしたが、今後について、現金の量は十分だと考えて設備投資を増やしていくのか、これについてまず伺います。2 点目は、設備投資について、最近の指標をみると、駆け込み需要が工作機械等で出ていますが、設備投資における消費増税の影響等をどう考えているのでしょうか。

§5Haruhiko Kuroda

設備投資については、懇談会の席上でも申し上げましたが、これまでの景気回復では、個人消費、住宅投資、そして公共投資など、非製造業が中心でしたが、ここにきて、設備投資が出てきました。非製造業の設備投資はもともとかなり好調でしたが、ここへきて製造業の設備投資も出てきました。さらに、設備投資の先行指標である機械受注のデータなどもかなり強くなっていますので、設備投資は今後回復していくとみています。懇談会でも申し上げたように、設備投資には、いくつかプラスになる要因があると思います。1 つは、景気回復とともに、設備投資による収益率が向上していくだろうということです。日本銀行の「量的・質的金融緩和」によって、実質金利、実質的な資本コストが低下しているわけで、これが資本収益率の改善と相俟って、設備投資を伸ばしていくだろうと申し上げました。ここが大きなポイントだと思います。それに加え、いくつか挙げた点としては、1 つは、過去に設備投資をかなり見送ってきたために、設備の資本ストックが伸びていません。さらに、そのストックの中でも、ビンテージが古くなって老朽化した設備がかなり増えていることからいって、設備投資は、いわばペントアップ需要という面からみても、相当増えていくのではないかということを申し上げました。

§6Haruhiko Kuroda

もう1 つ申し上げたのは、今ご指摘があったように、企業は、このところ、キャッシュフローを下回る設備投資しかしていませんので、莫大なキャッシュフローを貯め込んでいるわけです。チャンスがあれば、先程申し上げたことで設備投資をしようということであれば、自分の手許現金を取り崩して行うこともできますし、金融機関が貸し出す金利も史上最低レベルまで落ちています。実質金利でいえば、さらに低いところまで低下してきています。そういうことも含め、企業は、手許現金も使えるでしょうし、借入れ、資本市場での債券や株式の発行など、幅広い調達手段もありますから、設備投資は今後伸びていくだろうとみています。なお、消費税率引上げに伴う駆け込み需要の関係でいうと、消費需要と住宅投資については、ある程度駆け込みの可能性があり得ますが、設備投資については、基本的には、もともと前段階の税が控除されるので、通常の意味でいえば、消費税率引き上げの影響はニュートラルです。従って、消費税率が引き上げられるからといって、事前に設備投資をしなければならないということはないと思います。消費需要や住宅投資について駆け込みがあれば、それが間接的に設備投資に影響することはあると思いますが、設備投資について、直接的に駆け込み需要が出てくるとはあまり考えられないと思います。

§7Question

本日の講演で、マネタリーベースと長期国債の保有額の残高について、本年末と来年末の残高を示されていることについて、これは見通しであって、政策運営について何ら期限を示したものではないとおっしゃっていますが、その点について何点か質問します。1 点目は、なぜ 14年末までしか示していないのかということです。2 点目は、14年末に近付いていくと 15年末の見通しも示されることになると思いますが、今の「量的・質的金融緩和」の方針のもとで、マネタリーベースが60~70 兆円のペースで、保有長期国債が50 兆円のペースで増やすという、従来の延長線上の数字、つまりマネタリーベースで 340 兆円、長期国債の保有額で 240 兆円という数字を示すだけだとすると、これは「追加の緩和」という位置付けになるのかということです。最後に、2年程度で 2%程度という「物価安定の目標」が、今後この 1年くらいの間に達成困難であることが判明した場合――つまり、展望レポートその他で見通しを下げられるということだと思いますが――、従来の延長線の数字を示すだけでは、何としても2年で2%を達成するために必要な調整を行うという観点からすると、本当に必要な調整にならないと思うのですが、この点について、どうお考えですか。

§8Haruhiko Kuroda

そもそも、4月4日に決めた「量的・質的金融緩和」は、今ご指摘の通り、マネタリーベースを年間約60~70 兆円増やす、長期国債の保有残高を年間50 兆円増やすことを示したわけです。なぜ、そういうことをするかといえば、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に 2%の「物価安定の目標」を達成するために導入したわけです。ただ、4月4日の金融政策運営に関するステートメントでも、その後、毎月の金融政策決定会合後に発表している「当面の金融政策運営について」のステートメントでも申し上げている通り、「量的・質的金融緩和」は 2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで続けると言っていますので、別に、14年末とか時間的に切られているものではありません。懇談会でお配りした資料の 12 ページ(図表 12)にあるように、そのトレンドを示し、その中で13年末と14年末の数字について、12年末あるいは 13年3月末の数字と比較できる形でお示ししたということです。物価は、これまでのところ、順調に「物価安定の目標」に向けた道筋をたどっていますので、現時点で、2年程度で「物価安定の目標」を達成できるとみています。

§9Haruhiko Kuroda

実際問題として、政策委員会見通しの中央値についても、13年度の平均で+0.7%、14年度の平均で+1.3%、15年度の平均で+1.9%と、消費税率の変化に伴って直接的に影響される部分を除いた、トレンドとしての物価上昇率は、こういう経路をたどるとみています。言い換えると、14年度後半から 15年度前半くらいにかけて、2%に近付くとみていますので、そういうことでお答えになると思います。つまり、15年末の見通しを示すかどうかとか、2年程度で物価上昇率が 2%に達しないような状況になった場合、どういうことをやるかということは、常に申し上げているように、上下双方向にリスクがありますので、上方あるいは下方のそれぞれのリスクが顕在化しようとする、あるいは顕在化する事態になれば、それに対応した適切かつ十分な措置は採るということに尽きると思います。

§10Question

今の点に関してですが、本日の講演の中で、あえて何らかの期限を示したものではないと言及されており、図表をみると、まさにおっしゃっている通り、点線が14年末以降も描かれていますが、この点について、今回の講演で言及した理由、換言すると、この点について、市場の方でまだ誤解があると総裁の方でみておられるのかということが1 点。もう1 点は、「15年度前半にかけて 2%程度に近づいていく」という、その先の話になってしまいますが、2%にタッチした後、安定的な状態で実現するまでにかかる時間はどれくらいを念頭に置いているのかについて、お聞かせ下さい。

§11Haruhiko Kuroda

前段のご質問については、そういう誤解はあまりないとは思いますが、東京を訪問された外国の方とお会いした時、2年というカレンダーで切っているように誤解している人がいたものですから――日本では、あまり誤解されていないと思っているのですが――、「4月4日のステートメントも見て下さい。毎月毎月の決定会合後に公表しているステートメントも見て下さい」と申し上げています。「それらは常に、2%の『物価安定の目標』の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、現在の『量的・質的金融緩和』を続ける、と言っており、さらに、当然ですが、上下双方向のリスクもよく点検して必要な調整を行うと言っています」ということを強調しています。先程申し上げたように、日本国内で特に誤解があるとは思いませんが、4月4日から申し上げていることを、より正確に申し上げたということです。2 点目は、今申し上げたステートメントに書いてあることですが――これをフォワードガイダンスというかどうかは別として――、その具体的な解釈は、実際、2%に瞬間タッチして、すぐにまた物価上昇率が下がるという状況であれば、それは「安定的に持続する」という状況には至っていないわけです。逆に、まだ2%になっていなくても、その後、すぐに 2%を超えて、その後も安定的に持続することがはっきり見通せるような状況もあるかもしれません。

§12Haruhiko Kuroda

いずれにせよ、まさに、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、それが安定的に持続するということは、図解的にいえば、物価上昇率が2%の「物価安定の目標」の周りを安定的に動くような状況になっているかどうかということなので、どのくらいの期間が必要かとか、どこまで上がったらそうなるかとか、一概に数字でいうということは難しいと思います。その局面になった際の具体的な判断は、日本銀行の政策委員会メンバーの判断ということも当然ですが、皆さんがみても――予測の話は、皆さんも色々な意見があると思いますが――、そういう状況になった時の足許の判断は、それ程難しいものではないと思います。ただ、数量的に、どこまでいって何か月経ったらどうとか、そういうことは一概には言えないと思います。

§13Question

2年で 2%ということに関して、10月31日の展望レポート議事要旨が公表され、3 名の方が反論しています。その後、宮尾委員も金融経済懇談会で物価に関して慎重な見方をしていることを表明していますが、そうすると、ボードの中の 9 名のうち 4 名が慎重な見方をされているということになります。もちろん、日銀として、「2年で 2%」という目標を修正するとなれば、期待とかそういうものへの影響が妨げられるでしょうが、総裁からみて、「2年で 2%」に関しては――国民もデフレは困るけれども、一方で高い物価を望んでいる人もあまりいないと思いますが――、修正することは可能なのかどうか、もし修正があり得るとすれば、どのような状況にあれば、「2年で 2%」というものに関して修正する議論が生じるのか、お伺いしたいと思います。

§14Haruhiko Kuroda

政策委員会 9 人のメンバーの中で、それぞれの経済の見通しなど色々な意見があることは、常にそうです。その中で、大勢見通しは、3 か月に 1 回示していますが、それを見て頂くと分るように、4月、7月、10月とあまり変わっていません。従って、何か特別に全体として物価見通しについて、2%を 2年程度での達成が難しくなったとか、その達成は難しいのではないかという意見が増えたとは思っていません。なお、2年程度で 2%という「物価安定の目標」を修正する必要もありませんし、そのつもりもありません。ちなみに、ご案内の通り、2%という「物価安定の目標」は、ほとんどの先進国が採っており、日本銀行が本年の1月に2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現することを決定したのは、ある意味で、遅きに失したとまでは言いませんが、各国からみて、遅かったわけです。2%の「物価安定の目標」は、いわばもうグローバルスタンダードになっています。それは、CPIの統計上のクセとして、実際よりも尐し高めに出てしまうため、1%の物価上昇をCPIの指標が示しても、実際は、ほとんど物価は上がっていないなど、若干過大に出てしまうことも考慮に入れなくてはなりません。また、一種の「のり代」も考える必要があります。

§15Haruhiko Kuroda

十分な「のり代」がないと、景気が尐し後退した時、すぐに物価がマイナスになってしまい、金利がゼロに張り付いてしまうことになってしまう惧れがあります。こうしたことも考えて、先程申し上げたように、ほとんど全てと言っていい先進国では、2%の「物価安定の目標」を掲げています。しかも、その達成期間についても、中期、2年、18 か月から 24 か月など、色々な言い方をしています。目標ですから、いきなりすぐに達成というわけにはいかないとともに、金融政策の効果波及のタイムラグもあります。かといって、いつ達成されるか分らないというのでは目標になりませんので、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に 2%の「物価安定の目標」を達成・実現する。しかも、それを安定的に持続させるというのは、極めて合理的であり、適切な目標だと思います。従って、それを修正する必要があるとは思っていません。

§16Question

2 問あります。1 つは、ここ 1年間の輸出の数量ベースでの動きですが、大幅な円高是正を背景としている割には数量が伸びていないとみられると思います。日本の場合、この数量が伸びないと、特に製造業の場合、下請けや中小企業への波及が遅くなるという側面も指摘されていると思いますが、その要因分析と今後の見通しについて、お聞かせ下さい。2 つ目は、賃金ですが、予定通り、2年を目途に 2%の物価目標を達成するときに、最も整合的な賃金の上昇ペースというのはどの程度のものなのかということです。特に、来年4月は、3%の消費税率の引上げがあり、CPIを仮に 1%とすると、庶民的には名目 4%ぐらい物価が上がることになると思います。4%のベアを実施するといった企業は、あまりみたことがないですが、この点についてもお伺いします。

§17Haruhiko Kuroda

第1 点ですが、円安との関係で申し上げると――「円安」というより、むしろ「行き過ぎた円高の是正」ですが――、その効果がすぐに出てくるのは、当然ですが輸出企業の採算が良くなることです。もう1 つは、尐しのタイムラグを伴って、輸出の数量が伸びてくるということです。このタイムラグは、半年とか1年とか、色々な説があって正確には分りませんが、そのような影響があるので、数量の伸びについては一定のタイムラグがあることは考慮する必要があると思います。そのうえで、輸出については、基本的に2 つの大きな決定要因があるわけです。1 つは、海外需要がどのくらい伸びているのかということ、もう1 つは、競争力に影響する輸出価格です――これは為替レートも影響しますし、その他の要因も影響します――。まず、海外の景気については、4月に「量的・質的金融緩和」を決定した際に皆が予想していた状況に比べ、海外経済がやや弱めになっている。そういうことも反映して、輸出の伸びがやや弱めに出ている。他方、内需は4月に予想したよりは強めになっており、輸入も予想以上に伸びているということだと思います。輸出の伸びが低いことについては、為替の影響が、数量効果としてはライムラグをもって出てくることもあるし、それ以上に、海外の経済情勢によるところがかなり大きいのではないかと思います。

§18Haruhiko Kuroda

ただ、その海外の経済情勢も、懇談会で申し上げた通り、今後、緩やかに回復していくようにみられますので――これはほとんどコンセンサスだと思いますが――、今後、輸出も緩やかに回復していくだろうとみています。次に、2%の「物価安定の目標」が実現されて、消費者物価が 2%程度伸びていく時に、それと整合的な賃金上昇率についてのご質問です。これは、一概には言えませんが、労働分配率が変わらないという前提を置けば、賃金は物価上昇率プラス労働生産性の上昇率分だけ上がっていってもおかしくないわけです。物価上昇率が2%で、労働分配率が変わらなければ、労働生産性の伸びが仮に 0.5%であれば、賃金上昇率はそれを足したものになるということは言えると思います。労働分配率がどうなるかとか、その他様々な要因がありますので、2%と整合的な賃金上昇率というものを一方的に決めることは難しいと思います。ただ、過去 20~30年のデータをみても、物価が上がる時は賃金が上がる、賃金が上がる時は物価が上がるということで、その程度としては、基本的に賃金の上昇率の方が物価上昇率を上回っています。それは、常に、先程申し上げた労働生産性の上昇率がありますので、例外的な時を除けば、賃金の上昇率は物価の伸びを上回っていると思います。

§19Haruhiko Kuroda

なお、3%の消費税率引上げによる消費者物価への直接的影響は 2%程度だと言われており、私どもの来年度の物価上昇率の見通しは、消費税の価格転嫁の分を除いて+1.3%、価格転嫁される 2%分を加えたところで+3.3%とみていますので、+4%になるとは思っていません。以上