← Back
Bank of JapanPress conferenceJul 15, 2014Haruhiko Kuroda, Governor

総裁定例記者会見(2014年7月15日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の決定会合の決定に至った背景とポイントについて、展望レポートの中間評価の議論も踏まえて、ご説明をお願いします。

§2Haruhiko Kuroda

本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 60~70 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。資産買入れに関しても、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、これまでの買入れ方針を継続することとしました。わが国の景気ですが、消費税率引き上げ後の駆け込み需要の反動減は、概ね想定の範囲内となっています。先日開催された支店長会議では、多くの地域から「反動減の影響は次第に和らいできている」との報告が聞かれました。設備投資を含め、国内需要は、基調としては堅調に推移しており、そのもとで、景気の前向きな循環メカニズムは、雇用・所得環境の明確な改善を伴いながら、しっかりと作用し続けています。従って、景気の総括判断としては、「消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているが、基調的には緩やかな回復を続けている」としました。海外経済は、新興国の一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復しています。輸出は、このところ横ばい圏内の動きとなっています。設備投資は、企業収益が改善する中で、緩やかに増加しています。公共投資は、高水準で横ばい圏内の動きとなっています。個人消費や住宅投資は、このところ反動減がみられていますが、基調的には、雇用・所得環境が改善するもとで底堅く推移しています。

§3Haruhiko Kuroda

鉱工業生産は、振れを伴いつつも、基調としては緩やかな増加を続けています。この間、わが国の金融環境は、緩和した状態にあります。企業の資金調達コストは低水準で推移し、企業からみた金融機関の貸出態度は改善傾向が続いています。そうしたもとで、銀行貸出残高は、中小企業向けも含め緩やかに増加しています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、1%台前半で推移しています。6月短観では、販売価格判断DIの改善が確認され、特に中小非製造業では、1991年以来の上昇超となりました。また、予想物価上昇率は、全体として上昇していると判断されます。経済・物価の先行きについては、今回の会合で中間評価を行いました。4月の展望レポートで示した見通しと比較しますと、実質GDP成長率、消費者物価ともに概ね見通しに沿って推移すると見込んでいます。すなわち、わが国経済は、基調的には潜在成長率を上回る成長を続けていくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、暫くの間、1%台前半で推移した後、本年度後半から再び上昇傾向を辿り、2014年度から 16年度までの見通し期間の中盤頃に、2%程度に達する可能性が高いとみています。ただし、一部の委員が、物価の見通しについて、より慎重な見方を示されました。

§4Haruhiko Kuroda

リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州債務問題の今後の展開、米国経済の回復ペースなどが挙げられます。金融政策運営については、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続します。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行っていくという方針に変わりはありません。

§5Question

消費税増税の景気に対する影響についてお伺いします。先月の会見で総裁は、夏場以降に成長経路に復帰するという見通しについて「確度が高い」と指摘されました。その後に発表された経済指標の一部では、5月の機械受注や家計調査の消費支出など、市場の予測をかなり下回る結果も出ています。この点、景気の見方に変わりはないのかお伺いします。

§6Haruhiko Kuroda

消費税率引き上げに伴い、消費の駆け込みがあり反動減があったことはその通りですが、品目やサービスによってその程度に差はあるものの、概ね事前の想定の範囲内となっています。先行きについては、税率引き上げによる実質所得押し下げの影響を含めて、引き続き注意深く点検していく必要があると思いますが、雇用・所得環境の改善が続いていることを踏まえると、個人消費は基本的に底堅く推移していくとみています。企業部門については、先日公表した6月短観の結果をみますと、業況感は、駆け込み需要の反動減がみられる中で、前回より低下しましたが、前回時点の先行きの見通しは上回っており、総じて良好な水準で推移しています。2014年度の事業計画をみても、全体として、売上や収益の見通しが上方修正されるもとで、設備投資をしっかりと増加させていく計画になっており、企業の前向きな姿勢は維持されていると思います。また、全産業・全規模ベースでみて、先行きにかけて、設備判断DIは「不足」超に転じていくとみられていますし、雇用人員の不足感は強まる傾向にあるなど、生産要素の稼働状況は着実に高まってきています。以上を踏まえると、ご指摘のように品目やサービスによって程度の差はあるとはいえ、駆け込み需要の反動減の影響は次第に和らいでいき、緩やかな回復基調が続いていくものと判断しています。

§7Question

人手不足などによる供給制約の問題に関しては、このところ目立った改善の兆しがみえないように感じますが、今後の見通しについてお伺いします。この問題は一段と成長を下押しする懸念が深まっているのか、それとも次第に改善していくとみていらっしゃるのか、このあたりのご所見をお願いします。

§8Haruhiko Kuroda

以前にも申し上げた通り、そもそも日本における趨勢的な人口減少と高齢化、また、長年にわたるデフレのもとで資本ストックの蓄積が鈍化してきたということもあり、潜在成長率、すなわち供給力の伸びが低下してきたことは事実です。そうした中で、最近では需要が高まってきた結果として、人手不足などの供給力の問題が顕在化しています。短観の雇用人員判断DIもこのところ「不足」超で推移しており、設備判断DIも過剰感がほぼ解消されています。従って、特定の業種や企業において供給面の問題から事業展開が制約されることはあり得ると思いますが、当分の間、経済全体として、潜在成長率を上回る成長を実現することは可能だと考えています。本日の中間評価の見通しも、そうした見方に基づいており、ご承知のように、今年度、来年度、再来年度と、いずれも潜在成長率を上回る成長が実現するとみています。もちろん、中長期的にみれば、成長力は供給力に規定されるわけですので、この供給力を引き上げていく努力が必要であるということはその通りです。この点、政府では、成長力底上げのための政策として、いわゆる「日本再興戦略」の改訂を行ったわけです。

§9Haruhiko Kuroda

また、企業においても、女性あるいは高齢者など多様な労働力の活用、さらには省力化投資も含めた設備投資を実施することによって、生産の効率化、あるいは生産力の向上を図るといった対応もみられ始めていますので、こうした対応は、日本経済の供給力強化に繋がっていくものと期待しています。

§10Question

今回、増税の反動が一番大きいとされる 4~6月を終えて最初の点検だったわけですが、民間との物価の見通しの差が大きいと思います。夏場に消費者物価の前年比が 1%を割るという民間の見通しについてどう見ていますか。また、いったん伸びを縮めた物価が年度後半に再び伸び率を高めていくのか、例えば 10月の展望レポートの頃には物価の再加速の絵は描けているのかどうか、そのあたりの見立てをお願い致します。

§11Haruhiko Kuroda

物価の見通しについては、当面 1%台の前半で推移するだろうということ、その後、年度の後半にかけて、次第に伸びが加速して 2015年度を中心とする時期に 2%に達する可能性が高いこと、こういった見方は全く変わっていません。また、本日公表した展望レポートの中間評価でも、消費者物価の今年度、来年度、再来年度の上昇率の見通しは変わっていません。今年度については、むしろレンジの下限が少し上がっており、私どもが従来からみている物価の見通しは変えていませんし、変える必要はないと思っています。その上で、1%台を割るような可能性はないと思っています。これは、エネルギー価格上昇の影響が減衰していく一方で、先程来申し上げているように、労働その他の需給がタイト化して国内の需給要因で上がっていき、当面、これら両方が打ち消し合っていきます。その後、エネルギー価格がそれ以上さらに落ちていくことはなくなるので、内需の強さと、より中長期的には、物価上昇期待が次第に上昇していくこともあり、次第に来年度を中心とする期間に 2%に達する可能性が高いとみているわけです。

§12Question

増税後の景気について 2 点お伺いします。1 点目は、先程のお答えにもありましたが、消費税率引き上げに伴う駆け込みと反動に関しては想定内であるとの発言を何度かされていますが、増税に伴う実質賃金の低下の影響については仔細にみていくとのお話です。実際の消費支出をみると、その影響が出ている可能性もかなりあると思いますが、それでも回復する、増税の影響は和らぐとみている根拠――特に今まで出ているデータで、実質賃金の低下は大きな影響がないとみている根拠――をお伺いします。2 点目は輸出ですが、なかなか伸びてこないということがかなり心配されています。これまでも色々な理由が言われていて、増税前は国内生産に振り向けて輸出が減っているのではないかとの話もありましたが、増税後も増えてこないということは結局どういう理由があるのか、このまま輸出が伸びないことで日銀のシナリオに影響はないのか、お聞かせ下さい。

§13Haruhiko Kuroda

1 点目については、駆け込みが相応にあり反動減も相応に出てきています。しかし、反動減は次第に減衰していき、4~6月がマイナス成長になるとしても 7~9月からプラス成長に戻っていくとみています。一方で、3%の消費税率引き上げは増税であり、それだけを取り出すと実質所得を下げる効果がありますので、消費に影響が出る要素があることはその通りです。しかしながら、ご承知のように、賃金や雇用が順調に改善しており、雇用者所得もプラス幅が拡大してきています。さらには、夏のボーナスについてのアンケート調査などによると、昨年夏と比べ大幅に伸びが高まる予想になっています。そうしたことを考えますと、消費の実勢は基調的に底堅く続くとみています。輸出については、4月にプラスになった後、5月はマイナスとなるなど伸びが弱く、回復が若干後ずれしている感があるのはその通りです。しかし昨年から申し上げている通り、想定よりも弱い輸出が続いた背景には、ASEANを中心とするアジア諸国の回復が若干もたついたことと、より中期的には、日系企業の生産拠点の海外移転もあったことは否めないと思います。また、消費税率引き上げに伴う駆け込みの中で、特に 1~3月に国内需要を優先し輸出を後回しにしたという一時的な要因があったことも事実です。

§14Haruhiko Kuroda

一時的な要因は剥げ落ちつつありますが、今後の輸出は、ASEANを含むアジア諸国の経済動向、あるいは日系企業の海外展開のテンポがどうなっていくかにもよります。私どもだけでなく、IMFその他を含めて多くの経済見通しが示しているように、先進国を中心とした景気回復が新興国・途上国にも及んでいく形で、世界経済全体が去年よりも今年、今年よりも来年と成長率が上がっていく見通しになっています。そうした中で、アジアの新興国のさまざまなデータも、先行き成長テンポが増していく状況を示しており、そうした面が日本の輸出にもプラスになっていくと予想されます。さらには、先進国その他を含めて成長が加速していく中では、日本の企業が特に強い付加価値の高い資本財などの輸出にプラスに効いてくることも期待できますので、基本的には、緩やかではありますが輸出は増加していくとみています。また、海外展開についても、これから突然なくなることはないと思いますが、行き過ぎた円高が相当是正されましたのでテンポはやはり少し鈍っているようです。アンケート調査などによっても、大企業は、過去数年、海外投資を大幅に伸ばし国内投資は小幅にしか増やさない状況だったようですが、今年は逆転して、海外への直接投資よりも国内の投資を大きく増やすという調査結果もあります。

§15Haruhiko Kuroda

このように色々な要素を勘案すると、輸出は回復が少し後ずれしている感はありますが、今後、緩やかながらも増加していくとの見方は一般的であり、私どもも同じように見ています。

§16Question

物価について 2 つお伺いします。1 点目は企業の価格設定行動についてです。最近、企業の方で自社の製品やサービスの価格の値上げを行う動きが出ているように思われるのですが、総裁は企業の価格設定行動が変わりつつあるというようにお考えなのか、その中でこの持続性についてどうお考えなのでしょうか。2 点目はガソリンの価格なのですが、原油価格の上昇が一服しているにもかかわらず、ガソリンの価格が上昇を続けています。日銀では夏場にかけて、CPIの上昇率が縮小していくとみているのですが、この夏場にガソリン価格の上昇が、CPIの押し上げ要因あるいは下支えになるか、その可能性と日本経済に与える影響について、お考えをお聞かせ下さい。

§17Haruhiko Kuroda

1 点目については、一部の産業、企業でかなりはっきりと従来の安売りというか、価格をどんどん下げていくという方式でなく、付加価値を高めて価格を上げていくという価格設定行動への変化がみられているというのは、私もその通りだと思います。これがずっと持続していくのか、よくみていかないといけないと思いますが、賃金が上がり、物価が上がるというメカニズムが動き出していますので、私は従来のデフレ下のような、安売りによって個別の需要を開拓していこうという企業行動は、減っていくのではないかと思っています。ただ、このあたりは、よくみていく必要があろうと思います。2 点目のガソリン価格が上がっていることについては、色々な要素があると思います。国際的な原油価格は、特にイラクの情勢が緊迫化し、国際的な注目を集めた後かなり上がったわけですが、現在は、その前の水準ぐらいまで、ほとんど落ちてきているわけです。その中でガソリン価格が上がっているのは、リファイナリーとか小売りのマージンが圧縮されていたとすれば、それを回復しようという動きもあると思います。また、コストが上がったから価格を上げられるというわけでもなくて、需要がどのくらいあるかによるので、経済全体が緩やかながら着実に回復していく中で、ガソリンに対する需要も底堅いということになれば、ある程度ガソリン価格が上がる要因にもなろうかと思います。

§18Haruhiko Kuroda

ただ、ここ何か月か先のガソリン価格がどうなるのか、それがCPIにどのくらい影響するかは、その部分だけ取ると、それほど大きいとは思いません。もともと携帯電話の料金設定が新しいやり方となり、CPIが少し下がるのではないかと思いますので、それとちょうど反対側の動きが出てきたという程度ではないかと思います。

§19Question

最近、東大物価指数や、一橋大学と民間調査会社がスーパーやコンビニなどのPOSデータを使って幅広く物価の動きを把握しようという動きが出ていると思います。こういったデータをみると、もちろん調査品目がCPIとは違うとは思いますが、ゼロであったりマイナスであったりと、人々の生活実感により近い品目の価格があまり上がっていない現状もあります。ガソリン等の価格が上がる一方で、そういうことが起きており、ある意味でバランスを欠いたような物価の上昇が起こっているように思うのですが、総裁はどう受け止めておられますか。あるいは、世の中の幅広い財が値上がりしていくことが、ある意味で美しい理想的な物価の上昇なのか。総裁はこれから幅広い品目までそれが拡がっていくとお考えなのか、改めてお聞かせ下さい。

§20Haruhiko Kuroda

私も、東大の日次物価指数等は非常に興味深い研究だと思いますけれども、ご案内のように、消費者物価指数の作り方と、こういった日次物価指数等の作り方とはだいぶ違っています。もともと色々な理由から、各国で政府が発表している消費者物価指数は、実態よりやや高めに出る傾向があると言われておりますので、そういうことも勘案して、ほとんどの国の中央銀行は 2%の物価安定目標を掲げて金融政策を行っているわけです。東大の日次物価指数等とギャップがあること自体は、指数の作り方の違いやカバレッジの違いで、前から言われていたことで、特に新しいことではないと思います。そうした中で、除く生鮮食品の消費者物価指数だけではなく、食料品とエネルギー関係品目を全て除いたいわゆるコアコア指数をみても上昇しております。実は、2008年のような国際的なエネルギー価格や食料品価格の高騰を反映して消費者物価が上がった時のコアコア指数は、非常に低かったわけです。それに対して、今のコアコア指数はそれよりもかなり高いところにいっていますし、色々な指数を見てもかなり幅広く物価上昇が起こってきています。そういう意味では、よりバランスのとれた形で物価上昇が起こってきていますし、今後ともそれはさらに拡がりを強めていくだろうと思います。そう申し上げるのは、輸入品の特定の品目だけではなく、労働市場が非常にタイトになり賃金も上がってきているためです。

§21Haruhiko Kuroda

労働力はあらゆる産業において――もちろん労働集約度は違いますが――、製造業でも非製造業でも必要な投入要素ですので、その値段が上がってきていることは、製品・サービス価格の上昇を支えるものになり得ると思います。従って、私は、今の物価上昇は拡がりを持っていますし、今後ともさらに拡がりを持って、2%の「物価安定の目標」に向けて収斂していくだろうと思っています。

§22Question

今のようなお話も総合してですが、先日、中曽副総裁がデフレについて、「デフレ制圧が視野に入った」ということを英語でご講演なさいました。総裁は今、デフレ脱却という観点で、どんなステージにあると認識されていますでしょうか、というのが1点です。もう1点、ECBが先日、金融政策の対外説明の在り方や、理事会の開催の頻度などを見直すことを表明しました。これをどのように受け止められて、日銀としては何かインプリケーションがあるのかという点についてお伺いします。

§23Haruhiko Kuroda

1 点目ですが、デフレは持続的な物価の下落ですので、政府は「もはやデフレ状況ではない」とは言っています。私どもとしては、 2%の「物価安定の目標」を昨年の1月に定め、それをできるだけ早期に実現することを目標としています。「量的・質的金融緩和」を導入して1年3 か月くらい経った現時点では、消費税の直接的な影響を除いたベースで、除く生鮮食品の消費者物価の上昇率が 1.4%であり、その他のコアコア等の指標では、もう少し低い水準です。全体としてみると、2%の「物価安定の目標」へ向けて途半ばだと思っています。今後とも精力的に「量的・質的金融緩和」を継続、推進して、できるだけ早期に 2%の「物価安定の目標」を達成したいと思っています。2 点目については、ECBが先般の政策理事会で、金融政策の決定を行う政策理事会の来年以降の開催頻度を、現状の月1 回から 6 週間に 1 回に変更しました。米国のFOMCは年8 回です。一方、日本銀行はご承知のように、近年、年14 回開催しています。中央銀行の政策委員会の開催頻度は、それぞれの国あるいは地域の実情に応じて区々に分かれているのが実情です。

§24Haruhiko Kuroda

従来から、金融政策決定会合の運営の在り方については、必要に応じて様々な見直しを行ってきているところですので、今後も海外の中央銀行の事例も含めて、よく勉強していきたいと思っていますが、今すぐに何かするということはありません。

§25Question

物価についてお尋ねします。先程総裁は、「夏に物価が下がったとしても、1%を割ることはないだろう」という見通しを示されました。もし、1%を下回ったとしたら日銀の想定とは違うということになって、必要な調整を行うことになるのかどうか、お伺いします。

§26Haruhiko Kuroda

先程申し上げたように、1%を割ることはないと私どもは思っています。4月の生鮮食品を除く物価上昇率も 1.5%と若干上振れしましたように、月々の変動はありますので、それよりも趨勢としてどのように動いているかよくみていく必要があると思っていますが、いずれにしても、1%を割る可能性はないと思っています。

§27Question

米国の話と関連してお伺いします。先般、直近のFOMCの議事録が出て、4 兆ドルという大きな資産を抱えながらしばらくいくという出口のアウトラインが出てきたと思います。これは、過去の利上げのパターンとはかなり違うと思います。初めてのことなので、マーケットはまだしっかりと織り込んでいないと思いますが、特に総裁がお詳しい外為マーケットに関して言えば、利上げだからドルが上がるという、年初にあったような状況とは違って、ドルの上昇圧力をかなり弱める方向に働くような新しい試みなのではないかという考え方が、市場の一部にあると思います。総裁は、為替にはご見識が高いので、どうお考えかお伺いします。また、このやり方は将来――遠い将来か近い将来かは別として――、日銀にも参考になるのかという点もお聞かせください。

§28Haruhiko Kuroda

為替の変動について特別のコメントをすることは差し控えたいと思いますが、一般的には、伝統的な金融政策であろうと非伝統的な金融政策であろうと、引き締めた国の為替は、相対的に他の国と比べて強くなる傾向があり、逆に緩和した国の通貨は、弱くなる傾向があると言われていると思います。従って、いかなる形であれ、米国の金融政策について、さらに緩和が進むのではなく、緩和の程度がだんだん縮んでいき、テーパリングも完了し、いつかはまだ分かりませんが――市場では、来年の半ば以降とか言われているようですが――、金利も上がっていくことがあるとすれば、一方で日本はまだ2%の「物価安定の目標」に向けた道筋の半ばですし、「量的・質的金融緩和」は「物価安定の目標」の実現を目指し、それを安定的に持続できるようになるまで継続しますので、そうした面だけから言うと、円がドルに対して強くなる必然性は全くないと思っています。

§29Haruhiko Kuroda

なお、具体的な米国の出口戦略――どういう形でどういうテンポでやっていくか――はFRBが決めることですので、私どもからは何とも申し上げる立場にありませんが、既にFRBは、購入した資産を売らなくても、準備預金に対する付利金利を上げたり、リバースレポ金利を上げたり、政策金利を調整するなど色々な方法があり、必要なだけ金融をタイトにすることができると言っていますので、FRBが今後、経済や金融市場の実態を踏まえて適切に行っていくものと思っています。主要中央銀行の中では、 FRBがBOEとともに早めに非伝統的金融政策から脱却していく見込みであり、そうした国の出口戦略は十分参考にできると思いますが、いずれにせよ、日本は日本、欧州は欧州、それぞれの経済や金融・資本市場の状況に合わせて最適な形で、必要な時に必要な措置を採っていくと思いますので、一概に他の国がみな米国の例に倣っていくということでもないと思います。

§30Question

現状、世界的に低インフレの中、成長率も低く、金融市場のボラティリティも低いと思います。これには、各国中央銀行の金融緩和が影響していると思いますが、現在のこうした状況が均衡状態にあるとみられているのか、その持続性をどうみられているのかお伺いします。

§31Haruhiko Kuroda

日本は物価上昇率が段々上がってきていますが、欧州は若干ディスインフレの傾向で物価上昇率が下がってきています。成長率については、欧米で一種の金融危機が起こり、そこから景気が回復してきている過程ですので、過去の例からみても金融危機からの回復過程では、成長率の回復にはやや時間がかかることがあると思います。金融市場でのボラティリティが非常に低下しているのは、経済や当該国の金融政策の先行きについての見方が非常に収斂して、市場参加者が皆、同じような見方をしてきているためだと思います。その中で、先進国の中央銀行が量的緩和やその他の非伝統的な金融緩和措置をとってきていることが、何がしか影響しているとは思いますが、逆に言えば、低インフレのもとで、まだ成長率も十分回復していないところでは、金融政策としては、ボラティリティが下がり、実質金利が低下していくことは経済の回復を加速し、物価上昇率が下がってきているところを押し上げていくことに効果があるので、これ自体が非常に重大な問題であるとは思っていません。ただ、伝統的な金融政策であれ、非伝統的な金融政策であれ、緩和が非常に長く続いた時に、色々な形で行き過ぎが生じる可能性があることは、過去の例にみて事実ですので、その点は各国の中央銀行とも十分認識してよくモニターしていると思います。

§32Haruhiko Kuroda

日本では、金融システムレポート、展望レポートなどで常に行き過ぎの動きがないかどうかをチェックしています。現時点では、日本で何か強気の行き過ぎがあるとか、金融面の行き過ぎが生じているということはないと思っています。現在の金融政策運営上の最大の課題は、デフレ期待を払拭して、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現することだと思います。日本銀行としては、引き続きその実現を目指して、これを安定的に持続するために必要な時点まで、現在の「量的・質的金融緩和」を遂行していくことに尽きると思います。

§33Question

2 点お伺いします。「物価安定の目標」に向けて順調に推移しているというお話だったと思いますが、一方で、債券市場では、いまだに長期金利が0.5%台で、むしろ日銀の見方とマーケット関係者の見方で、少しずつギャップが拡がっているようにみえます。この点についてはどうお考えでしょうか。2 点目は、先程の質問とも絡みますが、日本の債券市場は大変商いが乏しい状態が続いていると言われており、つい先日も短期国債で久しぶりのマイナス金利が業者間市場で成立したと言われています。これについて、一部には「量的・質的金融緩和」の影響で流動性の低下、あるいはボラティリティの低下が起こっていて、将来にリスクを溜め込んでいるのではないかという見方がありますが、この点について如何お考えでしょうか。

§34Haruhiko Kuroda

予想物価上昇率については、ご承知のように、短観で企業の予想物価上昇率を聞いたところでは、マーケットやエコノミストの予想物価上昇率よりもやや高めで、しかも、後になるほど、上昇率はだんだん高まっています。一方、債券市場の物価上昇見通しは、確かに私どもの見方よりもやや慎重というか、低めの見通しを持っているようです。ただ、それを勘案しても、 0.5%強の長期金利はやや低めであることは事実です。これは、日本銀行が年間 50 兆円に相当する国債を短期から長期まで含めて買い入れるという形で、タームプレミアムを潰していますので、その効果が出ているのではないかと思います。インフレ予想の違いが残っていることは事実ですが、それだけで現在の長期金利の低位安定を説明するのも如何かと思います。色々な要素が絡んでいます。さらに言えば、外国の金利の低位安定、米国の場合は昨夏頃に比べて長期金利が若干下がりましたが、そういったことの影響もあるのかもしれません。また、国債市場、特に短国市場で金利が低下し、一部でマイナス金利の取引が行われた背景に、日本銀行が「量的・質的金融緩和」を進めているもとで、金利が全般として低下していることがあることは事実だと思います。また、ボラティリティも下がっていることも影響していると思います。ただ、このことが何か特別に大きな問題を生じたとは思っていません。

§35Haruhiko Kuroda

そもそも先程申し上げたように、「量的・質的金融緩和」のもとで、短期から長期までイールドカーブ全体の金利低下を促しており、短期金利もかなり低水準であり、その中で、一部の証券会社がショートカバーのために、現物の確保を優先した事情もあったと聞いています。今のような状況でずっとマイナス金利が続くとも思っていませんが、いずれにせよ、金融緩和の効果が着実に浸透しているかどうかという点が重要ですので、その観点から今後ともよく見ていきたいと思っています。

§36Question

先程のご説明で、一部の委員が 2%に慎重な見方を示したというお話がありましたが、4月の展望レポートで佐藤委員と木内委員、白井委員が反対されたと思うのですが、今回もこの3 名の委員が同じような理由で慎重な見方を示したという理解でいいのか、現時点でお話になれる範囲でお答え頂きたいと思います。

§37Haruhiko Kuroda

どなたがどうということは申し上げられませんが、一部の委員が2014年度から 2016年度までの見通し期間の中盤頃、つまり2015年度を中心とする時期に 2%に達する可能性が高いという点については、もう少し慎重な見方をされたということです。以上