総裁定例記者会見(2014年8月8日)要旨
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§1Question
今回の金融政策決定会合の決定に至った背景とポイントについて、ご説明下さい。
§2Haruhiko Kuroda
本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 60~70 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。資産買入れに関しても、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、これまでの買入れ方針を継続することとしました。わが国の景気ですが、このところ輸出や生産に弱めの動きがみられるものの、雇用・所得環境が着実に改善するもとで、景気の前向きな循環メカニズムは、しっかりと作用し続けています。個人消費における消費税率引き上げ後の駆け込み需要の反動も、全体としてみれば徐々に和らぎつつあり、設備投資を含め国内需要は、基調としては堅調に推移しています。従って、景気の総括判断としては、「消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているが、基調的には緩やかな回復を続けている」としました。海外経済は、新興国の一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復しています。輸出は、弱めの動きとなっていますが、先行きは、海外経済の回復などを背景に、緩やかな増加に向かっていくとみられます。設備投資は、企業収益が改善する中で、緩やかに増加しています。公共投資は、高水準で横ばい圏内の動きとなっています。
§3Haruhiko Kuroda
個人消費や住宅投資は、雇用・所得環境が着実に改善するもとで、基調的に底堅く推移しており、全体としてみれば反動減も徐々に和らぎつつあります。鉱工業生産は、足許では弱めの動きとなっていますが、基調としては緩やかな増加を続けています。この間、わが国の金融環境は、緩和した状態にあります。企業の資金調達コストは低水準で推移し、企業からみた金融機関の貸出態度は改善傾向が続いています。そうしたもとで、銀行貸出残高は、中小企業向けも含め緩やかに増加しています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、 1%台前半で推移しています。予想物価上昇率は、全体として上昇していると判断されます。わが国経済の先行きについては、緩やかな回復基調を続け、駆け込み需要の反動の影響も次第に和らいでいくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、暫くの間、1%台前半で推移するとみられます。その後は、本年度後半から再び上昇傾向を辿り、2014年度から 16年度までの見通し期間の中盤頃に、2%程度に達する可能性が高いとみています。リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州債務問題の今後の展開、米国経済の回復ペースなどが挙げられます。
§4Haruhiko Kuroda
金融政策運営については、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続します。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行っていくという方針に変わりはありません。
§5Question
景気の認識について、より詳しくお伺いします。4~6月期の景気は、消費増税の反動減の影響が想定よりも大きかったとの見方や、足許で、6月の鉱工業生産が大きく落ち込んだり、7月の百貨店売上高は一部店舗でマイナスが続くなど、経済活動の弱さを示すデータもあります。それにもかかわらず、今後緩やかな回復を辿るとする根拠等についてご説明下さい。
§6Haruhiko Kuroda
まず、個人消費については、消費税率引き上げに伴う反動減が引き続きみられていますし、品目による程度の差はあるわけですが、全体としてみれば、その影響は徐々に和らぎつつあるという点には変わりないと思います。先行きは、先程も申し上げた通り、消費税率引き上げによる実質所得押し下げの影響を含めて、引き続き注意深く点検していく必要はありますが、基本的に、雇用・所得環境の着実な改善が続いていることを踏まえると、個人消費は底堅く推移していくとみています。鉱工業生産については、駆け込み需要の反動減や輸出のもたつきから弱めの動きとなっていますが、予測指数や企業ヒアリングの結果を踏まえると、基調としては、緩やかな増加を続けていると評価できると思います。また、企業の業績やマインドは総じて良好な水準にあり、企業の積極的な投資スタンスは維持されていると思います。このように、わが国経済は、家計・企業の両部門において、景気の前向きな循環メカニズムが維持されており、先行きも緩やかな回復基調を続けるものとみています。
§7Question
2 点お伺いします。1 点目は、輸出について、総裁は、海外経済が回復してくれば増えるというお話をされていますが、実際は、円安になったにもかかわらず増えないという状況が続いています。これは日銀の想定外の動きとみているのかどうか、詳しくお話して頂けますでしょうか。2 点目は、海外情勢に関して、今回のステートメントの中で、特にリスク要因にかかる表現は前回から変わっていませんが、イラク情勢なり、イスラエル情勢なり、ウクライナ情勢も含めて非常に緊迫化してきており、何らかの影響が出る可能性があると思います。株価も本日大きく下げていますし、これらの情勢をリスク要因としてどのようにご覧になっているのか、伺いたいと思います。
§8Haruhiko Kuroda
まず、1点目の輸出の足許の弱さですが、今年の 1~3月期がマイナスで4~6月期も僅かながらマイナスと言うことで、2 四半期マイナスが続きました。マイナス幅は非常に小さいので、横ばい圏内の動きと見ることもできますが、2 四半期マイナスが続いたということから言って、足許は弱めということは否めないと思います。ただ、その理由については、基本的には、従来から申し上げているような新興国経済の回復が若干もたついていたこと、それから、米国経済の 1~3月期の減速が寒波の影響で予想以上に大きかったことという循環的な要因や一時的な要因があったわけです。米国の第1 四半期のマイナス成長は、春先までラグを伴って、日本からの輸出を下押ししていた可能性はあると思っております。このほか、日本企業の海外生産の増加、海外展開といった構造的な要因も影響はしていると思っておりますが、構造的な要因というのはそう簡単に変わるわけではなく、別の言い方をすれば、何年も前からあったものであり、足許が弱いことには、やはり循環的な要因や一時的な要因が影響していると思われます。先行きについては、世界経済は、先進国を中心に成長率が、昨年よりも今年、今年よりも来年と高まっていくというのが、IMFを含めてコンセンサスになっています。
§9Haruhiko Kuroda
そういうもとで輸出は、特にわが国の製造業が得意としている高付加価値の製品を中心に、緩やかな増加に向かっていくとみています。この点、資本財・部品の輸出の先行指標となる機械受注の外需、あるいは短観の先行きの海外での需給判断DIも、改善傾向が示されています。なお、先程申し上げた構造的要因につきましても、もう少し長い目でみると、かつての過度な円高水準が是正されて、海外生産比率の上昇ペースは少なくとも鈍化しているようです。最近の政策投資銀行の調査などを見ましても、今年の国内での設備投資計画というのは、非常にしっかりしたものがある一方で、海外での投資は、ここ数年に比べるとかなり減速するという見通しです。こういう点からも、これまでのようなペースで海外展開がどんどん進んでいく姿にはなかなかならないのではないかと思っております。いずれにせよ、構造的要因については当面続くなか、輸出が弱めになっている一時的な要因は剥げ落ちつつあり、循環的な要因は先程申し上げたように、先進国を中心とした景気回復が全世界に及びつつあるということで、世界経済の成長が加速していく中で日本の輸出も緩やかながら増加していくと見ています。
§10Haruhiko Kuroda
2 点目のいわゆる地政学的リスクにつきましては、ご指摘のように、このところやや高まっている嫌いがありまして、 ECBのドラギ総裁も記者会見で、地政学的リスクが高まっていると言われたようですし、本日、米国大統領がイラクの米国人の生命、安全を保護するためにイラクに対する限定的な空爆を承認したと報じられているわけですが、こうしたことで金融市場が動いて、株価がやや大きく下落するといった動きが出ていることは事実です。こうした世界経済あるいは国際情勢を巡る今後の帰趨が、国際金融資本市場からさらには世界経済にどのような影響を与えるかについては、今後も注視していきたいと思います。今の段階で何か大きな見通しの変化が起こっているということではないと思いますが、十分注意して見ていきたいと思います。
§11Question
年度後半の物価の見通しについてお尋ねします。日銀は、年度後半から物価上昇ペースが再拡大していくとみていますが、その根拠の 1 つは需給ギャップの解消、もう1 つは予想物価上昇率の上昇です。そうした中、最近株価が世界的にかなり動揺している状況で、先行きに不透明感が強まっています。また、本日発表された景気ウォッチャー調査でも、先行きのマインドにやや鈍さがみえています。個人、企業のマインド面の鈍さがあっても、先行きインフレ予想が上がっていくというシナリオにかなり疑問を感じる部分もあるのですが、総裁はどうお考えでしょうか。
§12Haruhiko Kuroda
基本的に、ごく短期を除けば、中長期的に物価上昇を決定していく大きな要因としては、今ご指摘のような、需給ギャップの動きと人々の予想物価上昇率の動きの 2 つが非常に重要であるということは、色々な研究で示されています。私どもの「量的・質的金融緩和」によって 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するという政策を考える上でも、この2 つに注目しています。これまでのところ、需給ギャップは着実に改善しており、日銀の推計ではこの 1~3月は若干プラスになりました。4~6月はおそらくGDP自体が反動減でマイナスになると思いますので、需給ギャップがどうなるかはまだ分かりませんが、いずれにせよ私どもの見通しでは潜在成長率を上回る成長が2014年度、2015年度、2016年度と続く見通しであり、需給ギャップは引き続き改善し、プラス幅をさらに拡大していくとみています。この点から、物価上昇率が、先程申し上げたような形で年度後半から再び加速して、見通し期間の中盤頃に 2%程度を達成するという見通しには変わりはありません。一方、物価上昇期待については、期待ですのでなかなかハードデータは見出し難いですが、様々なアンケート調査あるいはブレイク・イーブン・インフレ率をみると、いずれも緩やかながら上昇してきています。
§13Haruhiko Kuroda
特に昨年「量的・質的金融緩和」を導入した頃と比べると、かなりはっきりと物価上昇期待というのは上昇してきています。これは、おそらく実際に物価が上昇してきているもとで、期待自身も上昇してきているということだと思います。株価の動きというのは、特にコメントすることは避けますが、中長期的には、基本的には企業収益の動向で左右されると思います。株価自体が直接的に物価上昇期待に何か影響を与えるということはあまり考えられませんので、基本的には、物価上昇期待は想定に沿って動いていくだろうと考えています。従って、何か日々の株価の動きによって物価上昇期待が大きく影響されるというようなことはないと思います。
§14Question
物価上昇に関して、どのような業態、業種の物価が上がっていくのか、そのメカズニズムも含めて具体的に教えて頂けないでしょうか。
§15Haruhiko Kuroda
個々の財貨・サービスの価格がどう動いていくかというと、それぞれの財貨・サービスの様々な需給要因がありますので、それによって動いていきます。そういった個々の価格の動きを全体として総合した物価指数がどのように動いていくかというときには、先程申し上げたようなマクロ的な需給ギャップ、それからマクロ的な物価上昇期待というものが大きな影響を与えるということは、多くの研究で指摘されている通りです。逆に言うと、個々の財貨・サービスの価格、例えばガソリンの価格ですとか、特定の食品の価格については、影響を与えるファクターが色々あって、その動きから個々の価格を予測して、総合して、消費者物価の上昇率を予測するということは、むしろできないわけです。短期的には個々の価格の動きから消費者物価の動きを推測するということはできますが、半年、1年、2年、3年といった一定の期間を通じた消費者物価指数のマクロ的な動向をみるときには、個々の価格の動きを足し合わせるよりも、マクロ的な需給バランスや人々の物価上昇期待というものを予測して、そこから物価上昇率を予測するというのが理論的に正しいだけでなく、実際にもそれが一番当たるといいますか、それしかないと思います。
§16Haruhiko Kuroda
繰り返しになりますが、個々の価格について、ガソリンの価格が来年どのくらいになっているかとか、そういったことを予測するというのは、できないとは言いませんが、財貨・サービスの価格を全て予測して、それを総合して、消費者物価指数の動きを予測しても当たりません。消費者物価やマクロ的な計数は、マクロ経済の動向によって決まってきます。需給ギャップが縮んでいく、あるいはプラス幅が拡大していくという中で、消費者物価指数は上がっていきます。それを踏まえて予想物価上昇率も現に上がってきていますし、今後とも上がっていくと思います。両者が相まって 2015年度を中心とする期間に 2%の「物価安定の目標」が達成されるだろうと思っています。先日公表した展望レポートの中間評価でもそういう数値になっています。
§17Question
先程来の質問にも出ているように、足許で弱めの経済指標が目立っている一方で、物価については今のところ日銀の想定通りに進んでいる面が大きいと思います。そこで率直にお伺いしますが、今後、成長が下振れても物価が日銀の見通しに沿っているのであれば、追加的な政策対応は必要ないとお考えなのか、それとも、成長が下振れれば先行きの物価安定についてそれなりの阻害要因になるとお考えなのか、ご所見をお願いします。
§18Haruhiko Kuroda
日本銀行の金融政策の一番大きな目標は物価の安定であり、それを、消費者物価の総合指数で 2%程度の上昇が安定的に持続することと定義しています。これは、各国の中央銀行の考え方と基本的に同じです。その点からいえば、日本銀行の最終的な政策目標が、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に達成し、安定的に持続させることであるのは間違いありません。その際に、景気動向や雇用・賃金の動向等をみて、今後の物価動向を推し量ることもしていますので、金融政策が毎月の物価上昇率だけに左右されることはないと思います。日本銀行の金融政策の第 1 の政策目標は、物価の安定ですので、物価に重大な影響を与える要因に動きがあり、目標達成にリスクが生じることがあれば、当然、金融政策の調整は行います。金融政策の目標は、あくまでも物価の安定ですが、消費者物価指数の動きだけをみているわけではありません。
§19Question
地政学的リスクに関連して、昨夜、ECBのドラギ総裁は、リスクが顕在化すればユーロ圏の成長の下押し要因になると言及されています。現在のような海外での地政学的リスクの高まりは、どういった形で日本経済に影響することが懸念されるのか──輸出なのかそれとも金融市場の動揺を通じたものなのか──総裁のご所見を詳しくお聞かせ下さい。
§20Haruhiko Kuroda
これは簡単な回答は難しいと思いますが、多くの人が考えているのは、例えばウクライナを巡る問題については、経済制裁が双方に積み上がり、ロシア経済にも欧州経済にも影響が出てくる──日本や米国に比べると、欧州経済は、ロシア経済との貿易、投資の結びつきが特に強いですから──という懸念がおそらくあるのだと思います。一方、イラクの問題については、イラクは重要な石油輸出国になっていますので、もし何らかの影響が及ぶようになると、石油価格が上がるのではないか、そういうことになると、世界経済、特に大幅な石油輸入国であるアジア諸国や欧州諸国に経済的な影響が及ぶのではないかと思います。金融資本市場を通じた影響については、金融資本市場は色々なニュースを先取りして動いていますので、今から何か特に大きな影響が出るかということは分かりません。ただ、先程申し上げたように、いずれの地政学的リスクにつきましても、十分注意していく必要はありますが、日本経済に対する直接的な影響という面では、今のところ何か差し迫った影響が及んできているという感じではないと思います。
§21Question
先日、北海道電力が電力料金の再値上げを申請しました。今後、全国でも電力会社で再値上げの話が出てくると思います。電力料金の再値上げは、今後の消費や設備投資にもボディーブローのように効いてくると思われますが、総裁は、電力料金がさらに値上がりすることの経済に対する影響についてどのようにご覧になっていますか。
§22Haruhiko Kuroda
電力料金の値上げは、特に電力を多く消費する産業にとっては、相当なコストアップの要因になりますので、その影響は十分注視していく必要があると思っています。今後、どの程度の値上げになるのか、また、電力料金の値上げによるコスト上昇をどの程度まで転嫁できるのか等もありますので、そう簡単で単純な分析にはならないかもしれませんが、電力料金が値上がりする時と値上がりしない時とを比べて、値上がりした方が経済に対する影響があるのは、その通りだと思っています。
§23Question
先程、物価目標の達成に重大なリスクが生じてくれば、調整を行うとおっしゃいました。需給ギャップは、非常に大きな影響を与える要因だと思います。もともと日銀は、2014年度の成長率について当初 1.4%ないし 1.5%と見込んでいました。それが4月、7月と2 回連続で下方修正され、足許では1.0%になっています。4~6月も今のところ、想定以上に落ち込みが大きくなるのではないかとみられています。先程も、総裁は、14年度、15年度、16年度は、潜在成長率を上回る成長を続けるとおっしゃいました。一方で、経済・物価見通しが大きく下振れた場合には、調整を行うともおっしゃっています。次回10月の展望レポートで、3 回連続で 14年度の成長率を下方修正せざるを得ない状況になり、0.5%前後とみられている潜在成長率近辺まで成長率が下がる状況になった場合には、やはり躊躇なく調整を行うと理解して良いのでしょうか。もう1 点の質問は、先程来の質問に出ている為替円安の影響についてです。過去2年間ほど円安が続き、輸入物価上昇もあってガソリン価格を中心に物価が上がっています。一方で、輸出は増えておらず、直近2 四半期については小幅ですが減少しています。結局、円安で物価は上がったが、景気全般にはそれほど大きな影響を与えていないようにも見受けられます。
§24Question
これまでの円安は、日本経済にネットでプラスの影響を与えているのかどうか、また、今後さらに円安が進んだ場合には、ネットでプラスの影響を与えるのかどうか、お伺いします。
§25Haruhiko Kuroda
1 点目の成長率についてです。昨年4月に「量的・質的金融緩和」を導入した時からの展望レポート、中間評価の動きをずっとみて頂くとお分かりになる通り、物価上昇率の見通しはほとんど変わっていませんし、どちらかといえばむしろ上がっているかもしれません。一方、成長率の見通しは、特に足許で若干下がっています。これは、昨年来申し上げている通りですが、内需が最初予想したよりもかなり強い一方で、特に昨年後半は外需がマイナスに効いて成長率を押し下げました。輸出マイナス輸入がマイナスに効いたのは、内需の強さを反映して輸入がどんどん伸びた一方、輸出が循環的な要因等により期待ほど伸びなかったためです。こうした中で、内需中心の景気回復が起きています。内需中心ということは、非製造業、サービス産業の需要が増えます。非製造業は労働集約的な産業が多いので、労働需給はかなり逼迫してきています。また、設備投資をリーマンショック後あまり実施していなかった――減価償却が投資よりも多かった──こともあり、資本ストックがマイナスになり、需給ギャップがかなり急速に縮んできて、物価上昇率が昨年4月に想定した通り、あるいはそれよりもやや強めに推移しています。成長率は、想定よりも足許少し弱めになってきていますが、今後の見通しについて、 0.5%前後あるいはそれ以下と言われている現在の潜在成長率を下回る可能性は、あまりないと思います。
§26Haruhiko Kuroda
もちろん、4~6月は1~3月の反動でマイナス成長になると思いますが、基調としての日本経済の回復、成長は続いていると思いますので、展望レポートで示したような成長が、今年度、来年度、再来年度続いていくという見通しに変わりはありません。次に為替円安の影響についてです。為替円安は、企業収益を改善させる面と、輸出の数量を増やす面の両面があり得るわけですが、輸出数量が思ったほど伸びていないことは事実です。昨年4月以来、輸出数量全体として縮んではいませんが伸びが非常に低いです。そして特に過去 2 四半期は、若干のマイナスになりました。しかし、企業収益は大幅なプラスになっており、それがかなり強い設備投資意欲や投資計画を支えており、足許、設備投資も出てきていますので、行き過ぎた円高が是正されたことは、日本経済にとって大きなプラスになっていると思います。今後、為替がどちらに向くかという予測めいたことは申し上げませんが、米国はテーパリングを今年秋には終了しようという動きですし、他方、ECBや日本銀行はまだ緩和的な状況が続くということですので、為替レートが円高になっていかなければならない理由はないと思っています。それがまた、日本経済にとってマイナスになることもないと思います。
§27Question
実質賃金の低下とインフレ期待の関係についてお伺いします。毎月勤労統計によると、実質賃金は、12 か月連続マイナスの状態になっています。そうした中で、人々は、今後、持続的に 2%のインフレを維持できる状態になるという未来をなかなか信じ難い体感のようなものがあるように思います。この後、賃金が上がっていくメカニズムというものがどのように起こるのか、改めてご説明頂けないでしょうか。また、その点について日銀以外の、政府、企業、民間あるいは個人について期待することがあれば教えて下さい。
§28Haruhiko Kuroda
実質賃金が下がっていることは、大半というかほぼ全て、消費税率引き上げによるものです。今回の消費税率引き上げによる影響は、一時的な、1回限りのものですから、12 か月経つとその影響はなくなります。消費税率引き上げの影響による実質賃金の低下が、未来永劫続くということではないと思っています。ちなみに、消費税率引き上げの影響を除いて、生鮮食品を除く消費者物価指数の動きをみると足許 1.3%ですが、ご承知のように、雇用の改善と名目賃金の上昇の両方を合わせると、雇用者所得は 2%強ぐらい増加していますので、消費増税分を除くと、実質賃金は増加しています。もちろん、消費増税も負担であることは間違いありませんので、それが実質賃金を下げていることは事実ですが、税金の負担の部分とそれ以外の部分とは分けて考える必要があるのではないかと思っています。税金の影響を除いた基調的な部分で言うと、雇用者所得も物価上昇率を超えて上がっていますし、今回の消費税率引き上げは、実質賃金の上昇率にずっと影響を与えるものではなく、統計上も 12 か月経つと剥げ落ちます。消費税率引き上げについては、駆け込みとその後の反動減という動きのみならず、実質賃金を押し下げる効果の影響もみていかなくてはならないと最初に申し上げましたが、その影響は無限に続くものでなく、基本的には、1年間統計上に現れるものと思っています。
§29Haruhiko Kuroda
従って、今後の中長期的な動向をみていくためには、やはり実質的な成長がどのくらいになっていくかが中心です。当面は、潜在成長率を上回る成長が──昨年度もそうでしたが──、今年度、来年度、再来年度と続きますが、いつまでもずっと続くわけではないので、中長期的には、やはり潜在成長率を押し上げていく、引き上げていくことが必要です。そのためには企業が前向きの投資を行い、イノベーションを進める、あるいは政府が日本再興戦略の改訂版で示されたような各種の規制緩和とかその他の政策を着実に実行していくことを通じて、潜在成長率自体を中長期的に押し上げていくことが、中長期的な実質賃金の上昇のために一番必要だと思います。
§30Question
消費増税の影響について、企業経営者の見方やご自身の見方として想定の範囲に収まっているとおっしゃってきたかと思います。6月の統計指標等が出てきた今も、消費増税の影響は想定の範囲内に収まっているとお考えですか。
§31Haruhiko Kuroda
誰の想定かと言われると色々な議論があるとは思いますが、基本的には、増税前の駆け込みがかなりありましたので、駆け込みの反動もかなりありました。しかし、月を追う毎にその影響は小さくなってきて、反動減の影響は徐々に和らいできているし、今後ともそれは続いていくだろうと思っています。そういう意味では、何か想定していなかったようなことが起こっていることはないと思っています。
§32Question
経常収支についてお尋ねします。本日発表された 2014年上期の経常収支が、上期としては、初めて赤字になりました。日本が輸出で稼いでいくという構造が替わりつつあるという気がします。経常収支を巡る現状と、日本が今後どう対処していくべきかについて、総裁のご所見を伺いたいと思います。
§33Haruhiko Kuroda
今の経常収支の赤字、あるいは黒字の縮小の最大の理由は、貿易赤字が拡大したことです。貿易赤字拡大の最大の理由は、エネルギー関係の輸入が増加したこと――量も増加しましたが、価格も上がったということで、輸入が非常に伸びていること――だと思います。足許で内需が強くて輸入がかなり伸びているという循環的な要因はありますけれど、趨勢的に貿易収支が赤字になり、赤字が大きくなった原因は、やはりエネルギー関係の輸入が非常に増えたことだと思います。経常収支のもう 1 つの重要な要素である所得収支は、黒字が増えてきています。こういった状況は、当分続くと思いますので、いわば貿易収支の赤字と所得収支の黒字のどちらが勝つかで経常収支の動向が決まってくることになると思います。私自身は、今の経常収支の赤字というのは、ずっと今後も続かなければならないものかどうかは、分からないと思います。先程申し上げたように、循環的な要因として、今、輸入が非常に伸びていますので、今後、輸出が緩やかながらも増加してくるという見込みのもとで、貿易収支の動きがどうなるか、エネルギー関係の輸入は、量的には東日本大震災後より増えている中、価格の動きにもかなり影響されますが、こういった色々な要素をみて、そのうえで経常収支の動きというものを予測できると思います。
§34Haruhiko Kuroda
先程も申し上げた通り、貿易収支の赤字も所得収支の黒字も構造的に続いていくということで、経常収支は、赤字になったり、黒字になったりということになるのかもしれないと思っています。以上