総裁定例記者会見(2014年9月4日)要旨
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§1Question
本日の金融政策決定会合の決定に至った背景、ポイントをご説明下さい。
§2Haruhiko Kuroda
本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 60~70 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。資産買入れに関しても、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、これまでの買入れ方針を継続することとしました。わが国の景気については、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動が依然みられ、輸出や生産は弱めの動きとなっていますが、雇用・所得環境の着実な改善が続き、家計のコンフィデンスは改善しています。また、企業は、良好な業績もあって、積極的な投資スタンスを維持しています。このように、景気の前向きな循環メカニズムは、しっかりと作用し続けていると考えています。従って、景気の総括判断としては、「消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているが、基調的には緩やかな回復を続けている」としました。海外経済は、新興国の一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復しています。輸出は、弱めの動きとなっていますが、先行きは、海外経済の回復などを背景に、緩やかな増加に向かっていくとみられます。設備投資は、企業収益が改善する中で、緩やかに増加しています。公共投資は、高水準で横ばい圏内の動きとなっています。家計支出については、住宅投資で駆け込み需要の反動減が続いています。
§3Haruhiko Kuroda
一方、個人消費は、雇用・所得環境が着実に改善するもとで、基調的に底堅く推移しており、駆け込み需要の反動の影響も徐々に和らぎつつあります。鉱工業生産は、基調として緩やかな増加を続けていますが、足許では弱めの動きとなっています。この間、わが国の金融環境は、緩和した状態にあります。企業の資金調達コストは低水準で推移し、企業からみた金融機関の貸出態度は改善傾向が続いています。そうしたもとで、銀行貸出残高は、中小企業向けも含め緩やかに増加しています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、1%台前半で推移しています。予想物価上昇率は、全体として上昇していると判断されます。わが国経済の先行きについては、緩やかな回復基調を続け、駆け込み需要の反動の影響も次第に和らいでいくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、暫くの間、1%台前半で推移するとみられます。その後は、本年度後半から再び上昇傾向を辿り、2014年度から 16年度までの見通し期間の中盤頃に、2%程度に達する可能性が高いとみています。リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州債務問題の今後の展開、米国経済の回復ペースなどが挙げられます。
§4Haruhiko Kuroda
金融政策運営については、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続します。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行っていくという方針に変わりはありません。
§5Question
景気の現状認識についてもう少し詳しくお尋ねします。先月発表された4~6月期の実質GDPが年率でマイナス 6.8%とかなり大きな落ち込みとなりました。その後も、個人消費や生産等、経済指標で弱い数字がみられて、消費増税後の回復ペースが鈍化しているのではないかという指摘も出ています。今回、個人消費や生産の基調判断を維持されていますが、増税の影響やその後の回復が想定通りなのか、総裁のご見解をお伺いします。
§6Haruhiko Kuroda
4~6月期のGDPは、1~3月の駆け込み需要が大きかったことの反動から、やや大きめのマイナスになりました。もっとも、1~3月と 4~6月を均してみると、基調としては、潜在成長率を上回る成長を続けているとみることもできると思います。個人消費については、特に自動車、家電といった耐久消費財は、駆け込みが大きかった分、反動減からの戻りがやや遅れていることは確かです。一方、百貨店やスーパーの売上高は、月々の振れを均してみると、持ち直し傾向とみてよいと思います。また外食や旅行などのサービスについては、そもそも消費税率引き上げの影響は限定的であり、底堅い動きを続けています。このように品目によって程度の差はありますが、全体としてみれば、反動の影響は徐々に和らぎつつあると思います。この間、ご承知のように、雇用・所得環境は、夏のボーナスがしっかりと増加し、所定内給与もベースアップを反映して持ち直すなど、着実に改善しています。そうした状況のもとで、家計のコンフィデンスも改善しており、個人消費は、先行き底堅く推移していくとみています。鉱工業生産は、ご指摘のように、やや弱めの動きになっています。耐久消費財などの駆け込みの反動減の影響もありますが、予測指数あるいは企業ヒアリング等の結果を踏まえると、緩やかな増加基調を辿ると考えてよいのではないかと思います。
§7Haruhiko Kuroda
また、先程申し上げたように、企業は、収益が好調なもとで、前向きな投資スタンスを維持しています。以上のように、引き続き駆け込み需要の反動の影響はみられていますが、家計部門・企業部門ともに、所得から支出への前向きな循環メカニズムはしっかりと働き続けている、維持されていると言ってよいと思います。先行きは、緩やかな回復基調を続け、駆け込み需要の反動の影響も次第に和らいでいくと考えています。
§8Question
2 点お伺いします。1 つは昨日内閣改造がありまして、経済関係の閣僚でも交代がございました。総裁はどう受け止められたか、また政策等で期待される面がありましたらお願いします。もう 1 点、円相場についてお伺いしたいのですが、ここ数日 1 ドル 105円台ということで、年初来の水準まで円安が進んでいます。エコノミストとか産業界から、これ以上の円安は日本経済にとってデメリットも大きくなるのではないかという声もありますが、今の日本経済の構造から考えて、円安のメリット、デメリットをどのように整理されておられますでしょうか。
§9Haruhiko Kuroda
1 点目の内閣改造について、私からあまり色々申し上げるのは僭越だと思いますけれども、新しい内閣がわが国の様々な課題、特に経済問題について、適切な対応をして頂けることを期待しています。日本銀行としては、従来通り、政府とは緊密な意思疎通を図って参りたいと思っています。2 点目については、いつも申し上げている通り、為替レートの先行きなどについて、特別なことを申し上げるつもりはありませんが、米国経済は着実に回復を続けており、米国の金融政策もテーパリングを終了しようかというところまで来ているわけです。一方、欧州あるいは日本では、引き続き緩和的な金融政策が続く状況のもとで、ファンダメンタルズの反映として、ドルが強くなっていくことは、何ら不思議でないと思いますし、米国経済の回復が順調で着実であるもとで、為替レートがドル高・円安になっていくとしても、日本経済にとって特にマイナスということはないと思っています。
§10Question
消費の話に戻ります。総裁も先程ご指摘の通り、家電や自動車は戻りが遅れているということですが、現在の日銀の年度を通した成長率見通しをみると、民間エコノミストの予測よりはやや高めの成長率を維持されています。ただ、足許の 7、8月の指標をみると、7~9月は思ったよりも弱いのではないかという見立てがあるのは事実です。日銀の年度を通した成長率の見通しを変えないといけないというご認識はあるでしょうか。もう 1 点は、昨日安倍改造内閣ができて、消費税を再増税するかどうかが 1 つの焦点になっていると思うのですが、それには 7~9月の景気の戻りがどうなるか、デフレに戻らないかというのが大事だと甘利大臣もおっしゃっていました。そこで、今の日銀の見通しであれば、金融政策で後押しをしなくても、消費税の再増税は可能であるとお考えでしょうか。
§11Haruhiko Kuroda
1 点目のご質問については、先程申し上げた通りであり、足許、若干弱めの動きを示す経済指標もありますが、最初のご説明でも申し上げた通り、またご質問に対してもお答えした通り、家計あるいは企業の両部門で、所得から支出へという好循環のメカニズムはしっかり働いていますので、先行き緩やかな回復基調を続けるという見方に変わりはありません。そう申し上げた上で、年度の実質成長率の見通しについては、ご承知のように、来月末の決定会合で展望レポートを取り纏めますので、当然のことながら、それまでに公表される指標等も踏まえて、政策委員会で十分に議論してお示しすることになると思います。2点目の消費税率のさらなる引き上げについてです。政府、国会がお決めになることであり、私から何か特別なことを申し上げるつもりもありませんが、財政の健全化が着実に進むことは、財政にとっても重要ですし、日本経済全体にとっても極めて重要であると思いますので、政府が決定した中期財政計画に従って、財政の健全化が進んでいくことを期待しています。
§12Haruhiko Kuroda
政府におかれては、法律通り、来年10月から税率を 2%引き上げるかどうかについて、様々な経済指標、経済動向を踏まえて、年末までに決定されると聞いていますので、私から特にそれについて申し上げることはありませんが、わが国の景気については、家計、企業の所得から支出へという循環メカニズムはしっかりと働いていると考えているということを付け加えておきます。
§13Question
先程、賃金について言及されていましたが、実際、物価上昇に対して消費増税分を除いたものを含めた実質賃金は下がっている状況です。そうした状況を、総裁はどうご覧になられていますか。また、そういう状況が続けば、悪いインフレに傾くのではないかという声もちらほら上がってきていますが、どのようにお考えでしょうか。
§14Haruhiko Kuroda
前回の決定会合後の記者会見でも申し上げましたが、物価上昇のうち増税に伴うものは、いかなる形であれ──所得税を上げても、消費税を上げても――、実質所得を削減するという面があります。その部分と経済の底流的・基調的な物価上昇の部分を同等に扱うのは必ずしも適当でないと思います。賃金の上昇から底流的な物価上昇率を割り引いたものが、実質賃金のトレンドと言えます。増税は、確かに実質所得を下げますので、消費に対して一定の影響が出ることは事実ですが、時間を追って、消費やGDP成長率への影響は段々小さくなっていきます。またご案内の通り、消費者物価上昇率は 12 か月前との比較であり、消費税増税の1回限りの影響は12か月経つと全部落ちますので、トレンドとしての物価上昇率と、トレンドとしての賃金上昇率をみて、実質賃金のトレンドを考えていくことが適切ではないかと思っています。なおご承知のように、直近 7月時点では、名目賃金も 2.6%くらい伸びており、雇用の増加と合わせてみた雇用者所得の増加は 4.2%という伸び――若干でき過ぎだと思いますが、――です。そうしたことも考えていく必要があると思っています。
§15Question
消費税について追加でお伺いします。ちょうど 1年前にこの場でも同じ質問が出ています。政府の中でも、一部で増税先送り論が出ています。増税を先送りした場合と予定通り実施した場合のリスクを現時点でどう考えていらっしゃいますか。また、先送りした場合、予定通り実施した場合、それぞれの日銀が取り得る対応にはどういうものがあるのか、お聞かせ下さい。
§16Haruhiko Kuroda
消費税率引き上げについては、ご案内のように、数年前の 3 党合意があり、それに沿った法律も国会で成立して、今年4月に 3%、来年10月に 2%引き上げることが決まっています。もちろん、その法律の附則に書いてある通り、経済動向をよくみて修正が可能――修正には法律改正が必要ですが――とも示されていますが、先程申し上げた通り、日本の財政を健全化していくことは、財政にとって不可欠であるだけではなく、日本経済の先行きにとっても非常に重要な点だと思います。消費税率引き上げが行われた場合と、行われない場合のリスクをどうみるかは難しい点ではありますが、行われない場合には、それによって仮に政府の財政健全化の意思や努力について市場から疑念を持たれると――確率は非常に低いとは思いますが、そのような事態が起こってしまうと――、政府・日銀としても、対応のしようがないということにもなりかねません。他方で、増税した場合に、予想以上にあるいはその他の内外の経済状況如何で経済の落ち込みが大きくなる事態となれば、財政・金融政策で対応できると思われます。従って、消費税率引き上げを行った場合と行わない場合のリスクの比較は非常に難しいですが、行った場合のリスクに対しては対応のしようがあり、行わなかった場合のリスクが顕現化した場合には、なかなか対応し難いところがあります。
§17Haruhiko Kuroda
後者は、確率は低くても、その影響は甚大なものになる可能性があるという意味では、リスクが大きいと思っています。
§18Question
個人消費の足許の弱さの背景について、さらに詳しく伺いたいのですが、天候不順の影響を総裁も感じていらっしゃるのでしょうか。また、日本の消費者は非常に価格に敏感であったりして、他の国の消費者よりも感度が高いとも言われますが、消費税率が 3%上がって、物を買うと意外と高いなという消費者の実感がボディーブローのように効いてくるようなリスクがないのでしょうか。先程、総裁は増税しないことのリスクを強調されましたが、個人消費への影響を考えると、例えば 1%ずつ上げるような方法というのが、現実問題としてあり得るのかどうかも含めてお答えいただければと思います。
§19Haruhiko Kuroda
消費税率の 3%引き上げ後の最近時点の経済動向については、今日の決定会合後のステートメントでも示されている通り、住宅投資は反動減がまだ続いているわけですが、消費は基調としては底堅く、反動減の影響も徐々に和らぎつつあるとは思います。耐久消費財を中心に弱いところもあるというのは事実であり、全体としてみた場合に、1 つは、駆け込みがかなりあったものについては、その反動減からの戻りが若干遅れているという面があります。もう1 つは、増税が実質所得を引き下げるという、その部分だけを取ればそういう影響がありますので、ワンショットだとはいえ、その効果はすぐ消えるのではなくて、ある程度は続きます。3 つ目は、ご指摘のような天候要因というものも、7~8月にかけて大雨とか冷夏とか色々とあったと思います。しかし、いずれも構造的、あるいは長期的に続くということではなく、特に駆け込みの反動減の影響というのは、駆け込みの大きかった耐久消費財についてはある程度長引いているわけですが、これもいずれにせよ、時間とともに段々薄らいでいきます。実質所得減による影響も、次第に和らいでいきます。天候不順の影響も、ずっと雨が降り続けるわけではありませんので、いずれなくなっていくわけですし、いずれも一時的な要因ではないでしょうか。
§20Haruhiko Kuroda
その一方で、雇用・所得状況は引き続き改善していますし、消費者のコンフィデンスも改善していますので、基本的には、個人消費は底堅く、反動の影響も段々と和らいでいくと思っています。それから、来年10月の 2%の引き上げのことについて、1%ずつとかその他色々なご意見があるのかもしれませんが、私の方から税制改正の個別のやり方とか、そういうことについて何か申し上げるのは、あまり適当ではないと思います。
§21Question
経済成長と物価の関係についてお伺いします。これまでは、成長率については見通しの下方修正が続いている一方で、物価については見通し通りの推移が続いています。そうした中で総裁は、物価目標達成が成長にも貢献する部分があるというお話しをされていると思いますが、その意味では、物価が先行して上昇している現状では、多少成長が下振れても物価に与える影響は限定的であるとお考えなのでしょうか。また、成長率の下振れ自体がインフレ期待に悪影響を及ぼす可能性についてどのようにお考えか、ご所見をお願いします。
§22Haruhiko Kuroda
「量的・質的金融緩和」を導入した昨年4月以降の日本経済の状況をみますと、全体として、成長率は、純輸出がマイナスとなったこともあり、昨年4月頃の予想よりも若干下振れていることは事実だと思いますが、物価は概ね当初予想に沿って動いてきています。成長率の下振れには、さまざまな一時的な要因や、海外経済、特にアジア経済が昨年から今年にかけてやや回復がもたついた等の外的な要因の影響もありました。ただ、輸出が予想より弱く、内需はやや強めであるという成長が続いた中で、雇用がかなり急速に逼迫し、賃金や物価は、概ね当初の想定通りの道筋を辿っています。なお、デフレから 2%程度の物価上昇に向けて進んでいくことが、成長にとってもプラスであると申し上げた際には、デフレからの脱却があれば、企業も積極的に投資をするため、中長期的にみて潜在成長率にプラスになっていくと申し上げました。短期的に物価が上がると成長率が上がると申し上げたわけではありませんので、誤解のないようにして頂きたいと思います。
§23Question
インフレ期待に関してですが、消費動向調査の 1年後物価アンケート等をみても、改善は止まってきています。ブレーク・イーブン・インフレ率も全然上がらない状態が続いています。あるいは日次の東大の指数等も最近は比較的下がり気味だと思います。これらは、先程のご質問にもありましたが、景気の弱さをじわじわと反映し始めているということではないのでしょうか。そういった意味で、予想インフレ率が順調に回復しているとは言えないのではないかと思うのですが、その点について反論があったらお願いします。また、物価上昇率は、2%にならなくてもよいのではないか、という議論が、元々、政策委員会の中にはありましたし、実質賃金の上がり方等から言えば、バランスのよいインフレ率であるべきだと思います。果たして 2%の物価目標を掲げ続けるべきなのか、根本的に伺いたいと思います。それでもやはり 2%とおっしゃるのであれば、 2%の目標が達せられないのであれば、やはりどこかで追加緩和をするというお立場だと思いますが、改めてそう考えていらっしゃるのかを確認させて下さい。
§24Haruhiko Kuroda
まず、2%の物価安定目標についてですが、ご承知のように 2%という物価安定目標は、今やある意味でグローバルスタンダードになっています。その意味として、1 つは、消費者物価指数は色々な要因から実態よりも少し高めに出るという傾向があるということ、さらには物価が下落するようなデフレ状況になって金利がゼロになってしまうと、通常の短期金利の操作という金融政策が難しくなって、非伝統的な金融政策、量的緩和やその他色々なものが必要になってくるということから、一定の糊代があった方がよいだろうということ、これら両方の面から 2%の物価安定目標が掲げられてきたと私は理解しています。そういう意味では、2%の物価安定目標自体は極めて適切であり、従って、昨年1月に日本銀行の政策委員会はそれを決めていますし、できるだけ早期に実現するとも決めています。また、政府と日本銀行の共同声明でもそれを謳っていますので、私は 2%の物価安定目標ということを変える必要はないと考えていますし、変えるつもりもありません。インフレ期待が上がっているかどうかについてですが、インフレ期待というものは、普通のハードデータと違い、物価連動債から間接的に計算されるブレーク・イーブン・インフレ率や、様々な企業、家計あるいはエコノミスト、市場関係者等に対するアンケート調査その他でみています。それぞれの指標は若干異なった動きをします。
§25Haruhiko Kuroda
また、90年代後半からごく最近に至るまでデフレが続いていたというもとで、デフレ期待がインフレ期待に変わり、少しずつそれが上昇してきているということではありますが、どうしても現実のインフレ率をみながら調整するという部分があります。現実の物価上昇率は、今のところ 1%台前半で推移していますが、私どもは色々な計算から、今年度の後半にかけて再びインフレ率は徐々に加速してくると思っています。そういうもとでは、インフレ期待自体も上がっていくのではないかと思っています。東大物価指数につきましては、日次であり、先行的な意味があると理解していますが、しかもカバレッジが 2割弱ということでもありますし、ごく短期的なセールス等の動きをよく反映するということもありますので、消費者物価の動きとは必ずしもパラレルではないという面もあります。もちろんそういった指標もみていく必要はあると思いますが、全体としての物価上昇率はやはり 1%台前半ということで続いており、今年度の後半にかけて、それが徐々に上昇していくとみています。従って、本日の決定会合でも決めたように、2%の物価安定目標の実現を目指し、それを安定的に持続できるようになるまで、現在の「量的・質的金融緩和」を継続します。
§26Haruhiko Kuroda
そのもとで、毎月大量の国債その他の金融資産を購入していくという形で、いわば緩和の効果が累積的に強くなっていきますので、先程申し上げたような見通しと合わせて、今必要なことは、「量的・質的金融緩和」を着実に実施して、2%の「物価安定の目標」を実現し、安定的にこれを持続できるような状況を作り出すということにあると思っています。
§27Question
そういうことであれば、なぜ長期金利は上がらないのですか。期待インフレ率が高くなっていくのであれば、長期金利が上がってもおかしくないし、就任早々の頃の長期金利が上がった時には、景気の回復を映しているのだと会見でおっしゃられたことがありました。ところが、その後ずっと上がらないどころか、ごく最近はデフレを先取りするかのごとく下がり始めています。これをどう説明されるのですか。
§28Haruhiko Kuroda
その点については、前の会見でも申し上げたように、長期金利の動きは、インフレ期待とか、リスク・プレミアム、そして現実には海外の金利の動向といったものの影響も受けるわけです。そうした中にあって、日本銀行が毎月大量に金融資産を買入れている効果もあるわけです。予想インフレ率自体は、先程申し上げたように、中長期的なものとして捉えた方がいいと思います。金利は、毎日色々な要素で動いており、そうした動きを全体としてみていく必要があります。今のところは、先程申し上げたように、日本銀行が「量的・質的金融緩和」を着実に実施しているもとで、長期金利は低位に安定しているということであり、物価上昇期待が高まっているので、実質金利は低位というか、若干のマイナスというところで推移しています。これが、景気、物価に対するプラスの影響を及ぼしているということだと思います。
§29Question
為替についてお聞きします。ジャクソンホールにいらっしゃった時のイタリア紙のインタビューの内容が伝わってきています。その内容について、円が too strong against the dollar and the euro compared to 2007 levels──即ち、ドル、ユーロに対して依然として強すぎるとのご発言だったように伝わっています。正確にはどのようにおっしゃったのでしょうか。昨日、黒田総裁の後任の財務官でいらっしゃいました渡辺博史JBIC総裁のお話を聞いたところ、 2007年というのは渡辺財務官がちょうどお辞めになった時期ですが、当時と比べても日本の産業構造というのは、調達構造が変わっており、輸出産業でも部品などを数多く調達していて、部品だけみても貿易赤字になっている状況ということでした。そして、昨日の為替は 105円超でしたが、これ以上円安になればマイナスになる産業も増えてくるとおっしゃいました。
§30Question
同じ財務官のご出身で言われることがこれほど違うと我々もちょっと戸惑うわけですけれども、類推するに──邪推かもしれませんが──黒田総裁が 2%を何が何でも達成させたいというお考えということからすると、もっと円安にならないと 2%は難しいのではないか、つまり、このままの為替の水準であれば昨年4月におっしゃった 2年で 2%というのは難しいのではないかと感じていらっしゃるのではないかと邪推してしまうのですけれども如何でしょうか。
§31Haruhiko Kuroda
それは、邪推だと思います。まず為替レートについては、具体的にこれからどうなるのかということを予測するのは極めて難しいわけですが、中長期的にみれば、ファンダメンタルズに近寄っていくということはあるとは思います。世界的な金融危機が起こった後、円は欧米の通貨だけでなくてアジアの通貨に対しても極端に高くなったわけです。現在は、それが緩やかに巻き戻して、だんだんと経済のファンダメンタルズに近づいてきているということだと思います。これからさらにどうなるかということ、どうなるべきかということはなかなか難しいですが、為替の動向に一定の影響が出得る金融政策において、米国と日本、欧州との違いをみると、日欧は金融緩和が当面続いていく一方、米国はテーパリングを終了し、いずれ短期金利も上がっていくというように景気が非常によいということです。そういう景気のよいところの通貨が、通常であれば、ファンダメンタルズに沿って強くなっていくということは、ある意味で自然だと思います。ただ、実際にそうなるかどうか、そうなるべきかとか、どの程度の水準が適切かということを数値的に言うのはなかなか難しいと思います。今の水準から円安になることが、日本経済にとって何か非常に好ましくないとは、私は思っていません。以上