総裁定例記者会見(2014年10月31日)要旨
Full text
§1Question
本日の政策決定の内容について、なぜこのタイミングだったのかも含めてご説明をお願いします。
§2Haruhiko Kuroda
日本銀行は、本日、2%の「物価安定の目標」の早期実現を確かなものにするために、「量的・質的金融緩和」を拡大することを決定しました。具体的には、マネタリーベースの増加ペースを年間約 60~70 兆円から約 80 兆円に拡大するとともに、国債の買入れペースについて、日本銀行の保有残高の増加額を年間約 50 兆円から 30 兆円増やして約 80 兆円に拡大しました。それとともに、長期国債買入れの平均残存期間を7年程度から最大 3年延長して 7~10年程度に長期化しました。さらに、ETF、J-REITの買入れペースを 3 倍増とし、それぞれ年間約 3 兆円、約 900 億円としました。日本銀行は、昨年4月、15年にわたるデフレから脱却するため、「量的・質的金融緩和」を導入しました。「量的・質的金融緩和」は、日本銀行が2%の「物価安定の目標」の実現に強く明確にコミットするとともに、こうしたコミットメントを裏打ちする量的にも質的にも従来とは次元の異なる金融緩和を実施することを柱としています。このような政策によって、人々の間に定着してしまったデフレマインドを抜本的に転換することが目的です。「量的・質的金融緩和」の導入以降、1年半が経過しましたが、これまでのところ、所期の効果を発揮しています。
§3Haruhiko Kuroda
すなわち、わが国の景気は、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、基調的には緩やかな回復を続けています。物価面では「量的・質的金融緩和」を導入する直前の昨年3月の時点でマイナス 0.5%であった消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、プラス 1%台前半まで改善しました。もっとも、消費税率引き上げの後の反動減は、自動車などの耐久消費財を中心にやや長引いています。また、このところ原油価格が大幅に下落しています。こうした需要面の弱めの動きや原油価格の下落は、物価の下押し要因として作用しています。消費者物価の前年比は、9月には+1.0%まで伸び率を縮小しました。もとより、消費税引き上げに伴う需要面の弱さは既に和らぎ始めていますし、原油価格の下落は、やや長い目でみれば、日本経済に好影響を与え、物価を押し上げる方向に作用すると考えられます。ただ、短期的とはいえ、現在の物価下押し圧力が残存する場合、これまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延するリスクもあると考えられます。日本銀行としては、こうしたリスクの顕現化を未然に防ぎ、好転している期待形成のモメンタムを維持するために、ここで「量的・質的金融緩和」を拡大することが適当と判断しました。
§4Haruhiko Kuroda
「量的・質的金融緩和」は、人々のデフレマインドを払拭し、予想物価上昇率を引き上げることを狙った政策です。予想物価上昇率がどのようなメカニズムで形成されるかについては様々な議論がありますが、長年にわたってデフレが続いたわが国では、米国のように予想物価上昇率が既に 2%程度にアンカーされている国とは異なり、実際の物価上昇率の変化が予想物価上昇率の形成に大きな影響を与えていると考えられます。実際の物価上昇率の伸び悩みが続けば、それがどのような理由によるものであれ、予想物価上昇率の好転のモメンタムが弱まる可能性があります。そうなれば、せっかくここまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅れてしまうリスクがあります。その意味では、わが国経済は、デフレ脱却に向けたプロセスにおいて、今まさに正念場、critical moment にあると言えます。今回、追加緩和を決定したのは、こうした考え方に基づくものです。今回の措置はデフレ脱却に向けた日本銀行の揺るぎない決意を改めて表明するものです。デフレのもとでは、価格の下落、売上・収益の減少、賃金の抑制、消費の低迷、価格の下落という悪循環が続きました。
§5Haruhiko Kuroda
「量的・質的金融緩和」によって、デフレマインドの転換が実現すれば、価格の緩やかな上昇を起点として、売上・収益の増加、賃金の上昇、消費の活性化、価格の緩やかな上昇というかたちで経済の好循環が実現することになります。この春の労使間の賃金交渉で物価上昇率の高まりが意識され、多くの企業でベースアップが実施されました。企業の価格設定行動も変化の途上です。いま、この歩みを止めてはなりません。「物価安定の目標」が人々の気持ちの中にしっかりと根付き、これからは 2%の物価上昇を前提として行動しようと思うためには、日本銀行がその早期実現に強くコミットし、これを実現していくことが何よりも大切です。昨年4月に申し上げた通り、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の早期実現のためには、できることは何でもやる方針です。今後も日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで「量的・質的金融緩和」を継続します。何らかのリスク要因によって見通しに変化が生じ、「物価安定の目標」を実現するために必要になれば、躊躇なく調整を行うという方針にも変わりはありません。
§6Question
2 点目の質問ですが、今回の提案というのは総裁の提案という理解でよろしいのでしょうか。また、先程 critical moment というご説明がありましたけれども、総裁がその辺のことを胸に抱いたタイミングというのがいつ頃だったのかをお聞かせ下さい。
§7Haruhiko Kuroda
金融政策決定会合における議論については、議事要旨という形で公表されることになっていますので、具体的に申し上げることは避けたいと思います。展望レポートが議論される中で、金融政策について、ここで、追加的な緩和──「量的・質的金融緩和」の拡大──を検討すべきだという意見が委員の方々から出され、それを踏まえて執行部に案を作ってもらい、それを巡って議論し、「量的・質的金融緩和」のかなり思い切った拡大を決めたわけです。その理由は、先程申し上げた通りであり、また、この点は「量的・質的金融緩和」の拡大についての公表文でも触れている通り、物価面では、このところ、消費税率引き上げ後の需要面での弱めの動きや原油価格の大幅な下落が、物価の下押し要因として働いている。このうち、需要の一時的な弱さはすでに和らぎはじめているほか、原油価格の下落は、やや長い目でみれば経済活動に好影響を与え、物価を押し上げる方向に作用する。しかし、短期的とはいえ、現在の物価下押し圧力が残存する場合、これまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延するリスクがあるということから、日本銀行としては、こうしたリスクの顕現化を未然に防ぎ、好転している期待形成のモメンタムを維持するため、ここで、「量的・質的金融緩和」を思い切って拡大するべきであるという結論に至ったわけです。
§8Haruhiko Kuroda
私自身も色々な指標を見て、感じるところもありましたし、政策委員の方々も色々とお考えだったと思いますが、より具体的には、政策委員の経済見通しが出され、議論する中で、「量的・質的金融緩和」の拡大が必要であるという意見が出され、今申し上げたような決定に至ったということです。
§9Question
昨年4月から 1年半で今回 2 回目の緩和になります。前回まさに異次元の緩和という評価でしたが、今回も異次元を演出できたと理解されているのでしょうか。また、今回4 人の委員が反対されました。かなり薄氷の結論だったと思うのですが、この躊躇なくやるというところで、かなり限界に来ているのかなという部分もあるのですが、追加の余地はまだあるのでしょうか。
§10Haruhiko Kuroda
先程申し上げたように、金融政策決定会合における議事の概要については、議事要旨がいずれ公表されますので、それをご覧になって頂きたいと思います。基本的にこのようなリスクがある、あるいはあり得るという認識は広く共有されていたのではないかと思いますが、それに対して、今、このようなことを行うのは適切かどうか、必要かどうかという点で意見が分かれたのではないかと思います。いずれにせよ、「量的・質的金融緩和」のこうした拡大によって、最初に申し上げた通り、デフレマインドの転換が遅延してしまうというリスクを未然に防ぐことができるのではないかと思っています。なお、これ自体相当思い切った拡大ですので、それなりの効果があると思っています。そして今のところ、特に何かさらにしなければならないとは思っていません。2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで続けるわけですが、その際、経済・物価情勢について、上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う、なかんずく、先程申し上げたように、必要があれば躊躇なく調整するということであり、そうした政策の余地は依然としてあると思っています。ただ、今の時点で、これで十分ここで示したリスクに対応できると思っています。
§11Question
2 点お尋ねします。まず、なぜ10~20 兆円の拡大をしたのかという理由です。もう1 点は、日銀はこれまでも大規模な金融緩和を続け、所期の効果を発揮しているとおっしゃっていましたが、今回、 10~20 兆円増やすことによって、人々のインフレ期待が急激に変わるのか、その効果についてもう少し詳しく教えて下さい。
§12Haruhiko Kuroda
マネタリーベースの増額ペースを約 60~70 兆円から約80 兆円に拡大する際に、資産の内容として、長期国債の保有残高の増加幅を更に 30 兆円拡大するなどの措置を講じました。これは先程申し上げた通り、足許の消費の弱さや、特に原油価格のかなり大幅な下落によって、物価上昇率が、やや下がってきており、そうしたことが続くと物価上昇期待自体も下がってきてしまいます。そうなると、例えば、将来の賃金や価格の設定についても下がってくる恐れがあります。そうなると、せっかく実現しつつあるデフレマインドからの転換が大幅に遅れてしまう懸念があり、そうしたリスクを未然に防ぐ観点から、必要十分な拡大をしたということです。また、今回の政策により、どのような効果が期待されるかという点については、それぞれの委員がそれぞれの考えで経済見通しを出し、今回の展望レポートに添付されています。それを見て頂いてもわかりますように、物価面を中心に、それなりの効果が出るのではないかと思います。
§13Question
今回の追加緩和を受けても、昨年4月の導入時におっしゃられた、2年程度で物価 2%を目指すという考えは、今の時点でもお変わりないでしょうか。また、今回の追加緩和を織り込んでも、展望レポートの政策委員の物価見通しをみると下振れていますが、これは政策委員の中で緩和効果に疑問を持っている人がいるということなのでしょうか。追加緩和をしても物価見通しが下振れている理由について、総裁のお考えをお聞かせ下さい。
§14Haruhiko Kuroda
第 1 点目については、全く変わっておりません。2年程度を念頭に置いて、できるだけ早期に物価安定の目標を実現するという、そもそもこの「量的・質的金融緩和」の目的がそういったものでありまして、この考え方は全く変わっておりません。もちろん、2年程度というのはもともとある程度幅を持たせた表現であり、そのうえで、昨年4月に「量的・質的金融緩和」を導入した直後の展望レポートでは、2014年度、2015年度の見通し期間の後半にかけて 2%程度に達する可能性が高いとしていました。その後、本年4月の展望レポートでは、見通し期間が 2016年度まで延長されましたので、2014年度から 2016年度までの見通し期間の中盤頃に 2%程度に達する可能性が高いとしていました。今回の展望レポートも全く同様に、見通し期間の中盤頃、すなわち 2015年度を中心とする期間に 2%程度に達する可能性が高いとみており、そういった見通しに変化はありません。いずれにせよ、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に 2%の「物価安定の目標」を実現するという考えに変わりはありません。
§15Question
総裁は、本日の会合より前も、原油価格が下がり、ガソリン価格が下がるという現状がある中で、基本的に需給ギャップの縮まり等を通して物価が上がるモメンタムは変わっていないというご説明をされていました。それがうまくいっていると言っていて、国会でもそういった答弁をされていたと思います。それがこの 2、3日で急に変ったような唐突感を覚えるのですが、物価上昇の基本的なメカニズムというものが変わっていないのかをお伺いしたいと思います。また、既に円安も進んで、地方を中心として円安によるコストプッシュインフレみたいなものを非常に気にされている声もたくさんあり、かえって消費の減退を招くのではないかというリスクも懸念されてきたわけです。あえてここで追加緩和により、さらにリスクを高めるとも言えると思うのですが、そこについてはどのようなご見解でしょうか。
§16Haruhiko Kuroda
「量的・質的金融緩和」の基本的なメカニズムは、全く変わっていませんし、その好循環のメカニズムがなくなってしまったということはないと思います。基本的に、非常に明確な形で、2%の「物価安定の目標」に強くコミットし、それを裏打ちするために大規模な量的・質的な金融緩和を行うもとで、イールドカーブ全体、名目金利全体を押し下げることを行い、さらにはリスク資産も買い入れて、リスクプレミアムを圧縮しています。同時に、物価上昇期待を引き上げて、実質的な金利、あるいは実質的なリスクプレミアムを圧縮することを通じて投資や消費を刺激し、経済全体を成長させることによって、いわゆるGDPギャップを縮小し、賃金、物価の上昇圧力を作っていきます。そして、またそれを物価上昇期待でさらに押し上げていくという基本的なメカニズムは、変わっていませんし、それはこれまで予期していた効果を発揮してきたと思います。ただ、先程申し上げたように、このところ消費税の駆け込みの反動減の影響が自動車等でやや長引いています。そうしたもとで、ごく最近ですが石油価格が大幅に下落し、そういったことから現に消費者物価の上昇率も少しずつ縮小してきているといったことが起こって、それが今後さらに続くとすれば、やはり物価上昇期待に対する影響も懸念されますし、そもそも好循環にマイナスの影響を与えるリスクがあります。
§17Haruhiko Kuroda
そういったリスクに未然に対処するために、「量的・質的金融緩和」の拡大を決定したということです。なお、この緩和措置というのは、あくまでも今申し上げたようなことを通じて物価安定目標の早期達成をより確実にするために行うわけであり、為替相場等に対する影響を目的としたものではありません。
§18Question
リスクがあれば今後も躊躇なく行動するとおっしゃいましたが、今回、マネタリーベースの増加ペースを 80 兆円にしたことで言うと、今後は、例えば 100 兆円、それ以上といった措置もあり得るのか、今後追加するオプションも幅広くあるのか、改めて今後も行動する考えがあるのか、今後行動する時は、今回追加緩和されたようなモデルがベースとなって行動されるのか、そういう理解でよろしいのか、教えて下さい。改めてですが、総裁はかねがね、ここまで、物価も経済の見通しも強気におっしゃられていましたが、あえてここで踏み込んだということは、予防的な措置という理解でよろしいのでしょうか。
§19Haruhiko Kuroda
この場で申し上げたように、あるいは決定会合後の公表文にもある通り、短期的とはいえ、現在の物価下押し圧力が残存する場合、これまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延するリスクがあります。日本銀行としては、こうしたリスクの顕在化を未然に防ぎ、好転している期待形成のモメンタムを維持するため、ここでこういった「量的・質的金融緩和」の拡大が適当であるとの決定に至りました。それから、私どもとしては、これで十分リスクに対応できると思っていますが、経済には色々な上下双方向のリスクはあり得るので、そうしたことがあれば、適切に調整して対応していくということに尽きます。今の時点でどういうオプションがあるかは、申し上げる段階にないと思いますし、必要もないと思いますが、オプションは色々あり得ると思います。
§20Question
これは、いわゆる戦力の逐次投入という指摘は当たらないのでしょうか。
§21Haruhiko Kuroda
全く当たらないと思います。というのは、先程申し上げたように、基本的に「量的・質的金融緩和」の効果は予期した通りの成果を上げてきています。ただ、様々な要因があって――原油価格の大幅な下落も 1 つですが、消費税の反動減がやや長引いていることや、あるいは世界経済の見通しが、最近のIMFの見通しでも、さらに若干引き下げられたことなど、様々な要因がある中で――、ここで示したリスクが出てきているのです。これが実際に顕在化し、せっかくデフレマインドを転換させてきている途中で、またデフレマインドの方に戻ってしまっては、これまでの成果が減ってしまいますので、そういったことにならないように、こういう対応をしました。様々な要因からリスクが出てきたので、それに対応したということで、戦力の逐次投入にもなりませんし、逆に言えば、これでは不十分でこういったリスクに対応できないとは全く思っていません。これだけのことをやれば、こういったリスクに十分対応できると思っています。
§22Question
下品な質問をさせて下さい。なぜこのタイミングだったのかをお伺いしたいと思います。11月17日にはGDPの発表があり、その間、政府では消費税の追加引き上げを巡る有識者会合が開かれ、総裁もご出席されると思います。安倍総理は、12月に消費税の追加引き上げをするかどうかを判断するということをおっしゃっています。その前のタイミングで総裁はかねがね財政再建、消費税の追加引き上げの重要性ということを主張していながら、このタイミングで追加緩和してしまうと、ある意味食い逃げされてしまう、つまりは消費税の引き上げの担保は取れない中での追加緩和ということになり得るのかどうかが1 点です。もう1 点お伺いしたいと思いますが、政府の公的年金を運用しているGPIFが、今、資産運用の変更の過程にあると思います。報道によると、政府がGPIFと議論しているのは、債券の保有比率を減らす一方で、内外の株式の比率を増やすということだと思います。ということは、GPIFが債券のポートフォリオを減らす分、日本銀行が債券の保有を増やせば、国民経済的にみてポートフォリオ・リバランスになるのかという、その辺の認識も是非お伺いしたいと思います。
§23Haruhiko Kuroda
第 1 のご質問につきましては、私どもの金融政策というのは常に既存の制度、既存の法律を前提にして政策を行い、あるいは見通しを立てています。消費税率の 2 段階での引き上げというのは法律で決まっていることですので、それを前提にして見通しを立て、あるいは金融政策を運営しています。ただ、消費税率の再引き上げの点につきましては、政府で経済動向を見極めて決定するということになっていますので、それはまさに政府で決定されることであり、私どもの関与するところでは全くありません。従って、そういったことに影響を与えようとかどうこうしようというつもりもありませんし、そういうことにもなりません。あくまでも私どもは、経済情勢を見極め、適切に金融政策を運営していくということに尽きると思います。なお、中央銀行として、財政の持続可能性が担保されるということが当然重要だということは、どの中央銀行でも述べていることでありまして、政府が中期財政計画を着実に実行していかれるということは期待していますが、消費税云々について私どもが何か影響を与えようとか、関与するということは全くありません。従って、そういったことを考慮して金融政策を決めるということもありません。GPIFの問題につきましても、まさにGPIFと政府で今議論をされていることだと思いますので、私どもからどうこう申し上げる点はございません。
§24Haruhiko Kuroda
ご承知のように、金融資本市場は色々な要因で動きますので、そういった様々な内外の要因も踏まえつつ金融政策を運営することはプラクティカルな観点から当然ですが、 GPIFの投資政策がどう変わるとかあるいは動くというようなことと、私どもの金融政策とは直接的な関係は全くありません。
§25Question
今後の資産買入れのメニューをみて引き算すると、短国の買入れペースが少し減るようにみえますが、解説をお願いします。また昨今、短いところのマイナス金利の副作用がやや出ていて、個人向け国債の発行停止も起きていますが、そのあたりも勘案されたと理解してよろしいでしょうか。
§26Haruhiko Kuroda
買入れ国債の平均残存期間を長期化、柔軟化した趣旨についてですが、これまでの「量的・質的金融緩和」のもとで、年間約 50 兆円の増加、平均残存期間 7年程度で実施してきた結果、イールドカーブの短めのゾーンの金利低下が大きく進んだ一方、長めのゾーンの金利は相対的にこれより高い状況にあります。今般、平均残存期間を長期化、柔軟化したのは、イールドカーブ全体にわたって金利低下を促すという「量的・質的金融緩和」の基本的な考え方に沿ったものです。短国市場で、最近しばしば、マイナス金利での取引がみられているのは事実ですが、それは結果として起こっているわけでして、日本銀行がそれだけ強力な金融緩和を進めていることの表れであり、特に問題があるとは思っていません。何回も繰返しますが、先程申し上げたイールドカーブ全体にわたって引き下げを促すという観点から、長期国債の大幅な購入額増額と、最大限 3年程度の平均残存期間の延長を図りました。もちろん、これは最大限ということですので、7年~9年の間でもまさに最も適切な形で、イールドカーブ全体に金利低下を促すことができるように最適なオペレーションを行うということです。
§27Question
今回の大規模な金融緩和に伴って、先程も少し質問に出ていましたが、急激な円安が続いています。この円安の影響ですが、やはり中小企業や地方企業にとりましては、特に原材料費の高騰につながる面も否定できないと思います。量的緩和を繰り返しても、結局は、景気が上向くには限界があるのではないかという指摘もあると思いますが、そうした円安がもたらす負の側面について、どのようにお考えでしょうか。
§28Haruhiko Kuroda
常々申し上げている通り、為替変動の経済に対する影響は、それがファンダメンタルズに即して動いているかどうかにもよりますし、経済がどのような局面にあるかにもよりますので、一概には言えないと思いますが、これまでの円安は、日本経済全体としては、おそらくマイナスではなくむしろプラスだったと思います。ただ、製造業、あるいは輸出企業・グローバルに展開している企業には、プラスとなる一方で、ご指摘のように非製造業――中小企業が多いですが――には、輸入財価格や原材料価格の上昇という面で直接的にはマイナスの影響が及び得ると思います。もちろん、経済全体としてプラスになっていけば、そうした先にも好影響が及ぶと思いますが、タイムラグもあると思います。そうした色々な面があることは前から申し上げている通りです。ただ足許の状況をみると、原油だけではなく色々な鉱物資源や食料品の価格がかなり下落しています。輸入品の価格がこれまで起こった円安とそれから商品市況の下落とで、かなりの程度相殺しているというか、原油などをみるとそちらの下落の方が大きいです。局面や業種・業態によって様々な影響を与え得るとは思いますが、基本的には先程申し上げた通り、ファンダメンタルズに沿った形で為替レートが動くこと自体は、大きなマイナスになることはないと思います。
§29Haruhiko Kuroda
それから、先程申し上げたように、円安で輸入品価格が上がる要素よりも相当大きく国際商品市況が下落しています。例えばガソリン価格は毎週のように下がっていますので、ちょっと違った局面にあるかもしれません。いずれにせよ私どもとしては、為替だけでなく色々な要素が、マクロ的な影響、製造業・非製造業、あるいは企業規模によりどう及ぶのかについて、常に丹念に点検しているつもりでいます。
§30Question
昨年4月4日に異次元緩和を実施されて 1年半が経ちました。金融政策は、大体1年から 1年半ぐらいで効果を現すということですが、今がちょうどそういう時期になっています。新たに示された経済見通しをみると、今年度の成長率は 0.5%に引き下げられて、物価見通しは 1.2%に若干引き下げています。これを黒田総裁が就任される前の、2013年1月の白川前総裁の最後の見通しと比べると、当時の2014年度の見通しは、コアCPIが0.9%、成長率が0.8%でした。つまり、物価については、まだ辛うじて上回っていると言えますが、成長率については当時の見通しすら下回っています。つまり、物価はどうにか上がっても成長率は上がらないということを端的に示していると思います。今日の展望レポートでも、こっそりとまでは言いませんが、潜在成長率の評価を引き下げられています。つまり、日本経済は一段と成長しないという姿になっています。先程、「量的・質的金融緩和」は、予期していた効果を発揮してきたとおっしゃいました。ただ、結果としては、物価がちょっと上がったけれども成長率は一向に上がらない、むしろ下がったという姿になっています。日銀法では、物価の安定を通じて健全な経済発展に資することを理念とすると書いています。
§31Question
この理念にすら反していると思うのですが、このQQEというのは本当に効果があったのか、これからあるのか大いに疑問があるのですが、如何でしょうか。
§32Haruhiko Kuroda
その点は、私は全く意見が違いまして、今おっしゃったことは単にかつての見通しが甘かったということを語っているというふうに思います。私どもは、昨年4月4日に「量的・質的金融緩和」を導入して以来、経済の実態を常に慎重、冷静に点検し、金融政策として必要かつ十分なものかどうかというのを毎回の政策決定会合で議論をして参りました。そうした中で、先程申し上げたような消費税の駆け込みの反動減が耐久消費財でやや長引いているとか、世界経済の見通しが全体としてやや下振れているとか、そうしたもとで原油価格がかなり大幅に下がったといった現状を踏まえて、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に達成するために、デフレマインドの転換が遅延するリスクを未然に防ぐという観点から、「量的・質的金融緩和」を拡大したということです。実質成長率は、色々な要因で様々に振れています。そうした中で、中長期的にみた潜在成長率は、常に申し上げている通り、基本的には金融政策でどうこうするというよりも、構造政策、成長戦略に係わるものだと思います。ただ、その中でも、デフレ下では、どうしてもイノベーションが行われない、リスクテイクが行われない、十分な投資が行われないということになりがちです。
§33Haruhiko Kuroda
そこで、2%の「物価安定の目標」を安定的に持続できる形になれば、企業や家計が緩やかな物価上昇を前提にして、賃金とか価格あるいは投資その他を決める、ということで、より望ましい経済成長になるということであり、この点、私どもの考えは現在も全く変わっていません。
§34Question
2 点お伺いしたいと思います。1 点目は、総裁は今回の緩和についての説明で、デフレマインドの転換が遅延するリスクを未然に防ぐために緩和の拡大を決められたとおっしゃったのですが、同時に出口の時点でのリスクも高まったと認識しています。国会での議論等でも出口の議論がされたばかりですが、政策委員会の中の議論で、出口についてシミュレーションをして、出口のリスクよりも今回決められた緩和拡大のメリットが上回ったと綿密に判断された結果、政策委員会として決められたのでしょうか。2 点目は、原油価格の下落のような日銀の政策ではどうにもならないような要因で、しばらく物価の伸びが弱まるという状況であれば、それを国民に説明すればよいのではないかという気がしています。そのような状況の中で何が何でも 2%達成しなければいけないのかという点を疑問に思っていまして、そこについてご見解をお聞かせ下さい。
§35Haruhiko Kuroda
こうした政策──「量的・質的金融緩和」の拡大というもの──を議論し、決定する際には、その必要性、効果、あるいはその考えられるコスト等を十分議論するのは当然です。出口の問題については、前から申し上げている通り、今具体的な形で出口戦略を議論するのは、やはり時期尚早だと思います。出口に向けた対応やその後の金融政策の運営の在り方というのは、その時々の経済や金融、物価情勢その他によって変わり得るものですので、早い段階から具体的なイメージを持ってお話することは適当ではないと思います。そういうことをすると、却って市場との対話という観点から混乱を招く可能性が高いと考えています。日本銀行としては、将来にわたって 2%の「物価安定の目標」を達成、維持するために、機動的に金融政策を運営することは十分可能であり、そうした意味で出口が困難になるとは考えていません。それから、原油価格あるいは消費がやや弱めだったとか、世界経済の見通しが若干下振れしているとか、そういった様々な要因の中で、原油価格の下落については、先程申し上げたように、日本は石油のほぼ 100%を輸入していますので、原油価格が下がることは、日本経済にとって基本的にプラスですし、ある程度期間をとってみれば、物価にもプラスに効いてくると思います。
§36Haruhiko Kuroda
ただ、これも先程から色々申し上げている通り、米国と違って日本は長いことデフレが続いて、デフレマインドが染みついており、それを脱却しようとしている途中です。物価上昇率も 1%台前半、足許では 1%というところですし、物価上昇期待も全体としてかつてよりも上がってはいるのですが、このところやや停滞しており、さらに物価上昇期待がどんどん上がっていくということになっていません。そういうところで、足許の物価上昇率が下がるという事態に対して、単に将来いずれ 2%になりますと言っているだけでは、デフレマインドの転換には良い影響を与えない懸念があるということです。従って、あくまでもそういったリスクを未然に防ぐため、ここで「量的・質的金融緩和」を拡大するということであり、こうしたことも通じて政策委員の大勢の見通しにもあるように、2015年度を中心とする期間に、2%の「物価安定の目標」に達する可能性が高いという見通しが得られています。
§37Question
総裁は、何度もこれまで、必要があれば躊躇なく緩和をするということをおっしゃってきました。ただ、その一方で、本当に最近──今週でもそうだと思うのですが──、日本経済は順調に「物価安定の目標」の達成に向けて歩んでいるということもおっしゃってきました。今日のマーケットの動きなどをみると、明らかにサプライズととれるわけですが、総裁はマーケットとのコミュニケーションという点で問題があるとは、考えていらっしゃいませんでしょうか。
§38Haruhiko Kuroda
考えておりません。年間14 回の金融政策決定会合において、9 人の政策委員が、それまでに得られた色々な情報、あるいは執行部の提供する分析等を消化し、それらを踏まえて、真剣な議論をして、金融政策が必要にして十分かどうかということを毎回議論しているわけです。そこで、先程申し上げたような要素を勘案して、やはりリスクがあり、これにはこのタイミングでまさに対応する必要があるという結論に至ったということです。
§39Question
確認までですが、政策決定に対しては 4 人の方が反対されましたが、展望レポートの記述に関しては、どなたか反対された方がいるのでしょうか。また、今回の追加策は3 という字が目立つのですが、前回は2 でしたけれども、いわゆる 2%、2年程度でという期間に関しては、2年なのか 3年なのか依然として少し曖昧なのですが、黒田総裁ご自身はどちらなのでしょうか。
§40Haruhiko Kuroda
展望レポートの案については、ごく一部の記述について、白井委員、佐藤委員、木内委員が修正を求める案を提案されましたが、いずれも否決され、こういう形になりました。ただ、その概要やその他については、いずれ議事要旨で述べられることになると思います。また3 というのは別に意識したものではなく、プレゼンテーションのためにこういうパネルを作ったということです。期間につきましては、先程来申し上げている通り、2年程度の期間を念頭において、できるだけ早期に 2%の「物価安定の目標」を実現するために、昨年の4月に「量的・質的金融緩和」を導入しました。その直後の展望レポートにおいても既に、見通し期間の後半にかけて――今で言えば、2015年度を中心とする期間に――2%に達する可能性が高いとしていました。また、見通し期間を 2014年度~2016年度にしたところで、見通し期間の中盤頃に 2%に達する可能性が高いとずっと申し上げてきたわけで、今回もそれは維持しています。いずれにせよ、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に「物価安定の目標」を達成するという目的に変わりはありません。
§41Question
今回の緩和は必要かつ十分な緩和とおっしゃいましたが、2015年度のCPI見通しを見ると、中央値で 1.7%、かつ分布チャートを見ますと下振れリスクがあるような形です。これで本当に必要かつ十分なのかと疑念の余地もあるわけですが、必要かつ十分だと言い切れるその理由をもう少しご説明頂けますでしょうか。
§42Haruhiko Kuroda
これはもちろん、政策委員の方々に年度で見通しを出して頂いており、半年とか四半期とかそういうものでは全然ありませんので、何とも申し上げられませんが、基本的に、2015年度の前半は、原油価格の下落が物価の下押し要因として働いていきます。そして、年度の後半にかけて、こうした下押し要因が剥落するもとで、需給ギャップの改善や予想物価上昇率の上昇を背景にして、消費者物価の前年比は伸びを高めていくとみられます。従いまして、引き続き2015年度を中心とする期間に 2%程度に達する可能性が高いと思います。つまり、2015年度の消費者物価の見通しが幾分下振れたのは、1.9%という中央値から、1.7%に落ちたわけですが、それは主として原油を初めとする国際商品市況の下落によるものであり、そういったものは先程申し上げたように、年度後半に剥落しますので、十分この1.7%という見通しの中央値のもとでも、2015年度を中心とする期間に 2%程度に達する可能性が高いと、そのように考えられるからこそ、展望レポートにそのように書いてあるわけです。
§43Question
2 点目ですが、今日の発表を受けて株価が大幅上昇するなど、かなりサプライズという形になっていますが、昨年4月の緩和もサプライズという色合いが強かったわけです。こちらも少しやや下品な聞き方になってしまうかもしれませんが、どうせ緩和をするのであれば、十分に織り込ませてから実施するよりも、サプライズで行った方が何がしか効果が強いという面はあるのでしょうか。
§44Haruhiko Kuroda
私どもは、そういうことを意図しているわけでも何でもありませんし、いずれかということは少しお答えしかねます。基本的に戦力の逐次投入を行わないということであり、何かリスクが相当あると、あるいはどうしても従来の方向では 2%の「物価安定の目標」を早期に実現することにならないということで、昨年の4月4日に思い切った異次元の金融緩和と言われるような、「量的・質的金融緩和」を導入したわけです。その際も上下双方向のリスクは点検して、必要があれば調整しますと言ったわけですが、ここにきて、これまで所期の効果はあげているとはいえ、ここで示したようなリスクがあるということが議論の中で明らかになったわけですので、それに対応して必要にして十分な措置をこのタイミングでとったということです。
§45Question
今回の決定のタイミングですが、一昨日、米国が量的緩和の終了を決定しました。この米国の動きを意識されたという面はありますか。
§46Haruhiko Kuroda
それは全然ありません。ご承知のように政策委員会の金融政策決定会合の日程は半年以上前から決定されています。おそらくFOMCの日程も決まっていると思いますので、全く単なる偶然であると思います。
§47Question
ただ、このタイミングで決定しますと、金利差から円安に振れることは想定されたかと思うのですが、そのあたりの意識はいかがでしたでしょうか。
§48Haruhiko Kuroda
先程来申し上げている通り、私どもの金融政策はあくまでも物価の安定という国内の政策目的のために行っていますし、為替レートは、確かに他の事情が一定であれば、金融政策の違いが影響すると理論的に言われていますが、ご承知のように様々な要因で動いています。金融政策自体は、為替レートを目標にしていませんので、そういった何か、FOMCの決定をみて、やったとかそういうことは全くありません。以上