白井審議委員記者会見(2014年11月26日)要旨
Full text
§1Question
大きく2点、お尋ねいたします。先ず、懇談会でどういった話があったかということと、加えて、講演要旨にもありますが、広島県経済の現状をどう受け止めておられるか、改めてお尋ねしたいと思います。
§2Sayuri Shirai
金融経済懇談会での話題、広島県経済の現状についての認識というご質問ですが、先ずは、8月の豪雨災害の犠牲になられた方々に謹んで哀悼の意を表すとともに、被災された方々に心よりお見舞いを申し上げます。本日の金融経済懇談会では、地域経済の現状や課題のほか、日本銀行の金融政策運営に関する率直なご意見などを数多く頂き、有意義な意見交換ができました。こうした機会を頂き、ご出席頂いた方々や関係者の皆様にお礼申し上げます。ご出席頂いた方々からは、広島県経済の現状について様々な話が聞かれました。先ず、足もとの円安については、グローバル企業の収益改善を期待する声が聞かれた一方で、原材料やエネルギー価格の値上がり、急激な為替変動を懸念する声が聞かれました。また、東京や地方、大企業と中小企業、製造業と非製造業の間での景気の回復感に格差がみられたといった声が聞かれました。このほか、個人消費については比較的堅調との見方がある一方で、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がやや長引いていることや、夏場以降の天候不順の影響などにより、足もと企業マインドがやや慎重化しているとのお話も伺いました。一方で、景気が緩やかに回復する中で、人手不足による受注機会を逃しているとか、人件費の上昇についても伺いました。
§3Sayuri Shirai
日本銀行に対しては、デフレ脱却と景気下支えに向けた「量的・質的金融緩和」の継続を希望する意見などが聞かれ、私どもとしては、このようなご意見を真摯に受け止めて、引き続き適切な金融政策運営に努めてまいりたいと考えています。私の広島県経済に対する印象を申し上げますと、自動車、機械、鉄鋼、造船といった製造業が集積する西日本有数の工業県というイメージであり、最近も、高い技術力をベースに環境性能と動力性能を両立させた新型車が好調な自動車産業を中心に、総じて高い生産水準にあると認識しています。また、当地は、2つの世界遺産や瀬戸内の多島美などの豊富な観光資源、さらには国際平和都市としての広島の高い知名度など、観光地としてのポテンシャルも高く、実際、当地を訪れている観光客数は2年連続で過去最高を更新していると聞いています。このように、広島県は様々な面で活力が感じられる地域だとの印象を持っております。広島県には当地で成長して全国に展開している企業が多く、優れた技術やアイディアを活かして成長するというカルチャーが根付いているように思います。また、今回の懇談会でも、行政の立場から成長を引き続き後押ししていくといったお話や、さらに地方金融機関からも、独自に創業支援、農業育成などの取り組みを含め積極的なリスクマネーの提供に努めているとの話を伺いました。
§4Sayuri Shirai
こうした企業、行政、金融機関の前向きな取り組みを、「量的・質的金融緩和」による極めて緩和的な金融環境が一段と後押しすることで、広島県経済のさらなる発展に繋がることを期待しています。
§5Question
追加緩和から1か月経ちますが、出席者からその評価も出たのではないかと思います。評価する声が多かったのか、しない声が多かったのか判りませんが、そのあたりのことも含めて、追加緩和が及ぼす広島県経済の今後の見通しと、追加緩和を決めるにあたって、地方ではまだ景気回復の波が波及していないと言われていますが、そういった地方の回復の遅れといったようなものも、緩和にあたって考慮事項に入ったのでしょうか。その2点をお尋ねします。
§6Sayuri Shirai
今回の追加緩和については、私が今日ご説明するまでは、「正直言って、なぜしたのか理由がよく判らない」という声が聞かれたのですが、私なりの説明をいたしましたところ、「非常にその趣旨が判りました」という声を伺いました。それから何よりも、今回の金融懇談会で共有できたのは、これは日本銀行だけが頑張ればよいというものではないということです。インフレ目標を設定して、インフレを実現するのは金融政策だとしても、そこにはやはり持続可能な成長が必要な訳であり、私の挨拶要旨にもありますように潜在成長率が落ちてきている経済ですから、それを底上げしていくのはやはり皆の努力が必要なので、今、日本銀行が金融緩和をしている、この状況を、是非、活かしていただいて、企業も金融機関も頑張っていくと、地方政府も頑張っていくと、そういうことが共有できたと思います。そういう意味で、追加緩和の理由がよく判ったということと、皆で頑張りましょうという、その意識が共有できたと思います。地域経済に対して、私たちの「量的・質的金融緩和」の影響が少ないのではないかとの意見があるかも知れませんが、今、日本の潜在成長率がどんどん落ちてきている中で、それを底上げしようとしている訳です。今の日本は、成熟していますから、高度経済成長期のような大きな成長を期待できる社会ではないです。
§7Sayuri Shirai
そういう中で、成長率が落ちているところを皆で努力して上げて、潜在成長率も上げて、物価もマイルドなインフレ、2%を実現しようということです。そういう意味では、広島県も色々なところで影響を受けていると思います。例えば、先程申しましたように、製造業が集積していますから、そういったところでは業績が良かったという話も聞きますし、――もちろん、為替の円安のペースが速いとの懸念も聞きますけれども――、総じてみれば過度な円高で苦しんできた頃と比べれば、非常に良い状況だとも聞きます。それからやはり観光客がすごく増えています。地方に効果が及んでないとおっしゃいますけども、地方経済の活性化のひとつは観光です。今、観光客が世界から日本に沢山来ている、そういうことによって地方経済も恩恵を受けていると思いますので、私は金融緩和政策の効果はあるとみています。
§8Question
3点お伺いしたいと思います。まず、追加緩和についてですが、昨日公表の議事要旨にも出ていたところですけれども、今日の講演でも、ここで追加緩和をしないことによって、信認が崩れるようなことになれば、2%の実現性自体も成り立ち得なくなる、というご論旨だったのではないかと思いますが、一方でマネタイゼーションの懸念というか、財政ファイナンスという面からの信認ということへの懸念というのも、多くの委員から示されたところではないかと思うので、 ――その円安ということで経済に悪影響が来ているということをさっきの質問でも出ましたが、その辺に加えて――このマネタイゼーションへの懸念ということについて、どのようにお考えなのか、それがあるのに何故、今このタイミングで追加緩和に賛成を示されたのかというところをお伺いしたいと思います。2点目は、これまで、白井委員は実質的に2016年度に「2%の実現」という「程度」を入れない形で、「2%」というふうに言っていたと思うのですが、今回「見通し期間の終盤にかけて『2%程度』に達する可能性が高いとみている」と発言されて、これは実質的に「2%きっかり」に達するという、2%をゴールにするのであれば、それは 2017年度に後ずれするというお考えを示したものという理解で良いのでしょうか。
§9Question
あと、今日の講演では、ほぼ大方の、私を含めた多くの政策委員の見通しを網羅するような表現として、これが正しいとなっていて、――これは先般発表になった展望レポートでは 2016年中盤頃に2%程度というのが示されているので異なると思いますが――、このところをどのように理解すれば良いかというところをお聞かせ下さい。最後の1点は、2014年度は潜在成長率、またはそれを下回る程度で推移するということを、今日、おっしゃったと思うのですが、これは、普通に考えれば、来年1月の成長率見通しを引き下げなければいけないのではないかと思えるのですけれども、そこについてのご所見をお聞かせ下さい。
§10Sayuri Shirai
質問は4つあったと思います。まず1つめは、マネタイゼーションへの懸念があるなかでなぜ賛成したのかとのことですが、私たちは――金融政策は、どこの中央銀行でも同じですけども――、見通しをたてて、その見通しの内容によっては、必要であれば金融緩和をやるというのが中央銀行の政策です。今回もなぜ追加緩和をしたかと言えば、10月末時点での 2016年までの経済成長率、それからコアCPIでみた物価上昇率の見通しが、挨拶要旨にも書かれていますように下振れする可能性があったということです。しかも、実際に物価上昇率が 5月からずっと落ちてきていました。物価上昇率が落ちるということは、私たちも予測をしていましたが、正直に申しまして、予想以上のペースで物価上昇率が落ちてきていると思います。9月のCPIは1%ですけど、10月には1%を割る可能性も出てきていて、しばらくはそのままの可能性もあります。その背景に何があるかと言えば、一つは7月以降の商品価格――原油を中心とする様々な商品価格――の急激な下落と、もう一つは消費税の反動減からの回復ペースが緩やかであるということが、やはり物価上昇率の低下に反映されていると思いました。もう一つ重要なのは、予想物価上昇率です。予想物価上昇率については、私は「全体としては上昇しているものの、横這い指標もみられる」ということを、ずっと前から言ってきました。
§11Sayuri Shirai
ところが、今年の夏からは、横這いを示すものだけではなく、下がっている指標もいくつかみられた訳です。物価上昇率が落ちていて、予想物価上昇率も落ちていて、見通しも下方修正があるときに、金融政策運営をしている当事者として、それを放置することができるのだろうかと考えました。予想物価上昇率、あるいはインフレ予想――こういうと「ピンとこない」という国民、市場参加者の方がいるのですが――、これは極めて重要です。例えば、最近、ECBのドラギ総裁が講演で「物価上昇率と予想物価上昇率を出来るだけ早く引き上げるために、現在の政策の効果が十分でないならば、資産買入の規模、ペース、種類を検討し得る」とおっしゃっています。また、アメリカのFOMCの最近の議事要旨でも、「インフレ予想は今のところ2%で安定しているけれども、一部の指標が低下をしている」とし、その理由を議論しています。それはインフレ予想の低下ではなく、インフレプレミアムが原因だと書かれていましたが、同時に、中長期の予想物価上昇率が落ちていくようなことになったら懸念されると述べているように、中央銀行の金融政策にとって、物価の動きと予想物価上昇率の動きは大変重要です。それらが下がっている時に、しかも見通しも下がっている時に、放置できるということがあり得るのだろうか、私は金融政策運営者としてそれはできないというのが最大の理由です。
§12Sayuri Shirai
それはマネタイゼーションへの懸念を越えて重要な問題だと思います。なぜ今、先進国の中央銀行が皆、そこを懸念するかと言うと、一回デフレに陥るとなかなかデフレ脱却が難しい。例えば、今、物価上昇率は一応プラスになりデフレ脱却がみえてきても、企業や家計のデフレマインドはそう簡単には変わりません。まだやはり特売とかを求める方も多いですし、賃金も消費税率の引き上げもあって実質賃金はマイナスになっていますから、なかなか、インフレは根付かない訳です。そういう中で、掲げた目標を中途半端にしていいのか、日本銀行は、もの凄い大胆な金融緩和をして「これまでと違った」という評価を受けている中で、中途半端にすることによって、「やっぱり同じだった」と、「中途半端でやめるのですか」と、そういうことになったら取り返しがつかない訳です。私は金融政策に携わる者として、それは放置できない、それが最大の優先課題だと思いました。2つ目の質問ですが、確かに5月の段階では「見通し期間の終盤にかけて2%に達成している可能性が高い」とし、今回は「2%程度」と書きましたが、特に差異はありません。なぜなら、どの中央銀行も、ピンポイントできっちり「2」というのを実現しようとしている訳ではなく、大きな意味はありません。
§13Sayuri Shirai
たまたま5月に「程度」を落としたのは、私の見通しだけではなく、中央値でみた見通しでも、2%を超えるのが 2016年度でしたから、それだったら2%というように書いても良いのではないかということで「程度」をとった訳であり、他意はありません。3つ目の質問ですが、私自身は、去年の4月から今まで一貫して、2%程度を達成するには2年以上かかると思っています。今のところ、2016年度、見通し期間の終盤にかけて達成している可能性が高いという見通しを立てています。日本銀行の基本的な見解としては、見通し期間の中盤頃、すなわち2015年度を中心とする期間となっています。私が展望レポートの基本的見解に議案を出したときは「終盤までに」とすれば多くの人がカバーできますので、それで良いのではないかということで、提案を出しましたが、私の見通しと、基本的見解の見通しの間には、大きなずれはなくなってきているのではないかとみています。4つ目の質問ですけれども、2014年度の成長率は、10月末までの情報をもとにして、見通しを立てていますので、そのもとでは 2014年度の経済成長率は潜在成長率と同程度か、それを下回るぐらいと考えています。
§14Sayuri Shirai
その後、11月17日に 7~9月期のGDPの第一次推計値が発表され、正直申しまして、予想以上に消費の回復のペースが緩やかですし、設備投資も前期比マイナスになりましたし、比較的回復ペースが弱いということが確認されました。次回の見通しを出すのは 1月ですが、12月にはGDPの第二次推計値が発表されますので、そのときには在庫のデータについても、もう少し明確な情報も入ってくると思いますし、2013年度のGDPの改定も行われる可能性もありますので、そういうことも含めて、1月には新たな見通しを立てたいと思っています。ただ、現時点で出ているGDPの一次推計値によれば、2014年度の経済成長率は、現在掲げている数値よりも下振れる可能性は高いというふうに思います。
§15Question
午前の講演で潜在成長率について、足もと0%台前半まで低下していると、さらに 14年度の成長率がそれを下回る可能性についても言及されました。日銀では経済の先行きについて、「潜在成長率を上回るペースで成長を続ける」というふうにしているのですけれども、少なくとも 14年度の成長が、潜在成長率を下回るようなことになった場合、これは需給ギャップの改善ペースとかシナリオの下振れということにならないのでしょうか。それとも15、16年度と潜在成長率を上回る成長を続けていれば基調として問題ないのか、潜在成長率を下回った場合の政策対応の追加的な必要性についても含めて、お伺いしたいと思います。
§16Sayuri Shirai
7~ 9月期のGDP一次推計値が公表され、そのデータに基づくと現時点では 2014年度の経済成長率は下振れる可能性が高いですし、マイナスになる可能性もあります。その意味では確かに潜在成長率を下回り得ますので、需給ギャップの改善ペースは 10月末に想定したよりも、もう少し緩やかになる可能性はあると思います。ただそうは言いますものの、やはり9月以降のデータをみますと、消費ですと、例えば、幅広い関連指標で既に前期比プラスに転じているものもあります。特に、実質小売業販売額に関しては、2期連続でプラスに転じていますし、百貨店の売上高やコンビニ、スーパー、家電、あらゆるものが実質でみますと前月比プラスに転じてきています。ですから回復はしつつあると思います。それから設備投資も確かに 7~9月期のGDP第一次推計値でみますと前期比マイナスになりましたけれども、しかし9月の資本財総供給や機械受注は 4か月間前期比プラスですし、つい最近も中小企業の 2014年度設備投資計画が上方修正されている訳です。ですから、やはり我が国の経済は少しずつ回復の方向に向かっているのは事実だと思います。そういう意味では、日本銀行が考えてきた前向きの循環メカニズムは否定されるものではないと思います。労働指標は、9月のデータを見ますと、新規求人者数も前月比増加に転じています。
§17Sayuri Shirai
失業率は上昇しましたが、非自発的失業者は減少していまして、ミスマッチ以外の失業者はほとんど見当たらない状況になってきています。かなり人手不足になっていますし、労働市場は極めて好調です。それから、企業の方も、確かに非製造業を中心にして収益額の前年比伸び率は低下していますが、それでもまだ高い水準であります。そういうことを考えますと、少しずつ設備投資も出てきますし、消費も回復傾向にいくと思いますので、日本銀行が考えている基本的な前向きなメカニズムは今もあると思います。ただ、回復していくペースに関しては想定よりも少し遅れているのではないかというふうに考えています。その背景には、単に消費税率引き上げの反動減とその回復が遅れているということだけでなく―― 今日も多くの経営者の方からお話を聞きましたし、景気ウォッチャー調査にも明確に示されているように――、やはり天候要因も相当大きかったと思います。アメリカでも今年の 1月から 3月に天候要因で前期比、年率▲2%のマイナス成長を経験したくらいですから、やはり天候要因は大きかったと思います。こうした予想外の天候要因もありましたので、回復ペースは緩やかですけれども、少しずつ回復に向かっていると思います。私自身の見通しは、元々経済成長率も物価上昇率も政策委員の中央値対比で慎重です。
§18Sayuri Shirai
そこに、今日の挨拶要旨にも書かれているように、私が 2016年度、見通し期間の終盤までに、2%程度に達している可能性が高いと考える理由は、今回の 7~9月期のGDP実質成長率の内訳を見ても確認されるのではないかと思います。そういう意味で今回の追加金融緩和は先手を打ったと思っています。私たちは昨年の 4月に「量的・質的金融緩和」を始めたときに逐次投入はしないと申し上げました。その方針は現在も変わっていないと私は思っています。ですから、今回はそういうことも踏まえて、現在取りうる最大限の追加緩和をしていますので、今後、何らかの理由で私たちの見通しが下振れるからといって、機械的に追加緩和をするというようなことはないと思っています。今しばらくは、この追加緩和をやったことで今後の経済物価情勢がどうなっていくのか、金融緩和の効果をしっかり見極めていきたいと思っています。
§19Question
今回の追加緩和の背景として、物価の下振れというのを挙げておりましたけれども、今回は5対4という非常に際どい採決で成立した訳です。白井委員が、もしそこで反対していれば、これは追加緩和が成り立たなかったということも言えると思うのですけど、どういうふうに採決されているかはよく判りませんが、その辺のいわゆる危機感、――もし自分が否決、反対したら水泡に帰してしまうみたいな――、そういった危機感みたいなものを感じられたのでしょうか。
§20Sayuri Shirai
私自身は、自分が今まで対外的にも説明してきたこと、個人的にずっと考えてきた考えに沿って追加緩和に賛同しました。ですから、結果的に、人数がどうなったということは問題ではないと思います。重要な点は、追加緩和をしなかったときにどうなっていたであろうか、ということだと私自身は思っています。先程申しましたように、やはり物価上昇率――消費税を除くコアな物価上昇率――は、4月の+1.5%をピークに徐々に落ちていました。上昇率が低下することは、既に我々も予想していましたが、予想した以上のペースで上昇率が低下している。それは、やはりコモディティ価格の急速な下落であったり、それから需給の回復ペースが緩やかであると、つまり需給ギャップの改善ペースが緩やかであるということもあったと思います。そういう状況の中で重要なのが予想物価上昇率であり、幾つかの関連指標が既に下がっている状況だった訳です。そういう状況で、経済・物価の中心的な見通しが下振れることを放置したときに、日本銀行の信認が問われると私は思いました。私たちは、何らかのリスク要因によって、中心的なシナリオに変化が生じ、2%の物価安定目標を実現するために、必要があれば、躊躇なく金融政策の調整を行うということを、ずっと説明してきました。それが問われていたと思います。私は、金融緩和の効果は現在もあると思います。
§21Sayuri Shirai
だからこそ、今は、やはり決めたことを、きっちりやっていくことが大事だと思っています。こういう異次元緩和と言われる大胆な金融緩和は、何度も出来るものではないです。また、確かに今私たちは、政府や企業の努力によって、潜在成長率を上げていって欲しいし、上げなければならないと思っています。しかし、2%のマイルドなインフレ率の実現というのは、これは金融政策によってしかできないのです。私たちが目標を掲げ、そのコミットメントをしっかり示していくことによってできる、そこが問われていたと思いますので、先程から申していますように、こういう物価上昇率が低下し、予想物価上昇率も低下しており、見通しも下振れるという状況で、何もしないということがもたらすことのマイナスの効果のほうが大きいと判断いたしまして――私は個人的には、挨拶要旨にも書いておりますし、前からも申し上げていますように、金融緩和の延長が望ましいとこれまで考えてきましたが、それ以上に日本銀行の信認を守ることが重要だと思いましたので――、今は、最大限の努力をして、2%の実現に向けて努力していくときではないかと思っております。
§22Question
10月31日の追加緩和と、白井委員ご自身のこれまでのご主張との整合性についてお聞きします。5月29日の那覇での講演・会見で、「我々は2%の達成を目指すときに、他のインフレーション・ターゲティングを採用している国と同じで、『フレキシブル・インフレーション・ターゲティング』を採用している」、「何が何でも絶対に2年で2%を達成するというものではない」とおっしゃっています。「もともと日銀の中心的な見通しからは1年遅い2%達成を見通していらっしゃるのに、なぜ『2年、2年』というふうに日銀全体が言っているときに、追加緩和をご主張されないのか」という質問に対してのお答えでした。ここでは、その「何が何でも絶対に2年で2%ではない」とおっしゃっていることと、フレキシブル・インフレ・ターゲットだとおっしゃっていることについてお聞きします。
§23Question
今回の 10月31日の追加緩和が、先程の地元の方々への説明会でも「なぜか判らない」という声があったとおっしゃっていましたが、それは当然でして、日銀としては「景気が緩やかに回復していて、先行きも回復基調が続く」、「前向きな循環がしっかり維持されている」と、そういう中で短期的に原油価格が下がったからといって追加緩和をすると、原油価格が下がること自体は日本国民のほとんどの人にとってはプラスであって、足もと物価が下がっても、先行き景気についてはすごく良いことだと、そういう状況で大規模な追加緩和をやるのは一体なぜなのかというのは、非常にごく自然な発想だと思います。そこで、今回10月31日に追加緩和に踏み切った理由について、黒田総裁がその後の講演でおっしゃっていますが、「デフレ自体を払しょくして人々の気持ちの中に2%を根付かせるためには、それなりの速度と勢いが必要だ」と、「これが日銀が2%の達成にこだわる理由である」と、「2%の早期達成のためにできることは何でもやる」とおっしゃっています。これはもともと白井委員がおっしゃっている「何が何でも絶対に2%ではない」という考え方とは非常に対極にある考え方ではないかと思います。つまり、インフレ・ターゲットというのは、今採用されているのはフレキシブルであるということを白井委員は何度もおっしゃっています。
§24Question
しかし、今回の日銀の追加緩和というのは、フレキシブルの対極にある、非常にリジッドなインフレ・ターゲットだというのが、おそらく世界中ほとんどの人たちの理解ではないかと思います。実際にフレキシブル・インフレ・ターゲットだということを重視されている佐藤委員、木内委員、石田委員、森本委員は、今回反対されています。今日の講演の中でも、インフレ・ターゲットはフレキシブルだとご指摘されていますが、10月31日の追加緩和に賛成して尚、「この今の日銀の金融政策はフレキシブルだ」とおっしゃられているということは、これは学者としての良心に反しないのかということをまずお聞きします。それともう一つ、もともと「2016年度までの見通しの終盤頃に2%に達する可能性が高い」とおっしゃっていた訳で、今回の原油価格が下がったということで、これが主な理由として日銀は追加緩和に踏み切った訳ですけれども、この原油価格が下がったということは、これは1年経てばほぼ中立になる話でして、物価に対する影響というのは1年で消えてしまう訳です。その後は、これまでの需給ギャップという面においても、この原油価格の下落というのはプラスに働いてくる訳です。
§25Question
これはつまり、2016年度に2%に達するという見通しをされている白井委員の見通しにはほぼ影響がないのではないかと思うのですけれども、そもそも、なぜこの短期的な原油価格の下落が白井委員の見通しに影響があり、それでこの追加緩和に踏み切らないといけないとなったのかがさっぱり判らないというのが2番目の質問です。
§26Sayuri Shirai
まず、私だけではなくて、日本銀行の基本的な立場として、フレキシブル・インフレーション・ターゲティングを導入しています。それは、総裁も今まで説明されてきたと思います。そのフレキシブル・インフレーション・ターゲティングというのは、何が何でもきっちりと、ある決めたカレンダーの日付で、2%を実現するということではありません。様々な予期せぬ色々なことが起きます。例えば、今回の場合、天候要因によって消費が打撃を受けるといったことが起きる訳です。アメリカの場合ですと、寒波があって1月から 3月にマイナスになったように、そういう予期せぬことが起こります。そういう時に、何が何でもあらかじめ決めた時期に、2%を達成するものではないということで、そういう時には柔軟に、成長のところも配慮しながら、インフレ目標、物価安定目標を実現しようという考え方は、日本銀行も全く同じだと思います。重要な点は、もう一度遡りますと、これまで「量的・質的金融緩和」をする前の日本銀行では、昨年の1月に、あらゆる角度から考えて、2%の物価安定目標を掲げることが大事だと決定した訳です。その時に、当時、我々が行っていた包括的金融緩和では、2%を達成できるというふうに思っていた国民、市場の方は、ほとんどいなかった訳です。
§27Sayuri Shirai
そういう中で私は、昨年3月に自分で議案を出して、30年までの長期国債を毎月5兆円程度買い入れていくオープン・エンドのやり方を提案し、否決されましたけども、その時もその私の提案では2%を達成できないというふうにみている方が多かったと思います。そういう中で、昨年4月に──日本銀行が2%を掲げたけれども「緩和度合いが足りない」と言われていたところに──、できるだけ最大限の努力をしてやってみようというのが「量的・質的緩和」であり、だからこそ私も賛同しました。その後、世界経済がなかなか回復しないというような事態も起きていますし――これは我々にとってだけではなくて、他の中央銀行も、他の政府も言っています――、予想以上に世界経済の改善ペースが遅いと、そういう状況になっています。そういう中で、少しずつ我が国の物価も、昨年の3月には、コアCPIでマイナス 0.5%だったのが、今はプラスで推移するようになってきて、少しずつデフレ脱却の目処が立ちつつあり、それから企業の収益も中小企業を含めて相当上がりましたし、需給ギャップもほぼ解消まできて、雇用も改善しています。欧米ではまだ労働市場のスラックが残っているのに我が国はスラックがないところまできました。企業も、大企業に関してはマインドが比較的高めですし、設備投資もやっていくというところまできています。
§28Sayuri Shirai
観光客も外国の方が沢山いらしてくれて、地方経済にもプラスになっていますし、色々な良い効果が出ていると思います。少しずつ前向きなリスクマネーも我が国で育ちつつあります。今はそういう途上にある訳です。そういう途上にあるときに――繰り返しになりますが、これは他の中央銀行でも同じだと思いますけども――、実は物価上昇率の低下というのは単に原油価格が下がったから、それは一時的なのだから問題がないのではないかとおっしゃるかも知れませんが、欧米の中央銀行でも、例えば足もとのガソリンの値段が下がっていることは、それは確かに実質可処分所得をプラスにするけれども、一方で、それが主因で物価上昇率が下がることによって、万が一にでも中長期予想物価上昇率が下がっていくことになれば懸念するとおっしゃっているのです。わが国と違って、予想物価上昇率が2%に安定している国ですら、そういうことをおっしゃっているのです。それくらい、単にガソリン価格の下落として軽視していないのです。どの中央銀行もデフレになってはいけないという気持ちが強くあって、それを回避するためにはできる限りのことをするということで、我が国でも今回はそれが問われていたのです。繰り返しになりますが、物価上昇率は 5月から低下し、その低下ペースは予想を上回っていました。今後、1%を割る可能性が高く、しばらくそれで推移する可能性が高いです。
§29Sayuri Shirai
そして、予想物価上昇率もこれまでは上昇のものがあって、横ばいのものがあるところが、横ばいのものと、下がっているものが増えていた。ですから、私は 10月初めの金融政策決定会合で警告を発した訳です。そのときは、「予想物価上昇率が全体として上昇している」という公表文に対して、事実とは違うのではないかと、実際のところは、「ここのところ横ばいの指標もみえる中で長い目でみれば全体として上昇している」という表現が正しいのではないかと、問題提起をしたくらい、私は懸念してきました。ですから、単にガソリンの価格が下がったということだけではなく、もっと大きな意味で物価上昇率の低下というのが、需要の回復の遅れによっても起きている訳です。そういう状況を放置することで、日本銀行は、「結局は政策を掲げて途中で放棄したのか」、「途中でやはりデフレ脱却の意思を失ったのか」と思われ、信認の喪失がもたらす状況を想定したときに、そういう状況を回避するために、今回の追加緩和をする方がはるかに重要だと判断した訳です。11月17日に7~9月期のGDPの第1次推計値が公表され、前期比マイナス 1.6%となったことは、確かに予想外の回復の遅さでした。それを確認したときに、私は、ますます 10月末の追加緩和が最適なタイミングでの判断であったと確信いたしました。
§30Question
原油価格は、また足もとで一段と下がっている訳です。これまたどんどん下がっていけば、追加緩和をしなければいけないという状況にはなるのではないでしょうか。
§31Sayuri Shirai
先ほどお答えしましたように、私たちは、逐次投入をしないという原則を持っており、現在もそれは生きていると思います。ですから、現在とりうる最大限の追加緩和をしたと私は理解しております。経済物価情勢については、私の挨拶要旨に書かれていますような、 ――私はどちらかというと慎重な見方でしたが――、その慎重な見方をさらに幾分、下方修正するような状況になっているかと思います。今後のGDPの二次推計値もみながら判断していきたいと思いますが、追加緩和については先ほど申しましたように、下方修正がある度にやるというものではないと思います。それをしないためにも最大限の金融緩和をやったと思っていますので、今重要な点は、この金融緩和の効果をみていくこと、経済物価情勢を慎重にみていくことだと思っています。以上