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Bank of JapanPress conferenceDec 4, 2014Takehiro Sato, Board Member

佐藤審議委員記者会見(2014年12月4日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の懇談会でどのような意見のやりとりがあったのでしょうか。それを受けての佐藤委員の高知県の経済状態や景気についての受け止め方をお聞かせ下さい。

§2Takehiro Sato

本日の懇談会では、高知県の各界を代表する方々から、地域の金融経済の現状や課題、あるいは日本銀行の金融政策運営に関する貴重なお話やご意見等を数多くお聞かせ頂き、非常に有意義な意見交換ができたものと認識しています。まずは、ご出席頂いた方々や関係者の皆さま方に深くお礼を申し上げます。本日の懇談会では、ご意見が多岐にわたりましたため、全てを網羅してご紹介することはできませんが、私なりに席上で聞かれた話題等を整理して申し上げます。まず、当地の経済が直面する課題として、県内人口の減少やそれに伴う長期的な県内経済の成長鈍化・縮小への懸念にかかる話が聞かれました。例えば、地元企業では、人口減少・高齢化による休廃業が相対的に多いほか、第一次産業の担い手も減少しているといった話がありました。また、こうした人口減少が市場規模や雇用の場の減少につながり、若年層を中心としたさらなる人口減少が進んでいることから、雇用の場の受け皿を早急に確保する必要があるとの話が聞かれました。一方、この点に関しては、当地の取り組みとして、地元企業の販路拡大や商品開発、事業再生などへの積極的なサポートや取組みを行っているとの非常に心強い話も伺いました。また、最近の高知県経済は、全体として改善傾向にあるが、そのテンポは鈍化しているとの話が聞かれました。

§3Takehiro Sato

雇用・所得の面では、有効求人倍率が過去最高水準で推移し、賃金も上昇するなど改善がみられるとの話があった一方で、夏場の天候不順や、為替円安や人手不足等によるコスト高や生活用品の価格上昇が企業収益や消費に与える影響について、懸念が聞かれました。このほか、有効求人倍率が過去最高水準であるものの、その水準は全国平均と比べて低水準にありますし、所得面でも業種ごとにバラつきがあるといった話もありました。一方、為替円安の影響については、当地の特徴として、輸出型産業のウエイトが相対的に小さいことから、全国と比べて輸入資材や生活用品の価格上昇などのマイナス面の影響がみられるとの話が聞かれました。私どもとしましては、高知県内の金融経済情勢について、高知支店を通じて今後もきめ細かくモニタリングを続け、中央銀行の立場から経済の持続的な成長の実現や金融システムの安定性の確保を図りながら、高知県経済を支える関係者のご努力が、より大きな成果へとつながっていくようサポートしていきたいと考えています。それから高知県の景気についての現状認識につきましては、消費税率の引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられていますが、基調的には緩やかに回復しつつあると考えています。

§4Takehiro Sato

すなわち、個人消費は、消費税率引き上げ前の駆け込み需要の反動減が続いているほか、観光を含め夏から秋にかけての荒天の影響もみられていますが、労働需給面においては改善の動きが続くもとで、基調としては底堅い動きとなっていると思います。また、公共投資も高水準で推移しているほか、企業マインドが底堅く推移する中で、設備投資も持ち直しの動きがみられています。先行きも、消費税率引き上げに伴う影響、あるいは海外経済の動向といったリスク要因には注視する必要があると思いますが、企業収益や所得環境の改善、企業の設備投資の増加といった、生産・所得・支出の好循環の影響が徐々に波及していく中で、緩やかな回復の動きが続くと考えています。

§5Question

高知県は各種経済指標が全国でも最低クラスのものが多いですが、こういった地方にも、現在の日本銀行が行っている金融緩和政策が波及しているかどうか、その受け止め方をお聞かせ下さい。さらに、どうすれば高知県のような地方がさらに波及効果を受けて、景気浮揚していくとお考えでしょうか。

§6Takehiro Sato

「量的・質的金融緩和」の拡大に関して、県内経済への影響ですが、様々な見方があるということは承知しています。その上で、一般論として申し上げますと、これまでデフレのもとでは、価格の下落、売上・収益の減少、あるいは賃金の抑制、消費の低迷、価格の下落という悪循環が続いていたわけですが、「量的・質的金融緩和」によって、デフレマインドの転換が実現しますと、緩やかな上昇を起点として、売上・収益の増加、賃金の上昇、消費の活性化、さらに価格の緩やかな上昇という形で、経済の好循環が実現できると考えております。その移行期間においては、この高知県内においても、業種や企業規模、所得環境等によって、メリットやデメリットが異なった形で現れることは避けられないと思います。ただし、デフレマインドの転換ということが実現すれば、そのメリットは幅広く行き渡っていくものと考えております。

§7Question

本日の挨拶要旨の県経済の現状と課題に、「高知家」(こうちけ)というブランドの下で、県内産業を持続的に発展させる本戦略には、大変な熱意と意欲を感じる」と書いてありますが、その「高知家」ブランドというものに期待すること、あるいは、今後こうしていけば県内経済は良くなるのではないかという見解をおっしゃって頂きたいです。

§8Takehiro Sato

高知県経済の特徴点としましては、全国平均と比べ製造業のウエイトが小さく、従って、輸出のウエイトも小さいといった特徴点があると思います。いわば輸出型産業のウエイトが小さく、どちらかというと内需主導の経済であるといった特徴点があると思います。そういうことですので、昨今の経済情勢に鑑みますと、輸入コストの上昇の影響が、どう県内経済に影響してくるかということは十分に注視していく必要があると考えております。その一方で、現在、高知県において注力されている県産品、例えば柚子とか日本酒等ですが、そういったものの輸出競争力は、足許の円安を受けると価格競争力がついてきますので、輸出が行いやすい環境になっていくと思います。そういう点では、製造業のウエイトが小さいとはいえ、この「高知家」ブランドを今の市場環境の下で伸ばしていく潜在力はあると思いますし、県あるいは高知市におかれましても、こういった努力を全国に先駆けてかなり積極的に展開していると理解しておりますので、その成果に期待しております。

§9Question

2 点お伺いします。1 点目は、原油価格ですが、昨今の動きをみていますと減産ということは暫くなさそうなので、市況は下がる可能性が高いと思いますが、CPIについても 0.5%、0.4%ぐらいに下がるという見方も出ています。佐藤委員のご意見からしますと、供給要因の物価下落というのは長期的には日本経済に対してポジティブですので、これに対する政策対応、追加緩和は必要ないというご見解かと推察しますが、この点確認させて頂けますでしょうか。2点目は、景気ウォッチャーのようなマインド系の指標が少し弱い理由というかコメントとして、消費増税と天候に加えて、円安も言及され始めているということを懇談会で触れられていらっしゃいますが、これは、円安がある種、実質所得の下押しを通じたマイナスのスパイラルの起点にもなりつつあるというご懸念を表明されたということなのでしょうか。

§10Takehiro Sato

まず、ここもとの原油価格の下落が日本経済に与える影響としましては、これは午前中の挨拶要旨でも触れましたように、日本経済にとって明確なプラス要因であると判断しております。もちろん、目先の消費者物価指数――生鮮食料品を除いたコアに関してですが――、これはエネルギー価格を含んでおりますので、若干の円安のもとでも原油価格の下落の影響のほうがより大きく出てくるということで、目先は伸び率がさらに鈍化する可能性はあるかと思います。ただ、今申し上げましたように、原油価格が供給要因で低下するということはある意味では日本経済にとって絶好の追い風が吹いているということも事実です。この追い風をうまく経済に均てんさせていくことが必要なのでありまして、そうしたことが実現する暁には、長い目でみた時には、物価にもプラスに作用していくものであると理解しています。そういう点で、目先の消費者物価の下落ということに過度に焦点を当てる必要はないものと考えています。それから、マインド系の指標、すなわち、ここもとであれば景気ウォッチャー調査ですが、こういった指標が若干弱めの動きを示しているということについても挨拶要旨で触れましたように最近の動きを注視しています。

§11Takehiro Sato

その中で、各ウォッチャーのコメント等を拝見しますと、強気のコメント、弱気のコメント色々あるわけですが、弱気のコメントの中には、挨拶要旨で指摘したような、3 つの要因というものが特に目立っている、その中でも円安への言及ということが目立っているということです。為替について、日々の動きについて私の立場から具体的なコメントを申し上げるのは差し控えますが、ごくごく一般論として申し上げますと、円安というのは輸出の増加やグローバルに展開している企業の収益の改善につながることでありますし、株価の上昇といったプラス効果も生むと思います。その一方で、輸入コストの上昇あるいはその価格転嫁を通じて中小企業や非製造業の収益や、家計の実質所得に対する押し下げ圧力として作用するという面もあるわけです。というわけで、円安の影響ですが、これは経済主体によって様々に異なり得るということでして、どちらか一方の見方というのはとりにくいと思います。いずれにしましても、為替相場というのは経済あるいは金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移するということが望ましいわけでありまして、今後とも為替相場の動きを含め、金融資本市場の動向については、それが実体経済に及ぼす影響も含めて、引き続き注意深く見ていきたいと思います。

§12Question

先般、佐藤委員は、ロンドンでの講演後の質疑で、財政健全化は金融緩和の成功の前提だということをおっしゃられて、今日の講演でも同じ趣旨のことを言及されていると思います。追加緩和で金利を押し下げることは、財政健全化へのコミットメントを弱める方向に働くとも考えられますし、その中で増税先送りが決められて、それに反対する党がない中で選挙が行われることになっていて、佐藤委員のおっしゃるような懸念が今後顕在化してくるようなリスクが高まっている方向ではないかと思いますが、改めて追加緩和に踏み切ったことは、正しかったのか、誤りだったのか、その点をお伺いしたいと思います。また、財政健全化への努力という点について、より詳しく敷衍して頂ければと思います。

§13Takehiro Sato

追加緩和に関して、私は 10月31日の会合で反対票を投じたわけですが、理由としては大きく 3 つあります。第1に、「物価安定の目標」は、そもそも柔軟な目標であり、特定の期限を区切って特定の物価上昇率を目指すといった考え方は、中央銀行の政策運営のあり方としては馴染まないと考えました。第 2 に、中央銀行による資産買い入れが過大ですと、ご指摘のような財政従属といった懸念を市場から持たれやすい、と考えたことであります。そういう意味で財政健全化が重要であるということです。第 3 に、追加緩和に踏み切る際のリスク認識が、そもそも異なっていたということです。ご質問は、まず財政のことでしたので、その点に関してお答えしたいと思います。2 番目の点でございます。国債の市中グロス発行額の約 9 割を日本銀行は今買い入れていますけれども、こういった買い入れは過大であると考えています。本行はこれを金融政策として買い入れており、また市中から間接的に買入れているということでして、直接的な財政ファイナンスではないとみています。ただ、仮に、マーケットがこれを財政ファイナンスであると判断すれば、例えば日本が経常赤字に転落するといった条件次第では、リスク・プレミアムは拡大する可能性があるということです。

§14Takehiro Sato

そういった事態が仮に顕在化した場合に、本行が国債買入れを増やして名目金利の上昇の抑え込みを図ろうとしても、かえって事態を悪化させる可能性があると考えたわけです。政府が消費税率引き上げの延期を表明して、2015年度までのプライマリー・バランスの半減目標、2020年度までの黒字目標の達成が厳しくなるという声が聞かれる中で、市場は政府の財政健全化へのコミットメントが本物かどうかを改めて注視していると思います。財政健全化議論に関して付け加えますと、これも一般論ではありますけれども、国全体として財政運営に対する信認を確保していくことが非常に重要であると考えています。この点、政府は「中期財政計画」において、数値目標とその達成に向けた取り組みを明確に示していますし、税制や歳出のあり方など財政運営の内容については、私の立場からコメントすることは差し控えますが、日本銀行としては、こうした計画に沿って持続可能な財政構造を確立するための取り組みが着実に進められていくことを期待していますし、その進捗状況については、先程も申し上げたような問題意識から、注視していく必要があると考えております。

§15Question

10月31日に、佐藤委員は、景気回復の前向きなメカニズムが基本的に維持されているということを言われています。足許、懇談会の中で言われていた、輸出の動向、円安のマイナスの影響、マインドの影響、IMF成長率が下振れていることなどを考えると、メカニズムそのものが維持されていると言い続けることが無理のような状況かもしれないのですが、その点、現状をどのようにみていらっしゃるのでしょうか。また、佐藤委員が追加緩和を決める・決めないのポイントとして、現状のメカニズムが壊れれば、様々なことを考えて、追加緩和に前向きになるかもしれないという理解でよいのか、お伺いします。

§16Takehiro Sato

景気認識に関して、あるいは先行きの見通しに関してということですが、講演挨拶要旨でも触れましたように、前向きなメカニズムは基本的に維持されていると考えております。もちろん、ご指摘がありましたような、様々な逆風があることも事実です。海外要因でみますと、このところのユーロ圏経済の回復テンポの鈍化、あるいは一部の新興国経済のスタグフレーション的な状況あるいは成長の鈍化、国内的には円安──これは、メリット・デメリットが複合的にありますので、一面的な見方がなかなかできませんが──も、1 つの逆風であることは事実かと思います。そういう状況を受けて、ここもとマインド面でもやや慎重な動きがみられているということは、注意深くみていかなければいけない点かと思います。ただし、雇用・所得環境に目を転じますと、失業率は 3%台半ばで、ほぼ構造失業率まで低下してきていますし、労働需給もみても有効求人倍率は非常にタイトな状況が続いています。そういう中で、名目所得は、伸び率としては税率引き上げを考えるとまだまだ十分ではないかもしれませんが、着実に伸び率を高めつつある状況だと思います。しかも、生産・輸出は、今までは円安の割には動きが非常に鈍かったわけですが、直近の輸出統計をみますと、漸く輸出にも明るめの動きが出てきています。

§17Takehiro Sato

鉱工業生産統計をみますと、この10-12月期については、経済産業省の予測指数を単純につなぎ合わせてみますと、前期比 3%程度の伸びが期待できます。この通り実現するとは思いませんが、本行のミクロベースのヒアリング調査結果をみても、緩やかな生産の持ち直しが 10-12月期、1-3月期にかけて続くとの見通しになっています。確かに、回復力は当初考えていたほど強くはなかった、しかもGDP統計が 2 四半期連続でマイナスに振れるといったこともあり、とかく弱めのGDP統計の後ですので、景気の見方というのは弱気に振れがちだと思いますが、私の認識としては、夏場に最悪期は脱したと考えていまして、その後は、持ち直しの力が徐々に強まっていく過程にあると考えております。それから、2 点目のご質問、リスク認識に関するご質問については、10月末の会合での私の投票行動にも関わることですので、少し付言します。「量的・質的金融緩和」拡大の主たる理由ですが、これは本行の対外公表文にあるように、最近の原油価格の下落が物価の下押し要因として働く中で、これまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延するリスクの顕現化を未然に防ぎ、好転している期待形成のモメンタムを維持するためということであったわけです。

§18Takehiro Sato

ただし、先程申しましたように、原油価格の下落、これは他の主要国と同様、家計・企業の実質購買力の増大に資するということで、日本経済にとっては明らかに追い風です。中長期的にも物価の安定に資すると思います。ということで、原油価格の下落は、基本的には緩和強化の理由としては適切でないと判断致しました。それから、足許の状況が、ご質問にあったように、追加緩和を必要とするほど下方リスクが強いかどうか、すなわち、リスク認識の程度についてでありますが、私としては、経済・物価情勢について、「上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う」という、対外公表文に示されたリスク要因というのは、例えば、リーマンショックや欧州債務危機など、世界経済の安定性を揺るがす著しいリスク要因が顕在化する、あるいは顕在化しそうな状況というのがフォワードルッキングに見えてくるような状況を念頭に置いているのであり、例えば、GDP成長率や物価の見通しがコンマ数ポイント下振れる、という話を念頭に置いているわけではないわけです。経済・物価情勢全般を点検する中で、経済・物価が、「物価安定の目標」の実現のパスに引き続きあるという判断であれば、「量的・質的金融緩和」は一定の役割を果たしていると評価できるのではないかと思います。

§19Takehiro Sato

その点、「物価安定の目標」の達成状況の吟味にあたっては、これも挨拶要旨で述べた通り、人々の行動様式が 2%程度の物価上昇を前提としたものに変化していく、あるいはそういう見通しになるかどうかというのが重要なのであって、月々の物価上昇率、消費者物価上昇率の動きに過度に焦点を当てて、政策を紐付けるということは適切でないと判断しています。

§20Question

2 点お伺いします。まず、佐藤委員ご自身の予想をお伺いしますが、コアCPIでみた前年同月比が 2%に達する時期というのは、大体どのくらいになるとお考えでしょうか。もう 1 点ですが、先程国債の購入額が過大であるとおっしゃったと思いますが、それではなぜ 11月のMPMで、例えば購入額の減額をご提案されたり、現在のQQEの継続に反対されたりといった行動に出られなかったのでしょうか。

§21Takehiro Sato

まず、消費者物価上昇率の予想に関して、私自身の見通しについては、展望レポートの中で数字としてあげていますが、これは総裁が定例会見でも触れているとおり、私自身の見通しは政策委員会の見通しの中心値よりやや慎重な見通しを示しています。具体的に 2%に達する時期についても、既に議事要旨の中に明らかにされているように、私自身はこの見通し期間の中盤頃に 2%を見通せるようになる、という議案を提出しています。要は、アウトカムとして 2%を評価するのではなくて、基本的にはフォーキャスト・ベースで、経済・物価情勢がその「物価安定の目標」のパスにあるということであれば、それはそれで政策の使命を果たしているのではないかと考えています。ですから、具体的な時期につきましては、特に言及は避けたいと思います。それから 2 点目のご質問ですが、前回会合で金融調節方針について賛成票に転じた理由ですが、これも 11月の金融政策決定会合後の総裁定例記者会見で説明がありましたが、政策委員会として、いったん決定した政策について短期間で変更することは、日本銀行の政策運営に対する信認を損なうものであるなどの判断から、熟慮の上、賛成票を投じました。ただし、10月31日の金融政策決定会合で「量的・質的金融緩和」の拡大に反対票を投じたことは、今も適切な判断であったと考えております。

§22Takehiro Sato

ただ、一般論として、政策委員会でいったん決定した政策については、審議委員も日本銀行の役員として執行に責任を負う立場にあります。また、マーケットは拡大された「量的・質的金融緩和」を前提とした価格形成に既になっており、先程申しましたように、短期間で以前の「量的・質的金融緩和」に戻ることはもはや現実的でないですし、政策運営の信認にも関わることであります。従って、改めて以前の「量的・質的金融緩和」に戻すことを求める考えは、現時点ではございません。次回以降の政策継続の是非につきましては、経済・物価情勢を点検していく中で、決定会合の都度、引き続き熟慮を重ねた上で判断して参りたいと思います。

§23Question

挨拶要旨において、中央銀行が物価を操作することはできないとか、特定期間の中で特定の上昇率を目指す考えについては違和感を持っていると、そのような趣旨が書かれていたと思いますが、この表現の真意・考えについてお聞かせください。

§24Takehiro Sato

私自身の物価に対する考え方は、他の主要な中央銀行の考え方とさほど相違はないのではないかと思います。すなわち、物価について、中央銀行が直接的にマネタリーベースを変化させることによって影響を及ぼすことができるかどうかということは、なかなか深淵な問題であります。要は、その波及メカニズムということです。一つの波及メカニズムとしては、あらゆる市場における資産価格の価格形成に影響を及ぼすことによって、間接的に物価に影響を及ぼそうということは、あり得ると思います。為替市場の動きはその一例でありますし、株価、あるいは資産価格という広い意味で言うと地価とか不動産価格といったものも需給ギャップの変動を通じて、最終的には物価に影響を及ぼし得るということです。ただし、その物価に影響を及ぼすそのトランスミッション・メカニズム──波及のパスですが──は、非常に迂遠なものがありまして、仮に金融政策で資産価格を動かし、それが実際の物価に波及するとしても、それが相応のタイムラグを伴うということです。

§25Takehiro Sato

ですから、日本銀行としては、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に 2%の「物価安定の目標」を実現することをマンデートとして掲げていますが、私としては、2年程度ということで、特定の期間を区切って、特定の物価上昇率を目指すことが、果たして中央銀行のやり方として正しいのかどうかということについては、かねてから疑問を持っていますし、実際に昨年1月に「物価安定の目標」を日本銀行として政策委員会の中で機関決定した際には、反対票を投じています。要は、そういった特定の期間内に、間接的に物価に影響を及ぼそうとしてもなかなか実現できるとは限りませんし、仮に実現が困難になった時に、その政策の信認はかえって低下するリスクがあると思います。そういう点で、私としては、「物価安定の目標」というものは、結果にコミットするというか、硬直的な枠組みではなく、上下に幅のあるフレキシブルな概念としてみるべきであると考えています。

§26Question

午前の講演で、消費税再増税の延期に関連して財政健全化の重要性を説明されています。一方で、黒田総裁は、必要があれば追加の金融緩和に踏み込むということもおっしゃっていますが、佐藤委員としては、消費税再増税が延期された状態であれば、追加緩和のコストとベネフィットの観点からみて、さらに踏み込むというのはかなりハードルが高くなっているということになるのでしょうか。

§27Takehiro Sato

消費税の増税、あるいはその増税の延期と金融政策を直接紐付ける理由というか必要性は乏しいと思います。すなわち、日本銀行は金融政策として、あくまでも「物価安定の目標」の実現のために現在の「量的・質的金融緩和」を続けていくという判断でありますし、政府は政府として、持続的な財政基盤の確立に向けた不断の努力をすることが必要なわけでありまして、お互いの役割については昨年1月の共同声明の中にも明確に書かれています。ですから、本行としては本行に与えられたマンデートに沿って行動するということであって、それは政府の財政政策、なかんずく消費税率云々ということに紐付けられるべきものではないと考えております。

§28Question

挨拶要旨において財政について語られている箇所で、「仮に市場で政府のコミットメントに対する疑念が高まれば、その影響は国債市場におけるリスク・プレミアムの拡大として現れるであろうが、それに対する中央銀行の処方箋は限られる」とおっしゃっています。限られるということは、あるということをおっしゃっているのではないかと思いますが、あるのであれば、どういうやり方があるのでしょうか。また、今回の追加緩和に反対されている理由として、購入額が過大であるとか、財政規律が低下しているなかで、財政従属の懸念をもたらすということですが、もうちょっとこの反対された理由を考えると、出口が難しくなっていくということにもつながるのではないかと思います。反対された方の責任としても、この出口というものが、どのようなハードルがあるのか、どのように難しいのか、そしてどういう方法があるのかというのを、もっともっと語っていくベきではないかと思います。黒田総裁の公式見解としては、時期尚早であると繰り返されています。佐藤委員ご自身、今回反対された方の責任としても、今までよりも、より明確に出口について語っていくべきではないかと思うのですが、如何でしょうか。

§29Takehiro Sato

リスク・プレミアムが拡大する可能性は、あくまでも可能性の話でありますし、それに対して中央銀行がどういう対処方針を示すかということ、これもあくまでも可能性の話でありまして、いずれも仮定の議論であります。ですから、処方箋が限られると申しましたのは、処方箋がまったくないということではないのですが、打てる手は限られているということです。具体的には、そうしたリスク・プレミアムの拡大に対して中央銀行が、ごく一般論として、資産の買い入れを増やす、すなわち国債の買い入れを増やすということで対応するということは考えられるかもしれませんが、市場が財政の持続性に対する疑念を持つなかで、仮に中央銀行がそうした買い入れの拡大で対処するとしても、果たしてそれで市場のリスク・プレミアムがうまく抑えられるかどうかについては、なんとも言い難い部分があると思います。それから、追加緩和に関して、もう一言申し添えたいと思います。反対理由として申し忘れたことですが、昨年4月の「量的・質的金融緩和」開始時の対外公表文では、本行が 2年程度の期間を念頭においてできるだけ早期に「物価安定の目標」を実現するということにコミットしたわけです。私の理解では 2年程度の期間というのは、あくまでも念頭に置く努力目標であって、特定の達成期限を示すわけではないと考えています。

§30Takehiro Sato

むしろ、できるだけ早期に、という現実的な目標を掲げたが故に、私としては昨年の 4月に「量的・質的金融緩和」に賛成票を投じたのであって、そもそも 2年での達成ということをコミットすることに同意したわけではありません。先程の繰り返しになりますが、特定の期限を区切って中央銀行が物価の押し上げを狙おうとしても効果は一時的に止まる可能性が高いと思いますし、そこでさらに物価を押し上げようとすれば、一段の金融緩和を繰り返すことになり、結局は長い目でみて、中央銀行の物価安定に向けた信認が問われることになると思います。加えまして、日本銀行の政策運営の枠組みは、物価安定のもとでの持続的成長を実現する観点から、経済・物価の現状・見通しに加えて、金融面での不均衡を含めた様々なリスクも点検しながら運営してきているということであります。既に市場金利は極端に低下しており、金融機関のマージンは先行き一段と圧迫されると思います。そういう中で、短期的な物価の安定を優先しすぎると、長い目でみると、先行き金融システムは不安定化していき、ひいては、中長期的な物価の安定が損なわれる恐れがあると考えました。それから、出口に関してもっと語るべきではないかというご質問ですが、基本的には出口の状況ということに関しては、その時点の経済・物価情勢次第ということに尽きるのではないかと思います。

§31Takehiro Sato

もう少し具体的に出口の手段、あるいは手続き、これを明示せよという声があることは承知していますが、これはどの中央銀行にも共通して見受けられる課題ですけれども、透明性と柔軟性のトレードオフの問題がどうしてもあると思います。すなわち、出口を語ることでその手続きにおいて透明性を高めようとすればするほど、将来の政策の柔軟性が失われるということですし、あるいは透明性を高めようと努力しても、その後の経済情勢の変化によって、そういったルール・ベースの政策変更ルールが結局取り下げを余儀なくされてしまう例が実際に海外の中央銀行ではみられています。そういう点で、基本的に私としては、出口の問題に関しては、いざ中央銀行がそれについてコミュニケートを始める時には、その時々の経済・物価情勢に応じて、臨機応変に考えていくしかないのではないか、予め決められた手続き・ルールに則って、あるいは経済指標に則って、機械的にやっていけばできるという単純なものではない、と思います。

§32Question

出口について、具体的なスケジュールとか段取りだけではなくて、例えば日銀のB/Sにどれくらいのダメージを与え得るかとか、日銀納付金ということで、ある種国民の資産に関わる話なので、そういうことはやはり語っていく義務があるのではないかと思いますが、如何でしょうか。FRBなどは随分早い段階から、こういうことは試算として出していると理解しています。

§33Takehiro Sato

それについて語ることも、それによってどのような波及効果があるかということを常に慎重に考えながら進めていく必要があると考えています。それも含めて、この透明性を高めていくかどうかという問題、これは諸外国の中央銀行が共通して抱えている悩みでありまして、私どもとしても、この透明性と柔軟性のトレードオフの中で、より良い均衡点をみつけていくように努力していきたいと思います。以上