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Bank of JapanPress conferenceMar 5, 2015Takahide Kiuchi, Board Member

木内審議委員記者会見(2015年3月5日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の金融経済懇談会でどのような意見交換が行われたのか、また、懇談会における各界からの発言も踏まえつつ、群馬県の景気の現状と先行き見通しについて、どのように考えていらっしゃるのか見解を伺いたいと思います。加えて、群馬県では、「富岡製糸場と絹産業遺産群」の世界遺産登録や北陸新幹線の金沢延伸などが話題としてありますが、これらの経済効果に関するご見解も併せて伺いたいと思います。

§2Takahide Kiuchi

第 1 のご質問ですが、本日の金融経済懇談会では、当地の各界を代表する方々から、地域経済の現状や課題、それらに対応するための行政・経済界・金融機関の取組み、さらには、日本銀行の金融政策運営に関するご意見などを数多く頂戴し、極めて有意義な意見交換ができたと思っております。本日ご出席頂きました皆様に、まず感謝申し上げたいと思います。懇談会でお伺いしました意見を、私なりに整理してご紹介したいと思います。加えて、当地の経済に対する私の現状認識、印象を併せて申し述べたいと思います。まず、足許の群馬県経済の現状についてですが、前橋支店の景気判断のとおり、「緩やかな回復基調にある」とみております。個人消費や住宅投資が底堅く推移し、公共投資が高めの水準で推移する中、輸出が増加し、設備投資、生産が緩やかに増加しているほか、雇用・所得も緩やかに改善しています。本日の懇談会では小売業を中心とする消費に弱めの動きがみられるという声も聞かれましたが、ご出席の方々からはこうした景気の現状について、概ね同様の認識が示されたと思います。また、今後の群馬県の見通しについては、基本的には、全国と同様に、足許の回復が続くものとみております。その際、当地の場合、自動車など輸出関連企業が数多く集積している地域ですので、海外経済の情勢、為替相場の動向についてとりわけ注意してみていく必要があると思います。

§3Takahide Kiuchi

こうした中、地域の課題としては、円安による輸入原材料価格の上昇などの影響から、中小企業を中心に依然として厳しい経営状況にある先が存在しており、景気回復の恩恵が当地の中小零細企業まで十分に浸透していないのではないかとの声が多く聞かれました。その一方で、今回の懇談会においては、当地の強みである「ものづくり」と成長産業と期待される医療とをマッチングする「群馬がん治療技術地域活性化総合特区」をはじめ、産官学さらには金融機関が一体となった群馬県経済の発展に向けた取組みについても様々にお伺いすることができ、大変心強く感じたところです。私としては、そうした取組みによって、群馬県経済が今後とも益々発展し、ひいては日本経済全体の成長力強化に繋がっていくことを期待しています。また、日本銀行としても、中央銀行の立場から、経済の持続的成長の実現や金融システムの安定確保を図りながら、群馬県経済を支える関係者のご努力がより大きな成果へ繋がっていくようサポートして参りたいと思っています。2 番目のご質問ですが、群馬県では、ご質問にあったとおり、現在、様々な「追い風」が吹いており、全国的に群馬県に対する注目度が高まっていることを十分に認識しています。そして、これらの「追い風」は、観光面を中心に相応のプラス効果があるのではないかと考えています。

§4Takahide Kiuchi

富岡製糸場関連につきましては、「今回の世界遺産登録をきっかけに来場者が増加している」、「市内中心部で新規出店もみられている」と伺っております。また、群馬県は、温泉地や豊かな自然などの観光資源が本来多く存在しており、県内の行政や企業、経済団体の皆様がPR活動を中心とした様々な取組みや努力をされていると聞いています。また、交通網の更なる充実により、地の利を生かすことで、群馬を「人、もの、情報」の結節点として、その拠点性を高めていこうとされているとも伺っています。今後、こうした様々なご努力が、より大きな成果に繋がっていくことを期待しています。

§5Question

2 点お伺いします。懇談会でも詳細に述べられていますが、追加緩和の副作用について、何を一番心配されているのか、改めて教えて下さい。昨年10月末の「量的・質的金融緩和」の拡大に反対した理由だけではなく、さらに拡大するような話が執行部で出てきた時に、どういうリスクが一番心配なのか。特に一般の人の生活に及ぼし得る事象として何があるのか。最近、債券市場では金融と財政の両方が緩みきっている中で、先週NHKで預金封鎖の特集番組が放送されるなど、だんだん警鐘を鳴らす声も出てきていますが、分かりやすくお願いします。2 つ目は物価ですが、 CPIが数字の上ではゼロとかマイナスになる可能性が十分あると思うのですが、今のところ順調な期待インフレ率、人々の価格設定行動に影響を及ぼし得るのか、あるいはその点はあまり心配しなくてよいのか、ご見解をお願いします。

§6Takahide Kiuchi

第 1 の点ですが、私自身が追加策に反対したのは、一言で言いますと、効果と副作用を比較考量して、副作用の方が効果を上回ると判断したからです。こうした判断に際しての考え方は、もともと 2年程前に「量的・質的金融緩和」を導入した時から変わっていません。当初はもちろん効果が副作用を上回るという判断で導入に賛成しましたが、この政策を続けていけば、効果については徐々に低減していくだろうと考えていました。一方で副作用は低減していかないとすると、どこかの時点で副作用が効果を上回り、妥当ではなくなる時期がやってくると考えていました。だからこそ2年程度を目途に一旦立ち止まって、効果と副作用を冷静に比較考量して、必要であれば見直しをすべきであると言って参りました。昨年10月末に追加策に反対したのは、まさにこうした考え方の延長線上です。追加策をしなくてもどこかの時点では副作用が効果を上回ると思っていましたが、追加策の実施によってタイミングが早まったということです。副作用に関するご質問でしたが、効果についても一言申し上げたいと思います。政策効果としては、実質金利の低下が重要な源泉だと考えていますが、名目金利は相当下がってさらなる低下余地が小さくなっている一方で、世界的にインフレ期待が高まりにくい中、実質金利の低下余地は狭まってきていると思います。

§7Takahide Kiuchi

足許での国債市場の混乱は、ある意味、実質金利を安定的に下げていくことがやや難しくなってきた可能性を示していると思います。効果については非常に大きなものはなかなか期待できない一方、副作用についてはさらに大きくなると考えています。副作用としては、私自身は国債市場を通じた副作用を特に警戒しています。現時点では、国債市場で非常に大きな副作用が明確にみられているわけではありません。しかし、将来のどこかの時点で非常に大きな問題として表面化する可能性があり、表面化してしまってからでは手遅れであるといった類の副作用を個人的には一番心配しています。もう少し具体的に申し上げると、実体経済で決まるべき水準よりもう少し低い水準に金利が誘導されている可能性があり、その結果として政策効果が生まれているわけですが、それが行き過ぎると、例えば国債の売買が非常に細ったり、流動性が低下したりします。そうすると、何かイベントがあると金利が大きく上昇したり、ボラティリティーが非常に高まったりします。金利が非常に大きく上がれば、例えば住宅ローンの金利が非常に上がってしまうとか、急速に円高方向への巻き戻しが起こるとか、それに合わせて株価が下がるといったこともあり得るわけで、これらは我々の生活にも大きく関係します。

§8Takahide Kiuchi

また、国債市場の金利水準が経済ファンダメンタルズからみた水準と乖離している、金利がある意味で歪められているということは、国債市場はいろいろな金融資産の価格形成のベースになるので、いろいろな金融資産・商品の価格が影響を受けて歪められている可能性があります。これは金融不均衡、いわゆるバブルに繋がり得るものです。金融不均衡の形成過程で、例えば株が大きく上がると、その時点ではもちろん良いわけですが、いずれ何かをきっかけに大きな巻き戻しが起きると、バブル崩壊というかたちで我々の生活にも非常に大きな問題に繋がってくることがあり得ます。こうしたことが起こらないように、十分に配慮しながら政策運営をしていくことが重要だと考えています。金融政策は効果を最大限にすることだけを目指すのではなくて、効果と副作用のバランスを最大限にすることが重要ですので、副作用にも十分注意を払って政策運営をしていく必要があると思います。「量的・質的金融緩和」は、この 2年のタイミングで、政策の重点について、効果を最大限にするという意識から、より副作用に目配りをする方へと、リスク管理の比重を高めていく必要があるのではないかと考えています。

§9Takahide Kiuchi

2 番目のご質問ですが、個人は物価指数の動きを毎月細かくみて、それによって期待インフレが形成されていくわけではありませんので、原油価格の下落により一時的にコアCPIが前年比でゼロやマイナスになっても、人々あるいは企業の中長期の予想物価上昇率に非常に大きなマイナスの影響を及ぼすことはないと思います。従来から申し上げているとおり、物価については基調的な動きが重要であり、CPIのコアだけではなく、いろいろな指標をみる必要があります。ただ、様々な指標の中で有力な指標の 1 つである、食料・エネルギーを除くベースの消費者物価でみても、足許で前年比+0.4%程度です。物価上昇率がプラスで定着しているのは「量的・質的金融緩和」の 1 つの大きな成果の表れだと思いますが、物価目標である 2%と比べると大きく乖離しているのは、原油価格下落の影響だけではないため、再度、物価の安定というのはどのくらいの水準が適切なのかを考えていく必要があると思っています。

§10Question

本日の懇談会でも中国経済について触れられていましたが、全人代で当局は成長目標を 7%に下げました。懇談会では、中国経済の成長モメンタムが減速している背景として、設備の過剰や不動産市場の調整が挙げられていますが、こうした構造的な調整圧力は、今後どれくらい中国経済の下押しに効き、どれくらい深刻なものになっていくとお考えでしょうか。また、単純に比較はできませんが、日本もバブルの発生とその崩壊という過程を経ており、その教訓を中国当局も研究していると思うのですが、日本の経験から学べることで何か思い浮かぶものがあれば教えて下さい。

§11Takahide Kiuchi

中国経済が今後バブル崩壊のような状況に陥る可能性が高いと思っているわけではありません。中国経済になかなか勢いが出てこない理由としては、循環的な要因と構造的な要因があり、主に構造的な部分の動き――潜在成長率の低下――が重要なのではないかと思っています。中国は従来 10%近い成長をしてきましたが、ここ数年は下がってきています。7%という目標は、現時点での潜在成長率に概ね見合った水準ではないかと考えられ、ニューノーマルな政策になっているのだと思います。ただ、それでは中国経済が非常に健全かというと、そうは言えない部分があって、設備過剰や不動産調整のほか、主に企業部門での過剰債務の問題などがあります。これらはバブル崩壊後に日本経済が抱えていた問題と共通しています。中国経済がバブル崩壊で急に大きく崩れるようなことはないにしても、経済の低迷が非常に長引く可能性はあると思います。従来 10%近い成長ペースを 10年ぐらい続けてきた中国で成長ペースが下がってくるということになれば、それは中国だけの問題ではなく、日本を含めた周辺国にとっても成長の原動力が低下して、地域全体としてマイナスの影響があるのではないかと思います。もう 1 つは、過剰設備の問題も背景としてインフレ率が下がってきている中、中国でもデフレのリスクが懸念されています。

§12Takahide Kiuchi

その一方で、国内で設備が余っている業種については、やや輸出ドライブがかかっているという指摘もあります。そうすると、中国経済が勢いを下げているだけではなくて、その結果として、日本を含む周辺国あるいは世界全体に対して、ディスインフレ的な影響を長く及ぼす可能性があるという意味でも、注視しなくてはいけないと思います。日本の経験というのは、簡単には言えないわけですが、既に中国経済の今の運営自体が日本の経験を踏まえていると思います。景気が落ちてきても、不均衡を拡大させるような積極策には出ず、だからこそジリジリと成長率が下がっています。これは、非常に賢明な政策ではないかと思っています。日本の経験で言いますと、当時の政策自体が国際情勢の影響をかなり受けていました。つまり、ドル暴落のリスクがある中で、日本国内においてはなかなか金利を上げられない、国内の状況からみるとやや物価上昇・バブルの芽があっても、債権国である日本が金利を上げることによって資金フローに大きな変化が起こり、ドルが暴落することになってはいけないということで、国際的な配慮に非常に比重を置いたことが日本でバブルが形成された理由の 1 つだと思います。

§13Takahide Kiuchi

おそらく中国はそういう点も考慮していると思いますが、国内の政策というのは、まず国内の経済・物価の安定を最大の目標として運営するのが原則であるということが、あえて言えば日本の教訓なのではないかと思います。

§14Question

先程の副作用の質問とも重なる部分もあるかと思いますが、もうすぐ 2年間の節目ということで伺います。「量的・質的金融緩和」の当初期待された効果や、あるいは新しく明らかになった限界などについて、現時点でどのようにご覧になっているでしょうか。この間、地域が違うので単純比較はできないとは思いますが、半年に 1 度のペースでのこうした経済界との懇談会を通じて、実体経済の変化等をどう感じていらっしゃるのか、あるいはまた物価面での「量的・質的金融緩和」の効果や限界などについてどうご覧になっているのか、ご意見を伺わせて下さい。

§15Takahide Kiuchi

先程申し上げましたが、私自身は効果と副作用のバランスはだんだん悪くなっていくと思っていました。「量的・質的金融緩和」は、その方針を変えなくても、徐々に緩和が強化されていくものですが、それに合せてどんどん累積的に効果が高められていくかは当初からやや疑問がありました。スタート時点では非常に大きな成果を生むわけですが、だんだんと効果は低減していくだろうと思っていましたが、過去 2年を振り返りますと、やはりそういうところはあるのかなと思っています。副作用については、これも先程も申しましたが、見えにくい部分があり、今の時点でどれだけ副作用が高まっているかということを示すことはできません。効果については、長期的な効果もありますし、今みえている効果もあるわけですが、今みえている副作用を計算するというのは非常に難しいと思います。しかし、それを放置しておくとどこかの時点で非常に大変なことになってしまって手遅れになる、あるいは手遅れになっては困るということで、副作用に常に配慮して政策運営をするのが原則ではないかと思っています。そういう意味で、副作用については、依然として慎重にみて政策運営をすべきであると思っています。

§16Takahide Kiuchi

一方、効果については、これも先程も申し上げましたが、実質金利の低下が「量的・質的金融緩和」の一番の効果の源泉ではないかと思いますので、それが大幅に下がるような局面では効果もかなり出やすいと思います。導入当初はそういう面もあったとは思いますが、その後は、名目金利も下がりにくい一方、世界的な環境の変化もあって期待インフレ率が高まりにくい環境になってしまったため、効果はやや低減している面があるように思います。足許の国債市場の動きをみますと、安定的に実質金利を下げていくこと自体が、技術的にも容易ではないということが徐々に明らかになってきたのではないかと思っています。先程、金融市場を通じた副作用といったことを申し上げましたが、もう少し実体面からみた副作用について、あるいは政策の限界ということで申しますと、この 2年間で、金融政策の限界点についても世の中でそれなりに理解が進んだのではないかと思っており、これは非常に重要な点だと思っています。金融政策はオールマイティーではありませんし、金融政策に出来ることは限られています。その限られた中で、金融政策として、金融当局として出来る限りのことをやるという判断で、「量的・質的金融緩和」を導入したわけです。限界点は何かというと、1 つは 1年ほど前からかなり強く認識されてきたように、人手不足、成長の天井ということです。

§17Takahide Kiuchi

金融政策は主に需要サイドに働きかけて、需要を高めることに貢献する政策だと思います。実際、「量的・質的金融緩和」以降、大幅なマイナス状態にあった需給ギャップは、日本銀行の計算によれば、1年程前にほぼゼロの状態まで改善しましたが、これは非常に大きな成果だと思います。ところが、このまま需給ギャップがさらに改善していくと何が起こるかというと、人手不足が強まります。成長の天井にぶつかるということは、潜在成長率並みの成長しかできなくなるということです。それは我々の計算でいうと、0%前半から半ば程度という非常に低い成長率です。そうすると、物価や賃金が上がっても、実質賃金の上昇率は高まりません。実質賃金の上昇率は生産性上昇率並みに高まるものであり、それ以上はあまり高まらなくなれば、生活は良くならず、むしろ供給制約によって景気が腰折れてしまうかもしれない、金融市場が非常に不安定になってしまうかもしれないということで、成長の天井を上げる、あるいは生産性上昇率を高めていくという供給サイドの政策の方が重要であるという認識が広まったと思います。これは、金融政策の限界を理解してもらったということでもあり、その結果として追加緩和の効果が出にくくなっているということでもあると思います。

§18Takahide Kiuchi

しかし、各種経済政策はバランス良く出していくことが必要なので、金融政策の限界や問題点が広く理解されたということは、ある意味で、「量的・質的金融緩和」の非常に大きな成果の 1つだったと思っています。それから、これは我々がそのように考えているということではありませんが、円安を金融緩和の 1 つの副作用と捉える人がいることも事実です。実際には金融政策で為替をコントロールできるわけではありませんが、結果として金融緩和が円安に繋がって、円安によって一部の企業や家計が経済的にややデメリットを受けている可能性もありますので、そういう点にも配慮していく必要があると思っています。

§19Question

2 点お伺いします。本日の懇談会の中で、国債の買入れについて、「買入れの持続可能性についても留意しておくことが必要である」と述べられていますが、持続可能でなくなるタイミングまたは経済情勢について、どのようにお考えでしょうか。それから、最近の日本株の上昇ピッチについてどのようにお感じになられているのかも教えて下さい。

§20Takahide Kiuchi

国債が円滑に買入れられなくなるタイミングというのは、つまり金融機関から国債を購入することが難しくなってくるタイミングです。現状ではそういう状況には至っていませんが、どこかの時点で、日本銀行が高い値段で国債を買ってくれるとしても売りたくないという金融機関が増えてくると、そこが限界になってくるということです。我々の国債買入れは変動金利入札で行っていますので、金利が変動すれば理屈上では札割れはなかなか起こりにくいのですが、短国などでは既に起こっています。キャピタルゲインではなくインカムゲインをかなり重視する金融機関が多い中で、そうした金融機関は、国債を高値で売れるといっても、一旦売ってしまうとより低い利回りの国債を買わざるを得なくなります。このため、どんなに高い値段でも中央銀行へ売りたくないということになってきた時が限界ではないかと思います。それがどのタイミングかということは、例えば応札倍率などは毎回非常に注視していますが、正直に言って分からないわけですが、突然買えなくなる可能性がないわけではありません。その時に何が起こるのかといえば、例えば金融市場では、この政策はどうなってしまうのかということで、いきなり障害が起こり得るわけです。

§21Takahide Kiuchi

先行きの金融政策がどうなるか分からないと、非常に不確実性が高まり、金融市場に大きな混乱を生んでしまう可能性があるので、そうしたことが起こらないように事前に対応する、つまり国債市場への圧力をやや弱めるような調整を行うということも、リスクを回避するための 1 つの手段ではないかと思っています。株高については、足許でファンダメンタルズが非常に大きく変わったとは思っていませんが、グローバルに株価が上がっていることが背景としてあると思います。さらにその背景としては、よくは分かりませんが、世界的に実体経済が非常に良くなっているというよりも、足許の金利の低下といった金融面の影響があり、各国で行われている金融緩和がそれに何がしかの影響を与えている可能性があると思います。

§22Question

木内委員は、徐々に「量的・質的金融緩和」の副作用の方が大きくなってきているとして、従来からおっしゃっているように、本日の懇談会でも、「政策運営の重心を資産買入れからその他のツールに徐々に移し始めていくことを、いずれ検討する必要がある」と述べています。ここで言っている「その他のツール」というのは、どういったことが考えられるのか、どのようなことを念頭に置かれているのか、お聞かせ下さい。

§23Takahide Kiuchi

我々の金融政策は常に複合的に行われていると思います。「量的・質的金融緩和」だけで 2%の「物価安定の目標」を達成しようというのは必ずしも正しくなくて、実際には、それ以外の政策も並行して行っています。1 つは支援オペであり、もう 1 つは金利政策です。金利がゼロで変わらないから、その政策効果が変わらないかというと、そうではありません。例えば、物価が大きくマイナスの時には、いわゆる非負制約があるので、実質金利は高めになり、ゼロ金利はむしろ景気を悪くしている面があると思います。伝統的な金利政策では、金利がゼロまで下がると、厳密にはそれ以下に下がれないわけではないものの、下がりにくいという点に限界があります。物価が下がっていくと実質金利が逆に上がり、金利をゼロに据え置くだけで景気をさらに悪くしてしまうので、その効果を相殺する方策として、資産買入れを含むいわゆる非伝統的な政策を行ってきたわけで、これは日本だけでなく、グローバルなトレンドであると思います。その場合は、例えば、国債を買って長期金利を下げることにより景気を浮揚させる効果によって、ゼロ金利による景気の抑制効果を相殺するという発想になります。つまり、その時点で、伝統的な金利政策と非伝統的な資産買入れ政策は既に混在しています。

§24Takahide Kiuchi

現在は「量的・質的金融緩和」の効果もあって、物価は 2%には遠いとは言えプラスが定着してきて、需給ギャップも改善したことから、おそらくゼロ金利であっても景気を浮揚する効果が出てきていると思います。意識はあまりされていないかもしれませんが、ゼロ金利政策によって景気浮揚効果も出ていることなども含めて、すべてを考えながら金融政策を運営していく必要があると思います。そして、それぞれのツールには特徴があります。例えば、「量的・質的金融緩和」について私が 2年間程度の集中対応措置として位置付けているのは、それが非常にパワフルではあるものの、長く続けていくと副作用が高まっていく一方、効果は低減していくものであり、ファイン・チューニング的な政策にもそぐわないと思っているからです。また、2年間の集中対応措置といっても、 2年間で止めるということを言っているわけではなくて、その期間は規模として最大限を維持していくというのが、集中対応措置の私なりの意味合いです。実際に、「量的・質的金融緩和」を止めるために、持っている資産を一気に売却して超過準備をなくすなどということは、金融市場に対しての悪影響を考慮すればまず考えられません。従って、「量的・質的金融緩和」は非常に長期化しやすいということを前提に運営していかなければなりません。

§25Takahide Kiuchi

「量的・質的金融緩和」は、景気が少し悪くなったから、あるいは物価が下振れたから強化していく、というようなファイン・チューニング的な政策には馴染まないものであり、もっと中長期の観点でやるべきだと思います。一方、他の政策については、もう少しファイン・チューニングが出来ると思います。従って、将来的には、ファイン・チューニングには馴染まない「量的・質的金融緩和」のウェイトを全体の政策のパッケージの中で下げていく、例えば国債の買入れ額を少し小さくするといったことを検討していく必要があるのではないかと思います。近い将来はないと思いますが、遠い将来のいずれかの時期では、金利を変更するというのも選択肢としてあり得ると思います。ただ、これについては付利の金利を下げるという手もありますが、「量的・質的金融緩和」を実施している中で、資産の買入れと金利の引き下げというのは相入れない部分がありますので、そういう選択肢はなかなか選択しにくいと思います。しかし、例えば国債買入れを少し減額していくという方向であれば、国債市場に対しても少し圧力が小さくなり、そうした中で、将来は例えば付利の金利を下げていくというのも選択肢としては残されていると思います。いろいろな政策の組み合せの中で、その時々に望ましいツールにウェイトを高めていくことが必要だと思います。

§26Takahide Kiuchi

2年前は「量的・質的金融緩和」という非常にパワフルな政策が有効だったと思います。ただ、その結果として需給ギャップもプラスになり、物価もマイナスからプラスが定着しました。私は、金融政策の役割としては、「日本経済の実力に見合った水準で経済・物価の安定を確保する」、「需給ギャップが中立化する」、「物価がそれに見合ってプラスで安定する」、そこまでが非常に大きな役割としてあって、それらはだいぶ達成されつつあると思います。望ましい物価の水準というのは、例えば成長戦略が上手くいき、生産性が上がっていけば、その水準も上がってくるので、我々はその望ましい水準を常にみながら、目標を少しずつ切り上げていくことが必要だと思います。その過程では、「量的・質的金融緩和」よりもう少しファイン・チューニングに適した政策が有効になってくるので、そういう変更を徐々に考えていかなければならないというのが、懇談会のテキストの最後で述べている様々な政策ツールの組み合せということの趣旨です。望ましいポートフォリオというか、組み合せに徐々に調整していくという発想が、これから重要になってくるのではないかと思います。以上