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Bank of JapanPress conferenceMar 17, 2015Haruhiko Kuroda, Governor

総裁定例記者会見(2015年3月17日)要旨

Original in Japanese

Full text

§1Question

本日の金融政策決定会合の決定内容について、背景となる足許の経済、物価情勢も含めてご説明をお願いします。

§2Haruhiko Kuroda

本日の決定会合では、「マネタリーベースが、年間約 80 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」という金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。資産買入れに関しても、長期国債、ETF、J-REITなどの資産について、これまでの買入れ方針を継続することを賛成多数で決定しました。わが国の景気についてですが、企業部門では、輸出の持ち直しや在庫調整の進捗などを背景に生産が持ち直しています。また、企業収益は改善が続いており、企業は前向きな投資スタンスを維持しています。家計部門については、雇用・所得環境の着実な改善が続く中、個人消費も全体としては底堅く推移しています。このように、企業部門・家計部門ともに、所得から支出への前向きな循環メカニズムは、しっかりと作用し続けていると考えています。従って、景気の総括判断としては、「緩やかな回復基調を続けている」としました。項目別にやや詳しく申し上げると、海外経済は、一部になお緩慢さを残しつつも、先進国を中心に回復しています。輸出は持ち直しており、先行きも、海外経済の回復や円安による下支え効果などを背景に、緩やかに増加していくとみられます。設備投資は、企業収益が改善する中で、緩やかな増加基調にあります。最近公表された法人企業統計でみると、昨年10~12月の経常利益は過去最高水準となりました。

§3Haruhiko Kuroda

公共投資は、高水準で横ばい圏内の動きとなっています。雇用・所得環境をみますと、労働需給は着実な改善を続けており、雇用者所得も緩やかに増加しています。そうしたもとで、個人消費は、一部で改善の動きに鈍さがみられるものの、全体としては底堅く推移しており、これまで慎重さが残っていたマインド関連指標にも前向きの動きがみられています。住宅投資も下げ止まりつつあります。以上の内外需要のもと、在庫調整の進捗もあって、鉱工業生産は持ち直しており、先行きも、緩やかに増加していくと考えられます。この間、わが国の金融環境は、緩和した状態にあります。企業の資金調達コストは低水準で推移し、企業からみた金融機関の貸出態度は改善傾向が続いています。銀行貸出残高は、中小企業向けも含め緩やかに増加しています。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、 0%台前半となっています。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇していると判断されます。わが国経済の先行きについては、緩やかな回復基調を続けていくと考えられます。

§4Haruhiko Kuroda

物価面では、消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面 0%程度で推移するとみられますが、原油価格が現状程度の水準から先行き緩やかに上昇していくとの前提にたてば、原油価格下落の影響が剥落するに伴って伸び率を高め、2015年度を中心とする期間に 2%程度に達する可能性が高いとみています。リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の進展や低インフレ長期化のリスク、米国経済の回復ペースなどが挙げられます。金融政策運営については、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続します。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行っていくという方針に変わりはありません。

§5Question

総裁就任から間もなく 2年を迎え、4月には「量的・質的金融緩和」のスタートからちょうど 2年を迎えると思います。改めて緩和策の効果についてお伺いします。同時に、2%の物価目標の到達時期に関して、4月には丸2年が過ぎてしまいますが、過ぎた後もやはり「2年程度」という言葉を使うのかどうか、お伺いします。

§6Haruhiko Kuroda

「量的・質的金融緩和」という 2013年4月に始めた金融緩和は、所期の効果を発揮していると考えています。まず、景気については、先程申し上げた通り、企業部門・家計部門ともに、所得から支出への前向きな循環メカニズムが作用しており、緩やかな回復基調を続けています。そうしたもとで、物価の基調は着実に改善しています。すなわち、需給ギャップは、概ね過去平均並みの 0%程度まで改善しています。予想物価上昇率は、原油価格の下落にもかかわらず、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられます。また、昨年春の賃金改定交渉において約 20年振りのベースアップが実現し、本年も賃上げの方向が労使双方から示されるなど、家計や企業の実感としても、物価を巡る状況は大きく変化していると思います。このように、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現するという方針に全く変わりはありません。

§7Question

2 点お伺いします。まず 1 点目ですが、足許で原油価格が再び下落しています。今後も原油価格の動向次第では、短期的にコアCPIがマイナスになるという可能性も排除できないと思うのですが、物価がマイナスに転じた場合、実際の物価の見通しと、物価の基調やインフレ期待に与える影響を現時点でどのようにお考えでしょうか。もう 1 点です。今年の春闘で、先程もお話がありましたが、昨年を上回るベアの実績が伝えられています。現在、ご覧になって、今のベアについての具体的な動きというのが、物価 2%達成に向けて十分な内容と考えておられるか、お伺いします。

§8Haruhiko Kuroda

先程も申し上げた通り、物価の先行きについては、エネルギー価格下落の影響が足許出てきている一方で、需給ギャップとか、中長期的な予想物価上昇率に規定される物価の基調は着実に改善していると考えられますので、いわば、この両者の引っ張り合いのような状況になっているわけです。こうしたもとで、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、当面 0%程度で推移する可能性が高いと申し上げたわけですが、もちろん、エネルギー価格等の動向によっては、若干のマイナスになるという可能性も排除はできないとは思います。今のところは、まだその辺りは、はっきり分かりません。需給ギャップあるいは中長期的な予想物価上昇率、もう尐し広く言えば、物価を巡る家計や企業の見方といったものを総合的に見ていると、物価の基調は着実に改善していると思われますので、仮に生鮮食品を除く消費者物価の前年比が一時的にマイナスになるようなことがあったとしても、物価の基調がどうなっているかということにかかっており、物価の基調は今のところ変化するような状況にはありませんので、そういった一時的な動きによって、どうこうといったことはないと思います。ただ、物価の基調に関し、今申し上げた需給ギャップ、中長期的な予想物価上昇率、更には企業や家計の物価観といったものは、今後とも十分注視していく必要があると思っています。

§9Haruhiko Kuroda

そうした中で、もちろん賃金の動きも非常に重要であり、私どもも注視しているわけですが、ベースアップ、あるいはボーナスを含めた給与全体の具体的な水準については、現在労使間で交渉されているわけですので、私から何か感想めいたことも申し上げるのは差し控えたいと思います。これも以前から申し上げていることでありますが、日本銀行は、「量的・質的金融緩和」によって、企業収益あるいは雇用・賃金の増加を伴いながら、物価上昇率が次第に高まっていくという好循環を作り出していくことを目指しており、この点、企業収益が過去最高水準まで上昇している、さらには、失業率が構造失業率に近い3%台半ばまで低下しているといったことで、労働需給も引き締まっています。こうした良好な収益環境、あるいはタイトな雇用情勢等を踏まえますと、ベースアップやボーナス等のかたちで、賃金の上昇が実現する環境が整っていると考えています。

§10Question

2 点お伺いします。まず 1 点目です。先程のお話にあったように、物価がマイナスに転落する可能性が排除できないとのことですが、これが人々のインフレ期待を損ねるような懸念はないのでしょうか。その懸念はないとお考えなら、その理屈を教えて頂ければと思います。もう1 点は、総裁任期5年の中でこれから 3年目を迎え、折り返し地点に入るわけですが、その中で「2年を念頭に、できるだけ早期に」というコミットメントは、さすがに3年目は実現ができないとやや信認が揺らいでくる時期に差し掛かってきます。2月下旪の講演では、長らくデフレが続いた日本で物価を 2%にアンカーするためには、速度と勢いが必要だというお話をされました。その中でも、この3年目は大規模な「量的・質的金融緩和」が成功するかどうかの分かれ目になる年かと思いますが、総裁は、この3年目という新たに迎える 1年間を、ご自身の異次元緩和の中でどのように位置付けていらっしゃるか、お伺いします。

§11Haruhiko Kuroda

インフレ期待が様々な要素によって影響されることは事実ですし、足許の物価上昇率がどんどん下がっていくと、インフレ期待に影響するのではないかという懸念があり得るのも事実です。昨年10月31日に「量的・質的金融緩和」の拡大を決定した一番大きな理由は原油価格が下がったことではなく、原油価格が下がる、さらにはその当時消費は弱めの状況が続いていくという中で、消費者物価の上昇率がどんどん下がっていき、それが物価上昇期待を押し下げ、賃金決定あるいは企業の価格設定に影響が出てくるという可能性、懸念を払拭するために、いわば英語で言うところの preemptive に「量的・質的金融緩和」の拡大を決定したわけです。その後の状況をみると、中長期的な物価上昇期待は概ね維持されており、幸いにそうした懸念は払拭されていると思っています。従って、今のところ、そうした懸念があるわけではないし、出てくるとも思っていませんが、先程も申し上げた通り、物価の基調に最も大きな影響を与える需給ギャップや中長期的な予想物価上昇率を今後とも十分みていきますし、企業や家計の物価観――その中には当然、賃金の上昇率あるいは企業の価格設定行動等々も入ってきますが――をよく注視、モニターしていくことに変わりありません。

§12Haruhiko Kuroda

今のところ、仮に足許の物価上昇率が原油価格の大幅な下落を反映してマイナスになったとしても、直ちに物価の基調に影響が出るような状況ではないと思っています。ただ、何度も申し上げますが、その辺りは十分注視していくつもりです。それから、私が総裁に就任して2年ということですが、特に2年ということで意識することはありません。毎年毎年、その時その時の課題をきちんと果たしていくことが重要だと思います。現時点では、 2%の「物価安定の目標」を、2年程度を念頭に置いて、できるだけ早期に実現することが最も大事だと思っていますので、それに向けて引き続き最大限の努力を払って参りたいと思っています。日本経済は、1990年代の後半頃から 2012年まで 15年程度の期間ずっとデフレだったわけでして、そのデフレのもとで物価上昇期待も非常に低位――ゼロかその近傍――に落ちていたので、 2%の「物価安定の目標」を実現し、それを安定的に持続することから言いますと、物価上昇期待自身も2%程度のところにアンカーしていく必要があると思います。欧米のように、物価上昇期待が目標近傍に比較的アンカーされている国とは違って、よりチャレンジングであることは前から繰り返している通りです。

§13Haruhiko Kuroda

その意味では、速度と勢いは非常に重要であり、だからこそ 2013年4月に強いコミットメントとともに「量的・質的金融緩和」を導入し、さらに昨年10月に拡大したわけですので、引き続きその実現に向けて邁進していきたいと思っています。

§14Question

日銀が市場関係者を対象に先般実施した「債券市場サーベイ」で、債券市場の機能度がさほど高くない、あるいは低いとの回答が全体で9 割以上を占め、3 か月前より機能が低下したとの回答が 7 割位を占めています。総裁はかねて、市場関係者とは色々な形で対話して、オペレーションがスムーズにいくようにしているし、これまでのところ何か重大な問題が起こっているとは考えていないとお答えになっていますが、今回のサーベイを踏まえた上でも問題がないとお考えか、また、今後さらに市場機能が低下するリスクについてどのようにお考えか、お伺いします。関連してもう 1 点、国債のリスクについてお伺いします。バーゼル委員会で、銀行のバンキングアカウントで保有する資産の金利リスクについて規制強化の議論が進んでいると思います。同時に別の枠組みで今、国債の信用リスクについても議論が始まっているようです。こうした規制強化が進んだ場合、国債をたくさん抱えている日本の銀行の経営にも影響は大きいと思うのですが、国債を持つことがリスキーとならないためにはどうするべきか、総裁のお考えを改めてお伺いしたいと思います。

§15Haruhiko Kuroda

まず 1 点目の「債券市場サーベイ」は、今回新たに実施したものであり、サーベイの癖などについてまだ十分に把握していませんので、その結果については、ある程度幅を持ってみる必要があるだろうと思っています。何度か繰り返しているうちに、次第にその癖もはっきりしてくると思います。そうした前提付きではありますが、今回のサーベイの特徴をいくつか申し上げると、確かにご指摘のように債券市場の機能度について、3 か月前と比べた変化では「低下した」という回答が多かったです。もっともこれには、今回の調査期間にかけて、ご案内のように長期金利の動きがやや大きかったことも影響した可能性があると思います。また一方で、債券取引の執行という意味では、意図した価格や取引金額で「取引ができていない」とする先は尐なく、債券市場の流動性について、現時点で大きな問題は生じていないと思われます。これは、他の様々な統計や色々な市場関係者からの意見も踏まえての判断です。ただ、債券市場の動向は引き続き注意深くみていく必要がありますし、市場関係者との対話も今後とも続けていきたいと思っています。2 番目の国債のリスク云々の話については、ご指摘の通り、バーゼル委員会では、以前から、銀行が保有する国債の金利リスクについて議論されています。

§16Haruhiko Kuroda

国債に限らず、銀行勘定で保有する様々な資産について、あるいは負債も含めた全体について、金利リスクを含めた議論が行われていますが、まだ現時点では色々な議論が行われていて、特定の方向性についてコメントできるような状況ではないように思います。日本銀行としては、邦銀が抱える金利リスクの実態を十分把握して、規制の影響も見極めて、バーゼル委員会での議論にしっかりと貢献していきたいと思っています。一方、もう1 点ご指摘になったソブリンリスクに関する検討については、まだ始まっていません。バーゼル委員会の、今後の検討項目の一つとしてレビューをすることが公表されており、しかもそのレビューについては、「慎重に、包括的な視点から、ゆっくりと進める」という方針が示されており、特定の方向での議論が前提になっているわけではないと承知しています。日本銀行としては、こうした方針のもとで、邦銀への影響にとどまらず、金融仲介活動あるいは市場機能、ひいてはマクロ経済への影響などを十分に配慮した、適切な検討作業となるように、バーゼル委員会でしっかりと議論に貢献していきたいと思っています。

§17Question

この 2年を振り返ると、物価の上昇に賃金が追い付かないという、実質賃金の問題というのが常に取り上げられていました。総裁は、4月以降の実質賃金の見通しを現時点でどのようにみていますか。また、株価について、1 万 8 千円から 1 万 9 千円と比較的急ピッチで上昇してきていますが、資産バブルといった懸念を総裁は引き続き持たれていないという認識でよいでしょうか。

§18Haruhiko Kuroda

実質賃金というのは、名目賃金から物価上昇率を差し引いて計算されます。名目賃金は伸びていますが、消費税込みの物価上昇率は――昨年4月の消費税率の 3%引き上げにより 2%くらい押し上げ効果があると言われていますが――、昨年、2%台から 3%台を辿ってきて、足許でも 2.2%くらいになっています。それを名目賃金から差し引くと、実質賃金がマイナスになることがある、そういう月が多かったということは事実です。しかし、消費税は、社会保障の持続性を担保するために必要なものとして、国民負担を求めるという一環です。消費税部分とその他のアンダーライイング(基調的)なトレンドとしての物価上昇とは分けて考えるのが適当だと思っていますので、足許、消費税を除いた物価上昇率は 0.2%くらいになっています。消費税を除いた物価上昇率を差し引いてみると、実質賃金は、このところ数か月にわたってプラスになっています。4月からは、2%の対前年同月比の物価上昇要因が剥落しますので、おそらく実質賃金はプラス幅を拡大するであろうと思われます。ただ、先程も申し上げたように、アンダーライイングな物価上昇を、消費税を除いてみますと、従来から実質賃金はプラスになっています。

§19Haruhiko Kuroda

今後、春闘の賃上げ、ボーナス等の状況次第ではありますが、おそらく最近の雇用情勢、あるいは企業収益等をみると、賃金上昇の環境は十分整っていると思いますので、そうした中で実質賃金も伸びていくという可能性が高いと思っています。株価については、従来からレベルや上昇のスピードについて何か申し上げることは適切でないと思っています。基本的には、株価は企業収益の現状、あるいは先行きに影響されるというのが通常だと思いますが、私どもが半年に1 回出している金融システムレポート等でも、様々な金融市場に過熱あるいは行き過ぎた期待の強まりがないかどうかはチェックしています。今のところ、そういった行き過ぎのようなものは窺われていないと思います。いずれにせよ、金融システムの安定は、物価の安定とともに日本銀行の2 つの重要な目標でありますので、引き続き十分モニターしていきたいと思っています。今のところ、株式市場で過熱、行き過ぎた期待の強気化があるとは思っていません。

§20Question

就任から 2年という先程の質問に関連した質問です。コアCPIの前年比がほぼ 0%に近いため、市場からは 2年程度で 2%という目標に関してかなり厳しい見方が上がっていると思います。先程、総裁はチャレンジングな試みだったと言われましたが、やはり物価を上げるのは難しかったとお感じでしょうか。総裁にとって、2年間で最大の一番の想定外は何だったと感じていますか。また、2年程度で 2%という物価目標は、追加緩和なしに達成が可能なのでしょうか。

§21Haruhiko Kuroda

足許で、物価上昇率が消費税の影響を除いて 0.2%程度の上昇になっていることは事実です。1月の中間評価の時に申し上げましたが、このところの大幅な物価上昇率の低下は、基本的に原油価格の大幅な低下が効いていると思います。それは、米国や欧州をみても分かり、これらの国もヘッドライン・インフレーションの率はマイナスあるいはゼロに非常に近くなっています。その意味で、原油価格の 5 割の下落は足許の物価上昇率を引き下げていますが、需給ギャップがほぼゼロになっていますし、中長期的な予想物価上昇率は比較的維持されていますので、賃金、企業・家計の物価観まで含めてみた物価の基調は着実に改善していると思っており、物価安定の目標の達成が日本において特に難しくなったわけではないと思います。ただ、欧米の場合は、物価上昇期待が、物価安定の目標の辺りに比較的アンカーされていますのでよいのですが、日本の場合は、0%近傍にアンカーされているのを尐しずつ上げてきている途上ですので、よりチャレンジングであることは変わりないと思います。ただ、足許の物価上昇率の低下は、ほとんど原油価格の下落で説明できますので、何か従来に比べて困難さが増したということではないと思います。想定外のことと言いますと、一番大きかったのは、原油価格の大幅な下落は、おそらく世界中でほとんどの人が予想していなかったと思います。

§22Haruhiko Kuroda

3年くらい 100 ドル台で続いたものが、半年足らずで半分くらいになったのですから、非常に大幅で急速な原油価格の下落であり、日本経済のみならず世界経済にも様々な影響があります。もちろん、成長率については世界経済にとってプラスですが、足許の物価上昇率を世界的に押し下げているという意味でも大きな影響を与えており、ここは非常に大きな想定外だったと言えると思います。

§23Question

2%程度を達成する時期について、「2015年度を中心とする期間」というのは 2016年度の初めの方まで含むものだとマーケットは理解していると思います。ということは3年以上経ったところを目標時期に置いていることになると思いますが、2年程度を 3年以上と読み替えるのは普通の日本語ではなく、これはいくら何でも強弁ではないかと私は思います。だからアベノミクスがだめだとかクロダノミクスが成果を上げていないというつもりはありませんが、尐なくとも物価安定目標については、当初の目標を達成できなかったのだということをはっきり認めて──これから半年以内に 2%にいくということは考えられないわけですから──、その上で、この政策が正しいんだということを素直に説明するべきではないでしょうか。3年以上を 2年程度というのは非常に分かり難く、はっきり言って日本語ではないと思います。その点、強弁ではないのかという点について、総裁は、今、どうお答えになるのか聞きたいというのが 1 点目です。2 点目は、総裁は、就任の時そうはおっしゃいませんでしたが、岩田副総裁は、2年で達成できなかったら辞めると言っています。辞めるべきかどうかについてはよく分かりませんが、地位に恋々とする方ではないのだから辞めればいいのではないかと思いますが、誰か行内に引きとめるような人がいるのでしょうか。それとも本人が翻意したのでしょうか。

§24Question

公約違反なのだから、本来、本人が出てきてしゃべるべきことですが、代弁するおつもりがあるのであれば、総裁の口から、なぜ岩田さんは辞めないのかを説明して欲しいと思います。3 点目は、物価上昇の基調は変わっていないと繰り返しおっしゃっていますが、疑問があります。現在、エネルギー価格を除いたコアコアでも0.5%であり、2%には程遠いです。これが上がり始めているのであればいいですが──原油が主因であることも事実ですが──、やはり物価の基調だって決して強くはないです。それを証明するかのように 10年物の長期金利は、総裁が就任した時よりも僅かだが低いわけです。それは、国債を大量に買っているからこうなっていると言うのではなく、物価の基調を反映しているからではないでしょうか。

§25Haruhiko Kuroda

まず、1 点目ですが、物価上昇率の政策委員見通しの中央値について、最新の見通しでは、2015年度が 1.0%、2016年度が 2.2%となっています。足許、原油価格の下落で 0.2%程度の上昇に止まっていますが、原油価格は、昨年の夏以降に下がってきており、その影響がまだ続いています。しかし、その影響は、おそらく今年の秋以降はだんだん剥げてくると思いますので、そういった意味で、1.0%という年度の見通しを出しているのだと思います。もちろん、年度内の物価見通しについては、委員は示しておりませんので、何とも言えませんが、年度の前半は──今年の4月から年度の前半になるわけですが──、やはり当面 0%程度の上昇になると申し上げているので、逆に言うと、年度の後半でかなり物価上昇率が上昇していくことになります。それは需給ギャップが縮んでいくということと、予想物価上昇率が比較的維持されているもとで原油価格の影響が剥げ落ちていくということで、年度後半には物価上昇率が上がっていくということにより、全体として 1.0%が達成できるとみています。そういう意味で、2015年度を中心とする期間に 2%に達する可能性が高いということを引き続き申し上げているわけです。2 点目は、私がとやかく申し上げる立場にありません。

§26Haruhiko Kuroda

3 点目は、コアコアと言いましても、石油価格が下がるとエネルギー価格そのものだけでなく、運送費やその他コアコアに入っているものにも影響があり、実は、欧米でもコアコアは若干下がっています。従って、原油価格の低下は、直接的にはコアコアに大きく影響するものではないとしても、それなりの影響は出てくるということはあり得ると思います。逆に言うと、原油価格の影響が剥げ落ちた場合、そういった下押し自体は尐なくなってくると思います。その一方で、需給ギャップが改善しているということ、さらには物価上昇期待が比較的維持されているというもとで、企業の賃金あるいは価格設定行動、家計の物価観といったものを含めた物価の基調というものは改善をしていると思いますし、今後も改善していくと思っています。

§27Question

2 つお伺いします。まず、WTIの原油がまた尐し下げ基調になって43 ドルをつけていますが、改めて、原油の見通しと物価の見通しをお願いします。2 つ目は、欧州と米国の金融政策の方向性が真逆というのは非常に珍しいことだと思いますが、世界経済、新興国への影響や懸念、リスクがあればお願いします。

§28Haruhiko Kuroda

ご承知のように、 WTIは名前がウエスト・テキサス・インターミディエートと言われるように、米国の需要あるいは米国の石油供給状況等の影響を比較的受けやすいので、ドバイや北海ブレントと若干違った動きをしており、今ご指摘のようなレベルになっていますが、石油関係の市場関係者は、米国におけるシェール石油、タイトオイルの生産が比較的落ちていない、あるいは在庫が比較的高いことを背景として挙げているようです。私どもの見通しは、その時に申し上げた通り、ドバイの指標が55 ドルくらいから 2016年度にかけて70 ドル程度に緩やかに上昇していくという、市場の先物の動きを勘案して一定の前提を置きました。そうした点からみると、ドバイの指標等は概ね想定した範囲にあるようです。今後どうなっていくかはなかなか見通しが難しいと思いますが、2016年度にかけてドバイの指標が 70 ドル程度にいくと、多くの人や市場が方向性としてそのようにみているということです。ちなみに、ECBの経済見通しの前提もほぼ同じような前提であったように思います。また、欧米の金融政策がかなり違っているという点については、ECBはQEを導入したばかりですし、米国は金利の正常化がいつ始まるかというところにきているという意味では、確かに違っています。

§29Haruhiko Kuroda

これは、景気循環やその他により過去においてもあったことで、必ずしも欧米の金融政策がシンクロナイズしているわけではないと思います。基本的には、米国経済が内需を中心に極めて強く、順調に回復している一方で、ユーロ圏はこのところ若干改善した指標はみられますが、成長率においても物価上昇率においてもまだ金融面での緩和が必要な状況にありますので、それぞれの経済を反映した金融政策であろうと思っています。世界で一番大きな経済単位といえばユーロ圏ですし、1 つの経済として一番大きいといえば米国ですので、その金融政策が違っていることは、金融市場、特に新興国の金融にどういった影響を与えるかは、IMFのクリスティーヌ・ラガルド専務理事も指摘しているように、十分注視していく必要はあると思います。しかし、金融政策の方向が若干違うということ自体は、それぞれの経済の実態を反映したことであり、経済の実態を反映した金融政策が採られている限り、それぞれの経済にとってプラスであるし、世界経済にとってもプラスであろうと思っています。

§30Question

最近の日銀の政策委員の方々の講演、会見などを聞きますと、物価の基調が大事であって、その基調は総合的に判断するということを多くの方がおっしゃっています。中曽副総裁も会見でおっしゃっていました。まさかこの総合判断という言葉を黒田総裁がお使いになるとは思わなかったですけれども、先程も、総合的にみると物価の基調は着実に改善しているとおっしゃっています。物価の基調と総合判断という言葉は、尐しでも日銀を長くみている人間からすると、すごく感慨深いものがあります。特定のコミットメントをしていない時は、物価の基調をみて総合的に判断するというのが政策判断だったわけです。それが裁量的過ぎるということでルールを入れようという長い論争があった上で、黒田総裁が、総裁になる尐し前にインフレターゲットが入った。それに基づいて 2年前にQQEを導入したわけです。それが、原油が下がっているということで、それを除いて考えた方がよいということのようですけれども、それであれば2年前に原油を除く指数を日銀が総務省と相談して作るなりして、それを目標にすれば良かったわけです。それをしないのは、おそらくビールが下がるとか、ケチャップが下がるとか、そういうものを除いていたら物価に意味がないということで、それはしないということだったと思います。

§31Question

自身が総裁になられて、デフレの理由が何であっても、止めるのが中央銀行の責任であるとおっしゃっています。それが、2%の期限である 2年が経って、物価は 2%どころかゼロに近づいている。そういうタイミングで物価の基調が大事で、総合判断と言う。何と言うか先祖返りと言うか、非常に皮肉な感じがするのですけれども、今、どういうふうにお考えなのかをお聞きします。

§32Haruhiko Kuroda

今おっしゃったことは、そういうことをおっしゃる方がおられますけれども、私からみると全く間違っていると思っています。これは日本だけではなく、欧米の中央銀行もそうですが、物価安定目標、インフレターゲットというもの自体は、ほとんどの国が総合物価指数でみています。これは、家計からみれば、総合物価指数が一番重要であろうということで、それをターゲットにしているわけです。ただ、物価安定目標、インフレターゲットというのは、ある一瞬到達すればよいということではなく、安定的にそれが持続できるようにすることが目標です。当然、足許で物価がどっちの方に向かっているかということを判断する際には、総合指標の場合は色々な短期的なノイズとか、影響する要素が入ってきます。それぞれの国で、その国の経済に即して動向を判断する時に、どういった指標でみるかは、色々なものをみているわけです。米国の場合は、ご承知のように、GDPの消費デフレーターのコアのようなものでみようと、日本の場合は、従来から、生鮮食品を除く消費者物価指数でみようと、欧州は欧州で、それぞれあるわけです。それらもその時々で、経済状況に応じて様々な指標を合わせてみているわけです。

§33Haruhiko Kuroda

米国の場合もそういったGDPの消費デフレーターのコアのようなものを基礎としながらも、雇用状況とか、賃金の上昇率、さらにはその他の色々な状況をみながら、まさに物価安定目標、インフレターゲットに向けてどのように進んでいるか、進んでいないか、それに合わせて金融政策を運用することになっています。わが国の場合も、従来から、見通しや、足許でどういう方向に進んでいるかという時は、生鮮食品を除く消費者物価でみていたわけであり、今もそれが重要な指標であることは変わりなく、その予測等も示しているわけです。前々回の公表文にありましたように、足許で原油価格が非常に大きく動いていると、それは今後とも何年もずっと下がっていくというものでなければ、いずれ剥げ落ちるわけですので、そういった要因も合わせて物価安定目標に向けてどのように進んでいるということを判断する必要があるということです。その意味では、2%の「物価安定の目標」を設定し、それに向けて強いコミットメントをし、「量的・質的金融緩和」を導入し、それをさらに昨年10月に拡大しました。

§34Haruhiko Kuroda

そのもとで、様々な指標をみて、物価安定目標を達成し、安定的にそれを持続できるようになるまで続けると言っているわけですから、まさにそういった状況になるのを、今あるいは 2年前から、常にみている、それを何れにせよ総合判断して、金融政策に役立てる、つまり、もし仮に上下双方向のリスクを点検して、必要があればまさにそれを踏まえて金融政策の調整を行うということです。おっしゃっていることを言う方もいますが、私自身は一貫していますし、日本銀行として、2013年1月に 2%の「物価安定の目標」を設定して以来、物価安定目標自体は、非常にはっきりしており、全く揺るぎないと思っています。

§35Question

先程の株についての質問に関連してお伺いします。総裁は、金融システムレポートを引いて、今のところ行き過ぎや過熱はないとおっしゃいました。今の株価水準、日経平均株価は、バブルの時代に比べれば半分とはいえ、15年振りで終値が 1 万 9 千円となっています。2 万円に到達するのも時間の問題というような水準です。この背景には、日銀がETFを買ってくれるという安心感があるという市場関係者が多いです。日銀は、ETFの購入理由としてリスクプレミアムの低下を促すとしていますが、株価は既に 12年末と比べれば 2倍まで上がっていて、どういったところにリスクプレミアムが残っているのでしょうか。この先も大量にETFを買い続ける必要があるかどうかについて、日銀による購入が企業や産業間に適切に資金を配分する市場メカニズムを低下させていないか、との危惧を持っています。総裁のご見解をお聞かせ下さい。

§36Haruhiko Kuroda

ETFについては、年間3 兆円のペースで残高が増加するように買入れを行うということであり、金額的にはそれほど大きなものではありませんが、これを導入したときから申し上げている通り、まさにリスク回避的、リスクを取らないという市場の動きに対して、リスクプレミアムを縮小するように働きかけることによって、市場あるいは経済全体が活性化するようにということでやっています。株価を支えるとか株価を押し上げるということでやっているわけではありません。従って、市場関係者の中に今ご指摘のようなことを言われる方がいるとは思いますが、やはり株価の動きは基本的には企業収益の現状と先行きにかかっていると思いますし、現状の企業収益は非常に高いところにきていますので、株式市場だけが企業収益と離れて一方的に強気化したり過熱しているという状況ではないと思っています。市場の動きについては、私どもも常に関心を持って見守っていますので、ご指摘の趣旨はよく理解しています。なお、この規模のETFの買入れによって、日銀が直接に介入して資金の配分を変えているとか、決めているということは全くありません。基本的に、資金配分には中立的な形でETFを通じてやっています。

§37Haruhiko Kuroda

市場の資金配分に、より影響を与えようとしているのは、成長基盤強化を支援するための資金供給で、これ自体は日本経済の成長を金融面から促進する形で、成長を助けるようなものに対する金融機関の融資をバックアップするということです。ある意味、市場における資金配分にある程度の影響を与えようとしているわけですが、いわゆる産業政策のように個別具体的にというよりも、あくまでも資金が経済成長を促すような方向に流れるようバックアップするということです。ETF買入れにはそういった意図も効果も期待していません。

§38Question

郵政関連の団体から支持を受けている自民党の議員の中で、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の限度額引き上げの話が出ているかと思います。今秋に向けた上場に関しての成長戦略と言われていますが、2010年に一度、民主党がやろうと思って反発が多くてだめになり、2012年にも民主党と公明党と自民党で当面上げないことが決まっているかと思います。地域金融機関への影響が相当大きいと思いますが、限度額の引き上げについて、日本銀行としてどのようにみているのかお伺いします。

§39Haruhiko Kuroda

直接的には日本銀行が関与するものではありませんが、日本銀行としても、この点に関する議論は、民間金融機関の収益性や経営全般に大きく影響し得ると思っています。ゆうちょ銀行の預入れ限度額などに関する枠組みのあり方は、最終的には政府・国会において判断されるべきものですが、これまでの議論を踏まえて、民間金融機関との競争条件の公平性の確保も含めた幅広い観点から、検討されていく必要があると思っています。以上