原田審議委員就任記者会見(2015年3月26日)要旨
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§1Question
就任にあたっての所感、今後の抱負をお聞かせ下さい。2 点目として、黒田総裁は、現在、物価上昇率を 2年程度で 2%に引き上げるという目標を掲げていらっしゃいます。脱デフレに向けて2年程度という期間にこだわるべきか否か、ご見解をお伺いします。
§2Yutaka Harada
抱負についてですが、今まで日銀の外部から金融政策について調査分析を進めてきましたが、これからは中に入って金融政策を行うことになりますので、責任は非常に重いものがあると思います。そのような責務に十分に応えられるように、他の委員とも十分な議論を行って、誤りのないように金融政策を進めていきたいと思います。次に、2年で 2%という目標をどれだけリジッドに考えるかについては、経済には様々なことが起き得るわけですから、 2%という目標の数字と期間を両方ともリジッドに考えることはなかなか難しい、あるいはできないのではないかと思います。ただし、2%というコミットが重要であって、そのことによって現在の景気回復がありますので、それは重要だと思っています。同時に、例えば、原油価格が下がっているという日本経済にとってプラスの面で2%のインフレが達成できない、2年間で達成できない、ということであれば、それは大きな問題とすべきではないと思います。
§3Question
以前に取材に応じて頂いた際に、まだ国債を買えるではないか、十分買う余地はあるのではないか、というようなご発言をされたと思います。先程、2%というのは重要なコミットだけれども、原油の要因であれば、それほど大きな問題ではないとお答え頂いたこととの兼ね合い──まだまだ国債を買う余地があって、緩和ができるということと、2%をそんなに急がなくてもいいではないか、ということの兼ね合い──を、もう少しご説明頂きたい、というのが 1 点です。もう1 点お願いしたいのですが、同じインタビューの中で、為替相場でこれ以上円安が進んでも良いのだろうか、という質問に対して、完全雇用になるような為替レートがよいのではないか、ということをおっしゃっていて、完全雇用の失業率の水準は、直近の3.5%程度というよりは、2%くらいではないかという認識をされています。この点を改めてブレイクダウンしてお答え頂ければと思います。
§4Yutaka Harada
最初のご質問ですが、国債を買える余地があるということは、余地があるということであって、現在、さらなる金融緩和が必要で、国債を買うべきであるという意味ではありません。あくまでも買うことは可能だということです。ですから、2%をリジッドに考える必要はないのではないかということとは矛盾していないと思います。原油価格が下がることがどういうことかと言いますと、海外に流出していた日本の所得が返ってくるということですので、日本国内の景気は当然良くなります。具体的に考えてみても、ガソリンに払っていたお金が減りますから、お金が残ります。残ったお金はいつかは使えますから、原油価格の下落は、短期的には物価を下げる要因ですが、長期的には、石油価格以外の物価を需要面から上げる要因です。そうすると、景気が良くなり、手元のお金が増えることで、長期的に物価を上げる可能性があるわけです。これはあくまでも理論的な可能性であって、その理論的可能性が本当に発現するかどうかは、詳しくデータをみないと分かりません。それについては、事実関係、あるいは様々な予想、データを使いながら、しっかりとみていくことではないかと思います。2 番目のご質問ですが、まず為替レートの水準について、具体的に、この水準が良いとか悪いとか言うことについては、お答えを差し控えたいと思います。
§5Yutaka Harada
ただ、為替レートが上がった時と下がった時で、日本経済に対してどういう影響があるのかを一般的に申し上げれば、為替レートが安くなれば、当然、輸出企業は利益を得ますが、輸入企業は利益を得られません。また、輸入品と競争している企業も利益を得ます。その時に、日本経済全体として、雇用が良くなっているのであれば、それは、その水準の為替レートが、日本経済全体にとってプラスである可能性が高いということです。それから、以前に失業率について、3.5%が完全雇用ではなく 2.5%くらいが完全雇用であるかもしれない、と申し上げました。それは、物価が上がっていない状況での失業率を完全雇用であるということはできないのではないかということです。もちろん、失業率が 2.5%に近づく過程で――私は 2.5%くらいが完全雇用の失業率ではないかと思っていますが――、物価がさらに上がる、2%を超えて上がるということが起きれば、「2.5%くらいが完全失業率ではないか」という私の推測が間違っていたということになります。中央銀行は、あくまでも、物価を主な目標として、日本経済の健全な発展に資するということですから、物価をまず第1 に考えて――失業率が良くなった方が良いですが――、失業率を低くするために、物価の安定を犠牲にすることはあってはならないと思います。
§6Question
2 点お伺いします。1 点目は、先程、今すぐ追加緩和が必要ということではないと言われましたが、今後の経済・物価情勢によっては追加緩和を検討せざるを得ない局面があり得ると思います。追加緩和の手段については、マネーを増やす観点から国債を中心に買うべきなのか、それとも金利が限界的に低下する中で、 ETFやREIT等のリスク資産を買うこともあり得るのか、それともまた別の効果的な方法があり得るのか、現時点のお考えをお伺いします。もう 1 点は、今年1月のインタビューの中で、日銀の国債買入れは、国民の借金を減らすことになるとの趣旨の発言をされています。これは、日銀が国債を買い入れることによって、財政にも貢献できるという意味合いもあるのか、金融政策と財政の関係についてご所見を教えて下さい。
§7Yutaka Harada
最初にご質問頂いた、どういうものを買った方がいいのかという具体的なオペレーションについては、私は部外の学者でしたので、今日の時点ではあまりお話しない方がよいと思います。ただ、株やREIT等をどれだけ買えるかというと、ある程度の制約はあるのではないかと思います。それは、これ以上買えないということではなく、要するに、昨日まで部外であった人間として、そうしたことについての十分な知識がないということです。2 点目については、「量的・質的金融緩和」は、日本銀行が主として国債を買うこと――もちろんREITやETFも買いますが――ですので、緩和すれば、必ず国債は買うことになります。国債を買い入れること自体が金融政策であり、その金融政策によって結果的に財政状況が良くなるのは当然のことです。その経路として、「量的・質的金融緩和」によって景気が良くなるので税収が増え、結果的に財政赤字を減らすことは事実です。ただ、結果的に財政赤字が減っているからといって、財政を幾ら出しても良いという意味ではなく、むしろ、財政当局や国会が、財政の制約を判断することではないかと思います。
§8Question
現状の金融緩和について、コストや副作用について言及される審議委員の方がいらっしゃいますが、原田委員は何かコストとして感じていらっしゃることはあるのか、またあるとすれば、それはベネフィットとのバランスでどのように捉えていらっしゃるのか、お聞かせ下さい。
§9Yutaka Harada
他の審議委員が副作用やコストと言っておられるのがどういう意味なのか、私には分からないので、そのことについてのコメントは差し控えたいと思いますが、あくまでも物価が 2%程度で安定するように金融緩和をするのであって、それ以上に上がっても良いと考えているわけではありません。当然、現在の緩和政策をやり過ぎればインフレになりますから、やり過ぎれば副作用があるというのは当たり前のことだと思います。しかし、現在の状況では、物価が目標以上に上がって、国民生活を脅かすようなことは考えられないのではないかと思います。
§10Question
昨年10月に、日銀は追加的な金融緩和を決めました。この決定およびそのロジック──つまり、原油価格の下落等がデフレマインドの払拭を遅延させるリスクがあるので、それに対処した──については、賛成されるのか、どのように評価されているのか、お聞かせ下さい。
§11Yutaka Harada
過去の決定について、私がどうこう言うべきなのかと思いますが、デフレマインドがこれによって生じることはまずいということで緩和されたのは、妥当な判断だったのではないかと思います。
§12Question
2 点お伺いします。もっと財政を出すべきだと言う方がいると思います。また、今、国債需給が逼迫しているので、国債も増発すれば良いのではないかと言う方もいます。原田委員の著書をみると、財政については割と健全化と言いますか、金融政策が効くのであれば、財政は出さなくて済むという考えと受け取れます。財政に対する考え方、国債を増発すべきか、減らすべきかについて、ご所見をお願いします。また、日本の潜在成長率についてのお考えを伺います。おそらく原田委員としては、内閣府と日銀を比べると、内閣府寄りの試算でロジックを組み立てているように見受けますが、日本の需給ギャップ、今後の 2%実現への道筋の近さ、遠さについてのご所見をお願いします。
§13Yutaka Harada
財政が効くかどうかですが、私は、いわゆる財政乗数はあまり大きくないのではないかと考えています。例えば、消費税増税に対して、公共事業の拡大によってそのショックをかなり和らげることができると多くの方は考えていたと思いますが、実際には、その和らげる効果は非常に小さかったのではないかと思います。もし金融緩和だけをして財政政策をしなければ、財政状況は良くなります。財政状況が良くなるのは良いことだと思いますし、財政政策の効き方が小さく、かつ金融政策に効果があると分かったのですから、財政政策で無理やり景気を良くすることの必要性は低下しているのではないかと思います。また、潜在成長率あるいは潜在GDPのレベルについては、先程申し上げた完全雇用失業率とも関係しています。完全雇用失業率が 3.5%であればそれに応じたGDPギャップが計算できます。ただ、先程申し上げたように、失業率 3.5%でも物価が上がらないのですから、これは完全雇用状態のGDPではありません。3.5%の失業率がさらに低下する過程で、GDPのレベルは増えますので、潜在GDPは実はもっと大きいということになります。また、潜在成長率については、難しいですが、まず、あるところまでは増えます。
§14Yutaka Harada
その後に、成長率が高まるかどうかはまだよく分からないところがありますが、今まで 15年続いたデフレによって、設備投資意欲が落ちていることから考えると、過去のトレンドで潜在成長率を作るのは正しくない可能性があると思います。
§15Question
今、2%の物価目標達成の一応見通しとして、「2015年度を中心とする期間」に 2%に達するというのが日銀のコンセンサスの見方です。原田さんのこれまでのご発言からすると、この見通しよりもやや先の期間に 2%達成の時期をご覧になっているのではないかと思うのですが、具体的にはいつ頃、この 2%達成が可能であるとお考えなのか、お聞かせ下さい。さらに、そういう見通しに基づいて、どのような状況になれば追加緩和が必要だとお考えか、この 2 点をお願いします。
§16Yutaka Harada
最初のご質問ですが、今まで大学の教師をやっておりました。大学の教師というのは、日々のデータについて、それほど詳しくみることはしていません。それから、日本銀行の方は、外部の方よりも、より多くの、我々の知らない情報も持っているのではないかと思います。これから間もなく、金融政策決定会合もありますし、展望レポートもありますので、それまでに十分に勉強して、どういう時間や経路で経済が動いていくのかについては、その段階で私の考えをお示ししたいと思います。2 番目のご質問ですが、まず、物価が上がらずに人々のデフレマインドがさらに強くなるようなことがあれば、追加的な金融緩和も必要だろうと思います。その時には、先程、原油価格の低下が、長期的には物価を上昇させる要因でもあると申し上げましたが、そういう要因も発現せず、デフレマインドがさらに深まることがあれば、追加的な金融緩和は必要なのではないかと思います。
§17Question
2年程度で 2%のうち、2%に関しては、ある程度のアローアンスを持って、2%にいかなくても先行き達成できるのであればよしとするという考えもあります。仮にアローアンスを持たせるということであれば、原田委員はどの程度が良いとお考えでしょうか、あるいはそういうお考えを持たれないでしょうか。
§18Yutaka Harada
2%というのは、コミットメントとして重要だと思いますが、現実に2%ぴったりになるかどうかは、良く分からないところだと思います。他の多くの国も、インフレ・ターゲット政策をやっています。50 か国ぐらいがやっているかと思いますが、それらの国々も、2%をリジッドに考えているわけではないと思います。私が大事だと思うのは、2%を大きく超えることがないということと、デフレマインドを作ってしまうことは良くない、ということです。
§19Question
去年の 10月に追加緩和をした時、日銀の票が 5 対 4 に割れました。今後、原田審議委員としては、黒田総裁を支えていきたいと思っていらっしゃるのか、それとも──もちろんご自分のお考えも持っていらっしゃると思うので、それも考えて──、場合によっては反対という立場に回るということもあるとお考えになっているのか、その点についてお伺いできますでしょうか。
§20Yutaka Harada
あくまでも、物価安定を通じて日本経済の健全な発展に資するのが日本銀行の使命であり、私は、その使命を果たすために審議委員に任命されたと思っております。黒田総裁も当然そのように考えておられると思います。目標について、総裁と齟齬はないわけですから、結果的に総裁のお考えと一致することが多いだろうと思います。それは、誰それを支持するとか、支持しないということではなく、あくまでも物価の安定を通じて日本経済を良くする、そういう政策を続けることが大事だと思っています。また、そのために選ばれたという責任感を持って、仕事を進めていきたいと思います。
§21Question
原田先生のシニョレッジに対する考え方を教えて下さい。日銀、財務省の場合は、お札の金額と製造原価の差がシニョレッジでなく、見合いの国債があるので、国債の利回り分がシニョレッジだという考え方をしていると思います。それが、国庫納付金になっているかと思います。先生の考えを改めてお聞かせ下さい。
§22Yutaka Harada
シニョレッジというのは、経済学で言うと、毎年毎年入ってくる国債の利回り分です。これを無限に足して、経済学で言う現在価値に直すと、国債の購入額と同じだということになります。ただ、これはあくまでも経済学的に考えてそうだと言っているだけであって、私は、昨日まで学者でしたから、この答えで十分だと思います。しかし、今日からは、日本銀行の中の人間ですので、日本銀行の会計処理としてどう考えるかも必要です。そうすると、これは毎年毎年のフローで計上されるわけですから、毎年のシニョレッジは、ご質問の中でおっしゃった通りとなります。ただ、毎年毎年のシニョレッジを足して現在価値に直せば買った国債の金額になるということも正しいということになります。以上